ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回から虚像戦です
出すのは全部で5人。あとは大体原作とおんなじ展開なので飛ばします。龍太郎も書こうかと思いましたが、そこまで変わらないので、やめました。

あと、前の話に追記をしてます。具体的には鈴の魔法のデメリット追加です。まだした方がいいと思う方は意見お願いします。


向壁虚造

「クソっ……いや、やってくるとは思っていましたが」

 

悪態を吐くが、七海はすぐに冷静さを取り戻す。

 

ゴーレムを全員が撃破した後、僅かばかりの休憩をとって移動したが門を抜けてすぐに転移された。メルジーネ以来の1人での大迷宮攻略。違う所があるなら

 

(この状況、おそらく全員が1人にされている。…一度休息をとったのは正解でしたね)

 

戦闘後の回復を香織がした後に多くの者、特に勇者グループから休憩せずに先に進む事を押していたが、七海が回復をするように勧めた。

 

理由はもちろん鈴の為だ。七海はメルジーネの時の自分の事もあったが、この大迷宮の試練のコンセプト的にもどこかで1人にされる可能性が高いと踏んでいた。だから精神を回復できる所ではしておくべきだと判断した。その事を告げると皆了承してくれた。鈴が渋々といった感じではあったが、フロストゴーレム戦で使用した新しい魔法であまりにも魔力を消費しすぎたのもあり、承諾はすぐにした。

 

そして七海が驚いたのはハジメが2つ返事で了承した事だった。

 

ハジメ的には鈴はどうなろうと良い存在だった。だが七海と、師事をしていたティオが彼女の事を心配して気にかけているのもあり、断る事ができなかった。

 

そして全員の傷と精神、魔力を充分に回復した。それでも、1人になったことで心配の者は数人いる。鈴はその中で特にだろう。だが、

 

(こうなってしまったからには、もはや私が彼らにできることはない。ならば、今は自分の事に集中する。それだけです)

 

そして、氷の鏡でできた1本道を進む。退路はない。瓦落瓦落による《無理矢理ルート開拓(ハジメ命名)》ももう大迷宮は対応してるだろう。できたとしても、破壊した場所がどこに繋がっているかわからない上にこの狭さでは七海にも影響は必ずでる。リスクを避ける為にどの道使えない。

 

七海は先程まであった囁き声がないのが逆に不気味で、自分の足音だけが周囲に響くのが更に不気味さを増す要因になる。

 

(解放者は、人を試していると同時に、人の心を乱すのが好きなんでしょうかね?)

 

既に七海の解放者への評価はゼロどころかマイナスにいっているが、ここ最近の大迷宮がこういう精神的に面倒なものばかりで鬱陶しかった。

 

考えも仕方ない不満を考えつつ進んでいたが、10分経ったかどうかの短い時間で大きな広い部屋に着いた。部屋の中央には巨大な氷柱が天井と一体化したように立っていて、何か起こすと言わんばりだ。ここまであからさまだと逆に清々しいほどである。

 

「………」

 

氷の鏡に映る自分を、七海は数秒だけ見てから言う。

 

「説明は不要なので、さっさと始めてください」

 

【そうですね、私ならもうわかるでしょう】

 

これまで囁き声としてのみだった自身の声。だが今回は、目の前にある氷の鏡に映る七海から発せられる。それと同時に、映る七海の姿が変わっていく。スーツは黒に近いグレーの色になり、内側の服は僅かに黄がかった茶色になる。肌は黒く、魔人族のようになる。そして髪は

 

「肌がその色で良かったですね。そうでなければ、五条さんと同じになる」

 

金髪は銀髪となる。七海の言う通り、肌が同じであれば五条のように見えてもおかしくない。

 

【…笑えませんよ、それ】

 

どうやら性格もしっかりと反映してるのか、氷の鏡に映る七海も非常に嫌そうな顔をして、剣を構えて鏡から飛び掛かる(・・・・・・・・)

 

「!」

 

横凪で振るわれた剣を同じく鞘から抜刀した剣で防ぎ、ガキンと金属がぶつかる音が響く。

 

【いい反応ですね】

 

氷の鏡から出てきた七海、虚像の七海はそう評価するが、当本人の七海は無反応。できて当然のことを褒められても嬉しくもない上に、今は戦闘中なので尚更だ。

 

ジリっとお互いに構えたまま前のめりになり、バッと駆ける。剣同士の打ち合いが始まり、お互いに譲らない。

 

(なんだ、この感覚?)

 

虚像の違和感に七海はすぐ気付いた。違和感は、2つ。1つ目は

 

「ぐっ!」

 

【気付いてるでしょう?力が上だと】

 

虚像の膂力が半端なく上昇している。パワーだけなら七海を上回り、しかも戦闘技術も上がっている。だが

 

【ごっあぁ!】

 

「それだけですね」

 

カウンターで呪力をのせて、尚且つ術式を使った拳。放ったのは本物の七海だ。

 

虚像の七海は、吹っ飛び、壁に激突し、氷の粒が粒子になって舞う。

 

「どういうことですか?呪力による身体強化は使えずとも、魔力でそれの真似事くらいはできてもいいはずでしょう?」

 

もう1つの違和感、それは相手が弱すぎる事。確かに膂力では上だ。だがそれも、呪力による身体強化で余裕でカバーできる程度のもの。戦闘技術の向上もあくまでも呪力強化なしなら七海と張り合う事ができる程度。

 

「天与呪縛の真希さんと同じ現象か、もしくは呪力、魔力の身体強化ができない故のカバーか。どちらにせよ、それで私に勝つことはできません」

 

それは別に真希を舐めているわけでも貶しているわけでもないが、事実ではある。呪術師は皆日々肉体を鍛錬し、それを呪力で強化している。中途半端な肉体強化をした程度では、1級呪術師には敵わない。まして同格で術式を持つ者と持たない者では、尚更に差は大きく出てしまう。

 

(こんなものなのか?)

 

正直それが七海の1番の感想だった。

 

(呪力は元々この世界になかった感情由来のエネルギーとはいえ、エネルギー単体として見た時、魔力と似た部分はある。しかも大迷宮は神代魔法が関わっている…おそらく、いや確実に7つ全て。それをもってしても、呪力は再現できないのか?)

 

そう考えていた時だった。

 

「⁉︎」

 

氷の煙が舞う先、七海は目を見開く。

 

【さすがに、この状態では戦うには向かないですね。(あなた)には早々に、害徒……いえ、呪術師への試練と共に始めましょう】

 

虚像の七海から呪力が発せられる。そこはいい、呪力なら再現できると最初から踏んでいた。

 

「………なるほど、私の本番はこれから、ですか」

 

だがその呪力量の多さ。この世界に来て、尚且つ昇華魔法を得て更に上がった七海の呪力総量は乙骨にも勝とも劣らない。それをゆうに超える膨大な呪力。そしてそれを、虚像が全身と剣に纏う瞬間までまったく感じさせる事ができなかった呪力操作精度。

 

これだけでも充分に、目の前の虚像が自分よりも格上といえる状況だ。

 

(私の虚像ですらこれなら、南雲君とシアさんは、どうなってるでしょうね)

 

 

 

七海の不安は、的中していた。

 

「なんだ?」

 

【言ったろ?ここからは呪術師への試練だ】

 

ハジメは早々に自分の虚像を倒した。

 

虚像曰く、自らの抱える負の感情を乗り越える度に負の虚像は弱体化していくと。そうならないよう、虚像は言葉巧みに相手の抱える負にズカズカと乗り込み、それに対して認めず激昂したり否定したりするほど、虚像強くなる。だがハジメは開き直って、且つ自分の虚像の動きを確認して気付いてなかった無駄を認識、修正して勝率した。そして消えてゆく虚像の頭部に3発の弾丸を当てとどめを刺した。

 

その瞬間、背後から殺気を感じ、【ここからは呪術師への試練だ】と囁き声がしたと同時に攻撃が飛んできた。ギリギリ避け、その背後を見た。そこにいたのは、倒したはずの自身の虚像。だが、先程とは違う。

 

(……おかしいと思ってた。さっきの虚像は呪力を使ってなかった。いくらこの世界にないエネルギーだったとしても、7つの神代魔法で再現ができないなんてあるかって)

 

最初の試練と、これからする試練は別。そういうことだろうハジメは即座に戦闘体制になり、かつ警戒を上げる。

 

「っぐ!」

 

瞬間、再び背後から攻撃されて、回避をしたが今度は避けきれずに肩に命中した。

 

(多少の影響はあるが、動かないことはない。だが、そんなことよりだ)

 

後ろにも自分の虚像がいた。いや、

 

【どうした?さっき言ったよな、数十分前の自分より強くなればいいって】

 

真横にもいた。拳を込めた虚像の一撃は、間違いなく呪力を纏い、そして

 

【黒閃!】

 

黒い閃光を放った。ゴロンゴロンと回転しながら壁に激突したハジメは、これまで以上の違和感を感じた。それは虚像が3体いるから…ではない。

 

(2体は虚像じゃない。…何かはわかる。わかるが…)

 

ハジメはありえない筈の考察をしつつむくっと立ち上がる。

 

「どういう事だ、俺はまだ、それは完成させてないし、そんなことはできないはずだぞ?」

 

【そうだろうな】

 

当たり前とでも言うようにように虚像は答える。

 

「自立型の式神、そいつは俺が坂上に与えた呪具のプロトタイプの、完成系…しかも俺の想定よりも遥かに技術を凌駕してる」

 

龍太郎に与えた呪具の4つ目の効果は、魂の情報と、抜き取った人格を媒介にし、そこから霊体生物の式神を作るというもの。ハジメはこれを自分でも使えないかと考えていた。だが、魂の情報をコピーするのはそう簡単ではない。

 

歩んできた時間と軌跡、経験と感情、好意と不快、絶望と希望、そして自分でも不明確な未知。それらを解析して、尚且つコピーするなど、神代魔法でもすぐにはいかない。

 

事実、大迷宮が先程までの道中で虚像をすぐに出さなかったのは、囁き声と魔物で心身ともに疲弊させてからというのもあるだろうが、魂の情報と肉体の情報をコピーするまでの時間を稼がす目的もあったのだろう。この場所まで来るのに相当な時間をかけているのがいい証拠だ。

 

【まだわからないのか?俺にしては随分頭が悪いな」

 

「すげぇムカつくわ……既にここ来るまでと、さっきの戦いも含めてで、もう解析は終了してんだろうが、それでも2体だと?」

 

仮にできても、1つの呪具で作れる式神は1体。それでも自分がもう1人いて、連携できる存在ならば希少だ。それが2体。

 

本来なら、1つの呪具で魂の解析をしてる時、別で解析なんてできない。何故なら魂合・(真)(こんごう・まこと)の効果で、魂魄に防衛をされているので、先に発動しているものが優先されて、後からのは魂の解析を含めた干渉ができないからだ。

 

(だから2体目を作るなら、解析の終わった呪具を外し、もう一度、新しい呪具で最初から解析しなきゃいけないが、その過程をすっ飛ばしてやがる)

 

自分と同じ強さを持った式神が2体。思考パターンや動きも同じ。戦闘の形式としては先程同様の虚像との1対1なのだろうが、その前提は完全に覆っている。

 

【なんだ、わかってるようだな。なら】

 

虚像がスぅと両手を挙げるそこには、ドンナー&シュラーゲンの2丁拳銃。

 

【始めるぞ、ラウンド2だ】

 

弾丸が放たれる。ハジメの呪力と魔力の視認で、それぞれの弾丸の動きを見極めて相殺しようとする。だが

 

「っな、に?」

 

虚像の放った弾丸は、まるで意志を持っている生物のようにぐるんとハジメの弾丸を避けて、更に加速してハジメ左足の腱と、右腕を貫いた。

 

「っ、クロスビット!」

 

膝をついたハジメに、虚像が2体のハジメの形を成した式神をコントロールして襲いかからせる。4機のクロスビットをそれぞれ2機ずつ分けて対応させる。だが

 

「ウソだろっ⁉︎って当たり前か!」

 

簡単に破壊された。攻撃を全て回避される、もしくは防御されて、一方の式神は拳で、もう一方の式神は持っている銃で撃ち落とした。クロスビット2機程度ならハジメなら自分でも破壊は可能だろう。だから自分と同等の式神なら倒せるのは当たり前である。

 

「だからって…ごっ!」

 

【意識が式神にいきすぎだ、ぜ!】

 

魔力と呪力、両方を纏った虚像のラッシュがハジメを襲う。更に、

 

(3対1、流石に、これは)

 

1体の攻撃で下がった先に、式神の攻撃が。その式神の攻撃をどうにか対応していると、もう1体の式神と、虚像の放つ弾丸の支援攻撃。先程以上の強化をされた虚像と、それと同レベルであろう自身を模した式神。自分と同等かそれ以上の特級レベルの敵を3体同時に相手にするに等しい状況下は、流石にハジメも経験してない

 

【反転術式、戦闘時に使うのは、今回が初だな】

 

「ああ。習得しといたのは、やっぱ正解だったわ」

 

反転術式は回復魔法と比べた時に、エネルギー(呪力)の使用量が多い分、慣れていなとすぐにガス欠になりかねない。それでも習得にハジメは躍起になっていた。その理由は七海が説明したように、あるだけでも戦いに幅が効き、耐久性も上がるからだ。

 

呪力操作技術は七海にしこたま叩き込まれたので問題ない。だが

 

【撃ち抜かれたのが腕や足でよかったな。細かい内臓はまだ無理だろう?】

 

「言われなくても、だ」

 

合図したわけでもなく、再び戦闘が再開される。3方向からの攻撃。時に3人ともが銃の遠距離攻撃。時に3人ともが近接戦闘の攻撃。反転術式と呪力感知と魔力感知。それぞれを行使して攻撃の方向を見極め、どうしても回避できなかったものは、反転術式で回復する。だが、

 

(このままだとジリ貧だ。さっきみてーに数十分前の自分より強くなればいい理論も通じねぇ。強化の幅が違いすぎる)

 

【もう気付いてるだろ?俺は、今の(おまえ)のあり得る未来の力。与えられた情報から、最も近い可能性を表現してる。教えられないが、お前の持ってない7つ目の神代魔法も使用可能だ。わかるか?今の(おまえ)じゃ、この俺には勝てない】

 

虚像の言いぶんは正しい。今のハジメと虚像のハジメとでは、文字通り実力が違う。少し前までの自分ではなく、未来にある可能性の強くなった自分。実力に差が出るのは当然だ。

 

【この試練は、最初から無理ゲーなんだよ。解放者は害徒を、呪術師を根本的に信用してないんだ。だから無茶ではなく、無理を、与える!】

 

「ぐっ!」

 

式神達との連携攻撃に、ハジメは翻弄される。正面にいる式神の相手をしていると、それを通り抜けて氷の礫が飛んできた。

 

(式神を貫通したってことは、ただの氷!式神で俺の視界を塞いで、呪力で強化してない氷の礫を飛ばしたな!)

 

霊体生物である式神の特性を使った奇襲。氷の礫は強化してないとはいえハジメの膂力で投げられたもの。威力は充分ある。そして、これはただの牽制に過ぎない

 

「しまっ!」

 

氷の礫によって僅かにできた隙。その隙をハジメなら見逃さない。故に、虚像と、その式神達も逃さない

 

黒閃

 

3方向の攻撃と、3方向からの黒い閃光が、ハジメの胴を容赦なく抉る。式神と虚像の黒閃によって、ハジメの身体が一瞬で宙を移動させ、氷の壁に激突し、衝撃で上から破片が降り注ぎ、押し潰す。

 

虚像は2度の黒閃…更に式神も黒閃に成功。これにより更に尻上がりに出力が増していく。状況は圧倒的に不利

 

「………ハッ」

 

にも関わらず、ハジメは笑った。

 

「上等じゃねーか!つまり俺は、まだまだ強くなれるってことか!」

 

【さすが、俺だ。この状況でも諦めねぇ】

 

「だが、1つ言いたいんだが」

 

ハジメは既に気付いている。

 

「その式神の精度、凄まじいな。しかもしっかりと打撃で黒閃もできる。だが、なんでそれプラスでクロスビットを出さねぇんだ?」

 

その問いに、虚像は僅かに顔を顰める。

 

「当ててやる。その式神達を動かすのだけで、容量が手いっぱいだからだ。おまえの思考能力の限界じゃねぇ。俺なら動かす際に、ある程度の自立行動ができるように作るからな。つまり、大迷宮側の限界だ」

 

顕現した式神は、魂を持つ霊体生物。そして虚像もまた、魂を持っている。本来なら式神はハジメの呪具で顕現するが、今は違う。大迷宮が変わりに代行して顕現させている。魂の同時複製と対象者の強さが大幅に上昇した状態の予測の再現。

 

「だいぶバグが発生してるようだな。正直、これにクロスビットがあったら俺でもヤバかったよ」

 

【…頑張ってるがまだ80点ってところだな」

 

再び攻撃が再開されるが、黒閃によってバフが乗っている状態。打撃も、動きも、魔力と呪力の操作精度も出力も上がっている。

 

そして

 

「なっ⁉︎」

 

現れたのは、クロスビット。当然、虚像が出した物だ。それらの攻撃も、全て意思があるかのようにある程度ハジメを追尾してくる。多対1の状況化に、次第にハジメにダメージが蓄積していく。

 

【この黒閃によるゾーン状態、どうやら虚像の俺にも作用するらしい。時間かけてたらどんどん強くなるぞ】

 

クロスビットは現状1機のみだが、それでも相手の手数が増えている。

 

【こいつも忘れんな!】

 

「あっぶね!」

 

更に錬成による奇襲。小さな穴や氷を拳の形にして攻撃させる連打。もちろん式神も動いて攻撃する

 

「がっ!」

 

式神の鳩尾への蹴りがクリーンヒットした。

 

【終わりだ】

 

そして、クロスビットと式神と虚像の4方向からの射撃。回避は不能。

 

「〝限界突破〟!〝呪界到破〟!」

 

出力を無理矢理上昇させ、魔力と呪力を放出し、攻撃を跳ね飛ばす。

 

(使わされた)

 

だがこれは切り札であり、使ったら最後、速攻で決める選択肢以外が消える。だがどの道時間を掛ければ更に虚像は強くなり、クロスビットは増えてより敗北へと近付く。更に厄介な点は、

 

(で、俺が使えるって事は)

 

【〝限界突破〟!〝呪界到破〟!】

 

(虚像も使えるよな、そりゃ)

 

呪力、魔力出力が3倍となり、更に他スペックも上昇してる。こうなるとさすがに多対1でも脅威と判断したのか、虚像も使用してくる。

 

【絶望してるか?】

 

「冗談」

 

その会話が合図かのように互いに動く

 

【なに?】

 

と思っていた。少なくとも虚像側は。だがハジメは動かない。そうこうしてる間に虚像と式神、更に2機に増えたクロスビットが包囲した。そんな状況だというのにいっそ清々しい顔で、片手を顔の前に出し、帳を下ろす時と同様の掌印を組む。

 

「俺流、簡易領域」

 

ハジメは簡易領域を展開する。

 

 

『呪術師は才能が全て。それは呪術で行使する全てに言えます。結界術もそうですが……君の場合は多才のようですね』

 

『術式が無いこと以外は、な!』

 

他の者達、特に光輝達勇者グループには絶対に見せない悔しそうな顔でハジメは言う。

 

『簡易領域を、私の話した情報から仕上げているのに、そんな顔しなくても』

 

 

簡易領域は、初心者は本来なら成立させる為に縛りを入れる。ハジメの簡易領域はシン・陰流の物とは違う独自のものではあるが、既に縛りなしで展開できる。それを敢えてせず、縛りとして掌印をわざわざ組んで展開した。

 

【そういうことか】

 

ただ、虚像はハジメの思考もコピーしている。故に何をしてくるかなど想像がつく。式神とクロスビットが動きを止めて結界の外から攻撃を仕掛ける。爆発によって氷煙が舞うが、

 

【……無傷だな】

 

「当然だろ」

 

新しく新調したクロスビット。だがそれはこれまで使っていたものとは違う。呪具にした部分とアーティファクトにした部分を分けた混合武装。

 

「イービルクロスビット:剛。見よう見まねだったが、できるもんだな」

 

鈴が見せたフルオートの攻撃からヒントを得た、全攻撃のフルオート防御。イービルクロスビット:剛に付いた呪具化した空間魔法を、攻撃に合わせて自動展開する。更にイービルクロスビット:剛に攻撃用の武装を付けない縛りと、簡易領域展開中以外は使用不可にする縛りにより、本来なら完全呪具化できない空間魔法を無理矢理完全呪具化に成功させた。

 

【着想は流石だが、わかってんのか?ただでさえ〝限界突破〟と〝呪界到破〟で時間制限があるってのに防御に集中する愚策。どうせ攻撃用のイービルクロスビットもあるんだろうが、それだけでこの戦況を覆すことはできない」

 

「俺のことがわかってるんだ。なら(おまえ)もわかってんだろ?」

 

【ああ、もちろん】

 

虚像が肯定した瞬間、ハジメの簡易領域が縛りの効果で更に広がり、式神と虚像のクロスビットをその範囲内に入れる。瞬間、クロスビットは破壊され、式神は破壊されないが相当のダメージを負い、膝をつく。

 

「イービルクロスビット:閥。こっちは攻撃用だ」

 

【付与されているのは武器。神代魔法は使わず、その他だな】

 

イービルクロスビット:閥には簡易領域展開中以外は使用不可にする縛りと、呪具化した魔法はパーツに使わない縛りを入れた。そもそもこちらは殆ど通常のクロスビットと同じで呪具化したパーツはない。ただし、それはイービルクロスビットのみ。

 

ではどこに呪具を使っているか。答えは、搭載されている弾丸だ。

 

ハジメは日下部や鈴のように、簡易領域にフルオート攻撃する為のプログラムを組み込んでいない。しかし、それぞれのイービルクロスビットに共通の縛りとして、簡易領域内以外は使わないという縛り。これにより、簡易領域をレーダーとして使用し、内部に入って来た攻撃や敵に対してイービルクロスビットを反応させるようにさせた。

 

【弾丸に神代魔法以外の魔法や技能を付与して呪具化し、それを武装にして簡易領域内で使用する。そして、あとは】

 

「ぜりゃあ!」

 

今度こそハジメ本人が動きだす。純粋な肉弾戦になるが、簡易とはいえ領域。展開した側は呪力出力を上げ範囲内の者の術や出力を弱める。

 

「どうした、おまえは簡易領域を展開しないのか?」

 

【ッ!】

 

「できねぇよな!さっきの式神にリソースを回しすぎた!それに幾つかの縛りを入れた簡易領域だ!上回るならより強い縛りを入れる必要がある。それと新作の武装の初お披露目!まだ情報収集が出来上がってねぇ!」

 

【舐めるな!】

 

虚像が簡易領域を展開した。これにより、ハジメの簡易領域によるバフは相殺され、イービルクロスビットの使用も一時的に不可になる。もちろん虚像側は縛りなしでしかも急拵えの為、じきにハジメの簡易領域が押し返すが、僅かな時間はある。

 

「へっ」

 

そこで生まれた、ほんの些細な隙。

 

「わかるぜ。俺ならそうする」

 

近接戦闘中に即興で簡易領域を展開する為に僅かに乱れた魔力と呪力の操作。それは本当に僅かな瞬間。時間にして1秒もない。だが、その乱れをハジメは逃さず、そして、黒の閃光はその僅かな時間を上回る

 

「黒閃!」

 

【ブッ⁉︎】

 

(さすが俺の虚像。勘でぶつける部分を見極めて、そこに呪力と魔力を集中させた)

 

返しの攻撃がくるが、既に虚像の簡易領域は消えた。イービルクロスビット:剛の自動防御が発動し、防ぐ

 

【マジか⁉︎近接戦闘にもか!】

 

「いや、けっこう無理ありだ」

 

全攻撃への対処できるが、速すぎる攻撃には対処できず、近接戦闘になるとそれは顕著だ。展開する前に攻撃は受けている。今成功したのは、

 

【1度だけの縛りか】

 

近接戦闘時は以後反応せず使わない縛り。

 

「ああ、そうだ、ぜ!」

 

黒い閃光が、今度こそ確実に虚像に届いた。

 

【…残念だったな】

 

〝限界突破〟と〝呪界到破〟の強化を一部分に集約した。当然だが先程のような山勘ではなく、攻撃がくると予想される胴体部分全体にだ。

 

既に式神の回復が終わった。クロスビットも虚像は新たに出した。イービルクロスビット:閥はそれらの対処に回している。勝負は決まった。

 

【な、にぃ⁉︎】

 

突如虚像の左後方から来た砲撃によって、致命傷を与えた。

 

【もう、1機、だと】

 

「3機目がないって誰が言った?(つっても調整中で、出した場所以外からは空中移動どころか、動けないが)」

 

イービルクロスビット:剛のもうひとつの効果、パージ機能。パージされた部分は空間魔法のゲートがついている。そこから大迷宮の外にあらかじめ置いていた3機目をもってきた。これは本当に未完成で、攻撃手段があるだけの動けないクロスビット、ようは固定砲台近い。

 

だが、以前ハジメが七海に渡した呪具: 暗路(あんろ)と同じで、攻撃する瞬間まで気配の全てを遮断する。そして動けないというその中途半端さと、黒閃をある程度とはいえ防げた影響によって、虚像の探知の感覚が緩んだ瞬間を狙った。

 

「七海先生も言っただろ?呪術師は、相手を騙してこそ、欺いてこそってな」

 

【わかってたんだがな】

 

虚像はまだ消えないが、消えかけている。とどめを刺す為にハジメはドンナーを構えた。

 

【ここからは、大迷宮からのメッセージだ。これ以上七海先生に、呪術師に関わらない方が身の為だぜ?】

 

「最初の呪術師、宿儺が何したか知らんし、あの人がいることでどうなろうと、全部乗り越えて行くだけだ」

 

【その結果が、世界の変化だとしてもか?】

 

「おいおい、俺の虚像ならわかるだろ?どうでもいい。それに、」

 

ズドンと砲音が響いた。

 

「いつかなる運命なら、俺や先生がいる内に、さっさと始めたほうがマシだろ?」

 

【……呪霊のいる世界になる事に、あんま関心ないんじゃないか?】

 

「まぁな。ただ、七海先生には世話になってるし、手助けくらいはするさ」

 

虚像は消える瞬間、

 

【合格だ】

 

そう告げた。

 

「……つっかれたぁ〜」

 

ハジメはゴキゴキと首を動かして鳴らす。

 

「にしても、ヤツの使ってた式神………チッ」

 

何か思う所があるのか、ハジメはイラついていたが、それ以上に疲労感がドッとでてくる。

 

「あ〜ユエに抱擁されたーい。シアにもー」

 

ここまで苦戦するとは思わず、ハジメは少々弱気な発言をしてしまうが、《動けるから》という理由で先へ進むのを続けた。その先で雫とちょっとした事が起こるのだが、それは別の話。

 




ちなみに
向壁虚造:存在しないものを作り出すこと。虚造の所は虚像にしようかと思いましたが、そのままにしました。

ちなみに2
呪術師への試練その1、超強化した自分との戦闘。対象者の情報から最大限再現可能なものを出してますが、黒閃の影響で更に強くなっていきました。これら全てを本人も使えるようにするかは不明。

ちなみに3
龍太郎の呪具の4つ目の効果をここで出しましたが、今回の件でハジメは色々と思う事ができました。結果、龍太郎の呪具はこの後また強化する予定。

次回はシアです

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