1日しっかりと休みを確保して向かうとし、それぞれの思いを持ったまま1日を過ごす。
「あの〜七海先生?いつまで一緒にいるんでしょうか?」
「自業自得よ」
「八重樫さん、あなたが言えるセリフではありませんよ。最近怒られたばかりでしょ?」
「うっ」
ただし、ひとりの女子は監視付きだ。それともうひとり、補助役の女子も含めて。
「天之河君ですら注意後はきっちり休みをとっているというのに……はやる気持ちはわかりますが、自分の命を蔑ろにするような行為はやめてください」
香織は今日1日七海&雫の監視付きである。
「補助役を引き受けてくださり、ありがとうございます八重樫さん」
「いえ。正直監視したくなる気持ちはわかります」
「ひどいよ雫ちゃ〜ん」
七海は模擬戦時に感じた香織の成長に違和感があり、問いただした。凄みのある顔をした七海に、香織は観念したのか城外の魔物と勝手に、しかも1人で戦っていたこと、おまけにそれに気づいた雫が来た時、魔力を使い果ててしまい危うかったことを白状した。当然ながら、香織はその時雫にもとてつもなく怒られたそうだ。そしてそれを報告しなかった雫も香織と共に七海に怒られた。結果、この監視である。流石に女性にずっと付き添う事などできないので罰も含めて雫にも協力をしてもらっている。
「まぁ、それであれほど強くなったというのは流石と言うべきですね。弱い魔物で八重樫さんのフォローがあったとはいえ、多くの魔物相手によく戦えたものですよ」
光輝や雫のような武芸に力を入れている人物ならともかく、つい最近まで戦いのド素人であった香織があそこまで戦い方が向上したのは、
「おそらく元々あったが、現代日本でまず使う事などない天性の戦闘センスによるものでしょう」
と七海は言う。
「……先生、あの」
「だからといってすぐに下層へ向かうというのはなしです。そもそも君はセンスがあっても前衛でなく後衛向きなんですから」
提案する前に七海に拒否されて、香織はわかりやすく落ち込む。
(と言っても、現在のチーム編成を見ると正直予定している35階層どころか、もう少し下へいけるのも確かですが)
七海は褒めも貶しもしない。ただ真実を、事実を、きちんと見つめて己を律する。だがそれを今言えば香織は無茶をするだろう。
「順序を決めていきましょう」
「はい…あの、七海先生、雫ちゃん」
「「?」」
「ちょっと、付き合ってくれませんか?」
*
街へ出て散策する。賑わう人々の往来だけを見ると、違う世界とはいえ戦争があるとなど思えない。だが、ひとりの生徒の死が、この世界はそういう世界なのだと彼らに理解させた。
「それで、どうしたの香織?」
「うんと、確かこの辺なんだけど」
「………彼女を、探しているのですか?」
七海が知っているのは予想外なのか香織は驚く。ここ最近は自分達の訓練を手伝ってくれていたのもあり、知らないと思っていたのだ。
「これでも君達の担任ですし、畑山先生に全部押し付けたくもないので………いましたよ」
「あれは園部、さん?」
雫が七海の指す方を見ると、どこか落ち込んでいるような、悩んでいるような、少なくとも明るい表情でないのは間違いない園部優花がそこにいた。それともうひとり、おそらく警護兼ケアをしているであろう侍女がいた。
「園部さん」
「あ、し、白崎さん」
園部は香織に声をかけられて、そちらを見た瞬間に逃げるように踵を返した。香織が「待って」と大きな声で止めると一瞬立ち止まるが、彼女はすぐに歩き出す。
「園部さん、白崎さんはあなたに言いたい事があるそうです。その為に彼女はここに来ました」
香織が七海達を呼んだのは、自分だけでは勇気が出ないからだろう。だからこそ、後の言葉はちゃんと自分で言わなくてはいけない。そして付いてきた者として、教師として、その手助けくらいはしようと思い、七海は告げた。
香織はそれに一瞥して感謝し、園部に思いをぶつける。
「園部さん、その…明日からまた私達は迷宮に行く。けど、一緒に来ない事を私は責めないよ……あの日からずっと避けてるなっていうのはわかってた。その理由も……自分を責めないで、これは私のワガママで」
「違う!」
園部もまた、手を震わせて思いをぶちまけた。
「違うの。あの時、南雲に助けられたのに、私は何もできなくて、今も怖がって……何もしないで」
その言葉に七海は反論しようかと思ったが、今は香織が言うべき事を言う時と考え、あえて黙っておく。香織は園部に近づき正面に立つと手を繋ぐ。
「うん。わかってる。私が言いたいのはそうじゃなくて……感謝」
「え?」
「本当は不安だったんだ。あの時、巻き込む事はわかってる、それでも行きたいって気持ちもあったけど、それと同じくらい私や光輝君が参加するからって、また最初みたいに皆が参加するのが私は怖かった。だから、あの時断ってくれてありがとう」
断ってくれてありがとうなんて言われるなどまったく思わなかった彼女は、ポカンとした表情になるがすぐに涙が出てきた。
「どうやらフォローは必要ないみたいですね」
「ふふ」
園部を止めていた時点で、フォローはしていると雫は思い、同時にこの先生はやっぱりいい人だと再確認していた。園部の方は「よし」と決意を固めたのか、七海の方へ来る。
「先生、以前言ってた愛ちゃん先生の護衛の事なんだけど…やっぱり行きます」
「…そうですか。わかりました。ただし、条件があります。まず畑山先生の許可をもらう事、それと護衛は最低でもあなたを含めて6人以上集まる事、最後に、これは最初に言いましたが護衛といってもあくまでもあなた達の命が第一です。けして、命をかけて畑山先生を守るというのは考えないでください。この件は畑山先生にも伝えておくので」
「はい!……白崎さん、ううん、香織ちゃん。私は私なりに出来る事をする。だから、気を付けてね。南雲が無事に見つかる事を応援してるよ」
その口調と表情は勝ち気でパワフルな、いつもの園部であった。
園部を見送って少し街をぶらついた後戻る。余談だが見送る前に七海が「白崎さんと一緒にいるのは監視でもあるのでどっちにしろ一緒に来ましたけどね」と補足情報とその理由を言い、笑いが起こった。
*
翌日、彼らは再び迷宮のあるホアルドへ向かう為馬車に乗ろうとした。すると人数が減った事により、以前より馬車の数は減っていたが、引く馬の数が多くなっている事に気付いた。しかもその馬が全て早馬であるというメルドからの情報により、またも教会の手口だとわかる。さっさと行って力をつけて魔人族と戦って下さいという魂胆が見え見えである。
「というより、隠す気がないみたいですね。こちらがそうするしかないのをわかってのことでしょうが」
「すまんな、いつも」
七海とメルドは馬車内で前回と同じく会議をする。今回は更に念入りにだ。
「とりあえず、今回の目標は35階層って事でいいんだな?」
「……えぇ。前回と違い、今回は常に私も彼らについておきますし、罠に関してもしっかり観察し、注意と警戒を怠らないようにしましょう」
「あの時の事は、お前のせいじゃない。埋もれてたグランツ鉱石が見つかったのはお前が離れた後だ」
「しかし、あの場に私がいれば、南雲君が死なずにすんだのも事実ですよ」
メルドは七海という人物について、報告を受けた当初から寡黙だが生徒思いの人物と思っていた。そして、責任を放棄せず言い訳をしない人物であるということも理解していた。
「そうだな。だが、あの場にいた俺がちゃんと守れなかったもある。自分だけで背負うな」
「…そういうつもりではありませんよ。ただ、私には彼らの事を任された教師であるという責任がある。それだけです」
ここで言う「任された」には、異世界に来て戦う生徒を守るなんてとんでもない事例は当然想定されていない。だが、そうなってしまった以上はそうするべきというのが七海の考えだ。
(難儀だな)
メルドは口に出す事はせず、七海とそれ以降も会議を続けていると、前回よりも早くホアルドに到着した。
「よし、各自休憩をとってオルクス大迷宮に挑む。準備を怠らないように!」
軽く休憩をとっている間に武器の手入れと、迷宮内で食事をすることになるので、食料などの物資の追加購入をする。
「建人殿、今回は35階層を目指すと聞いたのですが」
「えぇ、それが?」
マッドが買った物を運びながら七海に問う。疑問があったからだ。
「その割には食料や回復薬が多い。もちろん万が一の為もあるのでしょうが、それでも多い。もしや、その先に行くつもりでしょうか?」
「………」
「こんな事、私が言うのはおかしいかもしれませんが、我々の世界の事は気にしないでください。香織殿の思いや、彼らの命など、様々な事を天秤にかけて迷っているのはわかります。そして、我々の世界の件についても」
七海は以前言ったように、生徒が戦う前に自分が戦う事を今も頭に置いている。
別に七海はこの世界の人の命などどうでもいいとまでは思わない。優先順位が高いのは生徒の命と帰還だが、仮に彼らが帰還しても自分は当初の予定通り魔人族と戦う予定だ。この世界に呼び出したエヒトと呼ばれる存在がまたすぐに彼らを呼び出さない為に。そしてどのような形かわからないが
「別に気にはしてません。ただ、これが今すべき最善と考え行動しているだけです」
「…わかりました。ただ、これだけは聞いてください。少なくとも私とパーンズ、それとメルド団長はあなたの味方です。なにか出来る事があればいつでも助力に入ります」
(メルドさんから聞いた……わけじゃないみたいですね)
メルドという人物への信用もあるがマッドは聡明な人物だ。全てではないが、なんとなく七海の考えを理解しているのだろう。
「そろそろ時間ですね。行きましょう」
マッドはコクリと頷き、集合地へ向かった。
*
迷宮に入ってからしばらくして生徒達が感じた事は「あれ、前回こんな楽だったっけ」ということ。手加減されていたとはいえ、七海と弱体化した状態で戦っていたのと、日々の訓練でレベルが上がっていたのもあったが、それよりも魔力の運用法が変わり最小限の動き、最小限の消費で済んでいる。あっという間に、しかも最速で20階層に到達した。
「ロックマウント撃破ァ‼︎」
イエイとハイタッチをする龍太郎と永山。魔力で強化した肉体のそれぞれの拳の一撃で粉砕した。
「にしても、魔力感知ができてないのによくちゃんと魔力制御できるよね」
辻のように〔+視認(上)〕を持つ者であれば、他人の魔力の流れもある程度読み取れる。だからこそ驚きなのだ。自分だけとはいえ魔力の流れがハッキリ見える〔+視認〕を持っていないのに、しっかりと魔力の効率化ができているのだから。
「まぁ、脳筋って事でしょ」
「ウルセェよ。ただ、俺もその技能が欲しいけどな」
「ないならない者なりのやり方があります。そして君はそれができている」
「けど、あった方が便利なのも変わらない。もっと集中していかねぇとな」
パンパンと頬を叩き気合を入れ直して先へ進む。龍太郎にとって七海は到達すべき目標だ。ちょっとは戦えるようになっていると思ったが、今まで彼が本気で戦っていない事は彼の中で大きな変化をもたらしていた。『もっと強く』と。
「21階層から先は後退はあっても前進はまだない。おまけにこれ以降の魔物との戦闘も未経験に近い。気を抜くなよ」
警戒をしつつどんどん先へ進む。出現する魔物も交代で倒す。
「きゃぁ!」
「香織!よくも…うっ」
「取り乱さないでください、前回と同じですよ」
前回のロックマウントを倒した原因は、香織がロックマウントに攻撃された時に感じた気持ち悪さを、光輝が死の恐怖と勘違いした事で大技を使った事によるものだ。今回も魔物の固有魔法で土埃を飛ばされて、香織は防御したものの、女性というのもあり声を出したが、光輝はそれが恐怖によるものとまたしても勘違いした。すぐさま七海は光輝を引っ張って無理やり下がらせ、瞬時に目の前の魔物を倒した。
「感情に流されていては冷静な判断はできませんし、魔力の流れも乱れる。そんな調子でこの先戦うなら、下がっていたほうがいい」
「……俺は、別に感情的になんて」
そうやってすぐに言い訳をしている時点で、感情的になっている証拠なのだが、それに気付けないのが今の彼だ。七海も指摘しておくが、今は迷宮どんな危険があるかわからない場所で、余計な事を言って周りを乱す事をしないように、その言葉を聞かず先へ向かう。
当然だがそれが光輝の感情を逆撫でする事も七海はわかっているが、今は個人よりも全体を考えるべきと判断して先の行動をとった。
「ほら早く先に進むわよ」
雫は七海がこれ以上言わなかった理由もなんとなく理解して、光輝を進ませる為声をかけた。光輝はそれを自分を心配してくれたのだと勘違いしていたが。
「さて、ここまでは順調ですね」
「あぁ。もう32階層だな……それで、どうなんだ?」
先頭にいるメルドが生徒たちに聞かれないように七海と話す。
「なにがですか?」
「35階層より下を行くかだ。言い出したのはおまえだろう?」
メルドは馬車の中でもし可能であると判断した場合には35階層より下を目指すと七海から言われて心底驚いた。
「お前はあいつらを大切にしている。だから危険な事は避けて安全に少しずつ目標を伸ばすと思っていた」
「当たってますよ。危険は避け安全に目標を伸ばす、それは変わりません。が、どんな形であっても私は彼らから離れる。その間にベヒモス級の敵と相対した際に生き残れるようにしなくてはいけない。私がいなくなれば速攻で彼らが戦闘に繰り出されるのですから」
「それがいつかわからないなら、少しでも早く、しかし命を大切にってところか。悩ましいな」
「えぇ本当に」
七海は思う。自分が今している行為は果たして教師として、彼らを守る大人としての行動なのかと。顔には出さないし当然戦闘中にそれで乱すこともないが考えてしまうのだ。
そうこうしているうちに35階層の奥の、次の階層へ繋がる階段前に到着した。今日はここまでかと生徒達は思っていたが、ここで七海が告げる。
「さて、目標地点に到着しましたが…皆さん、この先に今進みますか?」
七海がそう言ってきた事に数人が驚く。事前に決めたこと以上の事をするなど思ってもいなかったのだ。
「とはいえ少し範囲を伸ばすだけです。そうですね…あと3〜4階層ほどです。どうですか?」
七海がそう聞くと同時に最初に承諾したのはいうまでもなく光輝だ。彼からすれば「色々言っているけどやっぱり俺の言う事が分かってくれたのか」的な無意識な上から目線の考えである。次に手を挙げたのは香織だ。彼女からすれば本当はもっと先に行きたい。だが少しでも先に進めるならと考えてである。残りの者も少し考えて手を挙げる。ただ、光輝や香織が行くと言ったからでなく、きちんと現状の自分達の疲労状況、回復薬などの物資状況を考えている。そして最後に雫は質問をする。
「先生、どうして当初の予定よりも先に行くんですか?」
「そんなの、俺達なら大丈夫って考えてるからだ。そうでしょ、七海先生?」
光輝が割り込むように勝手に答えを言うが当然違う。
「まず、最初に言うとこの先に進むかどうかは33階層まで決めかねていました。が、君達の成長も考えて進むと判断しました」
「成長しているなら大丈夫」という事だと光輝は思ったが違う。七海の言う成長とは別、これからの事だ。
「もう一度言いますが、行くのは3〜4階層下です。今はこれだけです」
そして何人か、というより光輝以外が理解した。その理由を…その上で彼らは、
「「「「「「「「「行きます」」」」」」」」」
そう決意した。36、37階層も難なくクリアして38階層。ここもマッピングはできている階層だ。七海は進む際に事前にメルドに聞いていた場所に向かう。
「メルドさん、万が一の用意は……」
「できている。もうあの時のような事は起こさん。必ずあいつらを守る」
そして、その場所がある扉の前に来た。
「お前達、気を引き締めていくぞ」
メルドの言葉に皆構える。この先に起こる事を予想している者も、そうでない者も、このような「何かありますよ」と言いたげな扉を見れば気を引き締めざるをえない。そして全員が入った瞬間扉が閉まる。部屋の中央部で魔法陣が展開され、そこから現れたのは、
「と、トラウムソルジャー」
ベヒモスと初めて戦った際に現れた骸骨剣士、トラウムソルジャー。ベヒモスは彼らにとってのトラウマだがそれはこの魔物とて同じだ。その時の事は見てない七海もそうであると思い、それを断ち切る為の最初の一歩として彼らに戦う選択を迫った。当然だが全員が戦う決意がないならあの場で引き返していた。
「皆さん、あれは皆さんにとって忘れられないもののひとつでしょう。それを乗り越える覚悟がないなら、怖いなら別に下がっても良いです。それは人として正しい。文句は言わせません」
「やっぱり、あれと戦う事が目的だったんですね。38階層より下と言われてわかってましたけど」
トラウムソルジャーは38階層の魔物である事は知っていた。だから七海の考えはすぐにわかった。トラウマをぶつけさせてきちんと戦えるかの確認だ。
「みんなにそんな事を…なに考えてるんですか⁉︎」
ひとりを除いて。
「気付いてないのはあんただけよ。私達は気付いてた」
「し、雫?」
「まぁ、光輝が気付いてなくてもやる事変わらないだろ?それにアレもベヒモスと同じで、いつかは戦わないといけねぇ」
「…龍太郎」
「それとも、俺の親友は勝てないと思ってるのか?」
「ふっ、そんなわけないだろ。もうあの時とは違う」
「うん。今度こそみんなを守る」
「香織…あぁ、そうだ、その通りだ‼︎」
全員が武器を構える。出現したトラウムソルジャーはおおよそ200ほど。騎士団の皆と七海を含めても圧倒的に数の差がある。
「騎士の皆さんはギリギリまで手を出しません。少しでも危ないと感じた時のみ援護、もしくは私が前に出ますので」
その言葉が合図とばかりにトラウムソルジャーが行進してくる。
「よし!まずは俺が大技で…」
「バカ!これから先の事も考えなさい!いつでも初撃大技で上手くいくことはないし、そもそもあんま意味ないから!」
雫の言う通り、先制攻撃はいつでも上手くいくとは限らない。それをわざわざ大技にする意味はない。そもそも「まずは」の理論はプロレスラーのようなもの。これは実戦なのだ。華のある戦いをする場面ではない。
「私とカオリンで動きを封じてるから、数の差を減らして先に動ける方をお願い!」
「残りの後衛組は詠唱を!…ほら、しっかりと指示しなさい。あなたがリーダーなのは変わらないんだから」
「わ、わかった。龍太郎と永山は左翼を、俺と雫で右翼を。中央は香織と鈴が結界と捕縛で抑えつつ、右翼左翼に移動する敵に注意を向けてくれ。遊撃に遠藤と野村が頼む」
(ふむ、的確ですね)
もしこの場で的確な指示ができないようなら七海が出るつもりだったが、どうやらそこは大丈夫のようだ。というより、光輝の戦闘センスは他と比べ大きい。それはリーダー力や彼自身の戦闘能力だけでなく、訳も分からず戦いを強要されて魔物という生物を殺せた事も含めてだ。そういうところは七海の思う良い意味でイカレた部分だと思う。
そんな事を考えてるうちに戦闘は進む。鈴の〝聖絶:縛〟は先日七海にしたものより広範囲になっていた。
(私にした時点でここまではできていたのでしょうね。結界の足し引きは…まだまだですができている)
今の鈴の力量では広範囲に結界で覆うとその分強度が落ちる。その為鈴はこの結界がただの足止めにすぎない事を理解している。そして囲いきれてない敵が攻めてきても防御ができない。足し引きの関係で結界に集中する必要があるからだ。だが彼女に恐れはない。
「カオリンありがとう愛してるぅ‼︎」
「えぇと、ありがとう」
「愛してる」の言葉の中から、彼女の中にある小さいおじさんをちょっと見た気がして、香織は若干引きつつも捕縛していく。捕縛した敵は恵里の魔法を受ける。
「倒してるのは私だからね!」
「もちろんエリリンも愛してるよー‼︎流石親友‼︎」
「言ってる暇があるなら結界に集中して!ちょっとヒビ入ってる‼︎」
恵里の魔法の使い方はとても優れていた。香織が回復捕縛による完全後衛型だとしたら、恵里は攻撃型の後衛と言ったところだろう。
(彼女に攻撃的な部分は見えないが、いざという時の彼女は普段と違うものを感じる。それが魔法に現れているというところでしょうか)
「「猛り地を割る力をここに!〝剛力〟‼︎」」
龍太郎と永山は魔法と魔力による身体強化された肉体と膂力でラリアット、タックル、鉄拳を食らわせ、迫り来る骸骨剣士をただの骨にしていく。
(もともとあった高い身体能力と肉体の強さ。そこに魔力による身体強化と〝剛力〟によってさらに膂力を上げた肉弾戦はなかなかのものですね。…まだまだ無駄な動きも多いですし、あそこまで上げてもまだ素の状態の虎杖くんや私、他の肉弾戦向き術師には及ばないですが)
逆の方では光輝と雫の剣撃が舞っている。どちらも荒削りな部分があるがどちらも歴史のある剣術道場の門下生なだけあってしっかりとした動きで無駄も少ない。
(八重樫さんの方は誰よりも敏捷が高いが、それをきちんと使えていなかった。今は見事に使いこなしている。きちんと使うべきところで魔力の身体強化をし、武器に魔力をこめている。アーティファクトはあんな鈍大鉈と違い、込めやすくなっているのもあるでしょうが。天之河君はやはりバランスが良い。全てにおいて一定に高い。そして器用貧乏な高さでもない。そこだけ見れば準一級クラスは充分ある。しかし、詰めの甘さや戦い方、そして真っ直ぐさは虎杖君以上に危うい)
そうこう考えつつ、七海は全員の動きをそれぞれ見つつ評価していたら、後衛の上位魔法が一斉に飛んでいく。光輝が発射を促し前衛と遊撃が後退した瞬間にその魔法が降り注ぎ、残り全てを消滅させた。
「本当に我々の手助けなしに、たったの11人で」
「100…いや200はいたはずだ!」
「疲労が少し、ケガも多少ですがありますね。表情や戦いに出さなくても、やはりトラウマを克服しようという思いがわずかに出たのでしょう。辻さん、白崎さん。マッドさん達の指示のもと、回復をお願いします」
「先生。もっと先に進みましょう。それこそ65階層のベヒモスを倒しに‼︎」
「私も、先に進みたいです」
「トラウムソルジャーと戦って、私もそう思ってます」
光輝と香織はともかく、雫が「先へ進みたい」と言い出した事に、七海は若干驚いた。雫は見た目と違い臆病な一面のある人物だと思っていたからだ。
「八重樫さんに聞きます。その理由は?」
「………言えません」
彼女は臆病な一面はあるが弱いわけでもない。だが、親友の香織が必死で前に進む為に奮闘する姿を見て、自分にない強さを見て、それを支えたいと心から思ったのだ。だが、そんな事は親友のいる前では言えない。彼女なりの意地もあるが。
「そうですか……他の皆さんはどうですか?」
七海はそのような事情は当然知らない。だが、彼女の強い意志は感じ、その答えはあえて聞かないことにし、話題を逸らす為他の生徒にも聞く。皆まだまだいけますといった表情で気合があり、「行きます」と顔と言葉で語る。だが、
「………ダメです」
「またあなたは…どうして」
「今回は以前白崎さんに出した条件のひとつにあった訓練の慣らしの為。本来の20階層よりも先にきています」
「それは、俺達が強くなったからでしょ⁉︎もう少し繰り上げても良いんじゃ」
「ふたつ、あなた方をここに連れてきたのはトラウマの突破の第一弾で、これも本来の予定には無かったものです。予定とは常に予定通りになるとは限らない。イレギュラーは起こりますが今回はあえてのイレギュラー、それも2回もです。イレギュラーは重ねれば重ねる程新たなイレギュラーを呼びかねない。そうなった時、取り返しがつかないでは済まされない。君達は、それを一度経験した筈ですよ?」
七海は光輝の言葉を遮って言う。その言葉で思い出すのは、クラスメイトが奈落へ落ちていく光景とトラウムソルジャーとは比較にならない恐怖。光輝はまだ何か言いたげだが、他の生徒は身に染みているのか黙った。香織も仕方ないとはいえ落ち込む。
「それに、今回物資は
「「「「「「「「「……………はい……はい?」」」」」」」」」」
今の発言に違和感があった。なぜなら七海や騎士の人達が追加で物資を確保しているのを見たからだ
「言ったでしょう?今回は慣らしの為だと。本当の遠征はそこで行います。可能であれば、65階層以上を目指します」
そうして回復と帰還の準備が終わったと騎士達から合図が出る。
「行きましょうか。あまり必要もないのに時間外労働はしたくないので」
「七海先生、ありがとうございます‼︎」
ふざけたような言葉と共に進みだす七海に、香織は頭を下げて感謝の言葉を述べた。
65階層まで行く。それはつまり自分達の実力はそこに行けると信頼してくれている事。そして自分のわがままをちゃんと汲んでいるのだとわかる。それが嬉しかった。
「感謝は目的が達成した後で」
相変わらずの厳しく、冷たさを感じる言葉だが、どこか七海らしい優しさがあるなと香織も感じるようになった日だった。
ちなみに
銘心鏤骨:心と骨に刻み込むように、しっかりと記憶して忘れることがないということ
トラウムソルジャー(骨)と戦うから骨という漢字を使ったいいのないかなと探したらあったので
次話は実はもうできてますが、本誌の秤の戦いを見てこれからのことに活かせるものがあるかもしれないので、次のジャンプが出るまでお待ちください。そのかわり、次までにもう一話書いて出せるなら出します