ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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秤の術式が面白い!シリアスなギャグの戦闘になって凄い!

前話で秤の戦闘で活かせるものと言いましたが、正確に言うとその戦ってるキャラ、シャルルに興味があったのが理由でもあります。未来が見える相手にどう戦うかという……後に出すあの兎の事もあったので




銘心鏤骨②

トラウムソルジャーの軍団を撃破し、最初のトラウマを乗り越えた彼らはホアルドの街で1日休みを取った。

 

その翌日、再び迷宮へ向かう。今度は本番と皆気を引き締め直す。

 

「ハッ⁉︎」

 

「ど、どうしたの香織⁉︎」

 

急に何かを感じたような声を出した香織に驚き、雫が聞く。

 

「いや、今なんか非常に嫌な感じがしたの…急いで迷宮の奥に行け‼︎って私の中の何かが囁くの‼︎」

 

「気合があるのは良いですが、それはおそらく幻覚なのでしっかりしてください」

 

『何言ってんだか』と思いつつ、冷静にツッコミ兼注意をする七海だが…実は香織の第六感は当たっている。それを彼女や七海が知るのは先だが。

 

「さて、前回の小規模遠征の結果、建人と話し合って今回は大規模な遠征を行う事とした。前回はあえて罠の部屋に入ったが、今回はマッピングのされている47階層まで最短距離で移動する。今回の第一目標はそこだが、第二目標はその時のお前たちの状態で決める。もちろん、47階層に着く前に無理と判断した場合即時退却する。その判断は建人に任せる」

 

「ちょっと待ってください。メルドさんが出すならわかりますけど、どうして七海先生が」

 

「そんなもん、建人の方が強いからに決まっている。何よりこれまでの訓練をしてきたのはもう建人の方が多い。観察もしっかりしてきているしな」

 

「でも先生が判断するなら、先に進めない可能性が…」

 

「君は自分や彼ら程度では迷宮を進む実力は無く、無理と思っているんですか?」

 

「別にそんな事はないです‼︎」

 

七海は「ならいいでしょう」と話を切り上げて他の騎士達に指示する。光輝は腫れ物を見る目で七海を見ていた。

 

「各々、準備はできているな?出立する‼︎」

 

 

光輝は、レベルが上がらず、いずれ追い越されるのを見越して七海が嫌がらせとしていると考えていた。今回もその為に早くに止めにくると思っていたが、七海は全く止めなかった。七海は皆に危険がなるべくなら及ばないようにと考えているが、そう簡単にいくような世界でもない事は理解している。だからこそ、彼らの実力をしっかりと観察して、把握し、認めるべきところは認めて常に万が一を考えて行動をその都度決めているに過ぎない。

 

無論、光輝がそんな七海の意図を考える事はないし、わかるわけもない。ここまで七海は手助けは一切していない。当然危なければ助けるつもりだが、彼らで対処できるようにする為、実力をつける為にも手助けは最小限にする。それを光輝は『実力をつけたから死なないのをいい事に、遠目で見ているだけか』くらいにしか思わず、そのイライラした気持ちを魔物で発散していた。そのせいでできた隙を魔物が突いてきたが、七海が気づいて動く前に雫が守った。

 

「気を引き締めて‼︎〔+視認(上)〕じゃなくても、動きを追いつつ目を凝らすのを徹底すれば、この程度の魔物の動きくらい読めるでしょ⁉︎」

 

「す、すまない。ありがとう雫、大丈夫だ。心配はかけさせない」

 

注意を受けて礼を言うが危なっかしさはやはりある。おまけに今の注意は雫としてはガチの『しっかりしろ』といったものだが、光輝はそうは感じていない。

 

そうして47階層まできた。ここまで来るのは本来ならかなりの時間がかかる。だが、彼らの実力は相当上がり、〔+視認〕によって魔力の流れをしっかりと見ながら行動する事で効率的に階層を進み、(上)などは魔物の動きを魔力の流れからある程度読み取れる。(上)でない者でも集中力を上げれば見える。

 

魔物は魔力操作能力を持っている。故に、魔力は常に安定して体内を流れている。だが、どこまでいこうと獣なのは変わらない。僅かな魔力の動きの差を読む事で分かる(上)であればそれが即時にわかる。

 

「こうやって実戦で使えるようになると、すごい便利だね」

 

「あぁ〜俺もってねーからその感覚わかんねぇ〜」

 

「じゃ、もっと薪を切るしかないね〜」

 

ヌゥと龍太郎は悔しがる。しかし龍太郎を煽る鈴も…いや、鈴を含めた(上)になれてない者は(上)持ちに憧れている。

 

「雫、どうやって(上)に到達したんだ?その時どんな風に感じた?俺ならどうすればなれる?」

 

「質問多すぎよ!…正直いきなり見えやすくなったなって思ってたら(上)になってたからわからないわ」

 

特に光輝はそれが顕著だ。勇者である自分が持てないのはおかしい。七海が何かしてるのだろうと思い、既に習得していて、そして幼馴染である雫と香織に聞く。

 

「香織の方も同じだったでしょ?」

 

「そうだけど…」

 

「ストップです。ここで悩んでも仕方ない事ですし、メルドさんが言うように各天職によって技能は変わってくるんですから、才能もおそらくありますよ」

 

「けど、俺は勇者です。強くなるのは当たり前でしょう!」

 

七海が止めたが光輝的にはそれが許せないのか、勇者という肩書きを前に出して訴える。

 

「なら、単純な意識の………着きましたね」

 

話を止めてその場所を見る。新たな階段、48階層への道だ。

 

「メルドさん、物資は?」

 

「充分だ」

 

「………わかりました。さて皆さん、今回の遠征の第一目標に到達しました。これより先、第二目標である65階層へ向かいますか?」

 

65階層。そこへ行くということは、ベヒモスに遭遇する確率が高くなるということだ。正直皆、緊張以上に恐怖の方が大きい。この迷宮に来た時点で皆それなりに覚悟はあったが、トラウマはそう簡単には消えない。そこで、光輝は真っ先に行くと宣言することで皆を鼓舞しようとしたが、その前に七海が釘をさす。

 

「先に言いますが、天之河君の言葉や他の人の言葉につられて行くと言い出した場合、もしくは私がそうだと判断した場合、引き返します」

 

「ちょ、七海先生⁉︎」

 

「理由はわかりますね?」

 

最初と同じ、誰かがいるから、誰かが言うからでは意味がない。光輝以外それはわかっている。

 

「全員目を閉じてください。10秒あげますので考えてください。ただし、しゃべってはいけません。しゃべった瞬間に今回はここまでにします」

 

光輝も嫌そうにしながら目を閉じて黙る。いくら彼でもこの場で七海と言い争いをするわけにはいかない。武で示そうにも、目の前の相手には今の自分では勝てない事くらいはわかる。

 

「10秒経ちましたね。そのまま目を閉じていてください。……では質問しましょう。この先に、65階層へ行くなら手を挙げてください」

 

10秒という短い時間にして考えを焦らせる。これでも行く覚悟があるならと、そう考えたその結果は、

 

(………天之河君と白崎さん、坂上君はともかくとして、他も挙げるとは)

 

全員が挙げていた。正直七海は1人くらいはいると思っていた。そして当然、1人でも出たら引き返すつもりだった。

 

「手を下ろして、目を開けてください………君達の考えはわかりました。物資もあります。先へ進みましょう」

 

光輝は心底嬉しくなり、感動もした。「皆が一致団結している!」と。…実際は少し違う。皆気付かないフリをしてきたがもうわかっている。ここで行かなくては、いつかこの人がいなくなってしまった時にちゃんとした行動も対処も出来なくなるかもしれない。自分達の身と、ここにいない者達を自分達で守る為に、ここで強くなる。

 

その為には最低でも超えなくていけない。ベヒモスを。

 

 

全員警戒をし、現れた魔物を倒していく。階層を降りる時は七海が先頭に立ち、降りてしばらくは七海が戦い、その階層のレベルを確かめる。

 

(時間は過ぎた、そろそろ呪力を解放するか?………いや、65階層の事を考え温存しましょう)

 

朝早くにさまざまな用意をし、8時間は既に経っている。七海は普段から呪力を抑え、一定の活動時間を超える事で呪力を増す縛りを自身に課している(本人曰く時間外労働)。この世界に来て上がった呪力もあって今まで2割から1割を5割から6割に抑えている。あとは時間が来た時にそれを解放すればいいが、万が一を考えそれをやめる。この縛りは一定時間本気で戦えないというリスクで成り立っている。その時間を少し増やすだけだ。

 

(というか、これから先はずっと時間外労働をする破目に)

 

「建人殿?表情が暗いですが、大丈夫ですか?」

 

七海の考えがわかったわけではないが、わずかに表情に出ていたのでマッドは心配して声をかけた。だが七海は「大丈夫です」と言う。

 

だがマッドには若干落ち込んでるように見えたそうだ。

 

そうしてどんどん下へ下へと降りていく。55階層に来た辺りで魔物のレベルが上がっている事を七海は感じる。

 

「シッ!」

 

蛇に翼が生えたような魔物を切り捨てる。酸性の液体のような物を飛ばしてくるが発射までの速度は遅い。翼は飾りというわけでもなく、ほんの少しなら飛べるようで、空中と地上からの連続攻撃を繰り出してくる。

 

(攻撃の瞬間、魔力の流れが一時的に止まっている…いや、口元に留まっている)

 

既に相手の分析は済んでおり、攻撃タイミングを見て斬る。時に尾を持って逆に酸魔法を発射するタイミングで投げて、ぶつけた相手共々自滅させる。

 

「ふむ、こんなものですか。皆さん、この魔物は魔力の流れが読みやすい。次に接敵した際は酸の魔法に気をつけてください。目を失明する可能性もありますので」

 

(((((そんな可能性があるのに躊躇なく接近戦をしている人……)))))

 

『相変わらずデタラメだなぁ』と思いながら七海の事を見るが、同時に感謝もしている。新しい魔物は先に戦って情報収集をしてくれるので2度目以降はあっさりと倒せる。

 

「ここまで来ると魔物も脅威になるものだ。本来1人で戦うなど許可できんが…おまえの場合は余計な心配だな」

 

「今は、ですけどね」

 

七海は現状戦った魔物は微妙な能力差はあるものの3級〜準2級弱と評価している。

 

(たしかイシュタルさん曰く、彼らの世界はこちらの世界よりも上位の世界でしたか?成長速度が早いのはそれが理由としても…五条さん……とまでは行かずとも特級相当の強さに彼らはなれるのでしょうか)

 

七海の基準だが騎士団の団長であるメルドが準2級に値する。魔人族は人間族よりも個人戦力が優れている。冒険者の中には金と言われる最高クラスがある。となればそれも準2として想定した場合、魔人族は準1級〜1級がいてもおかしくない。

 

(もし、特級相当がいるとしたら、私では勝てない可能性がある)

 

この世界に来て七海は強くはなっている。だがそれでも1級と特級とでは天と地の差がある。ツギハギ呪霊の真人、火山頭の呪霊の漏瑚程ではないが、七海は特級クラスを祓った事はある。

 

七海の中で特級術師は本当に特別な存在。それと同等の存在がホイホイ現れていたら、この世界はとっくに人間族は滅んでいる。だからこそ今まで膠着していたのだ。とはいえ、この先、そのレベルの魔物や魔人族が出ない保証はない。

 

(だからこそ、彼らはベヒモスを討伐するくらいはできないといけない)

 

そうでなくては、その時(・・・)が来ても、動けない。

 

 

階層を進むたびに皆の緊張感が増してくるのをそれぞれが感じていた。小休憩をとりつつ現在60階層。目標階層まであと少しだがここで足取りは重くなる。疲労感ではなく、いつかの時を思い出して足が止まったのだ。

 

「高い、ですね」

 

断崖絶壁の崖に吊り橋がかかっているこの場所を渡らなくてはいけない。その事に恐怖感が出てくる。一方で七海は橋の強度を確かめながら疑問が頭をよぎる。

 

(意外としっかりした吊り橋、周囲に魔物の気配はない、罠もない)

 

こんな不安定な場所に全く魔物も罠もない事に。

 

(以前のような初心者を殺しにかかるような罠もあれば、このようにご丁寧に橋を用意している。反逆者、でしたか?この場所を作ったとされるのは?まるで、我々を試しているかのようだ)

 

もっと先へ進めばこのような場所でも攻撃が来るのか、それとも考え過ぎなのか、疑問は尽きないが今は先を急ごうとしていると、香織が崖の底に広がる闇を見つめて動かない事に気付く。

 

「白崎さん?」

 

「香織、大丈夫?」

 

「大丈夫、ありがとう雫ちゃん。七海先生も」

 

七海も雫も洞察力は高い。だからそれが無理をして言っているわけではないことぐらいはわかる。

 

「……そうですか」

 

なら良いとして七海は先へ進むが、それが光輝には『興味がない事だからどうでも良いのか』という意味に思え、さらに香織が崖の底を見続けるのはハジメの死を思い出し嘆いているのだと映った。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと。彼の中では香織が本気でハジメの生存を信じている事も、その行動原理がハジメへの強い想いによるものだとも露ほども思わない。だから香織にズレた励ましをしているが、2人にとっていつもの事なので苦笑するしかない。

 

(全部が全部、間違ってもいないですがね)

 

七海も光輝の言う事がズレているのは事実だと思うが、100%間違っているわけでもない。ハジメの死に囚われ続けているのは本当だ。だが香織はそれを理解したうえで信じるのだ。己が納得する為に、前に進む為に。その行動を七海は否定しない。それが彼女のケジメだからだ。

 

(並大抵の呪術師よりも、呪術師らしいですね)

 

1級呪術師として、七海は香織に対しそう評価した。

 

そうして62階層に着いた時に以前ベヒモスが出た場所に行こうとも思ったが、より彼らのトラウマを克服できるよう、65階層を目指す。そして遂にその時が来た。62階層の部屋よりも広い空間、そしてその前方で展開される魔法陣と後方に展開される魔法陣。

 

「前回の罠とほぼ同じものですか?」

 

「あぁ、間違いない……くるぞ‼︎」

 

予想通り、後方にはトラウムソルジャー、前方にはベヒモスが出現した。

 

(階層が違うならもしかしたら強さも違うと思いましたが、どうやらそうではなさそうですね)

 

一度倒した七海にとって眼前の魔物などザコ当然だ。彼らはどうかと見ると、多少は不安、恐れがあるものの戦闘態勢を既にとっていた。

 

「私や騎士の皆さんはあちらを片付けていますので、皆さんはそちらをお願いします……勝てないと思ったら呼んでください」

 

「七海先生、心配しないでください‼︎俺達はもうあの時の俺達じゃありません‼︎もう負けはしない‼︎必ず勝ってみせます‼︎」

 

「いつまでも負けっぱなしは性に合わねぇ。ようやく来たぜ…リベンジマッチだ‼︎」

 

光輝と龍太郎の言葉に他の者も同意する。だが実は七海は心配してない。

 

七海は今の彼らなら勝てる実力があると思っている。だが、それは別問題だ。彼らが子供であるのは変わらない。だから七海は大人として、彼らを守る者として、そう言った。だがそれをちゃんと伝えたら光輝がまたごちゃごちゃ言って来て戦闘態勢が崩れると考え、何も言わない。

 

「メルドさん、退路を確保しておきます」

 

「…せいぜい足手纏いにならんようにする。退路の確保、それと、あいつらの邪魔をさせるな‼︎アラン、パーンズ、お前達は部隊を左翼と右翼に分かれてそれぞれ交戦!残りは中央を攻める!建人に負担をかけるなよ‼︎」

 

メルドは騎士達にそう指示を出す。なるべく自分達だけでトラウムソルジャーを相手にする作戦だ。そうする事でいつでもベヒモスの方へ七海が行けるように。

 

「……どうも」

 

七海は軽く感謝の言葉を述べると、メルドは『別に良い』と言わんばかりに手を挙げた。

 

そして生徒達はベヒモスと交戦を始める……前に光輝が単身前に出て攻撃をした。魔力を込めた斬撃は確かにベヒモスに傷をつけた。前回は〝天翔閃〟の上位技〝神威〟でも傷をつける事すらできなかったが、今回はただの斬撃だけで傷を付けた。

 

「行ける!勝てる‼︎」

 

いまだ七海のことは気に入らないが、強くなっている事を確認でき、光輝は素直に喜ぶ。さらに連続で〝天翔閃〟を出し、ベヒモスが後退していく。追撃とばかりに光輝が飛び出すが、ベヒモスはその大振りを待っていたように咆哮をあげ、その爆音で一瞬光輝の動きが止まってしまう。そして特攻をして来たが、

 

「ぬぉぁ!」

 

「まけっ…かよぉ‼︎」

 

永山と龍太郎の2人が止め、押し返した。

 

「バカ‼︎何してんのよ‼︎1人で向かって‼︎」

 

「だけど、七海先生も言ってたろ⁉︎俺と雫、龍太郎はアレを1人で倒せるようにって…」

 

「最終的にでしょう⁉︎最初は全員で力を合わせて勝っても良いって言葉を忘れたの‼︎」

 

光輝とてその言葉は覚えていた。だからここで自分が倒して認めさせようとした。

 

七海が考える通り、光輝の全力時は一時的に準1級レベルはある。だがそれは〝限界突発〟を使った時だ。また、未熟さなどを踏まえて言えばギリ2級といったところ。1人で挑むのは愚かな行為である。まして他の皆を無視したその行動は、他の皆が足手纏いと言うようなものだ。…当然、光輝はそんなの考えていないが。

 

「私達の中で1番強いのはあんたなんだから、しっかりして‼︎」

 

雫の言葉は『ちゃんとチームワークを考えて』といったものだが、光輝は反省……でなく、頼りにされている、皆も強くなりたいんだと、変な方向に考えがいく。だがそのおかげで光輝は指示を的確に出そうと気を引き締める。

 

「雫…すまない。指示を出す!永山と龍太郎はそのまま左右から交代で攻めてくれ‼︎吉田さん、2人に付与を!野村は永山、鈴は龍太郎のバックアップをしてくれ。香織は俺と雫が攻めた時のバックアップと回復を!恵里は上位魔法陣準備、辻さんは全体の回復を!遠藤はベヒモスの気を引きつけながら攻撃して龍太郎達から意識を外させてくれ‼︎」

 

一度指示に回れば的確なものになる。

 

「頑張って、野村くん」

 

「……おう」

 

好意を抱いている辻にそう言われて少し赤くなるが、すぐに目の前の敵に集中する。ベヒモスが永山へ攻撃する瞬間、土を爆ぜさせて進行を阻害する。さらに怯んだところを集束した土の矢がマシンガンのようにベヒモスへ命中する。ベヒモスが後退する瞬間に、永山は身体強化をした肉体で、ベヒモスの上がった足とは逆の足を狙い、バランスを崩し転倒させる。

 

「ありがとな。……がんばれよ」

 

「う、うるさい」

 

辻への思いを理解している永山が小声で応援すると、恥ずかしそうに野村は言い返す。戦闘中にもかかわらずこんなことを言い合える余裕があるのは、それだけ強くなっている証拠である。

 

「!また来るぞ」

 

ベヒモスが動き出すがその視線は自分達に向いていない。警戒してはいるがまるで周囲を飛ぶ蚊を探すごとくキョロキョロしだす。視線が外れたのを彼が感じた瞬間、目の前に現れ、その顔面を斬りつけた。

 

「よし、ほらこっちだ‼︎」

 

遠藤は〝隠形〟の技能を使用しつつ、意識を向けたり外したりのヒットアンドアウェイでベヒモスを撹乱させる。〔+視認〕で己の魔力の流れが見える彼は、その連続オンオフをしても魔力を安定して使用できる。

 

「…なぁ」

 

「言うな、わかってるから」

 

戦い出してから彼らは遠藤の事を忘れていた。意識がベヒモスにあったのもあるが、その技能の力をあらためて感心するのと同時に遠藤への哀れみがでてくる。

 

「……………よし!」

 

そして遠藤はその類の視線や感情には敏感だ。涙が出そうになるが今は戦闘中と意識を集中する。ベヒモスはイラついたように別の敵に意識を向ける。だが、それは遅い。

 

「〝聖絶:纏〟‼︎…まだ未完成かぁ。でも、少しくらいは大丈夫!龍太郎くん、やっちゃって‼︎」

 

「うおぉぉぉ‼︎」

 

龍太郎は突進する。ただ突進する。当然魔力で身体強化もしてるし、〝剛力〟で膂力も上げているが、やる事はただの突進だ。ベヒモスはそれを『良いだろう、相手してやる』と言わんばかりに突進し迎え撃つ。そしてぶつかった。元来ならこの巨体がぶつかれば人間は吹っ飛ばされる。

 

「グォォォォン‼︎」

 

だが、現実に吹っ飛んだのはベヒモスだった。ダンプに轢かれた犬のように吹っ飛び、ズシンと地響きを鳴らした。

 

〝聖絶:(まとい)〟:最強の結界を術者が指定した対象にその名の通り纏わせて鎧のようにする。

 

一度だけなら防御可能な無敵の盾を持った重装兵が、猛スピードで突進してくるようなものだ。結界の足し引きとして展開範囲は超極小、その代わり防御は最高レベル。しかしあまりにも繊細なものだから維持はできず、一度当たればすぐ解除される。攻撃を受けてもある程度の維持ができて完成だと鈴は思っている。

 

「ふぅ………っ!」

 

雫は身体強化をして速度を上げ、横転から起き上がるベヒモスへ向かっていく。

 

 

香織が園部に言うべきことを言った後、城に戻った雫は最後に調整がしたいからと、七海に模擬戦相手として戦ってほしいと頼んだ。最初は断るつもりでいた七海だったが、心配する3人の内、雫は最も精神的に弱い。もっと言えば残った11人の中で1番弱い。なのに無理矢理自身を動かし、無理矢理恐怖を取り除こうとする。戦力としては優秀だがかなり不安定な存在、それが彼女だ。

 

side:雫

 

「あぐっ…つぅ……」

 

「ふむ」

 

七海先生は反撃したわけではない。私が攻撃の為に突っ込んで来たのを大鉈で防御し、逆に跳ね返したのだ。跳ね返された勢いを殺しきれず、尻餅をついた。

 

「やはりわかりませんね」

 

「なにが、ですか?」

 

「いまも、いつもの訓練時も、身体強化と武器に魔力を込めることをしても、それ以上をしようとしない。例えば武器の強化魔法である〝絶断〟。あれを使えばいいでしょう」

 

「けど、そんなことをしたら武器ごと先生を…」

 

斬ってしまう。訓練でそこまでなってしまわないようにしている。

 

「他の人は魔法をバンバン撃ってくるのにですか?」

 

「そ、それは…」

 

きっかけは光輝が魔法で攻撃したからだ。以降魔法攻撃に躊躇いはない。撃っても七海先生は無傷で攻めてくるからだ。

 

「戦うのが、まだ怖いんですね」

 

この先生は、どんな人生を送ってきたのだろう。そんなふうに最近はよく思う。そしてその人生経験の賜物なのか、こちらの考えや想いを度々読んでくる。

 

「白崎さんの想いに寄り添い、手伝いたいのが本心なのもわかりますが、それがまだ見え隠れしている。…まぁ、魔物相手ならそれでも大丈夫でしょう。…それを捨てろとは言いません。が、生きること、生き残ることまで捨てないでください」

 

「生き残る、こと」

 

「あなたとて死にたいとは思ってないでしょうが、肝心な時にそれでは重大なミスを起こす。それは死にに行くのとなんら変わらない」

 

顔を下げてその言葉を噛み締めていると、ザッザッと足音をたてながら「訓練を終えます」と七海先生は去っていく。

 

「あなたもわかっているでしょう?私だけで戦争がどうこうできないなど……その時も、そうやって躊躇うなら、斬るべき時に切れない」

 

 

side:フリー

 

「全てを切り裂く至上の一閃」

 

『恐怖を捨てるのではありません。恐怖もまた力……恐怖を、武器に込めなさい』

 

彼女に呪力があるわけではない。だが、魔力も、魔法も、戦いの恐怖も、香織の想いも、己の弱さも、自分にしかない強さも、残さず、

 

「〝絶断〟‼︎」

 

武器へと込める。切れ味増加、この生物に抱いていたトラウマごと斬り裂く。その強靭な角が斬られたことで、ベヒモスが驚いたところに、雫は空中で一回転してもう一撃切り裂いた。ベヒモスは首から胴体にかけて切られ血が吹きだす。

 

「ん!ぐぅ!」

 

吹き出した血が雫にかかり、片目を瞑る。同時に生き物の血の温かみを感じて、着地がうまくできず怯む。遠藤の陽動にも目もくれず、雫を踏み潰そうとするが、

 

「〝縛光刃〟‼︎〝縛煌鎖〟‼︎」

 

光の十字架と鎖がベヒモスを拘束する。片足をあげた状態で拘束された為その姿は滑稽だ。ジタバタジタバタと動く。

 

「まだ動くならぁ‼︎」

 

香織は追加で更に拘束していく。その声は到底女子が出すようなものではない。

 

「雫ちゃん!今のうちに!」

 

「ありがとう、香織!」

 

雫が後ろに下がり、恵里が相手を見据える。

 

「……よし、いくよ‼︎」

 

恵里の上位魔法〝炎天〟。太陽を連想させる高音の炎の塊が、発動した周囲を焼き尽くしていく魔法なのだが、彼女は通常の詠唱後魔法の威力を上げる為魔力を一気に練り上げる。もちろん使いすぎないようにだ。〝炎天〟発動の為に必要な魔力を使い発動。そこに更に魔力を継ぎ足して威力を上げる。

 

その威力は1人で出す魔法のレベルではない。炎でベヒモスは焼けていく。獣が焼かれていく匂いは美味しそうなものではなくおぞましいものだ。

 

「トドメだァァ‼︎」

 

ベヒモスは焼かれながらもがく事すらも、拘束されているので出来ない。そこに光輝の威力の上がった〝天翔閃〟の光の斬撃…言うなれば斬撃のビームが、炎で焼け、脆くなったベヒモスの肉体の真ん中を、カッターで線を引いて切るかのごとく、真っ二つにした。

 

 

「終わったようですね」

 

七海はバラバラになった骸骨の束を踏み潰し、生徒達の方が終わったことを告げる。ベヒモスを倒した事でこの階層を超えた。すなわち歴代最高の記録を更新した。騎士達の中には彼らに後光が差しているように見える者もいるだろう。神が召喚した勇者一行という肩書きは神権政治寄りのこの世界の人達にはよく効く。

 

「すみません、建人殿。結局手伝っていただき」

 

「かまいませんよ。あなた方が必死でやってる時に、生徒を見てるだけです。なんて、流石にできませんから」

 

「今回もまぁ、すごかったですね‼︎剣を拳で砕いたりして」

 

パーンズとマッドの2人は、それでも七海の方を慕っているようだが。七海はベヒモスを倒して喜んでいる生徒達の方へ向かう。

 

「とりあえず、トラウマ突破ですかね。しかしここから先は誰も行ったことのない未開の階層です。浮かれないように」

 

「せっかくあのベヒモスを俺達だけで倒したんですから、もっと褒めるべきでしょ‼︎」

 

「褒めるもなにも、今の君達なら勝てる相手だと考えてましたし、それ以降も進むなら当然ですよ。それとも、ここで満足なんですか?」

 

最近光輝にはこういった感じで七海は受け答えしている。調子に乗せはしないが、貶しもしない、焚き付けるやり方だ。

 

「言われなくても、この迷宮は制覇しますよ‼︎」

 

「そうですか。なら、今日はあと4〜5階層ほど降りて終わりにしましょう」

 

七海の言葉に皆、喜びを一旦置いて先の階層へ行く道を見る。光輝はああ言うが、香織はハッとさせてくれて良かったと思っている。ここで終わりではない。自分はこの先にいる大切な人を迎えに行く為に来たのだと思い出させてくれたから。

 

 

 

 

 

…………その人物が別の女性とキャッキャしてるなど思いもよらないだろうが。

 

(彼女の後ろに何か…般若の………呪霊⁉︎)

 

気のせいであった。




ようやくベヒモス(最低ライン)突破!

ちなみに
実はあのまま光輝が戦っていたら苦戦してはいましたが勝ってました。でも調子に乗ることになるのでさせません

ちなみに②
修行による成長ランキングで1位は鈴ですが最下位は龍太郎です(それでも原作の時間軸より強い)
そしてブービーが光輝です(それで以下略)

次回は4割完成です。やっぱ連続はテンション上がってないと無理です。今週の水曜が休みなのでその日に出せたら出します
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