と考えてたが皇帝のことを思い出した。
65階層に到達し、歴代最高記録を超えた。その後次の階層へ行く為に行動するが、ここはもともとマッピングのできていない階層だ。62階層までは七海が彼らを探す為周り、ある程度のマッピングはできた。63階層以降は何度か道に迷うこともあった。しかもこれ以降現れる魔物は2級以上の相手が確実。進むのはどうしても時間はかかる。
「ここが、次の階層への道ですが…今日はここまでですね」
どうにか67階層へ行く階段を見つけたが、これ以上は物資と彼らの体力的にも限界と七海は判断した。あの後も新種の魔物には先に七海が対応していたが、数が流石に多くなってきた。もちろんこの程度は今の七海にとって苦にもならない。
「マッピングは、出来ましたか?」
「はい。………申し訳ありません、助けていただき」
だが、生徒やメルド達騎士団の皆を全て守りながら戦うのは流石に大変であった。生徒も騎士団の人達も自分の身を守ることができるが、騎士達は65階層を超えてから生徒たちについて行くのが精一杯となってきている。培ってきた経験値でどうにかなっているがそのうち限界が来る。
「いつぞやの20階層から65階層に一気に移動したように、逆のパターンがあれば楽なんですがね……時間外労働をしなくて済みますし」
「先生、よく労働用語使いますよね。こんな場所でも」
「というか、教師なら残業って結構あるんじゃ?」
「当然ありますが、なるべくならないような努力はしています」
雫と香織に対して七海はそう言うが、実際は定時に帰れてもそこから次の授業やさらに先の授業のまとめなどで、事実上の時間外労働をいつもしている七海であった。
((なんだろう、触れていけないワードだったような気がする))
七海はいつものように平常心を崩さず、どこまでも真っ直ぐに前を見て、まさに大人の雰囲気を出している。だが、ここまで共に戦い、一緒にいる時間が多くなった彼らには、七海がほんの少し、とてもわかりにくいがイラっとしているように思えた。雫と香織はこの話はしないようにしようと決め、それはここにいるメンバー全員の総意にもなった。
つい先程、「ここからは、時間外労働ですね」と言った瞬間、周囲の魔物をちぎっては投げ、ときにミンチにする姿を見たのもあるが。
「それより、帰りの道にも気をつけてください。罠が無いということもないんですから」
それでも生徒思いだという事は、殆どの者が理解していたが。
*
翌日からも休息を挟みつつ、マッピングされていない階層の地味な探索を行う。特に67階層以降は探索に余念はない。七海も、香織も。香織とて流石にこんな場所に彼が落ちていないだろうと思うが、もし上層に上がって錬成で隠れていたら……そんな思いがあり、彼女は必死で彼の残穢を探す。
「白崎さん、マッピングは私や騎士の皆さんに任せて、あなたは他に集中してください」
しかし七海はそれに集中していたら足を掬われるとして注意をする。香織はその為にここに来ているのだからお願いしようとするが、七海とてそれは把握している。
「私は彼と訓練する時間が多く、彼の魔力もよく見てきました。私が探す方がより確実です」
「…それでも、お願いします」
『頑固だな』と思うが、あまりにも必死で、藁にもすがるような目を見て、七海は「疲れてしまわない程度でしてください」とだけ言った。
「……はい!」
香織にとって、七海という教師は自分のクラスの担任で、よく手伝いを頼むから『ハジメ君といる時間が削れるなぁ』と思う程度のものだった。
(すごく良い人で、人の事を良い意味で見る事のできる人なのはわかったけど、こっちの考えがわかるなら、ああいう時はハジメ君ともっと一緒にいる時間を増やして欲しかったなぁ)
「………」
何やら妙な視線を感じたが無視した。
そんなこんなで、その日は69階層を探索していつものようにどうにか地上に戻り、宿へ向かおうとすると、地上に待機していた騎士の1人がこちらに来て伝令を出す。
「メルド団長、報告であります!騎士団は速やかに勇者様一行と共に王都へ一時帰還せよとのことです!」
『ずいぶん急だな』と皆が思う。
「理由はなんだ?」
「はっ!ひとつは、長期間の迷宮攻略を行なったので、一度休養を取って頂くためであります!」
「確かに随分と王都には戻ってませんが、定時の報告も休息もこちらでも充分できておりますが」
マッドの言う通り、毎日迷宮に行く事はない。必ず休日はつけている。ただ、ここよりも王都の方がよく休めるのも確かだ。だが、教会の方は長い期間迷宮探索による実戦訓練を放置してきたこともあり、早く終わらせておきたい気持ちが多いはず。つまり。
「もうひとつ、別の要件がありますね」
七海はそう解釈した。
「…どうなんだ?」
「はっ!詳しくは私も知りませんが、同盟国、ヘルシャー帝国から勇者一行の会談の申し込みがあったそうであります!」
*
王都へ向かう馬車内にて、メルドと七海が話しをしていた
「ヘルシャー帝国…確か実力主義の不成者の多い国という記憶がありますが?」
「建人……まぁ、まったく間違ってもいないが」
『急、なぜ今?』そんな気持ちが生徒達にあったが、皆用意された馬車に乗り込み王都へ向かう。束の間とはいえ、休息をとれるのは良い事だと思う者もいる。七海的にもそろそろ次の休日だったし、そこまで言うことはない。だが、
「また、生徒たちが政治利用させられるのですか…」
ヘルシャー帝国は勇者召喚に関しては無関心。己のことは己でどうにかする、良くも悪くもそれが1だ。実力のある者が成り上がる。王国ではあまり見ないが奴隷も多く、その大多数は亜人族らしい。彼らからすれば、強い者は弱い者をどうしようとどうだって良いと言ったところか。
ともかく、そんな帝国が今になって勇者一向の興味を持った理由を当てるなら、まず間違いなくオルクス大迷宮攻略の最高記録更新にあるだろう。七海のベヒモス討伐に関しては最初に倒したのがハジメになっているがその人物が死んだという事になっているのと、討伐できても最高記録を更新してない為半信半疑の部分があった為だろう。
「建人、一応言っておくが…」
「手出しはしませんよ。彼らが、生徒に変なちょっかいを出さないかぎりは」
「お前についてもだ」
帝国には七海が教会に出した条件について知らされていない。バトルジャンキーと言って過言でもない彼ら、特に皇帝がたった1人の人物が戦い、死ぬまで動くなと言われても、舐めてんのかレベルの笑いものだろう。下手な事を言って刺激を与えたくはなかったのだろうが、今回の会談で知ってしまう可能性はかなり高い。
「何にせよ、何事も起こらなければいいのですが」
「起こるのを前提とした物言いだな…」
とは言え、メルドも何も起こらず勇者一行を紹介してハイ、終わりにならない事など予想できるが。
そうこうしているうちに王宮へ到着し、1人ずつ降車する。メルドは少し用があるとその場を去る。少し離れた所に幼い子…この国の王子ランデルがいる。どうも香織に好意を持っているのか、積極的を通り越す猛アピールをしているが、彼はたった10歳、香織達以下の子供だ。だから香織も『子供に懐かれているな』としか思っていない。
『いやだなぁ』と思われてない事が唯一救いだが。
「香織に戦いなど似合わない。そ、そうだ!例えばもっと安全な仕事などどうだ?侍女などどうだ?その、今なら余の専属に」
「ランデル君、そこまでです」
七海は幼い子供の言う事にいちいち口出しなんてしない。が、この子はまがいなりにも王子だ。わがままを通して香織を本当に侍女にしてしまう可能性を考慮して話に入る。
「ぬぉ!」
圧倒的な身長差からくる七海の目線と、七海がベヒモスを1人で倒した事を聞いた事により、ランデルの中では七海は怪物に認定されていた。ササッと香織の後ろに隠れる。
「隠れても良いので聞いてください。彼女は、自分の意志で戦う選択を選んだ。正直私も彼女には危険な場所に行ってほしくないと思ってます」
「な、なら、おぬしからも言えばいいではないか⁉︎」
影に隠れつつ必死に抗議をする姿はまさに子供。まぁ、実際子供だが…。
「それで止まるような人じゃない。それだけですよ…答えを見つけるために、ケジメのために、そうすることが彼女の望みなんです」
「そ、そのような事は他の者に任せてしまえばよいだろう!だから、余が香織を守るため、侍女にしようと提案を」
「君は、いずれ多くの人の上に立つ。今は分からなくていいですが、君のそのわがままは多くの人を困らせる結果に繋がる。君の言葉は、それだけの力がある。だから、もっと知り続けてください。自分以外の誰かの想いを」
「う、うるさい!お前のような、香織をわざわざ危険な所に連れて行くようなやつに言われたくはない!」
「………」
子供に難しい事を言いすぎたかと思っていると、軽く、吹けば飛びそうな、そんな弱さの中に強い意志を感じる足音と、涼やかで厳しさのある声が響く。
「いい加減にしなさいランデル。香織が困っているでしょう?七海様の言ってる事も、王族ならきちんと受け止めなさい」
リリアーナ。この国の王女、ランデルの姉だ。
「し、しかし姉上!」
「七海様の言ってる事は全て事実ですよ。相手の事も考えず、お疲れの皆さんを引き止めて、わがままを言って」
ランデルはなおも非を認めようとしないが、リリアーナが本気で怒ろうとしているのに気づくと「用事があるから」とその場を駆け足で去った。
「弟に代わってお詫びします。失礼しました香織、七海様」
「気にしてないよリリィ。ランデル殿下は気を遣ってくれただけだし」
リリィことリリアーナは香織の言葉に苦笑いをする。ランデルが香織に恋心を抱いているのがわかるためだ。
「私の方も、子供相手に少し言いすぎました」
「いいんです。先程も言いましたが、あれは七海様の言葉が正しいです。まだまだ子供とはいえ10代、二桁の歳になったのですから、王族としての心構えをもう持つべきです」
リリアーナも14という若さだが、王族としての英才教育はずっとされている。だからこその言葉だろう。
「…ところで、その私を呼ぶ際の様付けはどうにかなりませんか?」
一方、真面目で温和だが硬すぎることもなく、自身の立場だけでなく召喚された皆を巻き込んでしまった事の罪悪感があったのもあり、彼女は積極的に皆と関わりを持った。特に女性陣とは歳も近いのもあってリリィと愛称で呼ぶほど良好な関係となっている。しかしそんな彼女も七海だけは別だった。
「すいません。そうするよう父からも言われていますので」
名ではなく姓の方で様付け。畏怖の念と七海をこちら側に付けておこうという魂胆だろう。リリィ本人は七海の事を人としてできた人物であると思っている。今まで聞いた話と、生徒たちから聞いた話からそう判断した。
「まぁ、そうされてもおかしくないでしょう」
「先生!そんな態度失礼でしょう‼︎」
そうされてもおかしくない=自分は様付けされて当然の存在のなのだ。と思ったのか、光輝は七海に抗議する。
「いいんですよ光輝さん。これはこちらの問題ですから。改めて、おかえりなさいませ、皆様無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」
気品と優雅が備わった笑みに男子達は顔を赤くして心を奪われる。女子メンバーですら赤くなる。これが王族が持つオーラなのかもしれない。
(王族というのは日本の皇族と同じく人を惹きつける何かを持っている。彼女の場合は今の王よりも上かもしれませんね)
国民からの人気も高く、王族としての意志もある。それが14歳で身についていることに七海は感心と若干の不安があった。神権政治の色が強いこの国で、彼女のような存在がこれからどうなっていくかがある程度わかるからだ。
「ともかく、せっかく戻ってきたのですから今日は休みましょう。白崎さんも迷宮攻略に戻りたいのはわかりますが、我慢してください」
「……はい」
香織は内心を当てられて落ち込む。
「………帝国の方々が来るのはいつでしょう?」
「予定では3日後くらいと」
「なら、今日は休んで、次の日は久々に訓練しましょうか?これから先、騎士団の皆さんが付いて来れなくなるのも考えて」
七海の提案に数名がウゲっという顔をするが、香織は少し明るくなる。
「強くなりたいです。お願いします」
雫は彼女の強さが見える言葉を聞いて気合が入り、自分もと頼む。そうすると皆触発されたのか参加すると言いだす。
「訓練はいつも通りでいきましょう。…5分がクリアできたので、次は少しレベルを上げて10分にしましょうか」
若干上がりかけた気合が少し下がった気がした。ちなみにその訓練はクリアできなかったが、7分近くかかったので成長はできているなと皆は実感した。いまだ本気を出さないで勝つ七海が遠い存在だとも感じていたが。
*
3日後、呼び出しを受けた光輝のみが帝国の使者と謁見をした。その際、勇者である光輝の実力を確かめたいと申し出て戦った相手が皇帝ガハルドである事と、光輝が一方的にやられた。その事を聞いた七海はさして驚く事はなかった。
「まぁ、当然でしょうね」
「と、言いますと?」
報告しに来たパーンズは問う。
「彼は対人戦に関しては気付いていないでしょうがあまりにも弱い。相手を傷つけてしまうことへに抵抗感…とでも言いましょうか。模擬戦を何度もしているのでそれがわかります。おまけに、魔人族を魔物と同列に見ている節もある。本格的に戦争になれば人を殺す事などできない」
地球でも似たことはある。彼らは日本という平和な場所にいたが、世界で見たら各地で紛争は起こり、死者がでる。戦争で人を撃つことができず、撃たれて死んだ人は10や20ではない。
「…どうしました?」
「いえ、皇帝と似たようなことを言っているなと思いまして」
「………」
その人物はどうやら光輝の無意識の現実逃避に気付いたようだ。七海はそれに少し感心していた。この国の王や教皇と違いまともに見ることができる者もいるのだと。それが間違いだと知るのは翌日となる。
*
その日は雫と模擬戦ありの早朝訓練をしていた。七海は本来なら訓練を休ませておきたいと思ったが、自主練ということで短時間だけ許すことにして行っていると、
「先生?」
急に七海が止まり、あらぬ方向を見だしたので、雫も止まってその方角を見るが誰もいない。
「教会の人ではないですね。この国の人でも生徒でも……言いたいことがあるならさっさと出てきたらどうですか?」
「…随分と敏感だがお前でなくそっちの女に気づいてほしかったもんだ」
物陰から出てきた人物は40代ほど、銀髪を短く刈り上げてニマリと獲物を見る肉食獣のような顔と碧眼、鍛えあげた肉体には無駄な筋肉はなくスマートな筋肉質を感じる。だがそれ以上に、七海が警戒心を強める理由がある。
(強い。実力は……2級よりも上でしょうか?)
見た瞬間にある程度の実力を分析した結果、この世界に来て初めて見た2級並みの人間と判断できたことだ。
「おいおい、そんな眼はやめてくれよ。むさい男に見られても気持ち悪い」
そう言いながら雫を見る。雫も警戒して構えようとするが七海がスッと手を出して止める。
「女性を物のように見るのはやめた方がいい、人としての質を落としますよ」
その言葉に男はヘラヘラと笑いだす。
「面白い男だ!俺を見て恐れるどころかそんな態度とは……なるほど、お前が七海建人か?」
「そういうあなたは、もしや今この国に来ているという皇帝ですか?」
「え…えぇ⁉︎皇帝って」
「おぉ、察しがいいな。そっちの女もいい反応だ。…そう、俺がヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーだ」
こんな場所に皇帝がくるなど想像してなかった雫は驚く。一方七海は昨日まで抱いていた感心を撤廃していた。この男は傲慢と強欲を詰め込んだ者で、リリィとは真逆の王族。民の事もあまり考えていないかもしれない。だが強者についていくスタイルのヘルシャー帝国なら付き従う者がいる。そういうカリスマはある。
「その皇帝がこんな場所になんの御用でしょうか?」
「話を聞いてないのか?勇者殿を見に来た……とんだ甘ちゃんでガッカリしてたが、いい物も見つけた」
舐めるような視線から雫を守るように、七海は前に出る。
「おいおい邪魔すんなよ」
「あなたこそ、用が済んだから今日帰るのでしょう?さっさとしたらどうですか?」
バチバチと視線がぶつかる。そしてガハルドは剣を出した。
「調子に乗るなよ。俺は皇帝だぞ?」
誰が見てもわかる明確な殺意。それを受けてなお七海は引かないし恐れない。
「この世界の人々の前ではね。私とは関係のない世界なので」
「ハッ!よく言った!なら灸が必要だなぁ‼︎」
魔力を込めた身体強化で七海に迫る。生徒たちと違い、殺意全開プラス魔力の流れも安定しているので動きが読みづらい。戦いの中で無意識のうちに身につけたものだろう。その剛腕から放たれた剣を、
「……戦闘狂ですね」
全く動くことなく自身が持つ大鉈で切った。
「⁉︎」
七海が構えた時点でそれが鈍だと気付き、訓練の為にそれを使っていたと思っていたガハルドは、鈍に自分の剣が切られたことに驚く。当然七海はそれによって発生した隙を見逃さない。呪力は込めないがこの世界で上がった膂力の蹴りが鳩尾に命中する。胸にアーマをつけていたにもかかわらず、その一撃でアーマにはベコっと足型がつく。勢いを殺すことなどできるはずもなく転がっていくが、途中でどうにか体制を立て直す。
「まだ、やりますか?」
「………ふっ、ふはは、ふははははははは‼︎」
瞬間、狂ったようにガハルドは笑いだす。
「正直、おまえがたった1人でベヒモスを初めて倒したのを聞いた時は与太話と思っていたが、なるほどなるほど‼︎想像以上にバケモンだ‼︎」
「私程度でバケモノなどよく言いますね。あなたの枠で語るのはやめた方が良い。それと、初めてベヒモスを倒したのは私ではありません。きちんと話は来てるんですか?」
「あぁ?錬成師の無能が倒したって話か?それこそ与太話だろ?あれ聞いて喜ぶのはガキかお伽噺好きくらいだ」
「どういうふうに伝えているかは知りませんが、事実ですよ。それで、どうしますか?」
「いや、もういいさ。それより、いくつか聞くぞ」
七海は『聞きたくないが聞かないと追ってきそうだ』と思い、聞くことにした。
「まず、お前何者だ?」
「私の名前は行き渡っているのでしょう?」
「そうじゃない。聞いてるぜ、おまえ魔力が0なんだってな。その大鉈、見ればわかる、鈍だ。この剣は名剣ではないが、それなりの物だ。それをなぜ斬れた?何を隠している?何者だ?」
「いっぺんに質問しないでいただきたいですね。…私は私、七海建人、前の世界ではしがない教師をしていました。それを斬ったのは私の技術とステータスあってのものですよ」
「ふーん。まぁ、いまはそういうことにしてやるよ。次の質問…というより要求だな。お前、俺に仕える気はないか?」
「はぁ?」
先程まで『皇帝である自分を馬鹿にしてた相手によく言えるセリフだな』と思いつつ、話の続きを聞く。
「強いやつを見て心躍ることはないか?それがいまだ。その力が欲しい」
「お断りします。あなたに付く理由がないので」
「フン。では次にそこの女、名は?」
視線を再び雫に向けて問う。
「八重樫、雫です」
「確か、ファミリーネームが最初だから…雫か。雫、気に入った。俺の愛人にならんか?」
「「はぁ?」」
そんなことを言いだすと思わず七海は今日2回目のあきれ声を出し、雫もふざけているのかと考えるがガハルドはどうやら本気のようだ。
「失礼ですが、あなたは皇帝で年齢はおそらく40代以上でしょう?もう少し自重しては?」
「貴様には聞いてない。俺は雫に聞いている」
「彼女の今の責任者の権限は教師である私にありますので」
七海の中でガハルドの株が急降下していく。底だ底だと思ったらまだあるとは思ってもいなかった。
「先生、いいです。私から言うので。皇帝、ハッキリと言わせていただきます。その提案お断りしますからお引き取りください」
それなりに告白された経験があった雫も、皇帝とはいえこんな男に、こんな最低な告白をされたことなどなかったろうが、それでも丁重に断った。…ちなみに彼女に告白してきたのは女性だけだったので、これが初の男性からのプロポーズだ。不憫極まりない。
「ふむ、まぁいい。どのみち神による帰還ができないなら、チャンスはいくらでもあるからな。焦りはせん、2人とも気が変わったらいつでも来るといい」
そう言って、ガハルドは手をひらひらさせながら去った。
「八重樫さん、大丈夫ですか?」
ガハルドがいなくなったのを確認した後、彼女の精神を心配して声をかけるが、雫は「大丈夫です」と答えた。だが、
「でも、私、男運ないんですかね…」
初の男からのプロポーズがあんなのだったので、雫は結構落ち込んでいた。
「君は若い、今からそのようにしてたら、本当に運は逃げていく」
「けど、香織と違って、女性としての魅力、低いですし」
(全然大丈夫じゃないですね、これは)
先の大丈夫という言葉がどんどん霞み、暗い方に行く前に七海はフォローする。
「白崎さんと君はまったく違う。それぞれの魅力があります。白崎さんの強さも魅力、君の弱さもまた魅力です」
「………弱さですか?」
雫は思えば七海は最初から自分の隠していた弱さに気付いていたなと思う。だがそれが魅力と言われるのは少し複雑だった。
「弱さを持つことは悪いことばかりではありません。大事なのは、それに気づけないこと…君は気づけている。きっと見つかりますよ。その弱さを見ることができる人がね」
七海はそれを否定しない。だから雫は尊敬できた。
「はぁ〜。先生がもう少し若ければ惚れてましたよ」
「はいはい」
ほんのちょっとだけ本心で言った言葉を軽く受け流された。こんな冗談を言えるほど七海を慕っているのは確かであるが。
その日、ガハルドが帰る際に再び雫を愛人にと誘い、それを断る姿を見つつ皇帝に鼻で笑われた光輝が、先日のこともあり口には出さないが絶対馬が合わないと不機嫌になって、雫の溜息がまた増えることとなった。
ちなみに
言うまでもないですが、雫はヒロインではありません。愛子だけです(一応)
この話の次にありふれさんぽを続けて出そうとしましたが、意外と長くなりそうなので次回にします
そしてその次、ようやくヒロイン(一応)の愛子と絡めた話ができるが骨組みすらできてません