ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ようやく愛子と絡めることができる!と思ったがこの話だけで結構長くなった

合流、つまり邂逅は次回に持ち越しです。


急変邂逅

朝靄が掛かる中、2人の教師が話していた。

 

「では、何かあれば手紙で連絡しますね。定期的にも送りますけど」

 

「えぇ。…あなた方も、自身の命を最優先にして下さい」

 

七海の注意に、園部優花含めた6人が頷く。拳をグッと握るなどして決意を表す。

 

「…あの、皆さん。やっぱり考え直しませんか?先生の護衛なら騎士の皆さんがきちんと…」

 

「その騎士の方々よりも、彼らの方が強い。だからこそ、私は畑山先生の護衛をしたいという彼らの意見を承諾しました。(と言っても3級から準2級ですが)」

 

ある程度は訓練をしているので実力はあるがそこまでではない。故に、七海も反対の方が大きいが。

 

「そうですよ。それに、何かしたいんです…生きているなら、なにか」

 

「…園部さん」

 

優花以外もそうなのか皆、思い思いの表情をする。こうして、全員が胸の内にあるものを理解したから、七海も愛子も彼らの決断に寄り添った。

 

「それに、愛ちゃん先生。むしろ1番危険なのは、あの騎士連中です!」

 

ビシィと指を騎士達に向けて優花は言う。騎士全員が揃って顔が整っているし、微笑むとキラリと歯が光る…要はイケメンだ。

 

教会は愛子とも約束を取り付けられている。七海はいずれ戦場に送り込んで死ねばいいが、愛子はそうもいかない。戦争が終わっても彼女の力は利用できる。その力が教会の物になれば、その威光はさらに上がる。だからどうにか取り込もうとして彼らを護衛に付けたのだろう。ただ、1つ教会側も計算外の事態があった。生徒達がついて行くことではない。

 

「そうだよ、どう考えてもハニートラップなのは明白ですし!揃ってイケメンだし‼︎」

 

「まぁ、ミイラ取りがミイラになっちゃった感はあるけど、それでも愛ちゃん先生は私達の愛ちゃん先生だから、用心に越したことはないし」

 

そう、確かに彼らは愛子を繋ぎ止めるために送られて来た護衛件ハニートラップ集団だが、いつのまにか逆に愛子の誠実さと純真さ、あと愛くるしさに絆されて『愛子は俺が守る‼︎』的な感じで神格化+愛が彼らの中にできていた。愛子本人はその好意にまったく気づいてない。まぁ、気づいてたら香織のハジメへの好意にも最初から気づいていただろうが。

 

ちなみに七海は彼らがハニートラップ要員である事は知っていたが、あまり気にしてなかった。心配していたのは彼女の生命で、彼女が絆されるなどこれっぽっちも思ってない。

 

「君達は心配しすぎです。畑山先生は、色恋で自分のやるべきことを放棄する人ではありません」

 

「うぅ、嬉しいんですけどプレッシャーが」

 

愛子は彼らの好意には気づかないが七海から信頼されているのはわかる。だが、

 

「私、また流されてしまいました…ダメな先生です…」

 

愛子は何度も生徒達を説得した。それはここにいる園部達だけでない。もう一度迷宮に行くと宣言した香織にもだ。

 

(七海先生に信頼されてますけど、私は生徒1人説得できない…ほんとダメな先生です…グス)

 

それぞれ胸の内にある思いをドカドカとぶつけてきて、それが変わらないのがわかり、何を言っても無駄と明白になった。それを思い出してガクリと落ち込んでいると、上から声をかけられる。

 

「畑山先生、気を落とさないで下さい。あなたが皆を心配しているのは彼らも理解しています。むしろ、ダメなのは私の方ですよ。彼らを説得する立場にありながら、その意志を尊重すると言いつつ危険な場所へ送る。…最低の教師です」

 

「そ、そんなこ」

「「「「「「そんなこと無い‼︎」」」」」」

 

愛子の言いたい言葉をここにいる生徒達が代弁する。

 

「先生が何度も言ってたことは全部事実だった。俺達が選んだ、いや、選ばなかったんだ」

 

「選んでるようにしてただけで、結局は先生や他の人の言葉で動いてた」

 

身を守るために、その力を身につけるために、怖いけど(・・・・)しかたないから(・・・・・・・)。そんな感情をもっていた。

 

「だから、悩みました」

 

「悩んで、考えて、迷って、それでもって」

 

今の彼らと迷宮攻略を目指す生徒達は、思いは違えど流されてできた覚悟はどちらにもない。

 

「七海先生、これからも私達の先生でいて下さい」

 

「俺達は、南雲に命を救われたけど、七海先生にも救われた。それは間違いないですから」

 

決意を、その身に込めて。

 

「………」

 

七海はただ、彼らの思いを受け止める。否定はしないし、できない。彼らは呪術師ではないが、それを否定するのは、呪術師としてそれぞれの思いを持って命を掛けてきた者達を否定し、侮辱する行為になるからだ。

 

「あと、できれば愛ちゃん先生は七海先生と一緒にいてほしいし」

 

「ちょ⁉︎」

 

「うんうん。あんな奴らに愛ちゃん先生は渡したくないけど、七海先生なら許せますギリ」

 

「なぁ⁉︎」

 

顔を真っ赤にして愛子は慌てる。一方七海は、

 

「私とて畑山先生と共にいたいですが…」

 

「えぇ⁉︎」

 

「彼女の護衛には君達もつくのでしょう?なら、その必要はおそらくありません。ただ、もう1度、クドイようですが自分の命を優先してください」

 

((((((そういう意味じゃないんだけどなぁ))))))

 

(これ、私どう反応すればいいんでしょう……)

 

別の意味で落ち込む愛子を同情するような目で見る生徒達だった。

 

その後、七海が見送った後、もう1人生徒を加えて馬車は遠征へと出発をした。

 

 

 

それからまた日が過ぎた。皇帝が帰った後、もうしばらく王国で羽休め……と言えるかどうかわからない。七海の模擬戦時間が倍になったのに、動きに変化が見れない。要するに本気で戦ってないのがわかり気を入れて訓練をしていたからだ。

 

そして再び迷宮へ来た。攻略は70階層を越えていたがここに騎士団の者はいない。理由は2つ、1つ目、これが1番の理由だが70階層で実力的に無理だとリタイアしたから。もう1つは転移陣と呼ばれるものが見つかりそこの警護をしているから。この転移陣で70階層から30階層をいちいち階段を使わずとも一気に移動できるのもあり、迷宮攻略に役立つものとして、いざという時に逃げられるようにするため警護をしているのだ。

 

…余談だが、この転移陣を見つけた時、七海の表情がまったく気は抜いていないが、ほんの少し僅かに安堵が見られたという。

 

そして今、79階層。騎士団の皆がいなくともスムーズに行動できていた。

 

「そこ、罠がある」

 

「お、まじか?」

 

〔+視認(上)〕があれば罠の魔力にフェアスコープが無くとも判断することができる。魔物以上に警戒するべき物と言ってもいいが、どうにかなっていた。

 

「魔物だ!今度は俺達が戦います!」

 

「危なくなったら下がるように」

 

新手の魔物は七海が最初に戦って情報収集し、その後から出てきた魔物は各生徒が相手をする。

 

「守護の光、意志を元に折り重なり蘇り弾け!…今だよ!」

 

鈴の合図で残りの後衛と光輝が強力な魔法を一斉発動する。それぞれバラけていたが、

 

「〝天絶《弾》〟!」

 

シールドを展開させる光属性の上位魔法〝天絶〟。元来は手のひらサイズに圧縮されているものを 複数展開させることで相手の攻撃から守るもの。それを味方の攻撃をピンボールのように弾くことで擬似的且つ、弾き返す回数の制限はあるが、攻撃を曲げることができる。1回につき最大2度曲げる。避けたと思った相手からしたらエグいとしかいえないものだ。

 

ちなみに〝聖絶〟でないのは、〝聖絶〟はあくまでも攻撃を守る結界のため、弾いて相手に返すのには向いてないからだ。〝天絶〟は手のひらで出すならラケットの如く打ち返せるのでは?そこからの発想でできた。当然そんな発想も、これほどまで様々な新しい防御魔法の使い方もこの世界では誰も試してない。

 

「う〜ん。まったく別のところで展開するから、足し引き難しいなぁ…完全には弾けないし、魔力消費も多いし、やっぱり2回曲げるだけで精一杯だなぁ」

 

(この世界の結界は元来私の知っている物とは違いますが……それでも相当なことをしてるんですけどね)

 

鈴は自己評価を言葉に出して言うが、七海の評価は高かった。現状、防御だけなら鈴は七海の中で準1級と見なしている。足し引きのことを教えて自らそれを進化させていく…『天才』そのひと言だ。

 

(言ったら調子に乗って、結界の維持が不安定になるかもしれませんから言いませんけど)

 

クラスメイトからはよく誉められるが、七海は「なかなかです。その調子で」と簡単に言うだけなので鈴はさらに気合を入れる。実際いくつか作ったものの、鈴の中ではまだまだ未完成なのだ。

 

道中で出る魔物を問題なく倒して進むが、ひとつ疑問が出てきた。

 

(84階層……ゴールも近づいてるというのに準1級以上が現れない。ベヒモスは準1級でも弱……それと同等くらいしか今のところ出ていない)

 

たまに準1級が出てきても弱い。出てくるのは大抵が2級ほどだ。強いのが現れないのは良いが、こうまでくると100階層…つまり1番下に1級がいるのかと思う。そしてもう1つ、気になる点がある。まぁそれは香織の方が大きいが。

 

(南雲君の痕跡がまるでないのが不安なのでしょうね…魔物が悪食でも流石に錬成した物や彼の持った武器などを食うとは思えないですし、あってもおかしくはないですが、ここまできても手がかりなしだと…)

 

不安が大きくなる。だからもっと先へと思うが疲労はやはりある。何せ各階層は念入りに調べてマッピングしているのだ。89階層に着いてその日は終わりを迎えた。

 

 

帰りの道は魔物を倒しているのでスムーズになり、しかも転移のおかげで30階層までいける。その日はギリギリの定時に終わった。かなり久々の定時終わりだったので七海は安堵した。

 

(それだけ彼らもレベルが上がっているのでしょうが)

 

七海は最近見てなかった自分のステータスプレートを見る。魔力感知に〔+視認(極)〕が加わって以降変化はない。もちろんレベルもだ。

 

(こうも変化なしだと、さすがに虚しくなりますね)

 

もう自分には成長は期待できないのだろうかと思っていると、先日伝令をしてきた兵士がくる。

 

「七海建人殿に、手紙が届いております!」

 

「ありがとうございます」

 

受け取った手紙に書かれた字は日本語、つまり差出人は愛子だ。定期的にも手紙は出すと言っていたのでそれだと思い、それを見る。

 

「…………!……そうですか…」

 

「建人?」

 

「愛ちゃん先生どうかしたんですか?」

 

「いえ、とくには」

 

メルドと雫が微妙な違和感を感じるが、表情はいつも通りのまま、七海は手紙を綺麗に折り畳み、仕舞い込む。

 

「では今日は終わりです。明日は1日休みとしますが、くれぐれも勝手な行動は慎むよう。メルドさん、次の予定を立てましょうか」

 

「……あぁ」

 

いつもと変わらない対応のため、皆気にすることなく各自用意された部屋へと戻っていく。だが、メルドは何かあるなと一瞬だけ見た七海の表情から推察していた。

 

 

翌日

王都へ戻る。そう言われて今度は何事だと思うが理由もなく、ただ帰ると言われて不満がある者もいた。早馬ですぐさま帰り、王都に着いたが寝泊まりしている場所には行かず、ついて来るようにと言われてついた場所は訓練場。

 

他の者も時折訓練しているようだが今日は夕暮れ時というのもあり誰もいない。そして七海はいつもの訓練のように広い円を描く。

 

「もしかして、いつもの訓練のために戻って来たんですか⁉︎」

 

「ええ、そうです」

 

光輝の不満は声にこそないが香織もあった。『なんだって今なんだ』と。

 

「ただし、今日は少し違います。いつも私は3〜4割ほどの力で戦っていましたが、今日は7〜8割の力で戦いましょう」

 

背を向けていた七海がこちらを見た瞬間、ゾッとした雰囲気を感じる。今まで向けられる事のなかった敵意…魔物に向けていたであろうその敵意は自分達に向いていると理解した。

 

「いつもの合図と共に開始です。言わなくても理解してるでしょうが、本気できなさい」

 

 

先日の夜、メルドは七海から愛子の手紙の内容を聞いていた。

 

『清水がいなくなった⁉︎』

 

『彼がついて行っているのは前の手紙で受け取っていたので知っていましたが……』

 

清水にはきちんとした注意を行っていない。それが原因かと七海は考えた。だが、それ以上に考える事がある。

 

『この手紙を出して来たタイムラグを考えると、最低でも失踪から1週間近くは経っている……彼の実力を考えると、逃げに徹してもすぐには死なないと思いますが…』

 

それでも1人になるのはこの世界では危険以外の何でもない。部屋に荒らされた形跡もなく、度々護衛隊から離れて行動していたのもあり、自発的にいなくなった可能性が高いとのことだ。

 

(南雲君の一件以来、彼もほとんど部屋に入っていた。たまに訓練していたようですが……それでも微々たるものでしょう)

 

そもそも何の目的でついて行ったのかもわからない。優花達のように覚悟があるとも思えなかった。

 

『捜索隊は編成されていますが、もう少し掛かるようですね』

 

メルドに頼み、早馬で王都を往復させてどうにか今日中に手に入れた情報だ。まず間違いない。

 

『……建人、行ってやれ』

 

『それはできません」』

 

メルドの言葉を即座に否定した。

 

『今私がここを離れてしまえば、彼らを守る人がいなくなる。迷宮攻略にも負担がかかります』

 

『だが、近隣の街に村、周囲の場所を探しても見つかっていないのだろう?お前が行けば、もしかしたら魔力の残穢を見つけて捜索することもできるやもしれん』

 

『それは、ここを早く離れてほしいということですか?』

 

『違う、そういう意味じゃ…』

 

『いえ、すいません。言い過ぎました』

 

七海はメルドを信用してないわけではない。だが万が一、ここを離れて教会からの圧力がきた時、メルドはそれを断ることができない立場だ。鬼の目がないうちにと、信用できない教会がどんな無理難題を言うかなどわかったもんじゃない。

 

『現在、魔人族は表立って動いてはいない。本格的になるのはもっと先だ。それに、あいつらが戦うのは少なくともオルクス大迷宮を攻略してから。お前がいない状態でも大丈夫だろうが、攻略ペースは落ちる』

 

メルドの言う事も正しい。だからと言って絶対ではない。

 

『お前も少しくらいは信用してやれ。俺達だけじゃなく、あいつらを』

 

生き残れる可能性で言うなら、確かに清水以上にある。仮に1級以上の魔物、もしくは魔人族が出たとしても今の彼らならすぐにはやられないだろう。

 

『……メルドさん、明日王都へ戻る準備をしてください』

 

『……全員か?』

 

『えぇ。…確かに彼らは強い。それは確かですが、やはりここを離れると決断するにはあとひとつ、必要ですから』

 

『いずれ、どんな形であっても、お前はあいつらから離れるだろう?そのためにあいつらを強くしてきた…違うか?』

 

『だから、これは私がそうできると納得するためのテストです』

 

 

今まで七海は訓練の時に呪力による身体強化をしてはいたが、最低限のものだった。魔法攻撃を大鉈で捌く時と攻める時の脚力のみ、あとは上がった膂力と肉体の強度、今の彼にある技能を駆使していただけだ。

 

「〝聖絶〟!」

 

鈴の練り上げ、結界の足し引きを考えた〝聖絶〟を拳の一撃で粉砕する。元来、1度は絶対に防ぐそれを一撃で破壊したのはまだまだ鈴の結界の維持力が足りないのもあるが、今七海は呪力による身体強化と結界など防御魔法のみに対してだけだが術式を使用しているからだ。

 

(いや、いやいや⁉︎ありえないって⁉︎)

 

そんな事など知らない鈴にとっては恐怖でしかない。七海の言ったことは正しく、だから今まで足し引きを意識してきた。なのにそれをこうもまるで柔いガラスを割るように砕かれると落ちこむ以前の問題だ。

 

「鈴下がって‼︎」

 

恵里は焦りはあるが、どうにか落ち着いて風魔法の上位の魔法を放つ。炎と水耐性がある七海には今まで牽制でやってきたが、今彼女はそれをしようなどと思わない。そんな事すれば効かない上に速攻で潰される。今放った上位魔法を牽制にしているのが良い証拠だ。

 

「あ、ありがとうエリリン」

 

「ベヒモス戦のアレ、もっかい頼む」

 

「私達にもお願い。…鈴、魔力は大丈夫?」

 

龍太郎と雫、声に出さないが光輝も鈴に目線で頼む。

 

「た、多分。でも前衛組全員にやるのはあと一回が限度だと思う」

 

どうにか前衛組は生き残れている。だがどうにかだ。防具や剣で防ぎ、直接攻撃が身体に命中したわけではない。だが重い。一撃一撃が、ただただ重いのだ。

 

「7〜8割って行ってるけど、多分…」

 

「あぁ、さすがに俺でもわかる」

 

雫の考えは龍太郎でもわかるほど、わかりやすかった。これまで何度も七海と模擬戦をして来たのと、迷宮での戦闘を見ていたのもあるだろう。

 

「6割ってところかしら?」

 

七海は万が一傷つけても大ダメージにならないような攻撃しかしていない。

 

脱落したのは11人中4人。最初に狙ったのは回復担当の香織と辻だ。当然皆は守るつもりだったが、七海が初手で身体強化で突貫し、密集していた守りを脱落させた事で、守れなかった。拳で地面ごと吹っ飛ばし、回避に専念してきた辻をまったく避ける暇も与えず放り投げて、香織は拘束魔法を使うも全身が強化された七海にとってまるでそれは紙テープのようなものだった。ギリギリ鈴と香織自身も防御魔法をしたがそれが悪手だった。防御するなら防御ごと吹っ飛ばすと言わんばりに強烈な一撃で吹っ飛んで傷こそないが場外アウト。

 

これにより、早い段階で彼らからは回復担当がいなくなった。後衛組の中には当然回復魔法が使える者がいるが、適性のない場合は時間がかかる。当然、そんな事してる間にやられる。ならヒット&アウェイに徹しながら攻めると決めて遠藤に光輝が指示しようとしたが、

 

「ごめん、もうやられてる」

 

影の薄さゆえすぐにはわからなかった。七海は辻を吹っ飛ばすついでに巻き込む形で遠藤も場外アウトにした。この間1分も経っていない。陣形に意味を無くしたのをいち早く判断したのは雫だった。残った8人をそれぞれ分けて攻撃しては下がるでどうにか持ちこたえていたがすぐにもう1人、野村が土魔法を放ったのを最後に場外に飛ばされた。

 

「残り、7分……そんなものですか」

 

先程雫が言った6割というのは七海の戦い方だ。確かに出力的には7〜8割だが、倒す方法が傷つけないようにしている。その部分を入れての6割。

 

「けど、それでも今までの七海先生とは、比べものにならないわ」

 

「しかもこれでも本気じゃないってウソだろって言いたくなるぜ」

 

「…本当は本気なんじゃないか?」

 

光輝は自分達の実力が高いから油断させるためのセリフだった、そう思うが雫は違うと首を振る。

 

「もし本気ならとっくにやられてるわ。見たでしょ?鈴の〝聖絶〟を拳の一撃で破壊したのよ」

 

〔+視認〕は魔力を見るから魔力のない七海には意味がない。逆を言えば、魔力なしで自分達と戦っているのだと彼らは考え、慎重さは今まで以上に上がっている。

 

これまでも、当然それはあった。だが今はその比ではない。たった一撃で最強の防御を破壊し、一瞬で全員が密集したところへ近づき、1人残らず吹っ飛ばす膂力。

 

「そこまでのことが出来るんだから、わざわざ嘘をつく意味もない。それに」

「そうやってあなた方が作戦会議をしていても、攻撃をしていませんし、時間も止めてませんしね」

 

雫の言葉を遮り七海が言う。それに雫は『やっぱりか』と思うが、それもここまでだ。

 

「とはいえ、時間ももう少ないのでそろそろ行かせてもらいますよ」

 

「⁉︎鈴‼︎」

 

「〝聖絶:纏〟‼︎」

 

ベヒモス戦で使った〝聖絶:纏〟で鎧を纏う。これにより、鈴はほぼ戦闘不能となる。残りの前衛は七海が攻めてきた瞬間に散開した。が、当然逃げ切りなどできない。雫に攻撃し、どうにか防ぐがかなり手が痺れる。

 

「んぐ」

 

〝聖絶:纏〟は身体に纏う。武器には纏えない。身体強化で補えきれない身体の防御と、攻撃への対処の為の鎧。鎧と違い重さによる動きの変化はないが、持続性はない。攻撃1回分しか防げず、先の七海の〝聖絶〟を破ったのを見れば焼け石に水に近い。だからその1回を無駄にせず、油断せず、雫は武器でいなす。

 

「意識が武器にいきすぎです」

 

片手に大鉈、もう片手で打撃。それをわかっていたがついその攻撃をいなすのに集中してしまい、拳を受けた。〝聖絶:纏〟で怪我はないが、衝撃で大きく後退する。七海が追撃に動こうとした瞬間、上空から魔法がくる。恵里の上位魔法だ。

 

(上位魔法の連続使用。随分と技量と魔力使用の効率化ができてますが、そろそろ限界でしょうか)

 

恵里はこれで決まるとは思わない。並大抵の魔物を魔法で屠ってきたが、目の前の相手がそれと同等の存在ではない事などわかる。こんな上位魔法を人に向けて放てば怪我で済まない。だから手加減を……と考えて何度もやられた。…おまけに無傷で。だから手加減はしない。全力だ。

 

(かなり容赦がない。私が相手だからでしょうが…)

 

評価のわかれる使い方だが七海は余裕で対処している。爆煙から体勢を立て直した雫が剣を振るうがそれを当然の如く防ぐ。

 

「煙にまぎれて攻撃など、ありきたりですよっ!」

 

そのまま勢いよく大鉈を振るい飛ばす。雫とてこんなわかりやすい攻撃が届くなど思わない。

 

「「ウオォォォ‼︎」」

 

「!」

 

龍太郎と永山が左右からタックルを仕掛けた。〝聖絶:纏〟という盾での突貫。七海はそれを両腕で防ぐ。

 

「名付けて、サンドウィッチプレス!」

 

あまりにもダサいネーミングだが字の通りの状況だ。〝聖絶〟の1回の絶対防御は攻撃に反応する。今七海のとった行動は防御。これによって維持ができている。

 

「いまだ‼︎」

 

「…なるほど」

 

瞬間、光輝と恵里が上位魔法を発動する。今まで光輝が雫がやられても動かなかったのはこの為だ。この一撃に集中する為に。

 

轟音の後土煙が舞う。

 

「「っと」」

 

その中から永山と龍太郎が出てくる。当然だが〝聖絶:纏〟はもう消えている。

 

「これなら…」

 

「だからそのセリフ…」

「今のは、少々驚きましたよ」

 

鈴の光輝へツッコミを代弁するかのごとく、七海が土煙の中から出てくる。多少汚れているがそこまでダメージが入っていないのは見てわかる。

 

「ぜぁぁ!」

 

「無理攻めです」

 

そこに隙を感じた永山が攻めたがそれはブラフ。手加減してはいるが七海はその攻撃をかわして懐に入り拳を打ち込む。

 

「がぁ!」

 

気絶して倒れるさい、抱えてその衝撃を無くしてそっと地面に下げる。その次に龍太郎が攻めてくる。

 

永山から離れる為、防御でなく回避を選ぶ。ブンブンと振られる拳、蹴りなどを避ける。

 

「まさか、天之河君が魔法で守られているとはいえ、君ごと攻撃するとは思いませんでした」

 

「光輝には、俺を、信じろって、言ってたからなぁと!」

 

会話しながら攻防は続く。少しずつ七海は後退し円の近くまでくるが当然わざとだ。このまま攻めて来た瞬間にカウンターで放り投げる用意はあった。

 

「⁉︎」

 

しかし、そこにあるはずのない壁に阻まれた。七海は壁に背をつけてしまう。

 

(これは〝聖絶〟… 壁として作るだけとはいえ、まだ発動させるだけの魔力があったのか?いや、吉野さんですか)

 

吉野真央は最初の七海が仕掛けた突貫の時に突然すぎて魔力による身体強化が思うようにいかず、回避が完全にできず、初めて見せた七海の殺意に近い敵意を肌と視線で感じて怖気付いてしまった。それを確認したから七海は彼女が戦意喪失してリタイアしたなと考えていたが、皆が必死で戦うのを見て、もう1度動く。

 

『吉野さん、はっきり言いますが現状あなたは辻さんの次に弱い。ですが、あなたは他の人にない他者を手助けする能力を持っている。あなたの思いを魔力に、魔法に込めなさい。縁の下の力持ちのあなたがいるから、戦いが楽になる』

 

自分の実力の低さに落ち込んでいた彼女は七海に励ましをもらった事を思い出した。自分は勝てなくてもいい。思いを魔法で託して繋げる。自分の役割を理解して。そして彼女は前衛が戦っているなか、もう自分は戦力的にリタイアしたと思われていると理解した。時間をかけて鈴の結界の強化と自分の魔力を譲渡した。

 

(よい判断でしたよ、吉野さん)

 

回避に専念していた七海は壁に阻まれ後退できない。そして防御をする隙もない。後退しようと動いていた身体を立て直しさせないように、龍太郎の鉄拳が七海の鳩尾に入った。

 

(…あれ?)

 

確かに入った。それは理解した。だが、

 

「素晴らしかったです。この戦闘の合間に君もおそらく魔力感知を取得してますね」

 

七海の言う通り、極限状態の中で彼は魔力感知を手にした。だが、そんな喜びを遠くに飛ばしてしまうような圧倒的な存在を彼は見た。肉体は吉野の補助魔法と自身の魔法で強化してある。それなのに、

 

(なんだ、俺が殴ったのは……人の、身体なのか?)

 

呪力による身体強化もあるがそれは七海のもともとある肉体の強度。1級呪術師は通常兵器で対比した際、戦車より強い。その強度もそれ並だ。気絶する瞬間に彼が感じたのは悔しさより、その驚きが多かった。

 

「龍太郎‼︎」

 

トンと首元を叩かれてズシンと龍太郎は倒れた。

 

「さて、これで残ったのは実質君だけですね、天之河君」

 

残った雫は振るい飛ばした際に尻餅をついた。恵里、鈴、吉野は魔力の使用し過ぎで戦力的に戦闘続行不可能。

 

(まさか、先生は最初からこの状況にする為に)

 

雫の考え通りだ。七海は初めから、光輝と1対1になるように動いていた。

 

「あと3分と少し。…限界突破も使いなさい。それで勝てる(・・・・・・)ならですが」

 

「………!〝限界突破〟‼︎」

 

『言われなくても』そんな言葉を言うかのように光輝はそれを口にした。

 

「ゼイ‼︎ハァァ‼︎」

 

振るわれる剣戟はこれまでのものとは違う。上昇した能力は確実に七海に届く。

 

「刃の如きい…ぐっ」

 

七海は光輝が詠唱をするタイミングで速度を上げて攻撃をした。

 

「詠唱中に攻めないなど誰が考えますか?詠唱と攻撃は両立することですね‼︎」

 

蹴りが命中したがあまりダメージがない。鈴の魔法によるものだ。

 

「維持してましたか」

 

(あの様子だと、わかってたんだろうなぁ〜)

 

どうにか残った魔力で〝聖絶:纏〟を維持していたが、やはりわざと見逃されていたと鈴は理解していた。

 

「鎧があるからどうとでもなるなんてただの油断です。どれだけ味方の力で連携しても、最終的に頼れるのは己の能力です」

 

「そんな、こと、アァァァ‼︎」

 

「声を荒げて勝てるなら、誰でも勝てます」

 

光輝の攻撃をいなし、肩に拳を当てる。アーティファクトなのと光輝の身体強化であまりダメージは入らないが怯むだけの威力はある。当然今ので決めることもできた。わざと肩に攻撃した。そして追撃もしない。

 

「いい加減、舐めてかかるのは‼︎」

 

やめろと、光輝は剣戟で伝える。

 

「またですよ。…攻撃の際は声をだすのは極力控えてください。体力の無駄ですし、魔力が多少ですが多く使用してしまう」

 

七海はガッと足をかけて転倒させようとしたが、どうにか光輝は聖剣を地面に刺してそれを免れる。

 

「‥‥…」

 

「ふむ、後1分と少しですね……天之河君、さっきから私が本気で相手をしてないことに腹を立ててますね」

 

「‼︎」

 

それは光輝には煽るように聞こえた。『その程度で私が本気になる必要はないです』と。

 

「それが君が私を倒すことができてない理由です。ステータスで言えば、君は今私のステータスに近くなっている」

 

光輝の平均ステータスは850程。〝限界突破〟で3倍になり、単純計算で2550をいっていることになる。それで手加減をしている七海を倒せていないのは単純に光輝が未熟だからだ。

 

「そんなに本気を出して欲しいですか?」

 

「?」

 

時計を見ながら余裕あるその態度はなんだと言いたかったが、何か様子がおかしいと感じた。

 

「3、2、1、残り1分。…そして、ここからは時間外労働です」

 

呪力は見える筈もない。だが理解した。先程の七海とは違うと。

 

「1分だけ本気になりましょう。とはいえ、怪我をさせない為、9割程の力ですが」

 

手が震える。恐怖を…

(違う‼︎俺は勇者だ‼︎恐怖なんてない‼︎)

 

無理矢理そう自分に言い聞かせて聖剣を構え直す。どんな攻撃も耐える、そう言い聞かせる。

 

「では、こちらの拳で攻撃しますので、避けるか防御してください」

 

七海があえて教えてきた(・・・・・・・・)事に腹が立つ。来るなら来いと視線が七海に向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そこに七海の姿はなく、眼前にいた。文字通り眼と鼻の先に。

 

「⁉︎」

 

咄嗟に聖剣でその拳を防ぐ。だが、

 

「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

想像の倍以上の重みのある一撃。描かれた線を越えて、地面をズザザと後退し、足が体制を保てず、ゴロンと1回転したところで止まった。

 

「9分31秒ですね」

 

時間外労働による呪力の増加、攻撃する方法の開示による縛りで攻撃力の上昇、攻撃の瞬間呪力を拳へ集中。未熟な光輝で受け止めきるなど不可能だった。

 

その日、光輝は敗北した。いつものようにではない。万全の状態で完敗した。しかもいまだ本気でない相手に。

 

「うっうぅ」

 

「……白崎さん、辻さん、皆に治癒を。そのあと話があります」




ちなみに
『七海がいることで原作以上に苦労or酷い目に遭う人リストfile2 天之河光輝』
彼にはこれから強くなる為に原作より肉体的にも精神的にも酷い目にあいます。
そのひとつ目が原作ではオルクス大迷宮で魔人族に敗北しましたがその最初の敗北を七海が受け持ちました。しかも万全の状態で圧倒的な負け。〔+覇潰〕使っても勝てないと本人は感じています。これが原因であることになり、これからも色々と彼は挫折と苦悩を味わいます。
自分は彼を劣化虎杖として見てるので最低でも彼並みには苦悩を味わって頂きます。
どうか皆さんは呪術廻戦4巻の真人と宿儺のように、笑って彼を応援してください

光輝「応援ありがとう!」←どういう笑い方か知らない

ちなみに2
正直今回の話でも書いてるように七海を行かせることはいいのかと自分でも思いましたが、ここで行かせないと一応ヒロインの愛子が本当にヒロインでなくなるのと話の流れ的にそうするしかないので行かせます

次は日を置いて7月3日に出します
理由は言うまでもない
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