ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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七海「記念か何かの日に出すのは続くんですか?」 

分かりません

七海「………」

呆れた眼で見ないで!


察言観色

外見は全く違う。本人が言っても誰も信じないだろう。それでも七海は、彼が南雲ハジメなのだと理解した。

 

「え?……七海先生、わかるんですか?彼が、南雲君だって…」

 

「!確かに、いや、本当に、南雲君なんですか?」

 

七海は先程自分から口に出したのにそう尋ねてしまう。

 

「い、いや違う。違いますよぉ」

 

「あまりにもわかりやすいですね、そのウソ。……しかし、本当に南雲君なんですね」

 

「……まぁ、な。色々あって死にかけたけど、どうにか生きてるよ。つか、なんでわかるんだよ?」

 

もう意味がないと思ったのか、ハジメは頭をかいて受け答えをした。

 

「そんなことを言われても、そうだと確信できたというしか」

 

七海もそこに疑問を感じ、なぜわかったか頭の中で瞬時に考えを巡らせる。

 

(こんなことは今までの私にはなかった。なかったということは、どこかで、何かのきっかけでわかるようになった)

 

そうして導き出されたものは。

 

「(可能性としてはこの世界に来た時、そしてステータス、…ステータスプレート…!)確証はないですが、私に備わった技能、魂知覚なんじゃないかと思います」

 

「あーあったなそんな技能」

 

その時は圧倒的なものを見たという記憶があるが、技能はうろ覚えのハジメは言う。

 

「………とにかく、君の姿ではなく、魂で判断したのでしょう」

 

「なんか、下手なポエムみたいだな」

 

ハジメの言葉に、七海もそう思っているのか肩をすくめる。同時にこの技能を得られた理由は、自分の死ぬ最大の理由である相手に起因しているからだろう。そう考えると嫌な思いが大きい。

 

(まぁ、あるならあるで使いましょうか)

 

すぐにそう思えるのは、七海がリアリストでもあるからなのだが。

 

「今は旅をしているといったところでしょうか?彼女達は?」

 

と七海がハジメの側にいる2人の女性に目を向けると、「あ!」と思い出したかのように愛子が語る。

 

「そう!そうなんです‼︎彼女達は‼︎」

 

「ユエ」

 

「えと、シアです」

 

「そう!この2人が、南雲君の女だって‼︎」

 

愛子の言葉を代弁するかのように、もしくは『そうでーす』と言わんばかりに2人の女性、ユエとシアはハジメにくっつく。

 

「いやだから、ユエはともかくシアは…」

 

「私のファーストキスを奪っておいてなんですか‼︎」

 

「おいやめろ!だからあれはきゅう…」

 

「これですよ‼︎すぐ帰ってこなかったのは遊び歩いていて、しかもふ、二股ですよ!ですからお説教を…」

 

「落ち着いてください、あなたが怒ってた理由はわかりましたから」

 

小さくため息をして七海は愛子に言う。

 

「でも、でも!」

 

「南雲君の言葉をちゃんと聞いてますか?ユエさんでしたか?そちらは南雲君の発言から本当にお付き合いされているようですが、それを止める権利は我々にはありません」

 

「うぐっ!で、でもでも、二股を!」

 

「それは違うのでしょう?なりゆきで旅をしていて、シアさんと会って、なりゆきで同行して、さっき南雲君はこう言いたかったんじゃないんですか?『あれは救命措置だ』と」

 

七海に「違いますか」と言われ、ハジメはわかる人が来てくれたとホッとしてコクリコクリと頷く。

 

「なんらかの事情で彼女は溺れてしまい、人工呼吸をして、そして元から南雲君に好意があったのもあり、ああしてアピールをしている。だいたいそんなところでしょう?」

 

『大当たり』心の中でハジメはそう思い、七海に拍手をして、感謝している。

 

「畑山先生、あなたの行動力の高さと実直さは評価してますが、行き過ぎて相手の話を聞かないのはいけません」

 

「……はい」

 

「あなたのその対応は、人工呼吸を冷やかす子供とあまり変わりありません。むしろ、学校で習ったことをしっかりと覚えて実践できたことを褒めるべきです」

 

「……はい」

 

「お、おいそこまで言わなくても」

 

護衛の騎士の1人が愛子を庇うが、愛子はそれを止める。

 

「いえ、七海先生の言うことは事実です。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした、南雲君」

 

「お、おおう」

 

謝罪されたらされたでハジメは戸惑う。別にそこまでしてと頼んでもいないからだ。

 

「…さて南雲君、次は君です」

 

「あ?」

 

「彼女は君が死んだと思い、ずっとそれを引きずっていたのも事実です。会ったのが偶然でも、ちゃんと彼女の話を聞くのはマナーです」

 

「…………」

 

『知るかそんなこと』そう言えばいいのだが、ハジメにとって七海には大きな借りがある。

 

「わかったよ。ただ、依頼があってフューレンからノンストップで来て腹が減ってるんだから、飯を食いながらでいいか?」

 

「かまいません。というか、さっさと中に入りましょう。近所迷惑です」

 

ちょっとした人だかりができようとしていた。

 

 

他の客の目があるからと愛子達も使っているVIP席へと案内された。少し用があると言って七海は離れるがすぐに戻って来た。各人の前には料理が置かれており、この世界では珍しい日本人の主食、米を使った料理だった。ハジメはその内の1つ、ニルシッシルというカレーライスのようなものを口にしていた。

 

ちなみに七海は道中に軽く食事をしているので食べはせず、席について愛子がどういう質問をして、どういった答えが返ってきたかを聞こうとしたら、

 

「な、七海先生〜どうにかしてくださいぃ」

 

愛子が駆け寄って来た。ちょっと怒っているようだが迫力0である。そしてその内容はこうだ。

=============================

Q1、橋から落ちた後、どうしたのか?

 

「超頑張った」

 

Q2、なぜ白髪なのか

 

「超頑張った結果」

 

Q3、その目はどうしたのか

 

「超超頑張った結果」

 

Q4、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

 

「戻る理由がない」

=============================

 

こういう内容だった。七海の後ろに控えたパーンズとマッドも『それはないだろう』と言いたげだ。

 

「酷いQ&Aですね」

 

「七海先生もそう思うでしょう⁉︎さぁ、南雲君‼︎真面目に答えなさい‼︎」

 

愛子はぷりぷりという擬音が聞こえてくるような怒りをあらわにするが、もう一度言おう、迫力0である。七海はとりあえず自分が質問をしようとすると、またも愛子の護衛騎士、名をデビッドという男が『我慢ならない』とばかりにテーブルに拳をバンと叩きつけて大声を上げる。

 

「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ‼︎真面目に答えろ‼︎」

 

「……食事中だぞ?行儀よくしろよ」

 

一瞬デビッドを見てすぐに溜息をついたハジメはそう吐き捨てた。その態度から自分が全く相手にされてないと理解する。騎士は騎士でも神殿騎士という重職にして、愛子という重要人物の護衛をする立場となるとプライドも高くなっている。

 

「き、きさまぁ⁉︎」

 

顔を真っ赤にし、怒りはあっさりと頂点に達する。だがハジメにこれ以上言っても効果なしと思ったのか、その視線と怒りがシアに向かう。

 

「行儀だと?薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせ、剰えそのようなふしだらな格好、汚らわしい‼︎お前の方が礼儀がなってないな‼︎」

 

自分に嘲笑と非難が飛んで来るとは思ってなかったのか、シアは身体を震わせる。つけているコートをほぼ無意識のうちに使って胸元を隠した。

 

「デビッドさん!なんてことを‼︎」

 

「愛子も教会から教わっただろう?」

 

七海も調べていた時にその資料は見ていた。亜人族は魔法が使えない。魔法は、神より与えられた力。それを使えない亜人族は神から見捨てられた下等な存在。そういう差別が普通にある世界なのだと七海は認識していたが、これほどとは思わなかった。

 

(……しかし)

 

「せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

デビッドの発言を聞きつつ、七海が周囲の神殿騎士を見ると、同意するかのようにデビッドと同じ、蔑むような目でシアを見ている。神を崇める彼らが亜人族であるシアを蔑むのはある意味当然だろう。と七海は彼らを軽蔑していると、

 

(この、魔力は⁉︎)

 

ユエはシアの手を握り、大丈夫と目で励ます。次に絶対零度の視線をデビッドに向ける。そして〔+視認(極)〕でその圧倒的な魔力の流れの一端を七海は見た。絶対零度の視線で寒気を感じるのではない。実際にユエのグラスは僅かだが凍っている。

 

(おまけに魔力が怒りの中でも安定している。相当な実力ですね……1級、いや、特級クラスかもしれない)

 

特級相当と判断したユエの視線にデビッドは一瞬たじろぐ。それだけで済んでいるのは彼が曲がりなりに騎士だからか、ユエが幼さが見える少女だからか。愛子とあまり変わらない身長にも関わらず、彼女以上に大人の雰囲気をだすのを見て、ユエが見た目より大人の可能性もあると七海は判断していた。

 

「な、何だ、その眼は⁉︎無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか‼︎」

 

デビッドはどうにか己を奮い立たせ、同時に逆上する。立ち上がり、今にも飛びかかりそうなデビッドをさすがに諌めようと周りが動く前に、ユエの言葉が、軽く、透き通った小さな声が通る。

 

「小さい男」

 

それがデビッドの堪忍袋の尾が切れる合図だった。

 

「神殿騎士を侮辱する異教徒め‼︎そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる‼︎」

 

腰の剣に手を伸ばし斬りかかろうとする。流石に愛子と他の騎士も、話を聞くだけにしていた優花達も止めようとしたが、その瞬間、ドパンッ!という破裂音がして、次にデビッドが倒れる。それに皆、それぞれ驚く。それはその音の元凶のハジメもだった。

 

「ふぅ。ゴムとはいえ、素手は結構痛みますね」

 

シュウゥゥと七海の手から聞こえてくる。それは礫サイズのゴム弾だった。得体の知れない何かが自分に向かって来ていたとわかったデビッドは、その事実に腰を抜かして倒れたのだ。

 

「じゅ、銃?」

 

生徒の誰かがそう呟く。七海に視線がいっていたが、音に反応して外で待機していた騎士が入ってきた足音で我に返り、ハジメの手にあるそれを理解した。『なぜ、異世界にそんな物が?』しかも銃は銃でも大型のリボルバー銃だ。

 

「な、なんだかわからんが、助かったぞ、なな…ヒッ⁉︎」

 

デビッドは助けられた相手に感謝を言おうとするが、威圧でまた腰を抜かす。威圧は七海からのものだ。

 

「この世界に差別があるのも、亜人族が奴隷になっているのも知っています。それがあなた方の普通なのならいちいち文句を言っても仕方ないですが、我々には不快でしかない。少なくとも、食事の場で言う必要もありません。それに今話しているのは我々の世界の人間です。他人が話の腰を折るような必要もない」

 

デビッドはその言葉に色々言いたいが、何も言わせない凄みが七海にあった。再び七海は席に座る。

 

「さて、南雲君。色々聞きたいことがありますが、そちらも食事中でしかも旅疲れもあるでしょうし、畑山先生と同じく質問は4つとします」

 

「俺としては話はもう終わりなんだけどよ?そもそも俺はあんたらに興味がない。関わりたいとも、関わってほしいとも思わない。今までのこととか、これからのこととかを報告する気はない。ここに来たのは七海先生が言う通り、偶然だ。仕事が終わればまた旅にでる」

 

「そこから先は、不干渉ということですか?」

 

「そうだ。俺の邪魔をするなら、そいつは敵だ。敵と見なしたら、つい殺っちまいそうなんでな」

 

ユエとシア以外は知らぬ事だが、ハジメは〝威圧〟という文字通り死ぬ思いで手にした技能の1つを使っている。そのプレッシャーを込めた威嚇の眼に、全員何も言えなくなる。

 

「では、さっさと質問しましょう」

 

七海以外は。

 

「あんた、話聞いてたか⁉︎」

 

ハジメは先程の銃を七海に向ける。いつ撃ってもおかしくない。

 

「そんな子供騙しみたいなゴム弾で私は引きませんよ?そもそもその態度は、質問が嫌だから逃げる子供そのものです」

 

「‼︎」

 

引き金を持つ手が震えている。怒りだろうか、それとも別のものか。わからないが観念したのかハジメは銃を下げる。

 

「2つだ。それ以上は受け付けない」

 

質問は聞くが回数はこっちが決めると、ハジメはあくまで主導権はこっちだと強調する。

 

「では1つ目、その眼はどうしましたか?」

 

「?超超頑張った結果」

 

『なぜ同じ質問をした?』理解出来なかったがとりあえずハジメは咄嗟に同じ答えを言う。

 

(担任ならちゃんと答えるとでも思ってんのか?)

 

『だとしたら甘いんだよ』と思うが、七海は軽く頷き「なるほど」と言う。

 

「え?何がなるほどなんですか?」

 

「気づきませんか畑山先生?彼、超頑張ったではなく、超超頑張ったと言ったんですよ」

 

それがどうしたのかとハジメも愛子も優花達も思う。

 

「つまり、最初に畑山先生がした質問1と2は同じ理由が起因しているが、3は全く違う何かしらの理由があり、ただ目を隠しているわけでもないという事です。傷があるだけなら目隠しは必要ありませんからね。落ちた後、相当な修羅場をくぐり抜け、その過程で強くなり同時に髪が白くなった。そしてその後で何かしらの能力がある目を持ったと言ったところでしょう」

 

「っ!」

 

「表情はもっと隠した方がいいですよ、南雲君。ちなみに今の私に並大抵のウソは通用しませんよ。魂知覚…君の魂の揺らぎが、かなりの集中が必要ですが、わかりますからね」

 

「…卑怯じゃねそれ?」

 

「そう言ったということはやはり図星みたいですね」

 

嵌められたとこの時ハジメは感じた。七海の言ったことはウソと真実を混ぜたものだ。

 

たしかに魂知覚の技能を理解した七海はある程度ウソは見抜ける。だがそのある程度とは、わかりやすいウソや隠す気があまりないようなウソのみ。しかも少しでも隠したいという思いがあれば見ることはできない。

 

七海は、それが自分はウソを完全に見抜ける、今もまさにできているというハッタリを言って、ハジメに自分で答えを出させた。しかもハジメはこれが本当にハッタリだとわからないので発言が更に難しくなった。

 

「では最後の質問です」

 

ウソ発見機に繋がれたような感覚を感じながらハジメはその言葉を聞く。今度は見抜かれまいと気を引き締めて…だが。

 

「南雲君、君は人を殺してますね?」

 

あまりにも、あっさりと七海はそれを聞いてきた。周囲の生徒達と愛子は驚きがある。

 

「な、七海、先生?何を…」

 

ハジメの先程の威嚇や銃を見た。だからその可能性はもしかしたらあるかもと思っていた。思っていたが聞けなかった。聞くのが怖かったからだ。そして、その質問をされた本人はなんでもないかのように真実を告げる。

 

「ああ、殺したぜ。それがどうかしたのか?」

 

周囲の寒気すら消えるかのようなハジメのその言葉に、地球から来た者達は戦慄する。

 

「気分は、どうですか?」

 

「別に、何も感じなかった」

 

人を殺して、何も感じない。それがまた彼らを恐怖させる。何も感じることなく人を殺せる者が眼の前にいると。

 

「…、…」

 

「「?」」

 

一方質問した七海は表情をまったく崩すことなく、ハジメの隣にいるユエとシアをそれぞれ数秒見つめる。見られた2人はなんだと思うが、七海は落ち着いたまま続けた。

 

「なるほど。…話は終わりです。ゆっくり食事を楽しんでくださ」

「ちょ、いや、ちょっと待ってください七海先生⁉︎」

 

たまらず愛子は止めた。

 

「どうしました?」

 

「どうしましたって…なんとも思わないんですか⁉︎その、南雲君が、人を…」

 

「この世界で生きる限り、どこかで人を殺す可能性がある。それはずっと私が言ってきたことですし、畑山先生もわかっていたはずですよ?」

 

「け、けど」

 

「もちろん、私とてできれば彼らに人殺しなんてさせたくはなかった…それが無理なら、その最初の1人目は私がなる。そう思っていました」

 

愛子は衝撃だった。いや、目を逸らしたかったのかもしれない。彼女もわかっていたのだ。どこかで、誰かが人を殺してしまう事を。それが戦争が起こっているこの世界なのだと。

 

「しかし、今確信しました。南雲君は無差別に人は殺さないですし、人を殺すということを正しく理解している」

 

「…どうして、そう思うんですか?先生の技能のおかげですか?」

 

その質問をしたのは愛子でなく優花だ。自分を救ってくれた人の変貌に彼女は迷いがあった。

 

「いえ、違います。彼女達の表情ですよ。本当にただの無差別殺人鬼なら、彼女達は彼と共にいようとは思いませんし、さっきのゴム弾も、シアさんを思っての事でしょうし。大丈夫です、彼は人間性を捨てたわけではありませんよ……南雲君」

 

「……なんだよ」

 

「私は、君の中にある君だけの正義を信じてます。それと」

 

立ち上がり、七海はハジメと眼を合わせて、頭を下げる。

 

「君に、そのような選択肢を選ばせてしまい、あの時、何もできず、申し訳ありません」

 

「………別に、あんたの謝罪なんていらねーんだよ。俺は俺の目的の為に動いて、邪魔する奴を殺す。それだけだ」

 

「そうですか。…‥畑山先生」

 

「は、はい」

 

「後であなたの部屋にお邪魔してもいいですか?できれば護衛の方とかはなしで」

 

「か、構いませんけど」

 

先程の事もあり、愛子は少々緊張をしていた。

 

「今後のことやら色々、ここで話すことができないような事(・・・・・・・・・・・・・・・・)もあるでしょうから」

 

「………」

 

それを聞きつつ、ちょうど食べ終わったハジメは席を立ち、2人の女性も食べ終わり、立つ。もう用はないからと言わんばかりだ。だが、

 

「ちょっと待てハジメ」

 

ハッキリとした声で再び止められる。

 

「あぁん誰だお前?」

 

ハジメがチンピラみたいな感じで凄んだ相手は、パーンズだった。

 

「覚えてないのかよ…一応訓練とかで会ってんだが…まぁいい。それに用があるのはそっちの兎人族の嬢ちゃんだ」

 

「⁉︎」

 

「………」

 

また差別を受けると思いシアは怖がり、ユエは再び絶対零度の視線を向ける。それをわかっているにどうか知らないがパーンズは続ける。

 

「お前、名前なんだっけか?」

 

「……シア、です」

 

「そう、シアだったな。ちょっと待ってくれ……おい、そこのお前」

 

「な、なんだ?」

 

ビッとパーンズが指を向けた相手はデビッドだ。

 

「あの子に謝れ」

 

「!」

 

「はぁ?何を言ってる貴様‼︎」

 

「あの子に、シアに謝れって言ったんだ。酷い事を言ってすまないってな」

 

「私は間違った事など言ってない!亜人族なら、これは当然だろう‼︎」

 

謝罪を求めてきた事にデビッドは怒る。シアは混乱していた。傷ついたが、デビッド達の言葉は自分達に向けられるものとしては当たり前のものだからだ。

 

「そう思うのは勝手だ。だが、直接口に出す事じゃない。ママに教わらなかったか?悪口は言わないようにって?それともエヒト様は暴言は良いとでも言ってるのか?」

 

「貴様、たかが一般騎士が神聖騎士に逆らっても良いと思っているのか⁉︎いや、そうか、貴様パーンズだな。元々はスラムにいたそうじゃないか!なるほど、育ちの悪さがよくわかる」

 

「俺は間違った事は言ってない。それに今は俺じゃなくて彼女の事だ。俺はただ、弱い奴を弱い奴として見て、上からせせら笑うやつが気に食わないだけだ」

 

相方でもあるマッドの方はこうなるのがわかっていたかのように頭を抱えている。おそらくパーンズがこういった行動をするのは今回が最初というわけではないのだろう。

 

「その行為と言葉、神に対する反抗としてみなすぞ!」

 

「暴言を注意するくらいでエヒト様に反抗とみなされるのか?神聖な存在を軽くしてるのはお前らのほうじゃないか?」

 

「きっ、きさま……⁉︎」

「⁉︎」

 

再びこの空間を圧倒的な威圧感が支配し、言い争う2人が止まる。

 

「あんたらの喧嘩に興味はねぇんだよ。こっちはさっさと休みたいんだ。他所でやれ」

 

その〝威圧〟を間近で向けられたデビッドは倒れ込み、他の者達も動けなくなる。パーンズは膝をつくが、それでも眼は〝威圧〟をしてるハジメでなくデビッドに向いている。

 

「あ、あのハジメさん」

 

「ふん」

 

〝威圧〟を解いてハジメは席を外す。

 

「あの、ありがとうございます!」

 

部屋を出る際、パーンズと、〝威圧〟をまったくものともしておらず、事態をあえて傍観していた七海に、シアはお辞儀をしてから去った。

 

「……ハァァ、色んな意味で心臓が止まりかけましたよ。気持ちはわかりますが、ああいうのは本当に控えるべきだ」

 

「とか、言ってるけど、止めなかったじゃねーか」

 

もう諦めているんだという顔で、マッドはパーンズの手を引いて立たせる。

 

「申し訳ありません建人殿。見苦しい所をお見せしました」

 

「構いませんよ。……大人としては失格ですが」

 

パーンズは「はい」と言い項垂れる。

 

「しかし、言えない事をハッキリと言うのは時に大切です。少なくとも、私はあなたの言った事は間違った事とは思いませんよ」

 

そうして七海もその場を去り、愛子との話し合いの時間まで荷物の整理をしようと自分の部屋に向かう。

 

 

「シア、さっきのはもう気にすんな。これが外での普通だ」

 

ハジメの言う外とはシアの故郷の外ということ。彼女のような亜人族は奴隷になるのが普通といっていいほどの迫害を受け、大抵の亜人族は亜人族の国、フェアベルゲンでひっそりと暮らしている。彼女はなりゆきでハジメ達と会ったが、もとより心の根幹にある世界を知りたいという想い、そして彼女は恋をして、ともにありたいと願った。その先に今回のような暴言がある事も承知の上でだ。それでも、旅を始めて初のハッキリと向けられた差別の目と言葉は耐えがたいものだった。

 

「はい……でも、大丈夫ですよ。亜人族でも、ちゃんとして見てくれる人がハジメさんやユエさん以外にもいるってわかりましたから」

 

「……そうか。けどまぁ、あの神殿騎士どもは教会の思考を直に受けた連中で、もう1人の方は育った環境が原因だ。両方とも一般人とは言いがたいから、ああいうのはどっちも少ないと思うがな」

 

「……やっぱり、他の方々にはこの耳は気持ち悪いのでしょうか?」

 

彼女の感情を表すようにウサ耳はシュンとしている。ユエは「そんな事はない」と優しく語りかける。

 

「シアの耳は可愛い。ハジメなんか、シアが寝てるときにいつもこっそりとモフモフしてる」

 

「ユエッ⁉︎言わない約束だろ⁉︎」

 

それを聞いてシアはご機嫌になる。彼の中で1番はユエだ。それは変わらないだろうが、ユエとしてはハジメにはもっと大切を作って欲しいのと、妹分で彼女にとっての大切でもあるシアを大切にしてくれるのは嬉しいものなのだ。……だから。

 

「それより、意外だった」

 

そのハジメを曇らせるかもしれない存在は、彼女には容認できない。

 

「?何がだ」

 

「さっきのナナミって男に、ハジメが質問を受けるとは思わなかった」

 

「あーまぁ、な」

 

「あ、たしかに。ハジメさんが上手いこと乗せられてるし、〝威圧〟を受けて平然としてるし、なんなんですかあの人?…悪い人ではないと思うんですけどぉ」

 

シアはさっきの七海の言葉を聞いてそう思っているが、只者でない雰囲気も感じていた。

 

「もしかして、オルクス大迷宮で言ってた…」

 

「ああ、その先生だ。この世界に来る前から只者じゃなかったけど……ったく」

 

シアは『なんですか私にも教えてください』的な眼になるが、ハジメはそれどころではなかった。去る為に立ち上がった時に七海が愛子に言った事。それを思い返す。

 

「こっちのやる事もお見通しってか…クソ」

 

そしてこれから先、多分そうなる(・・・・)ことが目に見えているハジメは、七海がその言葉(・・・・)を言ってくることを考え、めんどくさく思った。

 

(まぁ、体よく断れば良いか)

 

それができない、というより自分から承認してしまう事になろうとは、この時ハジメは予想もしてなかった。




ちなみに
察言観色:意味は人の言葉、人の顔を良く見てその人の性質を見抜くこと
魂知覚は真人なら〈極〉あると思います
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