ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

2 / 107
今日は10月31日、ハロウィン…七海の命日です。だからどうしても出したかった
七海に黙祷


扞格齟齬

「以後よろしくするかは、あなた方次第ですね。何者ですか?これはあなたの術ですか?」

 

「ふむ、名前をもう一度名乗ればよろしいですかな?」

 

「冗談はやめてください。もう一度聞きますよ、イシュタルさん。これはあなたの術によるものですか?」

 

「いえ違います。あなた方を召喚したのはエヒト様です。この世界を創られた至上の神」

 

(転送ではなく召喚、神を名乗る存在、そしてこの世界)

 

何かを確信して七海は問う。

 

「我々に危害を加えるつもりではないんですね」

 

「とんでもない。あなた方はエヒト様が遣わした救世主なのですから」

 

(また、エヒト様ですか)

 

ともかくここでは落ち着かないだろうと、イシュタルは広間に案内し、そこで事情を説明する事を彼らに伝える。

 

「私は彼らにとりあえずはついて行きます。情報がないですしね。…君たちもついて来てくださるといいんですが、どうしますか?」

 

生徒達に七海は問いかける。『どうする?』と不安そうにお互いの顔を見つめる者達がほとんどだったので、もう一言か二言言おうとした時、

 

「七海先生の言う通りだ。今はイシュタルさんから話を聞こう」

 

光輝が皆を落ち着かせてまとめあげたことで、皆は納得したのかついてくる。未だ現状がわからない不安の中では、光輝のようなカリスマのある人物の言葉は効くものがあった。

 

「助かります、天之河君」

 

「いえ、このくらい当然のことです」

 

七海は普通に礼を言ったつもりだったが、光輝の中では先生にも頼られているという考えが勝手にできていた。

 

一方で七海は目線で周囲をみる。万が一のとき生徒が脱出できるところがないかと。しかしそれがわかるはずもなく今は相手のペースと考えついて行く。

 

案内された広間も煌びやかであり、調度品、壁紙、絵、それらが素人でもわかるほど豪華だった。席に着席したとほぼ同時に給仕の女性、いわゆるメイドがカートを押して飲み物を配る。生メイドという事もあり、多くの男子はデレデレしだすが、

 

「皆さん、浮かれないでください。それと、すぐに飲まないでください。何が入っているかわかりませんから」

 

七海が忠告したことで飲もうとしていた者の手が止まった。

 

「ご安心ください。毒など入っておりませんので」

 

「毒以外でもそちらにアドバンテージをもっていくものはいくらでもありますよ」

 

「やれやれ、随分と用心深いようで」

 

「そうですよ!だいたい危害を加えるつもりはないって先生が言質を取ったじゃないですか‼︎」

 

「天之河君、君はもう少し人を疑う事を覚えた方がいい。口ではいくらでも言えます。それにいきなり拉致同然にここに呼んだ相手には当然だと思いますが?」

 

「では、これでよろしいですかな?」

 

イシュタルが手をあげてメイドの1人を呼び、七海とカップを取り替え、それを飲んだ。

 

「…まぁ、いいでしょう。それであなた方の説明とやらを聞かせてもらいましょう。詫びとして一通り話が進むまでは黙って聞くことにします」

 

警戒は続けながら七海は話を聞くことにした。だが、それは身勝手極まるものだった。

 

 

このトータスと呼ばれている世界には大きく分けて三つの種族が存在する。

 

北一帯を支配する人間族、南一帯を支配する魔人族、そして東の巨大な樹海の中でひっそりと生きている亜人族。

 

この内、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し、大規模な戦争はここ数十年起きていなかった。ところが最近になって異常事態が多発しているという。魔人族による魔物の使役だ。

 

 

魔物:通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことーーーと言われている。正確な魔物の生態は分かっておらずそれぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣。

 

 

(ふむ、呪霊と似たモノと捉えていいかもしれませんが、実際に見るまでは全魔物とやらを全て1級呪霊クラスと認識しておきましょうかね)

 

魔物の説明を受け七海はそう解釈していた。話の中で出てくるワードを頭にインプットし続きを聞く。

 

 

これまで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんどおらず、使役できても2匹程度だった。その常識が覆されたのであるーーーつまり今まであった『数』というアドバンテージが崩れた。

 

「エヒト様があなた方を召喚したのはこのままでは人間族が滅びるのを回避する為でしょう。この世界よりも上位の世界であるあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです。その力を発揮し、エヒト様の御意思の下、魔神族を打ち倒し我ら人間族を救って頂きたい」

「お断りします」

 

話し終えて秒もしないで七海は拒否した。

 

恍惚とした表情でブッ飛んだ意見を言うイシュタルは歪そのものだった。『神の言葉なら全てが肯定になるというのか』『何も知らない子供を戦争に巻き込む事を分かっているのか』と、七海は叫び出して破裂しそうな魂の言葉を抑える。話は一通り聞くと言う約束をした。だが受け入れて戦争に参加するとは言っていない。

 

「そうですよ!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!」

 

七海に同意するように愛子も反対をするが、童顔のため皆「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる…」と愛玩動物が可愛い行動をとっているのと同じようにほんわかした表情だった。………七海を除いて。

 

「私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

「いえ、おそらくそれは無理なのではないですか?」

 

七海が冷静なまま考えを口に出すと、愛子はまさか七海がそんなことを言うとは思わず、口が止まる。

 

だが事態は七海が考える最悪のパターンだ。

 

「…えぇ。お気持ちはお察ししますが、現状では帰還は不可能です」

 

愛子と生徒達は『え』と言う言葉が聞こえた気がするほど静寂に包まれた気がした。

 

「ふ、不可能ってどういうことですか⁉︎… 喚べたのなら帰せるでしょう⁉︎」

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「(もしくはできないかだ。呪術的な考えですが、あれ程の術なら帰れないという制限があってもおかしくない)先程言っていた神託とやらでコミュニケーションはとれませんか?」

 

「神託はいつでもできるのではございません。全てはエヒト様のお考え次第です」

 

「素晴らしい神がいたもんですね」

 

今のは完全に七海の皮肉だが、イシュタルはそう思わなかったのか「そうでしょうとも」と言い出しそうな恍惚な表情をする。愛子は脱力し、椅子にストンと腰を落とす。それがスイッチとなり生徒たちは騒ぎ出す。

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ!何でもいいから帰してよ!」

 

帰還できない事への不安と不満を出す者。

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

命を賭けられたことに対して憤慨する者。

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

どうしてこうなったと現状を呪う者。

 

パニックとはこの事であり、もし七海の世界ならこれだけで呪いが発生し呪霊が生まれてもおかしくない。七海はともかく落ち着かせてそして現状打開を…否、妥協をする為の言葉を言おうとするが、ある人物の行動と言葉で止まる。

 

光輝だ。バンッとテーブルを叩き、自分に注目させると同時に皆を落ち着かせる。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ」

 

『どうしようもないで済ませるな』と言う言葉がでなかったのは彼のカリスマによるものだろう。皆、話を聞く。ここまではまだよかった。だが次の言葉でどうしようもなくなる。

 

「俺は…俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん?どうですか?」

 

イシュタルは「ふむ」と何か考えているような素振りを見せて、

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

とそう告げる。

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる‼︎」

 

光輝は堂々と宣言した。その意味もわからないまま。しかも光輝のカリスマが悪い方向へ働き始めた。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

親友の龍太郎が同意する。カリスマを持った人間の元に力ある者が加わると、それは1つの連鎖を生む。

 

「今のところ、それしかないわよね……気に食わないけど……私もやるわ」

 

「雫……」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

幼馴染の2人、雫はため息を出して諦めたように。香織は親友に付いていくように決めてしまう。

 

光輝ほどではないがカリスマのある3人が同意した事で他の生徒も「天之河がやるなら」「白崎さんを危ない目に合わせない」と言った理由で現状から逃避するようにその希望もどきについていく。

 

ただ1人、ハジメは理解していた。本当に戦争に巻き込まれてしまうという意味を。イシュタルの顔を見て満足な顔をしているのを見て、光輝が乗せられたのもわかった。だが1つわからないことがある。七海だ。愛子ですらオロオロしつつ「ダメですよぉ〜」と涙目で訴えているのに対して何も言うことなく、出されていたお茶をゆっくり飲んで……いると思ったが一気に飲み干した。そして隣の愛子のカップも取りハァとため息を出した後、

 

ガシャン!

 

「「「「‼︎⁉︎」」」」

 

足下に思いっきり叩きつけた。

 

「いい加減にしてください、天之河君」

 

生徒たちにとって、七海建人は注意はするがどちらかと言えばやんわりと怒っているという印象だった。それは今も同じに見える…けど全然違うとも感じた。イシュタルさえ七海がこのような人物と思わなかったのか驚いている。

 

「な、なにが、ですか?」

 

光輝の足が少し震えているようにも見えた。それを見た皆からは先程の活気が既に消えていた。

 

「まず、最初に言います。天之河君、戦うというのは絶対反対です。承認できません」

 

「なっ⁉︎なんでですか‼︎先生はこの世界の人達を見捨てろって言うんですか⁉︎」

 

「そこまでは言ってません。……天之河君、なぜ戦うと決めたのですか?」

 

「それは、言ったでしょう。この世界の人達の危機だから……」

「事故、事件、病気、テロ、紛争、そして…戦争」

 

光輝の言葉を遮るように七海は語り出す。

 

「君の知らないところで知らない人間が日々死ぬのは当たり前のことです。それが別の世界の人間なら話は違うと言うんですか?」

 

「な、なんですかその言い方⁉︎困っている人を助けるのも当たり前でしょう‼︎それに今の俺たちには力もあります‼︎それなら…」

「それなら自分の命も他人の命も蔑ろに出来ると?」

 

「違う‼︎」

 

「何が違うのですか。天之河君、君は他人を巻き込んで戦争に向かう決意をした。いいですか?、戦争です。歴史の勉強でも少しはわかるでしょう?多くの血が流れ、流す、負の掃き溜めのような場所です」

 

「そんなことさせない‼︎」

 

「どうやって?その力とやらで黙らせると?」

 

「違います。話し合って…」

 

「そんな事が通用するなら私たちの世界でも戦争で血は流れません。まだ自分が元の世界に戻るために戦うとでも言う方がマシです」

 

「そんなの自分勝手な意見じゃ…」

「その自分勝手な意見を今、君はクラスメイトに押し付けた。無意識でね」

 

光輝は限界が近付きつつあった怒りが頂点に行こうとしていた。

 

「ですが、それでも君はまだマシです。まだ自分の意見を言っている。君以下の人が今クラスにいます」

 

だがその言葉でほんの少し落ち着く。その相手は南雲と考えた。『意見もなく、ただ座り、何も言うことのないあいつだ』と。

 

「それは今、天之河君に同意した人全員です」

 

「「「「「⁉︎」」」」」

 

「八重樫さん」

 

「は、はい⁉︎」

 

雫は声をかけてくるとは思わず、ビクッとなりつつも応える。

 

「君は天之河君がやると言うから参加するのですか?他人の意見で?仕方なく?」

 

「そ、それは…」

 

「やめてください‼︎なんでそんな…」

 

光輝が止めてくるが無視して七海は雫に問う。

 

「これからあなたは戦いに身を投じる。剣道の試合とはわけが違います。魔物の肉を斬り裂く、すなわち、生きた生物の肉を斬るということです。あなたならそれはできるでしょう。だが、その感覚は、生きた生物の肉を斬った感覚は一生その手に残ります。人になれば更に不快になる。そうして斬り裂いていけば、いずれあなたは自分に剣術を教えてくれた家族を呪うことになります」

 

「うっ、あ、ああぁ」

 

その瞬間を想像したのか、雫の顔がどんどん蒼くなる。

 

「八重樫さんは自分が誰かを殺す時も、自分が死ぬ時も、そうやって戦争に参加することを決めた天之河君や、剣術を教えた家族達のせいにするんですか?」

 

「雫に人殺しなんてさせない‼︎誰も死なせない‼︎俺が守…」

「どうやって?いつでも全ての人の前に君がいるとは限りません。そもそも戦争の時点で死者はでます」

 

容赦なく現実を突きつける七海に生徒はようやく気づかされた。戦争はなんなのかと。

 

「戦争に英雄はいません。常に目の前に死があります。自分だけでなく、敵味方関係なく誰かの死があり、昨日まで笑っていた人物の死−−時にはその人の死体を蹴ってでも、目の前の相手と戦わないといけない。ある程度イカれていなければ心が壊れ、イカれすぎて狂気に飲まれることすらあります。畑山先生は歴史の担当ですから、その辺はわかっているのでは?」

 

「……えっ⁉︎あ、ハイ‼︎」

 

愛子はついビシィと姿勢を正して肯定する。いつもと違う反応を見せた愛子を見て皆怯え出す。

 

「皆怯えてるじゃないですか⁉︎なんで…」

「気付きを与えるのも教師の仕事です」

 

七海が光輝の言葉を遮るたびに生徒達の何かが崩壊していく。きっとそれは光輝によって見た淡い希望だろうともわかっていたが。

 

「自分の死は想像できないかもしれないですが、これだけは言えます。このまま戦争に行くことを決めれば、生還しようとできなかろうと、あなた方に悔いのない死は訪れない」

 

「「「「‼︎」」」」

 

「七海せん…」

「まとめると、私たちの世界がピンチです。だから我らの神のために命をかけて戦ってください。ただし命の保証も、終わった後の保証もありません。そんな事に命を賭ける理由はなんですか?」

 

「そんな、終われば返してくれるって…」

「いつ言いました?無下にはしないと言っただけで、戻れるとハッキリ言ってないですよ?そもそもエヒトとやらに返す力があるかもわからないんですよ?」

 

何か言おうとするたびに言葉は七海に遮られ、ついに光輝は黙ってしまう。そうすると皆の絶望感が増していた。

 

「君はもう黙っていなさい。…イシュタルさん、よろしいですか?」

 

「な、なんでしょうか?」

 

話しかけられたイシュタルは、先の七海の静かな怒りを見たのもあり、少し怯えたように返事をする。

 

「私があなた方に言うことは4つ。1つは我々の衣食住の確保です。まさか召喚しましたが、それはどうにかして下さいなんて言いませんね?」

 

「え、えぇ。麓のハイリヒ王国にて受け入れ態勢が出来ております」

 

「では2つ目、この世界を生きるために力を行使するのは必要不可欠です。そして知識も…それらを学ぶ場所を彼らに提示すること」

 

「当然です。すでに騎士団に報告し、訓練をするつもりです」

 

「お願いします」と七海は言うが、それはまるで戦争の準備をしろと言うべきものだ。しかし生徒達がざわつく前に3つ目を言う。

 

「3つ目、彼らが実戦訓練及び実戦を行う際は、私の許可をもらうこと」

 

「「「「!」」」」

 

「…それはつまり」

 

「私が許可をしない限り、彼らは戦うことはできないという事です」

 

「しかし、それではこちらには何も得るものはありませんが?」

 

「4つ目」

 

間髪入れず4つ目を提示する。

 

「戦闘および本格的な戦争が起こった際は最前線に私1人が立ち、死ぬまで見届ける。死んだ後はいまの3の内容は破棄して構いません」

 

「ほう」とイシュタルは言い、生徒達と愛子は驚く。

 

「な、七海先生‼︎生徒の為とはいえあなたが…」

 

「ここまで相手に一方的なものを提示したのですから、このくらいしなければ釣り合いません」

 

「一方的なのは彼らもですよ‼︎」

 

「先生が戦うなら…」

「自分も戦うというのはやめてください天之河君。−−こちらの要求は以上です」

 

「…私も質問しても?」

 

七海は「どうぞ」とイシュタルに言うが、座らないで質問を聞く。

 

「あなた1人で戦って生き残れるのですか?それと、もしそれを拒否したら?」

 

「簡単です」

 

と七海は拳を握りテーブルに置く。そしてグッと軽く力を入れた瞬間、

 

ボカン‼︎

 

テーブルが砕けて、拳があった場所に大きな穴ができる。それは呪力を纏った拳でも術式を使った拳でもない、純粋なパワー。

 

「こう見えても私は強いので…拒否するなら、今この場であなた方を粉砕しても彼らをできる限り守るつもりです(力が上がっている気がする、これもこの世界に来た恩恵というやつですかね)」

 

イシュタルは納得がいったのか「いいでしょう」と肯定した。

 

「皆さん」

 

いままで見たことない七海を見て生徒たちは開いた口がふさがってなかったが、七海に声をかけられて我に帰る。

 

「約束はできません。それでも、あなた方を親御さんの元へ帰す為に行動します。しかし、万が一に備え皆さんも力をつけてください。私もいつでもあなた方を守ることができません。…申し訳ないですが。どのように力をつけるかはあなた方次第です。知識の力か、純粋な力か、どちらでも良いです」

 

頭を下げて再び七海は言う。

 

「戦うというのは戦争ではなく生きる為です。そして、それでも戦争に行くなら、先程の言葉の意味を考えた上でお願いします」

 

全員ではないが七海の想いは伝わっていた。理解した生徒は七海を慕うが、そうでない者達もいる。なぜ従わなければと思う者、それでも戦う、間違ってないと思う者、要は七海の言葉を理解してない者達だ。だが1つ共通しているのは七海がいる限り死ぬ確率は0に近いという事だった。

 

 

 

凱旋門のような門を通り、神山と言われる所を魔法を使い、ロープウェイのように降りていく。街が見え出すと人影が祈りを捧げるようにも見えた。どうやら生徒達を神の使徒として崇めているのだろう。

 

(歪んでいますね、神も人も)

 

七海はそうする為にこの様に山を降りたなと確信した。だが今の生徒達にそんな余裕はない…と思っていたが既に何人かが興奮していた。

 

(大丈夫でしょうか)

 

七海は自分の不安を生徒に見せる事なく、イシュタルに着いていく。玉座で国王をはじめとした自己紹介があり、晩餐会が行われた。煌びやかに出迎えられた彼らの心は少し落ち着きを取り戻す。だがその場も異質だった。威厳ある国王が教皇の手にキスをするところを見た時、神の存在とその威光の象徴がいかに絶大かがわかる。そうして晩餐会が終わると七海は各自に一部屋与えられたベッドに座り、今の状況の再確認などをしていた。

 

(時計に手帳…財布はこの世界では使えないですね。武器はもらえるのでしょうか…嫌がらせでもらえない可能性もありますね)

 

そうしているとドアがノックされた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

「私です。畑山です」

 

七海は何をしに来たのだろうと思いつつ、ドアに向かい開ける。泣き出しそうな子供に見えた愛子は、グッと顔を上げる。

 

「お話して、いいでしょうか?」

 

「…構いませんよ。ここでいいですか?」

 

「あ、じゃあ入らせてもらっても?」

 

「…失礼ですが畑山先生、あなたも女性で尚且つ教師なのですから、おいそれと男性の部屋に入ると言わない方がいいですよ」

 

「大丈夫ですよ。七海先生ですし」

 

七海は『何が大丈夫なんだ』と思うが、先程の愛子の顔を見て、間違いなく無理をしていると判断した七海は「どうぞ」と部屋に入れて椅子を用意する。

 

「あ、私は立ったままで……」

 

「客人にそんなことできるはずもないでしょう」

 

と七海は愛子に座る様に促す。実際は七海を見上げてしまうから首が疲れるという理由があったが、それを言うとなんだか子供扱いされたと勘違いしそうなので、愛子は言わない事にした。

 

「それで、話というのは今後のことですか?」

 

「それもですけど…まず、ごめんなさい!あと、ありがとうございます!」

 

「…謝罪をしたいのか感謝をしたいのかどちらですか?」

 

「両方です。……あの時、天之河君達を止めてくださって。私は、私にはできませんでした…頭で戦争を理解して必死に止めようとしても誰も聞いてくれなくて、七海先生がああして怒ってくれて…そうでなきゃ、今頃どうなったか…」

 

「別にあそこで言ったことは本心ですが同時に受け売りでもありますから、そこまで言うことはありません…なんで笑ってるんですか?」

 

「あ、いえ、フフ。七海先生もああいうセリフのある漫画とか読むんだなーって」

 

愛子は漫画のセリフかと勘違いしているが違う。東京呪術高専の現学長である夜蛾と虎杖の問答を五条から掻い摘んで聞いていたのをある程度直したものである。が、言う必要がないので七海はスルーした。

 

「とはいえ、全員が理解してくれたかはわかりません。それに結局は彼らに不安を与えてしまった。今は大丈夫、でももし先生が死んだら?そんな考えがきっとあるでしょう」

 

「えぇ。あの、七海先生、やっぱりあなただけが犠牲になるなんて…」

 

「自分を犠牲にしているつもりはありません。ただ、私は大人で彼らは子供。私には彼らを自分より優先する義務があります」

 

「私は、足手纏いですか?」

 

「適材適所なだけです。戦える私が前に出るだけですから。…今回の件も含めて私のことを良く思わない方も出るでしょう。この世界の方々にも、そして生徒の中にも…先程言ったように不安を与えたのですから。けど、それでもいいと思っています。教師は嫌われるのも仕事の1つですから」

 

「それは、…それは違うと思います」

 

愛子は威厳のある教師を目指しているが、嫌われ役をしたいとは思っていない。皆から好かれる威厳さを持ちたいと思っていた。だから七海の考えはどうしても否定したかった。

 

「違いませんよ。好かれるのも仕事ですが大抵は嫌われるのが前提です。−−−ただ、これは私の価値観なので気にしないでください。それより今後ですが」

 

そこからは実戦訓練となった際どういう行動をしていくか、また参加を決める際どういう者を合格とするかなど、これからのことを話し合うが、やはり愛子は七海の生き方にどうしても納得ができないままだった。

 




ちなみに
「扞格齟齬」意見がぶつかり合うこと。
もうわかった人もいるでしょうが各サブタイトルは基本的に四文字熟語にしていきます。そのままだったり多少変えたりなどもします。ことわざとかにもするかも

ちなみに2
作中の七海の考えはあくまで七海の考え、考察であり当たってたり外れてたりします

次回はテンションが高くなってたら12月24日に出します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。