休みがあるって、いいよね!
とはいえ、今回の話はちょっと心配な部分もあります。詳しくは後書きで
深夜、時間は0時程。その部屋を七海はノックして、声が返ってきたのを確認して入る。
「七海先生」
椅子に腰を掛けて、外に浮かぶ月を見る愛子がいた。
「さっきの件、色々と考えていると言ったところでしょうか?」
うつむいて「はい」と愛子は言う。七海は愛子と向かい合うように座り、彼女の言葉を聞く。
「彼の変わり様に、私は…目を背けてしまったのでしょうか」
「そんなことはないです。あなたが彼の生存を喜んでいたのは事実で、彼もそれを認識できている。あの威嚇のとき、あなたは彼から目を逸らさなかった。向き合っていこうという気持ちの表れです」
「………いつか人を殺してしまう。わかってたのに、また私は七海先生に」
「私の決めた事ですし、言ったでしょう?適材適所です。とはいえ、正直私も彼が殺人をしている事には多少は驚いてます」
以前のハジメは生きる決意、元の世界に帰る決意は強かった。だが、その為の殺人はできないと七海は思っていたのだ。
「きっと、そうしなければいけない場面だったのでしょう。そして、そういう考えになるほど苦難に遭い、追い詰められた。原因は突き詰めれば私の方が大きい。あなたは悪くない」
「………違うんです」
愛子は自分が許せなかった。あの時、ハジメが人を殺していると聞いて、ほんの一瞬とはいえ彼の心に寄り添わず、離れた事を。
「私は、この世界に来てから、誰も守れてません。守って、寄り添うのはいつも七海先生で、犠牲になるのも七海先生で……」
「これも言ったでしょうか?…私は私を犠牲になどしてません。自分ができる、そうするべき事をしているんですよ」
命を捨てる気はない。ただ、彼らを守る為なら最初に動くべきなのは自分と七海は定めているのだ。
「私は現実的、あなたは現実と理想の両方を見ている。それは、誇るべき事ですよ」
リアリストな七海は呪術師として戦ってきた日々もあり、どうしても出さないつもりでも犠牲を容認してしまう。だからこそ、愛子の存在は助かる。その理想を考えていれば、犠牲を容認する考えを持ちすぎてしまう事がないから。
「今は、彼が生きていてくれた事を喜びましょう。それに、彼に言いたい事は今言えばいい」
「はい。………はい?」
「ホント、こっちのやる事はお見通しなんだな」
「⁉︎」
七海が入った後、扉には鍵がかかっていた。なのにどうやってと、愛子は扉にもたれているハジメを見る。
「ノックぐらいしてください南雲君。女性の部屋に入るなら最低限のマナーですよ。というか、錬成でピッキングなんてやめなさい」
「来るってわかってて鍵かけてる方が悪いだろ」
ハジメの無茶苦茶な理論に七海は「はぁ」とため息を出す。
「わざわざ窓を開けてあげてたんですから、そこからでも入れるでしょう」
「あ、それで窓を開けておくようにって言ったんですねーってじゃない‼︎」
ノリツッコミを自然にしながら、愛子はハジメを二度見する。
「いったい、どうしたんですか?というか、七海先生はわかってたんですか?」
「ええ。南雲君は適当な子ではなく、あなたの心配していた気持ちにちゃんと寄り添える子です」
「別に、そんなつもりでここに来たわけじゃねぇ」
「しかし、あの場では話せない事があった。それを話しに来た。私や畑山先生は、冷静な判断ができるから……違いますか?」
「…ちっ」
七海とて、ハジメが自分のために今から話そうとしているのはわかる。だが、根幹にある彼の優しさを信じる。その想いが七海にあるのは愛子という存在があるからなのだが。
「あの場で話さなかった事を考えると、この世界の、それも神聖騎士の方々がいた為でしょうか?だとしたら、この世界の神についてですか?」
「‼︎先生、知ってたのか?」
七海の実力的に、もしかしたらあの大迷宮を攻略してるかもという考えがよぎるが、すぐにないだろうと考える。もしそうなら、とっくにこの人は何らかの行動に移っているはずだと。
「何も知りませんよ。ただ、可能性のひとつとしての話です。……これからのことも考え、あなたの知った事を教えてください。その方があなたも動きやすくなるのでしょう?」
「…………」
『この先生はホント何者なんだ』とハジメ思うが、言ってる事は事実なので話をする。この世界の狂った神のことを。
*
曰く、魔人族と人間族の長きにわたる争いは全て仕組まれていた。想像神『エヒト』、人々を駒として、戦争遊戯を楽しむ存在。
それに気付いた、後に反逆者と言われるようになる解放者と呼ばれていた存在と、その者達へ行った神の非情な行為。なんと守るべき人々によって討たれるという。
人々を動かした〝神託〟。おそらく技能か魔法だろうと七海は判断する。そして、それはこの世界に来た時にイシュタルが言っていたものであるともわかる。
解放者達は自分達の力を後世に残す選択をし、いつか神を討つ存在が現れる事を願い、それぞれの魔法、神代魔法を継承する為の試練として七大迷宮を作り上げた。
「……まさか、1番当たってほしくなかった事態が当たるとは」
その話は、七海にとって1番あって欲しくないものだった。
「そういや、七海先生は最初っから言ってたよな。戦争を終えても帰れるかわからないって」
「ええ。この世界の神とやらが勝手に呼び出した時点で、警戒していましたが……今の話だと、このまま戦争になって仮に勝利しても、帰還はほぼないと見ていいでしょうね」
「けど、その話をどこで?」
「………大迷宮が、解放者の作った場所なら、そういう情報もあったのでしょうね…おそらく最深部、100階層に」
「ちょっと外れだ。あの大迷宮は100階層あるって思われているが、その下に更に深層があって、そこからが本当の大迷宮だ」
補足として「行ってもいいがすぐ死ぬだろうな」と付け足してハジメは言う。
「白崎さんは、諦めてませんでしたよ」
ずっと香織を見てきた七海がそう告げる。
「……白崎は、無事か?」
僅かにピクっとハジメの組んだ腕の指が動いた。香織を心配して出た言葉に、愛子は七海の言う彼の優しさが残っている事を理解して嬉しくなった。
「確かに、私も正直言って君が死んだと思っていましたが、彼女は諦めていませんでした。そして…天之河君はまぁ、実戦訓練のつもりでしょうが、今潜っている他の方々も、それを理解した上で君を探す為にあそこで戦っています」
七海はその為に彼女に選別をさせた事、彼らを自分なりに強くした事を告げる。
「今の彼らなら、仮に君と戦っても最低1分は保つでしょうね」
愛子は『それでも1分なんだ』と心の中でツッコミを入れる。
「いや、そういう心配じゃねぇ。やりとりとかはあるか?」
「私は手紙である程度」
「私も、ここに来たのは清水君の捜索の為で、終わり次第彼らの元へ戻るつもりです」
「清水……あぁ、いたなーそんな奴…まぁ、それはどうでもいいとして」
愛子は『クラスメイトなんだからせめて覚えておいてほしかった』と思いつつ、ハジメの言葉を待つ。
「その捜索がどんだけかかるか分からないから、手紙でもいいから伝えてくれ。あいつが本当に注意すべきは迷宮の魔物じゃなくて、仲間の方だってな」
「え?それってどういう…」
「やはり、誤爆ではなかったんですね」
「なんだ、七海先生気付いてたのか」
「確信なんてありませんよ。何せ私はその時の事を見てませんからね」
だが、メルドや他の生徒から聞いた事などで違和感があった。本当に事故なのかと……あの極度の緊張と恐怖の顔を見れば誤爆が起こっても不思議ではないとも考えてはいたが。
「七海先生の勘通りだよ。あれは明確に俺を狙って誘導した魔弾だ」
「え?誘導?狙って?」
わけがわからないという表情になる愛子と、またも当たってほしくない可能性が当たってしまい、頭を抱える七海を見つつ、ハジメは容赦なく真実を告げる。
「俺は、クラスメイトの誰かに殺されかけたってことだ。白崎との関係で殺そうとしたなら、嫉妬で人を1人殺せるような奴と一緒にいるってことになる」
ハジメは続けるが、愛子は硬直して顔面蒼白になる。
「誰かはわかっているんですか?復讐でもするんですか」
「さぁな。誰かはわかんねーよ。復讐はする気はない。どうでもいいからな、そんなの。ただ、それで白崎が危険なら伝えておこうと思っただけだ」
七海の問いにそう言ってハジメは去ろうとする。それに対して七海はもう1つ聞きたいことがあり、尋ねる。
「最後に、君はその狂った神とやらを解放者の代わりに討つつもりですか?」
「まさか。この世界のことなんざどうだっていい。俺は俺なりに帰還の方法を探る為に旅をしてる。今回ここに来たのは本当になりゆきだ」
「そうですか………南雲君」
ハジメは七海がなにを言うか予想していた。だからすぐに断るつもりだったが、
「生きていてくれて、私も畑山先生も嬉しいですよ。言うには早いかもしれませんが、おかえりなさい、南雲君」
「………別にあんた達の元には帰らねーよ。その言葉は故郷に帰ってからだ」
言ってこなかったので拍子抜けだった。
「今の私は、まだここでやるべきことがあります。それまでは君が考えるようなことはないですよ」
だがそれを聞いて、ハジメはまた自分の考えが筒抜けだったことに気付き、悔しさを残したまま部屋を出た。
ハジメが部屋を出て、しばらく無言が続く。だが、その時間を切ったのは愛子だった。
「七海先生、私、決めました」
「……聞きましょう。まぁ、なんであれ…手伝いますよ。私にできることなら」
「ありがとうございます。七海先生」
*
夜が明け、月明かりはないが少しずつ日の光が出る頃、ハジメ達3人は旅支度を終えて、ここに来た目的、行方不明となったウィル・クデタの一行を捜索する為動きだす。行方不明になって5日程経っている。生存は絶望的だが万が一、生きている可能性を考え、早朝に行動を始めた。もし生きていたのならそれだけデカい恩を得られる。これから先、動く時にウィルのように地位のある家の恩はあっていいと考えてだ。
「待ってましたよ、南雲君!」
北の山脈地帯への道に続く門の前に愛子と七海、それと愛子の親衛隊として来た生徒4名がいた。残りの2名は万が一戻らない時の為の王国への連絡役だ。ちなみに七海としては行くのは自分だけにするつもりだった。しかし、愛子の行動力を考えるとどっちにしろ後からついてくると思い、愛子が行くなら自分達もと生徒が来るのも想定し、ここに共に来た。マッドとパーンズは別の場所に泊まっているのもあり、時間の関係で言伝を宿の人に頼んで置いていくことにした。
「行方不明の捜索ですよね?私達も行きます。人数は多い方がいいです」
「却下だ。行きたいなら勝手に行けばいいが、一緒は断る」
「な、なぜですか?」
「単純に足の速さが違う。あんたらに合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」
その言葉に愛子達は首を傾げ、もう一度ハジメの方を見る。移動手段と思えるものがない。
「足の速さって…馬に乗るより走った方が速いって言うの?流石にそれは断りの言葉としては適当すぎない?」
優花の言う事は一見もっともだが、ハジメにとっては失礼にあたる。それにいち早く気付いたのは、やはり七海だった。
「彼はいま、バイクを持ってるはずです。それもかなりの速度が出る」
「「「「「⁉︎」」」」」
「…なんでそう思う?この場にそんなものないぞ?」
「1つ、君は銃器を作れていた。以前の君ではできなかった錬成をできているなら、移動手段としてバイクなどの走行手段を用意できてもおかしくない。2つ、この町に来る時、道に一本のタイヤのような跡があった。走行車は馬車なら4輪、あっても直線でなく左右の2輪。一直線なら1輪か2輪ですが、移動手段として考えるなら2輪の、しかも3人旅なら大型のバイクの可能性が高い。それをどう隠しているかはさすがにわかりませんが、可能性と君の言葉を考えれば、それしか思いつきません」
「…………ホント、面倒くさい」
観念したのか、ハジメは手を前に出す。取り付けた指輪が光ると、地面に魔法陣が展開され、地面から出てくるように大型バイクが出現した。
「転移魔法……ではないですね。この世界で何度かその魔法を見ましたがそれではない。……別空間にしまってあるということですかね?」
「そこまでわかるのかよ」
「私の魔力感知は天之河君のとは違い、魔力を視認する事ができるので」
「俺と同じ…いや、それ以上かよ」
「視認はできますが、見えるのは魔力の流れと強弱、それと使用したであろう魔力の残穢――私がそう呼称しているものであり、見比べれば誰の魔法かもわかる程度のものです。しかし、同じという事は君も見えている。言動から見て、私より精度は上ですかね」
思わずハジメは歯軋りをしてしまう。『この先生油断ならねぇ』と。
「ともかくだ、適当な言い訳とかじゃなくて、見たまんまだ。移動速度が違うんだよ。わかったらそこどいてくれ」
このまま七海のペースに乗せられるかと、ハジメは話を無理矢理切り上げて本題に戻る。
「どきません!」
愛子は譲らない。ハジメの昨日の言葉の真偽を確かめるため、清水を探すため、どちらもこれから起こるかもしれない不幸を事前に回避する為に必要な事だ。特にハジメが旅を続けるなら、次に会えるのはいつになるかもわからない。会える今のうちに会話をして、もっと今の彼と関わっておきたいのだ。
「南雲君。先生は先生として、どうしても南雲君からもっと聞かなければならない事があります。きちんと話す時間を貰えるまで離れませんし、逃げるならどこまでも追いかけます。南雲君にとってそれは面倒なことではないですか?」
「諦めてください南雲君。君も、彼女の行動力の高さは知っているでしょう?移動中の合間でも良いので話し合いをしてください」
七海の言う通り、ハジメは愛子の行動力の高さは理解している。逃げれば本当にどんな手段でも使うだろう。
ハジメはいずれは教会から異端者として指名手配されるのも織り込み済みだが、それは遅くなるならその方が面倒がなくていい。
(それに)
今のハジメにとって、ある意味の天敵として見なしている七海の存在。信用しているが、彼の違和感を探すなら、その違和感が他の所で現れるなら、近くで見ている方がいい。少なくとも今は。
「分かったよ、同行を許す。話せることはあんま無いけどな」
七海はふぅと息を吐き、愛子はムンと胸を張り「構いません」と言う。ユエとシアは同行する事を認めると思ってなかったのか驚く。ハジメから愛子の教師としての妥協しない点を説明されて、2人の愛子を見る目に若干の敬意が含まれるようになった。
*
「これほどの物を作り出せるとは」
七海は、ハジメの錬成の精度が以前とは比べられない程に上がっているのは分かっていたが、それでもものの数秒で車を錬成したのは驚いた。
「本来なら、免許もないのに車の運転など認めませんが、ここは異世界。しかも魔力で動かすなら仕方ないですね」
「あ、やっぱ魔力は今も0なんだな」
ようやく今の七海の情報を知れたが、多分そうだろうなという思いもあり、優越感には浸れない。
「ついでに言うと、レベルも1ですし、ステータスもそのままですよ」
ステータスプレートを見せながら七海が言ったので、それが真実だとわかる。
「いいのかよ?そんな事言って」
「正直言って、最初は少し君を警戒してましたが、今はもうそれほどではないので」
2人の会話でちょっと空気が冷えている感じがする愛子。ちなみに前は3人乗れるのでユエは愛子の隣に座りたがったが、七海とも話す為と愛子からも意見が出たので、渋々後ろの席で生徒の女子と語りあっている。あと男子は荷台にいる。
「錬成の精度に君のイメージがついてきている。どうやってここまで強くなったかは詳しく聞きませんが、自分の術の理解と想像ができてるようでなによりです」
「……まぁ、な。七海先生の教えがあったから割と楽に迷宮も攻略できたしな」
全てを捨てかけていたハジメはユエと出会い、彼女に七海の事を話している時に気づけた。七海が自分が銃火器をいつか作れる事を言わなかったのは、自分を守る為だったと。再会した時は最悪な気分だったが、こうして話してわかった。七海も愛子とはまた違った形だが生徒思いの先生だと。
「ところで、話は変わりますがこの車はこれからも使うとして… 〝宝物庫〟でしたか?それがあるのになんでわざわざ荷台なんか付けたんですか?」
これだけの錬成能力なら生徒達とシアとユエを乗せる物も作れたはずだ。なのになぜわざわざ荷台をつけたのか、七海はわからない。
「急いでたからってのもあるが……まぁ、俺のこだわりみたいなもんだ」
本心はそこにガトリング砲をつけてぶっ放したいというちょっとした憧れだが、それを話すと子供扱いされそうなので言わないこととした。
*
愛子の質問は昨晩に話したこと。それによってやはり意図的にハジメに魔法が放たれた可能性が高くなる。頭を悩ませつつ、心当たりを聞くとハジメは鼻で笑いつつ「全員」と答える。わからないままでいさせたくはないが、分かったところで人殺しで歪んだ心をどうすればいいのかで、さらに愛子の頭を悩ませていると、ちゃんと寝れていなかったためか、うつら、うつらとして七海の肩に寄り添う。
「あ、す、すいません」
「昨日から…いや、清水君の事も考えるならもっと前からあまり寝てないのでしょう?今くらいは休んでください」
「はい、すいま、せ」
最後まで言い切る事なく、今度こそ愛子は七海に寄り添って眠りについた。それを確認して七海は話を切りだす。
「本当は目星はついてるんじゃないですか?」
「…マジで確証はないが、檜山あたりがやりそうだとは思ってる」
「やはり彼ですか」
七海もハジメの話を聞いて、もっとも可能性として高いであろう人物を考えて檜山に行きついたが、大正解である。
「今彼は、君が奈落に落ちる原因として訓練に参加させず、部屋で待機させています」
「先生がいないなら、天之河とか教会連中を利用して戻ってる可能性もあるんじゃね?」
「というより、絶対してるでしょうね」
「…………分かってるならなんで」
「昨日も話しましたが、彼らの実力はそれなりに上がっています。私が離れたとしても大丈夫なくらいには。しかし彼は違う。まず間違いなく彼らの足手纏いになり、迷宮攻略を遅くしますし、君を殺したきっかけというのもあり、天之河君以外から注意を向けられる。特に白崎さんには。……そんな状況で表立って行動するほどの気概は彼にない」
七海は旅立つ時からそれは想定していた。彼らの迷宮攻略が遅くなるのは願ったり叶ったりだ。ここである程度時間を過ごしても大丈夫だと思えるくらい。ハジメも「なるほどな」と納得する。
そんな様子を監視する様に見るユエと、生徒からの質問とスタイルについて言及されちょっと困っているシア。本人達にはお互いその気は無いのに、くっつけようと考える生徒達のグッジョブという視線を、七海は『妙な視線を感じる』と思いつつ進み、山脈の麓に車、ハジメ命名《ブリーゼ》を停める。
「すいません、すいません、すいません」
愛子は七海の肩で爆睡したことを顔を真っ赤にして何度も謝っていた。
「気にしてませんから。それより…南雲君、この広い場所をどう捜索するんですか?人海戦術は最初から考えていないのでしょう?」
ブリーゼを〝宝物庫〟にしまい、次に別の物を取り出す。色は少し違うが鷹を連想せるような鳥の模型が4機。それらが空にふわりと浮かんで本物のように飛んでいく。
「ドローンですか?カメラからの映像は…………いや、まさか」
「分かってるみたいだから言うが、この魔眼だ」
眼帯の部分を指でさし、ハジメは言う。
(神代魔法の力でしょうか?しかし、操っているなら脳を酷使しているはず…)
おそらく大丈夫だろうが、魔物が出た時は自分がなるべく相手をしようと思いつつ、ハジメが山頂付近に大きな破壊跡があると告げて、移動を開始した。
*
「君が私達に合わせて動くのは本当に予想外でした」
「別に。一度同行を許したのに置いて行ったら、口にした意味ねーからな」
ハジメ一行と七海以外は6合目付近でかなりバテていた。もちろん彼らもこの世界に来て身体能力は強化されているが、ハジメ達の動きが早すぎたことと、慣れない道のりであったことが理由だ。今彼らは近くに川があったので、そこで休んでいる。捜索しているウィル達が休憩するため寄った可能性もあったからだが。
「それにしても、ここまで魔物を見ませんね。私がウルに来る時もそうでしたが」
「確かに。…ってあぁ先生が来る途中魔物がいなかったのは、俺等…というかユエのおかげだと思うぞ」
聞くと七海達が寄らなかったフリューレンに行く道中で100以上の魔物の群れと遭遇したらしく、その時にユエがその魔物を魔法で一掃したそうだ。
「彼女、魔法の扱いがあまりにもうまい…というより魔力の流れがあまりにも安定している。まるで魔物と同じように。そして、それは君も」
「その辺はあんまり聞かないでくれ」
訳ありなのだろう。あえて七海は聞かないことにした。
「それより、ここの魔物が出てこないのは……!」
飛ばしていたドローン、ハジメ命名《オルニス》を通して見たものを伝える。
「川の上流になにか…盾、それに鞄か?まだ新しい」
「皆さん、出発の準備を」
ハジメが言い出す前に七海が指示して、本当はもう少し休みたいが無理を言って来ているのもあり、準備をさっさと済ませて移動を再開する。
「って、だからはえーよ⁉︎」
猛スピードで上流へ向かうハジメ達を必死に追随する。
「な、七海先生、先に行っても、いいんですよ」
「そんなことできるわけないでしょう」
愛子は七海が息切れをしてないことから自分達のスピードに合わせているのがわかり、先へ行くよう促すが、ハジメ達と違い彼らは弱い。ここまで魔物が出てないとはいえ、この先も出ないとは限らないので護衛も兼ねて七海はスピードを落としていた。
遅れて到着したその場所には様々な物が散乱していた。
「魔物の襲撃にあったというところでしょうか」
「それにしたって随分と荒れてるな」
木々は薙ぎ倒されたかのように荒れ、盾や荷物は黒焦げで使い物にならない。遺体が無いのは喰われたか、それとも遺体すら残らなかったのか。ともかく遺留品と思われる物を回収しながら進む。野営をするべき時間になってきたが、最初にオルニスで見た位置が近いのもありさらに進む。そうして到着した場所は大きな川だ。小さな滝も見える。問題はその川の一部がまるでスプーンで抉り取ったようにポッカリと大穴が空いてることだ。
「これが魔物によるものだとすれば、まず間違いなく、ベヒモス以上でしょうね」
冷静な分析をするが七海も驚いている。残された魔力の残穢。その多くが、散らばっているが強大さを感じるのだ。
(これだけの威力が出せるなら、特級も視野に入れた方がいいですね)
いつか特級クラスがくるかもしれないのは想定してたがそれが今となるとまずい。ハジメ達はともかく愛子達ではあっという間に死ぬ。
「急ぎましょう」
七海の言葉にハジメは寄り添ったわけではないが、この惨状を引き起こした魔物と遭遇するのは面倒として賛同し、下流の方を捜索していると先程より大きな滝に出くわした。そこでハジメは「マジかよ」と呟き、七海も気配感知で感じた。
「滝壺の奥でしょうか?人間だと思いますが」
「間違いないな」
『そういやこの人も気配感知あったよな』と思いつつ、滝へ近づく。正直生存などしてないと誰もが思っていたのだから驚きだ。
「ユエ、頼む」
「……ん」
ユエは短く頷くと、前に出て右手を前にかざす。
「〝波城〟、〝風壁〟」
さながらモーゼのごとく滝が2つに割れる。水滴も風の魔法で吹き飛ばして払われ、洞窟のようなものが見えた。
(詠唱なし。この世界の人から見たら…いや、彼らから見てもおかしな状況ですね。やはり特級クラスですね)
愛子達も相当驚いているのか、開いた口がなかなか閉じないでいた。
*
ハジメは愛子達を促して滝壺の奥にある洞窟へ入って進む。洞窟の1番奥に着くと1人の青年が横になっていた。身につけた服や顔立ちだけを見れば、冒険者のような戦闘職とは考えづらい。気を失っているように見えるほど弱々しく寝ている。とりあえず起こそうと思い七海が声をかけようとすると、ハジメは人差し指を曲げ親指でそれを押さえ込み日本でいうOKを意味する形を作り、力を溜め込み、押さえていた親指の力を緩めてはじいた。力を溜め込んだ人差し指がビシィと青年のおでこに命中する。
「ぐわっ‼︎」
いわゆるデコピンが当たり、青年は額を両手で押さえてのたうち回る。
「…なにもそこまでしなくていいでしょう」
「この方が手っ取り早い」
「ならせめて武器ではない方にしてあげなさい」
金属の指では痛さも倍増しているだろう。青年は声にならない声を出している。
「痛みでもがいてるじゃないですか…大丈夫ですか?話せますか?」
「あっ、ああ。だい、じょうぶだ」
なにが起きたのかわからないだろうが、どうにか青年は声を出した。喋れるなと思ったハジメは青年の名前を確認すると、捜索していたウィル・クデタだと判明した。ウィルは戸惑っていたが、ハジメがまたデコピンの形を作り半分脅そうとしたので、溜め息を吐きつつ七海が質問する。
「ウィルさん、彼は君を捜索するよう依頼を受けてきた方です。我々はまぁ、その付き添いみたいなものです。落ち着いて、なにがあったか話してくれませんか?」
目線を下げて声を抑えて、冷静に聞く。ウィルもそれで少し気が和らいだのか話しだす。
5日ほど前に魔物、ブルータルと10数体遭遇し撤退したが、どんどん数が増えていき、犠牲者をだしながら逃げていたところ、先程七海達が見た大きな川に着いたとき、
「りゅ、竜が、黒い、漆黒の竜が」
相当の恐怖だったのだろう、震えている。クレーターを作り、地形を変えるほどの威力を出すほどの存在。他の冒険者はそこで全滅し、それを目の当たりにしたのだから当然だろう。幸運なのは黒竜(便宜上名)のブレスで吹き飛ばされて滝壺に落ちた際にこの空洞を見つけたことだ。ただ、本人はそう思っていない。むしろ自分だけ助かってしまったことに罪悪感を感じている。
自分は最低だと、役に立たない自分が生き残って、心の中でそれを喜んでいる自分を恥じている。サバイバーズ・ギルトと呼ばれる状態だ。そんな言動からハジメは自分に似たものを感じ、役立たずと言われた自分が生き残ったことを卑下にされたような気がしたのか、胸倉を掴んでちょっと言ってやろうとする。だがその前に七海が前に出た。
「ウィルさん、正しい死とは何だと思いますか?」
「え?」
なんのことだという気持ちが一瞬湧くが、ウィルは戸惑いつつ答える。
「わ、わかりません」
「…この問いは、私が教職をする前に、とある少年の手解きをしていた時、その少年が聞いてきた事です。私も、その時わからないと答えました」
愛子はいつも自分の事は語らないはずの七海が、過去の一部を話したので少し驚く。
「死とは、全ての人間に訪れる終着点ですが、それは常に選べない。今回の冒険者のように唐突になにも残す事なく死ぬ事もあれば、あなたのように偶然生き残って残りの人生を過ごす事もある」
「………」
その言葉にウィルが再び落ち込む。
「あなたにとって生き残ったことより、あの時死ぬことが正しかったというなら正直言って文句はありません」
「おい!せんせ…」
ハジメは七海の言葉を止めようとするも、「しかし」と七海が強調するように言い出したことで、その先の言葉を聞く。
「後悔しても生きているなら、まだ何かを残せます」
「なに、か?」
「ええ。彼らの死で自分が生かされたと思うならそれは呪いです。その呪いはあなたの生きる糧だ。それをどう扱い、どう彼らに報いていくのかは、あなたが本当に死ぬまでにわかる時がくるかもしれません。もちろんわかったとしてもそれが正しい死なのかは、きっと誰にも分からない」
呪いは祓うものだ。だが時として生きる為の、自分の目的にもなる。呪いを扱う者だからこそ、彼の呪いは生きる為に使えると七海は考え、言葉を紡ぐ。
「ただこれだけは理解してください。ここにいる南雲君は、君を助けたい、君が生きていてほしいという願いを聞き入れるここに来ている。自分の生を悔やむのが悪いとは言いませんが、あなたを心配し、生きていてくれて喜ぶ人がいることから、目を背けないでください」
「う、うぅぅ、うぅぅ………」
七海の言葉に、ウィルは堪らず泣きだす。
七海は今の言葉が残酷なものとは思っている。死者を想い続ける呪い、生き続けるという事の呪い。それを背負い続ける運命を彼に理解させる。それでも、例え自分の言葉が呪いになるのだとしても、生きる理由が彼に必要なのだと、七海は自分に言い聞かせていた。
ちなみに
ウィルに最後の方で七海が言ったセリフは小説版の『反魂人形』のセリフとこれまで七海が経験してきた聞いてきた(作中内で)ことを私なりに解釈し、七海が言うかなぁと思いつつ書きました。
正直言って過去1番に「これでいいかなぁ」と思っております感想意見あればお願いします
ちなみに2
生死事大: 人間の生死は一大事であり、今、人として存在しているこのときが、最も大事なことであるということ