ちなみに
竜頭蛇尾: 始めは盛んな勢いがあるが、終わりに近づくにつれて勢いが落ちてしまうこと
え、1文字違うって?当然、仕様です
このタイトルは、この作品を書き出す前から決めてました
少しの間ウィルが己の内面と向き合う時間があったが、その後すぐに動き出す。ハジメがその時間を待ったことに多少だが愛子達もシアとユエも驚いていた。
「…………」
「何か言いたそうですね、南雲君」
七海の言葉に、ハジメは不貞腐れたような表情をする。
「別に」
ハジメは短く、『気にしてない』とでも言うように告げるが、表情や声量からも、そんなふうに見えない。それを気にせず、七海は続けて言う。
「…誰かへの言葉、教訓、遺言は、時として誰かを呪うものになります。君が彼に言いたかったことはなんとなくわかりますが、それを覚えていてください」
「………」
ハジメは熱くなりそうだった自分の心を抑え込まれ、おまけに自分が八つ当たりをしようといた事をその時気づき、自分が子供なのだと理解させられる。そんな自己嫌悪をしながらいつのまにか前を歩く真の大人を見ていると、ユエがハジメの手を握る。
「大丈夫」
「ユエ?」
「ハジメが生きてる事も、言おうとした事も、なにも間違ってない」
愛する男性というのもあるが、ユエは見た目こそ子供に見えるがハジメより年上の大人だ。だからわかる。
「ハジメも、全力で生きて。ずっと一緒に」
「…ユエには敵いそうにもないな。分かってる。なにがなんでも生き残ってやるさ。…1人にしないよ」
2人の間に近寄りがたいキラキラしたものが愛子達に見えていた。シアは自分だけ除け者にされてぴょんぴょん跳ねながら「私を除け者にしてぇ」と訴えている。ただ、愛子達は先程七海の言葉の要所要所でハジメが反応しているのを見て、彼が奈落の底で在り方を変え、冷たい人間になったと思っていたが、熱い部分も残している事を理解し、その熱を感じていた。そしてそんな事を知らないウィルは愛子に抱えられながらそれを見て、置いてけぼり感を感じていた。
砂糖より甘い空気を感じ、触れることができないユエとハジメが作り出した空間を、
「立ち止まらないでください、早くいきますよ」
七海はバッサリと切り、先へ行く事を催促した。ユエは邪魔された事にちょっと腹を立てるが、言ってる事は正しいのでなにも言えない。代わりにハジメが言う。
「先生さ、もっとこう、雰囲気とかわかんねぇのか?」
「君が彼女と愛しあう事に特に言う事はないですが、今は彼、ウィルさんを安全な場所に送り届けることが先決です」
「あぁそうかよ」
とハジメは言うものの、確かにかなり遅くなった。日の入りまで時間はあるので急げば日暮れまでに麓に着く。そう考えてさっさと下山しようと洞窟から出る為にユエが再び滝を割る。
「!」
「これは!」
ハジメと七海が感じ、上を見上げる。それを追うように他の者も見上げる。黒い影が降下してきた。
「あ、あいつだ」
否、黒い影でない。まさにそれは黒い竜だった。ウィルに再び恐怖が巡るがそれは愛子達もだ。これまで大型の魔物はベヒモスくらいしか見てない生徒も、大型の魔物を見てきたことのない愛子も、幾多の魔物を屠ってきたハジメも、その想像を超えていた。
(この威圧感…なるほど、特級ですね)
七海もそれなりに特級と戦ってきた。だからわかる。目の前の存在がそれと同等級だと。黒竜は目線がウィルにいく。それを認識した瞬間、鋭い牙を見せるように口を開く。
(魔力が口に集束している…まずい‼︎)
下がるよう促す前にその膨大な魔力を紫炎に変え、ブレスとして出す。
「……、南雲君!」
ギリギリでハジメは前に出て錬成によって作り出した大楯で防ぐ。さらに〝金剛〟と呼ばれる魔法を付与した事で防御力を向上させる。それでも止まらないほどの威力で〝金剛〟を突破し大楯に直接当たる。大楯が破損する度にハジメは錬成して突破させず、それでも身体が押されて下がりそうな時、ハジメの頭上を何かが通り抜けていく。
「グゴォォォォ‼︎」
それが竜の額に命中するとダメージはないが怯んでブレスが止まった。
「感謝します、南雲君」
それは七海が放った礫だ。もちろんだが呪力を込めた。あんなのに礫で怯ませられるのかという疑問がハジメ達に湧くが、今がチャンスとハジメはここから出て相手をしようと考え、ユエも魔法を出す準備をし、シアも宝物庫から大振りのハンマーを取り出して構えたが、
「そこまでです。後は私が」
七海が背中から取り出した大鉈で進路を塞いで言う。
「なんのつもりだよ七海先生」
「聞こえませんでしたか?後は私がやりますので、君は彼らと共に洞窟の奥へ」
「…俺のこと舐めてんのか?あいつは俺に攻撃してきた。俺の敵だ。邪魔するってんなら」
「邪魔とか舐めるとかじゃないですよ。…君達は子供、私は大人。私には君達を自分より優先する義務があります」
「ハァ?」
ガキ扱い。確かに自分は七海に比べると子供だが、実力とかではなく、子供という理由で下がらされるのは少々腹が立つ。ハジメがそう考えていると、怯んでいた黒竜がまた目をこちらに向ける。
「君があの奈落でなにがあったかは聞きませんが、相当な死線を越えてきたのはわかります。だが、それで大人になるわけではない」
スーツのボタンを外し、ネクタイを緩める。それは七海の戦闘をする上でのルーティンのようなものだ。それを見て言葉を聞きつつ、『その死線も知らない奴が、ならどうなれば大人になるんだ』と言いたくなるが、その気持ちをすっ飛ばす言葉が七海から飛んでくる。
「朝起きた時枕にシミが付いているのを見つけたり」
「は?」
「デザートにしようと思って買ったパンが、実は惣菜パンと間違えて取っていたと、食べた時に気付いたり」
「え?」
「そういう小さな絶望の積み重ねが、人を大人にするのです」
黒竜は空気を読んでいるかのように攻撃してこない。実際は礫程度で怯んだ事に多少警戒しているのだが。
ハジメ達の周りに別の意味で冷めた雰囲気が通り抜けていく。
妙に生々しく、本当に小さな絶望を言われ、逆にどう言っていいのかわからない。
「それで大人になるなら、私たちどれだけ歳とったんでしょうか?」
「ハジメ、あいつも小さい男なの?」
シアとユエの感想を聞いて、ハジメが何か返してくると思っていたが、
「ハジメ?」
なにも言ってこず、ただ、真剣に七海を見つめているハジメに、ユエは違和感を覚える。当然ハジメも何か言いたかった。だが、
「なんだ、ありゃ?」
不可思議なものを見て、それが止まる。
「そして、嫌な時間外労働であってもきちんと仕事ができるかでも、決まってきます」
少しウンザリそうに言う七海から、青いというより水色に近い靄のような、魔力のようなものが見えたから。
「魔力、なのか?」
そう思うがさっき七海のステータスプレートを見た時、やはり魔力と魔耐が0だった事を思い出して混乱する。
「ユエ、あの人の身体から流れるもの、なんに見える?」
ハジメとしては意見を聞きたいという意味で尋ねたが、
「?なにを言ってるのハジメ?あいつの身体からはなにも出てない」
「は、え?」
「ユエさんなに言ってるんですか?魔力?でしょうか?出てるじゃないですか」
「シア、おまえは見えるのか?」
シアは「見えます」と告げてさらにわからなくなり、後ろにいる愛子達を見ると全員なにを言っているのだという顔になる。
「南雲、あんたも知ってるでしょ?七海先生に魔力はないって」
優花が言う通り、七海には魔力はない。それでも圧倒的な実力を持っているのは残りの筋力、体力、耐性、敏捷が他の者と桁違いに高いからだ。今更何を言っているのだと皆が思う。
(俺とシアしか見えてない?しかも、魔眼で見てるんじゃない。俺の残った目で見てんのか?)
考えても尚わからず混乱していると、小声で「そうですか」と七海が言っているのをハジメは聞いた。だがそれを問う前に七海から聞いてくる。
「ところで南雲君」
「?」
「君は、掘削機とか作れますか?」
「え?あ、あぁ、作れ…⁉︎」
問われて、それまで考え事をして少し呆けていたハジメはつい答えてしまった。そしてそれはどういう意味かはすぐわかる。
「なら、そっちの事は任せますので」
七海は呪力を込めて横にある壁を殴る。ピシリとヒビが入り、ハジメとシアには水色の何かのエネルギーが走っているのがわかる。
「おい!」
ハジメが何か言い出す前に七海が先に外へ出た瞬間、崩落する。それに巻き込まれないように皆が下がっているのを確認して、七海は目の前の黒竜を見る。だが、黒竜は七海を見ず、塞がった洞窟に再びブレスを発射しようとする。
「よそ見とはいい度胸ですね」
当然だがそんな事などさせはしない。呪力を込め術式を込めた大鉈の一撃を、
「!」
「グゥォォォォォォ‼︎」
黒竜は受けたが咆哮で七海をふっ飛ばす。空中で姿勢を直して着地するとすぐにブレスを放つ。地面が抉れていき、七海を飲み込んだ。着地した瞬間の攻撃。避けることはできず直撃した。
「ふぅ、以前の私なら大ダメージでしたね」
服に汚れと僅かな焦げこそあるが無事な七海がいた。
(呪力量と出力が上がったのと、私の素の肉体が強化されたこと、それと火耐性があって助かりましたね)
ノーダメージとは言わないが充分に動けるレベルだ。黒竜は頭上から再び攻撃を開始する。今度は高威力ではないがブレスを連射してくる。すぐに駆けて地面に当たった振動を感じながら避けていく。
(攻撃が効いてないわけではなく、術式ありでも通らないほどの頑丈な鱗。さらにこれだけの高出力の攻撃を連射できるほどの膨大な魔力。魔物なのだから当然魔力の操作はできるから安定して攻撃ができる)
今度は下降してその鋭い爪を向けて振るう。それに合わせて七海はすぐさま大鉈をしまい込み、腰の剣を抜いて呪力を込め、術式を付与し、鋭利なその爪の部分に7:3の比率の点を作り、そこに向けて剣を振るう。
「爪は、他の部分より脆いようですね」
ドガっと大きな爪が落ちて地面に窪みができる。
「しかし、これでは爪切りと同じですね」
大鉈でもよかったが切れ味の良い剣で切った。だが当然ダメージはゼロだ。
(高い魔力、堅牢な城壁のような鱗、さらに、あの巨体があんな翼で空を飛び続けるなど、物理的に不可能)
呪術、魔法も、科学的なものではない。だがそれが術である限り、何かしらの法則がある。
(つまり、飛行する魔法、もしくはそれを補助する魔法も使っている)
元来、魔物の固有魔法は1つ、多くて2つ(この世界の常識基準)だが、目の前の黒竜が複数の魔法を使えるのを見ると、本当に魔物なのかと疑問に思えてくる。さらに。
(僅かですが、あの竜以外の魔力の残穢を感じる。……闇魔法ですね)
七海の〔+視認(極)〕は、ハジメと違い、魔力の色で属性を判別できない。ただし、1つだけ例外がある。それが闇属性魔法だ。魔力と呪力の関係はわからず、似て非なるエネルギーだと思っているが、闇魔法は特に呪力に近いものを感じるのだ。
(1、この魔物は作られた可能性がある。2、この魔物は何者かに操られている可能性がある。どちらにしても狙いはウィルさんのようですが…)
七海が攻撃するまで塞がって見えなくなってもウィルに狙いをつけていたのを見て、七海はそう判断する。
(術者が近くにいるとすれば1ですが、あれと同じ魔力を感じない。さらにあの魔力の残穢……なら、残念ながら2ですね)
もし仮説1ならその術者を倒せば機能を停止する可能性、もしくは野良の魔物になる可能性があるが、そうでないのならやはり目の前の黒竜を相手にする以外ない。
七海は嵐のような攻撃を避け続け、攻略の糸口を探す。
(かなり高い位置からでも攻撃できるはずですが、それをしないのは魔力の問題でしょうね。このまま魔力切れまで待つのもありですが、それでは時間がかかる上にいずれ追い込まれる可能性が高い)
しかし、当然倒すとなればまずダメージを与える必要がある。そして先ほどのような攻撃を防ぐには呪力出力を上げて身体を守る必要があるので、長期戦になれば呪力不足となり七海が不利。
(あの高度なら、呪力による身体強化でどうにかなる。後はダメージを与えること。…それも一撃で仕留めるような)
手段がないわけではない。
(ならば、今出せるだけの最大出力の呪力と私の術式。…そして)
だが、それは狙って出せるものではない。例外的に七海の術式はそれが発生しやすいがやはり狙って出せるものではない。
(思い出せ)
長らくその状態も、それも出してない七海が発生させられるかはわからない。だから思い出す。初めてそれを繰り出し、感じた時のことを。
(あの時に感じた、呪力の核心を‼︎)
攻撃を避け続ける。その合間に常にくる死線は七海の集中力を上げる。
「フッ!」
それまで回避の為に駆けていた七海は、いきなり方向転換して黒竜に向かう。当然黒竜もブレスで攻撃してくる。それを身体強化プラス避ける時に呪力を身体全体に覆い、防ぎながら直進する。
(最大威力は無理、それでもわかる)
それさえ出せれば後は連続でできる。それだけの核心ができてきた。そして脚に呪力を込めて跳躍する瞬間、
「⁉︎」
「グゥォォォォォォ‼︎」
滝の方から高エネルギーの魔力、レーザーのようなものが黒竜に命中し、七海の集中力が途切れてしまう。
「色々言った割には随分と苦戦してるんじゃねぇか、七海先生?」
瓦礫を吹っ飛ばして攻撃したハジメが、肩にその攻撃をしたであろう大型のスナイパー銃のような物を抱えて、不敵に笑っていた。
*
少し前、七海が洞窟の出口を塞いだ後に、ハジメは多少、いやかなりイラッとしたが、代わりに戦うならと考え掘削機を早速錬成した。キャタピラもついた移動式のものだ。
「洞窟の奥へ行くぞ。そこから穴を掘ってトンネルにする」
「ちょ、待ってください⁉︎七海先生を置いていくんですか⁉︎」
愛子の言葉にハァ〜とため息を出して、文字通り吐き捨てるようにハジメは言う。
「置いていくもなにも、七海先生が言い出した事だろ。俺の目的はウィルの確保だ。いちいち魔物と戦う為にいるのでもない。まして自分から1人で戦いにいく奴を助けることは俺はしない」
愛子はどうにか助けを、とユエとシアを見るが、2人はハジメの言う事に同意している。そうしていると外から爆音が鳴り響き、揺れが起こる。
「ここにいたら、あの魔物のブレスが飛んでくるかもしれない。早いとこ逃げるに限る」
「南雲!……そりゃ、あんたの言う事は正しいし、七海先生は強い…けど」
優花達にもわかる。あれは自分達に死のトラウマを与えたベヒモスなどとは比べ物にならないほどの存在だ。七海であっても勝てるかどうかわからない。
「七海先生は俺達の恩人だ!頼む、南雲!このとおりだ‼︎」
「助けてくれるなら、なんでもする‼︎だからお願い南雲君‼︎」
土下座をする者、全てを賭けてでも助けたいと思う者。先程のセリフもあり、そこまでするほどの人物なのかとユエとシアは思う。
「…断る。別にお前らに興味はないしな」
「南雲!………もしかして、恨んでるの?私達を助けたけど、自分を救わなかった七海先生を…」
「…それはないな」
そもそもあれは人為的なものだ。それに今は誰かを恨むという行為すらどうでもよいと思えるようになっている。ただ、自分の大切な者に傷をつける者以外は。
「南雲君、君がどんな絶望を味わって、どうしてそうなったかはわかりません。でも…南雲君は、本当に七海先生が死んでもいいと思うんですか?」
「………」
振動が度々強くなる。姿は見えないが苦戦しているのだろうとすぐにわかる。今まで苦戦という苦戦をしていない七海が苦戦をしているのが彼らは不安なのだ。
「……まぁ、あの人には借りがあるし、それにここまで散々子供扱いされたし、見返すのもいいし、あの人が死んだら教会が他の連中に対してどう動くかわからないし、あの人に借りを返して貸しを作るのも悪くないしな」
つらつらとハジメは言うが、そんな事言っているから子供扱いされるのだが、この場にそれを言う人物はいない。
「いいか?ユエ、シア」
「ハジメが決めた事なら」
「はいですぅ!それに、あの人は悪い人ではないと思いますしね」
ユエもシアも、七海に色々思うところはあるが、彼がハジメを大切な生徒と思っているのはわかる。少なくとも、悪人ではないと。ハジメは掘削機を錬成でバラし、次に宝物庫から武器を取り出す。
「んじゃ、まずはこの瓦礫ごと、吹っ飛ばすぞ‼︎」
そうして魔力を感じた場所に当たるように、高エネルギーの荷電粒子砲を放った。
*
「南雲君、集中!」
黒竜は攻撃された場所を見て、そこにウィルがいるのを発見し、攻撃対象を変えてブレスの発射態勢に移る。
「ユエ!」
「〝禍天〟!」
ユエがその魔法名を口にした瞬間、黒い球体が現出する。渦を巻くように黒竜へと降下していき、地面に叩きつけられる。
(高魔力の塊…何かしら魔法が付与されているのか?)
見たこともない魔法、重力魔法は神代魔法だ。七海は知らないがその類いだろうと考えていた。
「トドメですぅ〜!」
追撃にシアがハンマーを振り落とす。可愛い雄叫びと違い、そのハンマーは隕石の衝突のような衝撃と轟音に見舞われる。だがその数秒前、黒竜の威力は落としたが致死威力はある炎の塊をユエに向けて、ユエはそれを避けるために魔法を解除してしまい、ギリギリのところで黒竜はシアの一撃を回避した。
黒竜は再び飛翔してさらにユエがいた所より奥にいるウィルに目がいく。
「だから、よそ見はいけません」
七海は大鉈とメルドから借りた剣を、術式で作り上げた弱点に同時に振りかぶる。
「ぐっ!」
だが黒竜は今度は尻尾を振り、七海を地面へとたたき落とす。近くの岩に激突し、土煙が舞う。見ていた愛子達が心配そうに声をあげた。
「大丈夫ですよ。それより、もっと奥へ避難してください。足手纏いです」
七海は首を左右に動かしてコキコキと音を出し、腕を軽く回す姿を見た愛子と生徒達は安堵と『やっぱすげぇ』という感想を抱きつつ、愛子達は下がる。炎弾はユエが水属性の魔法で壁を作って相殺した。
(あれだけの高出力の魔法をああも何度も出せるとは…しかし、限界はあるでしょうね)
七海は駆けながら黒竜の真下へ行く。
「あなたも下がって!」
ユエが七海に自分の後ろへ来るよう指示を出す。
「いえ、大丈夫です。あなたはそのまま彼らを守っていてください」
七海は再び跳躍し、ウィル達に攻撃がいく前に口を塞ぐようにアッパーが入る。その衝撃で黒竜は後ろに下がるが、その時身をひねり尻尾で七海を攻撃する。しかし同じ手を何度も食らう七海ではない。七海も空中で身体をひねってかわし、逆に尻尾へ乗る。
「っ!」
強い風圧を受け、七海は一瞬しがみつくが、すぐに黒竜の身体を駆け、翼の部分へ到達して軽く跳び、翼に弱点を作り出し、再び両手に武器を持って振る。
「グゴォォォォ‼︎」
「ふっ!」
さすがに他の部分よりも防御力が弱いのか、ダメージを負い、高度が下がる。その隙を見て七海は降下して着地した。ちょうどそこにはハジメがいた。
「やっぱあんた
「規格外というならあなたとユエさんには及びませんよ。それより、なんで戻ってきたんですか?」
「はぁ?」
正直言って七海はハジメ達の行動に多少だが怒りがあった。最大の攻撃チャンスを潰されて、しかも愛子達とウィルを危険に晒した。
「私を援護するつもりで来たとしてもそうでないにしても、彼らを洞窟の奥に避難させてからにしておくべきです。守れるからいい、守れているからいいでは、この先痛い目に合いますよ」
「っ…こんな時も説教かよ」
「もっと言いたいことはありますが、これでも抑えている方です」
そう言い合っていると再び黒竜が動きだし、またもウィルがいる洞窟に目線が向く。
「ここまで無視するとはな」
「南雲君、来た以上は仕方ないので手伝っていただきますが…」
ハジメが別に手伝いに来たわけじゃないと言う前に、七海は続ける。
「あれを1分ほどひきつけて、さらに10秒…いや、15秒ほど動きを止めて下さい。ユエさんの魔法ならそれができるでしょう?それで決着をつけます」
「……そんなことで、できんのか?」
七海に自分達の知らぬ力があったとしても、先ほどからの打撃、斬撃では決め手にならず、かと言って強力な遠距離攻撃があるとも思えないハジメは疑問を覚える。
「できますね。そのくらい集中する時間があれば」
絶対の自信。それを感じてハジメは動き出し、口頭でユエに合図と共に動きを止めるよう指示を出す。とはいえ、
(俺が仕留めても問題無いよな!)
七海から離れた位置で先ほどの大型のスナイパーライフルのような武器、《シュラーゲン》を出す。紅いスパークが発生し、それが高魔力、高エネルギーだと感じたのか、黒竜は向きを変えてハジメにブレスを撃つ態勢になる。双方の攻撃が放たれると互いに押し合うようにエネルギーが拮抗する。だが、すぐにハジメの攻撃がそれを貫く。貫通に特化したシュラーゲンの一撃はブレスを霧散させて、黒竜の翼に魔力の篭った弾丸が命中した。
(チッ!弾道が少しズレたか)
ハジメは〝空力〟という技能を使って空中へ余波から逃げ、追撃を仕掛ける。黒竜の腹に〝豪脚〟が命中し、さらに身をひねり、追加で頭部に回し蹴りを入れる。黒竜は地面に墜落したがすぐに起き上がり、ハジメを睨む。
「本当に丈夫だな」
ハジメは『こんなやつに本当にトドメを決められるのか』と考えて、七海を見たとき、
「またか」
七海の全身から水色の魔力のような靄が出る。……残り15秒と拘束時間15秒。計30秒。
「私の術式は対象を線分した時7:3の比率の点に強制的に弱点を作り出します。それは生物、非生物と関わらずです」
少し早口気味に、七海はハジメに聞こえるような声で術式の開示をした。
「はぁ?いきなりなにを…」
「拘束お願いします」
七海の時計から音がする。
(あの時計⁉︎壊れてない⁉︎先生の身体から出てるアレのおかげか?)
ハジメはあれほどの攻撃で壊れてない事に驚きを隠せず呆然としてしまう。それに気付いて七海は大きな声でもう1度告げる。
「拘束‼︎」
七海の大きな声で、注意する様に指示すると、ハジメは我に返ってユエに指示を出す。
「〝禍天〟!〝凍柩〟!」
ユエは先ほどの黒い球体でまた黒竜の動きを封じた。しかもさっきと違い、自分に攻撃が来ないように〝凍柩〟で地面から凍らせてさらに動きを封じる。どちらも高度かつ上位の魔法だ。特に重力魔法はまだ集中する時間が必要だが、それはハジメが戦っている時に準備できていた。
「おまけだ!縛りあげてやる‼︎」
ハジメは地面を〝錬成〟で形を変えて黒竜の四肢を拘束、さらに土の檻を作り被せるように拘束する。
(錬成スピードだけでなく、術の効率化、正確性が桁違いに上がっている。さすがですね)
黒竜の動きを完全に封じた。それを確認した瞬間、七海は駆ける。1分の集中時間、術式の開示、跳躍に必要な身体強化の不要、そしてユエの魔法とハジメの錬成による拘束によって弱点が狙いやすい。これらの要素はそれを発生させる条件を充分に上げる。
「完璧ですよ」
七海は駆ける際にハジメの横を通り、そう言って更に黒竜へと向かう。
それは、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間に起こる現象。
その威力は、通常の呪力の2.5乗。そしてその時、空間が歪み、呪力は黒く光る。
(なんだ⁉︎)
(ただの打撃で空間が⁉︎)
(歪んだ⁉︎)
その現象の名は。
(黒閃‼︎)
黒い閃光が拳の付近で弾ける。もっともその閃光が見えたのは、ハジメとシアだけだが。
「ゴッッ‼︎」
黒竜は苦しむような声をあげた瞬間、ユエの魔法とハジメの錬成による拘束で抑えられているにもかかわらず、拘束具を破壊し空中へ舞う。だがそれは黒竜自ら飛んだのではなく、七海の黒閃によるものだ。
(あれだけの魔法とハジメの力で押さえつけてたのに⁉︎)
ユエは常識外と言えるほどの魔法と魔力を持っている。そんな彼女も、その光景はあり得ないと思えるものだった。
黒竜は数秒ほど宙を舞い、墜落したが、それでも黒閃の威力は衰えず、ズドドドドと轟音をたてて、地面を擦りながら移動していく。崖の下にぶつかってようやく止まるが、当たった衝撃で壁はへこみ、上から瓦礫が降ってきた。
「ふぅ」
その会心の一撃を決めた七海は、どこかスッキリした顔で息をこぼす。
(な、なんだあの黒い光⁉︎)
黒閃の威力と黒になった呪力を見たハジメは困惑もあるが、それ以上に七海という存在に疑問が湧いてくる。『何者なんだ』と。
「………驚きですね」
「⁉︎」
自分の思いをまた見透かしたと思ったのと、いつのまにか自分が七海に近付いていた事にハジメは驚く。黒閃にハジメは魅せられていた。
「あれをくらってまだ生きているとは」
ガラガラと音を立て、瓦礫を払って黒竜は立つ。だが、すぐにバタンと倒れた。黒閃のダメージは当然ある。今のは最後の体力で瓦礫から出たのだろう。
「もう何発か…」
「待て先生、考えがある」
ハジメは黒竜が動き出してすぐに倒れた事で、自分もどうにか落ち着いたそして〝宝物庫〟から巨大な杭が装填されたパイルバンカーを出す。
「気絶してるようだな。ほんと、大した威力だよ」
ハジメは素直にそう言うが、内心はまだ驚きがある。
「さて…なぁ先生?この世界には『竜の尻を蹴り飛ばす』って言葉があるのを知ってるか?」
「確か、私たちの世界で言う『逆鱗に触れる』と同様の意味でしたか?」
「あぁ。そこだけが唯一の弱点らしいからな」
「烈火の如く怒り狂うとも言いますよ?私がトドメを刺します」
「さっきの攻撃がトドメのつもりだったんだろう?それができてないんじゃ意味ねーだろ」
七海の意見を無視し、ハジメは気絶してる黒竜の後ろに回る。竜の尻にパイルバンカーを固定して発射準備が整う。
「ケツから死ね、駄竜が」
*
後に七海建人は心底安堵して語る。
『あの時トドメを刺すのが私でなくてよかったですよ。色んな意味で』
後に南雲ハジメは心底辟易して語る。
『あの時トドメを刺すの七海先生に任せればよかった。色んな意味で』
*
パイルバンカーの巨杭が、黒竜の尻の名前は言えないある部分に勢いよく、ズブリッと勢いよく刺さる。その瞬間。
【アッーーーーー‼︎⁉︎なのじゃあああぁぁぁーーー‼︎‼︎】
黒竜が痛そうに、どこか気持ちよさそうな奇声をあげた。……女性の声で。
ちなみに2
『七海がいることで原作以上に苦労or酷い目に遭う人リストfile3:ティオ・クラルス』
トータス初の黒閃(しかも七海の術式ありの威力最大)を受けてしまった…………ご褒美だなこれ
ティオ「酷いのじゃ⁉︎でもそれがいいぃ!」
ティオは最初七海のヒロインにしようかと思いました。七海のストレス要因にして話にからませやすいと思い。でもよくよく考えたら言動そのものが七海のストレスになるし、何より色んな意味で七海の手におえない
ちなみに3
あのままハジメが加勢に来なくてもかなり苦戦しますが七海は勝ってました。しかしその場合、連続黒閃でティオの息の根を止めてました
それと操られてない状態でガチ勝負になれば七海は敗北します
次回は8月の…たぶん15日に出せます