ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

22 / 107
なかなか納得できる形にできず、時間がかかりましたがどうにか8月中に出せました。まぁ、ほぼ終わりだから9月みたいなもんだけど詳しくは後書きで


軽慮浅謀

女性の甲高い声が周囲にこだまする。聞く人が聞けば『なんだ』と思うこと間違いない。問題はその声がさっきまで殺し合いをしていた相手、しかも人外の黒竜が出したのならなおのこと『なんだ⁉︎』であろう。

 

奇声を間近で聞き、思わず七海は耳を塞ぐ。

 

【お尻がぁ〜‼︎妾のお尻がぁ〜‼︎】

 

(頭に響く)

 

悲壮感2、痛み3、興奮5といったところだろうか。声自体は口からではなく頭に直接入ってくるような感覚で、七海は少し鬱陶しさを感じた。それ故に、その声に感じるものも、聞こえる者達にもなんとなくわかるのである。

 

「な、なんですかこの声⁉︎」

 

「ちょっと色っぽい⁉︎」

 

どうやら愛子達の方にも聞こえたところを見ると、相当広範囲に聞こえるようだ。

 

「魔物には喋れるタイプもいるんですね」

 

冷静に七海はつぶやいた。

 

呪霊にもそういうのはいた。カタコトや言動に意味のないものからあるものまで様々だ。だからこの程度では驚きなどしないが、七海は黒竜を凝視し、

 

「いや、違いますね」

 

ある可能性が浮上した。

 

「やっぱこれ、こいつの声か?」

 

ハジメの方は喋れる魔物という存在に驚きつつ考える。戦って思ったのはこの黒竜は大迷宮の深層のボスレベルの存在。それがいるなら噂や危険を知らせる教えや伝承のひとつやふたつ、そこらにあるはずなのに、それがなかったことで、ハジメにもある仮説が立つ。

 

「私の最初の仮説は作られた魔物か、操られた魔物でしたが…後者で少し違う答えですね」

 

七海もハジメも、この世界のことを調べる際に見た、何百年も前に滅んだとされる種族。

 

「まさか、竜人族か?」

 

七海とハジメの考察は的中したらしく、黒竜は痛みに耐えつつ諦めたように認めた。

 

【……いかにも。妾は誇り高き竜人族の1人じゃ。いろいろ事情があってのぅ…説明するから、それ、そのお尻のそれ、抜いて欲しいんじゃが…】

 

「抜かなくても喋れるならその状態で聞きますので。なぜ」

「…なぜ、こんなところに?」

 

七海の言葉を遮り、ハジメの近くに来たユエは質問する。その瞳からは若干だが煌めきを感じる。七海は知らないが、彼女にとって自分よりもさらに前に滅んだとされる竜人族は憧れの対象でもあるのだ。

 

【喋る、喋るからぁ、説明するからぁ〜まず、そ、それお尻のそれ抜いてほしいのじゃぁ〜竜化は魔力の消費が激しいから、このまま戻ったら、大変なことに…おねがぁいなのじゃ〜】

 

「あぁ⁉︎ユエが質問してんだろが‼︎」

 

ユエの質問を無視したことが許せないのか、ハジメはお尻の巨杭をガントレットを着けた拳で殴る。…ちょっと杭が先に進んだ気がした。

 

【アウン!オウン!や、やめ、まず、い!あ、グリグリはダメなのじゃ〜‼︎】

 

その所業にようやく来た愛子達はドン引きするが、尚もハジメは止めることなく「ホラホラァ‼︎どうだコラァ⁉︎」と今度は杭をグリグリする。だが。

 

「いいかげんやめなさい。会話が全く進みません」

 

「アァン‼︎」

 

ハジメはビキビキと睨みながら〝威圧〟をする。効果はないが七海は頭を抱えて、「ハァ」とため息を出す。一方で黒竜はハジメの尋問という名のイジめが止まり、ほっとする。

 

【た、助かったのじゃ〜】

 

「なに安心してるんです?」

 

【へ?】

 

だが、彼女は勘違いしている。

 

「早く喋ってください。無駄話はするつもりないので……南雲君、杭を殴る用意を」

 

【ヘァ⁉︎ちょ、ま】

 

静止を聞く前にハジメが鬱憤も込めて杭を殴る。

 

「早く喋ってください。こちらも暇ではないので」

 

七海は別にこの黒竜に同情したわけではない。喋らないのならそれ相応のことを受けてもらうということだ。その目がハジメのと違い、殺意全開のため愛子達は別の意味で引いていた。

 

 

ようやく話し出した。黒竜曰く襲ったのは本意ではなく操られていたせいとの事。数ヶ月前に、何者かがこの世界にやってきたと感知した竜人族の仲間がいた。その情報を確かめる為、調査として竜人族の隠れ里を飛び出して来た。

 

【竜人族には、表舞台には関わらないという種族の掟があるのじゃが、流石にこの件を何も知らないまま放置はできない。本来なら山脈を超えた後は人の姿で市井に紛れ込んで、竜人族である事を秘匿し、調査するつもりじゃったが】

 

先ほど黒竜が言ったように、固有魔法〝竜化〟は魔力消費が激しい、だから休息をとっていた。もちろんだが周囲に魔物はいるので竜化したままで。そこに1人のローブの男が洗脳と暗示といった闇魔法を多用し、黒竜は思考と精神を丸1日かけて奪われたらしい。

 

「なぜ反撃しなかったんですか?まさか魔法にかけられているのが気づかないレベルで丸1日爆睡していたわけでもないでしょうに」

 

【……………………】

 

黒竜が黙り、明後日の方を見る。七海の目が直視できないくらい鋭くなる。

 

「…図星なんですか?」

 

【と、とにかくじゃ!】

 

露骨に話を逸らしたのを見て、七海以外がなんとなくバカを見る目になる。

 

【奴の魔法はかなり強力じゃった。闇魔法に関しては天才的と言っていいほどにの】

 

愛子達は「まさか」という声を出す。心当たりが1人いるからだ。七海の考えは核心だが今は話を聞く選択をする。

 

その後はローブの男に付き従い、山脈の魔物の洗脳を手伝わされたそうだが、ウィル達に洗脳したブルータルの群れを見られたのをきっかけに術者は目撃者を消す命令を出した。

 

「そこまで聞くと、どうやら操られていても意識と記憶はあるようですね」

 

【うむ。後はお主達と戦い、命令と生存本能がぶつかって暴れ、そこのお主の一撃で意識を消失し…その、お尻の一撃が強い刺激が止めとなって】

 

意識が戻り、洗脳も解けたということだ。

 

【それにしても、お主何者じゃ?魔力もないただの斬撃や拳で妾にダメージを与え、最後のなど魔力も魔法でもないただの拳だけで空間が歪むなど…咄嗟に攻撃箇所付近を魔力で強化してなければ、本当に危なかったのじゃ】

 

その質問に対し七海は

 

「ただの教師ですよ。こっちにきて強化されましたが」

 

と言ってはぐらかす。

 

「ふざけるな⁉︎操られてたから、しかたないとでも言うのか⁉︎皆、皆死んだ‼︎お前のせいで‼︎」

 

それまで黙っていたウィルが意を決して声を荒げる。その言葉を黒竜は否定することなく、【その通りじゃ】と肯定した。ウィルはそれに対してまだ言うことがあったが、七海が止める。

 

「気持ちがわからないことはないですが、落ち着いてくださいウィルさん」

 

「落ち着けって…できるわけないでしょう⁉︎それに今の話が本当かどうかもわからないじゃないですか⁉︎」

 

【今話したことは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない】

 

「じゃあそれを証明してみせろ‼︎今すぐに‼︎」

 

憎しみを込めた言葉を浴びせるがそれで収まりはせず、なおも続けてまくし立てようとする。七海はどう止めようかと考えていると、不意にユエが意見を出す。

 

「嘘じゃない。きっと、嘘じゃない」

 

「どうしてそう思うんです‼︎」

 

ユエは知っている。竜人族がどれだけ高潔で清廉な存在か。

 

「私はあなた達よりずっと昔を生きてきた。だからわかる。彼女が竜人族の誇りにかけてと言ったなら、きっと嘘じゃない」

 

「…ユエさんは、過去の人間が受肉した存在なのですか?」

 

ずっと昔という言葉が比喩表現ではなさそうだと感じ、七海は可能性の1つとして聞いてみた。

 

「受肉?違う。私は吸血鬼族の生き残り。300年ほど前に王族の在り方として、竜人族の話はよく聞いていた」

 

ここ数日で驚きの情報がどんどん出てくる。その存在も書物で見るだけの存在と思っていた者もいたようだ。そして彼女は今、王族と言った。そこまで聞けば彼女の膨大な魔力なども説明がつく。

 

「っ…だが、だからって殺したことに変わりはない。もしまた操られたら」

 

「なら、ここで彼女に償いをさせますか?」

 

ウィルの疑念に対し、七海は拳を黒竜に向けて言う。

 

「正直なところ、私は誇りという見えないものに関心はありませんし、仮にあっても、誇りは時代と環境の変化、何かしらのきっかけで容易に変化する」

 

七海の頭にはかつての尊敬する先輩が頭をよぎる。弱者生存を掲げ、強者たる呪術師は非術師を守る為にあると言った彼でさえ、呪詛師へと堕ちた。

 

「しかし、それで戻る者はいない。なら、今彼女になにをさせるかが問題だと私は考えます。……あなたはどうなんですか?」

 

七海が黒竜に尋ねると、黒竜は目を逸らしたりせず、真っ直ぐに見る。

 

【妾が罪なき人々を殺したのは事実。たとえ操られていたとしてもそれは変わらぬ。罰を受けろと言うなら甘んじて受けよう。じゃがしかし、今しばらく猶予をくれまいか?…妾を操っていたあの男を止めるまで】

 

その男が魔物の大群を作ろうとしている、もしそれが人里に向けられたら、どうなるか考えたものではないと黒竜は危機感を抱いている。

 

【勝手なことを言っているのも重々承知しておる。じゃが、どうか、妾に悲劇を止める機会を与えてくれ】

 

七海は拳を下げてハジメ達を見る。

 

「と、言ってますがどうしますか?」

 

七海は最初から殺す気などなかった。全て信じたわけではない。だが…

 

七海は以前の地球で、宿儺が渋谷で起こした事を知らない。一時気を失い、満身創痍だった彼には感じることはできない。だが、それでももし、彼が、虎杖悠仁なら、宿儺が凶行を起こした後に後悔と罪の意識に苛まれるのはわかる。それと同じ感覚を、黒竜に感じていたのだ。

 

「いやお前の都合なんて知ったことじゃないし」

 

だがそんな悲壮感や誇りなんか言葉通り知ったことじゃないと、ハジメは今まで面倒をかけた詫びとして死を与えようと、杭に向かって拳を振りかぶる。

 

【ちょーーー⁉︎待つのじゃ‼︎後生じゃ!事が終われば好きにして構わんから、お願いなのじゃー‼︎】

 

まったく容赦もない。このままでは本当に黒竜を殺しそうなので、七海はどうにかハジメを止めようと小さくため息を吐きつつ声を出そうとしていると、ユエが柔らかな声で止める。

 

「殺しちゃうの?」

 

「殺し合いをしたんだ、当然だろ」

 

「でも意思を奪われてた。それに、一度でも殺意や悪意を向けられた?」

 

操られていた黒竜は命令のままに動く。そこに悪意など存在しない。もし悪意があるならそれは黒ローブの男の方だろう。

 

「それでも殺せば、自分に課した大切なルールに反しない?」

 

ユエはハジメがこうなった経緯はよくわかる。だが、自身の敵以外を殺せば、彼が壊れてしまう可能性があるから。ハジメとしても、無関係な者を巻き込んで殺す気はない。ただ、そういう思い、そうなれたのは間違いなくユエの存在があったからだ。だから間違えたくはない。

 

【のう、会話の途中ですまぬが、もう〝竜化〟が解ける。そうなるとどっちにしてもこのままでは妾死んでしまうのじゃ】

 

だから杭を抜いてくれと黒竜は懇願する。「どういうことだ」とハジメが聞くと、竜化が解けると外的要因は元の肉体に反映されてしまう、つまり尻に巨杭が刺さった状態で戻ると黒竜は言った。かなり切実な理由だった。

 

【《新しい世界》が開けたことは悪くないのじゃが、流石にそんな死にかたは許して欲しいのじゃ!もうこの際殺してもいいから、後生じゃから抜いてたもぉ】

 

聞いてはいけない言葉を聞いた気はしたが、仕方ないとばかりにハジメは杭を抜き始める。その際いちいち【はぁあん!】とか【きちゃうぅ】とか、最後の方は【あひぃぃぃ】と何故か痛そうなのに艶がある声を出していた。

 

そうこうしてようやく抜くと、魔力の繭に包まれ、それが晴れると黒い着物を着て、長い黒髪をなであげた美女が現れた。艶っぽい顔で少し顔も赤くなり、胸元をわざとかというほど見せる。そのサイズはシアと同等、いや、それ以上ほどはあり、男子は前屈みになる。当然、ハジメと七海は除いて。

 

「そういえば、自己紹介ができていませんね。話を聞くなら、互いを知るなら、まずそれからでしょう」

 

「ティオじゃ。ティオ=クラルス。竜人族、クラルス族の1人じゃ」

 

「では、ティオさん。あなたの言う悲劇とやらを詳しく教えてください」

 

 

ティオの言う悲劇は彼女を操った黒いローブの男が3000から4000の魔物を群れのリーダーを洗脳して配下にしたこと、黒いローブの男は黒髪黒目の人間族で少年くらいであること。そして――

 

「確か、こう言っておったな。『これで俺は、あいつより上だ。俺が本当の勇者だ』とな。随分と妬みの含んだ声じゃった」

 

「そんな、まさか………」

 

最初こそ魔人族と思っていたが、これらのヒントで愛子達の頭にはある人物がよぎる。信じたくない気持ちが大きいが、それに追い討ちをかけるかのごとく、七海は僅かな可能性を切る。

 

「お察しの通りですよ。犯人は清水君です」

 

はっきりそう告げた。

 

「ど、どうしてわか…!」

 

その先の言葉など言えない。そもそも今回七海を呼んだのは、残穢による清水の捜索の為。

 

「ティオさんと戦っている時に彼女から彼女以外の魔力の残穢を感じました。それは、宿にあった彼の残穢と一致します」

 

いずれはわかることなら、傷は早めの方が良い。むしろわかっていたのに隠す行為はさらに傷付けるだけだと七海は考えた。

 

「しかし、今はその4000という数の魔物をどうするかでしょう。それにそれだけの軍勢を持っているなら、その最後尾に彼がいる可能性は高い。なんにせよ、まずは魔物を…」

 

「その魔物の軍勢なんだけどよ」

 

ティオの話を聞いてオルニスを飛ばし、魔物の群れとローブの男(清水)を探し、見つけた。だがその数が問題だった。

 

「数4000ってレベルじゃねぇ。それに桁が1つ追加されるレベルだ。おまけに、もう進軍してる。狙いは方角的に、まず間違いない。ウルの町だ」

 

 

 

車輪が走行音を立てつつ、ガタガタと大きく揺れながら、ブリーゼは進む。

 

「な、南雲〜!もう少し、なんとか、できないのかぁ⁉︎」

 

荷台に乗った男子達は揺れを特に感じながら、振り落とされないよう必死にしがみつきながら、ハジメに要求する。だがハジメは「我慢しろ」と言い、更にスピードを上げる。

 

数を聞いて愛子達とウィルはかなり取り乱したが、七海はともかくこの場にいてもどうにもならないと、まずはウルに戻る事を提案した。

 

「しかし、ハジメ殿ならどうにかできるのでは?」

 

「俺はおまえの保護のために来てんだ。保護対象を連れて大群と戦闘なんてできるか。この場所は起伏が激しいし障害物も多いから殲滅戦には向かない。まして万が一にも俺達が全滅したら、町はどうなる」

 

ウィルの意見はすぐに却下される。

 

「南雲君の言う通りです。今は少しでも早く戻り、一般人を1人でも避難させるべきです」

 

「七海さん……」

 

1人だけ落ち着きながら言う。その姿を見てウィル達も冷静になれた。だが実際のところ七海は焦りがあった。飛行能力のある魔物もいると聞き、どれだけ急いで逃げても絶対に逃げ遅れは現れるし、多大な被害は出る。

 

(百鬼夜行以上の数。等級はその時の平均以下でしょうが………)

 

とはいえ、作戦ならある。作戦とは到底言えないかもしれないが。その上…

 

「はぅあっ、傷が、傷がぁ〜じんじんするのじゃぁ」

 

魔力の枯渇で動けないティオは車の屋根に貼り付けられた。車が揺れるたびにわざとらしい声を出す。

 

「………南雲君、彼女を黙らせていただいても?」

 

「したいのはやまやまだが、今は我慢してくれ」

 

ストレスを感じながら七海は考える。彼女とイヤでも協力しなければいけないことに。

 

 

ウルの町に着いて、愛子達の護衛である神聖騎士達とマッドとパーンズが、帰還したことと勝手に行ってしまったことについて言及していると、ウィルが車から降りてすぐさま駆け出した。ハジメの方は愛子達を置いてさっさとウィルを送り届けたかったのだが、「ったく」と悪態をつきつつ追いかけ、愛子達もそれに続く。

 

「先に行ってください。私は彼らに事情を説明するので」

 

七海はそう言い先に行かせた。説明をするのは本当だが、それとは別にやることがあるからだ。ハァハァと息を立て、何故か恍惚な表情をして周囲から引かれていたティオに声をかける。その際パーンズ達に「危険です!」と言われた。

 

「ティオさん、お願いがあります」

 

「?」

 

「というか、拒否権ないですけどね」

 

 

話を終えて町の役場に向かい、話し合いをしている部屋に向かうと、愛子がハジメにこの町を守ってほしいとお願いしていた。

 

「南雲君、どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、この町どころか、多くの人々が蹂躙されてしまいます」

 

その言葉にハジメが反論を言う前に七海は部屋に入って、一瞬様子見をし、質問する。

 

「…南雲君、君はどうしますか?」

 

「な、七海先生?」

 

「話を聞く限り、南雲君に魔物と戦うことを要請したというところでしょう。下山の際にあの場では殲滅戦はできないと言っていた、なら平地ならそれができると踏んで」

 

「は、はい。ですから…」

 

「しかし、断られたからもう一度要求してると言ったところですか?」

 

当たっていた。ならなぜ止めるのかと思う。

 

「畑山先生、我々は教師です。今1番に考えるべきは生徒の安全と帰還です。我々はその為に動いていたはずです」

 

「は、はい」

 

七海は知っている。誰かを救うことの意味を、そのレベルが高いほど、命を懸けなくてはならない事を。

 

「他人の為に命を懸ける選択を、自らの生徒に強要する教師がどこにいるんですか」

 

「…………」

 

ハジメは何も言わない。言いたい事は今七海が言っている内容とほぼ同じだからだ。

 

「しかし、あなたの気持ちがわからないわけではありません。なんの罪もない人が殺されてしまうのは私も容認できるわけではない。それに私としても彼に頼みたい気持ちがないわけではありません」

 

「なら!」

 

「故に、南雲君。君には選ぶ権利がある。ここを助けるも助けないも構わないですよ。その時は私が出るだけです」

 

「⁉︎そ、それって…」

 

愛子はそこで七海の考えに気づく。

 

「えぇ。魔物の軍勢は私の方で対処します」

 

それが、あまりにも無謀な事を言っているのはわかっている。いくら敵がザコだろうと、百鬼夜行の時以上の数を相手に呪力が保つとも思えない。

 

「私は教会の方々に約束をしていますしね。それが今来ただけです。一応言っておきますが、死ぬ気はないので。…南雲君、もしここを今すぐに離れて、ウィルさんをフューレンに連れて行くなら、そのついでで、畑山先生と残りの生徒達も連れて行ってもらって良いでしょうか?」

 

「「「なっ⁉︎」」」

「「「えっ!」」」

 

「七海先生⁉︎」

 

生徒達と愛子は、こんな場所でこのような事を堂々と言う七海に驚く。

 

他にも逃げたい者はいる。それよりも先に逃げると言う選択をさせる。だが、ハジメと一緒なら文句は言われることはないだろうと七海は予測した。

 

「まぁ、そのくらいならいいけどよぉ」

 

「南雲君⁉︎」

 

ハジメのその承認が先の質問の答えとなった。否、こうなることも織り込み済みなのだろうとハジメは考える。

 

七海は「なら、よろしくお願いします」と事務的に言う。

 

「けどよ、七海先生。あんたどうやって大群を止める気だ?魔物の群れには地上よりは少ないが、それでもかなりの数の飛行能力のある魔物もいるんだぜ?」

 

ハジメは少し気になり、七海に聞く。

 

「……いくつか考えはあります。それに、神聖騎士とマッドさんとパーンズさんも僅かながら助力してくれるそうです」

 

七海は最初はそれも断った。避難する人達の誘導をしてほしいからだ。

 

「愛子殿の約束は我々にも有効です。どうか、お願いします」

 

「建人殿だけを戦わせるなど、できません‼︎」

 

と2人は引くつもりがなかった。更にどうやったのか2人は愛子の護衛を任された神聖騎士達も説得した。彼らはギリギリまで粘るそうだ。

 

「そんなわけで、私は魔物を迎え討つ準備があるので失礼します」

 

「待ってください!七海先生‼︎」

 

「………南雲君、彼女達をお願いします。無理矢理連れて行っても構わないので」

 

愛子の言葉を無視し、これ以上聞く気はないと言わんばかりに、七海は退出する為扉に向かう。

 

「南雲君、君の考えは別に間違ってませんし、否定する気はありません」

 

七海はある程度のイカレ具合が必要とされる呪術師として戦って来たからこそ、特定の人間を生かし、時に見捨てる選択をしてきた。故に、今の彼の考えを否定する権利は呪術師でもある七海には(・・・・・・・・・・・)ない。

 

「そして、大人である我々が背負うべきことを、子供の君が背負う必要はない。それに既に人を殺していても、君が背負うにはこの案件は大きすぎる」

 

これより行われるのは、所謂戦争。誰かの命の為、自命をかけて守る。言葉で言えばとても綺麗に聞こえるが、その本当の意味を七海はわかっている。

 

「こんな世界にいればいつか背負う時がくるかもしれません。けどそれは今背負うべきじゃない」

 

「……………………」

 

「畑山先生、私からは以上です」

 

七海は扉を閉め、外へ向かう。ついて来ていたマッドが聞いてくる。

 

「よかったのですか?」

 

「良いも悪いもないです」

 

「しかし、このような…」

「時間が惜しいので早く対策を立てましょう。避難誘導もしなければ」

 

「…はっ」

 

 

七海が去った後、愛子はグッと拳を握る。

 

「畑山先生、悪いが行くならさっさとしてくれ。七海先生は無理矢理でもとか言ってたが、俺の目的はウィルを送り届けることだけだ。拒否するなら連れて行く気はない」

 

はっきりとハジメは言う。

 

「死にたい奴を2度も助けてやるギリはない」

 

その言葉を聞いた愛子はハッとして、あることに気付く。そして、その体型に合わない表情で言う。

 

「………あの人は死にたいなんて、思ってません」

 

死ぬ覚悟はある。だが、死にたいなどと思ってはいない。なぜかはわからないけど。

 

「あの人は、いつも、地球にいた時から、何かを求めてた。それが何かわからない…けど‼︎」

 

いつだって、七海は誰かを思っていた。誰かの為に命懸けになる覚悟をもっていた。

 

「あの人の言う通りです。私は命を懸ける選択を生徒に強要した。教会の方々のそれと同じです。それでも、私は見捨てたくない」

 

愛子とて大人だ。時に何かを切り捨てなければいけないことなどわかっている。

 

「今でも私の最優先は生徒です。でも、この町には世界が違っても同じ人間がいる。私達と同じく、泣いて、怒って、笑って、言葉を交わして。そんな人達をできる範囲でも救いたい。きっとこの想いは七海先生も同じだと思います。だから、戦うんです」

 

愛子はこの世界に来てから、七海に対してほんの僅かながら疑心があった。だが、今ハジメに言われて改めてわかった。やっぱり七海は、厳しく、冷たいようで、とても優しい人なのだと。

 

「七海先生からの言葉も踏まえて、考えたうえで、もう一度お願いします。力を、貸してください」

 

愛子は思う。七海が自分達に話せない何か(・・)があるのではと。先程の言葉は、七海の考えと、七海ではその何かが理由でハジメに何かを言う権利がないから、自分を頼りにしたのではないかと。

 

「七海先生はああ言いましたが、大切な人以外を切り捨てる生き方はきっと寂しい事です。君にも、君の大切な人にも幸せをもたらさない。七海先生は、君ならそれにいつか気付くと信じているんだと思います」

 

ずっとそうだ。七海は再会した時からずっと、ある程度の疑いはあれ、ハジメへの信頼の方が強かった。けど、自身の立場を思い、彼に頼るのをやめたのだ。

 

「幸せを望むなら、あなたが元々持っていた、誰かを思いやる気持ちを、捨てないでください」

 

自分がいますべき事は、わかっている。だからこそ、教師として、七海とは違う形で生徒に寄り添うのだ。

 

「……………正直、俺は今、あの人に言いたいこととか山ほどある」

 

さんざんガキ扱いされたこと、あの力はなんだ、何者だ。色々あるが1つだけ言えるのは、七海が自分の先生だと言うこと。それは聞かずともわかる。

 

「けどそれより今聞きたいのは畑山先生だ。………先生、この先何があってもあんたは…いや、あんたも(・・・・)俺の先生か?」

 

「当然です‼︎」

 

迷う事なく即座に答えた。

 

「言ったな。何があってもだ……ちょうど俺も、あの人を見返してやりたいと思ってたしな」

 

ハジメのその言葉に、愛子はパァと明るくなる。

 

「にしても、ほんとあんたらいい教師コンビだと思うぞ、ほんと、早よ付き合えってレベルで」

 

「だからぁ⁉︎」

 




ちなみに
軽慮浅謀:あさはかで軽々しい考えや計画、または考え
清水の今回の計画についてのもの。彼なりに計画してるしハジメがいなければ完遂できただろうが、ティオの洗脳が解かれた事を気付けないのに万が一を考えてない。ところとか、利用されていることに気付けてないところを踏まえて
彼を表す言葉も考えてますがそれは次回かその次くらいのタイトルになるでしょう

ちなみに2
今回の納得できずに変更した点
・ティオに縛りを結ばせて強制的に七海に従わせる。
 ティオを含めた全員に七海の不審感を与えてしまうので消しました。とはいえ、次の話で…
・最後のやりとり
 七海がハジメに助けを出すかでまず悩みました。最終的に「ないな」と思い、それに関して愛子とハジメにどう接するかで悩み、消してはつけてをしてました

意見感想あればお願いします。

次回は……9月には出します

七海「大雑把ですね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。