ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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短いので早めにでる。それがありふれさんぽ



ありふれさんぽ:お食事パン(異世界編)

パチパチと火が燃え、その周囲を人が囲うように…

 

「あぁ!またユエさんがハジメさんの隣にぃ!私も入れてくださいですぅ!」

 

「いや、だからシアそれは」

 

「うむ、負けておれんな。ご主人様、妾も」

「黙れ変態。そこの炎に焼かれて身を清めてこい、いっそそのまま戻ってくんな」

 

辛辣を越えた罵倒だと言うのに嬉しそうにティオはグネる。そして囲うのは火でなくハジメである。

 

「ったく。もう少し時間があれば、フューレンに着いたんだがな」

 

七海への質問などもあって遅れてしまい、今夜は野宿。

 

「しかし、こんな場所で野宿ですか?」

 

「なんだ、魔物が来るの心配なのか?」

 

「そうではないです。いや、ちょっと前だったらそうですが、今は周囲の掃討された魔物の死骸のあるところでの野宿が問題で」

 

燃やしているのでもう腐敗臭はしないが、それでも嫌なもんである。

 

「わがまま言うな。守ってんだから」

 

「そう、ですね、ハイ」

 

「それよか心配なのはあれだろ」

 

指を向けた先にいるのは七海だ。具材を切り分けている。ちなみに包丁もまな板もその他の調理器具もハジメ製の1級品である。この少し前…

 

「お世話になるわけですから、今日の食事は私が作りましょう。ウルで感謝の気持ちという事でいただいた残った香辛料やら食材がありますし」

 

シアが作ろうとしたが七海はそう言って代わった。拒否してもよかったが、手際を見てシアは彼に任せた。とはいえ、ハジメは七海が作る料理に不安がある。「本当にできるのか」という不安だ。

 

「大丈夫だと思いますよ。代わった時に手際を見ましたけど…」

 

「けど…なんだよ」

 

シアはぐぬぬぬと拳を握り、ちょっと歯軋りをして言う。

 

「私よりも手際がいいんですよあの人ぉ〜」

 

「まぁ、女としては複雑じゃろうな」

 

「私も本格的に覚えようかな」

 

ユエが対抗心を燃やすが、やはりハジメは差別というわけではないが、職員室で黙々とパンを食べていた七海に料理の腕があるか心配している。

 

手際がいい=料理が美味いとは限らないのだ。

 

「さっきから色々話されているようなので、一応言っておきますと、呪術師は基本的に1人身の方が多いので、皆それなりに家事全般の生活力はあります。一度死んでもその経験は覚えていたので、今までも活かせています。そもそも君は私がいつもパンしか食べない人だと思っていたんですか?」

 

「いや、そういうわけじゃ……(いい匂い)」

 

鍋を持って来た七海。その鍋からニンニクの香りとオリーブオイルに近い匂いがした。

 

「アヒージョと言います。夜は冷えますから、鍋にしてみました」

 

「「「「おぉぉぉー」」」」

 

器を用意して盛り付ける。

 

「ニンニクの風味とオリーブオイルの香りがたまんねぇな!これは、干し肉か?」

 

「ええ。マッドさんとパーンズさんに分けていただきました」

 

「これもハジメの故郷の料理?」

 

「ああ。つっても日本じゃなくてスペインって国の料理だけどな」

 

「色々な国ごとに料理は枝分かれしていくものですが、ハジメ殿や建人殿の世界はその発展が凄まじいですね」

 

この世界でも美味しいものは美味しいし、地球と似た料理も数多くある。だがそれでも、発展の質で言うなら地球は特に顕著であると七海はこの世界に来て感じていた。

 

「その辺はなんか異世界って感じでちょっとワクワクするけどな」

 

「そういうものなんですか?」

 

そういう異世界系あるあるをよくわからない七海は、時折出るハジメの言葉は謎であった。

 

「さて…では」

 

ある程度食べた七海は立ち上がり、別の鍋を持ってくる。火にかけているアヒージョの入った鍋を鍋敷きに置いて、もうひとつの空の鍋を用意し、今ある油の量を見て「なんとかいけますね」と言ってそれを全て入れ、火をつけて油の温度を上げる。

 

「先生、何か揚げるのか?」

 

ハジメの言葉に軽く頷く。その軽い行動にハジメは訝しむ。すると、ウエストポーチ並みの大きさの鞄を取り出し、それを開けると布に包まれた何かを取り出し、布を剝がしていく。すると今度は紙で巻かれた何かが見え、その紙も取り外すと、パラパラと小さな粒のようなものが落ちた。

 

「なんです?」

 

「見た目からして、まだ焼かれてないパンのように見える」

 

「まさかと思うが、それを揚げるというのか?」

 

シア、ユエ、ティオはその行為を非難する。パンを揚げる行為は邪道だろという考えだ。

 

「それの周りについているのは…パン粉でしょうか?パン粉で包んだ物を揚げるというのはありますが、パンをパン粉で包むなど、聞いたことがありません」

 

「…美味しいんですがね」

 

4人とも、「ほんとか?」と疑いの眼を向ける。だが、ただ1人。地球から来た、そしてそれが誕生した国、日本で産まれ育ったハジメはそれが何か気付いた。もっといえば、それの姿が見えた瞬間、衝撃で叫ぶ事すらできなかった。本当に衝撃的な場面に遭遇した時、人は言葉を失う。

 

「ハジメ?」

 

ユエはハジメが驚愕の表情をしているのに気づく。あの邪道パンについて知っているのかと尋ねようとしたが、その前にハジメは声をあげる。

 

「ま、まさか…七海先生、それは、まさか!」

 

「ええ。ウルの町で水妖精の宿に着いた時、オーナーさんとそこの料理人に頼んだ物です。香辛料がない中、残った物で作るので失敗できない。さらに町があの状況になったというのに、料理人の意地というものであの調理場に残って試行錯誤し、作り上げた試作品。宿を出る際にいただきました」

 

それは、トータスで初めて作られたパン。七海の口から聞いた情報で作り上げたパン。その名は…

 

「カレーパン……こちらの世界で言うならニルシッシルパン…とでも言いましょうか?」

 

「まさか、この世界でそれを見ることになるとは夢にも思わなかったぜ」

 

パンは焼く物…その概念は当たり前だ。揚げパンという物は地球でも誕生して新しい。しかもカレーが入ったパンは、日本人が考案した現存するパンの中でも新しい部類。トータスの食概念が低いわけではないが日本食の概念はあまりなく、洋食など海外のものが近い。故に、パンを揚げる行為は邪道。カレーパンがなくても納得なのだ。

 

「作っていただく前は、さすがに料理人達も悩んだのですが、私が知る限りの情報を与えたところ、作ってくれることを承諾してくれました」

 

「なんだろう、聞いてたら涙が」

 

鬼の眼にも涙のごとく、たかがパンにハジメがガチ泣きしてるのを見てさすがにユエ達も驚く。

 

「ハジメさんが泣くほどとは⁉︎」

 

「むむぅ…なんだか俄然と興味が出てきた」

 

「うむ。そのカレーパンなる物、ちと味わってみたいのじゃ」

 

「ゴクリ…僕もです」

 

5人ともそれぞれ、アヒージョを食べてそれなりにお腹がふくれているにもかかわらず、ハジメの反応を見て、ふくれた腹が少し減る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あげませんよ」

 

「オイぃぃぃぃぃぃ‼︎⁉︎」

 

「人の心とかないんですかぁー‼︎」

 

「鬼畜の所業!」

 

「むぅぅぅぅ!この所業…喜べばいいのか、怒ればよいのか!」

 

声を出さないが、ウィルも残念さと恨めしさを込めた眼を向ける。

 

「そんなこと言われても、これは私のお金で材料費と依頼費を含めて払って買った物ですし。まさかと思いますが欲しいからと言って強奪するんですか?」

 

「ぬ、ぐ、先生…その鍋は俺が錬成で作った物だろ?」

 

だったら俺にも食わせろよと言いたいのか。しかし、

 

「使わせていただけないのなら、パーンズさんから頂いた鍋を使いますが」

 

「そこまでするかぁ⁉︎」

 

ここで七海から強奪するのは正直言ってやろうと思えばできる。しかし、なんだかんだと言ってもたかだかパンの為にそこまでやるのも大人気が無さすぎる。

 

なら縛りを利用するかと一瞬考える…しかし、縛りの内容は最終的な行動判断は南雲に寄るというもの。この行動というものがどこまでのものか?こんな小さなことにも効果があるのか?それが未だわからない上、何かしらのデメリットが発生する可能性がある以上、こんな事の為に利用できない。故に、ここで取るべき手段は1つ。

 

「先生、その袋、まだ膨らみがあるようだがまだあるのか?」

 

「ええ、ありますが」

 

「それを買わせてもらう。それで文句ないか?」

 

「……………………かまいませんよ」

 

(((((間が長い)))))

 

今回食べなければ、次はいつ食べられるかわからない。だから七海はしっかり味わいたいと思っていた。しかし、相手がきちんとした手順で求めてきているのであれば、断りにくい。それにハジメの久々に故郷の食べ物を食べたい気持ちもわかるので、七海は了承した。

 

「ただ、数はこれも含めて4つしかありません。一応言っておきますが売れるのは3つまでです」

 

「あの、僕はいいので、皆さんでどうぞ」

 

この中で1番弱いウィルは、この状況下で言い争いになる前に早々に離脱する判断をした。しかしそれでも数は足りない。

 

「まぁ、そこの駄竜を抜いてもいいんだが…」

 

「辛辣ぅぅぅ⁉︎」

 

「余計に鬱陶しくなるから1個やろう。ユエ、俺と一緒に食べるか?」

 

「食べさせ合い?」

 

ハジメがニッと笑い頷くとユエは抱きついて喜び、シアとティオは羨ましそうな顔をしていた。

 

「それと、ひと口目は私がいただきます」

 

(((((そんなに食べたかったのか)))))

 

早速1つを油の中へ投入した。揚げていく気持ちの良い音と匂いが食欲をそそられる。狐色になったのを見て取り出して1分ほど熱を冷まし、先程包んでいた紙をとってくるりと軽く巻き、手に取る。

 

「では」

 

皆がゴクリと喉を鳴らす中、ひと口目をガブリと口に入れる。

 

(ザクリとした食感と、カレー独特の香辛料を帯びた濃い味、これぞまさにカレーパ…ん?いや待て、このパンは柔らかいというより、モチモチした食感……これは一体…否、この食感、以前別のパン屋で食べたことがある)

 

その時その店の人に尋ねた事を思い出す。そのパンに使われていた物は…

 

「米か」

 

つい口に出してしまい、それに対して、全員(パンだろ?)というツッコミを入れていた。七海は水を飲んである程度口の中をリセットしてもう一口食べる。

 

(そうか、私は彼らにニルシッシルをパンにできないかと言った。ニルシッシルは米を合わせた物。カレーではなくカレーライスという食べ物として見て、それをパンにするのなら、米を入れる事は最初から考えられていたのか)

 

想定外ではあったが、良い想定外だった。

 

(米を入れる事でモチモチした食感を引き出し、パンの味がカレーに負けていない。なおかつ主役であるカレーの味を引き立てている。アヒージョの味を少し薄めにしてよかった。このパンの良さを充分に感じながら食べることができる。これは、美味い!)

 

さらに頬張り、しっかりと噛んで味わっていく。充実し、満ちていく幸福感が、香辛料の辛みと共に七海の全身に駆け巡っていく。だが…

 

「すっごい無表情で黙々と食べてますね」

 

「うむ、本当に美味しいのかのぉ?」

 

「ちょっと、不安」

 

「相変わらず七海先生、パンを食べる時は黙々と食べるんだな」

 

表情に表れない故に彼らにはまったくそれが伝わらず、七海が次のパンを揚げて自分達がそれを食べるまで不安だった。

 

ちなみに食べた感想は当然…

 

「美味しいですぅ!」

 

「ハフっこれは、美味!刺激も感じるこの味、良いのじゃぁぁ!」

 

「ハジメこれ美味しい!」

 

「…あぁ、そうだなぁ」←めちゃ泣いてる

 

(やっぱり僕もお願いすればよかったな)

 

 

さらに余談だが、このカレーパンことニルシッシルパンは更なる改良を施され、ウルの町の新たな特産品となるのだが、それはかなり先の話である。

 

 




ちなみに
今回出た米粉じゃなくて米が入ったカレーパンってマジであります

実はありふれさんぽはいくつかストックがあります。そっち書くくらいなら本編かけよは、なしの方向でお願いします
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