ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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わたくし、引っ越しをします。←だからなんだ

呪術廻戦の本編見てよかった。特級術師について知れたし。

ハジメやユエを特級扱いしたのが間違ってなかったので安心しました


克己復礼

ドォンと大地が揺れる。ハジメはその振動を起こした対象から距離をとって体勢を立て直す。…つもりだった。

 

「んなぁ⁉︎」

 

爆煙の中から、光がキラリとほのかに輝いたかと思った瞬間、サングラスをつけた七海が出てくる。接近戦になり、ハジメは胴、顔、肩と的確な狙いをどうにかいなすが…

 

「シッ!」

 

「グハァ!」

 

一瞬の隙をついて七海のボディブローが決まる。以前のハジメならこの一撃で骨がバラバラになり、内蔵は破裂して即死だったろう。

 

だが肉体が変わり、強度は特級クラス。

 

「の、やろ!」

 

反撃ができている時点で戦闘への影響は皆無に等しい。拳に力を入れて、呪力を込める。猛攻といえるラッシュを今度は七海が受け流す。

 

「………」

 

「余裕のある顔してんじゃねぇ‼︎」

 

と言われているが、実際はギリギリだ。先程の攻撃を決めたのは偶然に近い。ハジメは無理に攻める事もなく、的確な攻めをし続ける…と見せかけて。

 

「そらぁ‼︎」

 

「ぐっっつぅぐ…!」

 

速度を上げて、距離を詰めてから踵落とし。腕でガードしてもズドンと地面が陥没するほどの一撃に、七海はこの世界の対人戦では初めて苦い顔になる。

 

(呪力で強化していなかったら腕一本は粉砕されてましたね。ただ)

 

「ってやべ!」

 

それ(・・)に気付いたハジメはすぐに足をどけて後退する。七海はそうするのがわかっていたのか、ハジメが後退して体勢が僅かに傾いたところに、呪力によって強化された渾身の蹴りをくらわせる。

 

「ちょ⁉︎」

 

ハジメはギリギリ回避したが完全に姿勢は崩れ、胸ぐらを掴まれて一本背負いを決められる。声にならない声を出しつつ立ちあがろうとしたが、目の前に七海の大鉈が向けられていた。そして七海はガッカリした表情で言う。

 

「…拍子抜けですね、南雲君」

 

ハジメは自身の作った大鉈を向けられ、完全に動きを止める。

 

 

この少し前

 

 

「よっしゃ!…って気合入れたけどよ、なんで先生との模擬戦なんだ?」

 

「順番に説明しましょう。その為にまず、南雲君、この地面を錬成して土の壁を作ってください。強度はそちらで決めてかまいませんので」

 

何をするのかと思いつつハジメは土の壁を作る。ウルで作った城壁と同じ強度の壁を2つ用意した。七海はそれを両者とも破壊する。一方は一撃で粉々になり、もう一方は拳が当たった場所から広い範囲で粉々になる。

 

「こちらは呪力で強化した拳によるもの。こちらがそれプラス私の術式によって破壊したものです」

 

「いや、そんな事言われても違いなんて全くわからないんだが?」

 

「まず、よく見てください。呪力が見えるなら残穢も見えるはずです」

 

「残穢?なんかウルの町でも聞いたような」

 

「術式を行使した痕跡です。しかし、呪力や呪霊と比べて薄いので、よく見てください。シアさんも」

 

2人は訝しげながら目を細めてジッと破壊された壁を観察する。1分ほど経ったくらいで、

 

「あっ、見えるですぅ!」

 

「……おっ!俺もだ」

 

まずシアが、少し遅れてハジメも破壊された壁に黒い染みがゆらいでいるのが見えた。

 

「見る前に気配で悟ってください。それができて一人前です」

 

「ぐっ…ぬぅ」

 

「ムゥ…見始めたのはつい最近なのにぃ」

 

ハジメとシアは七海の酷評を受けてイラっとするが、呪術については未熟なのは事実である。だが…

 

(残穢まで見えるとなると、いよいよ術師としての才もありそうですね)

 

期待しつつ更に七海は続けて指摘する。

 

「この残穢は、魔力にも見られますが…南雲君は見れるはずですよ?魔力感知は私以上なんですから」

 

「む、むぅ」

 

自分の持つ技能もまだ完全に使いこなせていないと言われて、ハジメは言い返せない。

 

「まぁ、すぐに見えるようになるはずです。シアさんも、呪力の残穢を見る訓練をしていけば魔力もおのずと見えるようになると思います」

 

「はぁ………けど、これがなんの役に立つんですぅ?」

 

「それに関して、シアさんはかなり重要です。ウルで君に言った事を覚えてますか?」

 

シアは頷く。忘れるはずもない。自分の能力をあれだけ酷評されたのだから。

 

「あの時言っていた子の名は乙骨憂太君。南雲君とほぼ同年代で、五条さんと同じく特級術師になった人物。彼も訓練してそれなりに膂力を強くしていますが、非力な方です。しかし、五条さんを上回る呪力で、武器含めた全身に呪力を纏う事で、全ての攻撃を致死レベルに引き上げ、全てのダメージを最小に抑えることができます」

 

(そいつもまた…)

 

呪術師の中でも異能の特級のレベルにハジメは戦慄していた。

 

「君はそのレベルに行く才能がある。あとは回数をこなしていけばいい。そして、残穢が見えるようになれば、今以上に細かな魔力の操作ができるので運用はスムーズになるはずですし、未来を見るのは固有魔法でしたか?それもハッキリとした未来を瞬時に見ることができるかもしれません」

 

「!…………やります。お願いしますですぅ!」

 

「俺もだ。先生曰く俺は特級クラスなんだろ?なら五条って奴は除いてそれ以外には勝てるレベルにはなりてぇ」

 

さすがのハジメでも現状で五条を越えると言えるような事はできないが、それ以外で最強になる決意があった。

 

「実際、残りの特級術師のうち、乙骨君含めて最低でも2人には君は勝てないと私は思いますしね」

 

「…先生、褒めるか応援するかとかないの?」

 

「事実に基づき己を律する。それだけです。話を続けましょう」

 

少しズレたのか、七海はサングラスをカチャと上げて言う。

 

「南雲君、話を最初に戻します。君との模擬戦の理由ですが、君に術式がないからです」

 

「え?」

 

正直ハジメは術式というものに興味があった。自身がもつ技能とは違う能力があるなら、それを加えて戦えるのは都合がいいし、何よりこんな身体になってもオタクであることは捨ててない彼には、自分だけの能力は興奮に値するものだ。それがあっさりと、言葉のついでのように言われて、一瞬ハジメは思考が止まる。

 

「術式とは呪力を流して発動する…魔力で魔法を行使するのと変わりません。しかし、術式は基本的に生まれながら身体に刻まれているもので、後天的に呪力を得た場合はその限りではない。君は脳が変化したことで呪力を扱う力を得たなら、術式は持っていない。これ故に呪術師の実力は才能が8割を占めてい……どうしました?」

 

ハジメは体育座りになって落ち込む。いつもの強気が嘘のようである。

 

「いや、そっち方面でも俺って才能ないんだーって」

 

「ハジメを落ち込ますなんて……ヒドイ」

 

よしよしとハジメの背中を撫でつつ、ユエは七海に言う。………ほんのちょっと殺意ありの目で。

 

「まぁ、落ち着いてください。術式が無くても私と同じく1級術師になった人はそれなりにいますし、それに君には他の術師にない魔力もあるので2つの身体強化ができる。その身体になったことで上がった膂力を更に上げてしまえば、乙骨君や他の肉弾戦の術師を上回るでしょう。しかもそこまで安定して呪力を使えるならすぐに身体強化も使えるでしょう」

 

「…………シアは?」

 

「?」

 

「シアには、術式あんの?」

 

「…………………………」

 

シアに関して言うなら、おそらく後天的ではないだろうが、あるかどうかはわからないが可能性はある。……可能性すらないハジメと違って。

 

「…………」

 

「ちょ、ハジメさん⁉︎そんな恨めしそうな顔で見ないでくださいですぅ⁉︎なんて事させるんですかぁ⁉︎」

 

シアも七海を非難する。

 

「これ私が悪いんですか?」

 

「おおぅ羨ましいぃのじゃぁ〜!もっとそんな感じの目で妾のことも罵ってほしいのじゃ〜!」

 

「なんであなたが興奮してるんですか?」

 

冷ややかな目で七海が言うと、それにも興奮したのかティオがクネクネと悶える。ストレスが加速していく状況下だったが…

 

「テメェはちょっと黙ってろ駄竜、何が羨ましいだぁ!あぁ⁉︎」

 

「あふぅん!それ、それがいいのじゃぁぁ‼︎」

 

ハジメが自分よりも先にキレてくれたのでどうにか落ち着く事ができた。

 

「ともかく、呪力を使用しつつ私と戦闘訓練をします。シアさんはその様子を観察して呪力の練り方、纏い方を自身で考察してください。それとは別に、呪力を捻出でき次第、次の訓練を行います」

 

という感じで戦闘訓練を開始し、冒頭に戻る。

 

「拍子抜け…だって?」

 

「えぇ、拍子抜けです。正直言ってここまでとは思いませんでした」

 

七海は心底呆れた表情と声でハジメを評価するが、ハジメは正直納得がいかない。

 

「そんなこと言ってるけどよ、ほとんど先生が押されてたじゃねーか!呪力操作もしっかりできてたし、身体強化もできてた」

 

「それが駄目だと言ってるんです。そもそもその押されていた私が、なんで君を追い詰められたんですか?」

 

「!」

 

これまでの戦闘の中で、七海はハジメの上がった膂力と能力に押されたが、すぐさま訓練の手加減レベルを下げてからは徐々に七海はハジメを追い詰めた。だが、それにも理由はある。

 

「もっとハッキリ言いましょう。なんで錬成もしないんですか?」

 

「あ?これは呪力を使用した訓練だろ?そこに魔法使ったら意味ねーだろ⁉︎」

 

「その思考が既に的外れです。いつ私が魔力と魔法を使ってはいけないと言いましたか?」

 

「!」

 

「しかし、そのおかげで君の欠点も見えてきました」

 

酷評に次ぐ酷評にハジメはキレかけていたが、七海の次の言葉にその思考が止まる。

 

「南雲君、君は、君より強い…もしくは君と同程度の1対1の対人戦をまだしてないんじゃないんですか?」

 

「‼︎」

 

変化した表情を見て七海は「やはりですか」と呟く。

 

例外があるとすれば七海の知らぬ解放者、ミレディ・ライセンだが、あれも1対1でない上に対人戦とは言い難い。

 

「何度も言うようですが、君は私より強い。ですが、圧倒的に場数が足りない。あの奈落で経験したのはあくまでも強い獣相手の戦い。どれだけ相手に思考能力があろうと人間の思考能力、言ってしまうなら狡猾さには敵わない。そして、その身体になったのが原因か知りませんが、相手を舐めてしまう癖がある」

 

「実際、俺より弱いなら問題ないだろ?」

 

「で、今の模擬戦の結果はどうなりました?」

 

それは別に舐めてたわけではないことを伝えようとする前に、七海は続ける。

 

「舐めてかかって来てはいないことはわかります。しかし五条さんの事を聞いてきた際もそう。相手の事を知らないにも関わらず、絶対的に自身の勝利を疑わなかった。勝ち気が強すぎるんですよ」

 

確かにあの時ハジメは知らなかったとはいえ、五条に勝つ気でいた。七海よりも強いくらいなら別にいけるだろうという、傲り。

 

「勝ち気が悪いと言いません。むしろ勝つ気持ちもないのに強くなろうなど、無駄な行動です。けど、強すぎてしまえばそれはただの傲慢になる。君がこれまで経験してきた事が原因でしょうか?…君は強い、しかしそんな調子では、私でなくともいずれ負けます。今は訓練ですが、本番で君の言い訳が通用すると思いますか?」

 

ハジメは七海の説教を聞くごとに怒りが湧いてきた。だがそれは七海に対するものではなく、自身への怒りだ。

 

「…わりぃ、確かに今のは俺が悪かった」

 

ハジメはむくりと立ち上がり、七海と距離をあけた。七海は止める事なくハジメがこちらを向くまで待つ。そして、ハジメはドンナーとシュラークの銃口を向けた。その瞳にある真剣さに敬意を表するために、七海は受けて立つと言わんばかりに拳を構えた。

 

「……ふっぅぅ…シッ‼︎」

 

ダンっと地を蹴り、加速してハジメの懐に入ろうとするが、その前にドンナーとシュラークの弾丸が迫り来る。

 

「‼︎チッ」

 

大鉈で上手く弾くたびに金属音が響く。初撃を弾いた七海は、次に銃口の向きで狙いを逆算してグルリとハジメの周囲を回りながら回避して少しずつ近づいていく。

 

(錬成ですか…)

 

その時、地面に魔力が流れているのを見逃さない。ハジメは錬成で地面の強度を変えて簡易的な落とし穴を作り、そこに誘導しようとするが、視認能力を極めている七海には通用せず、彼は魔力の流れを見て回避した。

 

「この程度で、終わりじゃねぇよ!」

 

しかし回避した直後、落とし穴から大地の形が変化し、ティオ戦で見せた拳のような形となって七海に襲いかかる。

 

(錬成スピードが恐ろしく速く、変更もすぐにできている。彼の周囲はいわば全てが攻撃範囲。遠距離には銃撃を、中距離はそこに錬成による防御と攻撃。しかもちゃんと一点に留まることなく常に移動しての攻撃。相手にマウントを取らせない…やはり厄介ですね)

 

近付こうにも錬成と銃による攻撃で近付けない。……普通ならば。

 

「って、なんで特攻できんだよ⁉︎」

 

迫り来る大地の腕を術式で粉砕するのもすごいが、1番ハジメが驚いたのが銃に対する行動。大鉈で弾くのは万が一の部分である頭と心臓近くのみで、あとは強化した肉体で強行突破している。近接戦闘は正直ハジメはしたくなかった。

 

(先生はああ言ってたけど、しなかったのはもうひとつ理由があんだよ‼︎)

 

さっきの戦いで近接に持ち込まれては錬成をする暇がない。攻撃の一撃一撃が重く、鋭く、術式の事を考えるとたった1発の打撃すら致命的になり得る攻撃を捌きながら、錬成に集中するのはあまりに無謀。まして相手は魔力の流れを読むのだから不意打ちしにくい。

 

「っ!」

 

「…そんなこともできるんですか?」

 

ハジメが空中に立っていた。まるで壁を伝うように、何もない空間に蹴りを入れて七海が近付けない場所へ移動した。

 

(おそらく、あれも魔物を食らって得た固有魔法でしょうね。…そういえばティオさんと戦っていた時も使っていましたね)

 

ハジメは容赦なく空中から砲撃する。七海はその場から離れて回避しているが、いずれ追い詰められる。七海は移動して大きめの岩を手に取り、少しだけ握ってそれにヒビを入れてハジメに投げつけた。

 

「そんなも…⁉︎」

 

すぐさま撃ち抜いて岩が粉砕した……わけではない。岩が勝手に砕けた。そして気付いた。破片のひとつひとつに呪力が込められていることに。

 

「くそったれが!」

 

回避を選んだが自身の近くで花火が爆発したように破片が飛び散るので、完全回避はできない。それほどのダメージはないが痛いと言えるレベルだ。…それが下からまだ来る。

 

(打ち上げ花火かこれは⁉︎)

 

空を蹴って回避しているがいい加減にしろと銃口を七海に向けた。空中へ跳躍した七海に。

 

(しまった!ここまで高度が下がるのを待ってたのか)

 

ハジメは咄嗟に大鉈を銃でガードした。

 

「!」

 

「クソっ!」

 

その一撃でドンナーが歪み、武器としては使えなくなる。しかしハジメはもう一丁の銃、シュラークをスゥと向けて撃つ。

 

「おぐっっ⁉︎」

 

「グッ!」

 

その瞬間、空中で回転蹴りをした七海の蹴りが入る。だが七海もシュラークの攻撃を受けて共に墜落した。土煙が上がり、静寂がその場を支配していたがそれはほんの一瞬。

 

「ぬ、クソっ」

 

「………!」

 

ここに来て再び格闘戦となる。ハジメはどうにかいなしつつ後退していたが…

 

(また俺が後退とか、ざけんな‼︎)

 

ここで魔力を全身に込めて身体強化し、更に呪力による身体強化であえて七海の攻撃を受けたが、鳩尾に入ったダメージをあまり気にすることなく、

 

(こっちの番だぜ)

 

七海の顔面に強烈な一撃を入れる。その一撃で頭が揺れ、七海は後退してふらりと身体が傾く。

 

「りゃ!」

 

「‼︎」

 

両腕で呪力&魔力によって強化された拳を防ぐが、あまりの威力に腕が痺れる。

 

(やはり強い。ここまで一方的とは)

 

二重の身体強化は七海も、ハジメも驚くべき威力だった。先程の戦闘でハジメは踵落としの時にほぼ無意識のうちにそれを使ったが、呪力の扱いの訓練と考えててすぐにやめた。故に、その時は理解できなかった。その異変に。

 

「⁉︎⁉︎(な、なん、だ)」

 

「!南雲君‼︎」

 

更に攻めようとしたハジメが膝をついたのを見て、七海は戦闘を中止して近付いた。

 

「大丈夫ですか?私の攻撃によるもの…ではなさそうですね」

 

「あぁ、これは、多分、二重強化の反動だと思う」

 

魔力による身体強化と呪力による身体強化は確かにできた。だがそれはあまりにも疲労がでるものだった。

 

「限界突破以上の上昇力だが、慣れるまではあまり使えないな。んで、今の状態じゃ頑張って5分が限度だと思う」

 

ハジメは〝限界突破〟も持っている。それも使用してとなるともう少し短くなる可能性もある。

 

「…呪力と魔力、似たエネルギーと思ってましたが、本質的には相容れないエネルギーなのかもしれませんね。同時使用はリスクが高そうですね」

 

「けど、使えないってわけじゃなさそうだ。一時的なブースターって言うなら、使いどころを考えて使えばいいだけ。後は、使用する際の互いの消費量をいかに抑えるかと、体力的な問題だ。使い始めたばかりで身体が追いついてないだけで、繰り返しいけば多分いける。魔力は大丈夫」

 

「〝魔力操作〟…ですね」

 

魔物を食らって今のハジメにはその技能があると聞いていた。ちなみにそんなわけでもないユエ、シア、ティオにもそれがあると聞き、この世界の成り立ちに僅かな疑問を持ったが、今は置いておくことにしていた。

 

「あぁ。先生の言う魔力の残穢を見れるようになれば、もう少し能力も上昇すると思う。だから、今の俺に必要なのは」

 

「呪力操作…ですね」

 

七海から見て、呪力出力だけでは彼は2級術師並みだ。変貌した肉体がそれを補っているがそれでは高い魔力出力と釣り合わない。

 

「呪力量は、どうですか?」

 

「うーん。それはまだわかんねーが、少ないって感じはしない。両方使った疲労が多いだけで、まだまだ余裕がある」

 

ハジメは呪力をまた拳に纏う。未だに余裕があるのか水色で安定してはいる。が、やはり完璧とはいえない。

 

「今後の課題が見えたのなら、この訓練に意味はありましたね。それにしても、まだまだ技能があるならやはり私では敵いそうにないですね」

 

(いや、弾丸を恐れることなく特攻できる時点でヤバいんだけどな)

 

今になって考えると、訓練の際に熱くなって実弾を使った事は結構危険だった。しかしそれ以上に危険な存在がいた事実にハジメは若干引いていた。

 

「ふむ、君の訓練法が見えてきましたね。南雲君は錬成師ですし丁度いいかもしれない。それプラスに私との模擬戦を重ねて、呪力操作と出力調整を鍛えていきましょう」

 

「って、やっぱり模擬戦もするんだな」

 

正直ハジメは勘弁してほしい気持ちが多い。

 

(戦って分かった。この人、マジでつえー上に、ある意味俺よりヤバい奴かもしれない)

 

その考えはこれから的中していくこととなる。弾丸どころかレールガンも気にすることなく特攻してくるサングラスをつけた七海を見て、いつしかハジメは昔見たサイボーグの映画を思い出すこととなる。そして、その恐ろしさを…

 

「さて、シアさん見ていてどうでした?」

 

「正直戦いたくないです」

 

彼女も体験することとなる。

 

「今は戦いませんよ。まずは呪力を捻出するところからです。どうですか?」

 

これができないのではそもそもシアを鍛える事はできない。

 

「どうもなにも、正直見てるだけじゃ分からないですって!」

 

「ふむ」

 

七海は顎に手を当ててしばし考える。今の段階ではまだシアが呪力を扱う事ができないと判断するには早すぎる。今まで使ったことのないどころか見たこともない力に、身体が理解してないだけの可能性もあるからだ。

 

「呪力を捻出する訓練はいくつかありますが、今できるものをしましょう。もっとも簡単に呪力を出す方法です」

 

「?」

 

「さっきも言いましたが、術師は僅かな感情の火種で呪力を捻出する訓練をしています。逆を言えば、なにもしなければ感情が大きく振れた時に呪力は捻出される。それを逆手に取ります。君が最も嬉しかったことを考え、その嬉しさが頂点に達した瞬間に、次は最も悲しいこと、もしくは怒りを感じることを考え、それが頂点に達したらまた最も嬉しかった事を考える。この感情の大波を作り、呪力が捻出できなければ、君に呪力は扱えないと判断します」

 

「そんな事で、いいんですか?」

 

訓練法としてはあまりに地味だなとシアは感じるが、七海は付け加えて言う。

 

「これはあくまで呪力を捻出できるかのテストです。実際に扱えるとわかってからが本当の訓練です」

 

そう言われてシアは納得して「うーん」と考えて楽しいこと、辛いことを交互に考える。だが、まったく呪力は出ない。

 

「これ、やっぱり意味あるんですかぁ?」

 

「私から見ても意味ないように見える。シアの表情の変化は見てて楽しいけど」

 

「ちょ、ユエさぁん‼︎」

 

七海はジッと見つつ考える。

 

「方向性を変えてみましょう。それでダメならそこまでです。しかしその前に、シアさん、今考えてる2つのことはなんですか?」

 

聞くとシアは恥ずかしいのかモジモジしている。

 

「えぇと、良かった思い出はそのえと、は、ハジメさんとキスできたことですぅ」

 

「だ〜か〜らぁ〜あれは人工呼吸で、緊急事態だったからって言ってんだろ‼︎」

 

「…………」

 

「ユエ、頼むからその表情やめてくれって!つか、あの時のことに関しては許してるんじゃ…」

 

「別に、許したとは言ってない」

 

「なんと!もう2人はそういう関係じゃったとはっっ!ご主人!妾もはよう、はようぅ‼︎」

 

「黙れ、変態駄竜‼︎願い下げだ‼︎愚竜‼︎」

 

「ああぁ!もっとなのじゃあぁぁ」

 

ダァァァン‼︎‼︎と地面が揺れる。七海が足を思いっきり地面に叩きつけた為だ。そこに窪みができる。

 

「………………………」←こめかみに青筋が入ってる七海

 

「…ご、ごめんなさいですぅ」

 

「すいませんでした」

 

「ん、ごめん」

 

「……………(もっとその目で見てほしいと言えんレベルなのじゃぁ)」

 

近くで見ていたウィルもビビっていた。操られたティオを見た時以上に恐怖して震えている。

 

「…続きといきましょう。では逆に、最も感じた悲しみ、もしくは怒りはなんですか?」

 

すると今度は先程とは違い、暗い表情で話す。

 

「えと、母様が、死んだ時のことです」

 

「………失礼しました」

 

訓練の為には聞くべき事だが、それでも言わせた事に罪悪感を感じて七海は謝罪した。曰く、ハジメと出会う前の話で、シアは「大丈夫です」と言った。そしてそこで七海は気付く。

 

「ふむ、互いの思い出に時間差があるせいかもしれませんね。となると妄想の方がいいかもしれません」

 

「妄想、ですか?」

 

「妄想…ね」

 

「妄想」

 

3人の目線がティオに向かう。

 

「おぉぉぉう!その変態を見る目!いいの」

「この方の事は置いといてください」

 

これ以上話が変な方向に行く前に、七海は止めた。

 

「ただの妄想するだけではいけないのでまず、そこに座ってください。次に目隠しをする。では嬉しかった事を考える前に」

 

七海はハジメの方に向いて言う。

 

「南雲君、彼女を後ろから抱きしめてください」

「真顔で何言ってんだあんた」

 

サングラス越しでも全く表情を変えず言う七海に、ハジメは速攻でツッコミを入れた。

 

「必要な事です。そのくらいできるでしょう?」

 

「いや、けど」

 

ユエを見る。かなり不満そうな顔である。

 

「本当に、必要なの?」

 

「最後の手段なので」

 

ユエが圧のある声で七海に言うが、それを気にすることなく七海は答える。ユエはしかたないと頷き、ハジメは頬をかきつつ後ろからシアを抱きしめた。

 

「…!ぅぅぅぅふふぅぅぅ」

 

目隠しされているが、抱きしめてもらえた感覚でシアはその人物がハジメと理解した。

 

「早くしてくれ七海先生。ユエの圧がヤバい」

 

「では、シアさん。妄想でいいので自分が最も彼に望むものを考えてください」

 

「………!……‼︎…えへへぇ」

 

トロンと目隠ししているが表情が緩む。

 

(なに妄想してんだか)

 

ハジメはそう思いながら七海を見ると、ジェスチャーで離れてと指示される。その時、シアの表情が名残惜しそうになる前に七海は告げる。

 

「では、苦しいとは思いますが考えてください、もう一度」

 

起伏される感情。嬉しさの反対。

 

「呪力とは読んで字の如く、呪いの力、負の力、傷つける力、そして……呪術師に悔いのない死はない」

 

暗闇の中で、シアは模索し、七海の話を聞き入れる。

 

「ただ使うならあなたは、あなたを傷つけてきた者たちと同じだ」

 

「!」

 

ユエがバッと動こうとしたがハジメが止める。なぜなら…

 

「聞きましょう。その力で、何を得たい、何が欲しい、何を叶えたい」

 

「決まってます」

 

既に赤黒い呪力が全身から出ていたから。

 

「もう何も失わない。私の大切を、好きな人達を、守る為、守られてばかりが、嫌だからです」

 

その為なら、ある力は全て使う。たとえそれが呪いの力でもという、純粋な決意。

 

「…南雲君、目隠しを取ってもう一度抱きしめてあげてください。そのくらいのご褒美はあっていいでしょう」

 

バサッと倒れ込み、それをハジメが支える。生まれて初めての力を解放した。それも大出力で。疲れないわけがない。

 

「色々と、辛いことも思い出したでしょう。申し訳ない」

 

「いいんです。それで…」

 

「合格ですよ。術式については、いまだにわかりませんが、呪力量はおそらく今の私より高い」

 

「…七海先生、シアは今俺にとっての仲間でもある。必要だったとはいえここまでしたんだ。ちゃんと俺も含めて強くしてくれよ」

 

「わかってます」

 

呪術師としての心構えをつける為とはいえ、どんな理由であれ、シアの心を傷つけたのだ。それに見合ったものくらいは提供したいと七海は考えていた。

 

 

後に2人が「ある意味地獄だ」と言い出す訓練をどうしようかと考えながら。




ちなみに
克己復礼: 欲望や感情に打ち勝ち、礼儀にかなった言動をすること
ハジメとシアの修行は考えてますが、その為の道筋として今回書きました。ちなみに、呪力を使わずにいたら当然ですがハジメが余裕で勝ってます。七海は割と本気で向かってますがハジメはまだ余力ありありです。本人気付いてないが適度な手加減してます

ちなみに2
悲報&ちょっとネタバレ:ハジメに術式ないですが、シアにはあります

ハジメ「………………」

正式な登場はだいぶ先ですが、仮にこの術式を別の人間が持っていても使い熟すのは不可能です(五条悟?なんでもできるからなぁ)

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