ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ボンバイエ!ボンバイエ!

九十九の術式が殺意全開!東堂の師匠だけあってやっぱりゴリラ廻戦してますわw


商業都市・濁

七海が共に行動するようになり、ハジメとシアに呪術に関する基本知識と呪力の扱い方を教えながら旅をし、保護したウィルを送り届ける。こうして彼らはフューレンにたどり着いたのだが、2つの問題が発生した。

 

「すごい行列ですね」

 

「世界最大の商業都市ですから、このようなことはよくあるのですが…」

 

どうも大隊商が来ているらしく、タイミングが悪かったとウィルは言う。七海はひとつの町に入るのにここまでかかるとは思ってもいなかった。ウルや王国でのスムーズさとまったく違うその光景は日本の帰省ラッシュに似た物を感じる。これが問題の1つかと言われればそうではない。

 

「それ以上に目立ってますね、我々が」

 

ハジメのブリーゼは魔力で動くとはいえこの世界にはない車だ。異形のそれが目立たないはずもない。結果、周囲の人の七海達を見る眼が絶えない。おまけにそこには絶世の美女が3人もいるのだから余計に目立つ。

 

「こんなようでは、今まで目立たないように行動してきたというのも疑わしいですね」

 

「というより、あの御三方が目立たないはずもないかと」

 

で、その3人と最近入ってきた+αはというと問題その2に直面している。

 

「ハジメ殿とシア殿、まだグッタリとしてますね」

 

「ちょうどいいですからこのまま休ませてあげましょう」

 

ブリーゼの後部座席、ハジメとシアが「ほげー」と口からなんか出しながらボーとしていた。ちなみにこんな状況でもちゃんとブリーゼを操作できたのもハジメの〝魔力操作〟の向上のおかげだ。その向上も七海の手ほどきもあってのものだが。

 

しかし、その手ほどきを含めた訓練が、ハジメ曰く「鬼」だった。

 

「呪力は物についている時が1番安定します。そして君は錬成師だ。適当に錬成した物に呪力を込めてください。その時、片腕は呪力、片腕は魔力を武器に込めて互いの運用法を学んでいきましょう」

 

これだけならまだよかった。同時に使っても身体強化のように同じ場所にエネルギーが貯まるわけでもないので疲労自体はない。問題は、互いのエネルギーを同時に安定させるのが難しいという点。

 

ハジメが作った訓練用の剣はそれなりに強度がある。しかし急なエネルギーが一気に入るとヒビが入る、もしくはすぐに壊れてしまう。これを長時間行うわけだが、疲労が溜まる、溜まる。その疲労状態での七海との容赦のない実戦訓練。

 

ちなみにハジメは拒否はできた。だが、七海の「まぁ、その程度ですか」という悪意のない現状確認に腹が立ち、続けた。結果として呪力は安定した捻出ができ、魔力は細かな運用ができるようになった。しかしそれができる頃にはすでにヘロヘロ。曰く「限界突破の反動を常時受け続けてるみたいな状況」だったらしい。今はユエがマッサージをして「ここが天国かぁ」みたいなことを呟いている。

 

「そろそろいいですか、南雲君」

 

「あぁぁぁなんだぁぁぁ」

 

もみもみされて語呂がおかしくなっているが、すでに回復しているのはわかる。「妾も妾もぉ〜」と近づいて来たティオにビンタをして、喜ばせていたのを見て七海はそう考えていた。ちなみにティオはそのビンタを受けてハジメの傍らでハァハァとよだれを垂らして嬉しそうな表情をしているが、徹底的に無視した。

 

「今までどのような旅をして来たかは知りませんが、だいぶ目立ってますよ」

 

「ん〜まぁいずれこうなることは想定してたし、ウルであんだけ暴れたんだから時間の問題だろ?」

 

「それでも隠せるなら隠した方がいいのでは?」

 

「自重して面倒を避けられるならそうするが、これから教会や国が動くなら自重をやめて逆に力を見せつけた方が手を出しにくいだろ?それに、畑山先生やこれから会うイルワも保険としてつけとくしな」

 

「………なら、その保険はこれから増やせるのなら増やしましょう。行く先々で問題を起こしたとしても、それだけ後処理の面倒も減ります」

 

ハジメはそれに肯定してまたマッサージを受ける。シアが羨ましいなぁという目線をハジメに向けていると、ハジメはぐっと身体を起こしてシアの首につけている奴隷の証の首輪を見る。亜人族の中でも特に奴隷として人気の兎人族のシアが共に行動していると、なにかと面倒になるとしてハジメが作った物だ。それに手を伸ばし、人差し指を向けて錬成をした。

 

「もう自重する必要もないなら、見栄えくらいはよくしないとな」

 

首輪は煌めく宝石をつけたチョーカーに変化した。好意を抱く男性からの宝石のプレゼント、喜ばないはずがない。ウサミミと尻尾をピンピンフリフリと動かしてテンションを上げて喜び、ハジメに抱きつく。恥ずかしそうにしながらもそれを受け入れるハジメ。ユエは妹分の嬉しそうな表情にニンマリとして、ウサミミを撫でた。それを見ていたティオが懲りずに「妾も妾も〜」と近づき、やっぱりビンタを受けた。

 

「それだけ元気なら、これからの訓練も大丈夫そうですね」

 

ぽつりとつぶやいた七海の言葉にシアとハジメはビクッと震えた。特にシア。

 

彼女に与えた訓練内容は呪力を使ったわりとガチな戦闘訓練。経験と実際の強さを目の当たりにし、毎回のごとく吹っ飛ばされるシア。しかもハジメの訓練の後なのに平然と戦う七海に負けるたびに戦慄していた。

 

ユエは雰囲気を壊されたことにムゥと腹を立てるが、

 

「一応教師なので、不純異性交遊を認めるわけにはいかない立場ですから」

 

と毅然とした態度を示す。とはいえ、ハジメとユエに関してはたぶんそういう関係にもなっているだろうなと見た感じで察してもいたが。

 

「それより、門番の方でしょうか?こちらに近付いて来てますよ」

 

ずっと外にいた七海はそれを告げる。七海に任せてもよかったが「そうだ」と思いつき、身体を再び起こして外へ出る。

 

「これは、こちらが使っているアーティファクトの一種で、危険性は……ありません」

 

「なんだその一瞬の間は⁉︎」

 

すでに七海が対応しているがよくわからないアーティファクトをこれでもかと見せていては、信じるも何もない。そして七海自身もこれに危険がないとは断言できない。今のハジメが作ったなら武器の1つや2つ、あってもおかしくない。

 

「七海先生、俺が対応する」

 

面倒事は大人というのもあってたぶん自分に押しつけてくるだろうと予想していた七海は多少驚く。その時門番の男の1人がハジメを見て蒼い顔をする。そしてもう1人とヒソヒソと話していたが急に敬礼をしてきた。

 

「ハジメ殿御一行とお見受けします‼︎」

 

「イルワ支部長から、こちらにいらした際は、直ぐに通せとの通達を受けております‼︎」

 

そうして他の順番待ちの視線をスルーしながら門内へと入る。

 

「今更ですけど、支部長と面識をこんなにも簡単に持てているという事は、ここでも何か問題を起こしたんですか?」

 

「起こしたくて起こしたわけじゃねーっての」

 

「まぁ、本当に今更なのでその件は何も言いませんが……それはともかくとして私は気にしませんがその口調は少し直した方がいい。特に目上の者と話す時は」

 

「おいおい先生、流石に俺でもそのくらいはできるぞ」

 

「「「え?」」」

 

シア、ティオ、ウィルは「え、無理じゃね」的な声を出す。

 

「おまえらなぁ〜」

 

「案内人が待っているので早く行きますよ」

 

 

フューレン内は商業都市の名にふさわしく、行商人や売り子が頻繁に行き来している。売られている物も武器、食い歩きできる物から、高級な料亭にオシャレなカフェ、珍しい骨董品など様々だ。それらを横目にこの都市の冒険者ギルドへ向かう。

 

(人の往来が多く、活気に満ちている。美容院や…あれは何かのイベントでしょうか?故に………)

 

呪力が無くとも、こうした場所には混沌とした人の念が見て取れる。悪徳な商売、裏ルートの運用、違法な取引がまず間違いなくあるだろうと七海は考える。

 

今の自分がどうこうすべきことではないが、呪術師の時の癖でそうした眼で見てしまう。

 

(職業病ですかね、まったく)

 

軽くため息をついたと同時にギルドに到着した。

 

 

応接室へ招かれ、職員がイルワというここの支部長を呼びに行くと言って立ち去る。ティオと七海はソファに座らずその場所をハジメとユエ、シア、その横に置かれた方の椅子もウィルに譲る。

 

「あの、椅子をご用意しましょうか?お飲み物は?」

 

「いえ、お構いなく。それは彼らの方に」

 

もう1人の職員はハジメ達に茶菓子と紅茶と思われる物を出す。普通の客に出す物ではなく、高級そうな香りのするお茶だ。それだけの人物として扱っているのだろう。

 

「口にするなとは言いませんが、もう少し遠慮を持ってください」

 

ちゃんと味わっているのかと言いたくなるような荒い食べ方と飲み方に苦言を呈するが、ハジメは悪びれる気はない。

 

「厚意に対して何もしないよりマシだろ?それにくれるなら貰っとくべきだ」

 

「もうちょっと気品を持ってください」

 

いらないだろそんな物、と言いたげなハジメとシアだが…

 

「ユエさんを見てもそう言えるんですか?」

 

「ん?」

 

「「む」」

 

ユエも出された物を食べて飲んでいるが、食べこぼしなどはなく、飲み方も優雅だ。所作の1つ1つに元一国の姫としての片鱗が垣間見える。

 

「まぁ、彼女の場合は育ちもありますが…君は彼女のパートナーなら少しは気をつけてください。シアさんも、妹分なら見習うべきところを吸収はしてください」

 

「「う、グゥ…………」」

 

言われたい放題だが七海の言葉には重みがある。大人という言葉が最も似合う大人に言われたのもあるが、ユエを引きあいに出されてはハジメもシアも認めざるを得なかった。

 

「別に無理しなくていい。どんなハジメでも私は好き。シアもそのままでいい。可愛い妹分はそれでいい。余計な口出しは無用」

 

「ユエさんも、甘やかしすぎのような気がします」

 

バチバチと2人の間で火花が飛ぶ。ちなみにもう1人、歳で言うならとっくに大人のティオはというと…

 

「の、のぉ、妾は?妾は?」

 

立ち方、出立ち、所作はティオも負けてはいない。ただ立って黙っていれば大和撫子と言えるだろう。

 

「おあぅ!無視ぃ!辛いが、たまらんんん‼︎」

 

(((それが無ければなぁ)))

 

変態というものは、全てを台無しにする恐るべきものであった。そんなこんなで5分ほど経った頃、大股で走って来ているのだろう、足音を室内まで響かせ、その勢いそのままに扉を開けて1人の男が入ってくる。

 

「ウィル!無事かい⁉︎」

 

着ている服の装飾とウィルを心配して声をかけたのを見て、この男が支部長のイルワだと七海は判断する。ウィルは両親がここに滞在している事を聞き、その場所へ向かうと言った。

 

「ハジメさん、また改めてお礼に伺いますね!」

 

「律儀な奴だな本当に。別に礼はいらないんだがな」

 

「それでも命の恩人ですから。礼には礼を持つべきですから。それと建人殿」

 

声をかけてくるとは思わず、なんだと七海は思う。

 

「イルワさんのさっきの様子を見て、あの時、かけてくれた言葉の意味がわかりました。こんな僕でも生きてほしいと願う人達がいるんだなって。死んだ彼らの思いや……その、ティオさんの件も許していいのかってことも、正直まだわからないことだらけです。でもそれを探すのを、今の自分の生きる指針にしたい。あなたの言う、何かを見つけて、私が思う、正しい死を目指して」

 

「………ティオさん、何か言わなくていいんですか?」

 

七海が聞くと、ティオは先程と打って変わり穏やかだが、どこか憂いているような表情でウィルを見る。

 

「妾のことは、別に許さんでも良い。その気持ちだけで、充分じゃ」

 

ティオが何を思ってその言葉を出したかは七海にはわからない。だが、彼女も彼女で罪という呪いを背負う決断をしたことはわかる。だから、その言葉に対するフォローはしない。ウィルはその言葉を聞いて怒り、悲しみ、後悔、許しなどの様々な感情が渦巻くが、それでも不恰好な笑みを見せて去った。

 

「改めて、私からも礼を言わせてもらう。ウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。正直諦めていた」

 

「まぁ、単純にあいつの運がよかっただけだ」

 

ハジメのその言葉に、イルワは「ふふふ」と意味深な笑いを見せる。

 

「確かにそれもあるだろうが、何万もの魔物から町ごと守りきったのは事実だろう?〝女神の剣〟様?」

 

それは、演説で名乗った自身の二つ名。

 

「…随分と情報が速いな」

 

いずれ伝わるだろうがこんなにも速く伝わるとは思わなかったのか顔が引き攣っている。七海もそれについては驚いていた。手紙が通信手段のこの世界で、車より速く情報が行き届くとは思わなかった。

 

「長距離連絡用のアーティファクト…ですかね?」

 

「察しがいいな。ギルド最上級の幹部専用の為、使える者は限られているから、ウルの町の者ではなく私の部下が受信していたんだが……最後は随分と泣き言を聞いたよ。あっという間に君達を見失ってしまったとね。それと、いきなり夜になっただのわけのわからない事も言ってたが」

 

着いたのは数万の魔物が来た時に七海が帳を張った時だろう。あの群れをあっさり、それも5人で殲滅というわけもわからないものを見て、おまけに詳しく問いただす前に車で颯爽と消えられたら、それは確かに諜報部員なら泣きたくもなる。

 

「抜け目のない奴だ」

 

「それが大人というものですよ、南雲君」

 

七海が言うと妙に説得力があるなと思うが、そんな人物がこれから後ろ盾になるというのならハジメにとっても都合が良い。

 

「さて、色々聞きたいんだが、その前に彼女達のステータスプレートが先かな?」

 

「ああ、そうしてくれ。ティオはどうする?」

 

ユエ、シアはステータスプレートを持っていないらしく、それを用意するのも今回の報酬だそうだ。ティオは後から入った為その件は知らなかったが、作ってもらえるならいただくようだ。イルワの方もそれを見れば、魔物の軍勢を倒した方法の詳細が聞かなくてもわかると思い承諾する。

 

「そちらのあなたは、作らなくていいのか?」

 

「私は既に持ってますが、お見せした方がいいですか?」

 

「できればお願いしたい。そちらの後ろ盾になるなら、ある程度の詳細が知りたいしね」

 

「わかりました……できれば私についてはこちらから情報をできるだけ止めてくださると助かります」

 

そんなものハジメ達も同じだろと思っていたが、見た瞬間理解した。

 

「七海、建人だとォォォ‼︎」

 

イルワが突然大きな声を出し、ハジメ達はビクッとなり、紅茶を飲んでいたハジメはブゥと口から噴き出す。

 

「そこまで驚く事なんですかぁ?この人って」

 

「当たり前だ!王国が召喚した者たちの中で有名なのは3人、1人は勇者だが…それ以上に有名なのが英雄錬成士ハジ」

「あぁ‼︎」

 

「う、うむ、すまない!これは君の前では言わない約束だったなすまない悪かっただからそんな今にも殺すみたいな眼をやめてくれ頼むから‼︎」

 

ハジメが眼で「それ以上言うなら殺す」と警告するとイルワは早口で謝罪した。七海はなんだと思うが、今はいいかと思いイルワの言葉を待つ。

 

「オホン、そして七海建人。魔力魔耐0というのも異例だが、それを帳消しにする他のこの数値、そして物語では」

バァン‼︎

 

「すまないな、銃が暴発した、おまえの頭を掠めたな。当たらなくてよかったなぁ〜ほんと」

 

「いちいち話の腰を折らないでください…それで?」

 

死を覚悟していたイルワはハッとなり続ける。

 

「うむ、とにかく、最強と言われるベヒモス相手にたった1人で無傷で完勝したことは有名だ。その人物が勇者一行をとてつもなく強くした事、魔力に関する新しい学説を見つけ出した事、そして、来たる魔族との戦いでは1人で戦うという事を、教会や王国に言っている事、知らぬ者はほとんどいないぞ」

 

ハジメ達は自分達の事でいっぱいだった為そんな話は聞いてなかった。だから七海がそのような伝わり方をされているとは思わなかった。

 

「私がこれからとる行動は、その王国への裏切り行為になるでしょう。少しでも情報を遮断できるならお願いします」

 

「あ、ああ。わかった」

 

イルワが承諾し少しだけ七海は安心した。いずれわかる事でも時間稼ぎは必要だ。

 

「では残りの3人分のステータスプレートを用意する」

 

そうして見せてもらうが3人とも破格の数値だった。先程見せられた七海の数値が霞むような数値がいくつも見受けられた。特にユエとティオに関しては技能数も異常だが、固有魔法〝血力変換〟と〝竜化〟はもはや名前だけしか残ってないはずの種族の物。シアも2人と比べたらインパクトは薄いが、種族の常識を無視した数値。そして3人ともが持つ〝魔力操作〟。全てが異常だった。

 

「で、どうする?危険因子として教会に突き出すか?」

 

「馬鹿を言わないでくれ…できるわけがない。個人的にもギルド幹部としてもありえないよ。それに君達は恩人だ。それを私が忘れることは生涯ない」

 

見くびるなと付け足してイルワは言う。その後、可能な限り後ろ盾になること、その為にハジメ達を冒険者ランクを最高位の『金』にすることを約束した。ただ1つ問題があった。ハジメ達のランクを『金』にする為にホルアドへ行かなくてはいけないことだ。

 

「南雲君、大丈夫ですか?」

 

「問題ねぇよ。つか、先生こそどうなんだ?」

 

今の七海は王国と、そこに仮とはいえ属する生徒達と袂を分ったと言っても過言ではない。ホルアドに行けば見た目の変わったハジメはスルーされても、七海は充分に認知されるだろう。そして強者たる七海が生徒達に付き添っていなくていいのかとハジメは聞く。

 

「それこそ余計なお世話です。むしろその程度の事で乱すなら、君との同行などそもそも求めません。それに、彼らは充分強い。時間はかかるでしょうが、数人は君と同じ段階(ステージ)に到達すると思ってます」

 

七海が意外と甘く過保護なのはもう知っているが、同時に厳しくもある。冗談や淡い期待は与えず、事実だけを伝える、そういう人だ。

 

「ふーん。ま、あいつらの件は正直どうでもいいよ。あんたが大丈夫ならな」

 

「……………」

 

「なんだよ人をじっと見て」

 

「いえ、あなたが私の心配をするとは思わなかったので」

 

言われてハジメも気づいた。元の世界からの付き合いだが、自分がこうなった状態で行動を共にした期間は少ない。そんな自分が無意識に七海の事を心配していた事実に、ハジメは恥ずかしさがでて、「ふん」と鼻息を出して誤魔化した。そんな2人の様子を見ていたイルワは不思議そうな顔になるも、すぐに取引をする顔に変わる。

 

「ふむ、とりあえずささやかな礼として宿はこちらが手配しよう。それと他には何かないかな」

 

「でしたらイルワさん、私の衣服の方を調達できませんか?ご覧の通り、先の戦いで衣服はだいぶ摩耗してしまい、新しい物が必要になったので、今着ている服と同じ、もしくは似た物を明日までに用意していただきたい」

 

「なら、この町の行きつけの店があるのでそこを紹介しよう。サイズを測るから、この招待状を持っていきたまえ」

 

話しながらも丁寧な書き方で手紙を書いて、それを七海に渡す。

 

「では、私は少し別行動しますが、くれぐれも節度のある行動をお願いしますよ。問題を起こさないように」

 

「起こさねーよ。つか、俺らが置いていくとか考えないのか?」

 

「縛りを破れるならそうすればいいと思いますよ」

 

ハジメのイジメのような言動にも全く取り乱す様子もない。〝縛り〟の事を理解している七海が絶対の自信を見せて言った為、まだ完全に理解してないハジメも相当な罰が降るのかと考えた。まぁ、どの道着いてくることを了承した時点で置いていく気はないが。

 

 

 

明日には宿に送ると要人のような対応をされた七海は、イルワに聞いた宿に向かったのだが…

 

「……あ、七海さん、おかえりですぅぅぅ」

 

「おおぉぅ、捨てられるなど、初めての経験じゃぁぁぁぁ〜」

 

陥没した地面とそこに伏しているシアとティオ。そして上からフワフワと降りてきたユエがいた。

 

「たったの半日なのに、問題を起こさずにいられないんですかまったく」

 

何が起きたのかは知らないが、この宿の1番上、だいたい20階ほどから落ちたのだとして、いったい何をしてそうなったのかと頭を抱える。

 

「落ちて死んでない事には何もないの?」

 

普通は驚くだろうと考えていたユエはその冷静っぷりに逆に驚き、感心もしていた。

 

「その程度で死ぬなら、ティオさんとの戦いでとっくに死んでますよ」

 

と言っていると、ティオとシアが直立している宿を物凄い勢いで駆け上がっている。

 

「私が連れて行ってもいいけど?」

 

「彼女達の方をお願いします。私はチェックインがありますので」

 

それと同伴者と思われたくないというのもあったが。しかし降りてきたウィルとその両親に会った時に、

 

「ウィル、その、あの人も、その、アレなのか?」

 

と聞く父親と気を失っている母親を見て、血管が浮き出そうになった。

 

(これ、私もこういう眼でこれから見られるんですかね)

 

と、ちょっとした心配もあった。

 

 

ちなみにその後七海が来てからだが…

 

「ダメです」

 

「おまえにそんな事を言われる筋合いはない」

 

「お付き合いしていることに関しては言うことはありませんが、せめて健全なものにしてほしいというだけです。少なくとも彼が私の生徒である限り」

 

ハジメと同じ部屋に泊まる事を拒否されたユエと七海との間で、バチバチの言い争いが起こった。しかし、ハジメが自分はユエと一緒に寝ると言い張り、縛りでそれを断れない七海は仕方なく許可した。ユエ曰く

 

「面倒なのがついて来てしまった」

 

とのことだ。しかし彼女の中で七海の評価が変わるのは意外と早い段階でくる。未だに七海の事を名前でなく、あなたやおまえと呼んでいるのが変わるほどに。

 




ちなみに
今回のタイトルの後の「濁」はまだフューレンの汚れを取り除いてないからです。お掃除しなくちゃね

ちなみに2
前に書きましたが、あの本に七海は出てません。だからイルワは「そして物語では出てないが」と言おうとしてました

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