ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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久々に時間かけました。仕事が忙しかったのもありますが、ここら辺からだいぶオリジナルが多いので、じっくりと足りない頭で捻り考えてました

その割に全然進まなかったけど、すんません


好事多魔

場所と時間は変わり、オルクス大迷宮:89階層

 

「来たぞ、いけんのか鈴!」

 

「龍太郎君はちょっと黙ってて、集中するから!」

 

鈴は眼前に迫るコウモリを連想させる魔物全てを、〔+視認(())〕で魔力の流れから位置を特定していく。

 

「捕らえるのに必要なのは、点を意識して、全ての点にマーキングするように」

 

七海のいない期間、全員自身の能力の更なる解析、分析、応用を繰り返してきた。理論的にできるが相当の集中と技量が必要なのはわかる。それでも鈴は魔力を込めて解き放つ。

 

「〝聖絶:囲〟」

 

〝聖絶:囲〟は以前作り上げた〝聖絶:縛〟の派生技と言っていい。相手の攻撃を防ぐのではなく閉じ込めることに特化したところは同じだ。だが、この技のポイントはそこではない。

 

「小さな相手にしか使えないし、まだ7体が限界……でも充分!思う存分使っちゃうよ!」

 

〝聖絶:縛〟と違い、捕らえるのに技術がいるが、展開する面積が小さいことで結界の維持、複数展開は容易で、さらにある程度のコントロールもできる。すなわち…

 

「投擲‼︎」

 

結界の移動ができる。そしてそれをそのまま武器にする。内部で暴れていた魔物に急激なGがかかり、それだけで瀕死になる。投げつけた先には捕らえることのできなかった魔物。

 

「七海先生ほどじゃないけど、少しくらいは動きが読める!」

 

動かせる範囲と距離はさほどないが、それでも投擲には充分な威力だ。

 

「あ、しまっ⁉︎」

 

「〝風爆炎〟‼︎」

 

撃ち漏らした敵が攻めてきた。結界の展開は容易だが、常に操る為、その間の攻撃に弱いのがこの技の難点であり課題だ。だが今は1人ではない。恵里の魔法、〝風爆炎〟は〝風爆〟〝螺炎〟の合わせ技。〝螺炎〟の渦巻く炎に風を送り込んで威力を上げ、最後は炎に飲み込まれた相手だけでなく風の爆発で飲み込んだ相手とその周囲の相手にもダメージを与える。

 

「イエィ!エリリン最高‼︎ナイスパートナー‼︎」

 

「まだいるって⁉︎集中集中‼︎」

 

いきなりハイタッチされて、恵里も釣られてついハイタッチしてしまうが、まだ眼前に魔物はいる。が、そんな余裕がある程強くなっているとも言える。

 

「はい、交代よ!奥の素早くないのは私達がやるから‼︎」

 

イソギンチャクのような魔物を相手するのは3人。雫と光輝がサイドに立ち、中央は…

 

「香織、やっぱり君が出るなんてダメだ!七海先生の言ったことは無視して…」

 

「はい、あんたも止めないの。せっかくいい具合に動きが鈍くて移動しない魔物がいるんだから」

 

「ここは89階層だ!もっと上、帰りの弱い魔物で…」

 

「大丈夫だよ、光輝君」

 

光輝の声に反応するが、彼女の眼は常に相手を見る。

 

「上の階層にいる相手より、動かない分こっちの方がいいし、何よりそれじゃ、意味がないから」

 

香織は自身のアーティファクトの杖を向ける。

 

「ここに集いし聖光、災禍切り裂く刃となれ… 〝斬光刃〟!」

 

 

それは以前、香織が園部に言うべき事を言った後に、雫が七海と訓練をしていた時。

 

『あの、七海先生。私にももっと接近戦の戦い方を教えてもらっていいですか?』

『ダメです』

 

即答されたことに香織は「ガーン」とショックを受けるが、雫は「当たり前でしょ」と注意する。

 

『香織、あんたは治癒師なんだから戦いは私達前衛でどうにか…』

 

『そうだけど!そうなんだけど……』

 

『南雲君を守る為に……他の皆も守れるようにする為に、ですか?』

 

香織はコクリと頷くが、七海はそれに対してハッキリ告げる。

 

『前に言いましたよね。回復役の君が最も大事な事は、君が死なない事だと。後衛の君がわざわざ前線に出たら、本末転倒にも程があります』

 

『その教えに反するわけじゃないです。けど、いつでも先生が私達を守れる事を保証できないように、雫ちゃんや光輝君達前衛が常に私達後衛を守れるとは限らない。だったら、自分の身を自分で守れるようにするべきじゃないですか?』

 

『その為に、辻さんにもあなたにも、回避能力向上と防御、結界魔法の習得をさせているのですが?』

 

『そっちもちゃんとします。それ以上に守る力が欲しいんです』

 

七海は『どうしたもんか』と口に出そうな表情となる。香織はやると決めたら全力で、時に無茶もするのはわかってる。また見てないところで無茶をされてもいけない。それに辻と違い、香織には天性の戦闘センスもある。伸び代がないわけではないのだ。

 

『ならとりあえずは八重樫さんに戦いの基礎を学んでください。今私が教えてもレベルが違いすぎて参考にしづらいでしょうし、武術の心得があって親友の彼女の方が、あなたの向き不向きの動き方もすぐわかるでしょう。……ただし』

 

一瞬喜びそうになる香織をすぐに抑える。

 

『八重樫さん、教える際はハッキリとダメならダメと言うこと。それと実戦で使うのは最低でも八重樫さんが認めた時のみです。……もう一度言いますが八重樫さん、絶対に甘やかさない事』

 

ギロリと目を向けられて雫はたじろぎながら「はい」と答えた。

 

 

 

今日ついに雫はOKを出す。七海がいない間も訓練をし、新たな攻撃用の光魔法を習得した。

 

詠唱し、光魔法によって生み出された光が杖の先端に集約され、十字架の刃の槍となる。〝縛光刃〟を攻撃に転用した香織の新たな魔法。

 

「うん。やっぱりアーティファクトならやりやすい」

 

これまでも武器に魔力を込める訓練はしてきた。その応用によって生み出された魔法。

 

「じゃ、私と光輝があれの気をひくから、隙を見てトドメを刺して」

 

さすがにいきなり戦闘をさせるわけにはいかないので、今回はトドメ役だ。

 

「セイ!」

 

敏捷は既に光輝を越えて4桁の数字となった雫の一閃が、イソギンチャクの魔物の触手を切る。毒液のようなものを発射してくるが彼女にとっては遅すぎる攻撃だ。まったく命中する気配がない。

 

「………見えるわ」

 

彼女の技能の中にある先読は新たに進化していた。その名は〔+見切り〕。ある程度見てきた技に関して言えば、もはやシアの未来視に近いレベルでどう攻撃してくるかがわかり、回避ができる。一度見切った攻撃はほぼ当たらない。

 

「〝天翔剣四翼〟‼︎ 」

 

〝天翔閃〟の斬撃のビームが更に4つになり魔物の触手を切り裂く。元来ならこの技は放った時点で終わりだが今は光輝によって進化している。

 

「〝操光〟!」

 

光の刃は消えることはなく、ブーメランのように戻ってきてさらに切り裂く。〝天翔閃〟のような斬撃のビームを一度だけ操り、再度攻撃をする魔法、〝操光〟。威力は1回目より劣ってしまうが、終わったはずの攻撃が再び来るのは厄介極まりない。いまだに光輝は〔+視認(上))を習得していない。だが持ち前のセンスと技能でどうにかしている。

 

「今‼︎」

 

全ての触手を切り裂いたのを確認した香織は突貫をしかける。だが…

 

「香織、まだ早い‼︎」

 

毒液を吐き出す噴出口を潰していない。しかし、香織はそれを理解して攻撃を仕掛ける。なぜなら、既に詠唱は終わっているからだ。

 

「〝天絶〟!」

 

杖の持っている手ではなく、もう片方の空いた腕に光の盾を展開した。戦闘技術だけでなく、七海の言うように防御と結界魔法の習得もしていた。盾を持った槍兵。しかも盾は魔法によるもので重さによる制限はない。

 

「ハァぁぁぁ‼︎」

 

突き出した光の矛先が魔物を貫き、数秒ピクピクした後どさりと力を失って植物が枯れるように萎んで絶命した。

 

 

戦闘後、香織は正座させられていた。

 

「で香織、言い訳することはある?」

 

「あの、雫ちゃん、目が笑ってないんだけど」

 

ビキビキと雫のこめかみに青筋が浮き出ていた。

 

「むしろ感謝するべきね。今のを七海先生が見たら、怒られるだけじゃ済まないわよ?」

 

「えーと、その、いけるからいいかなー的な……ハイすいませんごめんなさいもうしません」

 

言い訳なんて許さない目で見てくる雫に必死で謝っていると、光輝がフォローする。

 

「ま、まぁ香織はあそこまでできる自信があったんだからいいじゃないか」

 

「私は、七海先生から香織がこういう暴走をしないように言われてるの。黙ってて」

 

幼馴染の本気の睨みに光輝は押し黙る。

 

「えーと、いいかな?回復したいから集まって欲しいんだけど」

 

辻がおそるおそる声をかけてどうにかその場は収まるが、雫は「また後でお説教ね」と言い、香織は「ひーん」と泣き顔になっていた。

 

「にしても、お前らめちゃくちゃ強くなってないか?正直言って俺等、足手纏いもいいとこなんだけどよ」

 

「檜山に言われて戻ってきたけどよ、俺らまじでいる意味ある?」

 

中野信治、斎藤良樹、近藤礼一は檜山が戻ることを伝えられ、檜山自身に誘われたのもあって戻ってきたが、薪割りからの七海との戦闘訓練、通称鬼訓練(鈴が名付けた)をやっていないので強さとしては他のメンバーと違い、未熟そのもの。彼らを強くするのもあって迷宮進行は予定よりも遅くはなっていた。

 

「そんなことない。仲間が増えて、みんなで強くなれば良いし、フォローを俺達がすれば、七海先生もきっとわかってくれるさ!」

 

光輝はそう言うがもし実際に七海に言えば反対され、連れてくるにしてもそれなりの訓練を先に積ませてからにするだろう。特に檜山に関しては自分の犯した事を本当に反省していると判断しない限りは絶対させない。

 

ちなみにここに来るまでの体力とダメージの消費量は、圧倒的に檜山達の方が多い。あまり戦ってないにも関わらずだ。もし彼らがいなければもっと早くに攻略できた階層も多い。その都度、休憩して辻が回復をする。

 

「つか、思ってたんだけどよ。なんで最近白崎は回復魔法をしないんだ?」

 

檜山はそれを聞く。彼にとって、たとえ形なき魔法であっても、香織から何かをもらえるのが幸せを感じる瞬間であった為に、ここ最近それがないことに苛立ちがある。

 

「と、そういやお前らにはまだ言ってなかったな。七海先生の宿題に関して」

 

龍太郎の言葉に4人は「宿題?」と同時に疑問を問う。

 

「七海先生、出発前にメモをしてメルドさんに渡してた物があってな。それぞれの目標とその為に必要な方法が書かれた、通称宿題。ちなみに俺は〔+視認〕を習得して魔力運用を正確にすること」

 

龍太郎は魔力運用が勇者グループ内で「1番雑です」と七海からいわれるレベルで雑だが、感覚で以前よりどうにかマシになっていたが、マシなだけで更なる向上に必須であったため、こういう課題を出されていた。

 

「私は回復魔法の向上と回避、防御手段の拡張。だからなるべく回復は私がするように言われてて」

 

「でもよ、結局白崎の方が治癒師として上なら、白崎がやった方が能力向上にもなるし、効率も良いだろ?」

 

檜山の言い分に辻はシュンとしてしまうが、そこに野村がフォローを入れる。

 

「そんなことはない。少なくとも、回復魔法なら白崎さんと同等の能力がある」

 

「!」

 

「うん。正直言って、私がしなくても大丈夫なくらいには向上してるよ」

 

当然だが香織も自身の回復魔法をおろそかにしてはいない。回復魔法の技能数は増えており、成長速度は辻は遠く及ばない。だからこそ、七海は辻の魔法の使用をほぼ回復の1点に絞った。

 

「そのかわり、回復魔法だけにほぼ特化してるから、攻撃手段が0に等しいんだけどね」

 

回復魔法の技能数は香織より少ないが、

 

〔+回復速度上昇〕〔+浸透看破〕〔+状態異常回復効果上昇〕〔+消費魔力減少〕〔+魔力効率上昇〕

 

と言う感じで治癒師が持つべき能力はどんどん習得し、向上していた。まだ時間は必要だがそのうち他の技能を手にする日が来るだろう。ちなみに魔力の数値は香織に劣るが4桁に到達している。

 

「そもそも、ここまで来るまでに何度も回復してもらってんだから文句言うなっての」

 

永山が言って檜山は黙る。自身が足手纏いなのももう理解していたがそれ以上に…

 

(七海の傀儡のくせして、偉そうに)

 

七海によってそうなっている状況下では、檜山の中で香織を除いた者達に対する感情も歪ませていた。

 

「はい、治療終了」

 

「…………まだ、俺がいるんだけど」

 

ハッと辻が声をかけてきた遠藤に気付く。というより、声をかけられるまで存在を忘れていた。実は先程の戦いでも〔+気配遮断〕と〝隠形〟を駆使して注意を引いていた。

 

「いいけどさ。先生に与えられた宿題もあるし」

 

彼に与えていた宿題。それは【敵味方問わず気配をなるべく悟られない。その上で支援をする】である。

 

(七海先生、やっぱり鬼だ)

 

(多分わかってて与えた課題だ)

 

野村と永山は声にこそ出さないが同情していた。しかし、おかげで注意を引いた魔物は集中できず動きに鈍りがでているのも事実である。

 

「さて、前回はここで終わったけど、今回は先へ………今日でこの迷宮を完全攻略しよう」

 

光輝は七海が戻る前に訓練を終わらせて、魔人族と戦う為に言う。他はそうは思ってないがそろそろ終わらせるには良いだろとそれに同意した。

 

香織も同調したが、同時にぎゅっと杖を握り、もれ出そうな負の感情を必死に抑える。

 

「カッオリ〜ン‼︎私を癒やして〜!できればそのおっぱいで‼︎」

 

「え、ちょ、どこ触って…っていうか、鈴ちゃん怪我してないでしょ⁉︎結界魔法の向上でここまで無傷で来れたんだから⁉︎」

 

鈴に与えられた宿題は【結界魔法の向上とそれによる防御と攻撃手段の拡張】だ。実はいつも訓練で新しい魔法を使ってもまったく七海に効果なしだった事が正直悔しかった彼女としては、「やってやる‼︎」と気合が入る内容だった。

 

結果として、彼女の結界魔法の幅は広がり、仲間の支援があるが無傷、というよりここ最近は魔物は近づくことも容易ではない。

 

その結果、前衛でも後衛でもない中衛というただ1人の役職となる。メルド曰く――

 

『もう、元来の天職じゃあり得ない能力は見まくったが……結界師と治癒師ってなんだったけな?』

 

とのことだ。しかし、それらの術の使用にはやはり集中力と魔力をどうやっても削ってしまう。意識をした魔力運用でついに〔+視認(上)〕になっていてもだ。そんな鈴の最高の癒しは美女とのスキンシップという名のセクハラであった。

 

「ここかぁ〜ここがええんかぁ〜」

 

その様は時代劇の悪代官のようである。が、当然ながらそんな奴には鉄槌がくだされるのもお約束である。

 

「まったく、七海先生がいないからって溜め込んでたものを出さないの。見なさい、男子共が立てなくなってるでしょ」

 

別の意味でタッてはいるが、そのせいで動けないでいた。

 

「げ、ゲンコツはないんじゃないかなぁーシズシズ〜」

 

頭を押さえて涙声で訴えるも既にセクハラから解放された香織をなでなでしている。七海が居なくなってからは基本的に雫が皆のまとめ役みたいになっていた。

 

(まぁ、鈴もわかっててああしたんでしょうけど、やり方ってもんがあるでしょうに)

 

香織が暗い顔をするのはここ最近ずっとだ。最下層に近付くも、ハジメの痕跡は何もない。残穢も、使ったであろう道具なども見当たらない。そういう時はこういった感じでよく気遣いをしていた。だが。

 

「ねぇ、今なら守れるかな?」

 

「うん、そうね。きっと守れるわ。あの頃とは違うもの。もしかしたら、彼の方が強くなってたりして」

 

正解。もっと言えば…

 

「七海先生より強くなってたらどうしよう」

 

「あの人より強くなってたら、立つ瀬ないわね」

 

苦笑しつつ冗談で言っているが、これも正解。

 

「というより、流石に全員でかかれば七海先生相手でも勝てんだろ」

 

檜山はそう言うが…

 

「「「「それはない」」」」

 

「「「「無理だと思う」」」」

 

答えなかった雫と香織も頷き、常に自信が無駄にある光輝でさえも、悔しそうな顔になる。

 

「あの人、最後の最後まで全力を出してなかったし、底がわからないわ」

 

「え、いや、でも、え…」

 

雫の言葉に檜山が狼狽えていた。

 

檜山は以前、協力者に殺したのかと聞いたが、あり得ないことだと一蹴された。だがそれは個人戦での事で、集団であれば流石にという考えだったのだ。それは戻ってきた3人も同じような考えだったのか、空いた口が塞がらない。

 

「そういや、光輝はほんの少しだけあの人の本気とやれたんだよな?どうだったんだ?」

 

「……あの時、俺は〝限界突破〟を使った。けど、勝つ道筋がまったく見えなかった。先生は〝覇潰〟をすればって言ってたけど、正直言ってそれで勝ててたかどうかって言われたら、どう自分に言い聞かせても、無理だって思ってる」

 

「だろうな。1発だけ俺はあの人に攻撃を当てれたけど、硬いとかそういう次元じゃない」

 

当事者の言葉には重さが乗っていた。檜山はゴクリと生唾を飲み込む。そんなの相手にこれから先敵対したらと思うと冷や汗も出そうになる。実際は更にやばいのと共に行動しているのだが。

 

「今まで戦ってきた魔物も、正直言って七海先生と比べると弱い。いや、あの人よく自分を規格外扱いしないでほしい的なこと言ってるけど、圧倒的な規格外だよな」

 

「……次戦うなら勝つさ」

 

龍太郎の言葉に対し、ぐっと拳を握って光輝は言う。彼にとって七海は超えなくてはならない壁だ。立ち塞がる壁をどうにかしなくて何が勇者かと、己を奮起させつつ、皆を先導して次の階層へ向かう。

 

90階層に降りて行き、何か起きるかと警戒していたが何もなくホッとした者と――

 

「「「「「⁉︎」」」」」

 

即座に臨戦態勢になった者とに分かれた。

 

「雫、香織?どうした?」

 

「……光輝、一旦撤退しましょう」

 

「って、降りたばっかりだろう‼︎何言ってんだ八重樫!」

 

「斎藤の言う通りだ!俺らだってそれなりにできんだから!」

 

批判は当然のように出る。光輝と龍太郎も急にどうしたと聞く。

 

「あの、私もシズシズに賛成」

 

「私は、正直言って進みたいけど…雫ちゃんの言う事が正しいと思う」

 

「ここ、おかしいよ。間違いなく」

 

鈴、香織、恵里が賛同し、辻もコクリコクリと頷く。

 

「香織、鈴、恵里、辻さん……どういうわけか教えてくれ」

 

光輝は『しかたないなぁ』という感じで聞くと、答える前に野村が気付く。

 

「…〔+視認(上)〕組だな、全員」

 

「!そういえば」

 

〔+視認(上)〕組のメンバーは残穢が誰のかは特定できないが、ハッキリと見ることくらいはできる。彼女達にしか見えない物がそうさせたと判断したが、光輝はもう一度聞く。

 

「…今、目の前にある道なんだけど………残穢だらけ。しかもそれが奥へ奥へって続いてる」

 

「魔物も魔力を持ってて固有魔法を使うんだ。あってもおかしくないだろう?」

 

「問題なのは、パッと見は何もないように見えるからよ。魔物同士で争ってたにしては、綺麗すぎる。まるで、痕跡を隠したみたいに」

 

「!」

 

残穢は痕跡として消えにくい。長時間経過すれば当然薄くなっていく。

 

「ここから見えるものから判断しても、奥に行くほど残穢が濃くなっていってる」

 

すなわち、ごく短時間で魔法を使って魔物を殺し、その痕跡を意図的に隠そうとし、その存在は奥へと向かったという事。降りてきた場所からすぐにそれがあると言うことは、つい最近にここを通った。すなわち、上から降りてきたと見て間違いない。

 

「七海先生は言ってたでしょ?少しでも相手が強い、もしくは強い相手がいる可能性のある場合は逃げる」

 

「確かにそうだけど、ここまできて撤退なんて…それに今の俺達はいずれ魔人族とも戦う。仮に、ここにある残穢が魔物でも、魔人族でも乗り越えていかなきゃいけない」

 

光輝は相手にどれだけの実力があるのかわからない段階で下がるのはどうにも嫌だった。雫は否定できない部分もあり強く言えない。悩んでいると光輝は提案する。

 

「なら、七海先生みたいに、多数決をとろう」

 

それに雫は賛同した。最低でも5人分は票があるからだ。

 

進む:光輝、龍太郎、檜山、中野、斉藤、近藤、永山、恵里

後退:雫、香織、鈴、辻、吉野、野村、遠藤(声掛けで気付いて)

 

「って、恵里どうして?」

 

「えと、光輝君の言うことも正直言って否定できないし、でも、警戒はしてるの。だから、もうちょっと進んでいつでも撤退できるようにするならいいかなって」

 

「…もし、それでいいなら私も先に進んでみたい…かな」

 

香織も進むに変わり、警戒しつつこの階層のみを短時間の探索する。ということで話をつけた。

 

 

「………やべぇな。確かに不気味だ」

 

「残穢、どんどん増えて、濃くなってきてる」

 

進めど進めど魔物と遭遇しない。既に探索開始から2時間ほど経つのにだ。それなのに残穢だけは濃いものが増えていく。それが指し示すものは、残穢をつけた存在に近付いているということである。

 

「けどよ、2時間くらい経ってもそいつと出くわさないなら、もうここにはいないとか」

 

「檜山の言う通りかもしれない。だけど、もう少しだけ進んだら、一度戻ろう」

 

光輝も流石に嫌な予感を感じて撤退を考えたが、少し遅かった。広い場所に着いた時〔+視認(上)〕持ちでない者達も警戒するほどのものがあった。

 

「これは」

 

その部屋は荒れに荒れ、何かが暴れたような後のようだった。魔物の血と食われた死骸の一部で満ちていた。

 

「思ったよりもやる奴らみたいだね。万が一を考えて先に待ち伏せしたけど…ここに来れるとはね。それでも、ここが終着点なのは変わらないけど」

 

聞き覚えのない女性の声が奥からした。足音だけが鳴り響き、暗い道から現れた赤髪の妙齢の女。ライダースーツのような衣装はピッタリとその豊満な身体についており、胸元を大きくはだけさせて一層妖艶さが増している。最初はそこに目が行き、次に目がいくのは赤い髪から覗かせる僅かながら尖った耳と褐色の肌。この耳と肌の色は、教会から教えられた座学にもあったものと同じ。すなわち…

 

「魔人族か」

 

光輝の言葉に女は否定せず、冷たい笑みを見せる。

 

「さて、できるだけおとなしくしてくれよ」

 




ちなみに
好事多魔: よい出来事には邪魔が入ることが多いということ
魔人族が出るので魔はいるかと思い。でも出ただけで終わってしまった。今回の魔人族襲撃編は結構長くなりそう

あと、なにげにありふれさんぽ以外で初の、七海登場なしです(これも続きそう)

次回は、2月の18日前後ですかね、たぶん



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