ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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あーくそ全然進まない!
七海出せない!
中途半端な強いって面倒すぎる!

愚痴オンパレードでした


好事多魔②

『魔人族と万が一邂逅した場合、相手の強さ云々は置いてまず逃げましょう』

 

訓練が再開されてしばらくした頃、七海はそう告げた。

 

『七海先生!それじゃ何も解決しないじゃないですか‼︎』

 

魔人族を倒してこの世界を救う。生徒達はその目的でこの世界に呼ばれ、そしてその使命が光輝にはあった。また、この世界を救う=元の世界に帰るのが目的でもある為、戦わない選択肢は現状維持に繋がる。

 

『そう、何も解決はしません。しかしそれでもです。何回でも言いますが魔人族との戦闘は私が死ぬまで禁止です』

 

光輝は再び声を荒げて理由を問う。七海は表情を変えず言う。

 

『そうですね……理由を告げるとすれば、君が、君達が、子供だからでしょう』

 

『………そんな、理由で?』

 

『もっともらしい理由だと思いますけど』

 

そこから先の七海の言葉に反論はできなかった。この件について反論するにはまず七海より強くある必要性があるからだ。

 

そして、光輝は今も七海に敗北し続けて、いまだに反論できずにいる。

 

『しかし…』

 

そして現在、オルクス大迷宮で彼らは魔人族と会敵した。さすがの七海もこんなにも早く、しかも自分がいない時に出くわしてしまう事など考慮していなかった。

 

「それで、勇者はそこのバカみたいにキラキラした鎧を着ているあんたでいいんだよね?」

 

「!…お前なんかにバカ呼ばわりされる筋合いはない!それより、お前魔人族だな!なんでこんな所にいる!」

 

質問を質問で返し、尚且つ意味のない質問に、女魔人族は呆れを隠すことなく頭を抱える。

 

「こんなのが本当に勇者なのかい?正直勧誘なんていらないと思うけどねぇ」

 

「勧誘、ですって?」

 

「!…どういうことだ!」

 

雫が女魔人族の呟きに反応し、それについて光輝が問う。一方女魔人族は聞かれたことに関してあまり興味がないのか、「呑み込みの悪い奴だね」と続けて言う。

 

「そのままの意味さ。あたしら魔人族側に来ないかって言ってんだよ。もちろん仲間も一緒さ」

 

光輝達にとっては予想外の提案だったのか、一瞬理解が遅れた。が、光輝は理解した瞬間に即座に叫ぶ。

 

「断る‼︎人間族を、王国の人達を裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな‼︎やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ‼︎」

 

他の者の意見を聞くことなく。それが正しいと光輝は判断して告げる。そして、その返事を聞いた女魔人族の表情が変わる。呆れと無、利用価値がなくなって、どうでもいい、とでも言うような、そんな表情になる。

 

「待遇は優遇すると誓うけど?」

 

「なんと言おうと、断る!おまえらなんかの仲間にはならない」

 

正直女魔人族にとってもういらないとしても、任務である以上最後通告はしなければならないのだろう。

 

「あっそ」

 

「わざわざ俺達を勧誘しに来たようだが、1人でやって来るなんて愚かだったな‼︎多勢に無勢だ、投降(・・)しろ!」

 

光輝は実力でどうにかしてやるとばかりに聖剣を構えた。だがそんな様子を見ても何も焦ることなく、女魔人族は告げる。

 

「言っておくけど、あんたらの勧誘は絶対じゃないよ。可能ならの話さ。ルトス、ハベル、エンキ、餌の」

ザシュ

 

斬り裂かれた音がした瞬間、女魔人族は気付く。

 

(気付かれた……いや、やはりあの時も気付いていたのか⁉︎)

 

なにもない2ヶ所の空間から血のような液体が出る。それを発生させたのは、そこにいると確信して高速の抜刀切りをした雫と、光輝の〝天翔閃〟ほどの威力は無いが、光の斬撃を放った香織だ。

 

「なにが…」

「光輝‼︎ぼさっとしない!私達は今、大量の見えない魔物に囲まれているわ‼︎」

 

光輝が魔人族と話している間に〔+視認(上)〕持ちは気付いた。今の自分達は囲まれている。相手のテリトリーにいると。

 

それを光輝に伝えるべきか悩んでいる間に、光輝がなんの迷いも無く相手の勧誘を断ってしまったので、撤退ができなくなったのだ。だが、このような事態でも行動できるように、生き残れるようにする為に七海の教えを、鍛えられた彼らは無駄にしない。伝えるのを悩みながらも、彼らは言葉無くとも状況を瞬時に判断して行動に移していた。

 

「龍太郎君!永山君!前から来るよ‼︎」

 

バリンバリンとガラスが割れるような音を鳴らしながら何かが来ている。即座の連携は七海との訓練で何度もしてきた。いつ誰が脱落して誰と連携をするか、どう連携するかは常にあったからだ。

 

「フンが!」

 

「ぬぬおあおあおあァぁ‼︎」

 

指示を受けた2人はそれが見えたわけではない。だが、割れていく物が鈴の作り上げた防御魔法であることは理解し、そこから逆算する形で対象を捕捉した。対象を止めた後、巴投げの要領で吹っ飛ばす。

 

鈴がしたのは〝天絶〟の複数展開。〝聖絶〟よりも防御能力は劣るが、展開のしやすいことと、今の彼女であれば無詠唱でいくつも張れるからだ。それを更に極小の魔力と足し引きの《足し》をあえてしないことで、薄いガラスのようにして、対象の位置を分かりやすくした。

 

「ってこっちに飛ばすな‼︎」

 

鈴達のいる方向に飛ばしてしまった為、回避する者もいた。狙ったわけでもわざとでないにしても、問題行為。鈴はプンスカと怒りながら龍太郎と永山に言う。

 

「あ、すまん」

 

「当たってないんだし、壁にぶつけたんだからいいじゃねーか」

 

「そういう問題じゃない‼︎それと」

 

グシャと凹んだ壁がゆらめき、そこから複数の生物が融合したような魔物が姿を現す。地球の神話に出る怪物と同じ名の魔物、《キメラ》。それに魔法が撃ち込まれる。

 

「ちゃんと止め刺してよ!動き出したらどうするの⁉︎」

 

恵里は無詠唱で魔法を放った後、鈴に続く形で注意をする。

 

恵里の無詠唱の幅は広く、魔法への理解はより深い物となっている。無詠唱発動ができる魔法は本来なら威力はお粗末だ。しかし彼女は、七海の言っていた魔法の発動に無駄なロスが発生していたのなら、逆にきちんと発動した魔法に、更に魔力を注入して威力を高めることはできないかと考えた。

 

「今の、〝火球〟か?」

 

その威力増強は下位魔法を中位程度に上げるほどであった。中野は檜山グループの中では炎魔法の使い手である炎術師だ。その彼が出せる火力を超えた下級魔法を恵里が扱った事に驚きを隠せない。

 

「光輝君、指示‼︎」

 

「!全員一度密集隊形‼︎(上)持ちは雫を除いて中心に!残り後衛はそれぞれ魔法で支援してくれ!ここで確実に倒すぞ!」

 

光輝は香織の言葉ですぐに我に返り、指示を出した。

 

(なんだ、なんなんだこいつら⁉︎なんで位置がわかる⁉︎)

 

「そこだ‼︎」

 

「⁉︎」

 

かなり近くまで迫ってきていた遠藤に、女魔人族はその時ようやく気付く。

 

(こいつ、いままでどこに…いや、最初からいたのか⁉︎)

 

腹部に傷を負った女魔人族は下がり、遠藤は追撃を図るが横から透明になった魔物に吹っ飛ばされる。

 

「ぐっクソっ………!」

 

煙玉のような物を出して身を隠す。すぐに魔物が迫るが遠藤はそこにはもうおらず、女魔人族が光輝達の方を見れば彼はいつの間にかそこにいた。

 

「ナイス遠藤!多分あの魔人族気付いてなかった!」

 

「さすが影薄!」

 

「…………………おう」

 

ちょっと傷付きながら遠藤は返事する。とはいえ反省の方が強い。あの場で女魔人族を倒し切れなかったのは痛い。〝隠形〟は攻撃の際にどうしても気配が出てしまう。抑えられるだけ抑えた攻撃、故にその威力は弱い。

 

(驚いたけど、2度目はないよ)

 

警戒心が上がってしまった時点でもう次は見込めない。

 

「鈴、香織、恵里、辻さん。どうにか相手の位置を観測できるようにできないか?」

 

(上)持ちは透過能力を持った魔物の位置もその残穢から特定していた。通常の〔+視認〕でも残穢を見ることができるが、相手は常に移動するうえに他の魔物の相手もしながらでは特定が難しい。

 

「「「「…任せて」」」」

 

しかし4人はすぐにそれの対処をする。

 

「させるとでも?行きな‼︎」

 

女魔人族の指示で奥の方から更に魔物が現れ、それらが向かってくる。

 

「行かせるか!〝聖絶〟‼︎」

 

鈴がすぐさま結界を作り上げて進行を防ぐ。この階層までさまざまな魔物がいたが、女魔人族の操る魔物はそのどれもを上回り、攻撃を何度か受けるたびに結界が揺れている。

 

「「〝周天〟」」

 

だがそれは時間稼ぎ。結界付近にいる透明な魔物に2人の治癒師はあえて回復魔法をかける。〝周天〟は回復量は小さい代わりに一定時間ごとに回復魔法が自動で掛かる。香織と辻の2人はその効果を極限まで下げて、魔物に施したことで位置を特定させていた。

 

「よし、みんな魔法を発動させて」

 

戸惑いながらも檜山達は魔法を発動させた。その瞬間、吉野は付与魔法で彼らの魔法攻撃を強化してそれと同じ魔法を恵里が発動し、それらを呑み込み威力を拡大させて放つ。結界内の魔物は風穴を開けられたり黒焦げになったりなど各魔法の餌食となって絶命した。

 

「これは、さすがに予想外だね」

 

女魔人族は別に油断したわけではない。だが想定以上に彼らが強かった。とはいえ、その程度(・・・・)のものだ。

 

「奇襲を企てたようだが、失敗だったな。これでお前の切り札はなくなった!お前を守るものはなにもない!」

 

女魔人族は正直呆れている。実力的に言えば今回連れてきた魔物達相手であれば1体を除けば彼らなら打ち勝ち、自分を殺せる可能性が充分にある。なのに、今生まれた隙を狙いもせず、ベラベラ宣言しなくてもいい事を宣言するなど、戦いを舐めているのか、そもそもわかっていないのか。

 

(まぁ、後者だろうね)

 

と女魔人族は判断した。

 

光輝は正々堂々と戦わず、卑怯にも奇襲をしようとしていた事に腹を立てているようだが、こんなものは卑怯とは言わない。いま彼らがしているのは勝負ではない。完全な形式ではないが、戦争そのものだ。

 

「こんなのは切り札じゃないんだけどねぇ」

 

「強がりを言うな!」

 

「……こっちはさ、2日前からあんたらを観察してたんだ。あんたらがキメラの固有魔法を看破してるかもしれないって考えて行動してんだよ」

 

「「⁉︎」」

 

香織と雫は、やはりあの時の悪寒と感じた魔力は気のせいではなかったと確信した。そして、この階層に来るまでに荒らされた跡がなかった事を考えるなら、事前準備を重ねて、待ち伏せをしていたのだとわかる。そんな相手が、この程度で終わるはずがない。

 

「時間もあったんだ。キメラが見えるなら、見えない駒を増やすだけさ」

 

瞬間、後方から悲鳴が上がる。後衛の最後尾にいた斎藤と中野だ。先程倒した魔物と同タイプ、ブルータルもどきにキメラ、鋭い針のある触手を持つ黒猫と4つの目をもつ狼、更にその先頭に腕と口がねじれた鋭い針状、所謂ドリルのような形状のしたモグラをイメージさせる魔物がいた。

 

「どこから……まさか!」

 

その先頭にいる魔物を見て、この魔物達がどこに隠れていたのかに雫は気付いた。

 

地面に穴を開けて空洞を作り出しそこに控えていたのだ。その魔物の固有魔法は硬質の変化。身体の一部分と一定の範囲の魔力の低い物質の硬度を変質させる。ちなみにあくまで硬度を変えるだけで、形状や材質そのものを変化させることはできない。

 

だが穴を掘り、できた空洞が崩れないようにすることぐらいならできる。

 

「大丈夫か⁉︎クソまた……!まだ来るのか!」

 

「ひっ」

 

次々と地面からまるでゾンビのように出てくる。ホラーが苦手な香織はその光景だけで軽く悲鳴が出る。

 

「ホラホラ、早くしないと」

 

女魔人族が煽ると、今度は先程生徒達に倒された魔物の何体かが傷を治して起き上がる。女魔人族の肩に乗る鳥型の魔物が回復をしているのだ。

 

「この、舐めんな!」

 

檜山は焦りに焦りながら魔法を放つ。女魔人族はそれに目もくれない。檜山が放った風魔法はまたも地面から出てきた亀を思わせる魔物へ方向が転進するが、その魔物は口を開けて飲み込んだ。

 

「魔法が⁉︎」

 

「‼︎コレなら」

 

「なかなか強力だね。アブソド1体じゃ心許なかっただろうね」

 

恵里は更に強力な炎の魔法を使うが更に2体、アブソドという亀型の魔物にすいこまれる。そしてその魔物は一度閉じた口を開けて、まるで狙いを定めるようにその口を向ける。そして、彼らはそこから魔力を感じた。

 

(すぐに想定しておくべきだった!吸収できるなら放出だって)

 

「んなめんなぁぁ!守護の光は強き意思のもと、蘇り弾く!〝天絶《弾》〟‼︎重なりて意思ある限り蘇る、〝天絶〟!」

 

地面を焼き尽くしながら迫る炎魔法を〝天絶《弾》〟で弾くが、2体分を弾いた後消滅した。そこで残りの1体分と弾き切る事のできない魔法を防ぐ為、更に通常の〝天絶〟を複数展開し、その際あえて詠唱することで結界の強度を足した。鈴の〝天絶《弾》〟は攻撃を弾くが、弾いた魔法のコントロールはできない。それでもどうにか角度を調節して他の魔物に当てる事に成功したが、大して数を減らせてない。

 

「鈴ありが…って鈴!大丈夫⁉︎」

 

恵里がお礼を言おうとしたが、その鈴は鼻と眼から血が出ていた。結界術は操作が複雑だ。いかに結界師としての天職をもつ彼女でも、脳処理に負荷がかかる。なぜなら今、彼女は前衛組の2人、光輝と雫に〝聖絶:纏〟を纏わせて維持もしているからだ。

 

「相当な実力だね。防御力だけなら勇者以上じゃないかい?」

 

女魔人族の称賛にも反応せず、維持と次の攻撃を防ぐ用意をする。

 

「それじゃ、これにはどうする?地の底に眠り金眼の蜥蜴、大地が産みし魔眼の主」

 

(あの詠唱!)

 

「健太郎、逃げろ!」

 

野村がしまったと気付いた時には、既に近付いてきた黒猫の魔物に腹を貫かれていた。しかし直後に土魔法による攻撃で魔物の顔面を粉砕した。

 

「辻!早く治療を!」

 

「わかってる!わかってるから!」

 

辻は先程の奇襲でやられた2人を回復してすぐに野村の治療の為に回復魔法を使う。香織も今は戦闘はせず回復に回っている。おかげでどうにか戦線を維持しているが、正直本当にギリギリだ。最初に女魔人族が檜山グループの2人を狙ったのは、彼らが足手纏いであると気付いていたからだ。彼らと彼らを回復する2人を守る為に前衛は離れすぎないようにしているのも原因だ。

 

「いっぐっ………た、谷口ぃぃ‼︎」

 

そんな中で重傷を負った野村は鈴に声をかける。

 

「宿るは暗闇見通し射抜く呪い、もたらすは永久不変の闇牢獄。 恐怖も絶望も悲嘆もなく、その眼を以て己が敵の全てを閉じる。残るは終焉。物言わぬ冷たき彫像。 ならば、ものみな砕いて大地へ還せ 」

 

女魔人族の詠唱が終わり、後は発動のみ。間に合うかわからない。だが野村はその魔法の危険性がわかっている。土属性の魔法を勉学してきた彼には。

 

「あれを、止めてくれぇぇぇぇ‼︎」」

 

「〝落牢〟‼︎」

 

女魔人族の掲げた手に灰色渦巻く球体が発生する。それが向かってくる。

 

「鈴!」

 

谷口鈴にとって、魔法を使うという事に対して、最初はちょっとした女の子らしい憧れがあった。だがそれは他者を傷付けるものだと理解した事、七海による言葉があったおかげで、好奇心はあっという間に消えた。次に気付いたのは自分が誰かを守るのに適しているという事。こんな事態になって、皆不安になり、ハジメが奈落に落ちた後は、尚更に笑顔が消えた者もいた。

 

七海は聞いた。

 

『誰かの笑顔を守りたいということですか……その為に人を、他者の笑顔を、命を奪う…人を殺せますか?』

 

その質問を受けた瞬間……否、その前にトータスに来た時に七海が皆に言った時から理解していた。それでも、その時に答えを出す事はできなかった。

 

(どうして、あの時七海先生は、私が戦う事を認めてくれたんだろう)

 

度重なる結界術の乱用で脳処理が追いついてない。思考が別の事柄に割かれる。そんな中でも…

 

「〝聖絶〟」

 

できる限りの力を無意識に捻り出して魔法を発動させた。だがその為に魔物も結界内に入れて、しかも足し引きは充分ではない。灰色の球体がぶつかった瞬間、凄まじい圧力で突破しようとしてくる。その衝撃は魔力を通して鈴の脳にも伝わってくる。

 

「!んにゃろがぁぁぁぁ‼︎」

 

それによって意識を戻した鈴は維持に力を入れていく。これ以上の行為は危険だろう。それでも、ここしかないと理解して。

 

「せ、〝聖絶:縛〟!」

 

消費の激しく維持と展開の難しい魔法を更に使用する。

 

「これは………〝聖絶〟を、逆張りしてるのかい⁉︎」

 

自身に魔法を掛ける価値があるのかと女魔人族が考え、すぐに答えに行きつく。そして、なぜそれを展開したのかも。

 

一方、光輝はその理由が分からず、目の前にいる敵を倒す為に行動していた。元来すぐに鈴の意志に気付かなければならないが、彼は戦う=勝つで思考を回していたため気付けなかった。

 

「光輝‼︎もういいから撤退するわよ‼︎」

 

「なっ、ここまでされて逃げるのか⁉︎」

 

それに気付いた雫が声をかけたが、光輝は引くという考えに賛同しようとしない。勇者が仲間を傷付けられて逃げる事などできない、とでも考えているのだろうか。雫はそれに対して怒りを含めながら言う。

 

「いいから聞きなさい‼︎鈴を見て!あんなになってまで結界を張って、守って、相手を動けなくしてる。皆に今のうちに逃げろって言ってんのよ!」

 

「だが、俺なら」

 

「限界突破もいま使ってるんでしょ⁉︎それが切れるのも時間の問題!なら、この状況であんたが弱体化して、その上鈴も動けなくなったら終わりよ!」

 

雫は「冷静になりなさい」と叱りつける。彼女とて悔しいのだ。それを感じ取った光輝は撤退を指示する。

 

「龍太郎と雫、それと永山で退路確保!動ける後衛はその援護!」

 

光輝は前に出て撤退の為に邪魔な魔物をギリギリまで倒す。女魔人族は当然撤退させるつもりはない。ドリルモグラことモギラに指示を出して結界を地面の下から抜けて突破しようとしたが…

 

「ばっ、馬鹿な!地面にまで⁉︎」

 

既に鈴はその対策もしていた。だが実際は完全に覆ってるわけではない。地面に少しだけ範囲が広がっているだけでちゃんと調べてしまえばすぐに通れる場所があると気付く。その上無理矢理張っているそれはいつ維持できなくなるか分からない。その前に鈴の脳が焼き切れて廃人になる可能性もある。

 

「谷口さん手伝うよ‼︎」

 

吉野は付与魔法で出力を上げて、更に自身の魔力の一部を与える。女魔人族は、ならば、と鈴達の方の結界内の魔物に指示を出して襲わせようとしたが…

 

「っ!キメラ生きて…いや、なにしてんだい⁉︎」

 

死んだと思っていたキメラを含めた数体の魔物が動き出して、他の魔物を襲いだす。その光景を見て女魔人族はそれがなんなのか気付く。まさかと思って見ると恵里がタクトを振るうように手を動かしていた。ここに来て彼女は本来の天職である降霊術を使っていた。

 

「まさかあんたは降霊術師か‼︎」

 

事前調査をした女魔人族だがその情報はなかった。今まで天職だが精神的な理由で使えなかった術を使用した。

 

「苦手なんて、言ってられない‼︎」

 

他の魔物を寄せ付けないようにして鈴を守る。そして光輝が詠唱した魔法が解き放たれる。

 

「〝天落流雨〟!」

 

掲げた聖剣から光魔法の収束したものが放たれる。拡散系の技の為威力はさほどないが50階層の魔物くらいなら難なく倒せる。しかし今目の前にいるのはそれとは桁違いの強さの魔物だ。着弾したものの怯ませることしかできない。しかし今度はその光が再び光輝の聖剣へと集まっていく。

 

「〝集束〟!からの〝天爪流雨〟‼︎」

 

集束した光と共に聖剣を突き出す。瞬間、光魔法の流星が発射された。着弾と同時に無数の爆発をクラスター弾のごとく起こした。

 

「今だ!撤退するぞ!」

 

「待って!谷口さんが‼︎」

 

相手の魔法を防ぎ切り、逃げ道ができたことで安心してしまい、緊張の糸が切れた瞬間に彼女は限界を迎える。〝聖絶:縛〟は未だ展開後攻撃はされておらず、吉野の付与で強化されたことで維持ができているが、仲間を守っていた〝聖絶〟は消える。これ幸いとばかりに女魔人族は残りの魔物を使役して襲いかかる。

 

「ぬおらぁぁぁぁぁあぁ‼︎」

 

肉体の強度を魔力と魔法の身体強化でタックルして無理矢理魔物を吹っ飛ばす。〔+視認〕をもたない龍太郎はキメラによる固有魔力で姿は見えないが、揺れ動く空間と土埃で場所をなんとなくで判断し、特攻した。

 

「ったく、無理しすぎだぞ鈴」

 

「は、はは、龍太郎くんは、無茶苦茶すぎ」

 

消えそうな意識をどうにか保つ鈴を抱えて走り出す。

 

「しっかり掴まっとけよ‼︎」

 

女魔人族は、逃すかと指示を出すが、回復を受けた野村が女魔人族がしたものと同じ魔法、〝落牢〟を落とす。

 

(あいつ、ザコかと思ってたがいつの間に詠唱を)

 

(詠唱の簡略化と早口は、こっちは何度もしてんだよ、七海先生が相手だったからな!)

 

七海相手に魔法を普通に詠唱して使っていればいい的になるだけだ。故に、皆は詠唱の簡略化と詠唱の早口ができるようになった。

 

魔人族の女はそのような事を知らない。が、自分が使った魔法だ。その脅威はよく知っている。そしてそれは魔物も同様。先程放たれた時に魔物は女の指示もないのに散開して距離をとっていた。それを野村は見逃さなかった。

 

魔物達は追撃を急にやめて距離を取るが、急拵えとはいえ速攻で完成させた魔法に一部の魔物が逃げ切れなかった。更に攻撃そのものが煙幕となり、撤退がしやすくなり、遠藤の技能を使い痕跡をできるだけ消していく。

 

(残穢は残るだろうが、時間稼ぎには充分だ)

 

そもそも残穢の存在はこの世界では七海が見つけた出したもの。魔人族側には伝わっていない可能性がある。だがそれに賭けてしまうほど甘い考えを持ってはいない。撤退の際に弱い魔法を壁に放つ。わざと見える所に魔力の痕跡を残して時間稼ぎを行い、撤退していく。

 

魔人族の女は舌打ちをして煙を晴らしていく。

 

(だいぶ石にされたね。回復をしてから追わなくちゃいけなくなった………とはいえ、あれだけの負傷だ。地上までは行けないだろう)

 

数人を見捨てれば別だが、わずかとはいえ光輝の性格を見たことを考え、するはずがないという結論に至る。

 

(この調子なら、100階層に待機させたアレを呼び戻す必要もなさそうだね)

 

しかも光輝達は知らないがまだ切り札がある。しかし女魔人族は予想以上に強い彼らを警戒し、傷ついた魔物と石になった魔物を肩に乗せた鳥型の魔物の固有魔法で回復させる。

 

(………いや、万が一を考えて、もう一度会敵して、状況を見て呼ぶとしよう)

 




ちなみに
元来なら、今回鈴がした結界の張り方は神代魔法がなければできないものを己の限界を超えて、無理矢理出したものなので、かなり脳に負荷が入り、この後気絶しました。しばらく起きません
前も言いましたが七海の訓練で1番強化されたのは鈴です。今回の限界を超えたことで、彼女に何が起こるのでしょうか

ちなみに2
オリジナル魔物:まだ名称なし。
固有魔法、硬質変化。地面の硬度を変え、自分のドリルの腕を使って掘る。生物の硬度は自分の腕以外は変化できない更に加工されたもの(例、鎧など)も硬質変化できない

名称募集しておきます。見た目は『地球防衛軍』に出てくるモゲラが細くなった感じで
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