ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回もどうにか3月7日に出せました!

七海「一応言っておきますけど、この話に乙骨君を出す気はないんでしょ?」

1番好きなキャラなので!…あ、でも今回の人気投票は日車に入れました!(グッ)

七海&乙骨「……………」


好事多魔③

「南雲君、多分そうだと思うので聞いてませんでしたが……元の世界へ行く際にはユエさん達もお連れするのですか?」

 

「ん?ユエは確実。シアもまぁ……ついて来たいならそうする」

 

「なぁ、ご主人様?妾は?妾は?」

 

無視→「急にどうしたんだよそんなこと聞いて」

 

ティオが悶えている。結局なにをどうしても彼女もついて来るし、どうあってもこの変態性は治ることはないだろう。

 

「その事に関して本人達が納得しているなら別に問題はありません」

 

ハジメの世界に行ったら、もしかしたらもうトータスに戻って来れなくなるかもしれない。その事をハジメ達が理解してないとは思えないので、七海はそこに関して何か言うつもりはない。

 

「2つほど意見があります。1つは、地球の……特に日本の常識はちゃんと彼女達には伝えておいてください。こっちとルールが違うのですから。きちんと成人するまで車は厳禁ですし、先程から外で君のバイクで暴走するシアさんは特に。免許も取得させてください」

 

七海が指差す方向には…

 

「ヒャッハー!ですぅ!」

 

以前ウルの町で見せた大型バイク、ハジメ命名『シュタイフ』に乗って広大な大地を駆けるシアの姿があった。ここまでは良い。だが立ち運転をしたり、加速してからわざわざ段差がある所へ向かいバイクを跳躍させたり、その際まるでスカイダイビングのように手をハンドルから離し、身体を浮かせたりなど、危険運転を敢行している。着地するとまるで見せつけるように、尻尾のついたお尻をふりふりしている。運転技術は既にハジメを超えている。

 

「ねぇパパ!ミュウもあれやりたいの!」

 

「ダメに決まってるだろ」

 

「子供にも悪影響じゃないですか。そういうのはもうティオさんだけで充分なのに」

 

その言葉にティオが悶絶して更にハジメ&七海にストレスを与える。ミュウはミュウで「やるの!やりたいの!」と駄々をこねる。

 

「ミュウさん、あれは少なくとも身体がシアさんくらいにならなければできません。楽しみは後でとっておくものですよ」

 

「う〜ナナミン〜ナナミンもパパに言ってほしいの〜」

 

「お母さんに会って怪我をしているあなたを見たら、きっと悲しみますよ。今は元気な姿を見せてあげることが大切です」

 

ミュウが分かりやすくしょんぼりとしていた。

 

「おい七海先生、なにもそこまで言わなくてもいいだろ。ミュウ、シアと乗るのはダメだが、俺と一緒なら構わねぇぞ」

 

「こういうのは早期教育が大切です。そもそも君も、なんで父性を出してるんですか」

 

意見が対立したが、見ているユエとティオからしてみたら…

 

「ユエお姉ちゃん。パパとナナミンが喧嘩してるのミュウのせい?」

 

「違う。ハジメパパも七海も、どっちも意見は違うけど、ミュウが心配なだけ。……意外に過保護」

 

「まぁ、七海が子供を大切にしているのは、フューレンでの一件で知っておったが、ご主人様も子煩悩とはの。……このギャップはなかなか」

 

「ユエお姉ちゃん、ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」

 

「こっちは不治の病だから気にしちゃダメ」

 

「ついでにあまり視界に入れないようにもしてください」

 

ハジメとバチバチと視線を交わしつつ、しっかりと注意する点は「流石だな」とユエは思い、自分よりも年下にもかかわらず大人オブ大人の七海に、ちょっとだけ嫉妬する自分に、妙な虚しさを感じた。

 

「話が逸れましたね。2つ目ですが………いえ、やはり今はこの話はいいでしょう」

 

「?」

 

(このまま彼がミュウさんに対する情が深くなって、彼女も元の世界に連れて行くのだとして………この子の母親がどのような方かは知りませんが、もしその選択が来たら、どうするのでしょうね)

 

以前七海とハジメの間で結ばれた縛りの1つ、呪力の扱いを2人に教える代わりに他の転移して来た者を帰す、という縛りは仮に見つかった瞬間に転移するものであっても、他の者を帰すためにハジメが元の世界に帰っても尽力しなければならない。だがその中にミュウが入ってないとはいえ、彼女も連れて行くことはできる。

 

(違う世界で生きる事を、南雲君は強制はしないだろう。だが、情があればあるほど、別れをまだ幼いミュウさんがどう受け止めるのか……)

 

そして仮に、ミュウも元の世界に戻る時に側にいられるのか。七海は考えが尽きない。それでも…

 

(私も、彼を信用し、信頼しているのですかね)

 

今のハジメなら、そう期待していた。

 

「ところで先生、本当にホルアドに着いたらあいつらの事を確認しないのか?」

 

「ええ。君自身、そうする理由がないと言ったでしょう?」

 

「まぁ、そうだが」

 

この時、ハジメは気付かなかった。その違和感に。

 

 

 

 

「相変わらず、ここはフューレンとは別の意味で賑わってますね」

 

「……だな」

 

冒険者の為の町故の活気と遠くから聞こえる怒号のような声。七海がそれを横目にしていると、ハジメの複雑な顔が見えた。肩車をされているミュウは既に気付いていたのか、七海が声をかける前に、小さな手でペシペシとおでこを叩いて声をかけていた。

 

「パパ、どうしたの?どこか痛いの?」

 

「ん、いや、そうじゃない。ただ、ここには前に来たことがあってな」

 

「4ヶ月ぶり…ですかね。大体ですが」

 

「もう何年も前に感じるよ」

 

「あの日のことは、すまないと思ってます」

 

「またそれかよ」

 

ハジメは呆れたような声を出す。

 

「確かにさ、自暴自棄感はあったけど、自分で決めた結果だって今は思ってる。七海先生が他の選択肢を示してくれたことも、鍛えてくれたことも、これでも感謝してんだぜ」

 

「それは、結果論です。死にかけて、生き延びた君だから言えることです」

 

「その結果で、今がある。仮にさ、今もう1回あの時に戻っても俺は同じ行動をとるぜ」

 

「………ユエさんですか?」

 

「ああ。ユエに会えた。それだけでも、俺にとっては何よりも価値がある」

 

「…ハジメ」

 

メインストリートのど真ん中で唐突に始まる惚気。周囲の人々からは好奇心やら嫉妬やら、様々な視線を向けられるも、それすら知らん顔である。

 

「うわぁ、ちょっと酷くないですかぁ?私達に会えたじゃなくて、ユエさんオンリーですよぉ〜。まぁ、お2人の関係も分かってますしぃ、それに憧れて私もここにいるんですけどぉ、もうちょっとくらいは私達にもあの愛を向けてくれてもいいような気がするんですけどねぇ!」

 

「むぅ、妾としてはご主人様に罵ってくれればそれで充分なのじゃが、確かに羨ましいのじゃ…というかシア落ち着くのじゃ」

 

「ティオさんだって、ベッドの上でハジメさんにあんなこととかこんなこととか、考えないんですかぁ⁉︎それこそ変態界のティオさんが望むようなハードプレイもぉ⁉︎」

 

「ぬぅおぅ!こんな公の場で変態呼ばわりとはぁ⁉︎ハァハァ、良い!ハァハァハァ」

 

「やっぱり変態じゃないですか。ねぇ七海さ…あれ?七海さんは?」

 

「シアお姉ちゃん、ナナミンあそこ」

 

周囲に七海がいないのに気付いてシアが冷静になった時に、ミュウがピッと指を向けたのは随分遠くだった。10メートルは離れていた。

 

「いつの間に…七海先生、回避力があるな」

 

周囲の人間から同類と思われる前にさりげなく既に距離を離す七海に、ハジメは感心すらしていた。シアの怒号で我に返った為、ティオやシアとは他人のふりをしようにもできない。ハジメは騒ぎを聞きつけた衛兵が来る前に、荒れる2人を無理やり引っ張って冒険者ギルドへ向かう。

 

「おや、ようやく来ましたか」

 

着いた時に七海に皮肉を言われつつ、中に入る。ちなみに七海もハジメも、ここの存在は知っていたが、行く必要はなかった。故に入るのは初めてなのだが…

 

「南雲君、ミュウさんも中に入れて大丈夫でしょうか?」

 

「?別に問題ないだろう」

 

嫌な予感がして七海は言うが、特に禁止しているわけでもないのでハジメは気にする事なく入る。入った瞬間に張り詰めた空気を感じる。そもそもここは戦闘を専門にした者達の集まる場所。子連れが来るようなところではない。ましてユエ、シア、ティオといった美女を連れているとなると、嫉妬と場違い感は更に増す。

 

「ヒゥ⁉︎」

 

「だから言ったじゃないですか。ミュウさんが怯えてますよ」

 

「おい、坊ちゃんよぉ!ここは女を侍らせ…て」

 

1人の強面冒険者がハジメに声をかけて来たが、すぐに言葉が止まる。ハジメもそれに疑問を感じる。これ以上ミュウに悪影響になるなら、こいつら全員物理的に黙らせよう、と考え〝威圧〟を試みていたが、まだしてないのに男がビビりだし、それをきっかけに周囲の冒険者も怖気付いたようになる。

 

「そ、その背格好……て、てめぇ、まさか……七海、建人か」

 

「?……どこかでお会いしましたか?」

 

七海の肯定とも取れるその言葉を聞いた瞬間に、周囲の冒険者が蒼ざめる。

 

「い、いや、なんでもない、なんでも………ここに用があるならあそこ、あそこが受付だ」

 

「?ありがとうございます。それと、容姿は仕方ないですが、子供が怖がるので、もう少し柔らかな態度をとることを心がけておいた方がいいですよ」

 

「あ、あははは」

 

冒険者の不器用な笑みは逆に不気味で…

 

「ひぅぅぅぅぅ⁉︎」

 

「なぁにウチの子泣かせんだぁ!あぁ‼︎」

 

「「「「そんな理不尽なぁ‼︎」」」」

 

ついに発動した〝威圧〟。ハジメのキレ顔が冒険者達を散らす。

 

「ったく。つか、七海先生随分と有名じゃん。そんなサングラスじゃ、変装なんてできないくらいに」

 

「別に変装の為ではないのですが……しかし、なんでこうも目立ってるのでしょうね」

 

七海は知らない。王国に半分脅しでかけたハジメの評価を変える為の情報発信。その情報の中に七海はいなかったが、それを発信する前に王国が大々的に七海がベヒモスを軽く倒した件を宣伝していた。ハジメは相討ち、七海は圧勝。多くの冒険者に七海=ヤベー奴という共通の認識が生まれ、指名手配でもないのに人相描きが出るほどである。

 

「さてと、支部長はいるか?フューレンのギルド支部長から手紙を預かってるんだ。直接渡すように、とも言われてる」

 

元来、ギルド支部長の依頼を一介の冒険者が受ける事はない。だが、ハジメのランクは金。最高ランクだ。受付嬢はそういった情報は事前に頭に入れるのだが、ハジメが金ランクになったのはつい最近で、本来なら数日かかる移動も車で短縮しているので、受付嬢に情報がないのは当然だった。

 

「お騒がせしたのは申し訳ないとは思ってますが、お取り次ぎお願いします」

 

「は、はい!ただいま!」

 

七海が謝罪とお願いをすると、猛ダッシュで受付嬢は支部長を呼ぶ為移動していく。

 

「…………」

 

「なんですか?」

 

ジッと見ているハジメに七海は問う。

 

「いや、いずれ俺らの事は伝わるのは覚悟してたんだが……七海先生がいれば、なんかあっても、交渉の方とかはなんとかなりそうだなーって」

 

「……………」

 

七海は『よくもまぁ、堂々と本人を前に言えるもんだ』と呆れを通り越して感心していた。

 

「お待たせいたしました!それでは、こちらに……それと」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いえ、その、実は別のお方と今面会中で」

 

「先約があるなら、そちらを優先するべきなのでは?」

 

「いえ、七海様の存在と、あなた方が金ランク冒険者と知ってちょうど良いとのことで」

 

ハジメも七海も、何か厄介ごとの予感がしていたが、とりあえずは会わなくてはどうにもならないのでついて行く。受付嬢の案内でその扉の前に案内された。支部長の部屋だけあって扉も大きく見た目が豪勢だ。その扉を開けた先に、ハジメと七海、両者の見覚えのある人物がそこにいた。

 

「君は」

 

「ほ、ほんとだ、本当に………七海先生‼︎…よかった、助かった」

 

ハジメにとってはかつての同郷の仲間。七海にとっては今も優先すべき生徒の1人だった。

 

「遠藤、なんでお前がここに」

 

「⁉︎そ、その声は、南雲、南雲なのか⁉︎…声がするのに姿が見えない⁉︎七海先生!南雲と一緒だったんですか?っていうかあいつ生きてたんですか⁉︎どこにいるんですか⁉︎」

 

遠藤浩介、特徴:世界一影が薄い(暫定)

 

「うごぇ!」

 

「なんでそんな奴に気付かれないんだよ笑えねぇ」

 

ハジメは瞬間移動じみた速度で遠藤の後ろにまわり、その背中を蹴飛ばした。

 

「南雲君、いちいち暴力を振るわないでください」

 

「というか、なんかとてつもなく酷い解説された気がする…ってそんなことより、お前が南雲なのか⁉︎」

 

ガバっと起き上がって遠藤は言う。驚くのは無理もないだろう。元の面影など、もはや声くらいしかない。

 

「信じられないのはわかりますが、事実です」

 

「いや、でも七海先生…口調とか見た目とか」

 

「奈落の底で生き延びて這い上がってきたんだ。顔付きだって変わる」

 

「顔付き以前の問題の気がしますが」

 

「……七海先生はマジで俺の味方だよなぁ〜」

 

適切なツッコミだがどうにも納得いかないハジメだった。一方で遠藤のほうは胸を撫で下ろして安堵する。

 

「正直言って、死んでるかと思ってたけど、生きててくれて嬉しいよ。探した意味があったかはわからないけど、皆喜ぶよ。特に白崎さん」

 

「………そうか」

 

遠藤の言葉を本心だと感じたのか、自身を心配して、生きていた事を喜んでいるのを見て、ハジメはなんとも言えない気持ちになる。

 

「それで遠藤君、その白崎さん達は?なぜ君がここに?」

 

「!そうだ、そうだった!七海先生っと、それに南雲!信じがたいけど七海先生と入って来たって事は、お前が金ランクの冒険者なんだろ?」

 

「え、あぁ、そうだが」

 

「なら、頼む!お前も一緒にオルクス大迷宮へ潜ってくれ!今は1人でも多くの戦力が必要なんだ!」

 

ハジメの肩を持ち、必死に頼み込む遠藤の姿に、七海は違和感があった。

 

「遠藤君、私は君達がそこまで弱いとは思ってません。特に、現状メンバーで最低3…いや4人は相当な実力に既になっていると思ってます。それにメルドさんもいるなら、以前のように魔物に襲われたとしても」

 

「違うんです!魔物じゃない、いや、魔物もなんですけど魔物だけじゃなくて、魔人族が、強力な魔物を連れて現れたんです!」

 

「「魔人族」」

 

 

落ち着いて話そう、と近くにいた支部長のロア・バワビスが声をかけて、彼らは室内のソファに座って話を聞く。

 

「俺は、援軍と状況を知らせるために、天職を駆使して単独で転移陣があるところまで戻ったけど、魔人族に追いつかれて、俺を、俺を逃す為に、メルドさんや他の騎士の皆が全員……」

 

涙が溢れ出てくる。遠藤は自分の為に死んでしまった騎士達の姿を見たのだろう。だからこそ、なんとしても他の生徒たちを助けたいのだ。

 

「そうか……あの人も」

 

「………メルドさん」

 

ハジメも七海も、メルドの人の良さは知っている。互いに感じること考える事は違うが、それでも彼のような善人の死には、想うところがあった。ただ、

 

「って、この状況理解してるのか⁉︎なんだよその子!お菓子食わせてる場合かぁ⁉︎」

 

「ひぅ⁉︎パパぁ‼︎」

 

先程から不安そうな会話しているのをなんとなく感じていたミュウを安心させる為、ハジメはとりあえずお菓子を与えていたのだが、ハジメの膝の上でモキュモキュと食べているのでどうにもシリアスになれない雰囲気になり、ついに遠藤はツッコミを入れた。

 

「テメェ、なにミュウ泣かせてんだぁ‼︎アァン⁉︎殺されてぇのかぁ‼︎」

 

一応遠藤のツッコミは至極真っ当なのだが、その殺意100%の眼に完全に怖気付き「ヒィぃぃ!」と悲鳴をあげていた。

 

「2人とも落ち着いて下さい、話が進まない」

 

「まったくだ。それで、ナグモ。そっちが話している最中にイルワからの手紙を読んだ。それ以前にお前についての概要はある程度知っている。そこの七海建人を含めてたったの数人で6万以上の魔物を殲滅し、フューレンでは半日で裏組織の大元を壊滅。正直、ウソだろと言いたいが、イルワは冗談でこんな手紙を出さん」

 

ハジメの殺意でビクビクしてた遠藤もロアから出たその情報に驚く。七海がいくら強くてもそこまでできるとは思えない。つまり、ハジメの実力は…

 

「まぁ、この方々の中でミュウさんを除けば、私が1番弱いですけどね」

 

答えは今七海が告げた。

 

「し、信じられないけど、七海先生が言うなら、きっとそうなんだろうけど……なら、尚更だ!そこまで強いなら、きっと皆を助けられる!一緒に助けに行こう!」

 

「………なに勝手に決めてんだ」

 

ハジメは心底ウンザリした顔で拒絶(・・)の反応を見せた。

 

「な、何言って…天之河達が、仲間が死にかけてるんだぞ⁉︎」

 

「それが勝手なんだよ。仲間に入れんな。俺にとってお前らはただの『同郷の人間』ってだけで、他人となんら変わらない」

 

「な、なんだよそれ!意味わかんねぇ!」

 

遠藤はハジメの冷たい言葉にダメだと感じ、七海を見て言う。

 

「ならもういい!七海先生とだけでいく!」

「お断りします」

 

「早くいきましょう!七海せん………いま、なんて?」

 

「お断りします」

 

その言葉は、ハジメ以上に予想外だった。

 

「え、ちょ、なんで、どうして」

 

気持ちに整理がつかない。ありえない言葉を聞いて思考が追いつかない。そんな中でどうにか遠藤は言葉を出す。

 

「今、私は君達を元の世界に戻す為に行動してます。その方法としてかなり有力な手段が南雲君の旅にあると判断し、彼と行動をしてますが、その対価として私は彼の判断に委ねて行動する事を条件に契約してます」

 

「な、なんですかそれ!俺達を帰すとしても、それで俺達を助けないのは違うでしょう⁉︎」

 

遠藤は文字通り必死の形相で七海に言うが、七海の表情が、以前付けてなかったサングラスも相まって、無表情が際立って見える。

 

一方、ハジメも七海のこの言葉に驚く。そしてホルアドに着く前に質問していた時の違和感に気付いた。あの七海が、愛子とは方向性が違くとも同じくらいに心配し、大切にしているはずの生徒の安否を、まったく確認しようとしてない事に。

 

「私がどれだけ君達を助けたくとも、南雲君がその要請を断れば、私は助けることができません」

 

「だから、なんでそんな…」

「七海先生」

 

遠藤の言葉を遮り、ハジメは声をかけた。

 

「1つ聞きたいが、あんた自身はどうしたい?」

 

「行けるなら、今すぐにでも向かいたいですね。契約を破棄してでも」

 

本来なら、1つ目の縛り、《共に同行するが反対意見を言っても最終的な行動は南雲の判断に必ず寄る》は七海が同行をやめる、即ち契約の破棄をし、それに対して縛りをかけられてた側、ハジメがペナルティを求めなければ行ける。

 

だが問題は、呪術的な契約とその破棄には段階とルールがある事だ。一度でも縛りありきの契約をし、その破棄をするともう1度同じ縛りを結ぶのは難しく、かけられた相手もその時の契約を絶対に破棄しなければならない。即ち、同行は2度とできない。

 

次に2つ目の縛り、《呪力の扱いを教える代わり、他の者達も元の世界に帰すと約束する。(ただし、自分から帰りたいと言う者のみ)》も同行できないなら教える事はできない。現状それなりに呪力の扱いを教えているが全て教えきってはいない為、これも破棄するとなると、ハジメはたとえ同郷の人を自分が帰したいと思ってもそれができない。最悪他の者たちが帰る手段がなくなる。しかもこれはハジメが出してきた縛りの為、縛りをかけられている側が七海という状況が尚動きを制限し、破棄する際の問題はより複雑になる。

 

そして3つ目。《元の世界に帰った際に起きる問題を解決する手伝いをする。その代わり、いかなる状況でも七海はハジメの助力をする》これは元の世界に戻った時にメディアや政治問題、彼らが持った魔法という力の利用といったものに対する対策ができなくなるという事。更に助力する為には同行が必須。同行をしないならこれも破棄しなくてはいけないが、別の縛りの破棄による破棄は望んでなくともペナルティに繋がる可能性は高い。

 

 

ハジメは、縛りについて、まだあまりにも知らなさすぎた。しかもこうも複数の縛りを重ねた事の代償も。それが、他人の考えも、想いさえも、無視をさせてしまうほどの。

 

(もし、ここで全ての縛りを破棄したら、俺もどうなるかわからない。だから、この人は)

 

他人の想いを無理矢理拒絶させる。その行為は、ハジメは受け入れられない。何より、そんな行為も、この場で全て問答無用で切り捨てるのもきっと『寂しい生き方』だから。

 

「……遠藤、白崎は、まだ無事か?」

 

「え?」

 

「聞いてんだろ?白崎は無事か?」

 

「あ、あぁ、無事だ!回復魔法もそうだけど正直下手な前衛よりも強くなってて、彼女のおかげで助かったことなんていくらでもある。お前が落ちてから、その、七海先生の教えもあって、すげー勢いで強くなってて」

 

遠藤がちらちらと七海を見つつ言うと、ハジメは「そうか」と小さく、聞こえるレベルの声で呟いてから、七海に声をかけた。

 

「七海先生」

 

「なんですか」

 

「悪かった」

 

「……謝る必要はありません。縛りのことをもっとちゃんと教えてから結ぶべきでした。それで、どうするんですか?」

 

ハジメは息を吸い、大きく吐く。次に最愛の人物に視線を向けた。その相手も同じく視線を向けていた。

 

「ハジメのしたいようにすればいい。私はそれを信じてついていく。どこまでも」

 

ハジメの手をとりユエは優しく言う。そして今度は七海を見て言う。

 

「七海、縛りの事を教えなかったのはわざとでしょ?ハジメに重荷となる考えを持たせないように、特に3つ目は自分だけで背負う為に…ハジメ達と愛子の為に」

 

「………買い被りですよ」

 

七海は否定するがその通りだ。問題解決の為の手助けといかなる場合でも七海はハジメの助力をする。即ち、この問題解決の際に起こることに対しても七海は助力をする必要がある。全ての批難、中傷などを一身に引き受けるつもりなのだ。

 

「七海先生、俺は」

 

「誰かがやらなくてはなりません。君が望もうと望まないとも、問題は起こるのですから。そして責任は大人が背負うものです」

 

「……そうかよ。まぁ、今回に関しては、どっちにしろ行っただろうけどな」

 

白崎香織との義理を果たす、そのために。

 

一方、縛りについて何も知らない遠藤は困惑してその会話を聞いていた。性格すら一般的なものから変わりすぎたハジメがこのような態度を七海に見せるのも、先程の七海の拒絶も、理解が追いつかない。ただ1つわかるのは。

 

「あの、とにかく南雲も七海先生も来てくれるってこと?」

 

「ええ。シアさんとティオさんはどうしますか?」

 

「言わずもがなってやつです!」

 

「もちろん妾もじゃ」

 

「ミュウも、ミュウも〜!」

 

ハイハイハイと手を上げてミュウも元気よく言う。

 

「ミュウさんはダメですよ。いくらなんでも危ないですし」

 

「う〜〜パパぁ〜」

 

「すまんミュウ、流石にこれは七海先生に同意するしかない」

 

「ティオさんも残ってください。ミュウさんの護衛として……構いませんか?南雲君」

 

ミュウだけを残していたら、以前のようにまた誘拐される危険もあるので必ず護衛は必要だ。

 

「まぁ、確かに。つーわけでティオ、任せた」

 

「ぬぅぅぅ」

 

ティオは少々不満そうだったが仕方ないと諦めた。

 

「私の言った理由はミュウさんだけではないですがね」

 

ティオにだけ聞こえるように七海は近くに来て囁く。

 

「ティオさん、まだ少し黒閃のダメージがあるんじゃないですか?」

 

「!」

 

あの時の一撃は七海の出せる最大の威力。魔力で強化して防いでも、相当なダメージはあった。万全の状態にしておくべきとして、残るように言ったのだ。

 

「気づいておったか………気にする必要はない。これはこれで!良いからの!」

 

「…しばらく私に近付かないで下さいますか?反吐が出ます」

 

とはいえ、ティオにとって七海の気遣いは正直ありがたいものでもあった。今日1日をしっかりと回復に努めればどうにかなるからだ。

 

「では、早速行きましょう。と、その前に、遠藤君」

 

「あ、はい、えと、なんでしょうか?」

 

まだ先程の事を気にしているのか、遠藤はよそよそしく受け答えをする。

 

「現状の天之河君は、君から見てどれほど強くなってますか?」

 

「え?えぇと、相当な強さだとしか…少なくとも俺等の中では1番強いです」

 

「…なら、もし私が戦ったとしたらどちらが勝つと思いますか?」

 

「七海先生です」

 

即答だった。より正確に言うなら、善戦はするだろうが、それでも七海が勝つだろうという考えだ。信頼+客観的な考えで遠藤は答えた。

 

「そうですか……おかしいですね。私の考えでは、彼は私以上のポテンシャルがあるので、追い越されていると思ってたのですが」

 

七海は正直なところ、数の差があっても魔人族相手にそうそう遅れをとるのかと疑問に感じた。たとえ周囲に檜山のような足手纏いがいたとしてもだ。

 

「そんなもん今どうでもいいだろう?オラ、さっさと案内しろ!」

 

ガッと遠藤のケツを蹴り、案内させる。それを七海が注意しつつ、目的地へと向かう。

 

 

 

 

 

その少し後、迷宮に残った者達の中で、2人に問題が起こっていた。1人は鈴、もう1人は…

 

「違う、俺は、違うんだ俺は、違う、ただ、俺は、オレは、おれは」

 

己が向き合っていなかった現実に直面していた。

 




ちなみに
他者間、しかも同一人物と複数の縛りを結んだ時に関する事は呪術廻戦でも出てませんので、今回はこうしてみました
意見あればお願いします

ちなみに2
実はこの話は次の話のあとに出すつもりでしたが、3話連続で七海がでないっていう状況が嫌だったので、順番を変えました。その為、次回はほぼ出来てます。今日中には流石にだせませんが、3月中には出します
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