死滅回遊編が始まった時からこうなるかもしれないと思ったけど予想以上に最悪な展開にぃぃ
単眼猫、恐るべし
それはそうと、前回の後書きで書いていたように今回の話と前回の話は順番逆でした。その為7〜8割できてましたが、逆にした影響で消す部分と書き足す部分が多く、少し悩みました
時は遠藤と別行動をして少し経った頃
「よし、こんな感じだな」
野村が『いい仕事したな』と思いながら額の汗を拭っていると、辻が声をかけてくる。
「何をしてたの?」
「あぁ、カモフラージュの検査。それとちょっとした仕掛けの設置かな。上手くいくかわからないけど」
相手に地面を掘る魔物がいるならと用意をしたが、どうなるかわからない。それにもし相手が七海ほどしっかりと残穢を見ることができるなら、ここに来るまでに作ったダミーとの違いに気付く可能性もある。故に罠を作った。攻撃的な罠ではないが。
「七海先生から『後衛はなるべく回復薬を多めに持つように』って言われてなきゃ、ここまでできたか分かんないけどな。それよか、谷口は?」
「……まだ目覚めない」
ふらふらな状態で必死に逃げ、時間稼ぎを兼ねたダミーの隠れ穴を作りつつ、ここに来るまで魔物を倒していたのもあって、85階層まで来られたが、流石に限界だった。休息して光輝達前衛組の回復をすることにしたのだが、あの後鈴は気絶してしまい、回復をしたのに目覚めない。防御の要が今はおらず、言い方が悪いが足手纏いが増えてしまった。
「白崎さんも言ってたけど、多分かなり無理な魔法の使い方をした結果だって」
皆が休んでいる所に戻りつつ話す。
「目覚めるかどうかも、正直――」
「なんだと!もう一度言ってみろ!」
怒号が聞こえる。穴の中というのもあってよく響く。近藤と斎藤が龍太郎と言い争いになっている。
「だってそうだろ⁉︎そもそも天之河が勝ってたら逃げる必要も、こんなことにもならなかった!魔人族の提案を呑むふりをして後から…いやそれ以前に、白崎達がやばいのがいるかもしれないって言ってたのに進むって決めたから」
「それ言うならお前らも賛成側だったろうが‼︎」
「あのときは、まさかお前らが負けるとは思ってなくて!」
「あんだけ強いなら勝ってみせろよ!」
他人任せなその言葉に今度は永山もキレた。
「あぁ!?お前ら俺等がどんだけ修行したかわかって言ってるのか⁉︎」
「ただの薪割りだろ!誰でもできるわ‼︎」
「落ち着いてくれ皆!今度は、絶対に勝つ‼︎」
「なんの根拠があって言ってんだ!〝限界突破〟使っても勝てなかったのに!大体、七海は何してんだよ!勝手に居なくなって、お前らもあんま強くしないで」
「んだとぉ‼︎あの人をバカにすんじゃねぇ‼︎」
「もう限界だ!1発殴る!」
ついに殴り合いに発展するかと思われた瞬間、雫が剣を双方の間に振り下ろし、止めた。
「そこまで」
「けどしず」
「シ!」
雫が人差し指を口元に立てて『静かにしろ』と伝えた。穴の外から魔物の唸り声が聞こえる。足音がしだいに大きくなり、止まる。次に足音とは違う物音がする。まるで何かを削り取るような音だ。
(まずい、あの穴を掘る魔物だ)
全員が戦闘準備をする。すると、ボコッという音がしたが、ここの壁が破壊された様子はない。そうして数秒経った頃、足音が遠ざかっていき、聞こえなくなったのを確認した瞬間、全員から息が漏れる。
「カモフラージュの重ねがけしといて正解だったな」
野村は壁と壁の間に広い空間を作り、さらにそこに魔力の残穢を多めに残した土人形を置いたのだ。一度しか使えない作戦だが、これでまたしばらくは時間を稼げる。
「ありがとう、野村君。さて…騒ぎたくなるほど焦ってるのも、余裕がないのもわかるけど、お願いだから今は静かにしてて」
雫の言葉に、すまなさそうに、バツが悪そうにして双方矛を収める。
「それと……さっきの発言、許したわけじゃないから」
そしてしっかりと自分と、檜山グループを除いた生徒達の意見を言って、雫も眠る鈴の前に移動した。
「こんな時に起きててくれたら、もうちょっとは和やかになったかもしれないんだけど」
「うん。早く目が覚めてくれたらいいんだけど」
恵里は鈴の頭を撫でている。にこやかな笑みを浮かべているが、それが少しぎこちないのがよくわかる。
数分ほど経った頃、雫は決意して光輝に言う。
「さて、光輝…そろそろ決めましょう」
「決めるって?」
「遠藤君が地上に救援を要請しても、ここまで来れる人はまずいない。あれだけ強さを持った魔物相手じゃなおさら。勝てないし、無駄な犠牲者が出るだけ」
故に、選択肢は限られる。
「このままここにいてもいずれ見つかる。なら」
「ちょ、ちょっと待てよ!まさかもう一度戦いに行くなんて言わないよな⁉︎」
檜山が慌てふためきつつ言う。檜山グループだけでなく、他にも反対者はいる。
「わかってる。一度負けて、しかも鈴が起きてない状況下なんだから。だからもうひとつ、あの魔人族が言うように、魔人族側につくことを条件にこの場を見逃してもらう。おそらく、あっちはこちらが裏切らないような処置をするでしょうけど」
突きつけられた現実と選択の中で、選ばないといけないことを雫はつげる。
「な、なら、降伏しよう。天之河が負けてんだ。あんな魔物相手に勝てる道理はない」
真っ先に檜山がそう言うとそれを皮切りに中野、近藤、斉藤が自分もと手を挙げ、さらに恵里も挙手したことに永山が反応する。
「って、おまえ裏切るのかよ!」
「だって、皆に死んでほしくないし、鈴もこんな状況で…」
「いや、ダメだ!魔人族の話に乗っちゃダメだ!こんなことをされて、許しておけるか!何より、この世界の人達に申し訳がない」
「俺も反対だ」
光輝に続く形で龍太郎も意見を言う。
「この世界の人達もそうだが、何より、ここで魔人族側についたら、七海先生も裏切ることになる。俺は、あの人を裏切りたくない」
「バカか!生き残ることが最優先だろ!七海…先生も、それくらい理解してくれる!」
「そうね。私もそう思う」
雫が呟くと香織もコクリと頷く。まさか2人が檜山の意見に乗るとは思わず、龍太郎は唖然とし、光輝も驚いていた。
「2人とも、なんで…」
「けど!」
隠れているというのも理解しているのに、雫は声を荒げて、更に続けて言う。
「他の皆は?王国に残ってる皆はどうなるの?」
現状王国にいる生徒達の安全は、彼らが王国の為に、人間族の為に戦う準備をしている今の状況あってのものだ。いくら七海が強くても、残された生徒達の安全を保証できるかわからない。
「そ、それも、魔人族と取引すれば」
「戦えない彼らを、言い方が悪いけどお荷物を、わざわざ引き取るって保証はどこにあるの?」
ここで『あいつらを見捨てよう』と言えれば簡単だが、それは人としてのあり方を全否定するようなもの。檜山としては主張したいが、そんな言葉をこの場で吐くほどバカではない。
「とはいえ、鈴のことがあるのは間違いない。だから、ここから…」
*
魔人族の女は魔物を先行させて各階層を調べさせていた。その合間に転移陣へ向かうと案の定勇者の仲間がいたが、1人のみで、あとはこの国の騎士達だった。勇者の仲間は逃げて、転移陣は破壊された。騎士達は処理し、本命である迷宮攻略をしたいところだが、まだ勇者達がいる。そちらをどうにかしなくてはいけない。とりあえず、魔物の固有魔法で探そうと思っていたのだが――
「へー、姿を隠して逃げる腰抜けだと思ったら、わざわざ死ににくるなんて……勇者じゃなくて、蛮勇だね」
「黙れ…逃げるよりも戦うことを選んだだけだ!」
「ふーん。そのわりにはお仲間の数が少ないけど、どうしたんだい?どっかに隠れてるのかい?それとも逃げたとか?」
ここにいるのは光輝、龍太郎、雫、香織、恵里、檜山、吉野の7人だ。
「逃げたんじゃない!逃したんだ!これで、心置きなくお前と戦える‼︎」
女魔人族は眼を点にし、心底呆れた顔になる。
「答えるとか……いや、もういいか」
手をあげ、連れている魔物に彼らを襲うように指示した。
*
「ここから、もし戦うなら、二手に別れて行動すべきだと思う。戦う人達と逃げる人達で」
「おい、ちょっと待て、俺等は逃げる方だよな⁉︎」
「テメェまた…いや、それよりもだ!戦力を分散するなんてどう考えても」
「愚策なのはわかってる」
龍太郎にもすぐにわかることを雫が気づかないはずがない。
「けど、このままここにいてもいずれ見つかる。今の状態の鈴を守りながら戦うのは不可能よ」
「なら、やっぱり降伏して」
「おそらく、そうなったら今度は私達は魔人族側で、この国の人と残された仲間、そして七海先生と戦うことになる」
必死で生きる可能性を模索して、1人でも多くの生徒を生かす為に行動している人と、はたしてまともに戦えるか。七海なら生きる為に魔人族側につく選択をしたことを咎めないだろうが、他の生徒達や愛子達の事もあり、魔人族側に来られない。いずれ戦うのは確実だろう。
「それ以前に相手がどんな命令をしてくるかわからない。ただ『裏切ります』で信じるほど相手は甘くない。何かしらの魔法もしくはアーティファクトを使ってくるんじゃないかと思ってる」
一度は断った相手だ。無理難題な命令を下す可能性はかなり高い。
「それ以前に、魔人族の話には乗るつもりはない!」
「じゃあ、戦うの?この状況で?戦力も戦意も低くなったこの状況で?」
「!……雫はどうしたいんだ!」
「今聞いてるのは私。これらの状況下で、あなたはどうするのって聞いてるの。これは七海先生の言ってた選択の時よ」
七海は言った。
『しかし、逃げるか死ぬしかない状況で、逃げきれないなら、次は選択の時です。誰を生かすか……そして、逃げない者は死に物狂いで戦う、その選択です。そこで覚醒できれば生き残れるかもしれませんが、99%以上の確率で死にます。どうか、その選択の時が来ないように早めの危機回避をしてください』
間を置いてさらに告げる。
『そして、その選択が来てしまったとしても、できることなら呪わないでください。己の人生を。そしてできるだけ、生きることは諦めないでください』
選択の時。どうしようもないなら決断する。それが今だと、雫は言う。そして自分の意見も先にしっかりと伝える
「一応言っておくけど、正直私は逃げたい。けど、私は戦力的に足止めしなきゃいけない。もう覚悟はできてるわ」
「あなたはどうなの」、雫はと光輝に掴みかかって問う。光輝は、正直言って誰も死なせたくない。全員守りたい。相手が強力なら尚更全員で戦うべきだと言っていただろう。鈴の意識が戻っていればだが。
「…………俺は」
*
逃げる判断をしたのは中野、近藤、斉藤。気を失っている鈴は強制退避、その鈴を担いで運べる永山、看る為の辻。土魔法で隠れ蓑を作る為に野村。以上7人が逃走している。
彼らの幸運は、魔人族が現状、魔物達と合流して別の階層を調べていた事、そして最短で移動せず、捜索の為にあえて回り道をした事で、魔人族とその魔物と出くわすことはなかった事だろう。ある程度の魔物なら、ベヒモス級や魔人族の魔物に遭遇しなければどうにかなるだろうが、今光輝が伝えてしまった。
(数体ほど向かわせるか…いや、ここにいるのは後方でビクついてる1人を除けば、厄介且つ重要な戦力なんだろう。あの勇者ならともかく、他の奴が策もなく来たとも思えない)
残りがザコなら、ここで完全に潰せば決まると考え、戦力を分散させないことにした。それに勇者の動きを止める手段はある。何より連れてきた魔物ならどうとでもなる。そう思っていた。女魔人族のその考えは間違っていない。
「ぐっ…(この魔物、こっちの動きを先読みでもしてるように攻撃してくる。たぶん固有魔法)」
だが、先読みの戦いなど、嫌と言うほど経験している。雫は居合の構えを解く。4つ目の狼のような魔物は鋭い爪を向ける。
「雫!」
「雫ちゃん!」
(たしかに、動きを読まれるのは厄介…なら)
魔物は爪を振るうが、雫の動きが変わり少し後退して停止する。その時、固有魔法による予測でわずかに、反射的に身体をそらしてしまった。魔物の意識があったのはそこまで。頭から真っ二つに両断された。
「なっ⁉︎」
「相手が予測して動くのは当然。なら、こちらは予測できない動き、もしくは、その予測を利用する…それだけよ」
雫は相手が予測しているのを察し、動きを止めたのだ。更に魔力感知〔+視認(上)〕で魔物であればある程度の動きが魔力の流れからわかる。
常に動くよりも、動かない方が次の行動を予測しやすい。それを逆手に取り、わざとわかりやすい動きをまず作って相手に予測させ、攻撃直前、ギリギリの位置でその動きを変えることで、相手の予測を上回った。
「うおあおおおおおおおお‼︎」
龍太郎は考えない。考えれば考えるほど逆に読まれる。腕がドリルの魔物に特攻を仕掛ける。ただの特攻だが、止められない。今の彼の硬度は一時的だが、1級並み…即ち戦車の特攻である。
「……なるほど、あいつか」
魔人族が目を向けたのは後方で魔法をかけ続けている吉野。付与魔法を使い、彼らを強化することは今までにもしてきたが、彼女がしているのは付与の常時使用。元来付与魔法で上がる数値とは、使用者のレベルにもよるが上がることには上がる。
しかし、100の数値を120にして、もう1回付与してもそれ以上は上がらない。そして一時的だ。故に彼女は魔法をかけ続けていくという方法をとった。確かに数値は上がらないが、かけた際に一瞬の爆発力はある。しかしそれは通常の付与より更に一時的、ほんの一瞬だけ爆発的に上がるが数秒で終わる。では、それをずっと、魔力が続く限りかけ続けるのなら。
だがそのためには必要な物があった。それは魔力感知〔+視認(上)〕。効率よく、しかも他者に付与し続けるのには必要。それをあの土壇場と、迫りくる死の恐怖が、吉野の能力を上げる。
(けど、正直言って保たない。わたしも、皆も!)
だが強さとは、時間をかけてあげていくもの。その過程で身体も強くなった自分に合わせるように慣れる。今はその時間を削って、無理やりレベルを上げているのに近い。いきなり強くなっても、感覚と意識が追いつかない。今彼らが戦えているのは極限状態で一時的にそれが薄まっている。更に吉野にこれをしてもらう為にほとんどの回復薬を吉野に渡した。他の者達の魔力は少ない。長期戦になるとまず間違いなく負ける。
「お前たち、そっちをやりな!」
当然だが魔人族も見逃しなどしない。キメラの固有魔法を付与されて透明になったブルータルもどきと、4つ目狼の動きが変わる。
「逃すかって…うおっ!」
光輝とて、彼らが狙われることなどわかっていた。だからすぐに戻れる位置で戦っていたのに、まだ新たな魔物が現れる。顔が牙のある馬のようで身体はゴリラのような筋肉質とそれに合う大腕が4本。これまで見た魔物より間違いなく強い。その拳をギリギリで聖剣で受け止めた。
「グッっ⁉︎」
凄まじい衝撃波が光輝を襲う。〝限界突破〟しているにもかかわらず防御しきれない。すぐこれがこの魔物の固有魔法だと理解した。以前までの光輝なら、今の一撃で動きが鈍っていただろう。だが彼は、これ以上の拳を知っている。
魔物は4本の腕でラッシュを仕掛ける。光輝は今度はそれを受け止めず、回避し続ける。
「ゼァぁぁ!」
単調になってきたところで腕を一本切り落とした。
「ば、バカな」
魔人族は驚く。この魔物、アハトドは今回連れてきた魔物の中では2番目の強さだが、他の魔物とは桁違いに強いはず。それが全く相手になっていない。
(それにあの魔法、〝限界突破〟はリスクの大きいものなのに、なぜあれほど余裕なんだ⁉︎)
〝限界突破〟は自身のステータスを3倍にする代償として、使用後は急激にステータスが落ち、魔力も消費し、体力も落ちる。先程使い、休憩を取ったにしても、動きが良すぎることに魔人族は理解できない。
(対七海先生用だけど、ここで使う)
〝魔力感知〔+視認〕〟によって、自身の魔力の流れを読み、効率的に魔力を使用し、更に〝限界突破〟の出力をあえて落とすことで、長時間の使用と疲労を抑えることができる。先程は速攻で決めるつもりで通常の〝限界突破〟を使っていたが、今は違う。出力は落ちてはいるが、それでも2倍に近いステータスアップをし、足りない部分を吉野の付与魔法で補う事で、通常とほぼ同じステータスアップをしつつも長期戦ができる状態になっている。
「2本目‼︎」
もう1本の腕を切り落とす。七海に完全敗北した日、光輝は誓った。
(もう、負けるのは、あの時で最後にするって決めたんだ!)
性格は変わってはいないが、豪快な戦い方はだいぶ鳴りをひそめて、的確な攻撃を繰り出す戦法に変わっていた。
「3本目‼︎」
片腕1本にされ、ついにアハトドは怯んで下がる。最大のチャンスに止めの一振り――
「⁉︎」
その手が止まる。もう1体同じ魔物がいた。よくはないがそれはまだいい。問題はその魔物が1本の腕で掴んでいるものだ。
「メ、メルドさん…」
全身傷だらけで血が吹き出し、ボロボロになり、小さく呻き声をだす、文字通り瀕死のメルドだった。
「ッ!メルドさんを離…ぐおぁ⁉︎」
完全に気を取られ、アハトドは残った最後の腕で背中を殴る。その瞬間強烈な痛みと衝撃波が伝わった。無防備なこともあって余計にダメージをもらい、光輝は内臓のいくつかが破損したことも感じた。
「う、ぐ、ゴホっっ!」
追撃として足で踏み潰される。
「ふぅ、ちょっとだけ冷や汗かいたけど、所詮はガキってことだね。こんな単純な手に引っかかるくらいだ」
その光景は皆が見ていた。光輝が負けた瞬間に、ギリギリで保っていた精神は、完全に崩壊した。
「さて、改めて聞くけど、あんたらの頼みの綱の勇者はこの通りだ。今ならまだ高待遇で引き抜くけど、どうだい?正直、ここまで使えるとは思ってなかったから、色々と補償はするよ。もちろん、抵抗されないように首輪はするけどね」
魔物達に囲まれた状態だが唐突に相手の攻撃が止まる。
「……断ったら、殺すってこと?」
「あんたは理解が早くて助かるよ」
交渉する相手を雫に変えた。雫もそれを理解し、時間稼ぎも兼ねて会話を続ける。
「その場合、光輝はどうなるの?」
「この勇者のことかい?まぁ、正直言ってここで始末したいけど…あんたらより強力な首輪するのを条件に助けてやってもいい」
雫はあれほど抵抗したのに光輝を殺していないことで、最初からそのつもりだったのだと判断する。
「あ、あの、私は、やっぱりあの人の誘いに乗るべきだと思う」
「俺も中村の意見に賛成だ」
先程降伏に手を挙げていた2人がすぐさまそれを言う。
「こんな状況だ。全滅か生き残るかなら、後者を選ぶのは当たり前だろ」
「お前ら!」
「じゃあどうするってんだ‼︎天之河も負けて、強力な魔物に囲まれたこの状況で、どう生き残るってんだ⁉︎」
檜山の言うことは正しい。
「さっき言ってた首輪というのは、こっちの意識を奪うもの?」
「いや、自律性までは奪うつもりはないよ。あくまでも反抗ができないようにするだけさ。あぁ、ここにいないお仲間にも後で着けるなら認めるよ。あんたらが首輪をつけてるのを見れば、否応がなしにするだろうしね」
光輝と違い、会話が成り立つ相手だった為か、あるいは同じ女だからか、魔人族の口調は安堵が見られる。
(どうする……ここで受け入れたら間違いなく生き残れる。けど、使い物にならなくなった私達を、いくら七海先生がいるからって保護してくれるかわからない。帰還方法を七海先生が捜索しても、その間の補償がなくてはどうしようもない)
考えを必死に巡らせる。
「ダメ、だ。魔人族についたら、皆、必ず、利用されて、死ぬ。逃げ、ろ少しでも」
「どうやってだよ⁉︎この状況で!いい加減、現実を見ろ‼︎」
光輝の瀕死の傷の中で絞り出した言葉を檜山は否定する。そんな中、メルドが意識を取り戻す。
「生きろ……建人も、それを望んでいる。生き残れる道を、進め」
「まだ喋る力があったか」
「正直言って、お前たちを巻き込んだことはずっと、謝りたかった…平和な世界で、生きてきた、お前達を、こんな世界に呼んで、戦わせて」
ずっと隠して、七海だけに告げた本音を、彼らに伝える。
「人間族のことは、気にするな、これは、この戦争は、我々の世界の戦争だ‼︎」
瞬間、メルドの全身から光が溢れる。膨大な魔力を皆が感じる。光輝達のような異世界から来た者達ならともかく、この世界の、それも人間族が出せる出力を超えている。
「自爆特攻か…嫌いじゃないよ、そういうのは」
アハトドが高出力の魔力に怯んで手を離す。そして、メルドは手に持った宝石を更に握りしめる。万が一の時に自爆する為、上に立つ者が捕らえられた時に使う魔道具である。そこから更に魔力が溢れてメルドを覆う。
「魔人族、道連れだぞ!」
「正直、危なかったよ………こいつがいないとね。アブソド!」
その魔力が地面に吸い込まれて行く。ボコォ、とそこから先程の巨大な6本足の亀のアブソドと手がドリルの魔物が現れた。まだ戦力を隠していたのだ。2体のアブソドは大口をあけてその魔力を吸い込んでいく。
「なんだ⁉︎っゴッ」
何が起きたか理解する前に、メルドはその身体を土魔法でできた鋭い刃で貫かれていた。
(すまん、建人、俺は)
どさりと倒れ、そして血がドバッと吹き出す。
「メルドさん!」
香織が咄嗟に回復をするが、ここまで魔力を使い続けていたのもあり、その回復速度は緩やかだ。このままでは間に合わない。
「アブソドがいないと、ほんとに死んでたのはこっちだっただろうね。弱者とはいえ騎士団長…見事だったよ。さて、これは1つの末路だけど、あんたらはどうする?」
皆が黙るなか、檜山が提案を受けようとした時――
「ふざ、けるな」
「ん〜なんだい死にぞこ…」
魔人族も、檜山も言葉を止めるほどの凄味があった。さっきのメルドの膨大な魔力が霞むほどの強大な出力が、〔+視認〕のない檜山にも、その流れが見えるほどの魔力の渦。
「アハトド‼︎」
指示する前に、その魔力で魔物の腕が吹き飛んだ。
*
『ほう、これはすごい』
手を顎にあてて七海はつぶやく。今後の訓練のためという理由で、その日の訓練の後に見せてもらったのだ。
(一時的に1級と同等。しかも今の
特級、その
『ぜぇぜぇ』
『その分消費も激しいようですね。天之河君、その力の使い方をしっかりと学んでください。そして、その力を使うなら、短期決戦です。決して止まらないでください。相手にトドメを刺すまで』
*
(そんなの、言われなくても!)
その名は〝限界突破〔+覇潰〕〟。限界突破の終の派生技にして光輝の最後の切り札。基本ステータスをごく短時間、5倍へ引き上げる。
最後の腕を失ったアハトドの胴を聖剣を振るい切り裂く。まるで紙をカッターで切るようにスパッと両断した。もう1体、メルドを捕らえていたアハトドは一斉に腕をラッシュしてくるが、既に胴体が切り落とされていた。
「クソったれが!」
魔人族は振るわれた剣撃をギリギリ回避して下がる。香織達を取り囲んでいた透明化した魔物に指示し、光輝へと襲いかかる。
「ぬおりゃああああ‼︎」
しかしその位置は、先程と同じように香織の魔法によって判断できるようになっていた。龍太郎は突進とラリアットで魔物をふっとばす。
「邪魔させるかよ!」
「〝天翔閃〟!」
光の斬撃のビームが魔人族に向かう。
「?」
〝天翔閃〟を何度も出しているがその全てがあさっての方向へ飛んでいく。だが、関係ないとばかりに光輝は〝天翔閃〟を出しながら特攻していく。
(やぶれかぶれの特攻か?いや、この魔法、左右に放つことで、逃げ道を絞っているのか)
甘すぎる考えだと切り捨てた。亀型の魔物アハトドが吸収していくことで再び左右のスペースが広がって行く。
「〝操光〟!」
瞬間、一筋の光が動きを変え速度を上げて魔人族へ向かう。
(ある程度のコントロールができるのは見たが……!そうか、アハトドが吸収することで、その際に技が加速して)
避けきれない。そう感じるが、その光の斬撃は魔人族に当たることはなかった。
「作戦失敗だね!」
「いや、届いたさ!」
*
『……7分ですか、まぁまぁですかね』
『あの、七海先生…前から言いたかったんですけど、どうしていつも香織や辻さんのような後衛や弱い人を狙うんですか‼︎』
おかげで他は必ずそのバックアップに向かう必要があり、それを逆手に取られ今回は負けた。
『あたりまえの事を聞かないでください。相手に回復担当がいて、それが目の前にいるなら真っ先に潰すべきです。それとも、君は相手に回復役がいても狙わず、力任せに戦うのですか?』
『違います!弱い人から狙うのがどうかって言ったんです!』
『戦いは実力もですが、数にも出てくる。いくら相手が弱くても、その対象がいることで不利になるのなら、そちらを狙う。これも常識です。…覚えておいてください天之河君、戦うなら、弱者であろうとも、その能力を理解して、優先すべき対象を攻撃してください。1番強い者を倒すだけで終わるほど、戦いとは甘くない。回復役がいるなら、まずはそちらを潰すこと、必ずです』
*
「!まさか、最初から⁉︎」
魔人族は光輝が怒りのままに進んできていると思っていた。それは正しい。今彼を動かすのはメルドに行った仕打ちに対する復讐心だ。しかし自分の能力の事を知らないわけではない。この技の効果時間は短い。だから長期戦になる可能性を真っ先に排除した。
(あの人の言いなりじゃない。これは、俺の判断だ!)
回復魔法を使っていた魔人族の肩に止まっていた魔物。〝操光〟でコントロールした〝天翔閃〟は2つ。1つはもっとも魔力を込めたもの。そしてもう1つ、その影に隠した小さなの光の斬撃が、その魔物を逃しも回避もさせず、切り裂いた。正直、威力はお粗末だが、小型の魔物くらいなら倒せる。
「こんな、こんな!」
「うおぉぉぉぉ!」
魔人族はすぐさま砂塵の密度を高めて盾にするが、聖剣は問題なく切り、盾はただの砂と化す。それでもと魔法を使おうとするが――
「させるか!」
発動前に腕を切り落とす。咄嗟に身体を後ろに下げていなければ魔人族は真っ二つだったろうが、腕だけは間に合わなかった。そして咄嗟の回避だった為、バランスが崩れる。
「終わりだ‼︎」
聖剣を魔人族に真っ直ぐと向けて、身体強化を脚に施し、飛ぶように向かい――
「ごっ、ごぼっ」
魔人族の腹に聖剣が刺さる。身体を突き抜けた剣先は血がつき、口からも大量の血が吐き出される。光輝がズルリと聖剣を抜くと、魔人族の足はガクガクと震え出して、すぐに力が入らなくなり、壁に寄り添うように倒れた。
「はっ、はっ、はぁ、ま、まさか…こんな三文芝居みたいなことになるとはね」
今にしてみれば、計算違いだらけだった。それでもどうにか絶対的な優位な状況を作り出したのに、それすらも、隠された能力を覚醒させていく者達に覆され、敗北した。特に勇者の光輝の逆転劇に関していうならまさに三文芝居だろう。
「まだ、息があるな」
だが間違いなく致命傷だ。このまま何もしなくても死ぬだろう。しかし、魔人族が残った腕を懐に伸ばして、ロケットペンダントを取り出した瞬間、光輝は顔を変える。先程のメルドと同じく自爆する気かと考え、『トドメがいる』と剣を振りかぶるが、ペンダントは爆発も魔力も解放されず――
「ごめん、ミハ、イル。約束、守れそうにない」
愛しい人との想いが、そこに描かれていた。
「⁉︎」
寸前のところで剣を止めて、その事実に、気づいた。その状態になった光輝を、魔人族は見た瞬間に理解した。
「………ふっ、ふふふ、ふふ、あは、あはははははは」
壊れたように、口から血を出しながら笑いだす。
「こいつは傑作だよ!まさか、いま、今になって気付いたのかい⁉︎人を殺したことに⁉︎」
光輝は、イシュタルから受けた話を真に受けていた。すなわち残忍で卑劣な存在。魔物が進化した上位の存在。彼にとって魔人族とはゲームなどに出てくる喋るモンスター程度の認識だった。
「あたし達を、人としてすら、認めず、気付かず、厚顔無恥とはこの事だねぇ!」
「ち、違う、俺は、こんな、殺す気は、知らなくて」
「何、言い訳してんだ?知ろうと、しなかっただけだろ?」
「違う、違う!違うッ‼︎」
光輝の今の感情はもう、収拾がつかないレベルに混沌としていた。
「けど、そんな、ゴボッ、やつに殺されるなんて、あたしも、あたしだ」
「か、かお、香織!こ、この人っこの人を治…」
しかし、香織は動けない。魔物はまだいるので防衛しなくてはいけないし、治療に使う魔力をわざわざ敵に使う理由はない。何より、
「手遅れ、だよ」
「!だ、ダメだ、死ぬのは、ダメだ」
「くくく……ほんと、あまちゃんだ、よ……そのまま進み、な。あんたは、今、今まで通りに、敵を
心底軽蔑しているが、残念そうにも見える。だがそれは、この先の光輝を見れないことへの、残念さ。
一方、光輝の頭の中では七海が旅立つ前に言った言葉が反復されていた。
『君の持っている武器は人を守るものですが、同時に人を殺す物だという事を』
『人を、殺せますか?』
『戦争の時点で死者はでます』
「あ、ぁぁぁ、お、俺は、俺はただ、皆を、この世界を、守りたくて」
「なら、せいぜい、守りな、殺しな」
ズドドドと何かが駆け上がってくるような音が響く。光輝と魔人族以外は『なんだ』と不安になる中、魔人族は続ける。
「あんたは、これからも、敵を殺して、いずれ、大勢から、嘲笑われながら、死ね」
その言葉を最後に伸ばしていた腕がトサッと落ち、魔人族は事切れた。
「違う、俺は、違うんだ俺は、違う、ただ、俺は、オレは、おれは」
向き合って来なかったものが、容赦なく光輝を潰そうとしていると――
「お、おい!あれなんか来てる!」
檜山が指差す方向に土埃が見えていた。何かが来ている。そしてその時、雫と龍太郎は気付いた。戦っていた魔物が魔人族が死んだ瞬間に動きを止めていたがすぐ動くこともしない。ただ――
「震えてる?」
まるで、怯えるように。蛇に睨まれた蛙にように、立ち尽くす。やがて、その土煙は消える。
脅威は、まだ終わらない。
ちなみに1
檜山が来たのは協力者が目線で脅したからです。そして協力者の方も実は内心、鈴が目をあけないことに焦ってます。自分で気づいてないけど
ちなみに2
光輝が成長するにはまず人間的に幼い部分と甘い部分を矯正させる必要があるなと思い、まずは避けられない、逃げられない立ち位置に着かせました。でもこれはまだスタート段階に立っただけ。これから更に原作よりも酷い現実と向き合う羽目になります。
そしてこれでもまだ彼は本質は変わらないです。矯正は続く