ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回でようやくこの『好事多魔』編が終わる。

でもまだ原作4巻のとこは終わらね〜クソォぉぉ
これもそれも勇者(笑)せい、これから強くなってくれマジで

光輝「⁉︎」


好事多魔⑥

(どういう、状況なのでしょうか?)

 

着地して助けに来たことを告げた七海は、スッと周囲を見る。

 

壁に打ちつけられた龍太郎、全身をボコボコにされてもなお、聖剣を握りしめて、気を失う事もなく、七海を見る光輝。腹から血を出して倒れているメルド。結界の中で不安な表情をしている生徒、後衛のはずなのに、結界の外にいる香織と、腹から血が流れている雫。そして、鋭利な剣で斬られたであろう、魔人族と思われる死骸。

 

「な、なみ、せん…ごっ」

 

限界なんてとうの昔に越えていた。雫の腹は貫通してる。動けたことが奇跡。痛覚が戻り、また口から血が出る。

 

「!安静にしてください。白崎さん、回復は……無理そうですね」

 

「……はい。でも、どうしてここに、どうやって!」

 

「詳しくは後で言いますが、協力者のおかげです」

 

七海は指を上に向けると、新たに人がスタッと降り立った。その人物を見た瞬間、香織は気付いた。見た目の面影は全くない。それでも、彼女だけが気付いた。そしてその人物、ハジメが声をかけた

 

「おまえら、本当に仲いいよな」

 

「ハジメ君……うっ」

 

「って、傷やべぇじゃねぇか⁉︎特に八重樫‼︎」

 

すぐさまハジメは宝物庫から自身の持つ最高の回復薬、通称《神水》を取りだす。そうしていると更に頭上から人が降り立つ。シアがまず着地して、次にユエ。その次にユエの結界魔法に入った他の生徒達だ。

 

「こいつを飲め。傷が治る」

 

「えっ、ありが…ってハジメって、南雲く、ゴッ」

 

「いや、落ち着けって!いやその前に早く飲めって!マジで死ぬぞ!動揺すんのは後にして早く飲めって!」

 

そうやって雫は半ば無理矢理、神水を手に持たされた。色々と聞きたい事言いたい事があるが、一旦置いておく。雫は一度香織を見て、彼女が小さく頷いたのを見てそれを飲む。すると傷ついた身体が治り、魔力も回復していくのがわかる。

 

「よし。ユエ、あっちで呆然としてる奴らを頼む。シアはあそこの倒れてる騎士を頼む。息があるなら神水をつかえ」

 

「うん」

 

「はいですぅ!」

 

ハジメが指示していると土煙が晴れる。そこに七海が剣を持ってハジメに近づく。香織は何をするつもりなのかと一瞬思うが、ハジメは微動だにしない。それはそうだ。自分を狙ってない事などわかっているから。

 

「油断………しているわけではないようですが、魔物は仕留めてもいいでしょうに」

 

何もない空間に血が出る。そして絶命した瞬間にその姿を現した。

 

「こんな半端な固有魔法如きで、やられるわけねーだろ先生?つか、むしろ先生こそ大丈夫かよ?こいつらの固有魔法は、あんたの天敵じゃね?」

 

と言いつつドンナーをぶっ放して近付く魔物を屠る。

 

ハジメの言う通り、七海の術式は7:3の比率の点に弱点を作りだす術式。姿が見えないのなら、その点を作るのは不可能だ。

 

「ご心配なく」

 

何もないように見える空間に拳を振るう。ガッという鈍い音が鳴り、遠くの壁にヒビができ、魔物が死骸となって姿を現す。

 

「残穢で位置の特定はできるので、この程度の相手なら、術式なしでも充分に対処できます………あそこにいるのは、別かもしれませんが」

 

再び魔物をコントロールしつつ、中央の目も回復したキュプラスを、七海は1級呪霊以上の魔物であると推察する。少なくとも、自分が今まで見た魔物の中では1番強いだろう。その魔物の中央の目の部分の下がモゾモゾと動き、クパァと開く。どうやらあれが口らしく、牙も見える。

 

「◆◆◆◆◆◆‼︎‼︎」

 

周囲の岩に反響するほどの叫びをあげる。瞬間、停滞していた魔物が一斉に動きだした。ユエが新しい防御結界を展開した為か、そちらではなく結界の外にいるハジメ達に狙いを定めた。

 

「どうやら、あれが統率しているようですね」

 

「みたいだな。随分とキメェ外見だがな」

 

そのような状況にもかかわらず、のんびりと会話している七海とハジメの2人に、空間をゆらめかせて魔物が近づく。七海は大鉈と剣を構えてそこを斬りつけた。

 

「⁉︎」

 

術式はなくとも、呪力で強化している武器で、大鉈に関しては呪具になりかけている。それなりに強度と切れ味もあるのに、防がれた。

 

剣と大鉈を止めている空間が更にうねるように揺らめくが、七海の真横を何かが通り過ぎて、そこに命中し、透過していた魔物の姿が現れる。

 

(このドリルのような腕……硬度が上がるのか。見えないと少々面倒ですね)

 

「どうしたよ先生?苦戦してんじゃん?」

 

「当てるつもりがないにしても、平然と私のいる方に銃を撃たないで下さい」

 

剣を納刀し大鉈を片手で構えて、もう片手は拳を握る。見える魔物は術式で斬り、見えない魔物は残穢を頼りに殴りつけ、粉砕しながら、七海は龍太郎のもとに向かう。

 

「坂上君、大丈夫ですか?」

 

「う、ぅぅ、な、七海…先生?」

 

壁に打ちつけられた龍太郎にかけ寄り声をかけた。気を失っていたようだが、生きている事を確認して僅かにホッとする。

 

「動けそうには……ないですね。担ぎます。ユエさん…あちらの方が展開している結界内に行きましょう。天之河君も動けるようになった八重樫さんに支えられて、既にそちらへ運んでもらってます」

 

「わりぃ、先生。俺ら」

 

「言いたいことはあるでしょう、お互いに。しかしそれは後に…」

「七海先生」

 

再び気を失いそうだが、それでも、これだけは言っておきたいと思ったのか、龍太郎は言う。

 

「光輝が、魔人族を、人を、殺して、多分、不安定になってる」

 

「あれは、天之河君が…」

 

そうかもしれないとは思っていたが、『ついにこの瞬間が来てしまったか』と七海は胃が痛くなる思いだった。

 

「そちらも後にしましょう。今は、ここを突破します」

 

先程とは違い、怪我人を背負っての移動だ。当然だがこんな状態でまともに戦闘などできない。

 

「ぬおぁ!」

 

「…つかまってください」

 

意識を回避に専念する為、龍太郎に告げる。少しだけスピードを上げて移動していくが、その際に魔物が襲ってくる。

 

「…シッ!」

 

腕は使えないので蹴りでふっ飛ばす。巻き込まれて数体の魔物もふっ飛ぶ。後ろから更に魔物がくるが対応しない。回避して離れる。

 

「坂上君、少々距離があって面倒なので、一気に駆け抜けます」

 

しっかり掴まれとは言われずとも、それだけで理解した坂上は七海の肩に腕を置いて力を入れる。

 

「では」

 

瞬間、龍太郎はジェットコースターの加速にも似た感覚を味わう。急なGが身体にかかり、思わず「うぐ」と変な声がでる。押し寄せる魔物を抜き去り、ユエのもとへ着く。片足でブレーキをかけて、その影響で土煙が発生し地面にヒビができる。

 

「ユエさん、彼もお願いします」

 

「あ、うん」

 

ユエはハジメと違い、本人が言う通り、彼――七海が規格外な存在ではないとわかる。少なくとも自分が本気で戦えば勝てる自信はある。しかし、先ほどの動きを見て、呪力という自身の知らない力によるものによる身体強化によってできたものだとしても、やっぱりバカげた力だなと思う。

 

「な、なぁ、七海…先生…あいつが、あの白髪が南雲ってウソだろ⁉︎あいつは、奈落に落ちて」

 

遠藤達に聞いたのか、檜山は冷や汗をかきつつ、問いかける。

 

「南雲君だったら、どうするんですか?別に彼が誰であろうと、あまり関係ないのでは?」

 

「いや、関係あるだろう⁉︎あの無能が、生きて迷宮から出てこれるわけがない‼︎きっと南雲になりすましてなんか企んでんだ!」

 

「企む?わざわざここまで来て、身分を偽ってまで、何の為に?…少なくとも、そんなまわりくどい事をしなければならないほどに弱いと、彼を見て言えますか?」

 

次々と魔物を撃滅していく姿はまさしく無双。とてもではないが、無能と言われた者と同一人物に見えないのは理解できる。

 

「それと、正真正銘、彼は南雲君ですよ。私が保証します」

 

「っぐ!つか、なんであんたがここにいんだよ!しかもあの南雲と一緒に!説明をし…」

 

檜山が問いただす前に、彼の頭上から大量の水がドバっとかかる。

 

「そろそろうるさい。大人しくしてて」

 

「ユエさん、お願いですから出すのは口だけにして下さい」

 

気品があるのに、仲間以外には基本こんな感じに接するのだから、七海はほんの少しだけ、彼女が元王女だという事に疑問を感じていた。

 

「七海は甘い。もっと手を出しても良いと思う」

 

「考え方が南雲君に寄りすぎなような気もしますが、一応私も教師なので、生徒相手に暴力行為は、さすがに」

 

ユエは『今更何言ってんだ』という思いを顔に出しながら手を上に翳す。

 

「〝蒼龍〟」

 

最上級の炎魔法、〝蒼天〟。それを詠唱なしのノータイムで発動する。今の彼らでもそんな事は不可能だ。それを平然とやってのけるこの金髪の美少女は何者だと疑問に思う…暇もなく、更なる驚きが彼らを襲う。蒼く輝く炎は形を変えて、その名の通り、巨大な魔力が込められた龍へ変貌する。〔+視認(上)〕に到達している者はそのとんでもない魔力の流れに唖然となる。自分達が今までしてきた事を全否定するかのような圧倒的な強さに、震えすらでる。

 

蒼い龍は多くの魔物を喰らいながらその口に入った魔物を焼き尽くしていく。

 

「皆さん、あれが本当の規格外です。参考にはならないので、あまり気にしないでください」

 

勇者組は「無茶言うな!」と、ユエは「失礼な」と、七海にツッコミを入れる。

 

「さて、このままここにいてもいいですが、流石にそれは大人としてどうかと思うので、私も戻りましょうか」

 

「七海、あれの相手するの?」

 

ユエが指す《あれ》とは先程から動かずに異様な雰囲気を出す魔物、キュプラスだ。

 

「ええ。他も片付けながらですが」

 

「たぶん、あれは大迷宮の深層部にいてもおかしくないレベル。気をつけて」

 

「………」

 

「なに?」

 

「まさか、あなたから心配の言葉を聞けるとは思ってませんでした」

 

ユエはムスッとした顔になる。

 

「心配してるわけじゃない。一応、七海が死んだら、ちょっとは困るから」

 

自分達の為だと告げるが、『これを心配してると言わずなんと言うのだろう』と七海は思った。だが、これ以上は藪蛇だと考え「わかりました」とだけ言って、武器を持ってハジメがいる方に行く。姿の見える魔物の身体に、7:3の比率を作り出して、斬り裂く。

 

「メルドさんの方も、どうやら大丈夫のようですね。…その神水とやら、この迷宮で?」

 

「そんなところだ。それより、だいぶ数が減ってきたってのにアイツ動かないな」

 

キュプラスは触手を畝らせてこちらを大量の目で見ている。瞬間、目が一斉にギンと開く。

 

「ハジメ君、七海先生!それの視界に入っちゃ…」

 

香織が『ダメ』と言うのが遅かった。

 

「「⁉︎」」

 

瞬間、2人は全身にざらりとした感覚を感じる。全身に鳥肌が立ち、冷や汗がでる。足に力が入らず、ガクリと膝をつく。恐怖の感情が2人に降りかかり、思うように身体が動かない。

 

「ハジメ君!」

 

「七海先生!」

 

キュプラスの眼がニヤリと笑みを描く。瞬間、周囲の魔物が一斉に2人の方へと襲いかかる。七海の推定で、準1級〜1級呪霊クラスの強さを持つ魔物の進撃、戦車大隊が攻めてくるものだ。いくらハジメでも、何もせずに無事でいられる相手ではない。香織達も戦っているからこそ理解している。動かなければ危ないと。だが――

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

ユエの言葉に賛同するかのように、シアも遠目から焦ることなく見つめる。彼女達もキュプラス含めた魔物達に脅威がないわけでないことなど理解している。その上で『大丈夫』と言える、信頼関係が彼女たちの間にはあった。

 

「……ザいな」

 

何かを呟き、最初に動いたのはハジメだった。迫り来る魔物の急所を的確に狙い撃ちする。先程まで片手だったが今は両手に持つ黒と白の銃、ドンナー&シュラーク。だが、それは以前までとは少し違う。

 

 

 

 

『南雲君、これはなんですか?』

 

『ん、あぁ。前に魔法と呪術の関係から、アーティファクトと呪具の関係も似てるって思ってな』

 

『それは以前聞きました』

 

様々な質問を受けていた時に話した内容の1つだ。が、七海が聞きたいのはそのようなことではない。

 

『その時も言いましたが、呪具という物を作るには、製作者の技量とそれなりに曰く付きの物が素材として必要になる。それ以外で呪具とするなら、長期間物に呪力を込める必要がある。君からいただいたこの大鉈も、私の上がった呪力もあって尚、もらった時からずっと呪力を込め続け、ようやく呪具になってきた。なのに、こんな短期で、曰く付きも無く呪具化してしまうなどあり得ない。何をしたんですかあなたは⁉︎』

 

珍しく、早口で、動揺を隠すことができずにハジメに問いただす七海に若干引きつつ、ハジメは答える。

 

『先生から話を聞いてからちょっと考えてな。期間が必要ならどうにか短縮できないかってな。だが、出来上がった物に呪力を一気に込めると壊れちまう』

 

当然だと七海は考える。いくら一級品の物でも、高出力の呪力を受けてしまえば壊れてしまう。

 

『なら、錬成前に素材を細かく分けてそれぞれにギリギリまで呪力を込めて一気に錬成でまとめて、その際にも呪力を込める事で集約して1つにした事で形作った。おまけに固有魔法もつけられた。ただ呪具になったのが原因なのか、これは魔力じゃなくて呪力を込めないと使えないし、複数の技能をつけることはできないみたいなんだが……ってどうした七海先生?』

 

頭を抱えて七海は頭痛を抑える。今自分が何を言ってるのかわかるのかと叫びたい気持ちを必死で抑える。

 

(呪具を、しかもまず間違いなく1級以上の物をほぼ無制限に作れる)

 

今までのアーティファクト製作能力も破格のものだったが、今彼は術師としても破格の能力を手に入れた。七海の世界なら有無を言わさず特級術師の称号を得るだろう。そして再び疑問が出て、七海は懐のステータスプレートを取り出す。

 

(よくよく考えるなら、このステータスプレートにある技能。これを術式として見るなら、これだけの数がつけられていながら脳が耐えられるはずがない)

 

複数の術式を持つ術師がいないわけではないが、それは例外中の例外で、何かしら制約があったり術式の能力の延長であったりでしかない。

 

(もしかしたら、呪術と魔法は、根本的に違う部分があるのか、それともこの世界のルールなのか……いや、やめましょう。仮説でしかないし、考えてもわからないことだ)

 

が、そんなことよりも今はハジメのことと、七海はハジメを見て、感想を言う。

 

『南雲君、今更ですが、君は規格外ですね』

 

『ん?あんたも相当だと思うけどな』

 

素で言うハジメに若干イラァとした。

 

 

 

「あーほんと、ウザいな」

 

キュプラスの固有魔法は、恐怖の感情を与える。そして確率で恐怖の体験とトラウマを引き起こす。ハジメがそうだった。だが、それが仇となる。

 

「けどまぁ、ちょっとだけ感謝するぜ」

 

ハジメにとってのトラウマ。奈落に落ちて、多くのものを失った。それまで見て、学んできた魔物など小石に思えるほどの恐怖と死が迫り来る絶望。誰も助けてくれない孤独感。

 

無力で、無能な自分を呪い、現状を呪い、1度は全て捨てた。そして――

 

「俺の、今の俺の根幹を思い出させてくれてよぉ‼︎」

 

生の執着と、帰還への願望をもとに、彼は再び立った。絶望が、恐怖が、南雲ハジメを立たせた。

 

「だが、孤独感はいらないな。今の俺にそんなもんはいらねーな」

 

特別な人、大切な人。それらを今更捨てる気はない。が、そう思っていた時期を思い出させたことも含めて、ハジメにとって様々な意味で起爆剤だった。

 

「こいよ‼︎全部ブチ殺す‼︎」

 

〝威圧〟が発動し、一瞬魔物達が止まったのを見逃さず、撃ちまくる。放たれるのは弾丸だが、ドンナーは魔力、シュラークは呪力を纏った弾丸を発射する。

 

「初披露だ。感謝しろよ?」

 

ハジメの呪力は、幾度もの七海の訓練と、ハジメ自身の個人訓練で自身の固有魔法を使いながら使用してきた事で、呪力は電気のような性質を帯びていた。それぞれの銃に片方は魔物から得た固有魔法〝纒雷〟つまりは魔力で。もう片方は〝纒雷〟による呪力性質の変化で今の呪力となった呪力そのものを流し込み、弾丸が電磁加速を起こす。

 

「よし、威力に問題なしだ…」

 

ハジメは近付く他の魔物に見向きもしない。なぜなら――

 

「動くの遅くねーか、七海先生?」

 

「そう言う君も、膝をついて震えていたような気がしますが?」

 

横から来た七海が倒すのを確信していたからだ。

 

七海は純粋に恐怖を感じた。だが、魔物の固有魔法によってではなく、自らもっとも感じた恐怖を思い出す。真人に殺される瞬間?漏瑚に焼かれた時?それとも、友を失ったとき?どれも違う。

 

「まぁ、よくよく考えたら、あんな相手では恐怖に値しませんね。……呪いの王と比べるのも、どうかと思いますが」

 

真人の領域で、ほんの僅かに感じた。実際に出たわけではない。それでも、強大な特級呪霊すら、どうにもならない《個》他者を全て拒絶する圧倒的な《個》。七海の命など、そこら辺の蟻を潰すが如く消し去ることができる、王とつくにふさわしい脅威。

 

「◆◆◆◆◆◆◆◆⁉︎」

 

キュプラスは動揺したかのように全ての目がキョロキョロと動くが、すぐさま2人に目を向け、見開く。しかし、全ての触手がハジメに撃ち抜かれる。

 

「いい加減やめろよ、キメェ」

 

キュプラスの固有魔法は、1度でも与えた恐怖を克服されると、以降は途端に意味を成さなくなる。恐怖を感じない生物はいない。だが、それを乗り越えることができるのは、意識ある存在のみ。だが早々に乗り越えられるようなものでもない。それを、たった1度で克服した事が、キュプラスは信じられない。その動揺が――

 

「そんなに目を持っていながらよそ見とは、関心しませんね」

 

七海の接近を許してしまう。

 

初めてこの魔物を見た際、七海は特級レベルはあると判断した。だが、それ故に、試したかった。今の自分に、この世界の特級呪霊レベルの魔物を倒せるのか、それだけの力があるか。そして――

 

 

数秒前

 

「南雲君、あれの止めは私がしても?」

 

「構わねぇけど、なんでだ?」

 

『できるのか』と聞かない。聞く必要はない。だが、七海がそう言ってきたことへの疑問をなげる。

 

「少し、試したい事がありましてね」

 

 

キュプラスは倒れた。その身体は、まるでボール全体に穴をあけたようになり、全身から血を流していた。

 

「なんかすごいな、今の。いや、何がすごいってのは全然わかんねーけどすごいな」

 

呪力を込めた拳が決まった瞬間、魔物が苦しみだし、全身から血を噴き出した。いったい何をどうしたのか。まるで内部に空気を送られすぎて破裂する風船のようだった。

 

「いえ、失敗です」

 

「は?」

 

失敗だと七海は自分の成した事を一蹴する。その表情には悔しさすら感じる。

 

「失敗って、しっかりと1撃で仕留めたのに、何言ってんだよあんたは」

 

充分な威力のある攻撃をしておいて何を言うかと思うが、七海は首を横に振り、死骸を指さす。

 

「この魔物の身体がまだ残っています」

 

「………まさかとおもうが」

 

「ええ。全身をバラバラにできなかった。…失敗した技で死ぬ。この程度の相手に、それができないなら、失敗もいいとこですよ。呪力の消費も多いので連発はできない。1日2回…いや、1回ができていいとこでしょうね。まぁ、正確に言うなら、失敗だから今回もできたとは言えませんが」

 

ハジメは、今なら七海に勝てる自信はある。実際あれ以降は七海に勝てる見込みはないですねと言わせるほどになった。それでも――

 

(これで失敗って、あんたやっぱりヤベェ人だ)

 

ハジメは七海の目標の高さにドン引きしていた。

 

「それより、あの魔人族とこの明らかに強さの違う魔物達……どう思いますか?」

 

と七海に聞かれ、ハジメも考えていたことがあるのか、すぐに答えた。

 

「まぁ、十中八九で真の大迷宮攻略が目的だろうな。それと、あいつら……勇者の勧誘って辺りか?この魔物達もおそらく神代魔法の産物だ。魔物を作る魔法か?勇者達がオルクス大迷宮にいるのを知って魔物を使って力を見せつけて勧誘。成功したら多大な戦力になり、迷宮攻略の可能性を上げられる」

 

「まぁ、そんなところでしょう。しかし、その仮説が正しいとすれば…いや、ほぼ確実でしょうが、君と同程度の存在がいると見てもいいかもしれません」

 

「ふん、なんであろうと、邪魔するなら殺すだけだ。…あぁ、一応言うが、警戒はするぜ、七海先生」

 

「わかっているなら結構です」

 

静寂が包み込んだのはほんの少し。ザッザッと足音がして、振り返ると眼に大量の涙を浮かべている香織がいた。

 

「………南雲君、私は彼らとメルドさんの方に行くので」

 

「って、おい」

 

ハジメはあからさまにその場を離れる七海を止めようとするも、無視される。

 

「白崎さん、今の彼は……いや、いいでしょう。ゆっくり話しなさい」

 

「はい…はい……はい」

 

その場を離れて皆がいる方、正確に言えば、ある人物に用があって向かう。その途中でユエに話しかけた。

 

「こう言うのはなんですが、2人にして良いんですか?」

 

「今くらいなら良い。すぐに離れてもらうけど」

 

「なら、あちらにどうぞ。こちらは私が見ます…シアさん、メルドさんは?」

 

「今は容態は安定してますので、すぐ目を覚ますと思うです」

 

「君も、あちらに行きたいのでしょう?」

 

七海が言うと、シアは少しだけ赤くなるも、すぐにユエ共に駆け出した。それを見た後、

 

「さて、天之河君」

 

回復が済んだものの、声をまったく出せてない少年に声をかけた。

 




ちなみに

仮にどんなトラウマを七海が見たとしても、相手と格差でやっぱりすぐ動けると思います。そもそも1級呪術師になるまで相当な修羅場を潜り抜けているしね。ハジメもほぼおんなじでトラウマ見せられなかったとしても、すぐ吹っ切れそう。

まぁ、何が言いたいというと、結局オリジナル魔物は超かませ犬。実力はマジで特級呪霊だから少年院のよりは強いですけどね

ちなみに2
今回七海のオリジナル新技はお預け。もうちょい先で出します。
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