ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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遅れましたが、呪術廻戦本誌最高‼︎まさに神回でした‼︎

あと、トリビアの種懐かしすぎて爆笑しましたw




引喩失義

 

「さて、天之河君」

 

「⁉︎」

 

今、七海に声をかけらた光輝は怖かった。鼻を明かすつもりでいた相手に何を言われるのか?言い訳できない、擁護などできないことをした自分に、何を言うのかと。

 

「間に合ってよかったです。頑張ったみたいですね」

 

「がん、ばった?」

 

『何を言っているかわからない』と光輝は思った。

 

「せ、先生、俺は、人を」

 

「なんですか?罵倒をされたいんですか?あの魔人族を殺してなければ、君か、他の誰かが確実に死んでいた。誰も死なずに済んだのは奇跡ですよ」

 

「だから、俺は!」

 

「殺したことを咎める権利は、少なくとも私にはない。既に私の手には幾多の人の血がついてますから」

 

それに反応したのは、光輝だけではなかった。

 

「お察しの通りです。私は、私の意志でこの世界で人を殺しました」

 

いつものように、事務的に、淡々と、そのことを告げる。

 

「えと、その、それは…」

 

七海が冗談を言うような人でない事は、知っている。特に大事な話をする時は。いつかその時が来るのは理解していたが、慕っている人物が行ったことはやはりショックではある。雫がどう言えばいいか悩んでいると――

 

「……するな」

 

「?」

 

俯いて光輝がつぶやき、続いて大声をあげる。

 

「バカにするな!俺は、俺は、俺はあなたと同じだとでも言いたいんですか⁉︎」

 

「そのような事を言ったつもりではなかったのですが」

 

と少し考えるように手を顎にやり、

 

「そうですね。君と私は程度はだいぶ違いますが、同じでしょうね」

 

光輝を除いた生徒達は意外な顔をする。まさか七海がそのような事を言うとは思わなかった。そして光輝は激昂して言う。

 

「違う!俺は、俺はあなたと違う!」

 

「どう違うと?」

 

「あなたみたいに人を殺して平然としていられる人とは違う!」

 

「……なら、あなたはなぜ殺したんですか?」

 

「そ、それは…違う!俺は別に、殺したかったわけじゃ」

 

「殺意がなかったと?では聞きますが、戦っている最中、仲間が傷つけられていく中で、まったく何も感じなかったと」

 

その言葉に、光輝は息が詰まるような感覚に襲われる。あの時、メルドがやられた時の感情は紛れもなく…

 

「ち、ちが、違う……そうだ!俺は守る為に、仕方なかった」

 

呂律がおかしくなり始める。言っている事に辻褄が合わなくなってきていることにも気付かない。それほどまでに、今の光輝は混乱していた。

 

「………正直に言いましょう。私は、私達は間に合わなかった」

 

「え?」

 

その言葉は誰のものか。助かったのは間違いなく七海とハジメ達が来てくれたおかげだ。誰も死んでないのは奇跡、と先程言ったのに、どういうことなんだ、と疑問がでる。

 

「あの魔物は、これまでの魔物と一線を画すものでしたが、魔人族がもし生きている状況下であれば、おそらく全員死んでいたでしょう。そうならずに済んだのは我々が来る前に、君が魔人族を殺したおかげです」

 

「そして」と間をあけて、七海は頭を下げた。

 

「南雲君もそうですが、君にそのような選択をさせてしまった原因は突き詰めると私にある。申し訳ありません」

 

「って、おい待ってくれ先…」

 

「そうだよ!だいたいあんたが残っててくれりゃ、俺達もこんなことにならずに済んだんだ!天之河も人殺しせずに済んだ!生徒1人の為に、俺達を捨てやがって!」

 

「テメェまた!」

 

「そうですね。そう捉えてもらっても結構です」

 

檜山の言葉を肯定する七海に、怒りを露わにして声荒げようとしていた龍太郎も、他の皆も、『どうして』と言葉に出すこともできない。

 

「しかし、檜山君、君はなぜここにいるんですか?私はあなたに、謹慎を命じておいたのですが?」

 

「うっ、か、関係ないだろ!今は!」

 

「いえ、大ありですよ。……私が、何も知らないとでも?」

 

檜山がビクッと震える。

 

「な、何を」

 

「私が南雲君と行動しているなら、自ずと答えに辿り着く。そういうことです。ただ、南雲君もそのことはどうでもいいと言ってますがね」

 

檜山の顔が蒼くなる。言い返したいのに、何も言えなくなる。

 

「だが、檜山君のいう通り、君達がこうなったのも、天之河君が人を殺したのも、私がここを離れてしまったのが原因です。今の私を、責めてもいい。君達にはその権利がある。その上で、言います。私はこのまま南雲君と行動を共にします。君達を帰す手段が見つかる可能性が高いので」

 

それに、全員が反応する。『本当なのか』と。

 

「…ダメだ。皆、騙されるな……七海先生も、その言葉を聞くなら南雲も、人を殺して平然とできるような奴だ。そんな人の言葉を信じちゃダメだ!」

 

光輝は七海の先程の言葉「南雲君もそうですが」の部分からそう判断した。概ね間違っていない……概ね。

 

「俺も、そう思うぜ。ある意味、魔人族よりもおっかないしな」

 

檜山が賛同するが、他の生徒達はどうすれば良いかわからない。そんなところに――

 

「別に俺は、お前らに構うつもりも、信用されようとも思ってないし、まして仲間でもない」

 

ハジメが来る。あとどうでもいいが、その後ろで香織とユエがなんかバチバチしてる。

 

「ただ、そうだな。天之河、お前にはとりあえず言っとく」

 

「なんだ、俺は当然の事を言っただけだ」

 

「………言い訳するなよ。お前はただ、自分が殺したっていう事実から逃げたいんだろ?」

 

「な、なにを」

 

「七海先生はぼかしてるが、お前は責めたいんじゃねぇ。自分のした行為に対する言い訳と逃げる理由を作って、先生に八つ当たりしてるだけだ。まぁ、七海先生は気付いてわざとそうさせてるみたいだな」

 

七海は『言わなくてもいいのに』と一瞬思うが、止めるのを止める。どれだけ残酷でも現実と向き合うには、事実と真実を突きつける必要がある。そして、ハジメも五条悟と同じく、気遣いなど言わない。ただ、自分の思う通りに行動する故の発言だ。

 

「ち、違う!勝手に言うな!」

 

「自覚のない言動は、悪意にも匹敵する。けど、そんな冗談みたいなお前も、言い訳が支離滅裂になってるがな」

 

「お前は、お前は人を殺してもなんとも思わないのか⁉︎」

 

「思わない」

 

あっさりと、簡素にハジメは告げる。『それがどうした』と言うように。

 

「敵は殺す。それの何が悪い?お前も敵だったから殺した。意識してようが、してなかろうがな」

 

「ち、違う、俺は同じじゃない。人を殺すのは、悪いことで」

 

ハジメは呆れて「ハッ」と吐き捨てる。これ以上何を言っても無駄と判断したのだ。

 

「もう1度言うが、俺はお前等の仲間じゃない。ここに来たのは、白崎に義理を果たしに来ただけだ。俺の邪魔をするなら、元クラスメイトでも、躊躇なく殺す」

 

強烈な殺意が光輝達に降り注ぐ。七海はハジメが銃を向けていつでも引金を引けるようにしたのを見て、七海は『これ以上はまずいな』と考えて止めようとした時、横になっていたメルドが起き上がり、止める。

 

「まだ無理をしては」

 

「いや、言わせてくれ。命の恩人がこれ以上悪く言われるのは忍びない。光輝、救ってもらった側が何かを言える資格はない。南雲ハジメ、俺の顔に免じて、ここは武器を収めてくれ」

 

ハジメは「フン」と言い、武器を収めた。メルドは苦しい笑みをだしつつ七海を見た。

 

「お前にも、また助けられたな」

 

「まったく、本当に死にかけたのですから、感謝よりもまず安静にすべきですよ」

 

「いや、まだ言う事はある。お前にも、光輝にも」

 

ふらりとよろめきながら光輝の前に立ち、メルドは「すまなかった」と謝罪した。

 

「お前達には、大切な事を教えなかった」

 

「なに、何言って…メルドさんは沢山教えてくれた!」

 

光輝の言葉に対し、メルドは首を横に振る。

 

「戦い方じゃない。人を殺す覚悟の事だ」

 

光輝は、なぜメルドまでそのような事を言うかわからなかった。そして、七海にも謝罪をする。

 

「その件については建人、お前にも謝らなければならん。時が来れば、賊を相手に人殺しを経験させるつもりだった。そして、それをお前がいない時にしようとも考えていた。まぁ、お前の事だ、気付いてんだろうがな」

 

「………」

 

沈黙が答えだった。とはいえ、七海はいずれ来るであろう時はまず自分から見せるとは考えていた。だが、運命はいつだって、思い通りにいかない。

 

「なのに、お前達と過ごしていて迷ってしまった。その結果がこれだ。過程と段階を踏まない状態でお前に重荷を負わせ、こんな事態になった。俺の迷いが、狂わせてしまった」

 

受け入れる準備なしの殺しは、たとえ必要だったとしても、こうなることはわかっていた。それでもできなかった。

 

「やはり、俺はお前と違って、教育者には向いてない」

 

「…そうですね。けど、私もそこまで教育者に向いていると言えるような人間でもないですよ」

 

「?」

 

「この場で言うのはよしましょう。後で話します。今は、この大迷宮からでましょう。護衛はするのでご安心ください」

 

「……頼む。それと」

 

ふらつきながらメルドは近付き、七海にだけ聞こえるように言う。

 

「その悪役を買うような真似はやめとけ」

 

「……彼らの信頼を裏切ったのは、事実です」

 

「なら、せめて1人か2人には、もう言ってやれよ。お前の事を」

 

「………そうですね。そうします……って、なんですかその顔は」

 

メルドはきょとんとした表情になる。

 

「いや、あっさり承諾するとは思わなかった。……ハジメ達には、既に言ってあるのか?」

 

「ええ。共に旅をするなら、隠すのにも限界はありますしね。これからの事を考えると、ここに残る生徒数人に、私の事を教えておく必要もあるので」

 

「………ふっ、やっぱお前は良い教師だよ」

 

再びふらりとメルドはよろめき、咄嗟に七海が抱える。

 

「南雲君、数人分の松葉杖をお願いします」

 

「なんで俺がそんなことを」

 

「抱えて移動するよりも速く移動できると思いますが?」

 

ハジメは舌打ちしながら錬成で簡素な松葉杖を作った。

 

ちなみに、その帰り道もしっかりと無双を見せて皆を唖然とさせ、転移陣もあっさり直すその錬成ぶりは脅威的であった。

 

「白崎さん」

 

「え、あ、はい」

 

心ここに在らずという感じで俯く香織に、七海は話しかける。

 

「南雲君が変わってしまった事に戸惑ってるようですが、1つ言います。彼はほとんど変わってない」

 

「え?」

 

何をどう見てそう言えるのか、香織ですら理解できない。

 

「確かに、考え方は変わってしまった部分はある。けど、本質は変わってない。あなたなら、それがわかるはずです……って…人が話しているのに…………南雲君、ユエさんとシアさんにちょっかいを出されたことに腹を立てるのはわかりますが、まず暴力から入らないで下さい」

 

下心を持ってシアとユエに近付く生徒に容赦なくゴム弾を発射したハジメを叱り、その後ちょっかいを出した生徒を叱る七海を見つつ、先程の言葉の意味を彼女は考えていたが、そんな考えをふっ飛ばしてしまうひと言が、地上を出てすぐに来るとは思わなかった。

 

 

「あっ!パパぁー‼︎おかえりなのー!」

 

「おぉ!ミュウか!」

 

今、白崎香織の言葉にならない思いを敢えて言葉にするなら『なん、だと⁉︎』であろう。

 

「ミュウ、良い子にしてたか?ティオはどうした?」

 

「ここにおるぞ」

 

黒髪の妙齢美女の登場に男子達はまたもや唖然となり、『南雲、羨ましい』という感情が滲み出ている。

 

「大事無いみたいですね」

 

「うむ。じゃが、ちょっと不埒な輩がミュウに近付いたがの」

 

それをしっかりと聞いていたハジメは「ほぉぉぉ」と笑顔(殺意あり)で言う。

 

「よし、殺そう」

 

「はい、ストップ。ティオさんがいて何もないわけないでしょう」

 

「もちろんじゃ。妾がきっちり締めておいた」

 

舌打ちしてどうにかその場は抑えた。

 

「子離れできるのかのぅ、こんな調子で」

 

「もうパパと人前で言われても恥ずかしがってませんしね」

 

さっきから生徒達が「パパ」の発言に騒ついている。が、

 

「ナナミンも、おかえりなのー」

 

七海の方にも来た。「え、ナナミン?」「七海先生の事?」「ギャップありすぎ」とざわつきとクスリと笑う声もあった。

 

「ミュウさん、七海です」

 

「ナナミン!」

 

「七海です」

 

「ナナミン‼︎」

 

「お主はいい加減慣れたと思っていたのじゃがな」

 

七海はニヤニヤするティオにキッと睨むが、ティオは余計に嬉しそうにする。ストレスゲージがどんどん上がるが、ここは我慢する。七海は『早い内にナナミン呼びをどうにかしよう』と考えているが、無駄に終わるのは言うまでもない。

 

「ハジメ君⁉︎どういうこと⁉︎ねぇ、どういうこと⁉︎本当にハジメ君の子⁉︎誰が産んだの⁉︎」

 

香織はハジメの襟首を掴んでブンブンと揺らす。ハジメのステータスは香織では遠く及ばないにもかかわらず、逃れられない力で離さない。

 

「はぁ〜……八重樫さん、私では無理なので、あなたが頭を冷やして下さい」

 

「私もできるならしたくないんですけどね」

 

ため息×2の1人、雫はブンブンとハジメを揺さぶるせいでちょっとハジメが吐きそうになっているのを見つつ、香織の頭を引っ叩く。

 

「あうち!」

 

「もう!落ち着きなさい!」

 

「し、雫ちゃん痛い」

 

「イタいのはどっちよ。自分の言葉を冷静に反復しなさい」

 

「……………《反復中》……………!」

 

随分間が長かったが、ようやく自分がありえない事を本気で叫んでいたのを気付き、両手を顔につけて真っ赤になり、それを雫が慰める。その姿は子供をあやすお母さんだった。

 

「ともかく、今はメルドさんや傷の癒えてない方を」

「見つけたぞゴラァ‼︎」

 

今度はなんなんだ、と七海は声がした方を見ると、わかりやすいくらいの薄汚い顔をした男連中が武装して睨んでいる。

 

「俺らの仲間をボロ雑巾みたいにして、タダで済むと思ってんのかゴラァ!アァ⁉︎」

 

「ティオさん、ちゃんと片付けなかったんですか?」

 

「いや、締めた者どもの仲間じゃろう。見ない顔もある」

 

このまま放置はまずいなと思い、七海は前にでる。

 

「あの、よろしいでしょうか?」

 

「あぁ⁉︎ンダテメェ⁉︎」

 

「おい、こいつアレじゃね⁉︎七海建人だろ?」

 

こんなゴロツキにも知られているのは複雑だが、都合がいいと七海は更に告げる。

 

「私の何を知ってるかはわかりませんが、ここは私に任せて逃げなさい」

 

男達は「何言ってんだ」と困惑する。

 

「俺達に言ってんのか?」

 

「ええ。このままここにいたら危険なので、逃げなさいと言ってます。後は私がどうにか抑えるので。私の事を、知ってるのでしょう?」

 

「おぉ、知ってるぜ。伝説の魔物ベヒモスを1人で、しかも無傷で殺ったって話だろ?」

 

七海の忠告に対し、ゲスな笑い声で言う。

 

「んな与太話、誰が信じるかってんだ‼︎殺されたくなければ、そこ退けよ!そうすれば命は助けてやらぁ!」

 

人々の中には、信じていない者もいた。彼らがそうだ。冒険者の中にもそのような人物はいたが、彼らもそれなりに修羅場を潜り抜けて来た者。組合で七海を見た瞬間に信じた。が、彼らは傭兵崩れの不成者。人を見る眼はない。

 

「最期通告です。逃げなさい」

 

「うるせぇんだよ‼︎殺すぞ!」

 

七海が盛大なため息を吐いてると、後ろから七海の肩をガッと掴んで下がらせるハジメ。その表情を見て、再びため息を出し、道を譲る。

 

「いいぜ!それでいい。ガキ、お前も分かってんならさっさと女を置いて」

 

その5秒後、彼らは先程の七海の言葉は本当に聞くべきだったと後悔する。

 

 

 

「ったく」

 

汚い物を触ったなという感じで手をパンパンと払う。光輝達はドン引きしていた。無理もない。プレッシャーで動けない男達の股間を1人ずつ蹴って潰していき、もがいてるところを容赦のないグーパンをくらわせたのだから。

 

「おい七海先生!なんで逃そうとした⁉︎」

 

「こうなるのが目に見えているのですから、最後のチャンスくらいは与えますよ」

 

とはいえ、その後縛りの効果で止められないとはいえ、見ていただけの七海も七海である。その光景を呆然として見ていた生徒の1人、香織に近付き言う。

 

「アレを見た後では、まぁ、信じられないかもしれませんが、彼は」

 

「大丈夫です」

 

七海は予想外の言葉を聞いた。

 

「さっき、あの人達の言葉を聞いてました。ハジメ君が、どうして怒って、力を振るったのか」

 

七海がならず者達に話している最中に、ユエ達と何を話していたかわからないが、香織も今のハジメを理解した。その上で、言っているのがわかる。

 

「七海先生…その」

 

「私へ何か言う前に、言いたい事がある人がいるんじゃないですか?まだ迷宮内で言ってない事もあったでしょう?」

 

香織に視線を合わせて、さらに七海は告げる。

 

「ただ、これから君がしようとしている事に関しては、ぶっちゃけ反対ですが、南雲君の方針には私は逆らえないのでって……足が速い」

 

七海は『聞いているのかどうか』と思いつつ、それを見守る。彼女の想いの強さは七海はわかっている。前の世界で何度も、注意すらするほどのものなのだから。

 

「ハジメ君、私も、ハジメ君について行かせてくれないかな?…ううん、絶対ついて行くから、よろしくね!」

 

香織は前を向き、己の想いをぶつける。いきなりの決定事項だからと告げる言葉にハジメは「は?」と眼を点にして間抜けな声をだす。

 

「正直、私は一瞬戸惑ったの。今のハジメ君があんまりにも変わってて、あの奈落の底で、何があったのかはわからないけど、私達が味わったものなんて、到底比較にならないものがハジメ君を襲ったのはわかる。容赦もなく。暴力に躊躇いをもたない。そうしないと生きられない場所にいたから」

 

それでも――

 

「でも、七海先生の言う通りだった。変わってない。ハジメ君は誰かを守る、優しさを持ってる」

 

白崎香織が好きになったのは、そんな優しさを持つ、南雲ハジメなのだ。

 

「でも、私は今のハジメ君を知らない。それはこれから知っていけばいい」

 

「いや、だからしらさ――」

「お前にそんな権利があるとでも?」

 

ハジメの言葉を遮り、そんな彼女の前にでたのはユエだ。その視線だけで相手を氷漬けにする目を見て尚、香織は引かない、『負けるつもりはない』と、前に出る。

 

「権利ってなにかな?ハジメ君への気持ちは、ぜっっっったいに負けてないよ」

 

その言葉を聞きつつ、ユエはチラリと七海を見ながら、香織に道を譲る。香織はハジメの目の前まで移動し――

 

「ハジメ君。貴方が、好きです」

 

精一杯の想いと共に告白をした。

 

「……白崎、俺には、惚れている女がいる。だから、白崎の想いには、応えられない」

 

香織がどれだけの想いで言ったのか、ユエを見て尚、言ったのかも理解している。その上で、ハジメは誠意を込めて彼女をフル言葉を告げる。

 

「!…………」

 

わかっていた。その言葉がくることはわかっていたが、それでも香織は溢れそうな涙を堪えて――

 

「だから、お前を連れていけ――」

「わかってる。でもそれは傍にいられない理由にはならない」

 

「な、何を」

 

香織はこんなことで後退する女ではない。むしろ、より攻める。

 

「シアさんも、そっちのティオさんだっけ?その2人も、ハジメ君を相当に、私と同じくらいに想ってる。特にシアさんはかなり真剣。違う?」

 

その問いにハジメは言葉が詰まる。

 

「ハジメ君に特別な人がいる。それでも、傍にいたいと想ってついてきて、それをハジメ君も許してるなら、私がそこにいても問題ないよね」

 

香織は引かない。

 

「この想いだけは、ユエさんにも負けてない」

 

香織はユエの方に向き、その瞳をみる。ユエも目を逸らさず、その意志ある目を、燃えるような想いを受け止めていた。そしてニッと笑みを浮かべる。

 

ユエはフューレンで七海が言った言葉を思い出す。

 

 

『確かに、彼女は今の南雲君を知らない。けど、その程度で引くような想いなら、私の訓練にもついてこれませんし、すぐに彼が死んだと諦めていたでしょう。それでも、彼女は進んだ。結果がどうなるかよりも、己の想いを選んだ。その覚悟を、私は評価してるんですよ』

 

『覚悟…ね』

 

『ええ。会えばわかりますよ。案外、ユエさんと気が合う人だと思いますし。それと、実力面ですが、そちらに関しては正直言って未熟そのものですし、私が本気にならずともあっさりと、何もできずに負けるでしょう』

 

教え子だというのに容赦ない評価だなと、ユエとティオは思っていたが、

 

『ただ、才能は充分にあります。多少の時間はかかるでしょうが、いずれは私と同じ位置か、それ以上に到達すると、私は考えてます』

 

天性の戦闘センスと魔法の理解度は眼を見張るものだと告げる。

 

『何にせよ、彼女を認めないということは、間違いなくありえないと断言できます。ユエさん、彼女を、白崎香織さんの同行をお願いします』

 

 

(結局、七海の言う通りになった。むむむぅ)

 

認めた。その想いを、認めてしまった。だからこそ、自分も応えてやろうじゃないかと香織の方へ一歩踏み出す。

 

「面白い。ついて来るといい。教えてやる。お前と私にある差を」

 

その言葉にある意味を理解してか、香織はニコリと笑い、

 

(⁉︎)

 

「お前じゃなくて、私は香織」

 

「なら私はユエでいい」

 

見守っていた七海は、一瞬呪霊が現れたのかと動きそうになる。否、それを見たのは2度目。いつぞやの大迷宮攻略の際に見た。

 

「南雲君、私の目は正常なのでしょうか?白崎さんとユエさんの背後に、般若と龍が見えるのですが?」

 

「安心してくれ七海先生。俺にも見える」

 

その光景にシアとミュウは抱き合ってプルプルと震え、ティオはその光景を見て何故かハァハァとしている。

 

(呪力は感じないのですが、そういうものなのでしょうか?)

 

七海は七海でわりとマジ考察をしていた。

 

「というか、南雲く」

「ま、待て、待ってくれ!」

 

七海はハジメに香織がついて来ることを承諾するのか聞こうとすると、光輝が異議を唱える。

 

「意味が分からない。香織が、南雲を好き?ついていく?えっ、どういうことなんだ?南雲!香織にいったいなにをしたんだ!」

 

弱々しくも声を張り上げて光輝は叫ぶ。だがその姿は、現実を認められずに駄々をこねる子供そのものだ。しかもその原因がハジメにあると決めつけている。ご都合主義な考えにハジメは呆れていた。すると香織は言う。

 

「ごめん、光輝君。自分勝手なのはわかってる。でも、私は、どうしてもハジメ君と行きたいの。だからパーティーは抜ける」

 

自分勝手な想いを通すとはいえ、しっかりと告げるのを七海は評価する。これは以前香織が七海の訓練をする前に皆に言った時と同じ、ケジメなのだ。

 

そんな彼女の想いを知って、パーティーを組んだ皆は祝福する。そもそも彼女が強くなりたいと願った理由は、ハジメに会いたいという一途な想いなのは、明確にあの時告げていたからだ。

 

「嘘…だ。だって、おかしいじゃないか、こんな、俺は」

 

魔人族を、人を殺した後なのもあって、光輝は正常に頭が動かない。どうにか自分は正しいと思い、言葉を出したいのに、でてこない。

 

「天之河君、君が白崎さんに対してどのような感情を持ってたかは想像できますが、白崎さんの想いは、彼女自身が決めるものです。それに、その理由は貴方達を強くする前に既に白崎さんが言っていたはずです」

 

七海は気付いてないのはお前だけだと遠回しに告げる。

 

「ち、違う。あれは、ただ、そう。香織は誰にでも優しいから…香織はずっと俺の傍にいて、これからも、それは、そうで」

 

ご都合主義の言葉に対して香織と雫が光輝に何かを言おうとする前に、

 

「いい加減にしなさい」

 

「⁉︎」

 

その七海を見たのは、トータスに来た時以来だ。イシュタル達の言葉に乗っていた光輝に対して向けていた目だ。

 

「天之河君、君は白崎さんが南雲君について行くのを、彼を好きな白崎さんを認められないのでしょうが、今はそれ以上に、今の君が壊れたくないから、受け止めてくれそうな人に、去ってほしくないだけでしょう?」

 

「⁉︎」

 

「人を殺してしまった。あれは悪い事だ、でも自分は正しい事をしたんだと、自分を慰めてくれる、自分にとっての大事なものが、消えて欲しくないだけしょう?」

 

七海のその言葉に、天之河の身体は、

 

「うっ、ぶぇぇぇぇぇ!」

 

あの時の魔人族の光景と言葉が、光輝の脳でフラッシュバックされる。耐えきれず胃の中の物を吐き出す。

 

(いくらご都合主義の頭でも、流石にどうにもなんねーか)

 

ハジメはその天之河の様子を見てそう判断した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、俺は、俺は、間違って」

 

「ないですよ。何度も言いますが、君の判断は正しかった。でもそれを認められない自分がいるのでしょう?」

 

七海は「わかりますよそのくらい」と言い、それが光輝の神経を逆撫でする。

 

「ふざけるな‼︎俺は、俺は、おれ、は………」

 

光輝はグッと拳を握り、どうにか立ち上がって声を荒げる。

 

「七海先生!そこを退いてください‼︎香織を連れ戻す!これは、香織の為なんです‼︎」

 

「なにが、白崎さんの為だと?」

 

「七海先生は、何とも思わないんでしょうね。南雲は、何人もの女の子を侍らせて」

「皆、自分達の意志でついて来ていると見えますが」

 

「しかも兎人族の子は奴隷の首輪をつけて」

「あれはそう見えるようにする為のブラフで、簡単に外せますよ。今はただのチョーカーです」

 

「黒髪の人に至っては南雲のことをご主人様と呼ばせて」

「アレに関して言うなら、南雲君に原因がありますが、最終的にいくとティオさん自身のあまりにも、あまりにも、あまりにも特殊な性癖が原因です」

 

「ヒドイのじゃ‼︎でもぉ〜それがいいぃぃ!もっとなのじゃ‼︎」

 

「つか、どさくさに紛れて俺のせいにすんじゃねぇ‼︎」

 

あと何気にティオを《アレ》呼ばわりしている。後ろから聞こえる声を無視して、光輝の言葉に対して1つずつ、真実を告げるも、光輝はその言葉を聞いていないのか、自分の言葉だけを告げる。

 

「香織があいつについて行ったら、確実に不幸になる!」

 

「不幸ですか」

 

不幸という言葉に、七海は反応する。

 

「なら聞きましょう。君にとって白崎さんの幸福とは何ですか?」

 

「もちろん、俺の、俺達のもとにいる事が」

 

「それを、1度でも白崎さんが言いましたか?」

 

「聞かなくてもわかる!」

 

七海は、「ふぅ」と息をだす。その後ろのハジメは呆れて、ユエ達は気持ちの悪い物を見るような目で光輝を見るが、それに光輝は気付かない。自分が言っている言葉の意味すら。

 

「白崎さん」

 

七海は香織に答えを言うように促す。

 

「え、あ、光輝君。私にとっての幸せは、私が決めたの。そして、それはハジメ君の傍にいることなの。辛いかもしれない、私がハジメ君の特別にも大切にもなれないかもしれない。それでも、私の幸せは、ここに、ハジメ君の傍にあるの」

 

「かお…」

「もういいでしょうが!光輝、香織はあんたのものじゃない。何をどうするかは、香織自身よ」

 

「香織、雫」

 

「ついでに言うと、君を慰める為の道具でもありません」

 

香織と雫の言葉に戸惑うなかで言われた七海の発言に、光輝はカチンと来た。

 

「さっきから、何なんですか!おれが、オレが、俺が、香織を道具扱いしてるだと‼︎」

 

光輝は叫ぶ。

 

「七海先生!まずはあなただ!あなたを倒して、次に南雲を倒して、香織を連れ戻す!どれだけ香織に恨まれても‼︎」

 

そんな、無茶苦茶な宣言を、

 

「いいでしょう。相手になります」

 

七海は受け入れた。

 




ちなみに
引喩失義: 都合のよいたとえ話や、悪い前例を持ち出して正しい意義を見失うこと。
今の勇者(笑)にふさわしい言葉を探していたところ、別の回のタイトル探し中に見つけて「これだぁ!」とウキウキしました(ゲス)

ここら3話くらいは光輝への説教&矯正回です。正直言って面倒ですが、七海ならほっとかないだろうし、これからの光輝の為にも必要なので、頑張ります。

ちなみに2
次回、『光輝死す』

七海「死にませんから」
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