ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回のタイトル、実は最初『引喩失義③』でした。どうしてこうしたのかは後書きで


誰かのために

「何の用ですか。俺を責めに来たんですか?」

 

「何をどうすればそういう考えに至るのかは知りませんが、命懸けで皆を守った人を責めるほど、落ちぶれているつもりはありませんよ」

 

光輝は嫌味で言っているのかと考えているが、雫は七海なりに光輝を励ましに来たのだと考えていた。

 

「………人殺しをしても、なんとも思わない人に言われても、嬉しくもありません」

 

「そういう意味で言うなら、君はどこまでも普通だったということです」

 

「っ!何を‼︎」

 

自身は勇者なのだという、くだらない感情論と責任感を出すが、それは七海の前では意味のないゴミのような意志だ。

 

「この世界に来た時、似たような事を言いましたが、君がしている事、しようとしている事は戦争です。罪悪感と不快感、嫌悪感が常に付き纏う。君以外はそれに気付いて、それでもなお、進む決断をした方々です」

 

「⁉︎」

 

否定したいができない。光輝は先程七海がくる前に、雫から聞いた。雫は「仮にあのまま光輝が動けないようなら、自分が魔人族を殺す決断をしていた」と言った。そして、「初めて魔物を殺して、その不快感から常に今していることが正しいのかと考えている」と聞いていたから。

 

「そろそろ、八重樫さんにも話しておきましょうか。君達が戦う事を了承した理由を」

 

「理由?」

 

単に実力と覚悟の問題かと思ったが、どうやら違うようだと雫も光輝も感じた。

 

「それは、イカレているかどうかです」

 

「……ぇ」

 

「な⁉︎」

 

雫は何を言われたか理解出来ず、気の抜けるような声を出し、光輝はふざけるなという言葉さえでない程の怒りを露わにするが、それを無視して七海は続ける。

 

「事実です。まず、八重樫さん。君が、魔物を殺すたびに色々と思い詰めているだろうなということは感じてました。だから、君だけはギブアップをするだろうと私は思ってましたが、それでも君は戦い続けた。大抵の人は考えている時点で潰れてしまう」

 

彼女のそれは言わば毒。精神を貪る毒だ。それを抱えたまま戦えば、いずれ潰れる。そのはずなのに、雫は戦い続けている。戦う意志がハッキリとある。七海から見てメンバーの中でもっとも精神的に脆いはずの彼女がその意志と行動が取れることこそが、八重樫雫のイカレている部分だと七海は考えた。

 

(まぁ、それでも彼女は…)

 

「イカレているって、自分の生徒相手によく言えますね‼︎」

 

七海が思考していると光輝が我慢できず叫ぶ。

 

「ある程度イカレていなければ心が壊れ、イカれすぎては狂気に飲まれる。これもこの世界に来た時に言ったはずですよ?」

 

「っ!そっ、れは」

 

あの時の言葉は、皆を怯えさせて、空気感を壊しただけだと言いたい。だが、それができない。何故なら、今の光輝は自身で気付いてないがその心が壊れる一歩手前だからだ。否定しても肯定しても、自分にとって都合の悪いものになってしまう。彼のご都合主義な精神が、無意識に言葉を止めてしまう。

 

「そして、私が鍛えた人達の中で、最もイカレていたのが」

 

やめろ、聞きたくない。言うな、言わないでくれ。そんなはずがない。自分はまともだという言葉が光輝の中で呟かれるが、その言葉がでない。

 

光輝がどれだけ今精神的に不安定な状態かなど、見ればわかる。それでも、七海は告げる。

 

「君ですよ、天之河君」

 

「‼︎」

 

死刑宣告をされたかのように、光輝の表情が怒りと絶望が混ざった複雑なものになる。

 

「八重樫さんから話を聞いて、それでも今の君なら魔物を、襲ってくるとはいえ生き物であるあれを、屠ることができるでしょう?そしてそれは、最初からできていた。戦いとは無縁の学生だった君がだ」

「違う‼︎それは、しら、なかった、からで」

 

魔物の肉を切り裂いた感覚はあった。それに対する感覚は、不快感じゃなかった。それが、その事実を認めてしまえば――

 

(じゃあ、今日殺した魔人族との違いはなんだ)

 

と光輝は思ってしまい――

 

「ウッっ、ゔぉえ」

 

光輝は橋の下に顔を向け、近くに雫がいるのも関係なしに、あれからまともに食事をしてないのに、胃の中のものを吐き出す。

 

「だがそれは、君がただ単に感じていなかった、気付いてなかっただけなんだと、わかりました」

 

見る目がなかったとでも言われたと感じたのか、光輝は背を雫にさすられながらも七海を睨む。

 

「怒るのは、本当に違うからか、それとも事実だからのどちらかですが、君の場合はおそらく後者ですね」

 

「なにが、言いたいんですか?」

 

息を切らせ、それでも聞く。

 

「天之河君、それに八重樫さん。君達に与えた課題について、理解してますか?」

 

「!」

 

「?」

 

雫はビクッとし、光輝はいきなりなにを言いだすのかと疑問符を浮かべる。

 

「八重樫さんに与えた課題は、【相手を斬る速度を上げる】。天之河君は【戦うという意味と自覚を持って戦う事】。これらは他の方々とは違い、肉体的でなく精神的な意味での成長を主に考えたものです」

 

雫は、この課題を見た時、最初は意味がわからなかった。しかし、意識しだして戦った時に気付いた。自分が無意識的に魔物相手でもほんの僅かに躊躇していたと。つまり、これはその精神面をどうにか解決する手段を探せというものだと考えていたが、どうやらあたりのようだ。

 

「どうやら、八重樫さんは気付いてるようですね。……やはり君だけのようですね、天之河君」

 

ここまで言われてもなお、光輝は七海の真意を理解できていない。

 

「自覚を持つ。これは勇者としてではなく、人としての意味です。我々が戦争に巻き込まれている以上、どこかで人を殺す。人でないにしても、命懸けで命を狩る」

 

「そ、それ、は……いや、でも殺すのは悪い事で……少なくとも俺は、南雲やあなたみたいには」

 

「ならなくていいです」

 

七海は、「言いたいのはそういうことではありません」と告げて続ける。

 

「この課題の本当の意味は、君自身が気付いて、それでも戦えるかという問いです。……メルドさんは国から……いや、教会からの圧力と君達の関係性の狭間で迷っていましたが、それでも近いうちに何かしらの行動を私がいない間にしてくださると思い、あの課題を君に出した」

 

とはいえ、結局メルドは迷って動けなかった。七海が帰ってくるのが予定よりも大幅に早かったというのもあるが。

 

「しかし、偶然とはいえ、今日君はそれに気付いた。……問いましょう、天之河君。これから君は、人を殺せますか?」

 

「……人殺しは、悪いことです。もう俺は、今度は、まちがえ」

「ないですか?君は、あの時皆を救おうとしたことは間違ってたと?」

 

「そうじゃない!助けるにしても、殺す必要なんて」

 

「………一応言いますが、殺すことが正しいなんて、私は考えているわけではありません。それは、八重樫さんも、白崎さんも、坂上君も、おそらく南雲君も」

 

「!」

 

光輝には理解できない。その上で何故この人は人殺しをさせるのだと思って弱々しく睨む。そんな考えが読めているわけではないが七海はなおも語る。

 

「人殺しは悪いことかと聞かれれば、それはそうです。だが、自分が襲われて、防衛の為に相手を殺すことが悪だと君は言うんですか?」

 

「だから!殺す以外にも」

 

方法はあるだろうと言いたいのはわかるが、そこには肝心なものが欠けている。

 

「どのような状況下だったかは話を聞いた程度なので、私もとやかく言えるかは微妙なとこですが、話し合いでどうにもならない状況下だったのは、君も、頭では理解してるんじゃないですか?」

 

「!」

 

再び光輝の脳内にあの時の光景がフラッシュバックされる。

 

「ウッっ、ブぇぁ」

 

「理解してないふうに装っても、身体は正直だ」

 

内容物は全て出した。だから出てくるのは胃の中の粘膜などだが、それも先程全て出せるだけ出したからか、吐き気があるのに何も出ない。それはまるで、楽になれると思うなと、自分自身に言われているようだと光輝は感じた。ポタポタと落ちるヨダレは、吐きすぎて苦しくなった身体の涙のようだ。

 

「もう一度言います。あの時の君の判断は正しかった。しかし、人を殺すというのも、君の言う通り悪いことです」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、なに、を」

 

「正しさとは、状況下によっては価値の無いものになりかねない。間違いでも、何かを守るなら通さなければいけない物がある。しかし、これから君がしていくのはその前を探すことです」

 

「ま、え?」

 

「自覚を持つこともできてないのは、意味を見出せてないからです。天之河君、君は何故この世界で戦うんですか?」

 

「それは、困ってる人がいて、この世界が危ないから、皆を、元の世界に」

 

「そうじゃありません。君自身が戦う理由です」

 

「?」

 

わからないなら教える。もう七海は、待つつもりも、遠回りもしない。光輝の気付いてないもの全てを、理解させる。

 

「誰かの為、皆の為、君の言うのはいつも他人です。自分がない。自分自身の目的がない。もしくはそれを自覚していない」

 

七海は「どちらなのかはわからないですが」と付け加えて言う。

 

「なぜ自分は戦うのか、なぜ救いたいのか、自分の為に戦う意味を、君は除外している。無意識なのか意識してなのかは知りませんが」

 

「そ、そんなの、自分勝手なだけだ‼︎」

 

「自分勝手?結構じゃないですか」

 

「!」

 

「人は全て自分を持っている。それを主張する事自体は悪い事ではありません。大切なのは、その後の行動。自分の為に、どうしていくか。それが正しいかどうかは、勝手に周囲が決めていく。南雲君の行為は、自分と自分の大切な者の為と、明確な指針と意志がある。その行為全てを肯定しませんが、否定もしません。大事なのは、自分を持っているかです」

 

「自分を」

 

「持っているか」

 

光輝と雫は反復している。事実、この言葉は、光輝だけでなく、雫にも告げている(・・・・・・・)のだ。

 

「自分自身に関心がない人も確かにいますが、そういう人物も基本的に自分を持っている。だが君は自分に関心が無いわけではないでしょ?そして、イカレているというのは、常人が見た時の事で、正しい正しくないは関係ないです。自分を持って、比喩表現でない【戦う】とは、そういうことなんだと思ってください」

 

「俺は、イカレてなんか」

 

まだ認めない光輝に、七海は言う。

 

「なら、君はこれからどうしますか?もう、戦いませんか?一応言いますが、それは悪い事ではない。君が感じているのは、人を殺す選択肢が来ることへの恐怖なんですから」

 

「!」

 

違うと声に出したい。だができない。手の震えが、出した汚物が、それを否定させているのだから。

 

「しかし、それでも戦うなら、意志と自覚を持ちなさい。そうでなければ、君自身が壊れてしまうのですから」

 

「…………おれは」

 

「君達が、いや、今の君のようにならないように、最初の人殺しは、責められることも承知の上で私になるつもりだった」

 

2人はそれぞれ別の意味で驚く。光輝は善と悪が入り混じるまま、雫は罪悪感から。

 

「しかし、結果はこれです。天之河君、君にその選択肢をさせて、申し訳ありません」

 

深々と頭を下げた七海を、2人はただ黙って見つめる事しかできなかった。数秒して七海が頭を上げて「最後に」と言う。

 

「天之河君、この先戦うなら、嫌でも今日のような…いえ、今日以上の事は必ず起こる」

 

その事例は、呪術師として戦ってきた中で、七海も見てきた。負の感情が呪いを生む。そして、それは人が生み出す物。故に、常人なら目を逸らしたくなるような人の悪意を、七海は幾度も見てきた。

 

「もし戦うのなら、今私が言った事は何度でも君にのしかかって来る。意味を見つけなさい。君はもう、1歩を踏み出した。それが正しいか、悪いかは、誰にも判断できない。そして、私も、南雲君も、君も、してきた事に対して本当の意味で裁ける者もいないんです。なら、どうするのか、どうしたいのか、それを考えなさい」

 

そして「この先はもう自分で考える段階です」と言い残し、「それでは」と言って去る七海を、2人は止めなかった。

 

七海が去った後、光輝は俯いたまま考える。

 

「俺は」

 

「光輝、七海先生が言いたいことは、正直私もほとんど同じ。だから1つだけ言うわ。この先は、もう言い訳はできないし、ご都合解釈もできない。一度進んだら、もう戻れないんだから」

 

雫もそう言うと、言うことはもうないとばかりにその場を去る。

 

「雫、雫は、どこにも、行かないよな?」

 

以前の雫ならもっと柔らかに言ったかもしれない。だが、彼女も七海に釘を刺された。そして改めて思い知った。この世界は、どんな形で、誰がいなくなるかわからないのだと。だから――

 

「………そんな事、保証しないわ。それに、私は別に、貴方の慰め役じゃないしね」

 

いつもより、厳しい言葉を告げた。

 

「…………俺は」

 

雫が去った後も、光輝は考える。雫が言った事。そして、

 

「意味を見つける。俺の」

 

七海の呪いの言葉を、何度も言いながら。

 

 

翌日、出発前にもう一度七海は彼女の、鈴の様子を見に来た。

 

「辻さん、彼女の、谷口さんの様子は?」

 

「………目を覚ましません。白崎さんの時とは、違うのはわかるんですけど」

 

あれから鈴はまだ目覚めない。相当な無理をしたのだから当然だが、それでもこの状況は不安にならざるを得ない。

 

「白崎さんの時は、ショックから身を守る防衛本能だったけど、これは何なんでしょうか?」

 

「聞いた限りの考察ですが、脳処理の限界だと思ってます」

 

高位の結界魔法を1度に乱発した。いくら適性があっても限界はある。限界を超えた使用に耐えれるほど、人の脳は強くない。

 

「私は医者ではないのでわかりませんが、このまま目覚めないことも視野に入れるべきだと思います」

 

残酷なことだが、はっきりと七海は言う。辻もそれは理解してるのか、暗い顔をし、下を向く。

 

「……でも、生きてるなら、諦めません」

 

それでも、グッと手に力を入れて辻は言う。

 

「谷口さんの笑顔に皆救われた。私も、皆も。自分だって辛いのに、皆を明るくしようとしてた。今度は、私が笑顔にしたい。起きたら、名前で呼びたいな。親友に、なりたいから」

 

「………王国に医師はいるでしょうが、しばらくしたら、マッドさんも戻るので、そちらにも診てもらいなさい」

 

「はい。………七海先生、もう行くんですよね?」

 

七海がコクリと頷くと、辻は「よし!」と立ち上がる。

 

「お見送りはここでします。先生、気をつけてください」

 

鈴を診る為、自分のやるべき事はこれだとし、辻は見送る。それを理解して七海は軽くお辞儀し、部屋を出た。

 

「頑張るよ、私。だから、鈴も頑張って」

 

その声が届いているかわからない。表情も変わらない。それでも辻は、彼女が笑っているように見えた。

 

 

「お待たせしました、南雲く…」

「やめろぉー‼︎やめてくれぇ‼︎」

 

少し遅くなってしまったことを謝罪する為に声をかけようとしたが、ハジメの発狂したかのような声に七海は困惑する。

 

「なんですかこの状況?」

 

「俺等が聞きたいですよ。どうすればあんな化け物になったあいつを、言葉だけで跪かせられんだか」

 

永山の言う通り、どうやら雫がなにかハジメに言っているようだ。それが原因でハジメは膝をつき、プルプルと足を震わせ、胸を押さえて苦しんでいた。

 

(彼女は呪言でも使えるんでしょうか?)

 

七海は七海でズレた考察をしていた。とりあえず聞くかとハジメの方へ近付くと、違和感があった。

 

「南雲君、どうしました?というか、白崎さんとユエさんは?」

 

香織とユエがその場にいなかった。正直自分が最後だと思っていた七海は質問した。

 

「うぉ!な、七海先生⁉︎いや、別に、なんでもない⁉︎気にすんな‼︎つか気にしないで下さいお願いします‼︎」

 

「八重樫さん、いったい何を言ったんですか?」

 

「いえ、別に。ただ、南雲君にカッコいい(笑)二つ名を」

「や、め、ろぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「?(やはり呪言が使えるのでしょうか)」

 

ズレているが、ある意味ではハジメにとって呪言である。

 

「まぁ、いいでしょう。それより、白崎さんとユエさんは?」

 

「ん。あ、あぁ。あの2人は今大迷宮の中」

 

「…………は?」

 

何で今なんだ、いつ行ったんだと、七海はどれから言うか悩んでしまい、つい呆けた声を出した。

 

「心配しなくても、10階層だよ。香織もユエも、共に実力が知りたいからだってさ」

 

「必要なんですかね」

 

少なくともユエの実力など言うまでもない。昨日あれだけ見たのだから。

 

「あと、色々と教えてほしいことがあるんだそうだ」

 

「あぁ、なるほど」

 

ユエの魔法は彼女自身の膨大な魔力もあるが、それ以上に適性の高さと、魔法そのものの理解力が強みだと七海は思っている。そうでなくては、どれだけ〝魔力操作〟という技能があっても、あれだけの魔法を行使できない。

 

「まぁ、そっちは徒労に終わるだろうけど」

 

「?」

 

それはどういう意味かと聞く前に、ユエと香織の声が聞こえてきた。

 

「ユエったら!ちょっとは手加減してよ!」

 

「手心を加えてほしいならするけど、香織はそんなこと望んでないし、した瞬間に喰らいつくつもりでしょ?」

 

「う⁉︎まぁ、そうだけど」

 

『否定しないんかい』とハジメは心の中でツッコミを入れる。

 

「まったく。…白崎さん、無茶をするような行為はやめて下さい。今のユエさんとの実力差なんて、やらなくてもわかるでしょう」

 

七海の苦言に香織は「だからです」と言う。

 

「頭で理解してるから、ちゃんと身体でも理解したかったんです。そうじゃないと、自分の立ち位置が明確にならない気がしたので」

 

七海は頭を軽く掻き、ボロボロになっている彼女を見て、諦めたようにため息をだす。

 

「服は着替えたようですが、顔が汚れてます。せめてちゃんと洗ってきなさい。そのくらい南雲君も待てます」

 

七海は、ですよね。と、声に出さず、サングラスをギラリと光らせてハジメを見る。

 

「んな睨まなくても待つっての。そうじゃなきゃ」

 

「… 魔眼の弾奏(ロード・オブ・ヴァニッシュ)

 

雫が何か耳元で囁くと血反吐を吐くように両膝と手を地面につけて苦しみだす。

 

「ほんと、何を」

「だ、か、ら、き、く、な!」

 

「…はいはい。なら、ユエさ…って、あなたもどうしました?」

 

「ラスボスを見たかもしれない」

 

「はい?」

 

さっきから訳の分からない状況と発言に七海は困惑していたが、とりあえず聞くべきことを聞く。

 

「ところで、どうでしたか?」

 

七海は香織がいない内にユエの評価を聞く。

 

「ぶっちゃけ、足手纏い」

 

『だろうな』と七海は思う。が、すぐにユエは「でも」と続ける。

 

「伸び代はある。才能もある。ちょっと悔しいけど、理解力と応用力が高い」

 

ユエは長い時を過ごす種族だ。だからこそ、短い時の中で懸命にもがき、強くなろうとして、実際強くなる香織を評価する。

 

「結局、七海の言う通りなのも、ちょっと悔しい」

 

「言ったでしょう?彼女は才能があると」

 

「負けるつもりはない」

 

「………」

 

「なに?」

 

「いえ、なんだかんだ言っても、気が合うなと」

 

「ふん」

 

恥ずかしいのか、ユエはそっぽを向く。と、香織が手を振り近付く……ハジメに。

 

「させない」

 

「む、ユエ、そこをどいて」

 

「どかせてみればいい」

 

2人の後ろにまた般若と龍が見える。

 

(仲がいいんだか悪いんだか)

 

背後の物をもう無視して、七海は2人を見る。その姿は、ライバル兼親友と言ったところか。そう考えてると後ろから雫が声をかけ、檜山グループと鈴を診る為の辻を除いた動ける生徒数名が見送りの為来ていた。その全員が七海を見る。

 

「……八重樫さん、天之河君は?」

 

「部屋で寝てました。昨日は遅くまで起きてたって龍太郎が」

 

「彼は同室でしたね、そういえば」

 

その龍太郎も体力回復と光輝の様子を見る為ここにはいない。

 

「えとよ、八重樫から聞いたんだ。先生がその、最初に人を殺すってことを考えてたって」

 

永山はおどおどして言う。

 

「多分、これから先もそうなんだと思う。それでも、俺達にとって七海先生は恩人だ。だから、今回のことも、ありがとうございました」

 

想いは同じなのか、皆感謝の言葉を言う。

 

(ありがとう、か)

 

感謝をされるべきなのか、そう思うが、それでも七海は、その言葉を受け止めた。

 

「では、行きます。皆さんも、気をつけて。それと、中村さん、谷口さんのことをお願いします」

 

「………はい」

 

鈴の親友である彼女の表情には意志がこもっているが、少し弱っているかのように声をだす。

 

「お見舞い、毎日行きましょう。その内、「あ、皆おはよう」って呑気に笑いながら目が覚めるでしょうし」

 

「ふふふ」

 

想像して恵里は笑って、つられて雫も、皆も笑う。

 

「おい先生!早くしてくれ!」

 

「今行きます。では、メルドさん、彼らのこと、もう少しお願いします」

 

「おうおう、行ってこい」

 

昨日のギスギスした雰囲気など全くない。縛りがあるから?いや、それはそんな強制的なものではない。お互いの確かな信頼だ。

 

会釈して七海はブリーゼに乗る。余談だが、七海が来る前にブリーゼを見た生徒達は唖然としていたそうだ。

 

「っとそうだった。八重樫、受け取れ」

 

ハジメは 〝宝物庫〟から黒い刀と小太刀を出す。事前に作ったのだろうが、七海はギョッとする。

 

(あの小太刀……呪具ですね)

 

込められている呪力を感じた。七海は正直言って『何渡してんだ』と言いたいが、何言っても聞かないし、そもそも雫にはまだ呪術について言えないので口をつぐむ。

 

「こっちの刀はこの世界で最も硬い鉱石で作った。小太刀もそうだが、こっちはちと特殊な……あー魔力がなくても動かせるアーティファクトだ」

 

「そ、そんな物が作れるの⁉︎」

 

「お、おう。あ、でも回数制限あるかな」

 

あらかじめ溜め込んでいる呪力で動くのだろう。使うたびにそれが減り、なくなればただの小太刀になるということだ。もちろんもう1度呪力を入れれば動くだろうが、そんなこと雫にできるはずもない。

 

(あとでもうちょっと呪具についてと、呪具に術式があるなら、術式開示についても説明しないといけませんね)

 

新たに教えることができ、七海がどう教えるかなど色々考えるなか、出発した。

 

 

 

その夜、ホルアドの町外れの公園で悪態をつく男がいた。

 

「クソっ!クソっ!なんだってこんな‼︎」

 

木に恨みを晴らすように拳をぶつける檜山は、動揺と焦燥、憎しみに覆われている。

 

「あーあー。随分と荒れてるねぇ」

 

「無理もないけど」と煽りのある声で、協力者が現れた。それにも腹が立ち、檜山は「黙れ!」と吠える。

 

(弱い犬ほどよく吠えるなぁ)

 

協力者にそう思われているとも知らずに。

 

「………さて、次の段階に入ろうか」

 

「次、だと?もうお前に従う理由なんて…」

 

「そんなに奪われたことに腹が立つなら、奪い返せばいい。幸いこっちにはいい餌がある」

 

その人物は不気味な笑みで言う。

 

「王都に帰って、仕上げに入ろう。そうすれば、香織は君のものだ」

 

「俺、の?」

 

「そう。彼女の為に。香織を救えるのは君だけなんだから」

 

甘い言葉に、檜山の瞳が黒く染まっていく。

 

「俺は、間違ってない。俺は香織を取り戻す」

 

協力者はうんうんと頷き、気持ち良さそうに檜山の言葉を肯定する。

 

「そうと決まれば、早速だ」

 

「?」

 

協力者はいきなりの申し出に「何が」と檜山に問う。

 

「とぼけんな。あれ、人間にも有効なんだろ?だったらよ、今のうちに谷口を殺してしまえば」

 

瞬間、檜山の身体が凍ったように感じた。

 

「勝手はダメだよ。君は僕の言うことを聞けばいい。わかった?」

 

(な、なんだこの感じ!)

 

その人物から感じた得体のしれない何かに、自分の全てが掴まれたように錯覚し、檜山は冷や汗をかいて膝をつき、「わかった」と言った。

 

闇がその場を支配していた。

 

 




ちなみに
光輝は劣化版、虎杖悠仁と何度も言いました。故に、その対比としての表現として、呪術廻戦の『自分のために』を少し意識してこのタイトルとしました。
誰かのためって言葉は良い言葉に聞こえますが、ものによっては気持ち悪い言葉でもあると自分は思う。光輝は七海から与えられた呪いを、どうしていくのか…
あと、短いけどこれが第2章の終わりとしてもいいかなと自分で思ったのもあります

ちなみに2
最後の暗躍する人、このセリフ言うかなと思いましたが、ありふれたの本編を見てこうしました。が、意見あればお願いします

次はありふれたさんぽを挟もうと思いました。すでにできてますが、ちょっと考えあるので投稿は来週とします
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