ありがとうございます!
そして、ごめんなさい
詳しくは後書きで
その1
「お待たせしました。完成です」
「「「「「「おォォォ!」」」」」」
「流石に、醤油がない以上完全な和食なんて不可能なので、出汁で作った洋風の肉じゃが……というよりほぼポトフですね。パンを買っておいたので、ご一緒にどうぞ」
「ナナミンのごはん、いつもおいしいの」
今日も今日とて七海が料理を作ってくれた。
「もしかしなくても先生、このパンは」
「はい。町で1番良いパンを作れる方に、作っていただけました。運が良かった」
「なんか、七海先生らしいね…ねぇ、ハジメ君、いつも七海先生が料理を?」
「いや、当番制。つってもシアか七海先生しかしないし、車での移動だからそんな野宿もないしな」
「でもこの人私より手際も良くておいしいんですよぉぉぉ」
「なんでそんな恨めしそうなんですか?」
七海はなんでもないように作るが、シアもユエもティオも、女子力で負けている事に膝をつかざるをえない。
「呪術師は独り身が多いからだそうですけど、それ踏まえても随分と上手いような」
「まぁ、自炊は趣味でもありますしね。休日なんかは少し凝った物も作りますよ…大抵は酒に合う物ですがね」
「「むむむぅ」」
ユエと香織はちょっと羨ましそうに七海を見る。
「先生、次私が作りますよ!というより、作らせて下さい!」
「はい?まぁ、かまいませんが……南雲君の言う通り、あまり野宿はないですけど」
「むっ!七海、今度料理教えて」
「あ、ズルい!私もお願いします!」
「香織はもうできるんでしょ?ならいらない」
「そんなこと言って私より美味しいもの作ってハジメ君に喜んでもらおうなんて目に見えてるんだから」
2人の言い争い…というより痴話喧嘩に巻き込まれてしまった七海は肩を落とす。
「ガンバ、先生」
まるで応援する気のないハジメの言葉にイラッとしながら。
ちなみにそのハジメも、どっちから食べるのと詰め寄られ、どっちが美味しいと詰め寄られ、味的には香織だが、ユエの方は好きな人物の手料理でもあり、裁定が付けづらく、逃げるに逃げれない状況に置かれる羽目になるのだが。
その2
ある日、ブリーゼで駆けている際、何かに乗り上げて転倒してしまった馬車と、そこから振り落とされて重傷を負って倒れている人がいた。香織がハジメに声を掛けたことで止めて、すぐにブリーゼから降りてそちらに向かう。
「香織は世話好きだな、まったく」
「そんなこと言いつつも、止まってあげるんですね」
「……まぁ、ミュウに嫌なパパってとこ見せたくないし」
ついに自分からパパと言い出したことにはあえてツッコミを入れず、七海も出る。
「どうした、先生?」
「どうやら行商人のようですから、何かしら貰えるか聞いてきます。せっかくですしね」
「あんたも意外と恩を利用するんだな」
「君ほどではないですよ。ちゃんとお金も払いますしね」
と言いつつ、値切るつもりではあるが。
「容体は?」
「こっちの人はちょっと危ないのでしっかり治療してからあっちの人を治療します。大丈夫です、この程度なら」
細部まで治す為、集中しだす。それを乱さないように離れて他の人物と話す。感謝とお辞儀を何度もされるが、それは香織に言うように言って、何か良い物はないかと聞いてハーブと香辛料を分けて貰った。買うつもりでいたが、相手がお礼だと言って引かないので、これ以上は逆に失礼になると思い、受け取り、ハジメの方に向かう。
「?」
と、見るとハジメが武器を出して手入れをしている。まぁ、これは良いとして。問題は残りのメンバーだ。
「さぁ、もう一度‼︎ギュンして、ググーーンで、グインで、そーい!」
「さっきと説明が微妙に違うですぅ⁉︎」
「やはり、妾、ほんとはバカなんじゃろうか……」
「ぜんぜんわかんないの〜」
ユエは伊達メガネをかけて、よくわからない掛け声と体操をし、残りはそれに着いていけてないというか、理解できてないように見えた。
「交渉終わりました。……何してるんですか?」
「……武器の手入れ」
「いや、君じゃなくて……あちらの体操についてなんですが」
「………そうだな。うん、そうしたほうがいいな」
ハジメは七海を見て何か考えたのか、ユエ達の方に声をかけた。
「おい、おまえら、七海先生の方が説明とか上手だから、そっちに教えてもらえ」
「は?いきなり何を…」
「聞き捨てならない」
七海の言葉を遮り、ユエが威圧感増し増しで言う。…七海に向かって。
「私の言う通りにやれば必ずできる。そもそも七海は魔力がない、魔法が使えない。教えるに値する以前の問題」
「けど、王都で香織や俺、錬成含めた魔法の基礎知識を教えたのは七海先生だぜ」
「む」
「あの、私を抜きにして勝手に話を進めないで下さいますか?」
どういう状況なのか説明を求めようとすると――
「七海!」
「七海さん!」
「ナナミン!」
「は、はい?」
「魔法のコツを教えて下さいです!」
「魔法について教えてほしいのじゃ!」
「ナナミン教えてなの!」
3人が詰め寄りながら言う。いい加減説明無しに話が進みだしたことにイラっとして、
「もうわかりましたから、まず、話を、聞いて下さい」
凄みある顔で言われて全員押し黙った。そして代表で、というか、元々の話の言い出しっぺのシアが説明をした。
「なるほど、魔法についてのコツを聞いて、適正のないシアさんでも魔法を使えるようにしたいと」
「ハイです」
「妾の方も、ユエの魔法教室に興味が出ての……ユエはほら、天才じゃし」
「なの」
説明をされて理解はできたが、すぐに理解できない謎がいくつか出る。
「それでなんで私なんですか?私じゃなくてユエさんの講義を聞いてたんでしょう?」
「七海さんも見てたでしょう!あれでわかりますか⁉︎」
「動きをつけて教えていたのでしょう?まぁ、たしかに、体操みたいにしてどうやって魔法を教えていたかは気になりますが」
「ならお主も教わってみよ!ほれ!」
ビッとユエを指差してティオは半泣きで言うので、仕方なく七海は聞くことにする。
「まず、もぎゅっとして。こねこねっとする。シュルンとなったら、そーいってする」
「………………………」
スーッと息を吸い、瞬時に納得して、また考える。
「七海?」
(固まってる。いやまぁ、七海先生でもわからないよな、アレは)
説明無し、擬音のみ。これで解れとかどうしろって話だろうと、ハジメは同情していた。
七海の方も、まさかユエがここまで説明が下手くそだとは思わなかったのか、ホルアドで香織に魔法を教えるのが徒労に終わると言われた意味を理解して、その上で、
「あの、すみません。考えをまとめてますので、あと2〜3回見せてもらっても」
「「「⁉︎」」」
(どうにか理解しようと必死だな)
まだ見るのかと驚く3人と、なんとなく七海の考えを理解したハジメは黙って見守る。ユエは良い心掛けだと思ったのか、それから3回見せる。どれもほぼ同じ、掛け声が微妙に違うのみで、話にならない。要するに、理解不能。
「なるほど、わかりました」
「「「「え?」」」」
今、4人の意見が一致した。「理解不能を、理解した、だと⁉︎」と。
「ユエさん、もう一度、1つずつやってもらっていいですか、それをわかりやすく私が説明します」
ユエが少し不満そうに、残りのメンバーが訝しみながら聞き耳を立てる。
「もぎゅっ」
「まず、これは魔力を練る行為を表してます。自身の内包する魔力を引き出す行為、わかりやすく火で例えましょう。薪、着火剤、火の順番でいきます。いまの『もぎゅっ』は、薪を用意した段階。次を」
「こねこね」
「これは、魔力を身体に流す段階、魔法を使う前準備。…用意した薪を燃えやすいように切ったり小さくしたり、重ねている段階と思ってください。次を」
「シュルンとなる」
「これは、本来なら詠唱にもあたる部分ですね。発動する為の魔法にそれに必要な魔力を繋げて送る行為。着火剤を使って火を起こす瞬間、火打ち石を打ちつける、もしくは紙に小さく火をつける行為です」
「……そーいってなる」
「後は、発動。火がつきます。こんな感じですがどうでしょうか?」
「「「めちゃくちゃわかりやすい‼︎(です‼︎)(のじゃ‼︎)」」」
「ナナミンすごいの!」
ユエのあまりにもあんまりな語彙力を、どうにか自身の呪力の流し方、術式発動をベースに考え説明したのだが、どうやら功を奏したようである。というより――
「七海さん!もっと魔法について教えて下さいです‼︎」
「妾も、この身に流れる魔力の真髄、見えておらぬ物、知りたいのじゃ‼︎」
「ナナミン、もっともっと!」
3人ともユエの元を離れて「ハイハイ!」と教室で手を挙げる子供の如く、教えを乞う。当然ながら、自分の教育論に絶対の自信があったユエは――
「……………」
ガーン!という効果音がついたかのように突っ立ている。最後の頼みの綱と、ハジメを見ると我関せずと言うところか、あからさまに顔を背ける。
「教えるのはいいですが」
だが、ハジメは1つ忘れている。
「シアさんは魔法の適性がないなら、どれだけコツを聞いても無駄ですよ。言うなれば、着火剤無しで火をつける行為みたいなものです。ティオさんの場合、これらができているので、後はどれだけ出力調整……必要な薪(魔力)と着火剤(詠唱)をするまでの簡略化だけで、これは回数をこなせとしか言えませんし、ミュウさんに関して言えば魔力がないのでそもそも論外です。総じて言うなら、無駄だと思いますが」
「「「……………」」」
3人はガーン!と言う効果音がついたように膝を折る。
(あ、そうだった。この人もこの人で、事実を突きつけるから、心折られるんだよな)
教えるにはまったく才能がないユエと、教える事が上手い七海。正反対なのに心を折る事だけは一致していた。
「まぁ、自分に合ったやり方が1番だと思いますよ。無理して別の方法を探すよりもよっぽど効率的です」
フォローができるだけマシかもしれないが。と、そうして心を折られている者がいる中――
「治療終わったよー。馬も怪我しててそっちも治して…どうしたの?」
治療を終え、戻って来た香織が項垂れた4人を見て声をかける。
「ユエさんに、魔法のコツを教わって、その後七海さんにも教わって………」
「へー!凄い!2人とも別々な教え方だけど、上手だよね!」
「でも、心を折られ…………へ?」
「むぅ?」
シアとティオは一瞬香織の言葉を疑う。
「あの、香織さん?七海さんはともかく、ユエさんも…ですか?」
「うん!オルクス大迷宮で、教えてもらったことなんだけど」
言いながら香織は杖をしまい手を前に出す。
「もぎゅっ、こねこね。で、シュルンとなるから、そこからそーい!」
ユエとまったく同じ謎の擬音と動き付きでやると、〝聖絶〟を発動させた。
「「何ぃー‼︎」」
「……マジか」
シア、ティオ、ハジメは驚きを隠せない。あんな擬音と妙な動きで発動させるとは思わなかった。特にハジメはユエが香織に魔法を教えることは聞いていたが、絶対徒労に終わると確信していたのと、大迷宮から出て来た後でその事を話さない、つまりは説明できないと考えていたぶん、驚きは大きい。
「ね、わかりやすいでしょ!」
「「「……ハイ、ソウデスネ」」」
「香織お姉ちゃんすごいの!」
香織の言葉に自信を取り戻したのか、ユエが「エッヘン」と胸を張る。
(先生の言う通り、ある意味似た者同士ってやつだな………って)
「……………………」
ズーン、と言う効果音がついたように、七海は呆然としていた。
(あ、アレでいいなら、私が今までやってきた意味とは)
(こっちはこっちでショックを受けてるな。教えてきた分、ショックも大きいだろうな)
「もうダメですぅ」
「七海はある意味ユエより心を折る、ユエはそもそも教育者としてむかんし、どっちもどっちじゃな」
と2人は言うが――
「でもまぁ、魔法の件で何かあれば、七海さんに聞くのがいいですね………心を強く持つ必要ありですけど」
「うむ。少なくとも、ユエよりは断然マシと言えるの……心を強く持つ必要はあるがの」
と評価して、再び魔法についていつか話を聞こうと思っていた。当の本人はまだショックを受けていたが。その光景がハジメは今日一印象的だったと言う。
その3
「ふぅ、いい湯だったな…ん?」
「で、こうすると答えが」
「8なの!」
「はい。正解です」
風呂から出てきたハジメは七海がミュウに数学を教えている所を目撃した。
「お、ミュウお勉強か?偉いぞー」
「ナナミン、ありがとうなの!」
ハジメに誉めてもらえて、その理由の七海にミュウは感謝する。
「いえ、別に。このくらいなら。白崎さん、そちらは?」
「ちょっと、苦戦中です」
「「「むむむぅ」」」
ユエ、シア、ティオが難しい顔してミニホワイトボード(ハジメ製)を見つめる。
「この為に作らせたのか」
「いや、私が教師という事で、地球の言語の方を教えてほしいと言い出したので。とりあえずはひらがな、カタカナから始めようかと。ミュウさんは幼いので言語よりも別の方向でというより、オマケみたいなものです」
ハジメは「ほー」と興味がありげにそれを見る。
「ひらがな、カタカナの使い分けもですけどぉ、なんなんですかぁ、この難しさはぁぁぁ‼︎」
「言語が統一されているようでいない。不思議すぎる」
「七海が事前に言うように、確かに難しいのじゃ」
「ね。日本語って私達の世界でも最も難しい言語って言われてるくらいだから」
ちなみに、香織は補佐として教えているが、あまり芳しくはない。
「今日はこの辺にしましょう。詰め込み過ぎはいけないので」
「はいですぅ〜………それにしても」
うつ伏せになってシアは言う。
「七海さんって、本当に先生なんですね」
「どういうことですか?」
馬鹿にされたと思ったのかちょっと低い声で言う。
「あ、いえ、そうじゃなくて、あまりにも似合ってるので」
「?私が、ですか?」
七海が聞くと「たしかに」と言うように皆、首を縦に振る。
「でも、前の世界……死ぬ前は1回も教師をしたことがないんだろ?」
「ええ。証券会社……と言ってもユエさん達にわからないですね。…簡単に言えば、お金持ちからお金を借りて、その人をよりお金持ちにする、大体そんな感じのところで働いてました」
「……なんか、似合ってない」
「七海さんはもっと弱い人の為に働く方が似合ってるような気がするですぅ」
「少なくとも、権力者に媚びへつらうようなことをするようには見えんの」
「まぁ、実際働いてクソだと思ってましたよ。…呪術師も別のベクトルでクソですがね」
「で、適性のある方を選んだ…聞いた時は、正直言って教師の言う言葉じゃないなって感じでしたね」
香織は説明の際の七海の「クソ」と言う姿と学校で見た姿とのギャップの方が印象的だった。
「………ところでよ、俺らの世界に来て、なんで教師になったんだ?時間かかるだろうけど、先生ならまた証券会社にも就職できるだろうし、他にも色々道はあったと思うけど」
「……特に理由なんてないですよ。昔、とある少年の手解きをしてた際、その少年が私を教師と勘違いして先生と呼んだことが、少し印象に残ってたから、そんな感じです」
「意外と単純というか、なんというか」
もう少し考えてのものと思っていたのか、ハジメはちょっと衝撃であった。
「そう言えば、ユエさん達は、南雲君の世界に行きたいんですよね?」
3人はその質問に頷き、ミュウもその気なのか「ミュウもーママと行くー」と言う。
「まさかと思いますが、3人共、南雲君の学校に行きたいとか言いませんよね?」
「もちろん」
「当たり前です」
「うむ」
「……………」
七海は頭を抱えた。
「まぁ、シアさんはいいとしてです。ユエさんとティオさんはぶっちゃけ必要ないというか、年齢的にいけないような……」
「アぁ?」
ユエが圧をかける。ドスの入ったいい声である。
「いえ、南雲君の通う学校というのは、同年代の人達が学ぶ場所なのですが」
「関係ない」
(あ、ダメですねこれは)
しかし、見た目で言うなら問題は……あるような、ないような、微妙なところである。
「けどまぁ、ティオはアウトだろう。いろんな意味で」
「ご主人様⁉︎ひどい、ひどいのじゃ!もっとぉなのじゃ!」
ビンタされて喜ぶティオを見つつ、確かにティオの見た目だと学生はさすがに無理があると思っていた。できて教師だろうが、こんな痴女が自分と同じ教師になることを想像すると反吐が出そうな七海であった。だがそれより心労なのは――
「そうなると、ほぼ確実に私が担任でしょうね」
「「………あ」」
そこでハジメと香織は察した。心労が増えるんだなぁと。
「七海、その時はよろしく」
「よろしくお願いしますですぅ!」
「わ、妾も、この際教師でもいいのじゃ、先輩として、の、の?」
「………………」
((七海先生、頑張って))
後々に訪れる心労に、同情する、ハジメと香織であった。
以上が、七海が皆に教えてほしいということだった。料理に関しても、その場はお流れになった。
そして、結局これら全てが叶えられる日は、訪れることはなかった。
さんぽシリーズで不穏な空気出して、すんませんでした!
今回の話は元々3話あったのを1つに集約して出しました
はんたーさんからファンアートをいただき、挿絵として出しました!
嬉しすぎて休憩中に大きな声出して同僚からちょっと引かれたw