ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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呪術廻戦の本誌がヤバイ!芥見先生いわく、4人中3人死ぬか1人だけ死ぬからしいけど……どれもやだぁぁぁ!




烽火連天

前方、砂。後方、砂。左右、砂。空は煌々と太陽が照り付け、その熱を砂が吸収して上下から暑さが襲い、正面からは熱風が砂塵と共に吹きつける。夜は夜で放射冷却によって極端に温度が下がる。また、この砂漠に適応した魔物の脅威もあり、グリューエン大砂漠はおおよそ生物が生きていくには辛すぎる環境といえよう。

 

「こんな場所をスムーズに移動できるなんて、久々に文明の利器の便利さを感じますね」

 

「ですねぇ、普通に馬車だったらどうなってたか、想像もしたくないです」

 

外の地獄のような景色を見ながら七海が言うと、シアも同意していた。

 

ハジメのブリーゼは最新型の車以上の設備が揃っており、砂埃や熱風に関係なく進める。当然ながら車内もクーラーで快適な温度になっている。

 

「うむ、この環境でどうこうなるほど柔い心身ではないが、積極的にこんなところを進もうとは思わんのう」

 

「……………」

 

「む、なんじゃ七海?その疑い深そうな目は?」

 

「いえ、別に」

 

七海は話を逸らすように言い、再び窓の外を見る。

 

「お前ならこんな場所でも喜んで汗と粘液を出しながらスキップして移動しそうとか思われてんだろう?」

 

「そこまで思ってません……多少です」

 

というより、あえて言わないんだから言うな、と七海が告げるよりも早く、ハジメのこの罵倒にティオが悶絶していた。

 

「やっぱり南雲君、わざとやってるんですか?」

 

「だから違う‼︎」

 

賑やかな車内は、本当に危険な旅をしているとは思えないほど、嬉々としている。

 

「パパすごいの!前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!」

 

「そうだね〜ハジメパパはすごいね〜」

 

「白崎さん、ミュウさんにお水を。クーラーのかかった空間なのでわかりにくいですが、確実に体内水分は減ってるので、こまめに補給を促してください」

 

七海の指示に、香織は「はーい」と遠足に来た小学生みたいな返事を返し、ミュウに水を渡す。

 

「やっぱり七海はハジメと違う意味で過保護」

 

「私はそんな甘い人ではないですよ」

 

「それ、俺が甘いって言ってる?」

 

『事実だろ』と誰も口に出さないが、これは皆が思っていることである。

 

「というか、香織…その、ハジメパパってのはやめてくれよ。なんか物凄いむず痒いんだ」

 

「え?でもミュウちゃんには普通に呼ばれてるよね?」

 

「いえ、あれでも最初は」

「七海先生ぃぃ!いいから、余計なことを言うな‼︎」

 

「失言でした」

 

全く謝る気のないその言葉に対して、キレるのをどうにか我慢してハジメは続ける。

 

「でだ、ミュウはもういいとして。さすがに同級生からパパと呼ばれるのは抵抗が」

 

本当に抵抗感があるのがわかってか、香織は「わかった」と同意するが、

 

「でも、いつか私にも子供ができたら、その時は」

 

(あ、まずい)

(嫌な予感がしますね)

 

ハジメをチラチラ見ながら言う香織に、絶対反応するであろう人物がこの場にいる。そして、ハジメと七海はとばっちりを受ける気がした。

 

「残念、先約は私。契約済み。香織の入る術はない」

 

「なっ⁉︎ハジメ君!どういうこと⁉︎」

 

「ふふ、両親への紹介も約束済み、明るい家庭は、《えくすかりばー》」

 

「⁉︎」

 

「?なぜその剣を例えで出すのですか?というか、なぜユエさんはその剣を知ってるんですか?」

 

「よくわかんないけど、ハジメが色々教えてくれた」

 

「はぁ……ん?南雲君、なにを項垂れてるんですか?」

 

ルームミラー越しでもわかるくらい、ハジメは項垂れていた。

 

そうしてユエの猛攻を聞いていた香織だったが、今のユエの発言にニヤリと笑みを浮かべて、負けるかとばかりに告げる。

 

「私は、そういうユエの知らないハジメ君を沢山知ってるよ!ハジメ君の将来の夢とか趣味、その中でも特に好きなジャンルとか!好きなアニメも漫画も知っているよ!」

 

「む、そ、それは日本に行ってから教えてもらえばいい」

 

「甘いよ!理解して、ちゃんと語るには時間がいるんだから!例えばユエは今の元になった原作とか、本当の言い方、知らないでしょ!漢字とかルビとか」

 

「か、かん、ルビ?」

 

「今のハジメ君は、アニメファンみんなが憧れるキャラその物なんだよ!ハジメ君の好きなキャラにもいたし!クロスビットだっけ?あれも絶対モデルはファンネルだろうし‼︎」

 

「南雲君、なんで血反吐を吐きそうな顔をしてるんですか?まるで鳩尾を複数回殴られたような」

 

ユエと香織が言い争うたびに精神的にダメージを負うハジメを、割と心配して七海は言うが、これにより余計に香織の発言に意識がいき、それがまたハジメにダメージを与える。

 

「好きな人の好きなものを知らないで、勝ち誇れる?」

 

「……ふっ、ふふふ、香織、いい度胸。そんなに知りたいなら私も教えてあげる。ベッドの上でハジメの好きなこと」

 

「なっ⁉︎」

 

真っ赤になって驚く香織を他所に――

 

「ナナミン、耳ふさいじゃよく聞こえないの」

 

教育上よくないなと判断した七海が手招きして、ミュウが香織から後ろの席にいる七海の方に移動すると、すぐさま耳を塞がれて不満そうにする。

 

「ふふふ、七海も既に許可している。諦めろ」

 

「なっ⁉︎ななな、七海先生‼︎普通そういうのは教師として、止めるべきなんでは⁉︎」

 

(いつかこうなる気はしましたが、私を巻き込まないでほしい)

 

「あっ!そうか縛りだね、縛りのせいでしょ!」

 

ちなみに既に香織にも七海のことは現状含めて告げている。その時の反応が――

 

 

『あ!つまりは異世界転生して異世界転移したんだ!すごい!ハジメ君の読んでるラノベみたい!』

 

 

と何故か大はしゃぎであったので、七海は『自分の感性がおかしいのか』と疑ったほどである。

 

「チッ。たしかにそれもあるけど、七海が私とハジメとの付き合いを認めたのは事実。これは縛りとは関係ない」

 

ユエはバレて舌打ちするが、すぐに事実を告げる。それに反応した香織が般若の如く、というよりマジで背後に般若を出して妬みを含んだ目で七海を睨む。

 

ここに来るまでもいくつか町に寄りながら移動していたが、事あるごとにバチバチ火花を散らしている2人。そのたびにハジメが割を食うのだが、今日ついに七海にもとばっちりが来た。

 

(とはいえ、そろそろ止めましょうか)

 

これ以上、夜の話をミュウの前でさせるのは良くないと考え、七海は止めに入る。ちなみにここまでの流れはいつものことなので、シアとティオはスルーだ。

 

「2人とも、その辺で」

 

「「だって!」」

 

「『だって』じゃありません」

 

その瞬間、2人はビクッとする。教師として、大人として、注意をする時の七海はキレている時よりもある意味真剣で怖い。

 

「君達はいくつですか?ケンカはいいとしても、限度を覚えてください。特にユエさん、あなたは年長者なんですから、もっと余裕と落ち着きのある態度をとって下さい。白崎さんは面倒見がいいんですから、もっと周囲に気を配りなさい」

 

「「はい、すいません」」

 

香織はこれまでの経験と担任としての言葉に対して縮こまるが、ユエにとって七海は、日本に行った時にハジメと同じ学校で通うなら、いずれ自分の教師になるであろう存在。七海より圧倒的に上位の存在で、且つ歳上なのだが、大人としてのレベルの差がありすぎるのと、最近とある事情で先生力でも負けている事を実感して口出しがしづらい。

 

「うーナナミン!きこえなーい‼︎」

 

「っと、すいません」

 

パッと手を離すと今度はユエと香織を見て言う。

 

「ユエお姉ちゃんも香織お姉ちゃんもケンカばっかり!なかよくしないお姉ちゃん達なんてきらい!」

 

耳を塞がれていたとはいえ、いつもいつもケンカしている2人を見ていたミュウは怒り、七海の隣にいるシアの膝に座り込んでフンと顔を背ける。さすがにこれは効いたのか更にしょぼんと縮こまる。

 

「まったく、幼児に言われてどうするんですか」

 

「誰もミュウには敵わんな……む」

 

この光景を面白おかしく見ていたティオだったが、不意に外に意識を向ける。それに合わせて七海もズイッと見る。ハジメもぶつぶつと「俺は厨二じゃない」と呟いていたが、ティオに言われてその方角を見る。

 

「ありゃ確か、サンドワームか?」

 

20メートルはあるミミズのような姿を見て、ハジメは王都で見た図鑑の知識から判断した。サンドワームはこの砂漠のみに生息し、普段は地中で潜航し、獲物を見つけては下から大口を開けて襲いかかる生物。とはいえ、察知能力が低い為、運悪く見つからない限りはそうそう襲われない。そんな生物が姿を見せているということは――

 

「捕食しようとしている?それにしてはどの個体も動かない。あれだけの数で取り囲んでいるというのに…」

 

七海もサンドワームの生態は頭にある。だからその状況に違和感があるのがわかる。

 

「食うのを迷ってんのか?悪食だって載ってたんだが…ティオ、そういうことってあるのか?」

 

ハジメもわからず、ティオに訪ねた。ティオはこの中では1番の年長者にして、ユエと違い外の世界で生きて来た存在。知識は誰よりもあるだろうが、そんな彼女も――

 

「むぅ、わからんの。少なくとも、妾の知識にはないのじゃ」

 

「狙われているのが人という可能性も捨てきれませんが……近付くとこちらが標的にされかねないですね。こちらには気付いてないようですが、どうしましょう」

 

七海に言われて、ハジメは考える。以前のハジメならすぐさまスルーしただろうが、今は治癒士である香織もいる。何より、寂しい生き方をしないと決めている。とはいえ、ここにいては本当に人が襲われているかわからない。行って人が居ませんでしたでは割りに合わない。そうして考えた末にここを離れようとしたが――

 

「!」

「どうしました、なぐ…!」

 

まずハジメが、次に少し遅れて七海が気付く。

 

「摑まれ!」

 

すぐさまハジメはそう叫んでブリーゼを加速させる。瞬間、先程までブリーゼがいた所からサンドワームが飛び出して来た。数秒遅ければ飲み込まれていただろう。

 

「きゃあぁ!」

 

「ひうぅぅぅ!」

 

「ぐっ、ミュウさんをしっかり守って下さいシアさん!」

 

「わっかってまぁぁす!」

 

急発進からの連続ドリフトをし、砂中から現れるサンドワームを回避する。

 

「南雲君、これに武器は⁉︎ないなら私が外に出て、戦いましょうか?」

 

七海はブリーゼの後部の扉に近い為そう言うが、ハジメは運転しつつ答える。

 

「心配ご無用ってやつだ!」

 

更にドリフトして車体を追いかけて来るサンドワームに向けるとそのままバックする。次に魔力を注ぎ込んでボンネットに内蔵されていた武器を出現させ、ロケット弾と魔力砲を放つ。血を砂漠に、車体に付着させながら粉砕されたサンドワームが倒れていく。

 

「今の爆音であそこにいたサンドワームが反応したようで…」

 

「香織、いい加減ハジメから離れて」

 

「こ、これは、そう、バランスを崩しただけで、ユエみたいにエッチなわけじゃないから!」

 

散々ドリフトした事が原因でハジメの膝に倒れた香織だったが、それをいいことにその場所を堪能していたようだ。ハジメにサンドワームが反応した事を告げていた七海は呆れつつ注意をする。

 

「こんな時くらいやめなさい、まったく」

 

「まだ飛ばすぞ!摑まれ!」

 

ハジメは再び速度を上げ、迫りくるサンドワームに向かって、今度は車体の横からも武器を出した。

 

「オールウェポン、ターゲットロック!ファイア!」

 

あれだけ厨二扱いされるのを嫌そうにしていたハジメだが、この発言とブリーゼの武装からしても、厨二である。そんなことをツッコむ人はここにいないのが幸運でもあるが。

 

サンドワームを殲滅したことで、砂漠の一帯は赤く染まり、砂漠は静けさを取り戻す。落ち着いて周囲を見たとき、先程までサンドワームが取り囲んでいた場所に白い衣服を身に包んだ人が倒れていた。

 

「あの人を取り囲んでいたのなら、何故捕食をしなかったのでしょうか」

 

「さぁな。なんかあるんだろうが」

 

「…ハジメ君、あの場所に…」

 

七海とハジメが考察するなか、治癒士として香織は頼みこむ。ハジメも気になっていたのでそれを了承した。

 

近づいた時に〔+視認(上)〕以上の者達は気付く。その倒れた人物の体内に流れる魔力の異常さに。因みに、最近シアも〔+視認(上)〕に到達している。

 

「体内魔力の流れが早い。小川が濁流になっているかのようですね」

 

「はい。でもその原因はこのままじゃ分からない。…なら、〝浸透看破〟」

 

香織が使った〝浸透看破〟は、魔力を浸透させて対象の状態を診察し、その結果を自分のステータスプレートに表示させる技能だ。

 

「何がわかりました?」

 

「はい。おそらくですけど、何かよくない物を摂取して、それが原因で魔力を外に放出できないみたいです」

 

その結果、体内で生成される魔力に身体が活性化、圧迫され、臓器や血管に異常を起こしているとのことだ。そしてこのままだと、出血多量と衰弱で死に至る。

 

「これは、回復よりもまず、内部の魔力をどうにかしないと」

 

魔力の流れが見える香織はそう判断して、一定範囲内にいる者の魔力を他の者に譲渡する〝廻聖〟を使用するのだが――

 

「光の恩寵を以って宣言する。〝廻聖〟」

 

「「なっ!」」

 

「「おおぉ!」」

 

「キレイなの!」

 

「ですぅ…」

 

以前までに既に3小節まで省略していた魔法を、たったの1小節にまで省略していた。その光景にハジメと七海は驚き、ユエとティオは感嘆し、ミュウとシアはうっとりと見つめる。

 

「すげぇな香織」

 

「へへ、まだ無詠唱はできてないけどね」

 

「いや、そのうちできんだろこの調子なら。って、七海先生?」

 

(ユエさんのあんな教えで…)

 

(あ、これショックを受けているな)

 

茫然とした七海だが、少し前にもあったことなのでとりあえず直ぐに戻るのはわかるが、気持ちは何となく理解できるハジメだった。

 

更に香織は回復魔法をかけたが、あくまでも応急処置だ。根本的な問題、即ちこの人物の魔力暴走の原因が解決しない限りはどうにもならない。荒くなっていた呼吸は落ち着いたが、このままこの炎天下に晒されていてはいけないと考え、ハジメの錬成で土のドームを作り、そこに運んだ。

 

「ともかく、今はこのくらいしかできない。こんな症状は王都で勉強した中になかったし、ユエとティオも知らないなら、不治の病としか言いようがない」

 

完全な治癒が出来なかったことが悔しく、香織は憂う。知識の深い2人も知らないとなると、完治させるのは難しい。

 

「とりあえず、この方に聞いてみるしかないでしょう。何か症状について知っている可能性がありますし」

 

そうこうしていると青年が、少し苦しそうにしながらも目覚めた。その際香織を見て「女神」だの、「召し上げられたのか」などと言って香織の手を掴もうとしていたところにハジメの足で腹を踏まれて、本当の意味で目を覚ました。

 

「はぁ、もういいですよ。それでは、少しお話しを聞かせてもらってもいいですか?」

 

もはやハジメのこの対応にも諦めが強くなってきた七海は目線を下げて青年に話しかける。

 

「その衣服、アンカジ公国の物と見ますが、そちらで何かあったのでしょうか?」

 

「は、はい。あの、その前につかぬことをお聞きしますが、あなたは七海建人様でしょうか?」

 

「こんなとこにまで……いったいどういう噂が」

 

人相描きが出回ったのは数ヶ月も前。小さな町や村などはともかく、多くの国では既に周知されている。

 

「そちらの方々は、冒険者でしょうか?ランクは?」

 

「金だ。つか、早いとこ喋れ。こっちはアンカジに行きたいんだが、何かあって危険地帯になってんならたまったもんじゃねぇんだ」

 

「申し訳ないのですが、お願いします。これ以上は抑えられる自信がないので」

 

チンピラみたいな感じで「情報を言え」と言うハジメと、真面目な顔で言う七海を見て、これ以上喋らないでいるとまた蹴りをくらわせられると思い、話しだす。

 

青年はビィズ・フォウワード・ゼンゲンと名乗ったが、そのゼンゲンという名に、七海は聞き覚えがあった。

 

「あなたはもしかしてアンカジ公国の領主の」

 

「はい。ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは私の父です」

 

領主の息子が、こんな砂漠の真ん中で死にかけで倒れていた状況が、事の異常さを表している。早いとこ向かうべきだと考え、移動しながら話すことにして彼らはブリーゼに乗り込んだ。

 

「まだ入れるスペースがあってよかった」

 

七海は外の荷台に乗る羽目になるのは正直言って御免だったため安堵した。

 

「こ、これは、この乗り物はいったい…やはり、あなた方は神が遣わした女神と使者か!」

 

おどろくビィズに『そんな慈悲深い神はいねぇ』と頭で思いつつ、心底ウザそうな顔でハジメは「さっさと言え」と半分脅しつつ言うと、冷や汗を出しつつビィズは語りだした。

 

4日ほど前、アンカジで原因不明の高熱で倒れる人が続出した。初日だけで3000人が意識不明、症状を訴える者でも2万人はいた。当然、治療施設はすぐに飽和状態になった。おまけに病の進行は遅らせる事はできても完治はできない。そんな中で治癒士も感染し、治療できる者が減り、患者だけが増え続け、ついに死者が出始めた。

 

「これが、わずか2日間の出来事だ」

 

「……あまりにも早すぎますね。自然の病気でも、そこまで早くはない」

 

「ええ。その異常性から、経口感染が強いと考え、飲み水に鑑定をかけたのですが…案の定、魔力を暴走させる毒素が確認され、水の出どころであるオアシスを調べてみた結果、オアシスから毒素が確認されました」

 

アンカジの水源はオアシスが頼りだ。そこの水が使えないということは、死活問題だろう。

 

(使えなくなれば死活問題になるオアシス。警備は当然あるはず…それを掻い潜りオアシス全体を汚染する)

 

その手口に七海は覚えはあるが、今は置いて話を続けさせる。

 

「ビィズさんは、なぜあの場に?というより、領主は?」

 

「父上含めた私の家族も感染していた。だが、今は持ち直している。……衰弱が激しく、動けないが」

 

曰く、《静因石》と呼ばれる鉱石を粉末状にして服用したとのことだ。この静因石は魔力の活性化を抑える効果があるらしい。これによって治療ができるが、この鉱石があるのがここからずっと北方の岩石地帯で、往復で1ヵ月以上はかかる。もう1ヶ所あるが、それはハジメ達がこれから向かう予定のグリューエン大火山の大迷宮内部らしい。生半可な冒険者は大火山を包む砂嵐を突破できず、大迷宮に入れても、入手できる量は少ない。そもそも――

 

「グリューエン大火山の大迷宮に入って静因石を採取して戻れる冒険者も、今は既に病で…それに安全な水がなければ治療できても意味がない。我々は干からびるのを待つだけだ」

 

「なるほど。それで動けたあんたが、救援を呼びに外に出た。だが、その途中で発症したってことか」

 

ビィズは悔しそうな顔をして弱々しく拳を握っていた。因みに護衛はいたそうだがそちらはサンドワームに襲われて全滅したらしく、それもあって悔しさがあふれている。

 

「不幸中の幸いは、襲われる時に発症した為、サンドワームに捕食されなかったことでしょうね」

 

七海がそう言うとビィズは口を手で押さえて吐き出しそうにしていた。

 

「……それを考えると、少し吐き気がするが、そんな事言ってる場合ではないな。君達に、いや、貴殿達に、アンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸してほしい」

 

ビィズは深く頭を下げた。己が軽々しく頭を下げてはいけない存在であることなどわかっているだろう。それでも下げた。それほど切迫している事がわかる。

 

視線がハジメに向く。最終決定権はハジメにあるが、ユエとティオ以外は『助けてあげてほしい』という気持ちが強い。七海もできるなら助けたい気持ちの方が強いが、彼だけはハジメに視線を向けない。

 

(………答えなんて、聞くまでもないってか)

 

縛りで逆らえないとはいえ、意見は言える。その意見すら言わないということが、七海の信頼の証でもある。

 

「パパ、たすけてあげないの」

 

逆にミュウは純粋故に、直接的に言う。「ふぅ」とハジメは一息入れビィズに言う。

 

「しょうがねぇな。どの道、グリューエン大火山には行く予定で、その前にアンカジに寄るのもあったからな」

 

とはいえ、さすがに幼いミュウを危険な大迷宮に連れて行くつもりはなく、アンカジで預けるつもりだった。魔力暴走が原因なら亜人族のミュウは今回の病気にかかる心配はない。そして、大迷宮攻略のついでに静因石を確保するのも問題ない。

 

「とりあえずこのままアンカジに直行だ。まずは安全な水の方をどうにかしよう」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうにかって、まさか、27万人分の飲み水を確保できるのか?」

 

「…南雲君、君の考えはわかりましたが、その後で大迷宮に向かうならユエさんの魔力は保ちますか?」

 

ユエの魔法で空気中の水分を集めて水源を作るのだろうが、ただ水を出すだけでなく、27万人がしばらく困らない水と貯水池も作る必要がある。いくらユエでも、そこまで魔力を使えばダウンしてしまうだろう。

 

「どうだ、ユエ?」

 

「………1度には無理。魔力の補給が必要。だからハジメ、『アレ』お願い」

 

「アレ?」

 

七海がなんのことだと思い聞くが、ハジメは恥ずかしそうに「わかった」と言うだけだった。

 

 

飲み水の確保についてだが、結果だけ言うと、どうにかなった。アンカジ近くの農業地帯の一角、200m四方を重力魔法で深い窪みを作り、いくつかの宝物庫にあった金属鉱石で窪みをコーティング。そこから大量の水を大津波の如く魔法で発生させ、巨大な貯水池を作り出した。

 

これだけの土地の開拓、そして水の発生など、この世界の常識的に不可能を通り越した奇跡だろう。そして、その奇跡を起こしたユエとハジメだが――

 

「まったく………必要とはいえ、あんな方法で」

 

「必要ってわかってるなら言わずもがなでしょ」

 

ユエがブリーゼ内で言ったように、1度にやるにはやはり無理があった。そこでユエの種族、吸血鬼族の固有の技能〝血液変換〟で摂取した血液を魔力に変換し、自らの力にする事で成し遂げたのだ。

 

「それは良いとしてです。わざわざ首筋に噛み付いて血を吸わなくても、瓶か何かにストックしたものを飲むというのはできないんですか?」

 

「鮮度問題と、ハジメの血が凄いから」

 

要はハジメの血以外は好んで飲みたくはないし、鮮度が大事ということ。

 

「なるほど。ではその後にキスしたのは?みた限り、アレでユエさんの魔力に影響があったようには見えませんでしたが」

 

「…‥気持ちの問題。あれだけの魔法を使うんだから、精神を統一したかった」

 

「そうですか。その間、あっちでミュウさんの目を隠して、悶えていたティオさんと禍々しいオーラを纏った白崎さんと、前屈みになってしまったアンカジの重鎮達の対応を一身に引き受けた私に対して、何か言うことは?」

 

「…後悔はない。やる必要があったのとやりたいからやった」

 

「君達の関係に口出しはしませんし、そういう性的な行為も縛りで禁止できないのでもういいですが、せめて時と場合を考えてください。あと、南雲君も、流されすぎです。ほんの少しでもいいので手綱を握って自重してください」

 

年齢は圧倒的にユエが上とはいえ、尻に敷かれ過ぎであったのでついに七海はハジメにも注意した。ハジメは担任の真っ当な意見に、どこか思う事があるのか目を逸らさず「ハイ」と返事していた。

 

「まぁともかく、これで」

 

「ああ。当分の間は保つだろう。あとはオアシスの方だな」

 

今起こったことに呆然としつつ、アンカジに着いてすぐに紹介にあったビィズの父でここの領主、ランズィの案内でこの場所に来ていた。そのままオアシスに向かう。

 

「これ、酷いですね」

 

「ん、これを飲んでたっておもうとちょっと気持ち悪いレベル」

 

「回復魔法で治せないのかな、これ」

 

ついてすぐシア、ユエ、香織が非常に気持ち悪そうな顔してオアシスを見ていた。

 

「む、なんじゃ?見た感じ特に問題なさそうじゃが」

 

「そういえば、ティオさんは魔力視認ができないんでしたね。だとしたら、ここは綺麗な水源に見えるでしょうね」

 

七海含めて、魔力視認の(上)以上の者達は気付いた。水全体に残穢が染み付いていたのだ。さすがにハジメを除いた者たちは属性はわからないものの、毒があると分かっている状態なら、このオアシスが今どれだけ汚染されて、見るのも気持ち悪いものになってしまっているかがわかる。

 

「何者かがこのオアシスに魔法をかけていますね」

 

「いや、それはあり得ない。アーティファクトで警備と監視はしている。オアシスに悪意あるものが魔法をかければ気づく筈だ」

 

ランズィの言う事は正しい。だがアーティファクトが反応する位置に問題がある。

 

「…さすがに、私でもわかりませんね。残穢が濃すぎて、位置が特定できない。南雲君は?」

 

ジッと七海は観察していたが、魔法かけている存在がわからない。ハジメは眼帯を持ち上げ、その魔眼で水底を見つめる。

 

「………いるな」

 

そう呟き、宝物庫から500mℓペットボトルのような形の金属の塊を取り出し、それに魔力を注ぎ込む。

 

「…皆さん、濡れたくないなら下がった方がいいです」

 

それをハジメがどうにかする前に七海は告げた。皆が訝しみながら下がっていった後ハジメはそれをオアシスに投げ込む。数秒後、凄まじい爆発音と共に巨大な水柱が噴き上がる。

 

「仕留めましたか?」

 

「いや逃げられた。意外とすばしっこい。いや、防御力が高いのもあるかも」

 

「ただの爆弾ではないですね。……魚雷でしょうか?」

 

七海の問いに『正解』という感じでハジメはニヤリと笑う。

 

「しかも追尾機能付きのな。あーあ、これを呪具でも再現したいんだが、残念ながら技能は1つしかつけられないからなぁ」

 

本当に残念そうにしながらハジメはポンポンと魚雷を出してはオアシスに放り投げていき、その都度大きな水柱がでる。ランズィ達からしてみればオアシスの破壊にしか見えないだろう。元のオアシスの美しい光景はどんどん変わっていく。水は魚の血で染まっていき、かけていた橋や置いてあった小船は吹っ飛んで木っ端微塵である。

 

「チッ。なら、魚雷と試作品呪具爆弾1号を一緒に使うか」

 

「聞くだけでその脅威さがわかりますが、早いとこしてください。ランズィさん達が今にも飛びかかってきそうで…!」

 

唐突に水が別の形になって襲ってきたかのように、半透明な触手がハジメ達に襲いかかる。

 

(形が一定ではない。が、この程度なら切り裂けますね)

 

七海の術式の対象外ではあるが見た目通りの柔い身体の為、あっさり切れた。が、これも見た目通りということか、すぐに再生した。

 

(……面倒な)

 

ユエとティオも魔法で攻撃し、ハジメも透けた身体の中に見える核、つまりは魔石を狙うが内部で縦横無尽に動いており狙いを定めづらい。しかし、唐突にハジメが「捉えた」と呟いてシュラーク、呪具を構えた。電気と同じ性質を持った呪力を呪具に込める。更に弾の付いてないただの薬莢をこめる。

 

「弾は、これから作る。呪力でなぁ!」

 

呪具に込めた呪力から内部の薬莢に込め、形をイメージし、エネルギーを集約する。強いエネルギーを、限界まで小さくまとめていく。

 

「くらえ」

 

引き金を引いた瞬間、撃ち出された呪力の弾丸は、圧縮されたエネルギーを放出し高エネルギー体、レーザービームとなり、一直線に魔石を貫く。

 

「んー呪力の収束率はほぼよし。あとはこれを発散させることと、その際のエネルギーをどれだけ拡散させずに威力を上げるかだな」

 

(呪力を放出してぶつけるのは、私でもできる。だが、あんな芸当はできない。彼の呪力特性と、センスによるものですね)

 

感心してそれを見ていたら、ハジメが「なんだよ」と訪ねるので七海は「いえ」と流した。

 

自分で考え、呪力を扱っている。それはすなわち、《呪力を流す》という初期段階から着実な進化をしているという事。自然に、身体を流れる血のようにしていく中で術師は呪力の核心へと至る。これは既に言葉として伝えている。今、七海がそれができている、と言えば、そこで満足してしまうかもしれない。術師としても、特級へいこうとする彼には、言うより経験と自己学習の方がいいと思うから、嬉しさと、若干の悔しさを隠し、陰ながら応援していた。

 

「それより、これでオアシスは」

 

「ああ。間違いなくオアシス汚染の原因はアレだろ。奴の魔力の残穢と一致してるしな。おそらく、毒をだす固有魔法だろうよ。とはいえ、残穢がまだオアシス全体に濃く残ってやがる。だから…」

 

「ええ」

 

ハジメの考えに七海も肯定する。実際オアシスの鑑定をしたが、やはり汚染されたままだった。

 

「まぁ、気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むこともない。新鮮な水は地下水脈から湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

落胆を見せるアンカジの重鎮達にティオは慰めの言葉を送る。

 

「しかし、偶然突然変異を起こして、偶然食量の要所でもあるアンカジのオアシスを根城にし、偶然魚が死なないような毒を出したなんて、考えてないんでしょう?」

 

七海の問いにハジメは黙って頷く。

 

「え、それはどういう………」

 

「魔人族だ。少し前にも似たようなことがあってな」

 

魔人族と聞き、アンカジの重鎮がざわめく。以前ウルで愛子を狙った時や光輝達を襲った時と同じく、戦争でより優位な動きができるように、魔物を作る神代魔法で攻勢を仕掛けている。つまりそれは、本格的に戦争へと動き出してきているという事だ。

 

「戦火が広がり、その被害はなんの関係のない人にも振りかかる。わかっていますが、不快ですね」

 

七海は割り切ることはできるが、何も思わないわけではない。そして、自分が不快に思う事を邪魔された相手、即ち魔人族がどう動くかもある程度想像できる。まぁ、その狙われるであろう人物は…

 

「まぁ、俺の知ったことじゃない。……やるべき事をやっただけだ」

 

肩をすくめて、『来るなら来い、殺してやる』と言わんばかりの目をしていた。




ちなみに
烽火連天: 戦火がいたるところに広がっていくこと。
今回の話にピッタリすぎて即これをタイトルにしようと思いました!

ちなみに2
実はハジメの呪具の製作にはまだある欠点があります。今回のグリューエン大火山攻略編でたぶん出ると思う

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