調子がいいとやっぱり気持ちいい
オアシスの問題を解決させたハジメ達は、医療院へ足を伸ばした。とはいえ、彼らの治療ができるのは香織しかいないので、他の者は抱えたり、魔法で浮かせたりして応急処置をした患者を交代させていく。………細身なのに馬車ごと運ぶほどめちゃくちゃ怪力のシアと、とんでもない人数を複数の魔法で、しかも1小節あるいは無詠唱で行使する香織に別の意味で卒倒していたが。
ある程度の治療が終わるのを確認し、ハジメはこのままグリューエン大火山の大迷宮へ向かう事を香織に告げた。当然彼女もついて行きたいだろうが、香織はここに残り、治療を続けるそうだ。香織もこの世界の狂った神の事も、旅の目的も、ハジメの行動優先順位についてもわかっているが、自分にできることがあって、何も知らないフリをして見捨てるという事は、できることならしたくはなかった。もちろん、それでもハジメが拒否したら、諦めるくらいはできていただろうが。
「白崎さん、自分のわがままに南雲君を巻き込んでいると思うなら、それは間違いです」
「え?」
そんな香織の心情を理解した七海はアドバイスを送る。
「どれだけ懇願しても、結局決断するのは自分です。誰かに言われた、誰かが言うからで南雲君は決断を鈍らせるような人ではない」
「ふん。まぁ、そうだけどよ」
ぶっきらぼうにハジメは目を逸らす。七海からの信頼と、香織の愛情を受けてどう向き合うか、計りかねているのだろう。
「ところで、残るのはいいですが、おそらくほぼ寝ずの治療になります。しかも静因石が無いならある程度したら再発する。魔力と患者と君自身の体力を合わせて、リミットはどのくらいでしょうか?」
七海の考えを聞いた香織は冷静に考え、「2日〜3日です」と言う。今彼女がどれだけ効率よく魔力を使っても、これが限度だと言う。しかも3日保つかどうかは正直微妙であるとのことだ。
「でも、最低でも2日は、誰も死なせない、死なせません!」
「わかった。それまでには戻る」
「……オルクス大迷宮でも攻略に時間がかかりました。前半だけで、です。厳しい事を言うようですが、あまり期待させるような言葉は言わない方がいいかと」
「それは天之河達の場合だろ?それに、以前攻略したライセン大迷宮は、時間はかかったがあそこほどの深さはなかった。それが、他も同じとは限らないけど、そこ自体が問題じゃねぇ。やるって決めたのにできないって言いたくないんだよ」
「……甘い、ですね」
「先生ほどじゃねぇと思うけどな」
軽口をたたきながら話す2人にミュウが反応する。
「パパ、ナナミン!ケンカはメッ!」
「いえ、ケンカではないんですがね」
「子供から見たら、ケンカと同じなんだろ?ミュウ、これは先生なりの優しさだ。気にすんな」
最悪を想定して、忠告する。呪術師としての経験故に告げ、ハジメの考えとぶつかる事もあるが、そこに七海の思いがある事はわかる。ハジメにとっては逆にありがたい。光輝のように考えなしで言うのではなく、幾つもの事を想定したが故の発言なのだから。
「……パパ、ミュウいい子に留守番するの。だから、早く帰ってきてほしいの」
「ああ。できるだけ早く帰る。その間、香織のことを手伝っててくれ」
ハジメの服をぎゅっと握りしめて、涙を堪えているミュウに、ハジメはそっとその頭を撫でて言う。
「ナナミン、パパを守ってね」
「………わかりました」
七海は正直に言えば、自分の実力でハジメを守れるかは微妙と考えているが、否定することなく承諾すると、ようやく安心したのかミュウは香織の元に向かい、それを見てハジメも出発の号令を出す。のだが――
「ねぇ、ハジメ君」
「ん?なんだ、香織?」
香織がもじもじとして恥ずかしそうに頬を赤らめて言う。
「キス、ダメかな?いってらっしゃいのキスみたいな…」
数人に雷が落ちた気がした。
「…いや、ダメに決まってるだろう」
「…ほっぺでもいいよ?」
ハジメに告白して以来、以前以上に香織は積極的な行動をとることが多くなった。ユエへの対抗心によるものだろう。
「な、七海先生!」
「お邪魔になりそうなので、私は先に外へ行きますので」
「おい教師!不純異性交友はダメなんじゃなかったかぁ⁉︎」
「それに関して基本は何も言わずという事になったのでは?」
ハジメは、厄介な事態になる前に逃げる七海をどうにかして味方につけようとしていると、援護射撃のごとく、ハジメにとっては奇襲に近い言葉がミュウから発せられる。
「ミュウも!ミュウもパパとチュウする!」
それに反応してシアとティオも『じゃあ私も』と言わんばかりに手を挙げる。ハジメはそれらを無視して、断るために言う。
「あー、いいかミュウ、そういうのは好きな人とするんだ」
「え⁉︎」
ショックを受けたミュウは涙を流しだす。
「じゃあパパは、ミュウのこときらいなの?」
究極の一撃だった。涙目でそんな事を言われてはもうどうしようもない。結局、ミュウ→香織→シアの順でほっぺチュウを受けるハジメだった。ちなみにティオもするはずだったが、ハァハァと鼻息を荒くして近付いてきたので思わずビンタをしてしまった。まぁ、それに喜んでいるのだから、結果オーライ?なのかもしれないが。
「子煩悩ですね」
冷静に言う七海の一言に、否定できないことで若干イラっとしていたことも付け加えておく。
*
グリューエン大火山:大迷宮の1つとして数えられ、その内部の危険度もさることながら火山全体を常に巨大砂嵐が覆っており、また周囲にはサンドワームの脅威も常にあり、大抵の者は火山そのものに近付くことすらできない。
「つくづく、徒歩でなくてよかったですぅ」
「まったくですね。視界の悪い中でサンドワームに遭遇していたらと思うと、ゾッとしますよ」
しかしハジメのブリーゼは嵐を突っ切り内部を進んでいく。途中サンドワームに襲われるも、砂嵐の強風を利用したユエとティオの風魔法で難なく突破して、爆走していたのもあって、砂嵐を僅か5分足らずで突破した。
「制限時間はたったの2日。悠長にしてるヒマはない」
「ですね。表層部にはさほど無いらしいですし、内部に入って静因石を入手するならさっさとしましょう」
「………ところでよ、なんでティオと七海先生はこの暑さに平気なんだ?」
グリューエン大火山内部への入口は頂上にあるらしく、ブリーゼで行けるところまで行った後に停めてそこから先は徒歩なのだが、外に出た途端、高温の熱波が襲う。が、ティオと七海は割と平然としていた。
「私は平気じゃありませんよ。上着を脱いでるでしょ」
「ほらっ」、とスーツを脱いで丸く畳んで抱えているそれを見せる。腰につけている剣が無いとただの夏場のサラリーマンだ。
「リーマン時代の耐性か、そりゃ?」
「それもありますが」
「(あるんかい)」
「声に出てますよ」
ハジメは声にださずツッコミをするはずだったのだが、つい言ってしまった。暑さで既に思考が少し奪われていると感じ、気を引き締める。
「要は気の持ちようです。こんな熱、焼かれるよりマシだと思えば」
「んだそりゃ?焼かれたことあんの?」
「………前の世界で死ぬ前に、特級の呪霊にね」
「それが死因?」
「いえ。まぁその原因の1つとでも言っておきましょう。ただそれでも暑いですよ……むしろなんでティオさんはそんなに涼しい顔をしてるのか」
「む?妾は、むしろ適温なのじゃが……」
流石は竜人族と言ったところか。この程度の熱は苦にもならない。ただ――
「この暑さに身悶えることができんとは……もったいないのじゃ」
「聞いた私がバカでした」
「あとでマグマの中にでも放り込んでやるよ」
冷静な表情を崩さない七海も、変態の言葉を聞いてうんざりした顔になる。内部に入ってない状態でこれなら、火山内部はどうなっているかなど考えるのも憂鬱だ。だが今回のアンカジのことがなくともいずれ行かなくてはいけないのだからと我慢する。暑さに耐えつつ、ようやく入り口に着く。
「これで3つ目の迷宮だな。やるぞ!」
「ん!」
「はいです!」
「うむっ!」
「……」
「ってそこは先生もノってくれよ!」
少しズレたサングラスをカチャリと直しただけの七海に不満を言う。
「別にやる気がないわけではないですよ。気を入れてもいます。何せ、ある意味今回が初の大迷宮みたいなものですからね」
オルクスの大迷宮はさほど苦ではなかったのは、本当の大迷宮ではなかったから。故に、ティオもそうだが、七海にとってもこれが大迷宮の初挑戦。特級レベルのハジメとユエがこれまで苦戦したのなら、ここもそうだろう。
「私がどれだけ役に立つかはわかりませんが、ベストは尽くします」
((((堅い))))
ハジメ達はそう思うが、実は七海の方は深刻に悩んでいた。ここに来るまで、サンドワームはユエとティオに任せっきり。シアは未来視で襲いかかるサンドワームの動きを見て、その抜け穴を見つけた。だが、七海は何もできていない。
(最悪、ここで死ぬかもしれないですね)
死ぬ気はないが、実力差をこれほど見せられたあとでは、少しくらいは気落ちもする。当然、それで大きなミスなどもしないだろうが、せめて足手纏いにはならないようにしようと心掛けていた。
*
グリューエン大火山の内部を表すなら、不自然と自然の融合。
「マグマが、宙を流れている」
ハジメが呟くように、比喩でなく本当にマグマが宙に浮いて、そのまま大河のごとく流れを作っている。自然が作り出した高熱のエネルギーが、自然でない形で流れ行く。赤熱化したマグマは当然のように上から降り注ぎ、通路や広間のいたるところにもマグマが流れており、地面からも唐突にマグマが飛び出す。頭上と地上の両方だけでなく、壁側…即ち左右も注意する必要がある。
ハジメが技能〝熱源感知〟を持っていたおかげでどうにか進めているが、事前の兆候がない分、相当な神経を入れざるを得ない。
「360°全てが天然…と言っていいのか、空中のマグマを見たあとではわかりませんが、罠だらけということですか」
「それ以上に厄介なのはこの暑さ…いや、熱さか?思考が鈍りそうだぜ」
七海の言葉に同意しつつ、静因石を回収する。
ハジメの技能〝鉱物系探査〟で静因石を発見しては回収しているが、量は少ない。とてもではないがアンカジの者達を救える量はない。おまけに、8階層を降りてからが大変であった。
「ふぅぅ、ハジメさん、コレは凄い威力ですよ」
身体全体を炎で覆われていた雄牛型の魔物をハンマーで粉砕したシアが言う。この階層に降りた瞬間に火炎放射器何台か分の炎を放出してきたその魔物を、ユエが重量魔法で弾き返し、その後シアがしとめたのだが、その魔物は肉片はおろか、受けた衝撃でハンマーを振った正面も抉れていた。
「〝衝撃変換〟…付与してみたが、想像以上だな」
「こんな物、以前はなかった…どうやって?」
「オルクス大迷宮で魔人族が連れてた魔物の死骸、いくつか食ってみたんだが、その中で1つだけ固有魔法を得られた。あの眼玉野郎もステータスは僅かに上がったんだが、固有魔法は得られなかった」
「というか、いつの間に食べたんですか?」
七海は大きな声は出さないが、「無茶をしないで下さい」とは告げる。
「もう今の俺なら、神水がなくても平気さ。とはいえ、これから先はあんまりステータス上昇は期待してないし、そもそも死ぬほど不味いから、口にしたくはないな」
「まったく。ま、戦力が上がったのは良しとしましょう」
こうして8階層から先へ進むが、先程の魔物のように全身が炎で覆われた個体、マグマの中を泳いで攻撃してくる個体が次々と現れた。特にマグマの中を泳ぐ個体は宙に浮いたマグマの河からも地上を流れるマグマからも攻撃し、天然のマグマも噴き出す中ではまさに全方位に注意が必要で、おまけに熱さはどんどんひどくなってくる。炎にある程度の耐性がないとすぐに詰むレベルだ。
「あっつい。クソっ」
だが深刻なのは七海の方だ。攻撃は常に接近戦。炎を纏った魔物の相手で熱にやられ、呪力で身体をカバーしても、限界がくる。
「先生、下がってろって!」
「…すみません。ここでは私が役立たずですね」
つまりは、七海はまったく活躍できてない。
「…随分と、弱気な発言だな」
「気を落としているわけではないんですがね」
ハジメ的に見ると、自分達に着いて来れている事も、ここまで来て魔物からの攻撃自体は受けてない事も相当すごいと言える。
「それより、ある意味私よりもユエさんの方がまずいかもしれないですよ」
言われてハジメは、ユエの方チラリと見る。
「暑いと思うから暑い。見て、流れているのはただの水、冷たい水、ほーら涼しい…ふふ、ふふ」
「いかん、ユエが壊れかけておる」
ティオのように高い耐性がない者達は既にダウン寸前。特にユエは幻覚を見るほどである。
「確かに、このままだとその内致命的なミスをしかねない。一旦休憩しよう」
ハジメはマグマから離れた場所で錬成で横穴を作り、全員がそこに退避し、ハジメに頼まれたユエは目が虚状態でもどうにか魔法で巨大な氷塊を出現させた。ついでにティオが氷塊を中心に風を吹かせた事で、内部が一気に冷えだす。
「助かりました。ユエさん、ティオさん」
「ふみゅ〜」
七海の感謝を聞いてるんだか、聞いてないんだかわからない受け答えをするユエ。その隣にもふにゃんとしたシアがいる。本当に限界ギリギリだったようだ。
「だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておけよ。冷えすぎると動きが鈍るからな」
ハジメは〝宝物庫〟からタオルを出して全員に配る。
「ほら、七海先生も」
「助かります。…私にも〝宝物庫〟があれば、楽なんですがね……っと、すいません。聞かなかったことにしてください」
「別にいいって」
言わなくてもいいことを口に出してしまうほど、七海も暑さで疲労が溜まっていることを認識しながら。ハジメはタオルを渡し、自身の能力がまだまだ半ばであると改めて思う。
(〝呪具錬成〟って俺は呼んでるけど、こいつは正直言ってまだまだだな)
ハジメは確かに、術式ありの呪具を短期間で作り出すことができる。だが、それは彼からしてみれば、未熟そのもの。まず、一定の大きさの物しか作れない。雫に渡した呪具が刀のような長剣でなく、小太刀だったのは、刀とのセットという意味合いもあるが、そもそもシュラークのような銃以上に大きい物は、未だに呪具化出来ず壊れてしまう為だ。更にもう1つ、〝宝物庫〟や神代魔法を付与した物も作れない。
「〝宝物庫〟のような空間系の魔法も、神代魔法も、私の個人的な考えですが、特級レベルの能力の物。それらを呪具化するのは単純ではないというところでしょう」
五条悟が扱う無下限呪術も、扱いきるには六眼による緻密な呪力操作が必須になるように、「その術自体にある情報量を完全に読み取り、魔法から呪術へ変貌させるのは難しいのでしょう」と七海は言う。
「気にする必要はないです。…なんて言っても、するんでしょうね」
「当たり前だ」
ハジメにも錬成師としてのプライドがある。「いずれものにしてやる」、と気を入れていると、何か気になっていたのか、ティオが質問をする。
「そもそも、神代魔法とはなんなんじゃ?」
「俺も詳しい事はよくわかってない。全部で7つ、俺とユエは今2つ、シアは1つ手に入れている」
「どのような迷宮だったのじゃ?」
更に質問をすると、ハジメは『何が気になるのか』と思いつつも答える。オルクスはひたすら魔物が出てきて、ライセンは魔法が殆ど使えない場所+イライラする仕掛けが多かったそうだ。と、七海も気になったのか、質問する。
「………南雲君、この大迷宮の暑さ、君は余裕がありますか?」
「?いや、正直言って魔物よりも厄介かもしれないが、どうした、七海先生まで」
「ふむ、七海も気付いたか」
七海の考えがわかったのか、ティオは続けて言う。
「おそらく、大迷宮にはそれぞれコンセプトがあるようじゃ。大迷宮が試練だとすれば、なんらかの考えがあって作られていると思うのじゃ」
そこから導き出されるものとして、オルクス大迷宮は魔物との戦闘経験を積む事、ライセン大迷宮は魔法を使わずあらゆる状況への対応力を磨く事。
「となると、ここはこの暑さによる集中力阻害の中で、どれだけ判断力を養えるかと言ったところでしょうね。………解放者とやらは、いい性格をしてる人が多そうですね」
タオルを目にかけて、皮肉を込めて言う七海にハジメは同意した。特にライセン大迷宮で会ったミレディは良い例だろう。
(にしても、七海先生はともかく、このドMの駄龍は、普段からこうしていればな)
と、ティオのグラマラスな肉体に流れる汗を見て、思わず顔を逸らすと、今度は汗で服が透けて、身体の濡れた素肌が見え隠れするユエとシアが目に入り、特にユエに視線が吸い寄せられる。すぐさまそこからも顔を逸らそうと思うもできず、ふと顔を上げたユエと目が合う。ハジメの視線から感じた物に、ユエは妖艶な笑みを見せ、四つん這いでハジメに近づき、甘えた声で言う。
「……ハジメが綺麗にして?」
そう言ってタオルを渡してくる。ハジメはそのタオルを無意識に受け取る。視線はまるで石化したようにユエの瞳に向いたまま。
(やっちまった。この状態のユエには勝てる気がしない)
そう思いつつ、そっと、ユエの首筋に手を這わせようとして――
「お・ふ・た・り・と・も!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ!もうっ!ほんとにもうっ!」
シアの抗議でそれを止めた。
「いや、まぁ、何だ。しょうがないだろ?ユエがエロかったんだ。無視できるはずがない」
「……ジッと見てくるハジメが可愛くて」
「反省って言葉知ってます?というか、七海さんも意見は言えるんですから!ちゃんとしてくだ……あれ?」
「どうやら、寝ておるようじゃな」
タオルで目を覆った事と、ここの安全が確保された事と、冷気で身体の疲れが一気に押し寄せた事で、七海は眠りについていた。
「どうりで。こういう事してると、真っ先に注意してきそうな人が、何も言わないんだもんな」
「というより、だから私もこうしてるんだけど」
ユエは七海を仲間として認めているが、だからと言ってハジメ以外の男に肌を見せたいとは思わない。
「まぁ、七海の場合、最近はいつも気を張ってることが多かったからの」
「ですねぇ。七海さん的に言うなら、大人だからってところでしょうか?」
心労もこの世界に来て多くあったこともあるだろうとハジメは考える。絶対口には出さないが、七海は死んでもどうでも良いとは思えない存在になっている。
「まだ大迷宮の攻略はある。今くらいは休ませてやろう」
「ん。というわけでハジメ、身体を拭いて」
「よし」
「よし。じゃないですぅ‼︎七海さんが寝てるんですから尚更TPOを弁えて下さい!というか、すぐ隣で私もきわどい格好していたのに、なんでハジメさんは私を見ないんですか‼︎ちょっと自信無くしますよぉ〜!」
スタイルに自信がある故に、まったく眼中なしな事に涙目でシアは訴える。
「まぁ、二人は相思相愛じゃからのぉ。仕方ないのではないか?妾も、場所など気にせず罵って欲しいのじゃが…」
ティオはニンマリとして言う。
「今回はご主人様は、妾の胸に少し反応しておったしのぉ~。それで満足しておくのじゃ。くふふ」
先程の視線に気付いていた事にハジメはビクっとなる。そこから先程TPOを弁えるように言ったシアさえ脱ぎだして、てんやわんやとなっていった。
*
そんなカオスな状況下にも関わらず、眠りにつく七海は、夢を見る。
(なんだ?私は……ここは)
真っ暗な世界。目が閉じているのかと思うがそうでもないらしい。むしろ瞼を動かす事もできない。と、暗闇の中で、どれほどの距離かはわからないが、光が見える。光は常に一定の形を保っていないところを見ると、それは炎なのだろうか、と思う。だが、違うような気がする。むしろ――
(なんだ、あの光は…なんというか、気持ち、悪い?)
明るくなったと思えば、弱まったり、光がキラキラと拡散してるかと思えば、今度は一点に伸びたり。その動きが、明るいのに、気色悪い気分になる。
(なんだ、あれは?)
近付き、その正体を確かめようとすると――
(誰だ)
今度はその前に立ち塞がるように、人影が現れた。まるで『行かせない』とでも言わんばかりだ。
(そこを、退いていただけ…)
その人影は手を前に出し、通さないという意思を見せる。その顔に、見覚えがあった。
(灰、原?)
その瞬間、これは夢だと七海は理解した。その結果――
*
「お、起きたな。ちょうど起こそうと思ってたんだが」
七海の眼前、ハジメ達がいた。立ち上がり、進む準備万端というところだろう。
「申し訳ない。寝ていました」
こんな場所で寝るなど、気を抜きすぎだと、七海は自分を戒める。
「気にすんなって。むしろ、この先に行くなら、休める時に休むのが正解だろ?」
「それでもですよ。ここは大迷宮なんですから」
七海はそう言い立ち上がって進もうとしたが、気になることがあった。
「ところで、シアさんとティオさんの額が随分赤いですが、何があったんですか?」
七海は『まさか魔物に襲われたのか』と一瞬思うが、この程度ですんでいるのもおかしいと考え、違うと判断した。それと――
「あと、随分ユエさんが元気そう…というより、何か艶やかのような気がするのですが」
その質問で4人ともビクッとなる。尚、ティオはちょっと違う意味で。
「い、いや別に」
「ん。なんでもない。2人はちょっとはしゃぎすぎただけ」
「……………何をしていたんですか?」
よく見るとシアとティオの服は少しはだけている。事情を大体把握した七海の後ろに、黒いオーラのようなものが見える。
「南雲君、私が縛りで君達の関係について特に言えないとはいえ、注意くらいはできるんですよ?………TPOって言葉を、知ってますか?」
グリューエン大火山に、静かな雷が落ちた。
ちなみに
岩漿:マグマのこと
亀裂:裂け目やひび割れのこと
しばらくこのタイトルが続きますが、重要になるのは『亀裂』のほうになります。そして、グリューエン大火山編でも色々とオリジナル要素&展開ありです。ある程度言うと、ハジメがアレをして、シアがアレを使い、そしてついに七海がアレを見せる!