ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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前日にできてましたがあえて今日にしました。詳しくは後書きで


岩漿亀裂②

「ここは、さすがに…」

 

「ですねぇ」

 

マグマの河に阻まれ先にある通路へ進めない。が、ハジメは持ち前の技能の1つ、〝空力〟を使い、ユエは魔法〝来翔〟で悠々と向こう岸へ到達したが、それらを使えない七海とシアは少々困っていた。

 

「この距離は、さすがに自信ないですね……って、七海さん?」

 

七海はバックして距離をとっている。シアはその程度で跳べるのかと思い、質問しようとするが――

 

「シアさん、ハンマーを出して下さい」

 

「え、あ、はい」

 

つい言われて〝宝物庫〟から出してしまう。

 

「あの、一体何を…まさか⁉︎」

 

「タイミングを合わせて振るって下さい」

 

シアが意図に気付くと同時に七海が加速して来る。ドリュッケンの攻撃範囲前に軽く跳び、七海がガッっと平の部分に乗ったとほぼ同時にシアは「フン‼︎」とフルスイングをした。

 

「ッグ!」

 

〝衝撃変換〟が完全発動する寸前の瞬間に再び跳躍し、その瞬間に七海の背に風圧とは言えぬ凄まじい圧がかかり、空中を跳ぶ。

 

「ぬ、お」

 

前方からもきた圧に顔を少し歪めつつ、着地地点を確認してドンっと凹みをつけて着地した。

 

「呪力で身体強化して、ダメージを抑えてるにしても、無茶すんなぁ、あんた」

 

「このくらい無茶でもなんでもないですよ。正直ダメージは、あって無いような物ですし。それより、シアさんの心配をして下さい」

 

七海ですらここまでしないと渡れなかった。全員シアの身体強化の才能を舐めてはいないが、それでも向こうからここまでの距離を渡るのは難しい。

 

「まぁ、大丈夫だろティオもついてるし。つか、先生もティオに手伝ってもらってらよかったんじゃね?」

 

「一応、無理を言って同行している身ですから、あまり足手纏いにはなりたく無いんですよ」

 

「なんていうか、超今更だが真面目だよな、七海先生って」

 

「教師が不真面目だったらいけないで…………」

 

と、言ってる最中、約1名の不真面目な教師を思い出した。頭の中で「あはは、あはは、あはは」と尊敬できない先輩が笑いながらスキップしていた。

 

「どうした?」

 

「いえ、別に。それよりシアさんがきそうですよ」

 

七海は全力で件の人物を脳内から排除しつつ、シアに意識を向けた。

 

一方シアの方はというと、「ムゥ」と頭を悩ませる。自分の力でここを跳べるのかと。

 

「シア、心配はいらぬ。妾がちゃんと見ておるから、思い切り跳ぶがよい」

 

「…………」

 

「なんじゃ、その不安そうな顔は」

 

ティオがいるとはいえ、不安は不安だが、仕方ないとシアは集中する。

 

「呪力及び魔力の身体強化を足に集中して………っ!」

 

この状態は〝限界突破〟状態とあまり変わらない。疲労感が半端ないが、七海の訓練で双方を使った際の消費を抑えることはでき、そのおかげで疲労も、ある程度克服した。今のシアなら、この状態で10分以上は全力で戦える。

 

(2重強化で力を上げて、跳ぶ瞬間に、重力魔法で体重を軽くする!)

 

勢いと重力魔法で軽くなった影響で、確かに跳躍はいつも以上にできた。だが、

 

(や、やばいです!ギリ届かない⁉︎)

 

跳んですぐに気付く。焦りがシアの中で生まれる。

 

(いや、行ける。行けます!)

 

シアの中で、昂る想いが功を奏する。

 

「てっ、りゃああああああ!」

 

思い切り叫んだと同時に、目標地点からズレて(・・・・・・・・・)着地した。

 

「ととぉ、ちょっと着地失敗です。……って、皆さんどうしたんですか?」

 

その場にいた3人が目を見開いていた。不可思議なものを見た事に対する疑問と、シアに対する心配によるものだ。

 

「シア、お前今何した?」

 

「ほえ?なにと言われても、跳んだとしか」

 

「ご主人様、今のは神代魔法のものかの?」

 

「今持ってる神代魔法にあんな能力はない。当然、アーティファクトにできる俺の技能の中にもな」

 

「って、ティオさん、その翼」

 

シアが見た場所には、竜状態に見せた時より遥かに小さいが、同じような翼を生やしたティオが文字通り飛んでいた。

 

「〝部分竜化〟。竜人族の中でも限られた者しか使えぬ能力じゃ。しかし、今はシア、お主じゃ」

 

いつもは変態な言動が目立つティオが、本気でシアを心配して見ていた。不安と疑問、若干の恐れ。

 

「あの、私が、何か?」

 

「シアさん、落ち着いて聞いて下さい。先程、君が跳んだ時、どうもこちらに届きそうになかったので、ティオさんが空中であなたを掴もうとしたんですが…」

 

「ティオの身体を、すり抜けてた」

 

「え?」

 

七海の言葉に合わせるようにユエが事実を告げる。ティオはあの時既に飛翔し、シアを掴むつもりだったのに、そのシアの身体をティオの手がすり抜けた。まるで霊体のように。そのままシアはほんの一瞬消えた。と思ったらすぐに出現したが、消えた場所から少しズレて、そのまま着地したのだ。その事を七海が説明した後、ユエがペタペタとシア身体を、次にモミモミと豊満な胸を触る。

 

「うひゃぁ!ゆ、ユエさん⁉︎」

 

「ん、大丈夫。触れる」

 

そこでようやくユエは安堵した顔になる。

 

「ううぅ、ハジメさんにもまだ触ってもらってないのにぃ」

 

「ゆ、ユエ、妾も、妾も…あべし!」

 

「話がややこしくなるからやめろ!」

 

ハジメに引っ叩かれて、これはこれで嬉しそうにティオは身体を震わせていた。

 

「それより、シア。本当に大丈夫なんだよな?」

 

「ですから、大丈夫かと言われても……はっ!なら、ハジメさんも触ってみますか?」

 

「よし、大丈夫だな」

 

体調面も発言から問題なしと判断したが、シアは不満そうに顔を膨らませていた。

 

「というか、私がいる手前でそういう発言はやめて下さい。それより………これは憶測…というよりほぼ間違いないと思うのですが、今のはシアさんの術式だと思います」

 

「まぁ、多分そうだろうな」

 

七海とハジメが、シアがティオの手をすり抜け、一瞬消えた場所を見つつ言う。空中の為、既に流れているが、確かにそこに残穢がある…魔力でなく、呪力の。

 

「でも、あの時は無我夢中でした。どうやって発動したかは……」

 

シアでもわからない。しかし、

 

「でも、なんとなくなんですけど、何か行けるって思って。言われて考えたら、なんか、あの時、こう…掴めそうな気がする。そんなふうに感じたんです」

 

(今まで持っていたが、使い方がわからない物を偶然使い、感覚を掴もうとしている段階でしょうか?)

 

本来なら、術式の有無は成長段階、それも幼少期の段階でわかるし、その用途も魂に刻まれているのでわかる。だが、シアの場合は今まで呪力に触れて来なかったぶん、そのラグがあるのだろうと七海は考えた。

 

(しかし、だとすると…なぜ今まで彼女は呪力を使えなかった?南雲君のように、後天的に呪力を得たのでないなら、どうやって)

 

1つ、可能があるとすれば――

 

(私の呪力が、影響を及ぼした?だが、私程度の呪力で……いや、今の私は)

 

今の七海の呪力量と出力だけでいうなら、乙骨や五条程でないにせよ、特級レベルはある。

 

(そもそも、清水君の件もそうだ。彼が呪力の使えない人、もしくは脳が私の世界の一般人に近い人なのだとして、そんな人が急に見えるものか?)

 

日常の中で抑えていても、呪力は七海の身体にある。少しずつ、その影響を受けて、トドメに今の特級レベルの呪力という刺激。それが最後のスイッチなのかと七海が考えていると

 

「おい、おい七海先生!」

 

ハジメは先程から七海を読んでいたが反応しない

 

「!すいません。考え込んでました。それで、どうしたんですか?」

 

「いや、呪術師経験の長いあんたなら、今のシアの状態がわかるんじゃねーかって」

 

「………正直言って判断つきませんね。ただ、術式なのはほぼ間違いない。いずれ、ちゃんと使えると思います。ただ、この大迷宮内で使うのはよしましょう。使い勝手のわからないものを、危険の伴う場所で使用するのは避けるべきです」

 

「わかりました!」

 

そう決まったので先を急ごうとするが、

 

「シアさん、南雲君」

 

2人を呼び止め、七海は先ほどの自分の考えを伝えた。

 

「「ふーん」」

 

「…それだけですか?」

 

「それだけも何も、別に困った事にはなってないし」

 

それに肯定するように他の者達も頷く。

 

「呪力は、負の感情より生まれる、はっきり言って危険な力です。使える身体になったが、使える身体だが、スイッチの押し方がわからない。そんな君達に、意図して無くともスイッチを勝手に押したんですよ?」

 

「呪術師としても、大人としても、心配してんのはわかるけど、考え過ぎだぜ。仮に、先生が影響してんにしても、シアがもともとあってスイッチがわからない状態なら、なんらかの別の方法で押す事もできた可能性もあるだろ?これから先に、そういう奴らが現れるにしても、それは先生とは関係ない」

 

「…………いけませんね。教師の私がこれでは」

 

「七海はもうちょっとおおらかでいい。考えすぎも毒」

 

「ですね。立ち止まらせて申し訳ない。先を、急ぎましょう」

 

何もわからない今、考えることでもないとして、七海は歩を進めた。胸に僅かに痼りを残して。

 

 

 

グリューエン大火山も50層程に到達した。…そう、程。曖昧なのには訳がある。

 

「やっちまった。これは俺のミスだ」

 

「この暑さですからね、まぁ、判断も鈍りますよ。私も注意を怠っていました」

 

階層を降りるたびに流れるマグマに、疑問を感じた。マグマの動きがあまりにも不規則だったからだ。気になってハジメが調べてみたところ、マグマに宿っている魔力を静因石が鎮静することで、流れが阻害され不規則な動きを見せていた事が判明した。なら、その強く阻害された場所には大量の静因石があると推測し、結果、相当な数を手に入れていたのだが、〝鉱物分離〟で回収した際、静因石があった壁の向こうが大量のマグマの流れる場所だった事で、抑えていたマグマが一気に噴き出し、マグマに囲まれた。

 

「錬成、本当に便利ですね」

 

咄嗟にハジメは小舟を作り、それに乗って事なきを得た。マグマの上でも漂えるよう、〝金剛〟の派生、〝付与強化〟も施した。

 

そうしてマグマの流れに乗って、あっちに流され、こっちに流され。おまけにその都度マグマの中と、空中にいる魔物に襲われて、下へ下へと向かっていた。

 

「ま、まぁ、近道かもしれませんし、前向きに考えましょうよ」

 

「だと、いいんですがね。それより、だいぶ進んだなら…」

 

「うむ。標高的には麓辺りじゃ」

 

シアの言う通り、近道してきたとしても、そろそろ何かあってもおかしくない。

 

「!流れが変わった!捕まれ‼︎」

 

マグマの流れが急激に変化する。今までやや下降していたのが急に早くなり、上がっては下がり、上がっては下がり。まるでジェットコースターのようだ。しかも当然のように魔物は襲いかかる。

 

「こんなアトラクションがあった気がするぜ!」

 

舟の制御をシアとティオに任せて、夥しいマグマコウモリの群れを、ユエとハジメが撃墜していく。

 

「…!南雲君、出口です」

 

トンネルが見え、その先も見える。そこに入り一気に進む。

 

「けど、アトラクションならこの先は」

 

ハジメの思った通り、マグマは途切れ、勢いそのまま小舟は外へ放り出され、重量に逆らえず墜落していく。

 

「「〝来翔〟」」

 

ユエとティオが空中で立て直し、落下速度を調整してゆっくりと着地した。

 

「随分と、広い場所ですね」

 

七海が言う通り、直径3キロメートル以上の程のドーム状の場所だった。周囲に足場になりそうな場所がちらほらあるが、ほとんどマグマの河だ。時折火柱が噴き上がる。そして、その中央上の部分をマグマに覆われた島がある。

 

「あれが、解放者の隠れ家?」

 

ユエが視線を向けて言う。ハジメはそれに肯定した。

 

「階層の深さ的にも、そう考えていいだろうな。だが、そうなると…」

 

「最後のガーディアンがいるはず……じゃな。ご主人様よ」

 

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたとかぁ〜」

 

「ないでしょうね。間違いなく………来ます」

 

シアも言ってはみたがあり得ないだろうなと感じていた。事実、マグマに流れる魔力が動き出し、宙に流れるマグマと下にあるマグマからマグマの砲弾とも言える固まりが放出される。ユエが防御しているが、このままここにいてはいい的だ。

 

「全員、岩場に跳び移れ!」

 

「私とシアさんでは…」

 

「自信がないですぅ」

 

と、七海にはブーツを呪具錬成して渡し、シアは今着けているブーツそのものを錬成して、アーティファクトにする。

 

「〝空力〟がこれで使えるはずだ」

 

「わぁ!ありがとうございますぅって、そんなのあるなら最初からくださいよー!」

 

「スマン、マジで忘れてた」

 

「説教もおしゃべりも後でしましょう。第2撃が来ます」

 

宙を流れるマグマから再びマグマ砲が発射された。

 

「散開だ‼︎」

 

小舟を捨て、それぞれ散り散りに別の場所に着地した。が、なおも降り注ぐ。

 

「チッ」

 

とんっと空中に足場があるような感覚を感じつつ、七海は回避する。

 

(ぶっつけで使いましたが、どうにか動ける。感覚を研ぎ澄ませろ……自分のいる場所全てが、蹴る為の壁だ!)

 

シアのように重量を変化させることができない七海は、感覚でどうにか動く。完全に慣れてはいないが、どうにかなる。だが、

 

(おかしい。これは、本当に南雲君の言う最後の試練なのか?)

 

ギリギリとはいえ、耐えきれているという状況が、疑問に感じた。

 

「南雲君!」

 

「わかってる。こんなもんが最後の試練とは思えない。何より、敵の姿がない」

 

クリア条件も分からず、ハジメも困惑していた。

 

「多少危険だが、あの中央の島を調べて見…っ!」

 

突然、ハジメがいた場所の下のマグマの動きと形が変化したと思ったら、その姿が巨大なマグマの大蛇になる。大きさは大型の魔物でも飲み込めそうな大口を持っている時点で相当。そんな大口に、ハジメが吸い込ま…

 

「れるかよ!」

 

緊急回避して、避ける。それでもなおも迫る大蛇に、ハジメはドンナーを向けて放ち、頭部を吹き飛ばし、さらにシュラークの呪力弾が魔石を狙い撃った。

 

「魔力の動きを見る訓練、役に立ってるな……ん?」

 

その訓練をしたからこそ、わかる。マグマに覆われた魔力。その淵にある魔石にも。だというのに――

 

「再生した、だと?」

 

それだけではない。同じマグマ大蛇が19体現れた。

 

「チッ、なんて数だ」

 

4体ほどハジメが倒すが尚も襲いかかる。

 

「南雲君、ユエさん、ティオさん、シアさん、集まって下さい。そのあと、ティオさんとユエさんで防御を」

 

「お、おい先生!」

 

タンっ、タンっ、空中を飛び、マグマの流れていない岩壁に着く。ここのマグマにはある程度の魔力が含まれている。それを利用し、〔+視認(極)〕によってその先にマグマの流れがないことも確認済みだ。七海はデコボコの壁の突起した部分をそれぞれ点とし、線を作る。そして空中を思い切り蹴って加速していく。

 

(十劃呪法…瓦落瓦落‼︎)

 

クリティカルヒットした壁に、呪力が走る。瞬間、爆発のように弾け、瓦礫となって降り注ぐ。

 

「ただの瓦礫じゃ…」

 

「いや、違う」

 

ユエとティオには見えないが、ハジメとシアはわかる。

 

「破壊した対象に、呪力が込められてます!」

 

つまり、降り注ぐ瓦礫はただの瓦礫ではない。呪力がこもった、隕石群に等しい。瓦礫は敵味方関係なく、落ちる広範囲を破壊していく。

 

「全滅できたようですね」

 

降下してハジメの近くに来て言う。

 

「あぁ、そうだな…けどよ、俺らも巻き添えかよ!」

 

「ちゃんと言ったでしょう、防御して下さいって」

 

「そうだけど!まぁ、ユエとティオがいるんだし、当然無傷だけど!」

 

「やるなら一撃殲滅に限る。あのような相手なら特に。その為に、君達に密集していただいて、敵を引き付けてもらったんです。おかげで、全滅できた」

 

そう言われて先程マグマ大蛇のいたほうを見る。しかし――

 

「バカな」

 

そう言いたくなる光景があった。間違いなく殲滅した筈だ。ハジメも魔石が破壊される瞬間を確認した。だというのに――

 

「また、復活してやがる」

 

20体のマグマ大蛇が牙を剥き、こちらを睨み、そのまま襲いかかる。

 

「どうなってやがる?倒すことがクリア条件じゃないのか?」

 

「何か別の方法があるのか、それとも逃げ続ける必要があるのか」

 

「ハジメさん!見て下さい!あの島の岩壁が光ってますぅ!」

 

回避しながら考えていると、シアが指をさす中央の島に、拳程のオレンジに輝く鉱石があった。ハジメは〝遠見〟を使い確認すると、かなりの数があった。規則正しく岩壁に鉱石が埋め込まれているが、光を放つ物と、そうでない物とで分かれている。中央の島の岩壁をグルリと1周分あるとすれば、おおよそ100個は鉱石が埋め込まれていると考えていい。

 

「もしかしてだが」

 

ハジメ攻撃を回避しつつ、もう一度その島を確認する為近付く。

 

「光を放つのは20個……やっぱりか。わかったぜ、攻略方法。このマグマ蛇を、100体倒すのがクリア条件だ」

 

地獄のような暑さに耐えつつ、その暑さによって思考を鈍らせ、最初の奇襲で疲労している挑戦者を、長く深く集中しなければいけない状況下に追い込む。最後の試練に相応しいだろう。

 

「大迷宮に合った嫌らしさだな」

 

「本当に。解放者とやらの性格はどんなものなのか」

 

「考えるだけ無駄だろ。いくぞ!」

 

精神的、肉体的にも共に疲弊はしているが、攻略方法が見つかればどうとでもなると不敵な笑みを浮かべつつ、行動を開始する。

 

「久しぶりの一撃じゃ!存分に味わうが良い!」

 

ティオは両手を前に突き出した。その手の先に、膨大な魔力が集束し、圧縮されていく。チャージできた瞬間、それが一気に解放された。放たれた黒い光の魔力の塊、竜人族の誇るブレスは、正面にいたマグマ大蛇を消滅させる。

 

「うむ、8体というところかの」

 

「こっちも行きますよーせりゃぁぁ!」

 

ドリュッケンを振り下ろし、マグマ大蛇の頭部に当てた。瞬間、魔力の波紋が広がり、衝撃が発生した。衝撃波によって内部の魔石も砕け、弾け飛ぶ。その瞬間に周囲にいたマグマ大蛇は囲い込むようにシアを襲うが、シアはハジメの渡したアーティファクトの力を遺憾なく使う。体重操作で軽くなっている分、動きはもしかしなくとも、地上戦よりも速く、美しく舞う。

 

「ご主人様!このまま妾が1番多く倒したら、ご褒美(お仕置き)を所望するぞ!もちろん、2人っきりで一晩じゃ!」

 

「あっ、ずるいですティオさんだけ!私も参加しますよ!ハジメさん、私も勝ったら一晩ですぅ!」

 

「おい、コラ!お前等、なに勝手なことを…」

 

「なら、私も2人っきりでデート」

 

ティオとシアの勝手に始まった競争にツッコミをいれる前に、ユエも参加してきた。楽しみと顔にでている、つまりは勝つ気満々ということだ。そんな表情から出る魔法は凶悪そのもの。最近の彼女の十八番たる〝雷竜〟は、最初に使った時より更に熟練度を上げて、数は7体出せる。それらが同時に標的へと向かう。1体倒して終わるのではなく、倒しては現れるマグマ大蛇を次々と顎で喰らいつく。

 

「やっぱりユエさんが1番の強敵ですぅ!」

 

「バグっとる!絶対、おかしいのじゃ!」

 

2人はそれぞれ焦りの表情を浮かべつつ、現れる相手を討伐していく。

 

「別にいいけどな、楽しそうだし」

 

「このまま彼女達に頑張ってもらいましょうかね?」

 

「あんたはどうなんだ?さすがにデートじゃなくとも、景品として俺から何か作ってもいいんだぜ」

 

実は今1番倒している七海にハジメは言う。すると七海は何を思ったのか――

 

「私が15、南雲君で5体倒し、合計20体。私ではもう倒す手段はないですし、後の80体を4人で分けた場合、どうなるんでしょうね」

 

「「「!」」」

 

その瞬間、3人の恋する女性たちの意見が一致した。

 

「一時共闘にしましょう!」

 

「2人っきりがいいと思ったが、これはこれで良いかもしれんの!」

 

「ハジメ、私を1番に愛してね」

 

「おい、教師!」

 

七海は知らんぷりである。

 

「つか、あんたももう少し戦えよ!」

 

「さっきみたいなのがもう一度通用するとは思えないですし、私ではマグマの内部にある魔石には届かない。届いても相応のダメージを受けます。任せるところは任せるのも、大事だと思います」

 

ハジメは「ぬぅ!」と口に出しつつ攻撃してくるマグマ大蛇を粉砕していく。戦闘開始から10分弱、殲滅力の高い攻撃をしていくことで、あっという間に中央の島の鉱石は発光していく。この大迷宮のコンセプトは悪環境での集中力低下状態での長期戦闘なのだとして、創設者もこうも短時間で攻略されるなど考えもしなかっただろう。

 

「最後、ですね」

 

「ったく。まぁ、これで終わりだ!」

 

ハジメは最後の1体に近付き、両手の銃を構えた。最後の1撃を放とうとしたそのほぼ同時、ハジメの頭上で極光が降り注ぐ。膨大な魔力であるのはすぐにわかった。

 

(回避を⁉︎ダメだ、間に合わ)

 

ハジメの視界全てが光に包まれた。攻撃の瞬間と、暑さで思考が鈍っている状況下。無防備そのものの状況に、マグマ大蛇もろともハジメは光に飲み込まれた。

 

「ハ、ハジメぇ‼︎」

 

ユエの絶叫が響く。ハジメを除いたここにいる者達はユエが1度も見せなかった悲壮な表情と、叫びに我を取り戻す。光は暫く穿ち続け、それが収まると、全身がボロボロの状態だが、空中に留まるハジメの姿が見えた。息を荒げて、意識を保っているがそれも限界なのか、ふらりと降下していく。それをすぐさまユエが近付いて飛翔の魔法で持ち上げ、抱きつき、足場へと着地した。

 

(なぜだ⁉︎私も、ユエさんも、南雲君も気付かなかった!魔力を感じたのは、放たれた瞬間だった!)

 

どこから、あれほどの魔力が来たのかわからないまま、七海もそちらへ向かおうとするが、その瞬間、別の魔力を感じた。

 

「馬鹿者!上じゃ‼︎」

 

ティオの警告にユエは反応できていなかった。ユエは神水を飲ませたのにも関わらず、治りの遅いハジメに2本目を飲ませていたのと、感傷に浸っていたのもあり、行動が遅れたのだ。先程の極光の縮小版ともいえる奔流、縮小版とはいえ、どれも命を取るには充分な威力はある。

 

「させんぞ!〝嵐空〟ッ」

 

風属性の中級魔法〝嵐空〟による圧縮された空気の壁が、死の光を受けてゆらぐ。防げたのはほんの数秒だが、それだけあればユエならすぐに防御魔法を発動できる。

 

「〝聖絶〟!」

 

咄嗟に発動できる魔法の中で最も防御に優れた〝聖絶〟を発動した。魔力量、構築力、ユエの使う〝聖絶〟はこの世界では間違いなくトップレベル。結界師であり、様々な防御魔法に発展させた鈴を上回る。だというのに、死の光は障壁を軋ませていく。

 

「ぐっ、っ、ああああっ!」

 

押し切られると判断したユエは〝聖絶〟を全体を覆うバリアから頭上を守る形に変化させた。結界は足し引き、守る部分が狭くなったぶん、頑丈さは増す。

 

「チッ(南雲君を優先的に狙っている?いや、それもあるが、強さで攻撃範囲を分けている。こちらの攻撃は、回避はできるが…向かうのは)」

 

ハジメの方へ向かうこともできず、七海は回避に専念する。

 

シアとティオもハジメが心配だが、この攻撃をいなすのに精一杯だ。時間としては、1分。だが攻撃を受けている側からすれば、永遠に感じたその光の雨は、ようやく終わった。その事を確認し、今度こそハジメの方へ向かったときだった。

 

「……看過できない実力だ」

 

呆れと感心、両方が入り混じった男の声が頭上からした。

 

「やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険すぎる。特に、その男は」

 

その声の主がいる方を見て、驚愕した。50体ほどの灰色の竜と、それ等を大きく上回る巨大な白い竜。その白い竜の上に立つ存在。赤い髪、浅黒い肌、僅かに尖った耳。間違いなく、魔人族だが、その魔力の流れで、七海は判断できた。

 

(こんな時に、特級術師レベル…か)

 

死を覚悟する必要があると思いつつ、その存在を見ていた。

 




今週は呪術廻戦休載……そんな中で、自分の小説が定食のつけも…いや、添え物くらいになればと思い出しました

七海「なんで漬物から添え物にしたんですか?」

なんか頭の中に「つけもの、てめーはダメだ!」って声が響いて


ちなみに
七海がスイッチを押したことですが、これは意図せず羂索と同じ事をしてるなと書いてて自分で思いました。そして、それが七海が良いことしたと思えるかなと考え、noと自分は判断してああいう感じにしました。
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