もう毎回ハラハラワクワクです。そして、芥見先生のおかげで、迷いが消えました。
これで大丈夫。この先の設定使えると
「まさか、私のウラノスのブレスを直撃させたにも関わらず、殺しきれんとは…おまけに報告にあった強力にして未知の武器、そこの女共もだ。まさか総勢50体の灰竜の掃射を耐え切るなどあり得んことだ。貴様等、いったい何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」
黄金の瞳を向けて睨む魔人族の男から察するに、おそらくこの男も神代魔法を持っているとハジメ達は判断した。更に、『報告』という言葉から察するに、ウルの町で清水を殺した魔人族、ハジメが逃してしまった者からによる情報だとわかる。七海はこのまま喋らせて情報を得ようとしていると――
「質問する前に、まず名乗ったらどうだ?魔人族は礼儀ってもんをしらないのか?」
ハジメは意識が朦朧の中、言葉をだす。シア、ティオ、七海も心配そうにし、そちらを向く。見るとやはりダメージが大きいが、それ以上に大きいのは疲労感。あのとき、ハジメは技能〝金剛〟の派生、〝集中強化〟と〝付与強化〟を行った。ガントレットとドンナーに施したことで脳や心臓といった重要器官を守り、さらに呪力と魔力の同時身体強化で肉体の強度そのものを底上げした。おかげで、全身から血は出ているが、骨や内臓器官に影響はない。そのかわり、大量の血を失ったことと、咄嗟の集中と意識なしの同時身体強化による影響で疲労感が、ハジメの行動を制限してしまっている。おまけにあの極光の影響で傷が治りにくい。毒か何かの付与なのかもしれない。いずれにせよ、ハジメはそう長く戦えない。
「……これから死にゆく者に、名乗りが必要とは思えんな」
挑発に近いそれを、眼前の魔人族は気にする様子もなく、不敵な笑みを浮かべて言う。
「全く同感だな、テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな」
本来ならこのような挑発は七海は止めるが、ハジメの体力を少しでも回復させる為の時間稼ぎと、相手に喋らせることで情報と先程感じた
「……ところで、お友達の腕の調子はどうだ?」
冷静だった。ハジメのその言葉を聞くまでは。
「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー、異教徒共に神罰を下す、忠実なる神の使徒である」
声を低くし、フリードと名乗る魔人族は自身の名を告げる。
「神の使徒……ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか?魔物を使役する魔法じゃねぇよな?……極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいてたまるかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか?強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ」
ハジメの問いにフリードは雄々しく答える。その瞳、その顔に、七海も、ハジメも見覚えがあった。
「その通りだ。神代の力を手に入れた私にアルヴ様は直接語りかけて下さった。『我が使徒』と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」
初めてトータスに来て、最初に会った人物、イシュタルと同じ、恍惚とした表情。
(話の通用する相手ではないですね)
七海がそう考えていると、ハジメは『まだ戦えるぞ』と言うように、立つ。
「それは、俺のセリフだ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は……皆殺しだ!」
ハジメはそう言って睨み、ドンナーをフリードに向け引き金を引く。衝撃で傷口に響くのを我慢してどうにか放つ。更にクロスビットも取り出し突撃させた。それと同時に、ユエが〝雷龍〟を、ティオがブレスを、シアがドリュッケン付いた炸裂スラッグ弾を放つ。
(!あの灰色の竜から別の魔力が…まさか!)
七海の危惧した通り、フリードが灰竜と呼ぶ竜の背中に赤い甲羅を物大型の亀のような魔物が、その甲羅を光らせた。その瞬間、正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁が出現し、ハジメ達の攻撃を全て受け止めてしまった。
(おそらく、1体でも強力だが、複数体合わせて使うことで、防御力の強化および、防御結界の再発動をしている)
更にフリードは長い詠唱をしている。魔物を使い攻防を任せ、自身は時間をかけて大技を難なく出せる。
「見せてやろう、私が手にしたもう1つの力、神代の力を!〝界穿〟!」
「後ろです!ハジメさん!」
詠唱が終わると同時に、光の膜が出現し、フリードと白竜がそこに飛び込んだ。そしてほぼ同時にシアが警告し、後ろを見るとすでに膨大な魔力を口から放出する瞬間の白竜とその背に乗って睨みつけるフリードがいた。
「ずっと、この瞬間を待ってました」
「むっ⁉︎」
その更に後ろに回り込んだ七海。七海は何もしてないわけではなかった。フリードが詠唱を終えて消える前、シアに頼んでいた。「もう1度、私を跳ばして欲しい」と。跳ばす方向は真上。そして、そうされる前に七海は初撃の魔法の考察をしていた。
(あれほどの高魔力を事前用意していたとはいえ、発射タイミングで全く分からなかった。そして、ユエさんティオさんのような知識のある方でもわからなかった。つまりあれは神代魔法)
ハジメ達が必死で防御を崩そうとするなか、七海は見て、考える。戦いは、3つの「けん」で成り立つ。相手の行動を見る『見』、それらの情報を考察、検索する『検』、そして、それらから得たもので的確な攻撃を放つ『剣』。
(考えられるとすれば2つ。気配と魔力を遮断するタイプ。だが、これはあまりに神代魔法としては弱すぎる。とくれば移動型、つまり、オルクスでも見た転移系統の魔法。そして狙って攻撃するなら、最初と同じ不意打ちに近い攻撃)
故に、後方からの攻撃。あとはタイミング。早く動けば相手に気取られ、遅ければ取り返しにつかない事態になる。魔力の動きを、ジッと見るのに徹し、その瞬間にドリュッケンへ乗り上空に跳ぶ。
結果、タイミングはバッチリ。微妙なズレを、呪具で空中をトンっと跳びながら修正。ハジメの作る術式付きの呪具は、彼が作りだすほぼ全てのアーティファクトと同じく、エネルギーを送る必要、つまり呪力を入れなければならない。言うなれば、七海のいた世界にある呪具とは違い、実質的に術式を2つ持っている状態に近い。お得に見えるが、呪術戦においては致命的だ。何せ、呪力の流れを見れば、何をしてくるか分かるからだ。
(だが、この相手は、呪力を知らない)
そして魔力のない七海は、最初から眼中になかった。それも最初の会話から読み取っていた。だからこそ、灰竜の攻撃は最初から緩く、敵意はあれど灰竜に動きを制限させていなかった。そして魔力がないからこそ探知できず、集中した状態で、しかも攻撃の直前。回避はできない。
「⁉︎」
「いたな、そういえば」
振り下ろしたその剣を持った七海の腕を、フリードは握る。
「眼中になかったが、あまりに滑稽だな。魔力も無い亜人族と同じ下等な存在が、私に手を出そうなど、100年早い」
フリードは確かに七海に対して眼中になかった。魔力も無いからそこから動きも予測できなかった。だが、〝気配感知〟はあった。当然七海もそれは予測していた。だからこそ、神代魔法を使う際の集中時、不意打ちができると。実際、相手が完全に油断した瞬間を狙った。感知できても、完全に攻撃できるように。それでも尚、絶対的なもの。
「実力不足だ、消えろ」
フリードは特級、七海は1級。この差である。今一度それを再確認しつつ、フリードのもう片方の手から放射された魔法に七海は包まれ、光が収まると同時に落ちていく。
「七海先生‼︎」
叫んだ瞬間、ハジメの方にも白竜の魔法が放出される。どうにか先程攻撃に使っていた武器《オルカン》を盾の代わりにして防ぐ。轟音を轟かせてハジメを水平に吹き飛ばす。衝撃によってダメージを受けていた身体に、更に痛みが走る。ユエ達も援護しようとするが、灰竜達が邪魔をする。
(くそったれ、このままじゃあ、押し切られるっ)
そう考えたハジメはすぐさま決断し、〝限界突破〟を発動した。一時的なステータス3倍アップで放たれた極光をオルカンを跳ね上げて強引に逸らす。余波を受けて血を出すが、そんな事に構ってられない。クロスビットは防御にも使える。それ付き従えながら、死の光の雨をギリギリで回避しつつ、フリードを強襲する。
「ええい!なんというしぶとさだ!紙一重で決定打がないとは‼︎」
ならばとフリードは再び詠唱をしようとするが――
【そうはさせぬよ】
広範囲に響く低い声が聞こえた時、ハジメから距離を取る行為から無理矢理白竜は捻って迫りくる攻撃を回避しようとするも間に合わず、吹き飛ばされた。そして再びフリードは見た瞬間、その存在に驚く。
「黒竜だと⁉︎」
【紛い者の分際で随分と調子に乗るのぅ!もう、ご主人様は傷つけさせんぞ!】
〝竜化〟。竜人族がもつ固有魔法。これにより、いつぞや見せた黒竜の姿でティオは迎え撃つ。
(妾は、何を勘違いしていたのじゃ…いつぞや七海も言っていたというのに)
『君は、君より強い…もしくは君と同程度の1対1の対人戦をまだしてないんじゃないんですか?』
『君は私より強い。ですが、圧倒的に場数が足りない』
『私で無くとも、いずれ負けます』
ティオはフリードが、ハジメと同程度とは思わないが、七海の言う特級術師レベルだということはわかる。規格外同士の戦いは、ちょっとした事で敗北へ繋がる可能性を秘めている。
(そんな、当たり前の事すら忘れてしまうとは)
ティオがハジメ達の旅に同行する決断をしたのは、ハジメを気に入ったからというのもあるが、異世界からやって来た者達の確認、そして行く末を確かめるためという理由もあった。それ故に竜人族であることは、極力隠したいと思っていた。掟なのもあるが、竜人族は迫害によってこの世界の表舞台から消えた。その迫害は今も残り続けている。500年前の迫害で数の暴力には勝てないことを学んだから。
だが、その判断で傷ついたハジメを見たのにも関わらず、七海にも被害を与えてしまった。
*
『ティオさん、あなたの一族の事です。多くの差別の中を受け、一族の滅びの一歩手前を見たのなら、尚のこと、その考えには賛同します』
いつぞや、ティオは七海にも自身の一族の過去を話した。大迫害の時代を、それによる考えも。
『ただ、掟とは一族を存続させる手段でもあり、自身を縛る鎖でもある。掟と自身、両立は難しいと思いますが、その時だけは見逃さないでください』
*
(あの言葉の意味も、わかっておったというのにの)
掟と自身の大切を天秤に掛けるな。そういう意味だと。その結果がこれではならないと、もうこれ以上仲間を、大切な者を、男を、失わない為に、守る為に、ティオは掟を破る。何より誇りある竜人族にかけて。
【若いのぉ!覚えておくのじゃな!これが『竜』のブレスよぉ‼︎】
ティオが黒い砲撃を、白竜が白い砲撃を。両者のブレスがぶつかり合い、轟音を響かせ、衝撃波を周囲へ撒き散らし、直下にあるマグマの海は衝突地点から大きな津波をあげる。一時的な拮抗。だが次第に、ティオのブレスが押し始める。
「まさか、このような場所で竜人族の生き残りに会うとは‼︎……仕方あるまい!未だ危険を伴うが、この魔法で空間ごと」
「させねぇよ」
ティオが竜人族である事は、報告の中には無かった。だからこそフリードは本気で驚いていた。懐から新たな布を取り出し、再び正体不明の神代魔法を詠唱しようとしたが、背後から響いた声と共に撃ち放たれた衝撃により中断される。
「いつの間に⁉︎」
フリードの背後に回っていたハジメがドンナーを連射した。その方法は、七海が先程した事とほぼ同じ。持ち合わせの技能〝気配遮断〟だが、これは遠藤よりも高度なものになっている。何より意識は完全にティオにあり、しかも滅んだと思っている竜人族の存在を目にした直後。これにより気取られることなく、後ろを取ることに成功した。
「くっ‼︎」
フリードの傍にいた亀型の魔物が、フリードが反応するより早く障壁を展開した。だが赤黒く輝く障壁はほぼゼロ距離から放たれた閃光と衝撃により、破壊され、再び展開されるよる早くフリードの懐へハジメが潜り込む。
「〝風爪〟!」
ドンナーに〝風爪〟を付与し発動させながら、一気に振り抜いたが、ギリギリの所でフリードの障壁に阻まれた。だが、それによって最後の壁が無くなった。
「ひゅぅぅぅぅぅ…」
傷口から流れる出血が着々と忍び寄る死を警告し、〝限界突破〟によるステータス上昇により、集中力も上がる。その状態は、狙っていなかったが、充分すぎる状況。
(なんだ、あの拳は⁉︎)
0.000001秒の、その先にある、光と歪み。
(黒閃‼︎)
「ぐごぁあ⁉︎」
黒い閃光を、極限の中で掴み取る才能。幾多の死の淵を見てきたハジメは、自身の力を理解するのも早い。
黒閃を受けたフリードは身体が遠くへ飛ばされて、1匹の灰竜にぶつかり、衝撃で灰竜を殺してそのまま墜落するが、その時に意識を戻して同時に駆けつけた白竜の背に再び乗る。白竜も急に向かったため、ティオの意識を外した。それによって、ティオの魔法にふきとばされたが、どうにか体制を立て直す。
(なんだ、今のは⁉︎空間が歪んだ⁉︎神代魔法か⁉︎いや、奴らはまだ私が持つ神代魔法を持っていないはず……何より、いまの拳には、魔力が無かった⁉︎)
呪力を知らないフリードからすれば、何が起こったか、何をされたかはわからない。だからこそ警戒心が更に跳ね上がる。
「いい気分だ、このまま……⁉︎」
直後に訪れたのは黒閃を成功させた高揚感。だがそれよりも強く訪れたのは、〝限界突破〟の反動。
「ぐっ⁉︎ガハッ‼︎」
ハジメを包んでいた紅色の光が急速に消えて行く。傷口と口から盛大に血を吐き出した。傷を負った状態で〝限界突破〟。どれだけ肉体が強化されても、限界を越えた限界越えは無茶であった。
(リミットが早い⁉︎傷を負った状態だったからか!)
更に〝空力〟が解除されて、マグマの海に落ちそうになるハジメを、飛翔していたティオが背に乗せる。
【ご主人様よ!しっかりするのじゃ!】
「ぐっ、ティ、ティオ……」
ダメージが〝限界突破〟の副作用によって増幅され、倒れそうになるが堪える。そして、『まだやるぞ』と、眼光で上空のフリードを睨む。フリードが合図を送ったのか、主人の危機に駆けつけたのかはわからないが、ユエ達を襲っていた灰竜達も集まってきた。
「ハジメ!」
「ハジメさん!」
2人がハジメの名を叫びながら駆けつけてきたのを見て、今のハジメでは、攻撃を受けたときのティオの戦闘機動に耐えられず、落下する可能性が高いと考えたティオは、ゆっくりと近くの足場に着地し、そこに飛び移って来たユエとシアは、直ぐにハジメの傍に寄り添い支える。
「恐るべき戦闘力だ。侍らしている女共も尋常ではないな。絶滅したと思われていた竜人族に、無詠唱無陣の魔法の使い手、未来予知らしき力と人外の膂力をもつ兎人族……よもや神代の力を使って尚、ここまで追い詰められるとは」
黒閃を受けた肩を持ち、歯噛みをするように睨んで言う。
「最初の一撃を当てられていなければ、蹴散らされていたのは私の方か」
「なにもう勝った気でいやがる。俺は、まだまだ戦えるぞ?」
ハジメは、フリードの言葉に不快げに表情を歪め、限界寸前の身体でも、眼に殺意を込めて戦闘続行を宣言し、それにフリードは「だろうな」と肯定する。
「貴様から溢れ出る殺意の奔流は、どれだけ傷つこうと些かの衰えもない。真に恐るべきはその戦闘力ではなく、敵に喰らいつく殺意……いや、生き残ろうとする執念か……だが、それもここまでだ」
フリードが1匹の灰竜を隣に寄せた。それが咥えていたのは、
「七海、先生」
フリードは七海の首を持って受け取り、見せつける。
「この下等生物はきさまらの仲間だろう?殺されたくなければ、おとなしくしろ」
「……ハッ、勝手に着いて来てるだけだ。殺されたところで痛くも痒くもないし、そもそも死ぬ覚悟くらい持ってんだよ、その人は」
睨んだままドンナーを向けてハジメは堂々と宣言する。間違いなく射線に入る。
「どうだかな。ならばやってみよ」
「言われなくてもするぜ。(威力を抑えて七海先生ごと貫く……耐えてくれよ、先生)」
そして引き金を――
「やはり、できぬか」
フリードは優位な立場になったのだと、安堵した。安堵してしまった。ハジメが撃たないのは七海の事を想ってではない。
(呪力が、溢れている)
七海は、この大迷宮に入ってからまだ、抑えていた呪力を、解放していない。つい最近までは、自身の呪力量と出力が上がった為、50%程に落としていたが、これから先はそのような考えではいけないと、落とす出力は30%に変更していた。確かに少し前よりは劣るが、それでも、力は跳ね上がる。
「む?」
「ぅぅ、ぁぁ、あ、ぁ」
弱々しく片腕を上げて、フリードの胸と腹の中間近くに手を置く。
「それで攻撃のつもりか?目障りだ下げねば斬り落とす」
この時、フリードが犯したミスは3つ。1つは、黒閃を受けたのにも関わらず、知らない力を持った者がいる存在を軽視した事。七海がいつの間に剣をしまっていた事、そして七海を自身に向けていた事。
「よこ、幅……手の、幅」
「む?」
七海が別の世界の地球に来て8年。その間、自身の術式について向き合ってきたが、たかが8年。100年以上かけて来た者ですら、術式の解釈を伸ばすのに苦労した。8年とは別世界に来てからの時間。その前から、七海は自分の術式と向き合い続けている。1級術師となった時も、その前も、ずっと。
そしてトータスに来た事による呪力量と出力強化は、七海をその
(拳を振るつもりか?だが魔力はない…身体は強化されているが、一応防御魔法を付与するか)
初めてそれを使った時は失敗した。それは、七海自身が己の限界を決めた為。だが、死の淵で、力を発揮していく者がいる。それは、ハジメだけではない。むしろ七海は多くの死線、友の死、そして死そのものを見て、体験した。最後に必要なのは、何物にも揺るぐ事ない自信。
今、それが七海にあったわけではない。それでも、
(ここで、やらなくては、足手纏いになっては、いけないでしょう!)
やらなくてはいけない時に、不安など、するはずも無い。
その力の名は
「極ノ番…亀裂‼︎」
フリードの身体に置いた手。そのひらがなの[く]の字のようになった部分に、拳の真ん中、中指の関節部分が立った状態で打ち込む
「ごっっ⁉︎ごっ!」
瞬間、拳が当たった場所を中心に、フリードの全身からブシュウ!と勢いよく血が噴き出る。
「あ、がああああああああああ‼︎」
フリードは自分の身体が引き千切られたような感覚を感じ、味わった事のない痛みに吠えて、七海を持った手を離す。
「七海さん!」
空中を蹴って来たシアが落ちそうになる七海をキャッチした。
「七海さん!七海さん‼︎」
「だい、じょう…で…早く、てっ、たい、いや、あの、島に」
「喋らないでください!今、ハジメさんの元に」
「き、きさまぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
いまだ、全身から血を放出してフリードは怒りの形相で叫ぶ。
(あれは、呪力が、あいつの全身から出ている!あの呪力は……七海さんの)
十劃呪法、極ノ番・亀裂:簡単に言えば、拡張術式の瓦落瓦落と牽牽の応用と合わせ技。先に対象の身体に術式による弱点を作り、その点の部分に合わさるよう、手を[く]の字のようにして置き、人差し指と親指で後から線にする事でそこにも更に弱点となる点を作り、2重弱点とし、更に攻撃した同時に、弱点を通して追撃の呪力を流し込み、相手の内部で拡散爆破させる。あえての拡散をする為、呪力を大幅に使ってしまうのと、相手に手を置いて尚且つ、弱点を作る工程が必要の為、決めるのは難しい。だが、その困難さが縛りとなり、威力を上げ、奥義…すなわち極ノ番と呼ぶにふさわしい威力へ成る。しかし――
「許さん‼︎貴様らはぁ!貴様だけはぁ‼︎」
(仕留めてない…また、失敗…いや、目標威力の50%でしょうか?)
この技は、虎杖悠仁が使う、逕庭拳の応用である。拳を受けたと認識した瞬間に呪力を当て、1度の打撃に2度のインパクトを与える逕庭拳は、虎杖の瞬発力に呪力が追いついてない事による物で、狙って出せるようなものでもない。しかも特級相手には通じない。
七海がしたのは100%の力に100%呪力を纏って攻撃し、そこから更に呪力を練り上げて放出する行為。中指の立てた関節部分を頂点に、注射針が呪力を纏った拳、そして注射器内の液が呪力。それを流し込むような行為。しかも注射器と違い、ギリギリまで呪力を一定に留め、一気に流して内部拡散させる。それ故に、出力と呪力量を練るのに苦労する。
フリードが手を上げてた瞬間、空間全体、いや、グリューエン大火山の全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた。そして、マグマの水位が上がりはじめる。
「何をした?」
ハジメが、明らかにこの異常事態を引き起こした犯人であるフリードに押し殺したような声音で聞いた。フリードは、荒息をあげつつ、中央の島の直上にある天井に移動し、その質問に応える。
「『要石』を破壊した!」
「要石……だと?」
「そうだ!このマグマを見て、おかしいとは思わなかったのか?グリューエン大火山は、明らかに活火山だ。にもかかわらず、今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということ」
「それが要石か……まさかっ!?」
「そうだ。マグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊させてもらった。間も無く、この大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ!大迷宮もろとも果てるがいい‼︎」
フリードは血を流しつつ、首に下げたペンダントを天井に掲げた。すると、天井が左右に開き始める。円形に開かれた天井の穴は、そのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通した。グリューエン大火山の攻略の証で、地上までのショートカットを開いたようだ。
フリードは最後にもう一度、ハジメ達を睥睨し、次にシアに担がれた七海を見る。
「これで終わりだろうが、次に会うなら、そこのお前だけは、必ず殺す」
踵を返して白竜と共に天井の通路へと消えていった。
どんどん揺れが大きくなっていくなか、シアは七海を担いで避難しようとしていたが、七海は弱った声でシアに言う。
「シア、さん、私を捨て…行きなさい」
「嫌です‼︎」
「このままで、は、あなたも……私は、たぶん、死にます。早く」
「嫌です‼︎というか、七海さん死ぬ気はないとか言ってたじゃないですか!こんな所で諦めるんですか‼︎」
「…………」
七海とて死ぬ気はないが、巻き込みたくもないのだ。だが、声が出ない。その気力が、無くなってくる。
「ハジメさんはああ言いましたけど、わかりますよ!私だって、大事な仲間に死んでほしくないんですぅ‼︎」
ふっと七海は甘いなと笑う。
(私に、力が術式があるなら)
ティオがフリードを追っていたが、背に乗っていたハジメがそこから離れてマグマドームの消えた島にユエと合流して向かう。
【シア、ここまで来れるか⁉︎】
「七海さんを離せば、なんとかギリギリですけど、それしたらハジメさん怒りますよね?」
【……七海先生はなんて?】
「捨てて行けって」
【そうか。……なら、絶対に2人とも生きて来い!】
その言葉を待っていたかのように、シアは気合を入れた。呪力を感じる。そして、
(あぁ、今ならハッキリ分かります。これが、私の術式‼︎)
瞬間、マグマが2人を飲み込んだ。
ちなみに
『七海がいることで原作以上に苦労or酷い目に遭う人リストfile4:フリード・バグアー』
傲慢さと油断故に七海の極ノ番を受けてしまった人。もし100%完成形の『亀裂』を受けていたら身体の一部欠損は確実、最悪死亡でした
フリード「もうくらいはせん!」
私から言えることは1つ。フリード、ガンバw←(真人っぽく)
次は7月中出せるか微妙です。