大迷宮があるとされる場所を捜索してもわからない。だというのに、ハジメは特に焦る様子もなく、探索を切り上げて海上で休んでいる。女性陣はシャワー室で身体を洗い、温めており、男性陣は甲板で夕焼けを見ていた。
「場所がわからないようですが、随分余裕ですね」
「……『月とグリューエンの証に従え』…ミレディがそう言ってたんだ。月が出る、つまり夜になれば、わかるんじゃねーかと思ってな」
ハジメは横になった状態でグリューエン大火山を攻略した証であるペンダントを掲げる。
「にしても、七海先生がいてくれて助かった」
「なにがですか?」
「いや、あんたがいなきゃ、もしかしたらシャワー室に連れ込まれてたかもしれないからな」
ティオが何か言いたそうにしているのは七海もわかっていた。たぶんハジメの言うようなお願いをしようとしていたということも。
「……南雲君、白崎さんの事があったので、私にとやかく言う権利は無いに等しいですが、逃げるのもいつか限界がきますよ」
「わかってるよ、言われなくても」
甲斐性無しと言われてもおかしくないことなどハジメもわかっている。どう解決したらいいかもわからないハジメは、正直この問題をいつまで先送りできるかと思わない日はない。七海に相談できることでもない。というより、こんな状況に対してどうすればいいかの納得のいく答えなど、体験してなければできないだろう。
「ハジメ君、どうしたの?」
そう考えていると、タイミングよく香織が声をかけてきた。そちらを見るとユエにシア、ティオもいる。少し髪が湿って頬や首筋に張り付いている。
「いや別に、ちょっと日本を思い出してた」
ハジメはムクリと身体を起こしてあぐらをかき、先程の話を言えるわけもないのでそう言うが、嘘ではない。水平線に沈む夕日にそう感じていた。どの世界であっても、自然が作りだす光景は美しい。
「半年も経ってないんだよね。でも、なんか懐かしいや」
「こっちの日々が濃すぎるんだよ」
「確かに、またこんな人生を送るなんて、私も思ってませんでしたよ」
香織とハジメとは世界は違うが七海も地球の日本で過ごして来た者同士、遠い彼方に沈む夕日に想いを馳せる。それに疎外感を感じたのか、ユエがハジメに歩み寄り、そのままその膝の上に腰をおろし、背中をハジメの胸元にもたれさせる。真下から超至近距離の上目遣いで、ハジメはノックアウトされ、隣の香織がまた般若を出す。が、そこで終わらない。香織の逆サイドにシアが、背中にはティオが、ピタっとくっつく。
「なんだかいい雰囲気になりそうなので、邪魔しにきました!」
「うむ!」
「おまえらなぁ」
そして香織もきゅうっと身体を密着させる。
「おしくらまんじゅうですね」
「見てないで助けろよ!」
さらりと冷静に状況を告げる七海にハジメは抗議するが、またも冷静に告げる。
「助ける展開ですか?コレは?」
そこからは日が暮れて月が輝く前まで話し込む。日本の思い出や日本そのものについて。そして日本の歴史も少し。
「やっぱり語るなら、戦国時代は絶対だね」
「確かに。でも七海先生がいるなら、平安時代とかも良くね」
「こちらの呪術師と私の世界の呪術師とは違うと思いますが…」
「……むぅ」
と、ティオが何かを感じたのか、疑問を口にする。
「思ったのじゃが、七海はご主人様と同じ名前じゃが全く違う世界にいたのじゃろう?」
「えぇ、そうですが」
「いや、どうも引っかかるのじゃ。歴史に関しては、まったく同じなのに、何故呪術師のみ生まれなかったのかと」
言われてそこで七海も気付く。七海もハジメの世界に来てしばらくは自分の世界と違うところがあるか確認していたが、呪霊がいない事以外はまったく同じだった。呪術師という言葉はある。平安時代などはそう言った役職があったことも確認済みだ。
(確かに、ティオさんのいう通りだ。だが、清水君のような人間もこの時代に生まれていた)
つまり、歴史の中で微妙な変化があったのかもしれないと七海は考える。資料などには載らない何か小さな変化が重なり合い、人という存在に変化があったのではないかと。
「考えても仕方ないだろ。実際のところわかんねぇんだし」
「まぁ、そうじゃの」
「七海先生も、あんま考えすぎんなって」
「別に、そういうわけではないんですがね」
実際ティオに言われなければ考えなかったことだ。そうしていると夕日が水平線の向こう側に消えて、月が輝き出す。狙ったかのように満月が夜を照らす。
「そろそろだな」
先程のペンダントを掲げる。ちなみに、エリセンにいる時も魔力を流したり、月にかざしてみたりなどしたが、なんの変化もなかった。だが、今回は違う。ペンダントに描かれた女性が持ったランタン部分。そのくり抜かれた部分に、光が溜まっていく。
「この証は、こういうアーティファクトなのでしょうか?」
「たぶんな。にしても」
「綺麗ですねぇ」
ハジメの感情を代弁するかのようにシアは感嘆の声を上げ、香織もそれに同調する。ペンダントは溜め込んだ光を一直線に放出させ、海面のとある場所を指し示す。
「粋な演出。ミレディとは大違い」
「すんごいファンタジーっぽくて、ちょっと感動してるわ、俺」
「天空の城とは、逆ですがね」
「あれ、先生あのアニメ見たことあんの?」
「ええ。どんな感情下でも呪力出力を保つ訓練の一環として、学生時代に当時の教師だった夜蛾学長に教わりました。あれ以外にも色々な映画を観ましたけど。それより、場所はわかりそうですか?」
「たぶんな。んじゃ、潜航する。全員中に入れ」
*
潜水艇に乗り込み、光が指し示す方へ進んでいく。海底の岩壁に着くと、ペンダントはより輝き、岩壁の一点に当たる。すると鈍い音を立てて震動を起こし、扉のように岩壁の一部が真っ二つに開く。
「なるほど、いくら探しても見つからないわけだ」
「しかも、ここへ到達するにはグリューエン大火山を攻略するのが大前提なのだとすれば、さらに難易度は上がる。ほんと、演出含めて良い趣味してますよ」
確かに演出は良かったが、過程を考えるとまったく笑えない七海の皮肉に、他の者も同意する。
「そもそも、この《せんすいてい》じゃったか?コレがなければ、平凡な輩は迷宮に入ることもできなさそうじゃな」
「常時結界を張ってないとダメ。それも強力な」
「でも、グリューエン大火山の攻略が必須なら、大迷宮を攻略してる時点で普通なんじゃないですか?」
「コレを普通って言えるのはごく一部だと思うけど」
シアの言葉に苦笑しつつ、香織は言う。あらためて気を引き締めて、海底の様子に注意を見せていると、突然横殴りの衝撃が船体を襲う。ぐるんぐるんと回るが、エリセンに着くまでに同じ体験をしていたハジメは対策をしていた。船底につけた重力石が重みを増して船体を安定させる。激流がどこに続くかはわからないが、なにかあるだろうと考え、安定させつつ、流れの先に向かっていると
「〝遠透石〟に反応あり、なんか近づいてきてるな。……まぁ、赤黒い魔力を纏っている時点で魔物だろうが。ちょうどいい、アンカジで使えなかったアレを使うか!」
ハジメがスイッチを押すと潜水艇の後部ガコンと開く。
「試作品呪具爆弾砲、発射」
アンカジで見せたペットボトルくらいの大きさをした魚雷を2つくっつけたかのような爆弾が発射される。ハジメの呪具は1つしか技能をつけられない。そこで、射出やコントロールする為の装置をアーティファクトにし、爆弾は純粋な爆弾として乗せる。群れをなす魔物に近付いた瞬間、ハジメは爆弾を起爆させる。
「うぉ!」
「「うひゃぁ!」」
「こ、これは」
「とてつもない威力なのじゃ」
大爆発を起こして、魔物の群れは跡形もなく、消し飛んで、余波で船体が揺れる。
「いや、まぁ、結果オーライ?」
「こんな威力あるのをアンカジで使おうとしたんですか?」
「いや、ちょっと言い訳じゃないが言わせてくれ。こんな威力とは俺も思わなくて」
「威力試さず使ったんですか」
呆れたなと言うように七海は息をこぼす。
「というか、アレは何なんですか?ただ呪力を爆発させたにしては威力が強すぎる」
「えと、片方のタンクに呪力、もう片方に魔力を溜め込んで、タイミングを見計らってそれを混ぜ込む。要は、2重強化のエネルギーをそのまま放出させたんだが………」
「それが、アレですか」
肉体の外に出た時のエネルギーは、とんでもないなと思う。
「ハジメ君が作るアーティファクトも、呪具も、正直言って反則だよね」
「いえ、呪具に関して言えば、まだまだですよ。本人も言ってましたがね」
「………まぁな」
事実なので否定できないが、ハジメは悔しさを滲み出していた。
「アレで、まだまだなんですか?」
「ええ。とはいえ、短期間で高性能な呪具を作り出せる時点でとんでもないのも事実なんですけどね」
「つっても、さっきのは正直俺でも引く威力だった。もう少し威力調節をしてから使うとしよう」
そうして、時折出てくる魔物を蹴散らして進んでいると、周囲を1周しているのがわかり、どこかに入口があって見逃したと考え、今度は注意深く探索をしていると、数ヶ所ほどの五芒星とその中央部に三日月が描かれた紋章をみつける。その内、最初に見つけた紋章に近づき、ハジメは首に下げたペンダントを取り出してフロント水晶越しにかざす。するとやはり反応し、最初と同じように光が一直線に伸び、紋章に当たると、紋章が輝きだす。が、それだけで道ができたりはしない。
「他の地点でもしなくてはいけないのでしょうか」
「おそらくだがな。つか、さっきユエが常時結界を使ってくる必要とか言ってたけど、実際のとこ魔力持ちそうか?」
「正直言って難しい」
「だろうな」とハジメは言う。RPGゲームみたいな謎解きをしつつ、魔法で生命維持をし、襲いかかる魔物の相手をして、仕掛けを解いていくなど、相当酷だろう。空間魔法が使えても、否、神代魔法の空間魔法では更に魔力消費量が多く、すぐにダウンして終わりだろう。
5ヶ所の五芒星の紋章に光を注ぎ、ようやく先へ進む道が開かれた。真下へと通じる水路を特に何事もなく進んでいたが、突如船体が浮遊感に包まれて、そのまま重力に任せて落下した。衝撃で少し身体が浮き、体制を保てなかった香織が軽く尻もちをつく。
「香織、無事か?」
「だ、大丈夫。それよりここは?」
外を見ると、海中ではなく、空洞になっていた。魔物の反応もないので、とりあえず船外へ出る。半球状の空間で、頭上を見ると大きな穴があり、どういう原理か、水面がたゆたっている。しかもそこから一滴も水が落ちてこない。
「あそこから落ちてきたようですね」
「となると、ここからが本番か」
「さっきまでのが、言うなればオルクスの前半だとすれば、レベルの差がありすぎるような気がします」
「全部水中よりマシ」
ユエがそう呟くのを聞いて、七海も「たしかに」と頷いていると、
「!」
「ユ…」
「〝天絶《弾》〟!」
ハジメは頭上から感じた魔力に対してユエに呼びかけて障壁を展開してもらおうとしたが、その前に香織が動いた。しかも
「その魔法、確か谷口さんの」
自身の戦闘技術向上の為、香織は様々なことに挑戦し続けて来た。雫からの接近戦の訓練。さらに鈴から防御魔法の技法。七海からのアドバイスで様々な結界魔法、防御魔法の開発をしていた彼女に、香織は習い、そして観察し続けた。そしてユエという規格外の存在の出現と、その魔法の扱いを習い、元々あったものを磨き、結界師の鈴程にないにせよ、着実に力をつけた。
「っ!」
展開した魔法に衝撃がかかったのを感じ、香織は出力を上げた。瞬間、放たれた魔法は弾き返され、魔法を放ったと思われる魔物に命中した。……全てではない。その上仕留めきれてない。
「!」
仕留めきれなかったものを、ティオが〝螺炎〟で焼き尽くす。水中生物の為か、炎に弱く、跳ね返した魔法でも仕留めきれていないものも屠る。
「洗礼というやつかの」
「手荒い歓迎ですね。まぁ、それより………白崎さん」
「っ!」
香織はビクッとした。何を言われるかなどわかってはいるが
「足手纏いになりたくない気持ちはわかりますが、今のはどう考えても悪手なのはわかりますよね?」
「…はい」
バツが悪そうに香織は頭を下げて言う。
「技術も技能も向上しているのはわかりました。素晴らしいです。ですが、今あなたがした行為は、なんの意味もない行為だ」
効果がいまいちなのに、わざわざ跳ね返した。しかも魔力を多く使って。
「お、おい七海先生。別に防いでたんだから…」
「ハジメ、ダメ」
ハジメがフォローしようとしたが、すかさずユエが止めた。ユエもまた、香織に教えを説いた者。そして、魔法のスペシャリスト。言語化が困難な彼女でも、ハッキリ言える言葉。
「今のは、香織が悪い」
ユエ達と違い、香織は〝魔力操作〟を持っていない。それでも効率的な魔力を運用できるのは、魔力を視認し、流れる量、流す量を調整している為だ。それでも、あるとないでは差が圧倒的。車で言うならオートマ車とマニュアル車の違い。燃費も段違いだ。
その上で、先程の香織がしたのは、無駄に動いて疲弊し、良い的になっただけにすぎない。
「正直、前回の大迷宮で私はほぼ役に立てませんでした。だから気持ちはわかります。それでも、任せるところ、自分ですべき事、できることの見極めはしてきました。次は見極めてください」
七海の注意に対し、何も言うことなく、香織は頷いた。
「よろしい。南雲君、先へ進みましょう。時間を取ってしまい、申し訳ない」
「いや、いいけどよ」
そそくさと進む七海に、ハジメは言う。
「あんた、やっぱり教師だな」
「……………」
何も言わずに、七海は進む。ハジメも七海に教えてもらった者。だからわかる。ただ怒るだけの無能でもないことは。七海の言葉にある意味も。
香織も同じだ。厳しい言葉は、七海なりの優しさ。そして、的確な教えと指示で、着実に強くなってきた。自他ともに命を守る為に。それでも、香織としては悔しい。今の自分が、足手纏いであるという事実が。
(この大迷宮で、1つ皮が剥けるようなことがあれば良いんですがね)
七海は香織には才能があり、伸び代もあり、覚悟もあることを理解している。あとは、今の彼女にまとわりつく劣等感と、どう向き合うかが必要と七海は考えていたが、こればかりは彼女自身で向き合うしかない。1つ1つ教えてもいいが、香織の為にはならないし、ここは大迷宮。
「きましたね」
魔物がひしめく、危険地帯なのだから。
*
「南雲君、真の大迷宮の魔物を私は見ましたが、ここはこんなものなんでしょうか?」
「たしかに、弱すぎる」
香織以外が全員肯定するように頷く。大迷宮の魔物は強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介。そして、1級呪霊以下相当の魔物がほぼ存在しない。なのにここの魔物は、どれも2級から準1級レベル。足元の水位が増して戦いにくい点はあるが、これなら光輝達でも攻略できる。
「まぁ、先程までの潜水艇がない中での水中戦を考慮して言うなら、大迷宮らしいですが、それがなくなってからの方が楽というのは、どうにも合点がいかないですね。気味が悪いです」
たったの1回真の大迷宮を見て、その厄介さといやらしさを体験した者として、解放者=いい性格してる連中。という構図が既に七海にはある。だからこそ、この状況下に疑問と気持ち悪さが出てくる。
その予感を
「あ、ずいぶん広い所に出ましたねぇ」
この空間で示された。
「っ…なんだ?」
その空間に入った途端、半透明でゼリー状の物体が入ってきた通路へ続く穴を塞いだ。
「私がやりま…ぐぇ」
最後尾にいたシアが咄嗟に動く…前に七海が首根っこを捕まえて止めた。
「よく見なさい。アレは普通じゃないですよ」
流れている魔力を見て七海は判断して、試しに転がっていた礫を投げると、ジュウと音をたてて溶けた。
「強力な溶解作用のある物質……いや、魔物なのかもしれません。しかも」
頭上から同じゼリー状の触手が襲いかかる。すぐさまユエは障壁を展開し、ティオが炎で焼き払う。
「正直、ユエの防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」
「今更でしょ。それより、このゼリー」
「ん。ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」
七海は魔力が拡散していくのを視認していた。それに気づいたユエも肯定する。
「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」
その技能を持たないティオも、自身の魔法の威力が低下しているのを見たことでそう判断した。そして、ユエの展開した障壁が少しずつ溶かされている。
「大迷宮の魔物らしいな……来るぞ」
天井や周囲の壁から染み出すゼリーが、空中に集まり、グニョンと形を変えていく。その姿、形は流氷の天使と地球で言われている生物。
「クリオネだな」
ただし、大きさは10メートルを超えた化け物だが。巨大クリオネは予備動作なく全身から触手を飛び出させ、さらに頭部からシャワーの如くゼリーの飛沫を飛び散らす。その全てが魔法をも溶かす酸なら、まさしく死の雨。
「ユエも攻撃して!防御は私が!〝聖絶〟!」
技量が上がり、防御力の上がった〝聖絶〟を展開した。しかもこれは〝遅延発動〟という技能であらかじめ唱えていたもの。七海は結界術は足し引きだと告げていた。同じ能力でも完全詠唱したものとそうでないものでは、その強度は天地の差がある。当然だが、実戦で完全詠唱などしていたら狙われてしまうので、どれだけ短縮して強度、もしくは威力を上げるかが争点になるのだが、〝遅延発動〟でそれをある程度だが補うことができる。
ユエとティオはコクリと頷いて、巨大クリオネに火炎を繰り出す。確実に命中し、その身体を爆発四散させた。それなのに
「まだだ!反応が消えてない。香織は障壁を維持しろ」
あっという間に再生し、元の姿になる。
「再生した⁉︎これが、大迷宮の魔物」
香織は本当の意味で大迷宮の魔物を見るのは初。その厄介さを今まさに感じていた。
「今まで我々が来た道にいた魔物は、コレの餌だったのかもしれませんね」
「そのようじゃな。しかし、無限に再生されてはかなわん。ご主人様よ、魔石はどこじゃ?」
「………………」
「ハジメ?」
巨大クリオネを凝視していたハジメが困惑したような表情をしたのを見て、ユエが呼びかける。
「魔石、ないんですね?」
「ご名答」
七海の推測に対して言ったハジメの言葉に、残り全員が目をまるくする。
「は、ハジメ君?じゃあ、あれは、魔物じゃないってこと?」
「分からん。ただ、強いて言うなら、あのゼリーも、この空間も、当然あの巨大クリオネも、全部魔石と同じ、赤黒い色になってる。俺の今の魔眼石は、七海先生の訓練でかなり深いとこまで見える。それでも分からんとなると」
「この部屋そのものが魔物で、あの巨大クリオネは、ただの分身でしかないということでしょうか?」
「おそらくな。………試してみるか」
〝宝物庫〟から黒い大型ライフルのようなものを取り出す。だが発射されたのは弾丸でなく炎。つまり、火炎放射器だ。高熱の炎が壁を焼いていく。
「壁そのものが魔物ってわけでは無さそうだな。けど、壁の隙間や割れ目から、どんどん出てきやがる。クリオネからも攻撃が来やがる」
「!足元からも来ます」
際限なく出現し、全方位からの攻撃。しかも
「おい、水位が上がって来てるぞ!」
今のままでもジリ貧なのに、この上水中戦になればもっと最悪だ。何せ、殲滅方法が分からないのだから。故に、ハジメは一度撤退をするべきだと判断した。周囲は入口含めてゼリーが覆っているなら、
「地下だ!一度態勢を立て直す。この地下に空間がある。どこに繋がってるか分からないから覚悟を決めろ!」
ハジメの言葉に全員が返事した。しかし、七海は少し考え、ユエ、シア、ティオ、香織、ハジメに言う。
「南雲君、私の攻撃に合わせて下さい。ユエさん、ティオさん、白崎さんは、全員で防御を。私は一度外に出て攻撃します。グリューエン大火山で、マグマ大蛇に使った技を使います」
「!わかった」
下に空間があるとはいえ、確実に水中。その最中で、この巨大クリオネに追撃される可能性があるのなら、それを潰す。ハジメの開けた空間を塞ぐのと、倒せずとも、あわよくば動きを一時的に止める為に。
「白崎さん!」
「は、はい!」
「私の術式は、生物、非生物問わず、7:3の比率の点を弱点にする術式です」
このメンバーの中で唯一、七海の術式を知らない香織に、術式の開示をし、出力と威力を上げる。そして、今が月が出ている時間なら、とっくに時間外労働の縛りの有効時間となっている。抑えていた呪力を解放し、さらに威力を上げる。
「先生、シュノーケルだ。これはアーティファクトだが、魔力を必要としないからあんたでも使える。ただし、制限時間は30分。気をつけろ。それと、俺も追撃阻止の為に焼夷手榴弾を使うから、そっちも気をつけろ」
七海は頷くと同時に駆ける。迫り来る触手を回避し、呪力を身体に纏い、防ぐ。
(呪力は、分解できない?)
それに気付いた。というより、この巨大クリオネや触手、ゼリーを見た時から感じていたことがある。
(この生物は、呪霊ではない。だが、このゼリーは、呪力にかなり近い)
まず間違いなく魔力を伴っている。だが、わかる。闇魔法以外で初めて見る、呪力に近いエネルギー。その理由は分からないが、この場では優位だ。目の前にいるのが本体でなくとも、再生に遅れを出す可能性がある。
(十劃呪法)
積み上げられて来た経験、上がった呪力量と出力、縛りが無くとも、最大威力は上がったそれを使う。
(瓦落瓦落・載!)
壁に打ち込まれた呪力が走る。その際、ゼリーが粉砕されていく。強化された瓦落瓦落を最大威力で解き放ったことで、空間の半分以上にヒビが入っていく。それが爆散する僅かな時間を――
「いくぞ!」
パイルバンカーを使って地面に穴を開けた。そして同時に膨大な水が流れ込む。それとほんの一瞬遅れて、空間に入っていく呪力が弾け、瓦礫と水が押し寄せ強化なクリオネを飲み込んだ。
(!)
水中を猛烈な勢いで流されていく中、爆発音がする。ハジメが言っていた手榴弾だろう。その音を感じつつ、七海は全員から離れて行くのを確認していた。
(グループは、南雲君と白崎さん。ユエさんとシアさんとティオさん。そして、私単体か)
七海はまたも死を覚悟しておく必要があると考えつつ、ボンベが使えるうちに空気のある空間に着くことを願った。
ちなみに
海内紛擾: 世の中の秩序が乱れて、騒々しくなること
海という漢字は使いたく思い、探した結果いいのがありました。またしばらくこのタイトル続きます
ちなみに2
実はハジメは黒閃をつかったことと、今回使った呪具爆弾のおかげで呪力の核心に近付きつつあり、呪具錬成に大きな変化を見せる一歩手前です。でもこの大迷宮編では見せません、あしからず。
ちなみに3
今回の術式の開示の縛りに関する部分はちょっと悩みました。しかし、本編読んでいくつかのセリフからいけるかなと自分は考えました
・七海が初めて開示した時の「聞いてますか虎杖君」というセリフから(宿儺がいるから及び改造人間がいるからの可能性もあるが)
・呪術廻戦0で夏油の「学生時代のブラフをまだ信じているとは」から当時味方だった五条も知らなかった呪霊操術の情報から味方でも流出するれば底上げができる?と考え
・交流戦0での狗巻の術式を話すパンダに釘崎が「他人の術式をペラペラと」というところからも味方に言うのも術式開示のブーストになるから言うのはよせよ的なものかと思い
これらの理由から味方に術式開示もいけると思いそうしました。
次は、人外魔境新宿決戦が終わってから出します。インスピレーションを上げておくのと、もう、ほんと、心配だから、どんな形でも決着を見てから書きたいんで