でもできるなら「勝つさ」って言うやつが本当に勝つって展開にしてほしい
「ギリギリ、でしたね」
ボンベの中の空気がなくなって、しばらく七海は流されて、息が続かないと思われた時、光を感じ、必死で泳ぎ、浮上した。
「地上にでた………と言うわけではないですね」
正面には砂浜と鬱蒼としたジャングルを思わせる雑木林。だが頭上には水面が揺蕩ってたいる。それが海水なのだとしたら、まず間違いなくここは海底遺跡内部だ。
「全員とはぐれ、私1人。〝宝物庫〟もない。その上でここを攻略ですか」
全身が濡れて、正直寒い。これだけで体力を奪われる。ちなみに他の衣服はハジメの持つ七海用〝宝物庫〟に預けている。
「さっさと行きますか」
七海は停滞していたら余計に攻略は難しくなるなら、このまま進む決断をし、雑木林へ進む。
「フン」
少し進んで木を切り倒す。倒れていく際音をたてるが、同時に小さな生物が木の上から逃げていく。手のひらに収まる蜘蛛のような生物。魔物ではない。だが、間違いなく毒蜘蛛の類だろう。
(呪力を抑えつつ、木を切り倒して進んでいくのがいいですね)
木を斬りつつ進んで、密林を抜けた。その先には、都市があった。
「アトランティスとかムー大陸は、こんな感じなんでしょうかね……いや、ムー大陸は少し違うか」
目の前にある場所の見た感じの感想を七海は呟く。
巨大な都市。中央には城を思わせる高い塔が建っている。他の建築物と同様に、所々に苔が生え、崩壊している。元から海底にあったとは思えない。地殻変動で沈んだのか、それとも別の要因か。なんにせよ、見ていて思うことは、幻想的というよりも気味が悪い。
「何かあるとすれば、あの塔ですかね」
都市の入り口まで来た七海は、そろそろ何かしてくる、何か魔物が出るかと考えたが、一向に出ない事に、逆に警戒感を上げていた。完全に朽ちた門を通り、進んでいた時、周囲を見る。
(……建物以外に、周囲にはおそらく魔法の痕跡…朽ちた武器。それに……あれは、国旗でしょうか?2種ありますね)
大方、大昔の魔人族と人間族のものだろうと考える。激しい戦闘……否、戦争があったのだろう。
(これを見てどうしろと言うのか)
七海はただ見せるだけなのかと拍子抜けしたが、それが間違いだとすぐにわかった。ある程度進んでいたら、周囲から雄叫びと金属が撃ち合う音、爆裂音が響きだし、空間が揺らめく。
「⁉︎」
気がつくと、周囲で凄惨な殺し合いが起こっていた。魔人族と、人間族。双方が争っている。そういう映像を見せているのかと思うが
「死ねぇ!異教徒がぁ!」
襲いかかる血まみれの男の斧を咄嗟に避けた。幻影と思っていた七海は僅かに行動が遅れた。そして、回避できなかった髪が、ヒラリと舞う。
「っ!クソ」
襲って来るなら仕方ないと、七海はほぼ反射的に腹を蹴る。だが、
(擦り抜け…!)
そのまま相手の持つ鉄でできた棍棒に殴られ、呪力の身体強化をしておらず、困惑した七海は下がる。その額から血を出していた。
「まずい…ですね」
この空間はただ映像を見せるだけではない。実体を持った映像が襲いかかる。
(攻略の条件があるとすれば、どちらかの軍が勝利する、もしくは一定の相手が消滅するか、出口を探してここから出る)
今度はすいすいと回避しつつ、七海は更に思考する。このまま戦争が終結するまで逃げ続けるのだとして、いつ終わるかだが…
「あとは、この空間ごと破壊する…とはいえ、そんなのは五条さんくらいしか無理でしょうね」
と、回避し続けていて気付いた。
(まさか…いや、考えてみたら当然というか、納得というか)
戦争は終わらない。終わるはずもない。これが映像だとしたら、ループして再生される。そもそも解放者達は狂いし神エヒトの起こした戦争を見てきた。終わらない負の連鎖。終結しても次が…それを体現しているとしたら、この映像が終わるはずもない。その証拠に、
(さっきとまったく同じ戦闘光景が見える。となると、次は)
七海は入って来た入り口に急ぐ。魔法による砲撃、矢の雨がどんどん激しくなる。呪力による身体強化で、この程度はかすり傷にもならない。問題は
「クソっ」
門を出ても戦闘が続く。先程の雑木林のある場所に行こうとしても、また門の付近に戻る。
(なるほど、ここはいわば、生得領域の中みたいなものですね)
心象風景を具現化し、結界の中に閉じ込める。その類いの空間ならば、やはり脱出は不可能。
(なら、この結界を構成している原因を排除するのが得策……と、いうのが呪術的なセオリー)
しかし、これは生得領域に近いが、七海の知る生得領域ではない。が、これが何かしらの結界によるものなのはたしか。ならば、破る手段はある。
「解放者の性格を考えるなら、やはりこの戦争を終わらせるのが最善ですかね」
そしてその方法があるとすれば、
「アルヴ様の、御心のままにぃ!」
「エヒト様万歳!」
攻撃して来た幻影を回避しつつ見る。
(通常攻撃は効かないのなら、どう対処すればいいのか……まずは)
七海は崩れた門の外壁に移動し、術式で弱点を作る。
(瓦落瓦落)
呪力が外壁に走り、崩壊していく。その周囲にいた幻影が潰されていき、消滅していく。七海はハジメの呪具で空中を蹴って回避していた。
「すぐに回避ができる。この呪具はいいですね。この技と相性がいい………シッ!」
地上に降りて、次はそこら辺にころがっている礫を、呪力を込めず投擲する。幻影をすり抜けた。次に呪力を込めて投げる。幻影の顔面を粉砕して、消滅した。
(呪力を込めれば、効果あり。呪力が特別……というわけではないでしょうね。おそらく、魔法でもできるでしょうね)
すなわち、この狂乱渦めく戦場を、自身の手で無理矢理終結させる。その間、この負の連鎖をずっと見つつ、更にここに来るまでに消費しているだろう魔力を使って。
「ほんと、いい趣味してますね」
あるいはこのくらい乗り越えられないなら、エヒトと対峙することもできないとでも言いたいのか。攻略の為、呪力を纏った拳で幻影を殴る。
「手に感覚はないが、纏った呪力にぶつかった感覚がある。変な感触ですね」
「死ね!異教徒が‼︎」
「神の名の下に!」
「言っても無駄でしょうが、あなた方の信じる神を否定はしません」
信仰心を持って、願い、祈る事で、実在しなくとも、そこに神は存在する。故に、七海は宗教そのものを否定はしないし、神も否定しない。
「ただ、正直言って不快です」
この異様な信仰心も受け入れられないというのもあるが、どうしても神を好きになれない気持ちが七海を不快にさせる。今度は剣に呪力を込めて斬り裂く。
「ぎゃっ!」
「ぐぁぁぁぁ!」
幻影が悲鳴をあげて消滅する。
「わかってることですが、数が多いですね」
七海は周囲を見て、もっとも数が多く、密集している場所を発見した。そこに向かいつつ、更に剣に呪力を込めるが、先程と違い、溢れ出るほどに、されど器が壊れないように。留めた呪力を、剣を横薙ぎに振って、留めた呪力を放出する。広範囲に呪力が放出される。ちなみに、もっと絞って放出もできたが、この幻影は威力関係なしに魔力、もしくは呪力に弱いと判断した。その理由は、〔+視認(極)〕で観察したところ、この幻影は身体全体が魔力で構成されていると判断したからだ。器なしに、魔力だけが動いているなら、崩壊もしやすい。
「とはいえ、南雲君やユエさんみたいに、広範囲への強力な攻撃を持たない私では、呪力放出と、呪力を纏った接近戦しかない」
ここが結界ならば、この空間を維持しているのはこの幻影達。これを倒すのだとして、どれほど倒せばいいのか、そしてその度に呪力は消費される。
「保てばいいんですがね、呪力」
呪力量は以前より増えたとはいえ、七海は特級呪術師たる術式を持たない。この戦争を終わらす、国同士の争いならば、それこそ単独で国家転覆をなせる特級呪術師並みの力量が必要だろう。
「死ねぇぇぇぇ!」
「神の使者たる我が一撃、その身に受けよ!」
「このくらいで、心が怯みはしませんが、正直言って鬱陶しいですね」
*
どのくらいの時間が経ったのか。七海もわからない。少なくとも、ハジメ達ほど短時間で攻略したとは言えないだろう。何より、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息切れを起こすほどに体力、呪力も消費し、呪力を留めるのが限界が近いのか、ある程度の傷も負っている。
「まったく。一応、服の予備は作ってますが、いくらでもあるわけではないんですけどね」
七海は誰に言うでもない呟きを吐いて、幻影を倒す。空間が再び揺らめく。
「結界の構築が不安定になってきている……あと少しですかね」
更に小1時間ほど戦闘をし、ようやく元の誰もいない崩壊した都市に戻る。
「休憩したいですが、南雲君達のレベルを考えるなら、とっくに終わったと思いますし、さっさと行きますか」
ふらふらとした足取りで、都市の中央にある塔に向かう。たどり着くと、入り口付近に壊れた大きめ台があり、周囲に複数の刃物と、ボロボロになってしまった大きめの布がある。そこに更に近づくと、再び空間が揺らめく。
「もう勘弁してほしいですよ」
再び戦闘になるなと思った七海は剣をだし、臨戦体制になるが、気付くと周囲を人に囲まれた。が、先程のように殺気だった様子はなく、むしろ皆が喜びに満ち溢れたような笑みと、歓喜の声を出して、塔の上を見てソワソワしている。何か、誰かを待つように。だがそれより異様なのがその見ているもの達。人間族、亜人族、魔人族が、お互いに笑顔を見せ、共にいる。
「こんな時代があった、というのは分かりましたが、これを見せてどうしろと」
七海が疑問を口にしていると、周囲の幻影達の声が一層高くなり、
「来たぞ!」
誰かがそう言ったのをきっかけに、歓声が上がる。彼らが見る場所を七海も見ると、魔人族と思われる男が出てくる。出立ち、身につけた飾り、服装からして、かなりの立場の者。もしかするとここの王なのか。魔人族には魔王と呼ばれる存在がいるらしいが、それなのか、あるいは魔人族の領地の1つを治めている者なのかはわからないが、少なくとも、これだけの種族問わずに敬われる存在なのは間違いない。
「?」
七海はその隣、フードを被った人物が目立った。こんな場所にフードなど似合わないし、何より失礼だ。だが、誰も気にしないそのフードの人物に、七海は何かを感じた。
「皆、よく集まった」
高い位置から男が話し出すが、よく響く。何かしらのアーティファクトでも使っているのだろう。そして、話し出した瞬間に皆、声を止め、その人物の演説に耳を傾ける。
「多くの命、多くの国、街、村。我々は互いに失い、傷つけ合った。平和を勝ち取る。その想いあって。だが、勇気と知恵を持って、血を流す行為ではなく、このように、種族の垣根を越えて、和平の道をひらけた。それもこれも、双方の文官と、君達のように和平を結び、種族の垣根を越えようと思うもの達の為だ」
男の演説は続き、時折涙を浮かべ、もらい泣きするように、観衆は泣き出す者もいる。
「和平を結び、共に暮らせるこの都市を作り上げた。そう、それが1年だ」
(?なんだ、声色が、変わった?)
「この日々を、送ってきてつくづく思う。なんて
観衆は男が最後に言った言葉の意味が分からず、小さなざわつきを生む。
「まずは、そちらを見ていただこう」
と、男が指す所には、先程七海が見た大きめの台があり、そこに布を被せて中のものを隠している。
嫌な予感がした。七海だけでなく、この当時ここにいた観衆もだろう。魔人族の騎士と思われる2人が、左右からバッとその布を剥がす。
「え、う、うわぁぁぁぁぁぁあ!」
「きゃあああああああ!」
「お、おい、あれって⁉︎」
「同志達!」
それは生首だった。切断され、苦悶の顔になり、少し乾涸びた生首を見せられ、観衆は大きく同様し、その場から逃げる者もいたが、その人物達に矢と魔法が放たれた。
「この者達の愚かな行為によって、このような不快極まりない物ができてしまった‼︎劣等種たる獣の声も、異教徒の手をとるたびに感じたあの不快も、今日で終わる‼︎君達の愚かな思想とその命を持って!」
瞬間、隠れていた兵士達が現れた。
「アルヴ様‼︎彼らの血を捧げ、我が忠義を示しましょう!」
そこから先は虐殺そのもの。逃げる者も、立ち尽くす者も、何もできずに殺されていく。どうにか逃げた者もいたが、男を見ていた観衆とは別の住民によって殺される。彼らもまた、「神の名の下に!」と叫び。仲が良かった者もいたのだろうか、殺される者達は「なぜだ!」と口にする者もいた。
「おおおおおお!アルヴ様ぁ‼︎見ておりますか‼︎この光景を!わが忠義をぉぉ‼︎獣も異教徒も、それに準ずるもの達も!全て滅ぼし、あなた様への供物として捧げましょうぞぉぉぉぉ!」
まさしく地獄絵図。その光景を見て歓喜の声を上げる男。そして、フードの人物がしばらくそれを見たあと、建物内に入っていくのだが、銀色に輝く髪と、艶のある唇が見えた。
しばらく虐殺の光景が続き、悲鳴を聞き、七海は非常に不快だった。
「この町、それとも国か……どちらでもいいですが、あの男の感じは、まるでイシュタルさんのような煌々とした表情でしたね」
となると、この惨劇も、演説した男も、神の影響を受けたということ。
「で、これでもまだ終わらないですか。あの塔の中に入る以外なさそうですね」
内部に入ると、元はもっと煌びやかだったのだろうが、その雰囲気は消え、幽霊屋敷のようになっていた。上へ行く階段を見つけ、とりあえず上の階に進むが、
「今度は物理トラップですか」
床が抜けて下が剣になってたり、周囲の物を調べようと近付いた途端矢が飛んで来たりと、防御できるレベルとはいえ鬱陶しい。ここを作った解放者も、ここまで来た時点で、この程度でやられるとは思わないだろうが、精神的に追い詰められる。
「イラつきますね、まったく………ん?」
啜り泣くような声がする。こんな暗がりで、幽霊屋敷のような場所で。
香織のような怪異が苦手な人物なら泣き叫んだだろう。が、こんな事態は呪術師の時代にそれなりに見てきた七海。
「はぁ…………フン!」
その声がする方に平然と向かい、扉が開かないのを確認した瞬間蹴り壊す。子供のような影が見え、そちらに警戒しつつ進む。
「………幻影ではないですね。しかし、肉体があるわけでもない。霊体ですね」
「どうして、どうして、どうして」
少女の霊は泣きながらそう呟く。何かを伝えたいのだろうか。危険を承知で七海はその子に触れようとした瞬間
「⁉︎」
少女の姿が消え、七海は自分が自分でない感触、自分以外の何かが入り込んできた気がする。
『死ね』
「………頭に、響く」
『死ね、死ね、死ね』
脳に直接声が響く。その苦痛と共に、自分でない記憶が入り込む。暴徒と化した民、狂ってしまったここの領主、自分の親、親族、繰り返される血の惨禍、逃げて、逃げて、目を逸らして、最後は沈む大陸と共に嗚咽と恐怖の中で、絶望に染まった声達の怨嗟。
(まず、い『死ね』私が、『死ね死ね』私で、『死ね死ね死ね』なくなる)
殺意、怨嗟、悲しみ、憂い、孤独、絶望。負という負が七海に押し寄せる。
(意識が…消え、わた、し…わ…たし、は…誰、だ?)
*
【七海、後は頼む】
*
「‼︎う、が、あ、ガァぁぁぁぁ‼︎」
侵食されそうな自分の魂を守るべく、七海は呪力を解放する。
『ヴァァァァァァァァ‼︎』
苦しむような声が響く。それをどうにか無視し、限界まで呪力を放出していく。
(この魂は、おそらくなんらかの魔法によって維持されている。なら、そこに呪力を流して一時的な魔力と呪力の同時身体強化と同じ状況を作る!)
生み出されたエネルギーに、七海の中の魂達が苦しみ、1つ、また1つと声が消えていく。
(私に、あなた方は救えない。せめて、これで、消えて)
苦しみを持ったままこの世に残る彼らの魂を消し去る。あまりに偽善、あまりにも残酷。それでも、置き去られた魂を、解放していく。
「!」
『ありがとう』
と、最初に泣いていた少女の声がした。
『ここから、出してくれて、ありがとう』
(…………)
自分が完全に消えるというのに、嬉しそうな声で、少女は言う。
『私たちの想い、あなたにあげるね。どうか、忘れないで』
声が、掠れて消えていく。
『ありがとう』
『ありがとう、異世界の者』
『ありがとう、救ってくれて』
『ありがとう、ようやく逝ける』
多くの感謝が聞こえた。その言葉、1つ1つを、噛み締めながら、七海は意識を戻した。
「……………ありがとう、か」
彼らに、本当の意味で救いはない。それでも、魂が巡ることを願うくらいは、許されるのだろうかと、考えずにはいられなかった。
「それにしても」
あの時聞こえた声を七海は思い出す。自身に取り憑いた魂達でなく、今も自分を縛る、呪いの言葉。託してしまった言葉。
「…感謝します、灰原」
届くはずもない感謝を口にし、七海は仰向けに倒れていた身体を起こす。が、すぐにふらりと倒れそうになる。
「呪力を使いすぎましたね」
もう戦うだけの呪力はほとんど残ってない。どうにか立ち上がり、罠に気をつけなががら、壁にそってフラフラとした足取りで進む。
「魔法陣」
見つけたそれは、転移系のものであるとわかる。オルクスでも何度も見てきた陣と同じだったからだ。
「もう、これ以上は勘弁してほしいですが」
正直この先にもまだ何かしらの試練があるなら、今度こそ終わりだろうなと思いつつ、その円陣に入る。光が七海の周囲で輝き、ゆらゆらと波を立てる。身体が飛ぶ感覚と共に転移した。
「…っ!」
七海は光で一瞬目を塞ぐが、すぐに開くと、天井は海面を淡い光が照らし、波を作り、その下には中央部に神殿のような建造物が4本の巨大な柱を支柱に支えられていた。間に壁はなく、吹き抜けになったその神殿の中央は祭壇になっていて、複雑な魔法陣を描いている。周囲を海水で囲まれたその場所に向かって、七海の立ち位置も含めて円形の足場に続く道が4方向にあり、それぞれに魔法陣が描かれている。
「七海先生!生きてたか!」
「正直、どうしようかとおもったですぅ」
ハジメとシアの声がして、見ると祭壇付近にメンバー全員がいた。
「ん、無事……とはいえないけど、生きてて何より」
「ボロボロじゃな……まぁ、ご主人様や妾達のように、遠距離攻撃もなく戦ったのなら、あり得ることか」
「今、治療しますね!」
声を出すだけの体力ももうないのか、どさりと七海は倒れた。
「な、七海先生‼︎」
「落ち着いて香織。ただ疲れて倒れただけ。意識もある」
七海はユエの言葉に答えるように、ぐるっと身体を回して仰向けになる。
「そちらも、無事なようで」
「んな状態で喋ることかぁ?」
呆れたようにハジメは言う。
「ま、こっちは早めに終わって暇してて、そろそろ行こうとしてた所だったから、運がいいな、七海先生」
「ウソ。七海、ハジメはさっきまでソワソワしてた」
「ですねぇ、平常心保ってるふりしてましたけど、時間が経つにつれて足踏みの回数が増えてましたし」
「ちょ、おまえら!」
あっさりと内心を暴露されたハジメは、珍しく慌てる。
「そのご主人様にちょっかいを出すたびに、はたかれて、妾、最高じゃった」
「フン!」
「あふん!コレじゃあぁぁ!」
ビンタを受けてハァハァしてる変態をスルーして香織は回復魔法で七海の傷を治す。
「助かりました、白崎さん。着替えておきたいですが、後にしましょう」
立ち上がり、またビンタされようと縋ってくるティオを払いのけるハジメを見る。
「南雲君、おまたせしました。神代魔法は?」
「離れろ、変態がっと!たく……まだだ。これからあそこの祭壇に向かうところだ」
「わかりました。さっそく向かうとしましょう。ただ、その前に、白崎さん」
「は、はい」
声をかけてくるとは思わず、香織は少し声が上がり、理由もないのに緊張してしまう。
「表情が随分と変わりましたね。この海底洞窟に来たばかりの頃とはまるで違う。一皮剥けたような、そんな感じがしますが」
「!」
ハジメが「おいやめろ、聞くな」と言う前に、香織は嬉しそうに告げる。
「いえ、別に。ちょっとハジメ君とキスしただけです」
「…………はい?」
香織曰く、香織が七海の時と同じように、霊体に取り憑かれた者を救う際、ハジメが香織の為に怒ったそうだ。その気持ちに我慢できず、つい。とのことだ。
「……何というか、私の予想を超えてきますね、南雲君も、君も」
「あ、それちょっと嬉しいですね」
七海は香織を同行する事をユエに頼んだ身として、彼女がなんらかの形で吹っ切れることは予想してたところはあるが、予想の斜め上のものであった。
「正直言うと、今でもユエとの差に思うところはあります。けど、今更だなって思ったら、なんか吹っ切れて。それに、私はまだまだ強くなりますよ。それこそ、七海先生はもちろん、ユエを追い越すくらいに!今の私とユエは、強敵と書いて友って感じです!」
「…………」
七海は少し考え、ユエを見ると、どこか嬉しそうにしている。それを確認して、次にハジメに聞く。
「南雲君、君から見て、彼女は今どれだけの実力がありましたか?共に行動してたなら、君も見てたでしょう?」
「ん、あぁ見てたよ。回復魔法の効果範囲や発動速度もスゲぇが、近接戦闘もやばかった。最初は幻影に戸惑ってたけど、慣れた瞬間に魔法の刃で斬りまくってたぞ」
「実力が上がってるようでなにより……白崎香織さん」
「!」
いつも以上にキリッとした表情で、まるで採点を出すように、香織をフルネームで呼んで告げたことで、香織は緊張した表情になる。
「七海建人1級呪術師の名の下、君を、1級呪術師同等として認めます。これからも研鑽するように」
「…え」
香織は信じられなかった。正直、香織は七海にまだまだ及ばない。それでも、同等と認められた。ずっと、厳しくされて、褒めるところは褒められてきた。それなのに、ハジメに大切だと言われた次に、嬉しかった。
「返事は?」
「は、ハイ!ありがとうございます!」
嬉しくて、涙が出そうだが、それをグッと堪える。この程度で泣いていては、満足してしまうから。
「ちょっと七海さん!私そんなこと言われた覚えがないですよぉ〜!」
ハジメ、ユエ、ティオには特級だと告げていたが、シアに関しては何も言われていない。
「言わなくても君は1級ですよ。出会った当初からね」
「それならもっと早く言ってもいいのにぃ」
シアはぶーと口を膨らませて言う。が、やはり認められていることは、悪くないのか、すぐに笑みが出ていた。
「さて、行きますか」
ちなみに
現在の香織は書いてませんが、修行の一環としてシアと訓練してますので原作の時間軸よりも近接戦闘能力は格段に上がってますし、少しずつシアに対抗してきてます。それらもあって、後は彼女が一皮剥けるのを七海は待ってました
ちなみに2
七海だけで残りの試練を突破できるかというのは結構考えました。けど、海底遺跡を見つけ、海中を魔物に追われながら来る所が、ある意味1番の難所で、後はクリオネを抜けたらギリどうとでもなるかなと思い、こうしました。