「シアさん、なんで私が怒ってるか、わかりますか?」
「えぇと、そのぉ」
「なんで必要もないのに術式開示してるんですか」
それは、祭壇に到達し、全員で魔法陣へと足を踏み入れた時の事だが、七海は前回と違い、意識ある状態だった。試練に自分の力でクリアできたと言えるのか、採点の為に頭に何か入り込む感覚がした。ハジメ曰く、脳内精査らしい。対象の記憶を読み取り、どう攻略したかを確かめているのだ。その際、他の者が体験したことも見せられた。ハジメと香織は海上での戦争と神によって狂気と化した戦場と、平和を願う者達を踏みにじる狂乱した者の顔。七海とは違う都市で戦場となり魔人族との共存を望まぬ、今の聖教教会の前身による策略と暴挙。それによって起こった女子供の虐殺。どれも凄惨そのものだが、それ以上に、七海が気になったのが、シアだ。ハジメ達がどう試練に立ち向かっていたかも映像として頭に入ってくるのだが、そこに映ったのは――
「ヒャッハァぁぁぁ!」
と狂乱して幻影相手に無双する兎…もといシアだ。術式を使っているのだが、それが強い術式であるのもわかる。見ていると言うのもあるが、ユエが、
「シア、いったい何してるの?」
別の意味で心配そうに聞いて、その時点でも無双状態であったにも関わらず、術式の開示をしていたのだ。大声で。おかげでティオにもバッチリ聞こえていた。
「まったく。前に術式の開示について教えていたでしょう?術式の開示は、聞いた事ない敵味方問わずの相手のみ有効。2度目以降は意味がない。だから、たとえ身内であっても軽々しく口にしてはいけないと」
「えぇと、その、術式使って戦った影響で、そのうちにハイになっちゃって…その、つい」
「つい、じゃないですよ」
これでここにいる者達に術式開示をしても、もう意味がない。
「まぁ、そもそもこんなふうに他の人の状況も見せられるとは思ってなかったわけですから、そこは許します。ただ、味方に言うのと敵に言うのとでは、縛りによる出力もだいぶ違うので、もし次に――」
「わ、わかってますよ!たぶん次に言う時は、敵にでしょうから、そこは絶対です!」
「よろしい」
「説教終わったか?」
記憶の共有は終わり、七海を含めて全員に、新たな神代魔法の情報が脳内に刻み込まれる。その神代魔法の名は〝再生魔法〟。ちなみに、それを手にした瞬間ハジメは悪態を吐く。実はシアの故郷、フェアベルゲンの森の奥にある、ハルツィナ樹海と言われる大迷宮に入るのに〝再生の力〟が必要と石板に書かれていたからだ。
「大陸の端と端ですね」
「解放者が嫌らしいのは知ってるが、なんて面倒な」
七海も悪態を吐きつつ、再び魔方陣の中に入る。シアの説教の為に魔法陣を出ていたのだが、その前に小さな祭壇がそこに現れ、そこから光が淡く輝き、光が形をとって人型になる。ここの解放者、メイル・メルジーネ。エメラルドグリーンの長髪と扇状の耳に白いワンピースをきた彼女はミュウと同じ海人族のようだが、出てきて話すタイミングで陣から出た為、停止ボタンを押されたように止まっているその姿は、ちょっと可哀想である。
再生ボタンを押されたかのごとく、話し出す内容は、解放者の真実。おっとりとした声の中に憂いを感じる。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられることに慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前に進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せるある甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
メイル・メルジーネの最後の言葉が終わると、その姿は消え、彼女がいた場所に小さな魔法陣が浮き、数秒ほど輝きをを放った後、その場所にメルジーネの紋章が彫られたコインが置かれている。
「証の数も4つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょうねぇ」
「シアさんにとっては、里帰りというわけでもあるということですね。兎人族は温厚で穏やかな者達と聞きましたが、まさかそれは間違いで他もシアさんみたいなお転婆な方々が多いんですか?」
それは、特に理由もなく聞いたものだった。単なる雑談程度もの、「そんなわけないじゃないですかぁ〜」とか、「お転婆ってなんですかも〜」程度の言葉が返ってくると思っていた。……だが。
「「「……………」」」
「?どうしました、シアさんだけでなく、南雲君もユエさんも」
ハジメとユエは頭に浮かんだものから目を逸らすように、明後日の方向を見て、シアの方は死んだ魚…もとい、兎のような瞳で、現実逃避するように硬直する。問い質そうと思っていたが、神殿が鳴動を始め、周囲の海水が水位を上げていく。
「またこれですか。水攻めが好きなんですかね、メルジーネという方は」
「あるいは見た目に反してめちゃくちゃ過激な奴なのかもなって、んなこと言ってる場合か⁉︎」
再び別々の場所に流されてしまわないよう、今度は全員でしっかりと服を掴み合い、新しくボンベを取り出して全員それを装着する。直後、天井部が開いたと同時に一気に海水が流れ込み、噴水のように勢いよく上に吹き飛ばされた。そのまま急激な流れで遺跡の外へ。
(ら、乱暴すぎる)
外と言ったが、遺跡の外=海中である。メイル・メルジーネは「ここまで来れた実力はあるし、大丈夫だろう、たぶん」程度の考えを持つような、大雑把で過激な性格なのだろうとハジメと七海は確信した。
ハジメは急いで潜水艇を〝宝物庫〟から取り出したが、何かがそれを弾き飛ばす。それは、巨大な触手。
(まさか、こんな場所で!)
それは、メルジーネ海底遺跡で見た厄介な魔物。あの時の、魔法すら溶かす強力な酸性の肉体を持ち、無限に回復する、クリオネ型の魔物。海中を悠々と泳ぎ、触手で攻撃してくる。
(ユエさん)
直撃する瞬間、ユエが〝凍柩〟を使い、海水の一部を氷にして周囲を囲み、障壁にする。バットをフルスイングして打ったボールのごとく、触手で海中を吹っ飛ばされる。障壁内も氷で覆っているが、海水が入ってるので、シェイカーで振られるような体感を味わう。
ハジメは先程飛ばされた潜水艇を遠隔操作で動かして、クリオネに接近させて、魚雷を発射する。球数を気にせず、全ての魚雷を発射し、爆発していくが、触手が破壊された場所から再生してキリがない。ユエが少しずつ浮上させていたが間に合わず、再生されたクリオネが頭上に陣取る。
(再生する部位を選べるのか)
再生の能力の速さと、再生部分を選べることで、頭上にあった触手から再生し、更に破壊された触手も酸性をもったまま。
(クソ、ここは奴のホームグラウンド。水中戦では敵わない)
巨大クリオネは通常のクリオネのように頭部をグパァと開けて、氷の障壁ごと呑み込み、氷を溶かす。周囲に氷を補強する海水もない為、このままではすぐに溶かしてしまう。当然そんなことをさせない為、ハジメは〝金剛〟を氷に付与するが、それごと溶かされるのも時間の問題だ。ハジメは〝宝物庫〟から大量のロケット弾と魚雷を障壁の外へ、すなわち、巨大クリオネの腹の中に取り出した。
巨大クリオネが爆発四散し、障壁があるとはいえ、爆発の衝撃で氷の障壁は砕け、全員吹っ飛ばされる。ハジメは、再び潜水艇を遠隔操作して水中ではまともに戦えない七海、香織、シアを海上まで運ぼうと考えたが、巨大クリオネの触手が船底に張り付いて穴を開けた。移動速度が下がってきて、それをそのまま触手で包み込み、溶かしていく。
周囲は巨大クリオネの一部でもある半透明のゼリーで囲まれた。
【七海先生、聞こえるか?】
頭に声が届く。いつぞやに竜化したティオが使っていた〝念話〟というものだ。七海は使えないし、海中なので受け答えもできない一方通行の会話だが、そうするべきとしてハジメは使う。
【グリューエン大火山で魔人族が使ってた魔法、〝界穿〟をユエが使って移動する。準備ができ次第密集してくれ】
空間魔法、〝界穿〟:空間の2つの地点に穴を開け、2点の空間を繋げる。要するに、ワープゲートを作る魔法。だが、別々の空間を繋げるのは魔法のスペシャリストのユエでも難しい。まして、習得して日が浅いなら尚更だ。
ただし、以前までなら。ユエは再び氷の障壁を作り、その中に全員入るのを確認して、集中を開始する。
(魔力でまずこの場、障壁ごと1つ空間として包囲して、次に別空間。これ海上のイメージと魔力を別の物に流し込むイメージで)
〝魔力感知〔+視認(極)〕〟これは七海と同じ技能だが、きちんと魔力を使えるユエにとっては七海以上に使いこなせる。〝魔力操作〟による超効率的な魔力運用に、更に魔力の流れを見ることで、強弱だけでなく放出した魔力、残穢を頼りに、別空間のおおよそのイメージを持たせる。先程のハジメが使った魚雷やロケット弾も、全て〝錬成〟で魔力を帯びている。その残骸が海上にあるのがわかる。まぁ、ハジメの魔力だからというのあるかもしれないが。それを頼りに海上の空間に魔力を繋げる。
何もない空と空を繋げる作業は、フリードのように大掛かりな詠唱と、集中と、時間がいる。ユエは詠唱をすっ飛ばせるだけの技能と、どんな状況でも即座に集中できる技術を持っている。そして、時間は今のユエにとっては微々たるもの。
(もし、七海から〔+視認〕を教えてもらえてなかったら、40秒はかかった。でも……【ハジメ、今!】)
所要時間、15秒。4分の1に近い秒数で、〝界穿〟を発動し、氷の障壁内ごとワープする。身体が浮いたような感じがした瞬間、海上の空中に浮いていた。ユエは氷の障壁を解除し、ほぼ同時にティオが竜化して、その背に皆を乗せる。
「ふう、疲れた」
「ユエ、ほんとお疲れ。でもすごいな。空間転移は相当難しいだろうに」
「実戦レベルにするには、もうちょっと微調整が必要」
「あのレベルを微調整でできると言い切るのは凄まじいとしか言えないですね」
七海の心からの賞賛にユエは、少し複雑な表情になる。
「なんですか?」
「………ありがとう」
「なぜ、お礼を?」
七海が聞くが、ユエは「別に」とそっぽ向く。正直言って自分以上に魔力の確信がある人はそういないだろうと思っていたユエにとって、魔力はなく、呪力という自分にない力の技術の応用で魔力と魔法の運用方を理解して、説明ができる七海をほんの少しライバル扱いしていた。しかもそのおかげで今回は空間魔法に使用する魔力をかなり抑えられた。これ以上の戦闘はできないが、防御ぐらいなら余裕でできるレベルには魔力はまだ温存できている。
「ありがとうユエ!すごかったよ!さすが!」
「ユエさん、さすが魔法のスペシャリスト!」
【まぁ、ユエなら余裕というところかの】
「う、うぅ」
賞賛の言葉を受けたユエは恥ずかしがり、頬を染めているが、どこか嬉しそうにもみえる。
「!、皆さん、気を緩めるのはまだみたいですよ」
何気なく海の方を見た七海がそう言い、皆そちらを向こうとした瞬間、轟音と共に、高さ500m、直径は1kmはあるであろう大津波が迫ってきていた。今ティオは100mほど上空を飛んでいるが、それより圧倒的な高さ。
「ティオ!」
【承知っ!】
呆然としていたティオがハジメの叫びで我を取り戻し、加速する。左右に逃げ場はない。空間転移は間に合わない。というより、もう使えるだけの魔力はユエにはない。高速で飛行するが、次第に追いつかれる。
「〝縛煌鎖〟‼︎」
香織が、呑み込まれた時に備えて全員を繋げる光の鎖を作り出した。シアは、ジッと津波の方を見ていたが、突然警告を発した。
「ティオさん、気をつけて!津波の中にアレがいます!触手、来ます!」
固有魔法〝未来視〟の派生〝仮定未来〟で見た光景を伝えた。七海の教えた成果か、見える未来に集中時間はいらない。いま、彼女の中で、新たな力がつきそうだと感じているが、それはもっと集中できる時に試したいと、この場でそれは使わない。それでも充分助けになる。ティオはすぐさま身を捻り、迫り来る触手を回避した。
【クソっ失敗したのじゃ】
上手く避けることは出来た。しかし、そのせいで津波との差が詰まってしまった。
「そのまま飛んでくださいティオさん」
七海は残る呪力を振り絞る。拳に集中させて、そのまま剣を抜き、剣に一気に呪力が流れる。高い呪力が一気に流れ込み、器が壊れる前に、それを放出した。津波が一瞬だけ押し返されたが、またすぐ来る。
【助かったぞ、七海!】
ほんの数秒だが、追いつかれていた距離を離すには充分だった。
「いえ。しかしもう、呪力切れです」
「後は任せて、休んで。今なら距離を離せ――」
「いや、無理だ」
ユエの言葉を、ハジメが否定する。先程よりも更に高くなった津波がティオの頭上にあった。
「ちくしょう!全員固まれ!」
「ティオ、タイミングに合わせて竜化を解いて!ユエ、合わせて!〝聖絶〟‼︎」
「〝聖絶〟‼︎」
ティオの背でハジメは、ユエとシアと香織を抱きしめるように庇い、2人はすぐに上位の防御魔法を展開した。その直後、天災とも言うべき巨大津波がハジメ達を呑み込んだ。
ユエと香織の2人がかりでの〝聖絶〟。当然、結界の足し引きを考え、強度は外が9内部1とし、更に香織はあらかじめ完全詠唱をしていたので更に強度を上げる。これにより津波の衝撃を直接受けることはなかったが、それでも壮絶な奔流によって滅茶苦茶に振り回され、海中へと逆戻りとなった。
その〝聖絶〟も1枚は完全に粉砕され、もう一枚もヒビが入っており、もし1枚しか展開していなければ、今頃ハジメ達は海の藻屑になっていたかもしない。海に叩きつけられた衝撃に頭を振るハジメ達は、顔を上げて表情を更に険しくした。眼前に巨大クリオネがいたのだが、その巨大さは更に上がり、ゆうに20mを越えている。
「そんな、死なない上に、なんでも溶かして、海まで操れるなんて」
香織が絶望に顔を暗くし、それに同意する様にシアとティオも困ったような微笑みを浮かべながらハジメに最後のキスをおねだりする。だが、この状況下でも諦めていない者がいた。1人はハジメ。眼が爛々と輝き、狂的な殺意を宿して巨大化するクリオネを睨む。
もう1人は七海。じっくりと、巨大化していくクリオネを観察し続けて、その能力を考察する。
(肉体に魔力が覆われているのでなく、魔力そのものを肉体としている。まるで、呪霊のようだ)
そして今まで見た巨大クリオネの能力を整理する。
(1つ、魔法を魔力ごと溶かすゼリー状の肉体、これは魔力の練りを工夫することで防御可能。攻撃にも可だが再生する。2つ、肉体の肥大化。魔力そのものが増えているのでなく、おそらく再生。元の肉体の大きさになろうとしている。その証拠に、肥大化が少しずつ緩やかになっている。そして再生には限度がある。一度に大量に消滅したら時間がかかる。逃げた我々を追って来ないのがいい証拠。そして、弱点は恐らく、メルジーネで見た魔物と同じく火属性)
これらをまとめた情報を七海は提示する。
「南雲君、奴の肉体は魔力によって形作られている。奴の魔力そのものが魔石です。ある程度の自身の魔力がまとまっていれば、回復する。いま、メルジーネでいた時の分体でなく本体なら、弱点である炎で全身をこの場で粉々に破壊すれば、倒せるはずです」
「!なるほど。それで……ティオ!やれるか!」
ハジメは七海の考察で一気に確信へ行き着き、ティオに確認をとる。
「妾の炎は確かに高熱じゃが、この大きさを、しかも海中にいる状態で消滅させるのは不可能じゃ」
ティオの答えに、最初からわかっていたのか「だろうな」とハジメは呟く。
「なら、それができる物を作ればいいだけだ!」
「ハジメ、何か思いついた?」
「ああ。海中で火を使うには、これしかない。うまくいけば、倒せるはずだ」
ハジメのその言葉に全員の余裕が戻り、不安が消える。この世で最も信頼する男の言葉を、疑う者はいない。
【「だが、時間がかかる。それと集中したい。〝限界突破〟も使って集中力を上げるが、それでもかかる。5分、いや3分!」】
喋りながら〝念話〟を使う。余談を許されないこの状況下で全員に伝わるようほぼ無意識で使う。果たしてこの状況下で3分稼げるかわからないが、希望があるなら全力で頑張ると決めて、気を引き締めようとしていたら――
【3分だな。任せとけ、ハー坊】
全員の頭に、声が響く。知らない声に七海は困難する。
【この声は、リーさん⁉︎】
【おうよ。ハー坊の友、リーさんだ】
ハジメが見る方を七海も見ると
「魔物…ですよね?人面魚?」
オッサンみたいな顔をした文字通り人面魚の魔物がそこにいた。どうやらハジメだけでなくシアとも知り合いらしく、シアにも挨拶している。と、そうしていると巨大な影が横合いから巨大クリオネに体当たりを仕掛け、猛烈な勢いで押し返していく。
「ひっ」
香織もその人面魚のリーさんに悲鳴をあげ、ユエとティオは目を丸くする。
「南雲君、魔物との交友関係があったんですか?」
【オウ、なんだそこの!俺にはリーさんって名前があんだよ】
「それは失礼。それでは、リーさん。無駄話は好きではないのでお聞きしますが、時間稼ぎ、このまま任せても?」
【おいなんでぇハー坊、この男は?久々の感動の再会に水をさして、偉そうに】
【あー、俺の先生だ。真面目で堅物だけど許してくれ】
ハジメが言うとリーさんは【何ぃ】とキレる。
【おい先こう!てめぇハー坊が魔物しか食えねぇ貧乏だってのに、助けたことなかったのか⁉︎】
「どういう設定を言ってるんですか南雲君?」
【…リーさん、それは今はいいから……それより、マジで任せてもいいんだな】
【おう、任せておけ!俺の〝念話〟は、魔力を持たない海の生物を、ある程度操れんだ。あの魚群は、それで動かしてる。ハー坊は早くやる事やれ!その間、悪食はぜってぇ近付かせない!】
それを聞いてハジメはさっそく〝宝物庫〟から鉱石や魚雷を取り出して、錬成を開始する。
「あのいいでしょうか、りーさん?でしたか?なんでここに?それと悪食?あの魔物の事ですか?」
魚群が時間稼ぎをしているなか、シアが気になっている事を代表して聞く。
【ん?あぁ、この辺を適当にぶらついていたら、でっけぇ上に覚えのある魔力を伴った念話が聞こえたもんでよ。何事かと駆けつけてみりゃあ、この状況だ。あの悪食ってのは、遥か昔、太古から海に巣くう化け物……いや、天災だな。魔物の祖先って言われたりもする】
そんな話をしていると魚群全てを溶かして再び向かってくる。
「南雲君!」
「もう大丈夫だ!」
通常より大きな魚雷群、数120。それらを展開させて一斉に射出させる。今まで通りなら、多少の爆発ではすぐ再生するだろう。そして、捕食を邪魔するものを排除しようと触手を動かすがそれらを〝限界突破〟による超集中によって操って回避させる。
「お前は回避しないだろう?たらふく喰えよ」
巨大クリオネ改め悪食はどんな物も溶かす。だからかわす必要はない。その予想通り、悪食の全身に埋まるが、爆発せず、代わりに魚雷内部から黒い液体が流れてきて、悪食の全身に広がる。
「あれは?」
「フラム鉱石をタール状にした物だ。摂取100度で発火して、その熱は3000度になる」
「……リーさん、逃げてください。大爆発が起こります」
即座にハジメがしようとしてることに気付いた七海はそう告げる。
【ほんとか、ハー坊⁉︎】
【ああ。離れてろよリーさん】
慌てて全力で逃げる。それとほぼ同時にハジメは火種となる1発の弾丸を発射した。それが悪食に飲み込まれた瞬間、悪食の体内の黒い液体が一斉に紅蓮に染まり、大爆発を起こした。水上で巨大な水柱が立ち、衝撃で海が嵐のように荒れる。障壁も1つ完全に崩壊し、2つ目も大分ダメージを受けたが、すぐにユエが再度展開しなおす。その中でハジメは念入りに周囲を魔眼と〝遠見〟を使い、探査する。もうどこにも痕跡は残っていない。
「やったぜ」
〝限界突破〟が終わり、その反動がきて片膝をつくが、歓喜の表情をしていた。
「ようやく、一安心ですかね」
「ああ。どうにかな」
香織の癒しを受け頭痛を治しながら、七海に受け答えする。
【ったく、ハー坊。とんでもねぇ爆発だな。おもいっきり吹っ飛ばされたぜ】
【あ、リーさん。無事で何よりだ。助かったぜ】
【……それと、そこの先こう】
七海を睨みつつ言う。
【ありがとよ、警告してくれてよ。だが、これからは、ちゃんとハー坊のことを見てやれよ、大人としてよ】
「言われるまでもないです。あと、私は七海です」
【なら、ナー助って】
「七海です」
【ハン、やっぱり面白みのない奴だな】
「結構です」
対極的だなとハジメは思いつつ、改めて感謝する。
【リーさんが来てくれなかったら、マジでやばかった。ありがとうな。ここに偶然いてくれたことに感謝だな】
【ハー坊、積み重なった偶然はもはや必然だ。おっちゃんがお前さんに助力できたのも、こうして生き残ったのも、全部必然さ】
お互いにフッと口元を緩めて笑う。2人…否、1人と1匹。
「ハジメ君、異世界でできた男友達がアレなの?あんな意気投合してる姿、日本でも見たことないよ」
「おっさんで…あ、いや…魚ですけどね」
「どっちもでしょう、交友関係も普通じゃないとか…」
香織、シアに続く形で七海もツッコミをいれる。
話に区切りをつけたのか、リーマンは踵を返して進もうとしたが、何か思い出したのか、少し振り返り、シアに言う。
【嬢ちゃん、ライバルは多そうだが頑張れよ。子供ができたら、いつかうちの子とも遊ばせよう。カミさんも紹介するぜ】
「奥さんいるなら風来坊なのはよせばいいんじゃないですか?」
【ケッ、本当に気が合わねぇな。それをも受け止めてこその妻ってやつだろう】
「相手に依存しすぎなのもどうかとおもいます」
【ふん。そういうお前さんはどうだ?いい人でもいるのか?】
「…いませんね」
七海が言うと、ニィと笑い
【なら見つけてから言いな。意外と近くにいるもんだぜ】
言いたいことは言い尽くしたのか、リーマンのリーさんは去っていった。
「さて、ではエリセンに戻ると…どうしました?」
「いや、リーさんが結婚してるとは思わなくて…あと、正直俺等も家庭持ちの風来坊じゃダメ親父とおもうぜ」
「なら、いい反面教師としてください……って、遅いですかね」
「どういう意味だ!」
七海の至極真っ当な答えに反発するもの、今の現状がある意味リーさんよりもダメな域に行くと判断するのに時間はかからないハジメであった。
ちなみに
以前縛りに関してのことを後書きで書きましたが、今回追加として、敵に言うのと味方に言うのでは出力の違いが出るということにしてみました。当然敵に言う方が出力高いです
ちなみに2
シアの術式を見たユエ&ティオの感想
ユエ「血は争えないのか」
ティオ「呪力が見えんから何しているかはよくわからんが、シア、顔が怖いぞ」
戦闘終了後のシア
シア「死にたい」
最後に、敬礼!(T^T)ゞ