ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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アニメ呪術廻戦の戦闘が凄すぎて笑った!人は感動すると泣くか、笑うかですが、あまりの作画の良さと戦闘描写の良さに笑ってしまいました。最高すぎるw

七海出番少ないです。あと、ここら辺の話からは本当に難しくなるからマジで大変!でもワクワクしてる自分がいる。

その最大の理由として、シアの術式を出せるからです。あと、もう少しです




魂飛魄散⓪

場所は王都。時間は、少々遡る。

 

「辻さん、鈴の容体は?」

 

「まだ目覚めない。お医者さんも、外的異常がないなら、これ以上は…って」

 

雫は「そう」と悲壮な声を出す。先日の魔人族襲撃以来、さまざまな変化があった。1つは光輝達の、特に光輝本人の『人を殺す』ということについての浅慮をどうにかするということ。

 

人を殺す覚悟を、七海に問われていた。雫が聞き及んだところ、できると答えることができたのは4人のみだったそうだ。だが答えることができなかった者達も、理解はしていたし、本当にその時が来たら、そうでもしないと生き残れないならと考えていた。だが光輝は違う。魔物退治と同様、もしくは悪事をした悪者を成敗するヒーローと同様な感覚だったのだろう。

 

他の者達も、最初の殺しを七海が引き受けようとしていた事を聞き、理解した。背負うという意味、その覚悟を。そして、ハジメと七海達が既にこの世界で人を殺したという事実が、「自分達にはできるのか?」という自問自答を起こす。

 

あの日以降、対人戦の訓練が中心になった。七海の訓練のおかげで、戦闘面は大丈夫な者も、動きに躊躇が見られていた。その躊躇を和らげる為に、七海は自身との対人戦をさせていたのだと気付く者もいた。順序を立てて行動していたのが、一気に瓦解していた。中でも光輝の方は酷く、訓練とはいえ戦闘中に吐くこともあり、食事量は激減し、やつれてもいた。壊れかけている勇者を、どうするかで、王国は揺れていた。

 

2つ目が、ハジメと七海に異端者認定の話が出たこと。全ての人間に法の下の討伐が許されるという教会の有する強大な権限の一端。神敵となった者には一切の許しはなく、その者に対しては何をしても許され、庇った者も異端者として認定される。これらの話を以前リリィから伝えられた。あくまでまだそういう話が出ただけで、すぐに認定されるわけではないが、噂が流れてしまえばどうなるかわかったもんじゃない。

 

だがハジメがウルの町で見せた脅威的な強さと武器。他の者達の異常な能力。そして、最初から敵対心を向けていた七海。これ幸いにとハジメのついでに異端者認定するのも悪くないだろうと考える者は確実にいる。遅かれ早かれ、異端者認定はされると雫は踏んでいた。

 

そして3つ目が未だに目覚めない鈴のこと。医者は匙を投げ、死なないような処置をするのみ。だがこうも目覚めないのなら、処分もという声があったそうだ。表立って言ってるわけではないものの、リリィ本人もその会議の場でキレそうになったとのことだ。

 

だが、実際目覚める気配がない。1つわかることは、〔+視認(上)〕を保有し、香織ほどではなくとも治癒師としての腕がある辻が、少しずつ回復魔法をかけつつ〝廻聖〟で魔力を鈴に渡すと、鈴の魔力が一時的に活発になるということ。これだけだ。

 

「ありがとう、辻さん。ずっと診てくれて」

 

「そんな、当然のことをしてるだけだよ。中村さんの方も心配していつもお見舞いに来てくれてるんだけどね」

 

「……と、ところで、最近野村君も訓練に出なくなったけど、何か知ってる?」

 

暗い表情になる辻を見て、雫は話題を変える。

 

「……ううん知らない。元気がない事が多いけど、聞いても何でもないだから」

 

雫が言う様に、野村の様に脱落した者は何人かいる。檜山グループもその内に入る。だが――

 

(本当に何をしてるかはわからないけど、七海先生の言葉もあるなら、きっと何か行動してるはず。信じるしかない)

 

縛りによって雫にも、協力している者同士でも連絡はできない。信じることしかできないが、それでも辻は信じたい。自分が鈴の為に動くように、野村がきっと何か行動してくれていると。

 

「そうだ、愛ちゃん先生も今日帰ってくるんだよね?」

 

「ええ。早馬でウルでの事は聞いたけど、七海先生と何があったとか、色々と聞いてみないといけないわね。まぁ、あの人のことだから、愛ちゃん先生に迷惑がかからない様な配慮とか、してるんだろうけど」

 

当然辻は知っているが、これも答えられない。心の中で

 

(ごめん、八重樫さん)

 

と謝罪するだけだった。

 

 

翌日、愛子達が帰還したのだが、棺桶の様な物が運ばれていたと聞き、雫はマッドとパーンズに問い詰めたが、

 

「我々から、言っても良いなら話しますが」

 

とマッドは冷静な表情でいう。現実を受け止める事ができるかと問われた。雫は少し考えて頷き、そして、清水の暴挙と、その死を知った。更に詳しく知る為、早足で愛子の下へ向かう。彼女の今の精神状態も心配だからだ。

 

「先生!」

 

「あ、八重樫さん…お、お久しぶりですね。元気でしたか?怪我はしてませんか?他の皆も無事ですか?」

 

自分の部屋へと向かう愛子の顔は、最初は沈んでいたが、雫を見た瞬間に嬉しそうな表情で、生徒の心配をするのを見ると、やはりこの人も教師だなと安心する。

 

「あの、先生、私の方なんですけど、つい先日、南雲君達と、七海先生が」

「にゃ⁉︎」

 

「ほえ、にゃ?」

 

なぜ猫語と思うが、つい最近可愛い猫を見つけて猫語になっていたところをリリィに見られた雫は一瞬恥ずかしさがでて、それをぶんぶんと首をふって回想にふけるのを回避した。愛子の方もつい最近に生徒に言われたのもあって、妙に七海を意識しているのを首をふって回想を回避した。結果、廊下で首をぶんぶんとふる2人という妙な光景があった。

 

「と、とにかく情報交換しましょう!」

 

「そうですねそうしまう!」

 

妙に早口に2人はそう言った。

 

 

「そうですか。南雲君と七海先生はまた旅に……それに、天之河君が…」

 

「清水君の方も、残念なのもありますけど……」

 

これまで、信頼していた七海の行動。それの意味も、きちんと2人は理解している。それでも――

 

「七海先生、たぶん私達に話してない、話せない事が、まだあると思うんですけど、八重樫さんはどうですか?」

 

「それは私も思います。さっき聞いた清水君が死に際に言ってた言葉も気になりますし、何より、私達を元の世界に帰す為の手段が見つかる可能性があるって言ってましたけど、それに関して何か知ってますか?」

 

と、ここで愛子は疑問を感じた。ハジメはともかく、七海がこの世界の狂った神、エヒトに関しての情報を告げていないことに。

 

(確かに、今の天之河君達の行動に大きな影響が出るし、何より信じ難いことだ。けど誰にも話してない?七海先生のことだから、信頼できる人には話して、何かしらの行動を促しているかと思ったんですが)

 

愛子の考え通り、七海は信頼における数名に話しているが、情報漏洩を防ぐ為の縛りを結んでいる。しかし、その中に雫は含まれていない。

 

(けど、根拠なしに話して現状の七海先生が疑われる余地を作らなかったと考えれば、納得はいきますね)

 

愛子はそう思い、更に数秒考えて、話そうと決断した。自分から話せば、七海の信頼を落とす心配はない、少なくとも雫なら。という判断だ。

 

「先生?」

 

「八重樫さん、1つ聞きます。あなたは南雲君を、七海先生を、今でも信用して、信頼してますか?」

 

それでも、愛子は一応、聞いておかなければならない。一度は七海に疑心を抱いた身として。

 

「正直、思うところはありますけど……あの時も、今回も、助けてくれたこと。これまでにしてくれたこと。それに…」

 

「それに?」

 

「今考えると、この世界に来る前から、あの人は優しい人だったなって」

 

以前、七海が雫の家庭訪問をした際、剣道の大会で優勝した件に触れつつ――

 

『しかし、本気で励むなら、もう少し自分の意思を出しておきなさい』

 

そう言った。雫はあの言葉の意味が、今ならわかる。きちんと言わず、濁したのは、きっと家族がいたからだろう。

 

「だから、私はあの人のことを信用してますし、信頼してますし、尊敬できる大人だと思ってます」

 

「………そうですか」

 

それを聞いて、どこか嬉しそうに愛子は微笑む。そして、表情を変える。真剣な、そして、苦虫を噛み潰したような顔で。

 

「まず、先程私は陛下に今回の件を含めて報告に行って来たんですが………南雲君と七海先生が、正式に異端者認定をされました」

 

「…は?」

 

雫は一瞬何を言われたかわからなかった。いや、理由はわかる。ハジメの能力は強大。未知のアーティファクト、現代兵器をほぼ無尽蔵に作り出し、大群の魔物を殲滅し、その仲間達も強大な力を有しているが、聖教教会に非協力的で、場合によっては敵対も厭わないスタンスを取っている。七海の方はトータスに来た当初から彼らに敵対心を向けていたし、以前出していた条件も自分から反故にしたのだからこれもあり得た話。だが、

 

「あまりにも浅慮…というか、判断が早すぎます」

 

「ええ。七海先生も、皆さんを元の世界に帰す為の行動をすれば、異端者認定をされる事はわかってました。更に今私に、豊穣の女神という名がつけられて、南雲君がその女神の剣と言われていて、その名が相当な広がりを見せているのも護衛の人から聞きました。だからこそ、それをある程度軽減できる存在である南雲君達に就くことで、七海先生は異端者認定される時期を延ばせると踏んだんでしょうし」

 

こんな早くに異端者認定をすれば、自分達を救ってくれた存在、豊穣の女神そのものを否定してしまう行為になってしまう。多くの離反者が出てもおかしくなく、国そのものが揺るぎかねない。

 

「だというのに、私の抗議を簡単に無視できないのに、強引に決定を下した。これは、あきらかにおかしいです。それに、イシュタルさんはともかく、陛下達王国側の人達も、様子がおかしかった気がします。そして何よりこれを放置すれば、まず間違いなく、南雲君達にあなたがたが差し向けられる」

 

「!……一応言いますけど、まっぴらごめんです。今の南雲君と敵対するのもですけど、七海先生と戦いたくありません。きっとそれは、他の皆も」

 

「でしょうね」

 

ハジメは敵対してくるのであれば容赦しない。七海も自分の生徒と戦いたくはないだろうが、痛めつけて戦闘不能くらいにはできる。更に彼女達は知らないが、もし縛りの効果で、南雲が本気で敵対し、七海が反発しても、それをハジメが受け入れないなら、七海も彼らに容赦はなくなる。どうにかしようと必死にはなるだろうが。

 

「以上の事を踏まえて、八重樫さん。ウルの町で、南雲君が自分が話しても信じないどころか、天之河君あたりから反感を買うだろうと予測して、私と七海先生にだけ話してくれた事があります。教会が祀る神様と南雲君達の旅の目的、すなわち、七海先生の言う、帰る手段についてです。証拠はない話ですが、とても大事な話なので、今晩…いえ、夕方、全員が揃ったら、先生からお話しします」

 

「それは……わかりました。なんなら、今からでも全員招集しますか?」

 

「いえ、教会側には知られたくない話ですし、自然と皆が集まる夕食の席で話します。久しぶりの生徒達と水入らずでと言えば、私達だけで話せるでしょう。………七海先生が皆さんに話してないということは、巻き込む可能性があったからだと思いますが、状況が変わった今、話しておきます」

 

雫は納得し、その後は愛子と軽く雑談を交わして別れた。だが、事態は、愛子の考え以上に急変していた。

 

その後、愛子の姿が消え、夕食に来ることはなかった。

 

 

さらにその2日前。

 

(なんだ、何が起こっている)

 

メルドはここ最近見られる兵団の異変を独自に調べていた。〝虚ろ〟と呼称しているその症状は、簡単に言うなら無気力症候群。仕事はきちんと果たす、受け答えもする。だが、明らかに以前と違っており、覇気がなく、笑わなくなり、人付き合いも最低限となって部屋に引きこもることが多くなった。最初は兵団の数人、その後徐々に増え、遂には発言力の強い貴族や騎士団の分隊長にも見られる。

 

当初メルドは国王に本格的な調査を具申するつもりでいた。だが、ここ最近の国王の異常に増している覇気。目に光はないのに、神への傾倒が目立つ発言が多い。以前のメルドなら、傾倒しすぎの様な気はするが問題はないだろうと高を括っていただろう。だが、できない理由があった。

 

(信じたくはないが……いや、だが、もし本当に、建人の言う通りなのだとしたら)

 

あの時もメルドは普通なら戯言と吐き捨てただろう。七海だからこそ、そう言えず、疑問がメルドの信仰心を侵す。相手の信じるものを、真っ向から、しかも証拠を示すものもなく否定するなどするかという、疑問。

 

(いや。今のこれと関係はない。関係…ないと、してもだ。間違いなく何かしらの影響が出ている。攻撃と考えてまずいいだろう)

 

攻撃という確信はないが、攻撃を前提として考えるべきだ。仮に違っても、気が抜けてた者達に叱咤すればいいだけのことだ。

 

(他にも、動かせる者にして信頼できる者……副団長のホセ…いや、騎士団トップが動けば、怪しまれる。以前の魔人族のように透明化して攻撃しているなら、今の俺も監視されているとみたほうがいい。さらに、ここまで発言力のある者達を〝虚ろ〟にしたなら、いずれ俺やホセにも行使する可能性が高い)

 

だからといって個人で動くのも限界がある。なら、信頼できて、発言力はあまりなく、兵団に属している者。それと、生徒達――

 

(いや、流石にそれはダメだな。ただでさえあいつらはメンタルが落ちてる。これ以上迷惑はかけられんし、建人の許可もなく巻き込めん)

 

色々考えながら自室に着いたメルドは自室のデスクの引き出しを開け、とある人物達への手紙を書く。1人はアンカジ公国のゼンゲル公、もう1人は少年とその教師に宛てて。ゼンゲル公を通じて届くかもしれない程度ものだが、賭けてみるにはいい。何より――

 

(縛りをこんなにもすぐに使うとは)

 

七海との間に結ばれている縛り。七海のこの世界の狂いし神のことと、旅の目的等の発言を聞かなかったことにして、話さない(ただし、マッドとパーンズを除いて)その対価として、七海はメルドのお願いを聞き入れる。ただし、七海はハジメとの縛りで行動はある程度の制限があるので、ハジメの許可をもらうように働き掛ける。

 

現在のハジメの行動する理由はわかっているが、七海との現状の関係も考えれば、絶対無理ではない。あとは、どう呼び出すかを考えるのみと考えつつ、とりあえずゼンゲル公宛の手紙を書き終えたメルドは「ふぅ」と小さく息をこぼすと、ほぼ同時に部屋がノックされる。

 

「誰だ?」

 

警戒心を押し込めつつ、武器を取り言う。

 

「…あの、メルド団長。俺です。檜山です」

 

「大介?どうした、こんな時間に」

 

「その、おれ、どうしても、メルド団長に相談したいことがあって」

 

切羽詰まっているかのような、もしくは弱りきったような声をだす檜山に、訝しみつつ部屋の扉を開けると、ぽつんと檜山が突っ立っていた。

 

「相談と言っていたが、こんな時間にか?」

 

「すいません。迷惑だと思ったんですけど、クラスの連中には、あまり聞かれたくなくて」

 

「……そうか。いや、迷惑じゃないぞ。さぁ、入れ」

 

部屋に招き入れてソファーに座るように勧めたメルドの言葉に従い座る檜山だが、中々話しだそうとせず、背を丸めて俯き、貧乏揺すりをしている。

 

「大介、上手く話そうとしなくていい、思ったことを言ってくれればいい。俺でどうこうできる問題かはわからんが、それを一緒に考えてやることくらいならできる」

 

慰めの言葉を言っても、檜山の貧乏揺すりは収まらず、落ち着く様子がない。とりあえずもう1度声を掛けようとしていたのだが、扉から再びノック音が聞こえ、檜山の時と同じく聞くと、副団長のホセが緊急の報告があると言って訪ねてきた。タイミングが悪いなと思い、檜山の方をチラリと見る。

 

「メルド団長、いいっすよ。話が終わるまで、俺、廊下で待ってますから」

 

「……そうか、すまんな、大介」

 

申し訳なさそうにしながら言い、メルドは扉に手をかけてノブを回し、扉を開けた。そこには確かにホセがいた。もう見慣れた〝虚ろ〟の表情になったホセが。

 

「っ⁉︎」

 

本能的にメルドの身体が警戒音を鳴らし、身を逸らす。瞬間、騎士剣による凄まじい突きが通り過ぎる。

 

「ホセ!どういうつもりだ⁉︎」

 

怒声を上げて言うも、ホセは返事の代わりに袈裟斬りを仕掛けてくる。

 

転がるように回避したメルドは自分の騎士剣を手に取り、ホセの斬撃を受け止める。剣と剣がぶつかる音が室内に響く。

 

(やはりこれは、洗脳だったか⁉︎)

 

メルドはホセに突撃し、防御ごと押し返したことで、僅かに姿勢が崩れる。あとは体当たりで組み伏せようとするが、ホセは急に視線を逸らし、檜山を見る。怯えて、戦意を喪失している檜山を見てそちらに狙いを変えたのだと判断して、内心で舌打ちしつつ急速転進し、ホセと檜山の間に立つ。無理な姿勢からの方向転換に身体が悲鳴をあげるが、それを無視してさらに踏み込む。

 

(⁉︎なんだ、ホセのこの力!)

 

団長として、副団長のホセの剣技は熟知しているが、本来ならこのような力のある剣撃ではなく、どちらかと言うなら柔らかな動きに速さと技術を重ねた剣技。だというのに、今のホセはその技術と共に(・・・・・)一撃が重くなっており、純粋な力が体格の大きいメルドと同等だった。

 

「耐えてみせろよ、副長!」

 

後ろに守るべき対象がいては回避もできない。押し返すには体制が悪く、膂力は発揮できないうえに、相手の力もどういうわけか自身とほぼ同等。ならば魔法で吹き飛ばすとし、大怪我を負わせるのを覚悟してホセに魔法を放とうと詠唱した瞬間、背中に衝撃(・・)が走る。

 

「なんっ、で」

 

それは、メルドが言いたいことだが、言ったのは檜山。彼は短剣を持ってメルドを背後から突き刺そうとしたが、その短剣はメルドの身体を貫くことはなく、突き刺した場所から砕ける(・・・・・・・・・・・・)

 

「大介、お前!」

 

血走った目で睨む檜山を見て全て察する。檜山はこの〝虚ろ〟現象の原因と密接に関係していると。

 

(流石に黒幕ではない。大介の気量から考えて、1人でやったとは思えない。おそらくこれは闇魔法の部類で、適性のない檜山にはできんしな)

 

衝撃で一瞬止まったが、魔法はまだ中断してない。メルドは残りの詠唱を終え真下に手を向ける。

 

「〝風槌〟!」

 

圧縮された空気の砲弾が凄まじい勢いを衝撃音と共に放たれ、破片と暴風がメルド含めて3人に撒き散らしていく。

 

「むぅおう!」

 

メルドは床に叩きつけられる瞬間に回転して衝撃を殺し、そのまま立ち上がり機敏に動く。もしあの時檜山に刺されていたら、致命傷だろうとそうでなかろうと、ここまでの動きは出来なかった。加速し、檜山にタックルをかます。

 

「ゴッ⁉︎」

 

檜山は、オルクス大迷宮ではメルドよりも深い階層まで潜れるが、それは他のメンバーあってのもの。もちろん召喚された者故に、ステータスではメルドに勝てるだろうが、お生憎なことに、対人戦の経験の低さと、場数を踏んできた経験がまるで違う。まったく対応できず、不細工な声を出して吹っ飛び、壁にぶつかる。

 

「ゴハッうっ…く、そがぁぁ!」

 

檜山が叫んだと同時に兵が部屋に雪崩れ込む。〝虚ろ〟となった兵士達が。

 

「チッ。こちらの動きは筒抜けだったかっ」

 

3人の兵士に囲まれても、メルドは冷静にその動きを観察して回避し、まず1人目に脇腹に鋭い蹴りを入れて、その勢いで吹っ飛ばし、残り2人と起き上がったホセが向かってくるが、後ろから来るホセの方に向き、牽制の詠唱なしの風の魔法を当てて一瞬だけ怯ませ、その瞬間に近づいて背負い投げで2人の兵士にホセを投げ飛ばしてまとめて倒し、尚も向かおうとぴくりと動くのを見て、今度は詠唱してもう1度〝風槌〟を受けて兵士共々部屋の端に打ち付けられた。

 

「技はあるが、いつもの調子ではないな。力任せの剣技で、俺を倒そうと思うな。副長の名が泣くぞ」

 

正直、他3人の兵士も膂力が信じられないほど上がっていたが、その膂力に振り回されている感が否めない。もしこの膂力プラスで元からある技術を加えられていたら、どうなっていたかわからないだろうとメルドは思う。

 

(それにしても、またお前に助けられたな)

 

メルドが背中の物をくれた人物、七海に感謝をしていると――

 

「くそがっ!副長まで用意したのに、この様かよっ!つうか、なんでこっちの剣が砕けるんだ!化け物かよ!」

 

咳き込みながら悪態を吐く檜山。そんな彼を、メルドはどこか悲しそうな眼差しで見やる。

 

「建人じゃないが、過大評価だそれは。単純な経験の差だ。対人戦闘のな。それと、俺の身体を貫けなかったのは、とある友人の贈り物のおかげさ」

 

もうこれまで、降伏しろと、言葉に出さずとも雰囲気で伝える。それは檜山もわかったが、

 

「なに、勝ち誇ってんだ?」

 

血走った狂気の目。それは、既に引き返せないところまで堕ちてしまった者が見せる目。メルドは檜山に何か言おうしたが、それを口に出す前に、信じられないことが起きて口を噤む。

 

「なっ⁉︎」

 

ゆらり、ゆらり、ゆらりと、兵士とホセが起き出す。致命傷ではないものの、痛みで動くことはままならない程のダメージは与えたつもりだったのにだ。起き上がるホセ達は痛みなどまるで感じないかのように、〝虚ろ〟の目をしたまま、起き上がり、剣を向ける。

 

「無駄だっつの。ひひっ。そいつら、死んでも止まらないからさぁ‼︎」

 

更に〝虚ろ〟の兵士が2名部屋に入り、その扉の向こうにも騎士や兵士が見える。誰も彼も〝虚ろ〟な目をしている。

 

(クソっ。もっと早く気付くべきだった。これだけの騒音を撒き散らして、誰も駆けつけないことに!)

 

おそらく何かの結界で振動や音を抑えているのだろうと判断し、自身が完全な袋のネズミとなっていると察する。

 

(これほどの工作を、よもや王国の中枢で仕掛けられるとはな…王宮の防御態勢を過信したツケか)

 

人間族と魔人族が数100年拮抗していた防御を破られるとは考えていなかったメルドは、ここで自分のなすべきことを決断する。

 

(決死の覚悟でなく、生き残る覚悟。何がなんでも生き残ってこの事実を伝えなければ)

 

「もう諦めて死ねよ、メルドだんちょぉぉ」

 

歪みきった表情で檜山が言う。出入り口は塞がれ正面には〝虚ろ〟の兵士と騎士達に追い詰められた状況、だが――

 

「退路はある!」

 

メルドは踵を返して窓に向かい、そこに向かって跳躍し、体当たりで窓ガラスごとぶち破る。

 

「〝風壁〟!」

 

風圧の魔法で落下速度を減速させて、メルドは着地した。当然だが檜山達が追ってくることもわかっている。それでも、上級魔法の詠唱時間くらいは稼げた。だがそれは、攻撃ではなく信号弾。盛大な閃光と爆音を空に放ち、無事な騎士や兵士を駆けつけてくれると信じて。

 

「天地染める、紅蓮の…!」

 

詠唱を止めた。違う、止められた。檜山達はまだ追ってきてない。飛び降りた庭には誰もいない。妨害を受けたわけでもない。生物としての本能で、動くのを拒否したのだ。息を潜めろと、厄災が通り過ぎて行くのを待てと。

 

「国王の事と言い、騎士団長の事と言い、詰めが甘いと言わざるを得ません。やはり、所詮は人間のすること。手を貸さねばなりませんか」

 

不気味な程、恐ろしい程、綺麗な声。だがそこには何の感情も伝わってこない。その声を聞き、ようやくメルドは動く。ギギと、機械のように鈍い動きで。声の主は空にあった。

 

「………っ」

 

言葉を忘れるような美しさ。月光を背負うその人影には、一対の翼、銀色の翼。人外の存在と、自身との圧倒的な格の違いを、見ただけで理解する。

 

銀色の光が集まって、小さな月のように輝く。美しく、恐ろしく、凶悪な光の月。

 

「……神よ」

 

ほぼ無意識に、生まれてより信じてきた神に、メルドは縋る。

 

「はい。これが、主に望まれたことです」

 

その存在が言った瞬間、銀の月が降り注ぐため、構える。信じた、信じていた神が望んだという、自身の死を成すために。

 

(後は頼む……なんて言わんさ。あれは、お前らの敵、存分にぶちのめせ………俺は)

 

死が迫る瞬間、メルドはようやく、七海の言っていた事が真実だと確信した。故に、

 

「最後は足掻かせてもらうぞぉ!」

 

背中の物に瞬時に手を伸ばして、それを出す。

 

「?………っそれは」

 

「ただの鈍だ!」

 

 

 

以前七海がメルドとの縛りを結んだあと

 

『メルドさん、あらためて感謝を。あぁ、そうだ。これを、お返しします』

 

『ん、その剣か?まだ持っておけ。少しくらいは役立つだろう』

 

『そうですか………では、代わりに……なんて言える代物ではないですが、こちらを』

 

七海が背から取り出したのは、先程までオルクス大迷宮で魔物相手にも使っていた大鉈。

 

『こりゃ、お前が愛用してる…って、呪力もねぇ俺じゃ本当にただの鈍だろ』

 

魔力で強化する手もあるが、些か不便であるそれを、わざわざ渡してくる七海に苦笑して言う。

 

『ちょっとまってください』

 

七海は次に自分の身につけているネクタイを外し、それを大鉈に巻いていく。刀身すら見えなくなったそれは、もはや切る事すらできない鈍以下だろう。……本来なら。

 

『この大鉈は、南雲君が作った時から、上がった私の呪力を注いでほぼ呪具化しました。そこに、このネクタイ…これはこの世界に来る前から呪力を6年以上注いで完全な呪具と化して、それでも尚、この世界で上がった私の呪力を注ぎ、膨大な呪力を溜め込んだ、所謂呪力内蔵庫になってます』

 

『………つまり?』

 

まだよくわからないメルドは聞く。

 

『完成された呪具なら、たとえ呪力がなくとも、呪力を扱うのと同等だと言うことです』

 

『んんん?……でも、元は鈍だろう?』

 

『なるほど……遠藤君、その短剣、アーティファクトですよね?』

 

『え、あ、はい』

 

『それを使い、この大鉈に切り掛かってください』

 

今まで聖剣相手でも呪力を込めたことで受けてきたのは知っているが、どういうつもりだろうと考えるが、とりあえず言われた通り、すっと出している大鉈の峰の部分におもいっきり力を込めて振った。

 

『『『えっ⁉︎』』』

 

『なぁ⁉︎』

 

聖剣ほどでなくとも、王国にあった自慢のアーティファクト。それがただ打ち付けただけで砕けた。膨大な呪力を込めた呪具が二つ重なった状態。多くの年月をかけて、更に呪力を込めきたそれは、強度だけなら、流石に特級にいかずとも、1級呪具レベルはある。

 

『この通りです。ただ、本来ならこれも魔法と同じで、込めすぎることで器が維持できなくなり、砕けてもおかしくない。ある程度の衝撃に耐えて、近接戦闘はできるでしょうが…ネクタイの呪力がまだ未完成に近い大鉈に流れ、1つの形となって安定してます」

 

これに更に呪力を注ぎながら運用できるのも、呪力を扱う者としての心得だと言う。

 

『って、そうなると余計に俺には使えんだろう!』

 

『ええ。しかし、斬り合う物として使うのでないとしたら?』

 

『?』

 

『戦闘の際は、強度の高い打撃武器として使えますし、防御としても、それなりに有能ですから、少なくとも、武器として全く使えないことはないです』

 

 

 

呪力の見えないメルドには、銀色の光が自身の正面で止まっているようにしか見えない。だが実際は、大鉈とそこに巻きつけたネクタイから、膨大な呪力が放出され、押し留めていた。

 

「こ、これは」

 

メルドは知らないが、呪力と魔力が同時に付与された時、膨大な力が働く。意図してやったわけではないが、メルドはその呪具に魔力を込めてしまった。結果、互いの力が暴発し、エネルギーが放出された。

 

「これは、その力は…………しかし」

 

銀色の光は呪力を押し返して、近付いて来る。大鉈から出た威力は1級レベルで、相手は特級レベル。相手が出力を上げてしまえば、それまでだ。

 

「その存在は、許さない。予定は変わりますが、完全に消滅させます」

 

(ここまでか……すまん)

 

大鉈とネクタイが弾けてメルドが光に飲み込まれた。

 

「まさか、あの力は」

 

魔力とは違う力に阻まれた。その力を、その存在はこれまで見たことはなかった。だが、情報がまるでないわけではない。

 

「もう1人のイレギュラー……まさか」

 

煙が晴れて、その場所の一部が消滅している。それを確認した後、霊山に向かい、銀の翼を羽ばたかせ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、俺が受けた事だ」

 

それは、広大な大地が広がる場所。そこに1人の少女の隣にメルドがいて、その正面には、

 

「で、なんで生きてんだよあんたは」

 

続きをさっさと言えという顔をするハジメと

 

「気にはなりますが、そんなイラついた顔で言う必要ないでしょう」

 

と冷静だが、隣の少女から聞いた情報に、少し焦りを内面にしまい込む七海がいた。




ちなみに
魂飛魄散: 激しく驚き、恐れること。
驚くのは誰で、誰が何を恐れるのかがポイントです

ちなみに2
メルドから貰った剣も呪力を注いでますが、呪具化するにはまだまだ時間がかかります。また、呪具ネクタイももう無いので、実質七海の戦力は現状落ちてますが………

ちなみに3
もう1度言いますが、メルドが生きていることで、結末が変わるキャラがここから出てきます。原作より酷い目に遭う奴が大抵だけども。でも1人は、わかるよね?
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