ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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本誌の次のタイトル予想『バカサバイバー・舞い上がれ』

あとアニメヤバすぎ。作画限界突破ですわw



シアの術式出せなかった。悔しい。けど、次回は本当に、確実に出せます。つか、出します


魂飛魄散②

三角座りで小さな身体を更に小さくして顔を埋めていた愛子は、少しだけ顔を上げて周囲をみる。広さは大体、六畳一間程。少し汚れている木製の椅子とベッド、小さな机、むき出しのトイレ。一昔前の牢獄を思わせるような空間に彼女は捕らえられていた。

 

「私の生徒が、しようとしていること」

 

それは彼女を連れ去った修道女の言葉。何かとんでもない思想が蠢いていることはわかるが、それを生徒がしていることが、更なる不安となる。ウルでの清水の時のように、大勢の人が巻き込まれるような……否、それ以上の事態になりそうな、そんな予感がするのだ。

 

「それに、イレギュラーの排除って……」

 

意識を失う寸前に聞いたその言葉。思い当たる人物がいる。1人は圧倒的な強さと、強い意志を秘めていても、本来の優しさを失わず、愛子の言葉に耳を傾けてくれた男の子であり、生徒の1人、南雲ハジメ。そしてもう1人。そのハジメを見ても、何も動揺することもなく、彼の根幹にある優しさを信じた男性。愛子とは違う形で常に生徒を想い、寄り添い、誰よりも尊敬している同僚。そして、そんな生徒を最低な形で死なせた人

 

……そうさせてしまったのが愛子の存在なのだという事実。

 

(私は、結局、あの人のことを、何も知らない)

 

あのような考え方は、常人にはできない。多くの人との関わりと、多くの負と向き合ってきた人だからこそ出来ること。清水は正直最悪な死に方であったが、そこに対しても逃げずに、真摯に彼の呪いの言葉を受け止めていた。

 

(あの時、私は、逃げた。あの人から。あの人がどうしてああしたのか、何も知らず、何を想っているかも知らず、勝手に拒絶した)

 

愛子は会いたかった。もう一度、会って話したい。話して、自分もそこに、彼の隣に立ちたい。その想いが加速していく。

 

「………七海先生」

 

「……気付かれてますよ南雲君」

 

「ほえ⁉︎」

 

「あれ?おっかしいなぁ。機能としては充分だと思ったんだが」

 

「あえ⁉︎」

 

無意識のうちに呟いた相手の声がしたと思ったら、その考えを悟られたと感じるほどにすぐにもう1人の声もしたせいで、愛子は連続で素っ頓狂な声を出してしまい、その声の主がどこにいるかとキョロキョロしまう。

 

「こっちだ先生」

 

声がしたのは鉄格子が嵌っている小さな窓から。そこにはハジメと、黒いフードを被っているが、そこから見えた顔でわかる。

 

「南雲君に、な、七海先生⁉︎え、ここって…え⁉︎最上階で…え⁉︎」

 

「落ち着いてください畑山先生。今南雲君が罠がないか確認し終えるので、詳しくはその後で」

 

ハジメは魔眼石で部屋にトラップの類がないのを確認し、錬成で人が通れるだけの穴を開ける。それに唖然としながらも見ると、2人が宙を浮いて、そこに見えない足場があるかのように歩いて2人は中に侵入したのを見て、ハジメのアーティファクトであろうと判断した。

 

「なにそんな驚いてるんだよ?七海先生に気付いてたなら、俺が来てることも気が付いてたんだろ?」

 

黒いフードを脱いだ七海を、サングラスをかけているが、やはり彼だと愛子は認識する。ハジメ製作呪具『暗路(あんろ)』。フードを被っている間、呪力、魔力、気配の全てを遮断する。感知するには相当の感知能力を持ち、尚且つ集中が必要なのと、そこにいると最初から認識していることが前提だ。

 

「君には気付いてなかったんじゃないですか?私の名を呼んだ後に君に気付いてましたし」

 

「あ、そうか。くそっ!上手くいったと思ったらこれだ」

 

〝空間魔法〟、〝再生魔法〟、黒閃。これらのきっかけによってハジメの〝呪具錬成〟は大きな変化を見せていたのだが、未だ到達できていないのだと考えていた。

 

しかし、当然の事だが愛子は七海の気配に気付いていたわけではない。偶然だ。件の人物を想って呟いてしまったことなのだが、そんなこと言えるはずもなく、即座に話題転換を図る。

 

「そ、それよりも、なぜここに…?」

 

「リリアーナさんとメルドさんから現状をお聞きし、助けにきました」

 

「え、わ、わた、私の為に?」

 

赤面している愛子を不審に思い、七海は残穢を見ようとするが見えず、洗脳の類の魔法は受けてないと判断し、ハジメの方も確認をして大丈夫だと判断した。

 

「それは…失礼」

 

拘束具であるアーティファクトを見る為、七海が愛子の手を取る。

 

「うひゃぁ⁉︎にゃ、にゃ、にゃにゃみ先生⁉︎」

 

((猫?))

 

ハジメと七海がそう思わせるような声を愛子は出すが、とりあえず七海は無視して、愛子の腕を持ち、つけられているアーティファクトを見る。

 

「魔力を封じる物ですね。作りとしては高度で、強度もありますが……罠の類は?」

 

「七海先生も見てるならわかるだろ?大丈夫だ」

 

一応、七海は自分よりも優れた視認能力を持つハジメに確認をしてから、鍵を差し込むであろう部分を見つけ、そこを起点にするように、アーティファクトを引きちぎる。

 

「これでよし……?畑山先生?」

 

「ほぁ⁉︎す、しゅみません!」

 

(本当に大丈夫なのか?)

 

なぜか頬を赤くしている愛子を七海は心配するが、単なる動揺である。

 

「そ、それより、さっきリリアーナ姫と、メルドさんって」

 

「ええ。2人とも無事です。今はリリアーナさんはユエさん達と共に行動し、メルドさんは王都で別行動をとっているはず。王宮内は日に日に監視が強くなっていて、天之河君含めた私の生徒達への連絡ができないと判断し、殺されかけていた、メルドさんと合流して王都を抜けて、我々のもとに助力を求めて来ました」

 

「この状況は俺にも責任があると思ったしな。……まぁ、畑山先生的には、俺も七海先生も、会いたくない相手だろうけど」

 

「…………」

 

「………だから南雲君、それは余計なお世話です」

 

苦笑しつつ言うハジメに、七海は告げる。

 

「本気で会いたくないなら、ここに我々が姿を現した時点で、何かしら拒絶反応を起こしてますよ。……割り切っていてもいなくても」

 

「…そう、です。そうですよ。私は、あなた達に会いたくないなんてことは言いません。むしろ、ずっと会いたくて仕方なかったんです」

 

愛子はアーティファクトを壊してまだ自分の前にあった七海の手をとる。

 

「七海先生、あの時、南雲君が清水君にしようとしたことの理由も、あなたがああした理由も、全部理解しているつもりです。正直、割り切れない部分はありますし、この先も割り切れないかもしれません。それでも、私はあなた達を恨んでないですし、嫌ったりもしません」

 

憂い、優しさ、敬意、親愛、尊さ、そして愛情。それらを目一杯詰め込んだような微笑みを愛子は見せて言う。

 

「あの時、言えなかったことを、今の状況と合わせて言わせてください。ありがとうございます、助けてくれて。それと、七海先生」

 

更にぎゅっと握り愛子は七海を見る。

 

「私は……私は、あなたにとってただの足手纏いですか?七海先生?」

 

聞きたいこと、聞いておきたいことを聞く。

 

「私は……私は、あなたが思うような善人ではありません。私が、そうするべきだと判断したことで、それが助けになっていたら、それでいいと考えている、単なる自己満足だと思ってます。ただ、私にとってあなたは、尊敬のできる教師です。どんな状況でも、あなたはけして折れない。立ち上がると。そんなあなたが、死ぬような目に遭うのは、いやでした」

 

七海は縛りによって、隠していた事実を告げる。

 

「ただ、足手纏いかと聞かれたら、それは違います。単なる立ち位置の違いです。しかしそれが原因であなたを苦しめているなら、私はあなたの元を去りましょう」

 

「!」

 

七海は愛子に思いっきりビンタされた。

 

「何も話してくれないのに、なんですかそれ?もっと私に寄り添わせてください!私は、私は!」

 

「おい、こんなとこで喧嘩とかやめてくれ。説明とかそういうのは後。今頃姫さんは天之河のところに行ってるはずだから、合流した後で」

 

瞬間、遠くから何かが砕ける音がかすかにし、僅かに大気が震えた気がした。

 

「クソっなんてタイミングだよ」

 

「どうしました?」

 

ハジメが悪態をついた時点で嫌な予感がするも、七海は聞く。

 

「今ユエ達から念話で聞いたんだが、魔人族の襲撃だ。今の音は、王都を覆う大結界が破られた音らしい」

 

「魔人族の、襲撃って…あ、ありえないです⁉︎」

 

愛子は顔面蒼白になって言う。それはそうだろう。王都に侵攻できるほどの戦力を気付かれずに配置し、何よりこれまで魔人族から何十年以上も膠着状態を保っていた強固な大結界を破壊するなど、信じきれるものではない。

 

「南雲君、おそらく魔人族側に奴がいる」

 

七海の言う奴とは、以前グリューエン大火山であった魔人族のフリードのことだ。ハジメもそれを理解していた。〝空間魔法〟があるなら気付かれずに軍勢を集結できるし、結界の破壊も、そういう魔物を作る神代魔法であると理解できる。

 

「それと、おそらく内通者がいますね。大結界はただ攻撃するだけでなく、結界を構築しているであろう起点を破壊する必要がある。それを知るには、この国の人間か、もしくは」

 

その知識を叩き込まれた生徒。だが、愛子がいる手前、あえて七海はそれを口にしない。

 

「ともかく、今は天之河達と合流しよう。話しはそれからだ」

 

「わかりました。……畑山先生、それでいいですね?」

 

「……はい」

 

なんとも言えない重い空気になるが、今いいとして移動しようとしていたが、

 

「「⁉︎」」

「うひゃ⁉︎」

 

ハジメと七海は異常な魔力を感じ、七海はすぐに愛子を抱き抱え、ハジメに続く形で動く。その瞬間、外から強烈な光が降り注ぐ。言葉はなく、何をするべきか判断し、外壁の外へ出る。呪力を全身に覆い、身体強化で上がった膂力による蹴りで壁を粉砕して出たと同時に、奇妙な音が響いた。

 

「あと一歩遅ければ、我々も同じく消滅していたでしょうね」

 

「な、なにが…⁉︎」

 

わずかに冷や汗をかいた七海が見ている場所を愛子も見た。

 

先ほどまでいた隔離塔の天辺、愛子が捕らえられていた部屋もろとも消滅していた。そう消滅だ。高大な威力をもって破壊したわけでも、莫大な熱量で消失したわけでもなく、掻き消していた。

 

「……分解…でもしたのか?」

 

「ご名答です、イレギュラー」

 

ハジメの言葉は別に問いかけではなかったが、それに答える声がした。冷たく、されど美しい、不気味な声。

 

「!」

 

そちらを見た瞬間、七海は理解する。自分では敵わない強さ。特級相当の実力を持つ存在。

 

「てん、し?」

 

愛子がそう呟くのも無理もない。その姿は天使。天に火輝く月を背に、銀色に輝く翼を翻す、美しい銀髪の女性。白のドレスに部分部分に銀の甲冑をつけたその存在は、北欧神話に登場する、ヴァルキュリアに近い。どこまでも美しく、そして、氷のように冷たく、無機質な瞳はどこまでも恐ろしい残忍さを持ち合わせているようだ。

 

「ノイントと申します。〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

ノイントと名乗る女は手を前に出すと銀色の魔力光を纏う大剣を出す。両手に持つその大剣は、女性が持つには相当な重量がありそうなのに、それをまったく感じさせない。

 

(少なくとも、あの陀艮とやらより、強い)

 

解き放つ膨大な魔力とプレッシャーを前に、過去に戦った特級呪霊の事を思い出す。陀艮も相当な強さだった。1級術師2人と1級術師昇進の推薦を受けた2人、計4人でもギリギリだった。途中に現れた謎の存在がなければ、たとえ領域を出た後でもわからなかった。そんな相手を前に、七海は身震いし、愛子も七海の身震いに呼応するように身体が震え、意識が消失しそうになる。だというのに

 

「ハッ!殺れるものならやってみろ。神の木偶が」

 

そのプレッシャーを押し返すプレッシャーを放つ人物。異業者、南雲ハジメ。

 

(………落ち着け、今私がすべきなのは)

 

ハジメの態度のおかげで、七海は自身のやるべき事をすぐに見出す。

 

「南雲君、ここを任せていいですか?」

 

「ああ。畑山先生を頼む。ティオも呼んでおくから、合流して安全な所に行ってくれ」

 

今ここにいてはまず間違いなく足手纏いになる。実力的にもだが、今七海は愛子を抱えている。尚更足手纏いだ。少なくとも、愛子の安全を確保してからでなくては援護もできない。

 

「では」

 

七海はトンと空を蹴り、その場を離れて

 

「え?」

 

愛子の目の前が赤に染まる。

 

「………ゴッ」

 

七海の胸の中央を、魔力刀が貫ぬき、胸と口から血を出した。

 

「⁉︎テメェ‼︎」

 

相手に感知されるのを避けるために、威力を七海を貫けるギリギリまで落とし、速度に力を入れた、たった一太刀のみの魔力刀。ハジメは強者同士が睨み合う中で、真っ先に逃げる弱者を、捉えるわけでもなく殺害しようとする意図が読めなかった。それ故に、ノイントはハジメの蹴りを受けて下がる。

 

「え、な、七海、先生?」

 

「…………だいじょうぶです」

 

歯を食いしばり、これ以上血が口から出ないようにしている七海を前に、愛子の感情が一瞬停止していたが、

 

「⁉︎回復させます‼︎」

 

「させるとでも?」

 

またも近付いてきたノイント。その姿に、愛子は息をするのを忘れそうになる。振り上げられた大剣が、下ろされる。

 

「ッ…さっきから、なんのつもりだテメェ」

 

ハジメがギリギリに駆けつけて、身につけたガントレットで防ぐ。激しい金属音が鳴り響く。

 

「イレギュラー、あなたは後で始末します。まずは」

 

ノイントの目線が七海に向いている。七海も向き合うが、無機質なその瞳に、絶対抹殺の意思のようなものが見えた。

 

「まずは、害徒からだ」

 

「がい、と?」

 

ノイントの聞き覚えのない言葉を、七海はつい復唱してしまう。既にノイントは次の攻撃の準備ができていた。

 

「七海先生!逃げろ!」

 

銀色の翼が羽ばたくと、そこから銀色の羽が照射される。どれも殺意のこもる魔弾。100を越えるその魔弾は追尾機能もあるのか七海に6割、ハジメに4の割合で攻撃してくる。

 

「クッソ。行け!」

 

ハジメは4機のクロスビットを使い七海を守るように囲い、さらにワイヤーを使ってそれぞれが繋がり、三角錐の頂点となるようにし、結界を作り出す。空間魔法を付与したワイヤーと鉱石で作り出した最大の防御。空間そのものを遮断しているので、規格外の攻撃を除けば、基本的になんでも防げる。だが、ノイントの分解能力にいつまで保つかはわからない。しかもハジメは戦力たるクロスビットはこの結界を使っている間は攻撃できない。

 

「南雲君‼︎七海先生が、七海先生の傷が!」

 

少しずつ広がってきている。制限を掛けているが分解能力は健在しており、少しずつ七海の身体を蝕む。愛子の回復魔法でさらに遅らせているが、いずれ限界が来る。

 

ハジメは結界内の七海達を守るように前に出て両手を前に出す。

 

「こっちだっつってんだろが‼︎」

 

両手に取り付けたのはガトリング砲だが、以前使っていたものより少し小型だ。そのかわり、片腕に2門、両手で計4のガトリング砲。そこから繰り出されれる砲弾の嵐がノイントに放たれる。空中を舞い、翼を時折羽ばたかせて回避する。

 

(クッソ!なんなんだこいつ!意地でも七海先生を真っ先に殺そうとしやがる)

 

正直ここまで邪魔していれば、ハジメに目標を変えてもおかしくないのに、それでもやはり七海に攻撃をする。確実に始末しようとしてくる。

 

「邪魔ですよ、イレギュラー」

 

「だったらこっちの相手くらいしろや。それとも神の使徒はザコ狩りが好きなのか?随分とちいせぇな」

 

「主の盤面にふさしくない者達。その中でも害徒は別です」

 

「ふさわしくないか。いいね。ニートを拗らせた挙句、構ってくれないと駄々をこねる迷惑な野郎にふさわしくないとか、最高じゃないか」

 

「……私を怒らせる策なら無駄です。私には感情がありません」

 

ノイントのその言葉に、ハジメは「何言ってんの」と言うような呆れた表情で告げる。

 

「バカか?本心以外の何ものでもないに決まってんだろ?」

 

スッと目を細め、ガトリング砲の射的圏内から遠ざかり、大きく翼を広げる。双大剣をクロスさせて構える。

 

(!…こいつはまずいな、ヤベェ攻撃が来る)

 

ハジメは魔力の流れで理解した。超広範囲の攻撃だろう。おそらく、ハジメも、後ろの七海達もまとめて攻撃できるだけの。

 

(今結界を解いて俺も入る…ダメだ、間に合わない上に、これ以上結界を広げたら、足し引きの都合上、結界が脆くなる。相殺出来るだけの威力をぶつける…いや、余波を受ける)

 

ならばどうするか。

 

(答えは、受けてたつ)

 

銀翼を羽ばたかせ、銀の羽が宙にばら撒かれる。それらは攻撃してくるのではなく、ノイントの前に一瞬で集まり、巨大な魔法陣を形成する。

 

「〝劫火浪〟」

 

ノイントがその魔法を告げた瞬間、夜がいきなり昼になったかと思うような大火。天空をも焼き尽くし、全てを灰に変える熱量。この瞬間にハジメは魔眼石を使って魔法の核を狙うのを諦めた。数100メートルの超広範囲魔法では探してすぐに見つかるものではない。ハジメも、その後ろにいる結界内の七海達も、炎の津波は逃す事なく呑み込んだ。

 

「……………まさか」

 

完全に詰み。普通ならそうだろう。だが、もう一度言うが七海達を覆うのは空間そのものを遮る結界。五条悟のような、時空間をも支配する術式のようなものでないなら、防げる。では、その防御のないハジメは?これだけの広範囲では、以前ティオ戦で使った〝金剛〟を付与した盾でも防ぐのは不可能だろう。しかし、ノイントは知らない。

 

「初お披露目だ」

 

ハジメもまた、自身が語る、害徒の力を持ち合わせていることなど。

 

「そっちがその気なしなら、こっちは隙だらけになるお前を屠るだけだ」

 

ハジメの片腕にあった黒いガントレットはしまわれ、別の黒いガントレットがつけられていたが、もう片方も、白のガントレットがつけられていた。

 

黒いガントレット、白のガントレット共に、ハジメの背中と胸部に取り付けられているが互いに繋がってはいない。その形状は、左腕の黒のガントレットは以前までのものと違い、鷹の思わせる模様が描かれ、手の部分、上腕部分、前腕部分、肩部分でパーツ分けされているかのように黒いコードのようなもので繋がっている。右腕の白のガントレットはパーツ分けではなく1つのガントレットとして構築されており、こちらも鷹を思わせる模様が描かれている。黒との最大の違いは、肩につけられている転輪。小さく回転し、そこから微量の魔力が流れて霧散していく。

 

「呪具、『黒帝』。アーティファクト、『白王』。9割完成ってとこだが……実戦には使えるようだな」

 

ハジメは炎に包まれる瞬間、白王に付与された空間魔法で前方に七海達と同じ結界で防ぎ、残りの方向からくるのは黒帝に込められている技能と、呪力と魔力の同時身体強化で防いだ。

 

 

 

それは、エリセンで調整をしている時。

 

『呪具にできるものの相性?』

 

『ああ。神代魔法みたいなのはまだ付与できないが、そのかわり呪具にできる技能の相性がいい物と悪い物があるのがわかった』

 

七海は「ほう」と感心と興味のある声をだす。

 

『最初はなんとなくだったんだけどな。たとえば〝天歩〟、こいつは微妙。最低限使えてほしいものは付与できるが〔+豪脚〕〔+瞬光〕は再現できない。逆に〝風爪〟は正直予想以上にヤバい。こんな感じで、呪具にして出来ることでも、かなりの違いが出てくる。そして、そんなかでも最もすごかったのがコイツだ』

 

ハジメがステータスプレートで見せた技能の中にあるそれを見た瞬間、七海は驚きと共に、納得する。

 

『なるほど。これは今考えると、ある意味で最も呪術らしい(・・・・・・・・・・・・)

 

呪術らしいものほど、力が増すということか、あるいはべつの要因かは定かではないが、少なくとも、その技能は呪術らしい。

 

その技能の名は――

 

 

「〝限界突破〟。いや、せっかくいい呪具に成ったんだ。〝呪界到覇〟ってつけるか」

 

〝限界突破〟について、今一度説明しておく。自身の身体能力を3倍にまでアップさせることが出来る固有魔法。使用中は魔力を使用し続けてしまう為、他の魔法や技能の併用も考えるなら、相当量の魔力を保有してなくてはいけない。また、この技能は文字通り使用者の限界以上の出力を無理矢理引き出す為、使用後は魔力も身体も一時的に疲弊し、弱体化する、諸刃の剣。

 

ハジメ曰く、〝呪具錬成〟での呪具の付与には相性がある。仮に、呪術に近いものが相性が良いのだとすれば、何かを差し出すことで、何かを得る。だとするなら、それは確かに、呪術らしいといえるだろう。

 

「その力…まさかイレギュラー、あなたも」

 

「ああ、そうだぜ。害徒ってやつだ」

 

瞬間、ノイントがハジメの目の前にいた。大剣を振り下ろす。

 

「!」

 

「おいおい、唐突だな?そんなに気に入らないのか、呪力が?」

 

ハジメはノイントの後ろにまわっていた。

 

(速すぎる⁉︎)

 

(〝豪腕〟、〝呪界到覇〟)

 

黒帝から紫電となった呪力が、まるで雷のような速さの拳と共に打ち出された。

 

「⁉︎」

 

ノイントはギリギリ双大剣を使い防ぐが、隕石のような一撃を防ぎきれず、ノイントの身体が神山の方にふっとび轟音と土煙をあげていた。

 

「解除」

 

ハジメがそう言うと黒帝がプシューと音を出して蒸気を出す。

 

「とりあえず、これで時間はかせげるか?…畑山先生、七海先生は?」

 

「全然ダメです!七海先生が、七海先生が!」

 

「分解の力か…香織がいれば、どうにかなんだろうが。おい、七海先生、どうだ?」

 

「もとの威力そのものはそこまででも、ないですが、分解の力が強い。いまから、呪力で、おさえて…います。」

 

「……とにかく、奴の狙いが俺になった。クロスビットに乗せてやるから、いますぐ香織のとこへ…⁉︎」

 

再び接近してくるノイントに防御体制になり、大剣の一撃を防ぐ。

 

「どうやら、先程の動きはそう何度もできないようですね」

 

「チッ!いい加減に、しろや‼︎」

 

防いでいた両手腕を力の限りふるい、押し返す。

 

「………このガントレット、分解できないのが気になってんのか?先生が呪力で進行を防いでるように、どうやら呪力は分解できないみたいだな」

 

「忌々しい。その力、存在そのものが」

 

「ハッ!感情がないんじゃなかったのか?つか、見たこともないものを忌々しいとか、そういう設定でもされてんのか?それとも、エヒトから聞いたことがあるってか?」

 

「………」

 

ノイントの目つきが変わる。ハッキリとした敵意と、怒り。接近してきたノイントは双大剣を重さが無いと感じるような連続切りをしてくる。

 

(この程度で……⁉︎)

 

突如、神山全体に響くような歌が聞こえた。何事かとハジメが感じた瞬間、身体から力が抜けて、魔力が霧散していく。

 

「イシュタルですか。あれは自分の役割というものをよく理解している。よい駒です」

 

(なるほど、これは状態異常系の魔法か!流石、総本山。外敵対策はバッチリってか?)

 

〝覇堕の聖歌〟。イシュタル達司祭が複数人で合唱という形で行使する魔法。相対する敵の動きを阻害しつつ、衰弱させていく。歌い続けている間だけ発動するこの魔法は、聖教教会の秘術にして切り札。それに相応しい害悪な魔法である。

 

(クソ!これじゃあ、白王の真の力は発揮できない。こっちにもアレを付けたほうが良かったかもな)

 

白王はチャージに時間のかかるアーティファクト。最初の防御壁は、あらかじめ白王にチャージしておいた魔力を使用したもの。魔力を霧散されるこの状況下では、真の力を発揮するに至らない。

 

(黒帝の方は、まだ貯めてある呪力があるが、デカイ一撃はとっておきたいし、何よりさっきみたいな動きができるだけのものはない。その上で、先生達を守るか)

 

どうすべくかを考えつつ、ノイントの攻撃をギリギリ回避するが、動きはいつものに比べて精彩さに欠ける。ついに、

 

「グッ⁉︎」

 

ノイントの周囲に形成された魔方陣から雷撃が飛び出す。追尾機能もあるのか、不規則な動きを見せて数回は回避したものの、ついに命中してしまう。

 

「ちぃ!」

 

ハジメの呪力は、電気と同じ性質を持っている。その為、電撃に耐性がある。それでも、攻撃を受けたことによる一時的な硬直、状態異常魔法による動きの制限。発生した隙はほんの僅か。それでも、強者同士にとっては、充分すぎる隙。

 

「ぐぅう!」

 

速度を上げたノイントの双大剣の十字切りを、ギリギリ防ぐ。霧散する魔力の代わりに呪力で防ぐ。ハジメの術師としての等級は特級レベルだが、自身の呪力出力のみで言うなら1級レベル。

 

「グハァぁ‼︎」

 

魔力の出力が特級のノイント相手には心許無い。吹き飛ばされるがどうにか体制を直す。しかし、既にノイントは追撃の為再接近していた。大剣を横薙ぎする。

 

「っ!」

 

ハジメの首筋を僅かだが裂かれる。あと数ミリで頸動脈をやられていただろう。間近にきた死神の鎌に冷や汗が出る。だが、一瞬の安堵も許さないとばかりに剣戟が襲いかかる。ギリギリで回避し続けるが、先程の首筋から始まり、顔、足、胴と、少しずつ傷が増えてくる。ノイントは更に攻撃を緩めることなく、むしろ激化させ、銀羽を射出する。ハジメは、シュラークとドンナーを出して撃ち落とすが、数が多すぎる。どちらも最初から魔力、呪力を付与した弾丸の為、威力を保っているが、身体まとわりつく光の粒子のせいで、呪力の身体強化と打ち合っている状況の為、うまいこと自身の強化に繋がらない。

 

(不幸中の幸いは、こいつが俺のみを狙ってること。正確に言うなら、俺の呪力のみに反応してることだな)

 

ここまでの戦闘で、ハジメはノイントはある程度の優位性を捨てても、呪力をもつ者を攻撃してくるのがわかった。そして、呪力が見えるのも間違いない。

 

(神の使徒…つまりは)

 

ハジメの中で答えが出そうになった時、

 

「考えごととは、随分と余裕ですね、イレギュラー」

 

「⁉︎」

 

ほんの一瞬の油断。時間にして0.01秒以下。鍔迫り合いの中で生まれた僅かにでたもの。そこにノイントは攻撃を仕掛けてきた。

 

「チィ!」

 

ハジメは反射的に防御姿勢をとる。だが、その攻撃は届くまえに、

 

「「!」」

 

轟く咆哮と、それに続く形でノイントとハジメを遮る黒色の閃光のブレス。ノイントはすぐさま後退して回避するが、そのままノイントの方へブレスが向かう。回避はできないと察して銀翼で身を包んで防御する。完全に分解される前に衝撃を相殺できずに吹き飛ばし、再び教会の塔に衝突した。

 

「追撃は大事だよな」

 

〝宝物庫〟からロケットランチャー&ミサイルランチャー、ハジメ命名『オルカン』を取り出して全12発を撃ち込んだ。

 

「まぁ、これでやったとは思わないが」

 

【ご主人様よ。無事かの?】

 

ノイントに警戒しつつ、到着したティオの声を聞いて頬が緩む。

 

「ティオ、助かった。正直ちょっと苦戦してた」

 

【…それほどの強敵か】

 

ハジメの言葉に嬉しそうになるが、すぐに警戒心が上がり、土煙をあげる塔の方を見る。

 

「正確に言えば、先生達を守りながらなのと、あのうざったい歌のせいだな。……ティオ、先生達を背中に乗せて、香織と合流してくれ」

 

【心得た。後で折檻……もとい、ご褒美を所望する】

 

こんな状態でも欲望に忠実なティオに呆れるも、「頼む」と告げて傷を負った七海と、いまだ回復魔法をかけ続ける愛子を結界ごと移動させて、そのままティオの背中に乗せた。

 

【最近はよう死にかけておるの、七海】

 

「まぁ、覚悟してたことですよ」

 

「喋らないでください!傷に障ります!」

 

「…ティオ、早く離脱しろ」

 

ノイントが突っ込んだ塔が轟音と共に吹き飛ぶ。分解によってできた砂埃を銀翼の風圧で吹き飛ばす。

 

【承知。しかし、2人の安全を確保したら、助太刀を】

「それはわたしがしましょう」

 

ティオの言葉を遮り、その背中で七海が立ち上がって宣言する。

 

「せ、先生、傷が…」

 

「………七海、先生?」

 

先程まで一向に治りそうにない傷がいつのまにか治っていた。そして、確信を得て言う。

 

「南雲君、今わかりました。奴にとって私は、最悪の天敵です」

 

フードを脱ぎ捨て、宣言した。




ちなみに
ビンタした愛子ですが、実は硬すぎて愛子の方が痛かったのは秘密。ずっとヒリヒリしてました。
何も知らないとはいえ、これはないだろうという状況を作る為にこうしました。
でも正直、この場面は悩んだ。もっとこうするべきかとか。意見あればお願いします。
もしあのまま話せる状況下であったら、呪術師としての七海のことも話してましたが、それは王都侵攻編の終わりに

ちなみに2
呪具: 暗路(あんろ)も呪具にする際に相性のいい気配遮断が付与されておりますが、今のハジメは大きな呪具は作れません。じゃどうやって作ったかというと、気配遮断を付与した糸を大量に作り、それらを呪具錬成で形作るという工程で作り上げましたが、失敗作も多く、ちゃんとした完成品は現在これのみ。でも七海が脱ぎ捨てちゃったね!

ハジメ「…………」

あと、形はとある鍵の剣で戦う主人公の前に立ちはだかる機関の物を模してます
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