乙骨ぅぅ、頼むから、頼むからぁ
戦鬼の好きなキャラ1位乙骨、2位日車、3位七海
「!………感じる、これ…たぶんそうだね……」
恵里は雫の発言を無視して、空を見上げて、何かを感じたのか、ボソボソと呟く。
「もう少しなんだけどな………」
ケタケタと笑いながら、恵里は周囲の倒れている仲間…否、元仲間達を愉悦たっぷりの眼差しで見下ろしつつ、ゆっくりと、目的の人物のもとに向かう。
「っと、その前に」
恵里は思い出したかのように、手を前にだし、〝聖絶〟を展開する辻に向けて、
「え」
「は」
辻と吉野は、何が起こったか、文字通り理解出来なかった。〝聖絶〟が破壊された。だが、どうやって破壊されたかわからない。何かが衝突し、防ぐも、恵里の謎の行動で起こった何かの攻撃で破壊され、その威力そのまま、2人は吹っ飛ばされ、壁に激突した。
「いまの、何を、したの?」
トータスに来たことで強化された肉体と、これまで七海の訓練による身体強化によって、2人は死んではいないが「ゴボっ」と血を流して倒れ、そのまま他の生徒達同様に、周囲の兵士と騎士によって魔力封じの枷を付けられる。
「うーん……なーんか違うんだよなー使い方として、正しくないっていうか…… まぁ、それは今はいいか」
雫の質問に答えず、恵里は自分のした事に自分で疑問を抱きつつ、ゆっくりと向かう。
「それにしても、滑稽だよねぇ。遠藤君は誰にも気付かれないくらいの隠密能力があるみたいだけど、僕にはずっと見えてたよ。それに気付かないなんてねぇ。野村君もだろうけど、どうせ七海先生あたりに何か言われて行動してたんだろうね。身内に敵がいるってわかった時点で、もっと警戒すべきだったのに」
七海は別に警戒してなかったわけではない。が、それが檜山のみと決めつけていた。というより、恵里を疑うことができなかった。それほどまでに、彼女は実力、本性、自身の魔法を隠すのに秀でていた。
「え、恵里、いったい、ぐっ、どうしたんだっ」
恵里は目的の人物、光輝に近付き、彼の首に嵌められた魔力封じの首輪引っ張り、親しい友人の変化に動揺している光輝の疑問に答えることなく、
「アハ、光輝君、つ〜かま〜えた〜」
光輝の唇に、自分の唇を重ねた。いきなりの行動に光輝は何をされたかわからなかったが、喰らい、貪るようなキスから、逃れるように身体を動かそうとするも、彼には首輪を含めて他の生徒以上に魔力封じの枷をかけらた状態で身体を数人がかりで押さえおり、なおかつ剣で貫かれている状態ではいっそう力が入らない。
「ぷぁ」
唇を離し、滴る唾を自身の舌で舐めて飲み込む。一連の流れに、恵里は自分で感動しているかのようの恍惚な表情をし、今まで自身の特徴を表していたメガネを取り外し、倒れ伏すクラスメイト達を見下しながら邪悪な笑みを浮かべた。
「とまぁ、こういうことだよ、雫」
「……どういう、ことよ」
わけがわからないと言うような雫の表情と問い。そして睨みに対して、「なんでわからないの」と言いたいような馬鹿にしたような顔で、恵里は語りだす。
「わからないのぉ?僕はね、ずっと光輝君が欲しかったんだ。だから、そのために必要なことをした。それだけのことだよ?」
「……光輝が好きなら、こんなことしなくても、告白でもすれば、よかったでしょう⁉︎」
というよりも、この為だけに自分達を裏切り、傷つける必要はない。という雫の意見は、恵里には通じない。
「ダメだよ、ダメダメ、ダァーメ。告白なんてダメ。光輝君は優しいから、特別を作れないんだ。周りのなんの価値もないゴミしかいなくても、優しすぎて放ってっおけないんだ。だから、僕だけの光輝君にするためには、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ」
馬鹿にするかのように…ではない。心の底から、恵里は馬鹿にしていた。雫にもそれはわかるが、あまりの豹変ぶりに驚きすぎて、怒りが湧いてこない。彼女の身体が他の誰かと入れ替わったと言われた方がまだ信じられる。
「異世界に来られてよかったよ。日本じゃ、ゴミ掃除するのは本当に大変だし、住みにくいったらなかった。おまけに、あの人が担任になっちゃって余計に動きにくくなっちゃってさぁ〜」
恵里の言うあの人とは、七海のことだろうと雫は考えた。
「まぁ、いい所まで行ったけど、本質は見抜けなかったみたいだけどね。あぁ、当然だけど、僕はあの人が提示する帰還なんて絶対認めない。このまま戦争に勝って帰るってのもね。光輝君は、この世界で僕と2人、ずぅ〜っとずっと暮らすんだから」
「まさか、大結界が破られたのも…」
「アハハ、気が付いた?そう、僕だよ。彼等を使って、大結界のアーティファクトを壊してもらったんだ」
神代魔法を知らない雫は、魔人族が王都近郊までなんの情報も与えないまま侵攻できた理由はさすがにわからなかったが、考えたくもない、当たってほしくもない仮説が、次々と当たっていく。口に出しながら恵里の視線は〝虚ろ〟になった騎士と兵士達にあり、おそらく彼等にやらせたのだろうと推測する。
「ただ、君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないでしょ?だからね、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団と君達の献上を取引材料に、僕と光輝くんだけ放っておいてもらうことにしたんだぁ」
「馬鹿な……魔人族と連絡なんて…」
光輝はキスの衝撃からどうにか持ち直し、「できるはずがない」と呟く。
七海の監視がなくなった後も、ずっと一緒に王宮で鍛錬していた。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、光輝は彼女を信じたい気持ちから、そう反論するが、恵里はニマァと笑みを見せた
「オルクス大迷宮で襲ってきた魔人族の女。帰り際にちょちょいと、降霊術でね?」
「それこそ、ありえない、あの場には、七海先生に、雫を含めて〔+視認(上)〕以上を持つ人がいたのに」
「〝遅延発動〟と〝魔力隠匿〟さ。光輝君の言う通り、魔法を使えば、〔+視認〕で見えてしまう。しかも七海先生あたりなら、見ただけで、誰が発動したかわかる。けど、あの時は周囲は南雲含めて多くの魔法の残穢が漂ってた。少しくらい使っても、気付かれないくらいの、限界ギリギリまで魔力を抑えての使用。でも、魔法を発動をするれば、わかる。なら発動させなければいい」
〝遅延発動〟魔法を行使する上での魔力を練る→ 魔力を身体に流す→ 詠唱(もしくは陣の作成)→発動。この段階をふむ行程の内、詠唱と魔法陣作成を、頭の中で完結させ、対象にマーキングすることで、発動させず、しばらく放置ができる。ただし、直接攻撃性のある魔法はそれの維持が難しい。降霊術は、死者への干渉。それ自体が攻撃性を持たない為、成功した。
〝魔力隠匿〟はその名の通り、魔力を隠す技能。これも〝遅延発動〟と同じく、攻撃性の高くない魔法を隠匿することができ、更に魔法、魔力関連の技能をある程度隠すこともできる。ステータスプレートに今まで映らなかったのはこれが理由だ。
「あとは予想通り、魔人族が回収に来て、コンタクトをとった。ちなみに、魔人族側からの連絡は、適当な人間を使ったんだ。…でもあの事件は、流石に肝が冷えたよ。なんとか殺されないように迎合しようとしたら却下されちゃうし……思わず、降霊術も使っちゃったし。七海先生にも怪しまないように行動するには、降霊術は使えないっていう印象を持たせておきたかったんだけどねぇ……まぁ、結果オーライって感じだったけど」
恵里の話を聞き、彼女の降霊術を思い出し、雫は唯でさえ血の気を失って青白い顔を、更に青ざめさせた。
降霊術は、死亡対象の残留思念に作用する魔法。
「彼等の、様子がおかしいのは……」
これまで使えないふりをして、実際は完璧に使えるのならば、クラスメイト達を取り押さえた〝虚ろ〟の兵士や騎士、雫を取り押さえているニアの様子から考えれば、最悪の答えが出る。
「もっちろん降霊術だよ~。もうとっくにみんな死んでま~す。アハハハハハハ!」
雫は歯を食いしばり、信じたくないがまず間違いない真実を、必死に否定するための反論をする。
「っ、嘘よ。降霊術じゃあ、受け答えなんて……できるはず…ない!」
「そこはほら、僕の実力?降霊術に、生前の記憶と思考パターンを付加してある程度だけど受け答えが出来るようにしたんだよ。僕流オリジナル降霊術〝縛魂〟ってところかな?…降霊術に必要なのは、残留思念…七海先生曰く、肉体に残った魂の情報。これらに干渉し、死者の生前の意思を汲み取り、それらを魔力でコーティングして、実態を持たせて、術者の意のままに動かす、または遺体に憑依させて動かす。これが普通だ。けど、さすがは七海先生。これの先を見抜いてた」
*
『降霊術とは、言ってしまうなら、肉体と魂の干渉で、魂単体の干渉ではありません。…以前私にこう言った者がいました。肉体に魂が宿るのか、魂に身体が肉付けされているのか。…私は前者を選びましたがヤツは後者と言いました。まぁ、見えている世界観とでも言いましょうか…そういうモノが見る人によって違ってくる。中村さん、いずれ降霊術が使えるようになった際は覚えておいてください。降霊術はいかに魂の情報と肉体の情報を理解し、肉体へ付加するということ。最終的に、君が先程の質問の答え、どちらに寄るものになるのだとしてもそれは必要です』
*
「肉体と魂は先生の言うどちらの答えだとしても、繋がっている。なら、魂の情報と肉体の情報、互いの繋がりを辿ることで、より正確な魂の模写ができるんじゃないかってね。おかげで、肉体に宿った技術そのままに、死者故のリミッターが外れた膂力と動きを再現できた。ああ、それでも会話の方はまだちょっと違和感はありありだよね~」
だが、多少の違和感程度で実現し、魂魄から対象の記憶、思考パターンを抜き取って模倣する。彼女がしているのは神代魔法クラスの段階に達ようとしていた。それを隠しきったことも含めた天才的な才能。
だがそれ以上の才はーー
「………まさか、愛ちゃんやリリィも」
「ん?ああ、それは別件だよ。僕は関知してないね。ただ、安心しない方がいいよ」
「え?」
ほんの僅かに生まれそうになる希望を、容赦なく叩き壊すように、恵里は続ける。
「だって、愛ちゃんを連れ行った人…かどうかは
ここ数日の王国内の変化。兵達や貴族、国王の不穏な言動。それらには気付いていたが、まさかこの国の中枢を堕とされているなど、想像もしていなかった。
「僕もね、計画がバレているってわかった時は驚いたよ。一瞬、色々覚悟も決めたしね。いやぁ〜ホント、焦ったよぉ~」
恵里はわざとらしく汗を拭う仕草をするが、とぼけた感じと裏腹に、実際その時恵里は殺される気がしていた。
「でもまぁ、〝縛魂〟を使って傀儡を増やすのは2、3日でやりきれる事じゃなかったし、そういう面倒な手順を一気に飛ばして、計画を早めることができたんだ。文字通り、天が僕の味方をしてくれていると言えるね!あぁ、大丈夫だよ、みんなの死は無駄にしないから!ちゃ〜んと再利用して魔人族に使ってもらえるようにするからね!」
この場にいる誰もが思った。中村恵里は、本気だと。本気で天から祝福を受け、本気で自分達を犠牲にし、利用する事に微塵も躊躇いがないと。嘲笑い、生者と死者の間でクルクル踊る彼女は、異端そのものだった。
「ぐっ、止めるんだ、恵里!」
ただ1人、本気と理解してなお、善意で彼女を止めようとする光輝は、声を張り上げる。
「そんなことをすれば、俺は」
「僕を許さない?」
光輝の言葉を遮り、恵里はぬぅと顔を光輝に近づけ、ねっとりとしたような感情を向け、笑う。
「そう言うと思ったよ。光輝君は優しいからね。それに、ゴミは掃除してもいくらでも出てくるし。だから、光輝君もちゃぁ〜んと〝縛魂〟して、僕だけの光輝君にしてあげるからね?他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる!僕だけの光輝君!あぁ、あぁ!想像するだけで、どうにかなってしまいそうだよ!」
〝縛魂〟で作られた存在は、外側だけの偽者、術者の傀儡にすぎない。そんなことは、術者である恵里がわからないはずもない。それは光輝であって、光輝ではない。それでも、自分に都合のいい傀儡の天之河光輝を望んでいるのだ。まさしく異常、まさしく狂気。
「まさか、鈴も、野村君も⁉︎」
「あぁ、そっちにも一応お人形になった騎士を向かわせたよ。まぁ、仮に対処しても君達を差し向けたら、ころっと騙されるだろうね。でも、できるなら鈴には目覚めて欲しかったんだけなぁ〜」
まだそんな優しさが…なんて思うような者は、この場にはもう1人、光輝しかいない。
「日本でも、こっちでも、光輝君の傍にいるために、鈴はとぉっても便利だったからね。皆が死んでいって、傀儡になる所を、特等席で見せたかったんだけどなぁ〜あぁ、残念だよ」
この場に鈴がいないことが、唯一の救いだった。もし彼女がここにいれば、親友の狂気にまみれた姿を見て、正気でいられるとは思えないからだ。
「恵里っ!あなたはっ!」
親友の想いも、何もかもを利用し、いらなくなったら迷いなく捨てて、命を再利用する。その所業に、雫は怒りを隠すこともなく、傀儡のニアに抑えられているにもかかわらず、必死にもがく。動くたびに少しずつ傷口は開き、血が地面を滴っていく。そのさまを嘲笑いながら、恵里はその燃え上がる怒りに、更に薪を焚べる
「ふふ、怒ってるね?雫、僕はね、君のことが大っ嫌いだったんだ。光輝君の傍にいるのが当然みたいな顔も、自分が苦労してやってるていう上から目線も、全部気に食わなかった。……その表情、すごくいいよ。その表情を見れただけでも、ここまでやった甲斐もあった。だからお礼に、君には特別な、素敵な役目をあげる」
「役目…ですって?」
「ねぇ。久しぶりに再会した親友に殺されるって、どんな気持ちになるのかな?」
その言葉で、恵里が何をするつもりか察し、雫の瞳が大きく見開く。
「まさか、香織を⁉︎」
「ご名答っ!傀儡にした雫を使って香織を殺すんだ。…正直、南雲が持っていくなら放置してもよかったんだけど、あの子をお人形にして好きにしたい!って人いてね〜。色々と手伝ってもらったし、報酬にあげようかなって。僕、約束は守るだからね!いい女でしょ?七海先生でも僕の〝魔力隠匿〟には気付かないだろうね。アレも正直、
最後の方の言葉はよく聞こえなかったが、雫は突き刺された剣を無視し、傷を広げるのも関係なしに、恵里へ向かおうとするも、ニアが更に剣を突き刺し、更に押さえつけられる
「アハハっ!苦しい?痛い?僕は優しいからね。今すぐ楽にしてあげる」
雫を殺し、傀儡にするため、近づく。光輝達が必死に抵抗して身体を動かすが、傀儡は脳のリミッターを外し、限界以上の膂力を持っている。それに複数で押さえつけられているのでは、すぐに動こうにもできない。
「っと、コレは貰っておくよ。多分切り札なんだろうけど…南雲もいい物残していったもんだよ」
腰につけた小太刀を奪われた。出血で意識が朦朧とするが、必死にそれを繋ぎ留め、目線を逸らすことはなく、最後の抵抗と言わんばりに恵里を睨みつける。その姿を滑稽に思ったのか、はたまた自分で引導を渡したかったのか、恵里は近くの騎士から剣を受け取り、それを振りかぶる
「じゃあね、雫。君との友達ごっこは、反吐が出そうだったよ」
もう雫には、恵里の言葉も、周囲の必死の静止の声も聞こえない
(ごめんなさい、香織。次に会った時は、どうか私を信用しないで…生き残って、幸せになって)
ただ、1人の親友の未来を憂いながら、祈る。
(私は先に逝くけど、死んだ私が、あなたを傷つけてしまうけど、彼が、南雲君がいる。七海先生もいる。だから大丈夫)
ただ、彼女の、香織の幸せを願って
(先生、すみません。結局、悔いを残して逝く私を、許してください)
脳裏に弾けていくこれまでのことを、思い返して、瞳を閉じる。彼女に迫り来る狂刃は、
「え?」
「チッ!」
雫の命を奪わなかった。同時にでる雫と恵里の声。振り下ろされた剣を止めたのは掌くらいの輝く障壁。
「なぁんで、君がここにいるのかなぁ?」
ここにいるはずのない人物。その姿と、切羽詰まっている声が聞こえる
「雫ちゃん!」
その声が、香織の声が聞こえてきたとほぼ同時に、同じ大きさの障壁が一気に複数枚展開し、剣を持った恵里を押し返す。
「⁉︎」
更に追撃といわんばりに、恵里の周囲を結界が取り囲む。だがそれらは、通常の防衛結界でも、〝聖絶:縛〟のように相手を閉じ込めるタイプのものでもない。先程の掌サイズの障壁が周囲を漂っており、防ぐのにも閉じ込めるのにも向かない。なぜならこれは防衛ではなく、攻撃に特化したもの
「〝爆封〟」
その魔法を唱えた瞬間、恵里の周囲の障壁が光と魔力爆発を起こす。〝爆封〟:防御力を極限まで削り落とす代わりに、展開力を上げそれを任意で爆発させるオリジナル魔法。雫への影響を考慮し、威力は軽い爆竹レベル。ただし、考案者はいまだ眠り続ける鈴のものだが、彼女はその時まだできないと言っていた。なぜなら、展開力を上げても、結界としての防衛力がほぼないので、維持力とそもそもの展開するための魔力を形作るのが難しいからだ。
だが、香織はやってのけた。七海の縛りの教習の際に感じた、結界の足し引きの関係と、神代魔法の獲得による、魔力への更なる確信。そして、ユエと同等レベルの理解力。七海が1級術師同等と認めるに値する力量が、今の香織にはある。
「かお、り」
「雫ちゃん!待ってて!すぐ助けるから!」
(あぁ、夢でも、幻でもない。………ありがとう)
香織は泣きそうな表情になるが、ギリギリ間に合ったことに、安堵し、そこから涙が出そうになるが、ぐっと堪えて、全体回復魔法を詠唱する。光系最上級回復魔法〝聖典〟だ。今の彼女なら、1小節でもできるが、安定性と、回復力の向上の為、詠唱を完璧にする。
「ほんと、なんで君がここにいるのかなぁ!ほんと、君は僕の邪魔ばかりするねぇ!」
万が一のために〝遅延発動〟で自身にマーキングしていた〝聖絶〟をギリギリで展開し、ダメージを防いだ恵里は、狂気を孕んだ表情で周囲の騎士達に香織の詠唱を止めるための命令を下す。一斉に香織へと襲いかかるが、彼らの剣は光の障壁で阻まれた。
「みなさん!いったいどうしたのですか!正気に戻って!」
香織のすぐ後ろにいたリリアーナが自身と香織を包むように、球状の障壁を展開しつつ、周囲の騎士や兵士が光輝達を殺そうとしている状況や、まるで彼等の主のように振る舞う恵里に混乱しつつ、騎士と兵士達に呼びかける
(多分無駄だ。この人達から魔力の残穢が見える。それが、恵里から流れている。となると、おそらく降霊術)
香織はその説明をリリアーナにしたいが、今は魔法を練るのに集中する。
「恵里!これはいったいどういうことです⁉︎」
香織の考えなどわかるはずもなく、リリアーナは恵里に説明を求めるも、彼女はまるで取り合わない。というより、恵里は多少焦っていた。リリアーナの術師としての強さは、正直自分達に劣るが、相当に優秀だ。香織の詠唱が完了するまで、持ち堪えるくらいならできるほどに。
「チッ、仕方ない、かな?」
恵里の視線がクラスメイト達に向く。癒される前に殺すつもりだろう。だが、
「白崎!リリアーナ姫!無事か!」
突如、リリアーナの障壁の前で剣を振るっていた騎士の1人の首が落ちた。そしてそれをした声の主、檜山が姿を見せる。
「檜山さん⁉︎」
おびただしい血が胸元に染まり、よろめきながら障壁に手をつく。リリアーナはすぐに障壁の一部を解いて中に入れると、ドサリと倒れこむ。
「ダメよ!彼から離れてぇ!」
しかし、その瞬間、雫の焦燥に満ちた叫びが響き渡る。傷が開くのも、血が出るのもおかまいなしに叫ぶ。雫は気がついたのだ。なぜ、光輝すら抜け出せない拘束を檜山だけ抜け出せたのか、恵里が言っていた香織を欲する人間が誰なのか。
ニマリと、彼の口が邪なものになる
リリアーナの障壁が香織の詠唱完了まで保つことは明らかだ。にもかかわらず、敢えて助けに行ったふりをした理由は
「きゃぁあ!?」
殴り飛ばされて、地面に横たわるリリアーナと檜山が香織の背後から、刃を突き刺す
*
『魔力石に、魔法をストックですって?』
『そう』
『しかも、神代魔法を、ですか?』
『そう』
『………一応聞きましょう。どうやって?』
『んーこう、ぎゅぅぅってして、ボワっと!』
ユエの説明に、七海は目元に親指と人差し指を置き、天を仰ぐ。原理はわかる。だが、わかってても、普通はできることではない。彼女がやっているのは、ハジメとはまた違った形でアーティファクトを作っているのに等しい。
(空間への干渉に更なる広がりと、魔法そのものの拡張、それと神代魔法、生成魔法の知識によるものもあるでしょうか……本人がどれだけ理解してやってるか、わかりませんが)
『ねぇ、ユエそれ、私にも使える?』
『できないことはない。けど、神代魔法だと、扱いが難しいし、攻撃系の魔法も発動と共に霧散しやすい。今のところ〝千断〟くらいかな、攻撃魔法でストックして、威力をある程度落としただけで発動でるのは』
『んーなら、防御は?ほら、〝聖絶〟とか』
『できるかな?でも、障壁としてはあまり…』
『1回防げれば、それでいいよ』
*
「檜山君」
「ゴッっ…え?」
檜山は、なにが起きたか、理解できない。否、理解したくなかった。なぜなら、自分の愛している人が
「私は、ハジメ君と違って、どうでもいいとも思ってないよ」
拒絶、怒り、呆れ、不快。さまざまなものを含んだ、まるで、ゴミクズを見るような瞳をして、自分を見ていたから。そして、自分の身体が、光の刃で串刺しにされていたから。
「あなただけは、許さない」
ちなみに
『七海がいることで原作以上に苦労or酷い目に遭う人リストfile5:檜山大介』
自分の最愛の人からの心からの拒絶と攻撃。ただ、彼の最後は原作よりマシじゃね?って思う人も出てくるかも
檜山「まだ、終わらないぜ」
正直、ここまで強くした香織が檜山程度にやられる光景が見えませんでした。そもそもメルドが生きていた時点で裏切り確定ですし、これで不意打ちでやられたら間抜けすぎでしょ。ただ、最後の彼女の言葉は正しいかちょい迷ってます意見あればお願いします。
ちなみに2
香織はリリィは事前に檜山が自分に向かって来たら何もしないように、味方のフリをするように言ってました。