ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今週の呪術本誌、情緒がマジでおかしくなりそうだった

伏黒ぉ…→乙骨ぅぅ‼︎‼︎→真希ぃぃ‼︎てな感じ

いや、ほんと、乙骨、大丈夫だよね?死んでないよね?


そしてこっちは恵里の術式の(一部)を解説です


変貌汚染②

「ひひ、ひひ、ひひひ」

 

顔は檜山だ。それはわかる。だが、肉体はすでに檜山ではない。というよりも人間とも言いがたい。複数の獣が混ざりあっているかのようなその醜い姿と、邪悪な笑みは、皮肉にも見事に調和している。だがそれよりも、七海とハジメの目に入って来たのは、彼からでる呪力と、別の誰かの呪力の残穢があること。そして、その肥大化した手の中に、握りつぶされそうになっている香織がいたこと。

 

「な、ぐ、もっぉぉぉ!」

 

檜山は突撃して来る。変貌した巨大な肉体は周囲の傀儡騎士達を押し退けて、ハジメの命を奪いに来る。

 

「あぁ?」

 

ずるりと、滑るような音とドンと何かが落ちる音がしたと同時に、檜山は自分の腕が斬られていたことに気付く。

 

「なぁなな、ななみぃぃ‼︎」

 

もう1人の怒りの対象である七海を確認し、そのまま踏み潰そうとしたが、その姿勢のまま、壁の方へ吹っ飛び、轟音を響かせる。七海が香織を助け出したのとほぼ同時に、ハジメは一瞬で檜山の懐に移動して、呪力と魔力による身体強化を施した回転蹴りが檜山の脇腹を捉えたのだ。

 

訓練所の壁に激突し、その衝撃で再び上から瓦礫が降り注ぎ、檜山を押し潰した。

 

「白崎さん!白崎さん!」

 

冷静な七海も、大きな声で香織を呼ぶ。抱き抱えられた香織は目を開けているが、声かけにまるで反応せず、全身に力が入っておらず、ところどころ曲がってはいけない方に身体が曲がっており、その部分から骨が出て、致死量に近い血が流れている。

 

「・・み、せ・せい」

 

うっすらと、掠れるような声で香織は呟くが、死に体なのは誰が見てもわかる。だがそれでも、まだ生きている。

 

「ティオ!頼む!」

 

「っ…うむ、任せよ!」

 

「し、白崎さんっ!」

 

ハジメの呼びかけで、ほんの一瞬とはいえ茫然としていたティオが我を取り戻し、ティオについていく形で愛子も香織のもとに行き、変わり果てた香織の姿に、どうにか平静を保とうとするが、やはり血の気が引いてしまう。

 

「ティオさん、畑山先生。白崎さんをお願いします。私は…⁉︎」

 

七海は香織をそっと地面に置こうとした瞬間、香織が七海の首を絞めてきた

 

「・・せい、だ、め」

 

(これは、まさか!)

 

彼女にまとわりつく魔力の残穢。それが、中村恵里のものだと七海は感じた。

 

「香織!なにをしておる⁉︎」

 

「ティオさん、待ってください!このまま、魂魄魔法を。畑山先生、あなたも」

 

七海はすでに呪力で身体強化している。それでも首を絞められているのは苦しい。

 

「おそらく、彼女は、魂に何かしらの干渉を受けています。だが完全ではない。なら、今なら」

 

確定ではない。あくまでも仮定に過ぎない。だが、七海は何度も魂への干渉を受けて来た。だからそれは、確信に近い、直感である。2人はそれを読みとったわけではない。だが、それでも、首を締め上げる香織を止めることもなく、詠唱をする。七海への信頼。

 

だが、

 

「香織」

 

自分の大切が、意思と関係なく、恩師を殺そうとする行為を、

 

「は、じめ、君…ダメ、今、身体が、」

 

黙って見ていられるようなハジメではない。

 

「しゃんべな。今は、治療を受けろ。それと」

 

ハジメは香織の頭を撫でそのまま顔を近づけて

 

「⁉︎」

 

唇を奪う。それが、彼女にどのような影響を与えたかわからない。だが、ゆっくりと力を入れていた手が離れ、ブランとただ下がる。それは力を抜いたというより、なくなってしまったというのが正しいかもしれない。

 

「⁉︎急いでください!」

 

今度こそ、七海はゆっくりと香織を地面に下ろして、ティオと愛子に指示した。

 

「アハハ。無駄だよ!もう死に体で、僕の魔法の影響を受けてるんだから!でもまさか、君達がここに来てるなんて……いや香織が来た時点と、あの激しい力の畝り。あの力は七海先生だけのものじゃない。その時点で気付くべきだよね」

 

額に汗を浮かべながら、ベラベラ話す恵里は心底、先ほど以上に焦っていた。

 

(化け物共めぇ、こんなときにぃ)

 

そんなことはハジメも、七海も、どうでもいいだろう。スッとまずハジメが立ち上がる

 

「まぁ、聞きなって。僕と敵対しないなら、このまま魔法で香織を生き返らせてあげる。疑似的だけど、ずっと」

「黙りなさい」

 

その言葉は、ハジメ以上に七海の怒りに触れるものだった。七海は、知っている。以前見たことがある。恵里が行ったことと、ほぼ全く同じことをしていた人形師。それが、いかに歪で、呪術を冒涜し、人を堕落させてしまうものか。見た目だけなら、生きているように見えるそれは、五条曰く、プログラム通り動く、ペットロボットとなんら変わらない

 

「中村さん、そこら中にいる元騎士の皆さん、肉片は、おそらく生徒もでしょうが………あなたですね」

 

それは、厳密に言えば問いではない。七海は答えはわかっているし、答えを求めたわけではない。恵里は、サングラス越しでもわかる、ハジメが見せているものとは別の殺意。七海はハジメと共に、そのままゆっくりと恵里に近付いて行く。

 

「まっ、待って、待つんだ!な、南雲、ほら、周りの人達を見てよ。七海先生も、生きてるのとなんら」

 

恵里の言う事をまるで聞いてないとばかりに、2人は歩んで来る。ホラー映画の怪物がごとく。それに恵里はつい後退りしてしまう。だがそれは、合図。

 

倒れていた騎士の1人。先程、凄風(せいふう)でやられたフリをさせておいた傀儡騎士2人が七海とハジメの背後から襲いかかる…直前に七海が一刀両断して頭から真っ二つにし、南雲は振り返ることもなく、ショットガンで頭を粉々にした。

 

「っこれでぇ!」

 

当然、恵里はこんなことで殺せるとは思わない。コレは単なる意識をほんの少し誘導したかっただけ。本命は凄風(せいふう)の全力攻撃。迫り来る風の刃が2人を襲う

 

「アハハ!油断したかい⁉︎それとも僕がコレをこんなにも使いこなせるなん…て」

 

無傷。それどころか、風の斬撃は2人の後ろにいる者達にも全く影響を与えていない。

 

「呪力練りと集約が甘いです。力だけ強大でも、練りの甘い攻撃など、それなりの呪力をぶつけてしまえば、それまでです」

 

凄風(せいふう)含め、ハジメの呪具はアーティファクトに魔力を練り込むのと同様、呪力を練り込まなくてはいけない。いうなれば、術式の運用に近い。威力の幅を広げても、その形が歪では、同じく呪力を扱う者であれば、綻びも目に見えている。もちろん、今のハジメなら、その綻びも見せない呪具の制作は可能だが、あの時渡した時点では、まだそこまでの完成度はなかった。呪力の見えない相手であれば、存分に効果を発揮してはいただろうが。

 

(まさか、呪力を使えるとは…シアさんと同タイプの覚醒でしょうか……だがそれにしては)

 

呪力の練りは甘く、効率性はない。だというに、檜山から感じた彼と、恵里の呪力の残穢。すなわち、少なくとも恵里は術式を持ち、初めてながら使うことができている。そして、檜山の変貌から考えられる、彼女の術式のこと…

 

(いずれにせよ、彼女の術式はおそらく…ならば、これ以上手遅れになる前に)

 

「もういいだろ、先生。会話、必要か?」

 

「ですね」

 

ハジメは心底どうでもいいという顔をし、七海はほんの少し、『残念です』と言いたげな表情をし、恵里を殺すため動く。

 

恵里は抵抗すべく、ほかの傀儡騎士を動かそうとした時、

 

「ヴァァァァアァァァ‼︎」

 

「「!」」

 

轟音を立てて、瓦礫が吹っ飛び、そこから檜山が……いや、檜山だったものが出てくる。

 

「じねぇぇぇぇ‼︎」

 

唯一の檜山であると判断できた顔すら、もはや人の形をしていない。ぐちゃぐちゃにつぶれいるが、目だけはあいて、血走りながら来る。

 

「るせぇよ」

 

と檜山に対応するため、ハジメはもう一度前蹴りをぶち込もうとしたとき

 

「⁉︎」

 

ハジメの足に、何か、黒い触手のようなものが絡まっていた。すぐさま引きちぎると同時に、加速した檜山の突進を受け、ハジメは吹っ飛ぶ。

 

「南雲君!…ぐっ」

 

それは七海にも絡まっていたが、強度はそこまでなく、すぐに引きちぎる

 

「ヴァ、な、ビィぃぃぃ!」

 

(なんだ?彼に呪力を扱えた、または扱えるようになったとしても、この肉体変貌と、ここまでうまく使える理由はなんだ?それに、強度はそこまでもないがさっきの触手は)

 

おまけに、見た目同様か、それ以上の膂力をもって抵抗してくる。

 

「檜山」

 

後ろから聞こえたハジメの声に、檜山は反応して振り向くが、そこにハジメはいない。すでにその大きな巨体の下にいた。大き過ぎたことで、足元がおろそかになったのだ。

 

「邪魔だ」

 

ハジメは先程よりも強い一撃で拳を顎に当て、それに怯んだ瞬間、トンと〝空力〟で足場を作ってそのまま檜山の残った腕を後ろに回転しながら、全力で捻り、

 

「ぐ、ぎゃあああああああ!」

 

そのまま引きちぎった。

 

「な、ぎゅ、もぉぉぉ‼︎」

 

と、檜山のなくなった片腕。正確に言えば、最初に七海が斬り落としたほうから、新たに腕が生えてくる

 

(反転術式…ではないですね。回復魔法でも。肉体変貌の際に、無理やり出したのですね)

 

七海はそういう意味ではツギハギ呪霊と似ているなと思いつつ、七海も攻撃に加わる。

 

「ぐ、らえぇぇぇ!」

 

檜山は地面から先程の触手…とは少し違い、荊のように鋭く、鋭利な棘が七海とハジメを取り囲みながら迫り、そのまま黒い棘が2人を覆んだ。

 

「へ、へへ、へは、ははは、死んだ、じん…ごえぇあ!」

 

檜山が吹っ飛んで再び壁にめり込んだ。バリンと、無傷の2人が棘を破壊し、そのまま加速してハジメが蹴りを入れたのだ。

 

子供のように檜山は喜んでいたが、それで殺せてないと、恵里はすぐに判断していた。追撃のために、取り押さえてなくても、この場では足手纏いになる者の拘束をしていた傀儡騎士を向かわせたが、ハジメは〝ドンナー〟と〝シュラーク〟で傀儡騎士の頭を吹き飛ばす。七海の方にも傀儡騎士向かわせたのだったが…そのうちの1人は、七海を慕っていた

 

「マッドさん、あなたもですか」

 

「けん、と殿」

 

いま楽にする。その意味と、せめてもの慈悲として、その肉体を破壊する。だが、七海が肉体を破壊するにはそれなりの威力が必要。

 

(ならば)

 

「こっちだ!勇者様達を守るぞ!」

 

と、そこに来たのは腕に青の布をつけた騎士達。それを率いていたのは、パーンズだった。

 

「布をつけてない奴は敵だ!気をつけ…」

 

パーンズは指示の途中で、今のマッドの状態を、見た。そして、次にどうなるかも、スローモーションのように感じつつ、理解した。してしまった

 

「待っ」

(黒閃!)

 

パーンズが叫ぶ前に、黒い閃光は輝いた。

 

黒閃は、狙っては出せないが、まだ先程の戦闘の余韻が残っていたことにより発生した。最初にそれを受けたマッドの肉体は、黒い閃光と共に弾け飛び、その後ろの騎士達も、黒い呪力の衝撃で吹っ飛ぶ。ある程度にダメージでは例え全身の骨を粉々にしても、動き出すだろうし、何より檜山のような怪物もどきにしてしまう可能性もある故に、七海は全力の一撃を放った。

 

「あ、あぁ、ぁぁぁぁ‼︎」

 

周囲の騎士が、パーンズに指示を求めている。だが、あの調子では動かないだろうと七海は判断し、そして隣のハジメが鬱陶しなという顔をし、宝物庫からガトリングレールガンその名をメツェライ……否、ノイント戦でも使った片腕に2門のガトリングレールガン。ハジメ命名、〝メツェライマークⅡ 〟を取り出したのを見て、

 

「全員」

 

七海は速攻でハジメが何をするつもりか理解した。待てと言って聞かないだろう。他の生徒、なんなら七海すらも、今のハジメには視界にない。彼を動かすのは、大切を傷つけ、汚そうとした存在への報復。

 

「伏せなさい!」

「伏せてぇぇ!」

 

七海の鬼気迫るような表情の掛け声と、園部の叫びによって、他の者たちも立ち尽くす者を覆いかぶさるようにして引きずり倒す。ガトリングレールガンからバチチと紅いスパークがはしり、一斉砲撃が始まる。傀儡となった騎士達が、電磁加速した砲弾の雨によって、薙ぎ払っていく。

 

〝メツェライマークⅡ 〟は通常よりも装填できる弾丸が少ない代わり、一斉砲撃力優れた武器。それが両手と、さらにはいつのまにか両肩にもある。合計8門の砲撃。弱点として、砲門を増やすたびに自身の動きを制限するというリスクがあるが、この場でそんなリスクはないに等しい。次々と血が飛び、肉片が飛んでいく。砲撃が終わり、訓練所は静寂になる

 

「南雲君、やりすぎではないでしょうか?」

 

「あんたなら対応してくれんだろ?」

 

七海は『そういう問題じゃないです』と言いたいが、説教はあとにするとこととした。ハジメは〝メツェライマークⅡ 〟全てをしまい、ザッ、ザッとハジメは歩き、他の者と同様、頭を下げて伏せていた恵里の眼前に立ち、見下ろした。その目は、なんの価値もない石ころを見るような、そんな目。

 

「で?」

 

終わりか?と、そう聞かれた気が恵里はした。ハジメはこの場で何が起こったか、恵里が何をしたかは、七海ほど分かってはいない。だがそれでも、言動で理解していた。彼女が敵で、自身の大切に手を出して、汚した存在だと。

 

「………」

 

その状況を、七海は止めることもしない。敵と決定したハジメを止めることはそもそもできないというのもあるが、それ以上に、恵里を許すことも擁護することもできないほどのことをしていたのは、もはや明確なのだから。恵里はもうどうにもできない。

 

そういった、同情でも憐れみでもない、諦観の表情を見せる七海も見た恵里は、ギリっと歯を食いしばり、血が滴る。圧倒的な強者による蹂躙で、優位性を奪われたことに、憎悪が出て、次に畏怖が沸き上がる。だが、この場で言葉を吐いても無駄だと判断した。なぜなら、次にハジメを見た瞬間、額に銃口を押し当てられていたから。

 

「何もないなら、死ね」

 

死ぬ。恵里の頭を、その言葉だけが埋め尽くし、引き金を引かれる瞬間、激しい破砕音と共に、雄叫びが聞こえた。

 

「な、ぐ、もぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

檜山は肥大化し、変形した腕を向け、そこから火炎弾を放出する。どうやらあの身体でも魔法は使えるようである。だが、ハジメはそれら全ての魔法の核を撃ち抜くことで、あっさりと霧散する。それでもなお、まるでゴリラのような動きで檜山は向かってくる。その顔はもはや魔物よりも悍ましく、檜山と呼べる部分は何一つとしてない。

 

「うるせぇ」

 

煩わしそうに、ハジメはバッと檜山に向かい前蹴りをぶち込む。凄まじい衝撃音にその巨体となった身体でも耐えきれず、檜山は「ごぇ」と声を出す。と同時、ハジメを睨み、地面と、香織の時のように自分の腕から黒い触手のようなものをだし、ハジメを縛り付ける

 

「へ、へはぁ!油断してっから」

 

直後、バッアァンとそれら全てが弾け飛び、檜山の眼前に、強烈無比の拳があった。

 

(術式みたいだが、自身の身体から離れたとこに出したのは強度もコントロールも雑だ。身体から出した物も、その程度の呪力出力で、俺を拘束できると思うなよ)

 

檜山が最後に感じていたのは、強い憎しみと、こんなにまでなって、なぜ勝てないのかという、愚かなまでの疑問だった。

 

(黒閃‼︎)

 

黒い閃光が再び檜山の顎をとらえた。ズガァンと音たて、巨体が宙を舞う。黒閃アッパーで吹っ飛んだ檜山を追う形でハジメは飛び、ガッと首を掴む

 

「おあ、おま、おまおまおま、おまぇがぁ、いなげぁ、がぉりぃは、おでのぉ!」

 

怨嗟、殺意、憎悪。もはや人ですらないその檜山に対し、ハジメは同情も憐れみもない。というより、もうこの檜山はすでに、人としての証明できる部分が、身体だけでなく、感情にすらなかった。ひたすら己の欲望に忠実に動くだけの、怪物だった。故に、

 

「俺がいようがいまいが、結果は同じだ。お前が何かを手に入れられることは、天地がひっくり返ってもありはしねぇよ」

 

おのが不幸を他者のせいにし、不幸を振り撒き、呪いを振り撒き、自身が幸せだけを望んだソレはもう、呪いそのものだ。ハジメは首から手を離し、呪力と魔力の身体強化による回転蹴りが、度重なる肉体変貌による無理矢理の再生で強度がガタ落ちした檜山の胴から下を別ち、胴体部分は、王都に侵入した魔物の先陣がたむろっている方へと飛んでいく。

 

「お前がはずっと負け犬だったんだ。他者への不満と非難だけで、自分は何も背負うことがない。そんな奴が、何かを得ようとなんて、おこがましいんだよ」

 

ハジメ本人に、どれだけの自覚があったかはわからない。だが、あんな状態でも生きているのは、檜山からなぜか漏れ出る呪力から判断できた。それでも、ああなっては生き残るのは不可能だろうが。

 

「チッ」

 

瞬間、ハジメに向けて威力はあまりないが、命を奪うには充分の極光が降りそそぐ。

 

その光が降りそそぐ前、檜山の対応をしていたハジメに代わり、恵里に対しては、七海が動いていた。その最大の理由は、ハジメが見せた黒閃の後に呟いた恵里の言葉にある

 

「そうか、そうなんだね」

 

小さな声だった。全て聞き入れたわけではない。だが、彼女を覆う呪力が、突然安定した動きを見せた瞬間、その異常性と、危険度が増した。今、恵里をどうにかしなくては、取り返しがつかなくなると。

 

「っ!」

 

恵里が何かをしようとする前に、七海は駆け出していた。幸い、凄風(せいふう)は先ほどのハジメの砲撃の際に落としており、恵里に近い所にあるが地面にある。ギリギリではあるが、恵里が拾って攻撃するまでに、その首を斬り落とすことができる。

 

「?」

 

だが、恵里はスゥと手を前に出した。その行為に七海が疑問に思っていると、

 

「こうするんだ」

 

と何かを発射するような……否、それが何か、七海は気付いた(・・・・・・・)。それは、辻の時にしたのとは違う。あの時したのは呪力の放出。今したのは、恵里の術式によって生み出された、

 

「⁉︎」

 

七海は咄嗟に回避を選択したがそれが追ってくる。ある程度の追尾も可能のようだ。

 

「へぇ。これも見えるんだ」

 

恵里は追加するように手を向けて、さらにソレを発射する。

 

(バカな、ありえない!)

 

動揺を隠しつつ、冷静に七海はソレらを斬る。

 

「ふーん。見えているなら斬れるのか、それとも別の要因かな」

 

(…ありえない)

 

そもそも、シアやハジメのような例外があったとはいえ、檜山が呪力を纏い、術式を使えていたことにも驚きと疑問があった。そして、檜山にあった彼以外の呪力の残穢は、間違いなく、恵里のものだった。

 

(王都で、私、南雲君、おそらくシアさんもでしょうが、戦ったことで出ていた強い呪力を感じ、今までの訓練でも私の呪力を受け続けたことで、覚醒した。呪力感知だけで言うなら、おそらく五条さん並み)

 

六眼持ちほどにないにしろ、それだけの技量をもっていることにも驚くが、それ以上の驚きが七海にはあった。彼女の呪力感知能力の、凄まじさ、それは…

 

(さらに、信じられないが、他者の魂を通して、黒閃を感じ、そこから呪力の核心へ至った)

 

黒閃を出した者とそうでない者とでは、呪力の核心に天地の差が出る。

 

(術式か、魔法か、どちらかなのか両方なのかはわからないが、おそらく一時的に魂が繋がった状態になっているのだろう)

 

だが、出さずして、他者が受けた黒閃を、魂で通すことで理解した。そうでなければ、術式を使いこなし、呪力を安定した運用などできない。当然自ら黒閃を出したわけではないので、黒閃を出した者のような、ゾーンには達していない。それでも、核心を掴むくらいはできていた。

 

(そして、彼女の術式。最初はあのツギハギの呪霊と同じく、魂に干渉する術式だと思っていた。それによって檜山君の身体が変貌し、元々術式があったが脳が非術師のものであったなら、発現するのもわかると思っていたが……違う彼女術式は、そんなものじゃない)

 

先程、七海に撃ち出した物は、魂だった。

 

「魂の創造と干渉。それによる、他者の術式の構築。それが君の術式ですね」

 

「術式、術式かぁ。それにさっき呪力って言ってたし……じゃ、やっぱり魔法とは違うんだ」

 

これ以上彼女を野放しにはできない。そう七海は感じた。まだ確証はなかったが、今恵里が否定しなかったことでほぼそうだと判断した。

 

(生得領域は術師、非術師関係なく、誰もがみな生まれながらに持つ心の空間。心=魂なのかは別として、それを媒体に術式を対象に作り出した。そうでなければ、檜山君が術式を使えたことに、納得がいかない)

 

七海は自分で何を言ってんだと思いつつ、その可能性しかないことに愕然としていた。厳密に言うなら、七海の考察は全部が当たっているわけではない

 

 

中村恵里の術式、生転霊(せいていこん)

その効果をざっくりというのなら、魂を解析し、時に進化させ、時に生み出す。真人使っていた無為転変と違い、魂そのものの形状を操作することはできない。だが術師、非術師関係なく、誰もがみな、魂に刻まれている、生まれながらに持つ心の空間、生得領域。彼女はそれを観測し、術式を持たない者の生得領域をベースに術式を作りだす。その後、肉体は術式を使えるように進化しだす。ただし、進化にはいくつかの条件があり、対象がその条件を満たさない場合、進化に失敗し、その肉体は、術式が使える身体に変貌する。

また、変貌した対象も、進化した対象も、変化を受け入れるという縛りが必要な為、恵里に手を出すことはできず、真人の術式程にないにせよ、術式によって魂に干渉を受けた為、相手が『まぁ、いいか』と思える程度の命令なら従ってしまう。

檜山はあの時、自身の身体が動けるように願い、また、ねじ伏せる力を欲した。それは、自身が変化することを望んでいたに近く、無意識的に術式による変化を受け入れたのだ。

さらに、コレらは術式のほんの一部にすぎず、真の力はまだ恵里も知覚していない。しかし、並外れた呪力感知能力と、降霊術による魂へ干渉する魔法の行使と、七海以上になった技能、〝魂知覚〟による魂の観測。これらは彼女をより高みへ上げる要因となる。

 

 

 

と、ハジメが飛んで行った方とは別の方向から、以前にも感じた魔力を察知した。

 

(奴か)

 

七海は『こんな時に』と内心で毒付く。空に空間魔法で移動したであろうフリードが白竜と現れ、地上に降りる。ハジメに睨みをきかせるその様は、随分と弱々しい。衣服が血だらけで、身体は五体満足に見えるのに、別の魔人族に抱えられている。そして、七海だけがわかった。その腹部に自分の術式が発動していることに。

 

フリードはハジメが光輝達や王国のために戦っていると誤解しつつ、告げる。

 

「………そこまでだ。白髪の少年。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ、大人しく…!貴様は」

 

会話の途中で七海に気付き、殺意向けてくる。いつの間にか魔物が取り囲んで、こちら側を狙っている。転移で連れてきたのだろう。

 

(まずいな。流石にこのレベルの魔物を今の状態で戦うのは危険すぎる。生徒や畑山先生を守りきれない…何より)

 

「ご主人様よ!どうにか魂の固定はできたのじゃ!しかし、受けたダメージが酷すぎ、これ以上保たせるのはユエの協力なしでは至難じゃ。このままでは…っ」

 

「白崎さん!しっかりして下さい!白崎さん!」

 

香織にいたっては、魂魄魔法でどうにか命を繋ぎ止めるので精一杯だ。彼女の身体は死んでいる。魂が収まる器に穴がある以上、こぼれ落ちていくのは自然なことなのだから。

 

「ほぅ、新たな神代魔法か」

 

ティオが言っている意味がよくわかってない生徒達とは違い、フリードは神代魔法の使い手。すぐに察しがついた。

 

「神山のものか?ならば場所を教えるがいい。それとそこの七三分けの貴様だ。随分と弱っているな。その命を差し出せ。さもなくば……⁉︎」

 

フリードがハジメと七海を脅そうとしたが、ハジメのドンナーから放たれた攻撃を間一髪のところで防ぐ。しかし

 

「ぐっ、…ごぁ!」

 

力を行使したのが原因か、フリードが血を吐き、所々から血が流れだし、抱えている魔人族が慌てている。フリードの肩に鳥型の魔物が乗り、肩を支えている魔人族と共に、魔法でその身体を癒すが、やはり回復しきれないのか、少し辛そうな顔をしつつ、周囲の魔物の包囲網を狭める。

 

「ハァ、ハァ……どういうつもりだ?同胞の命が惜しくないのか?お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ?外壁の外にはまだ10万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に100万の魔物が控えている。お前達がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることなど…………何を、する気だ?」

 

ハジメは、フリードに向けていた冷ややかな視線を王都の外……王都内に侵入しようとしている10万の大軍がいる方へ向ける。

 

(まさか)

 

七海は知っている。今ハジメが〝宝物庫〟から取り出した拳大の感応石。それが、とあるアーティファクトの起動の為のものだと

 

(アレは、まっずいなぁ)

 

〔+視認(上)〕の恵里も、そこから流れでる魔力の膨大さで、ハジメが何かとんでもない物を使おうとしているのがわかるが、この状況下で言えるものでもなかった。ハジメは無言で訝しむフリードを尻目に感応石を発動し、そこから〔+視認〕持ちでない者でも見えるくらいの魔力の光を放つ。

 

そこでようやく猛烈に嫌な予感がしたフリードは、咄嗟に、ハジメに向けて極光を放とうとするが、ハジメのドンナーによる牽制と、自身を襲う痛みで射線を取れず、結果、その発動を許してしまう。

 

広大にして膨大な紅い閃光が空を染め、夜は昼になったかのように輝き、雷神が暴れるごとくの轟きが響き、その光の柱が絶縁体たる空気を焼き払い、放出される。天地の両方を焦がす光。その光は触れたものを、文字通り全て消し去る無慈悲なる破壊。

 

神の雷とも言えるその一撃は、王都の外にいた魔物と魔人族の部隊に降りそそぐ。断末魔すら許されない光はそこにいた生物…魔物も魔人族も関係なく一瞬で蒸発し、凄絶な衝撃波と熱波は周囲にもただならない影響を与えていく。そこからすぐさま逃げようとしていた者達もいたが、ハジメが手元の感応石に魔力を注ぎ込むことで、光の柱は滑るように移動し地上で逃げ惑う魔物や魔人族を悉く焼きつくしていく。

 

直径おおよそ50mほどだが、効果範囲はそれを大きく超え、防御も回避不能。空間転移のない生物の足で逃げ切れるはずもない。

 

光の柱は、ジグザグに移動しながら大軍を蹂躙しながら、為す術がなくただ必死に逃げるしかない魔人族と魔物を追いかけるが、王都外壁の手前まで来た時、とフッと霧散するように虚空へ消える。

 

ギリギリ、王都内へ侵入…ではなく逃げ込んだ魔人族は強大なクレーターと、今も白煙をあげて熱を帯びた大地、一瞬にして消えてしまった自軍と仲間の痕跡すらないことに絶望し、呆然として座り込んでおり、戦意は完全に折れていた。

 

ハジメは目の前にいるフリードに、宣告する。

 

「俺がいつ、王国やらこいつらの味方だなんて言った?てめぇの物差しで勝手なカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したきゃ、勝手にやってろ。ただし、俺の邪魔をするなら、今みたいに全て消し飛ばす。まぁ、100万もいちいち相手してるほど暇じゃないんでな、今回は見逃してやるから、さっさと残りを引き連れて失せろ。お前の地位なら軍に命令できるだろ?」

 

同胞を一瞬にして殲滅した挙句の余りに不遜なハジメの物言いに、フリードの瞳が憎悪と憤怒の色に染まる。だが、彼は軍を動かす立場にある。戦況を確認し、部隊の数、戦意、戦場によって的確な判断をしなくてはならない。

 

(………嘘だ。南雲君のアレは、そう何度も出せるものではない。おそらく、もう一度発射するのは時間もかかる。……いや、もう出せない可能性すらある)

 

一方七海は現状が有利になったとは思わない。むしろ不利に近い。フリードの言う通り、数で押し切られてしまえば、疲弊しているこちらが負ける。

 

ハジメもそれは重々わかっている。眼前の敵を逃がすのは業腹ではあるが、今は一刻も早く香織に対して処置しなければならない。時間が経てば、手の施しようがなくなってしまうのだ。さらに、七海が考察したように、先の光の一撃は、試作品段階の兵器だったため、今の1発で壊れてしまった。殲滅兵器なしに、疲弊した状態で100万もの魔物と殺り合っている時間はない。

 

それらを知らないフリードは唇を噛み切り、全身の痛みに耐えながら、内心で荒れ狂う怒りをどうにか抑える。

 

(これ以上こちらの犠牲を増やすわけにはいかん)

 

そう思い、悔しさと怒りを持ったまま、ゲートを開いた。

 

「この借りは必ず返す‼︎そしてお前達2人!貴様らだけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

 

フリードはハジメと七海に告げ、踵を返す。恵里を視線で白竜に乗るように促す。恵里としては、光輝を連れて行きたいが、ハジメの余計なことはするなよという眼光を感じて引き下がる。

 

(ここで彼女を逃すのは、正直愚策ですが、やむを得ないですね)

 

毒を受けながらも、その強靭なステータスで未だ生きながらえている光輝を見て、妄執と狂気の宿った笑みを向ける恵里。その姿を見つつ、七海はこの場で最も警戒するべき相手を逃すという判断しかできないことを悔やむ。

 

白竜に乗ったフリードと恵里がゲートの奥に消えると同時に、上空に光の魔弾が3発上がって派手に爆ぜた。おそらく、撤退命令だろう。同時に、ユエとシアが上空から物凄い勢いで飛び降りてきた。

 

「……ん、ハジメ。あの醜男は?」

 

「ハジメさん!あのゴミ野郎は?」

 

魔人族の部隊とフリードを撃退し、追ってきた2人はフリードの所在を聞くが、ハジメはそれを無視してすぐに香織の状態を告げる。2人は驚愕して目を見開く。正直香織がやられるなど思ってなかったのだ。

 

「ユエ、頼む」

 

「…ん、まかせ」

 

とユエが頷こうとした瞬間。訓練所の外から咆哮が聞こえ、地響きがし、次の瞬間、訓練所の外壁を破壊し、巨大な何かが侵入して来た。

 

「ヴォォォォォォォォォ‼︎」

 

それは人ならざる者にへと堕ちた物

 

「言葉すら失いましたか、檜山君」




ちなみに1
実は彼女が七海に向けて発射した魂ですが、受けてもダメージはあんまり入りません。仮に受けたのが蝿頭でも同じく。それは恵里も七海も気付いてませんでしたが、七海は警戒して切りました。恵里は使い方を間違えてます。今回生き残った為、知るのも時間の問題です。

ちなみに2
無為転変:魂に触れ、元々術式があるが脳のデザインが非術師の脳を変えて術師にする
生転霊:魂に刻まれた生得領域をベースに術式を対象に与える。その後、肉体が呪術を使えるように進化もしくは変貌する
順序が逆というか、行使の仕方が違う。そしてどっちがより優れた術式かは、これからの彼女次第と、皆様の考え次第ですかね。檜山が進化できなかったのは
檜山の肉体実力共にそもそも弱いからと恵里自身がまだ術式の行使に慣れていないから。
そして、これを術式ありの人且つ最初から呪術を扱えるものに行使すると……ただ、そんな人物は魔人族側には恵里しかいないので必然的に彼女は自分自身にするかな?今はまだこの設定は保留中です
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