そしてやっぱり呪術廻戦は術式よりも肉体、フィジカル!ゴリラ廻戦万歳!
それはさておき、ちと遅くなりました
ルルアリア出したけど、こんな感じでいいかなぁ…とちょっと不安。ランデルはともかくなぁ…
「こちらが、今回犠牲になったと思われる、人数のリストです」
「ありがとうございます。拝見させて頂きます」
翌日からリリアーナとメルドの陣頭指揮で、大混乱にあった王宮の態勢が立て直され、被害にあった国民の支援も速やかに行われていた。そうしていく中で、状況も次々と明らかになっていき、その一部資料を七海はとある人物に求めた。
「申し訳ありません。このようなときに、あなたに頼むなど、ルルアリアさん」
リリアーナの母であり、ハイリヒ王国王妃、ルルアリア・S・B・ハイリヒ。彼女も王都復興の陣頭指揮しており、こういった資料も持っていると思って声をかけた。
「しかし、なぜ私に?」
彼女の言う通り、リリアーナやメルドに相談してもよかったが、リリアーナの父親でもある国王は恵里の傀儡兵によって殺されて失い、それでも国と民の為に尽力している。だが、まだ14歳の子供。無理をしているのは充分わかる。仕事をしていなければ、その悲しみに押し潰されてしまいそうな彼女に頼るのは、さすがに憚る。
とはいえ、ルルアリアの方もそれは同じだろう。しかし、大人と子供では、受け止める力が違う。それでも、辛いものは辛いだろうが。
メルドの方に頼まないのは現在騎士の再編成に没頭している彼の邪魔をしたくないのと、ある程度の期間王都を離れていたので、情報の全てを把握していないことと、このリストは騎士だけでなく、民間の情報も含まれる。
七海は先日王都のメインストリートで、とある事があったのだが、その時に感じた違和感を確かめたかった。どうしても七海は知りたいことがあった。
受け取った資料に七海は目を通す。まずはそこに書かれた名前ではなく、人数を確認した。その数、500人以上。あの場にいた騎士達と、野村の方に向かった騎士達。その合計を合わせてもとても足りない。おそらく、恵里の魔法で操作し、フリードのゲートで魔人族の領土に行ったのは想像できる。
だがこれは一部。次の資料は
「やはり、ですか」
そこに書かれた情報は、七海も考えがついていた。あの時、魔人族が撤退する際もだろうが、その前から……
いずれにせよ、この情報から察せられることは、想像したくもない事態へ向かっていることなど、明確だ。
「そういえば、現段階ではリリアーナさんが国王の代理として立ってるそうですね」
「ええ。あの子の方が、一段と優秀ですし、私よりも国民の支持があります。まぁ、ひと段落ついたら、ランデルが即位することとなるでしょうけど」
ランデルはまだ10歳。即位したとしても、政治的な判断や国家運営はできないだろうから、事実上別の、生き残っている貴族が台頭することになるだろう。まぁ大抵の重鎮達も傀儡兵に殺されているので、やはりリリアーナやルルアリアが率先して動くだろう。しかし、仕事量で言うなら、リリアーナの方が多いかもしれない。優秀すぎるというのも、不憫なものだ。
「む!おぬしは‼︎」
と、噂をすればなんとやらか。件の人物、ランデルがいた。父親が突然亡くなったのだから、親への愛情を欲して来た……というわけではなさそうだ。
「見つけたぞ!」
大股でこちらに近づき、小さな足で七海の足元を蹴る。
「オマエが!オマエのせいで、父上は!父上は‼︎」
更に拳で殴る。涙を見せないように少し顔を下に向け、怒りを吐き出すように殴る。
「やめなさい!ランデル!、七海様は…」
「かまいません。この子には、その権利がある」
「なぜだ!なぜ……オマエが、ちゃんと見てないから、こんな」
そして、拳をいくら打ち付けても意味がない、効かないとわかり、その手がとまり、ブランと下げた後、ランデルはとうとう泣き出す。
「そうですね。正直中村さんがこのようなことをするなど、私は思いませんでしたが……いや、彼女の隠し持っていた本質に、届きかけてはいましたね」
*
以前、七海が恵里とその母親の面談をしていた時
『それでは、まず、中村恵里さんの成績ですが、優秀です。ただもう少し、実力は出せると私は踏んでいますが、講習などがあれば検討しますが、どうしましょうか?』
『え、ぇぇえと』
『講習は、いいです。成績は下げたいわけじゃないですけど、率先して上げたいわけでもないんです。あまり、目立つのは、好きじゃないので…』
『………では、進路の方は?話し合いなどは?』
『あ、えぇぇ、それ、は』
『まだ、これだというものは決めてるわけじゃないんですけど、大切な人と一緒にいられるように、専業主婦とかもいいかなぁーって…あ、ウソですよ!単なる願望みたいなものです!』
恵里がワタワタと慌てて言うが、七海は最初から冗談のように思えた。
『……もうすぐその時期が来ますので、しっかり話し合って、よく考えて決断してください。質問を変えます。母親1人で育てていると聞きましたが、問題は?こちらから支援できることがあれば、ご相談に乗りますが?』
『ぅ、あ、その』
『問題ないです、七海先生。お父さんが亡くなった時から、ずっと。色々となくなるものもありましたけど、今は2人で楽しく過ごしてます』
『………先程から気になってましたが、どうしました?一言もないですが、体調でも?』
『っ!えぇ、ちょっと、そのー』
『もう、お母さん。最初に言ったよ。七海先生は見た目は怖いけど、いい先生だって。怖がらなくても、いいんだよ。普通にしてて』
そこから先も、質問しては母親が喋るよりも、恵里の方が答えることが多く、七海は共依存か、それとも別の物かと思うが、そこまで踏み込むべきかを悩み、もう少し様子見をする選択をした。
*
七海は今思えば、あの時から本性を隠していたのだろうと推測する。実際の母親との関係性はわからないが、少なくとも良い関係だとは思えない。そこら辺は本人に聞く以外ないが、すんなり答えないだろうし、今となってはどうにもならないことだ。
「ランデル君、君の怒りはもっともです。中村さんをここに残って見ていれば、ここまでならなかったかもしれないです」
だからこそ、七海はランデルの怒りと痛みを受け止めなければいけない。
「…っ!…おまえがいなければ、おまえが、強くしなければ」
「それは違いますよ、ランデル」
ルルアリアがランデルを抱きしめて、言葉を止める。
「仮に、七海様がいなくても、この事態は起きたことです。むしろ魔人族の撃退に大きな功績を出したのですから、王族として、彼を責めてはいけません」
「しかし、しかし……う、ぅぅぅ、あああ!」
ルルアリアの腕を振り払い、ランデルは駆け出し、距離をとってこちらを向く。
「おまえは、許さないからな!」
それだけ言って、ランデルはその場を去っていく。その姿が見えなくなって、ルルアリアは七海に謝罪をした。
「申し訳ありません。七海様。あの子はまだ子供ですから、どうか」
「気にしてません。それに」
間を置いてはっきりと七海は言う。
「あなたも、私を許してなどいないのでしょう?」
「‼︎」
ルルアリアはわずかだがビクリと身体が動き、瞳が揺れだす。
「な、何を」
「リリアーナさんは、私を様と呼ばなくなりました。それは、これまでのような畏怖の念や、私を王国側に付けておこうという魂胆でもなく純粋に、私への対応なんでしょう。しかしあなたは私を様と付けて呼んだ。それも畏怖などと似ている部分もあるのでしょうが、もっともなのは、拒絶の意思表示の表れではないですか?」
「どうして」
わかるのかと問いたいのか。ルルアリアは震えた声で聞く。
「少し前に、パーンズさんと話しました」
*
『すみません。今、どうしてもあなたを許せない自分がいるんです。わかってるんですよ!あの時のマッドは、もう俺の知ってるマッドじゃない。あの時点で死んでるって。でも、弾け飛ぶあいつの光景が、頭から離れない。そうなった原因が恵里の奴だとしても、俺は、俺は』
*
「もう彼は、以前のように私には接してくれないでしょうし、一生私を許さないでしょう。それが、理不尽な考えだと理解もしてるでしょう。それで、ハイ、そうですかと納得ができる人は多くない。あなたの私へ向ける目は、そういう目だ」
その言葉に、何も言えなくなったルルアリアは、目線を落とす。
「かまいませんよ。そのままで………だからこそ、私は彼女を、中村さんを……殺すつもりでいます」
それで許されるとは思っていない。そもそも、できるかどうかもわからない。鈴のこともあるからだ。だが、少なくとも自分のスタンスはこうだと七海は告げておく。
「1つだけ、いいですか?」
ようやく、ルルアリアは声を出し、問いかけた。
「それは、あなたの生徒達には、勇者一行の皆様には?」
「伝えますよ。そうする義務がある」
七海は燃えたぎる怒りをしまいこみ、次の場所へ向かう。やるべきことは、まだまだあるのだ。
*
「畑山先生、遅くなりました」
「あ、七海、先生」
次に七海が向かったのは愛子のもとだ。恵里と檜山の裏切りと、近藤、中野、斉藤、そして裏切り者とはいえ、檜山といった多くの生徒の死。これらは居残り組の生徒は更に疑心暗鬼を生み出し、再び自室に引きこもる者達が多く出た。生きていたハジメの豹変、香織の死、これらも要因のひとつだろう。いまだ香織は戻ってきてない。神山に向かったハジメ達が蘇生の為に奮闘しており、七海もそちらの確認に行きたいが、地上の被害と生徒達のケアのため、ハジメを信頼して託すこととしたのだ。
そして、今日もここに来た。彼女の、谷口鈴のもとに。
「谷口さん、七海先生も来ました。入って、いいですか?」
返事はない。無理もないだろう。目覚めた鈴は、あの一件以降の記憶はなく、いきなり起きたら王都は壊滅し、生徒含めて多くの人々が亡くなり、その原因の1つが親友によるものだと言われたのだ。
*
当初、鈴は信じなかった。
『七海先生、ウソっ、言ってください…ウソだって!』
諸刃の希望を持たせても、さらに傷つく。ならば
『本当です。……見えますか?あの火が』
鈴はわかっている。それでも、現実を見せる。その結果が、彼女の心の支えであっても。
燃え盛る炎と、そこにあるであろう王都。これが夢ではないと理解しつつ、夢であって欲しいと鈴は望んでしまう。
『魔人族が起こした災禍。しかし、こうなったのは、中村さんの情報漏洩と、王都の騎士達を降霊術で操って』
『ウソだ!ウソ……私が、私が、しってる恵里は』
『ウソ…じゃねーんだよ‼︎』
それに答えたのは居残り組の生徒の1人。
『皆、皆死んだんだ!近藤、中野、斉藤も死んだ!俺達も、殺されかけた!』
『あんた、こんな状況なのに、私達がこんなになったのに、よくも今まで寝てたわね!』
『それで起きたら現実逃避⁉︎ふざけんなよ!』
七海はすぐに彼らを止めるが、まだ言い足りないのか七海と鈴を睨む。が、七海が睨み返すとすぐに黙った。
『ね、ねぇ、シズシズ、ウソでしょ?龍太郎くん……ねぇ‼︎』
周囲の勇者グループ肯定の言葉と居残り組の生徒達の反応は、彼女の望むものではなかった。
以降、居残り組の生徒の大半は、七海が見てない所で鈴の部屋に行っては「なんで今まで寝てたの」「恵里がああいう奴だって知ってたんじゃないのか⁉︎」「おまえも裏切り者なのか⁉︎」と扉を叩いて怒りをぶつけて、そういった心無い言動で、あっという間に彼女はふさぎ込み、自室に入って出てこなくなった。
*
「谷口さん。あなたの負った心の傷を、本当の意味でわかることはできません。ただ、これだけは言います。私は、中村さんと次に邂逅することがあった際は、彼女を殺します」
「七海先生⁉︎」
何を言いだすのかと愛子は驚き止めようとするが、構わず七海は言う。
「そしてそれは南雲君もでしょう。白崎さんの件も、今の南雲君がどうなっているかも聞いてますよね?正直私はそれを止める気はないです。ただ、このままでいいというなら、それも咎めませんし、どうにかしたいと言っても、あなたを止めないことは約束します。白崎さんの件が済み次第、私は王都を離れます。どうしたいか、何をしたいか、よく考えて、自分なりの結論を出してみてください。…これまであなた方を放置してしまった私に、こんなことを言う権利はないのでしょうが」
「そんな、こと、ない、です」
カタコトだが、それは七海が鈴に事実を語ってから以来の会話だった。
「七海、先生は悪く、ない、です。私が、私が…恵里に、気づいて」
シーツが擦れる音がする。頭を抱えているのかもしれない。
「そこまで長くはないですが、今日明日という話でもないです。もう少し、ゆっくり考えてくださ」
「七海先生」
声が近くになった。おそらく鈴は扉の前にいる。
「もう少し、だと思うんです。考えが、まとまるの。だから、七海、先生。責めないでください。自分を……私も、できるだけ、自分を責めないように、頑張ります」
掠れるような、だが、ハッキリとした声で鈴は言った。この扉を開けるだけの覚悟と精神は、今の彼女にはない。どちらになるかはわからないが、どちらにしても、彼女のことを支えていこうと、七海は思った。
*
「よかったと、言っていいんでしょうかね」
「え?」
七海がつぶやいた言葉に、愛子は反応する。こんなにも弱い言葉を言う七海を、初めて見た気がしたからだ。
「結局のところ、私は谷口さんを戦いの場に出そうとしている。彼女の事を思うなら、これ以上苦しめるかもしれない選択肢を与えるべきでないというのに」
「でも、今の彼女には、理由が必要です。他に何かあったかもしれないというのは、正直思います。けど、これは私の考えですけど、谷口さんは、戻ってきますよ」
「それが、本来の谷口さんでなくなっていてもですか?」
彼女の笑顔を奪った。
本当の意味で笑いかけることがなくなったパーンズ然り、檜山を容赦なく殺した事を知った生徒達然り、今の七海に、心からの笑顔を向ける者は少ない。また、恵里に関してのことは緘口令が出ているが、こんな状況下ではあまり機能しておらず、少しずつ漏れ出ていた。
何気なく、愛子は七海の方を向き、問う。
「七海先生、もう少し教えてくれますか、呪術師だった時の、七海先生のこと」
「なぜ、今ですか?」
「今も出す言葉は、先生が呪術師だから出すものですか?そうじゃないにしても、そうにしても、知らなきゃいけない。そんな気がして」
ほとんどの時間を王都復興の手伝いや生徒のケアに回している為、七海は自分のことをなかなか話せていないが、それでも愛子だけには、ちゃんと自分の事を話した。呪術師として、何をしてきたか。
「どの道、話すことですが、もう少しだけ待ってください。白崎さんの件が済み次第、お話します。ですが、それよりも、畑山先生、あなたも大丈夫なんですか?」
「え?」
「神山での一件を、引きずっているのでしょう?そのことをまだ生徒達には話してないようですが、南雲君が帰ってきしだい、話すのですか?」
「……はい」
あれは愛子が悪いわけではない。なんて言葉を望んでいるわけではない。これは、背負うべきことなのだと、愛子は考えている。結果、皆から先生と呼ばれなくなるとしてもだ。
「七海先生、私も、背負いましたよ」
泣き出しそうになるのを、愛子は必死で抑える。七海としては、このまま愛子と話しておきたいが、次は破壊された訓練所とは別の訓練所にいる光輝達の対応がある。もしハジメが香織を助けることに成功したら、まず間違いなく、香織の親友がいる雫のもとに向かうと思うからと、今の光輝を、放っておけないから。
「畑山先生」
「これで、一緒ですね」
背負ってほしくなどなかった。愛子だけは、穢れることがないように。
(いや、無理だとわかっていたことだ)
七海は一緒と言った彼女を、否定したい。「違います」と。だが、重さは違えど、同じだ。結果がどうであれ、同じだ。少なくとも、愛子が、七海がそう思う限りは。
「畑山先生。訓練所に、行きますが、あなたは?」
「はい、行きます」
ならせめて、自分何ができるか。それを考えながら、七海は歩みを進めた。
*
「よう」
先日破壊された訓練所とは別の訓練所に着くと、メルドが入口で手を挙げて待っていた。
「騎士団長ともあろう人が、こんなところで油を売っていていいんですか?」
「手厳しいな。だが、油を売っているわけではない。王国騎士団の再編成の為の隊長格の選抜試験はもう終わって、新しい副団長も決まり、各隊の隊長も決まっている。王都の復興と、部隊の質の向上の為の訓練。2つに分かれてしているところで、俺の今日の担当はコッチなんだ」
「大体こっちにいる感じがするのですが?」
七海の鋭いツッコミに「うぐっ」とメルドはたじろぎつつ言う。
「まぁ、騎士団長の立場を考えると、王国騎士団の再編成こそが優先順位的に上でな」
「まぁ、いいですよ。それよりも、生徒達の様子は?」
メルドの言葉を耳に入れ、即座に聞く。が、七海のその対応は「はいはいそうですか」と言っているように聞こえたのか、メルドは少しだけ苦い顔をしてから答える。
「今言った部隊の質の向上の為、騎士達の相手をさせている。雫、龍太郎、そして、光輝にな」
現実逃避の為、王都の復興を手伝う生徒と、訓練に精を出す生徒がいるが、七海は光輝は確実に後者だと思ってはいた。
「それと、これは余計かもしれんが、今ここにいる騎士団は、少なくともお前に敵対心はないし、むしろ感謝してる奴の方が多い。残りは今は復興支援をしている」
「パーンズさんも、ですね?」
愛子も今のパーンズの心境はわかっている。今はあまり七海に会わせたくない思いもあり、メルドに聞いた。
やっぱわかるかとメルドは何も言わずに視線を上に向け、わざとらしく知らぬふりをする。
「ほんと、余計ですが……感謝はします」
七海がそんな言葉を言っていると、訓練所の中に着く。剣と剣がぶつかる音が響きわたる。
光輝を探す為、七海は目線を動かしていると、リリアーナと話している光輝がいた。相当な仕事量で、寝る暇がないほどだというのに、リリアーナは光輝達を労いに来たのだろう。そのすぐ近くで上…神山の方を見上げている雫がいる。神山で治療されている香織が気になっているのだろう。
「あの、王族がいるのに、私達の方にいたんですか?」
流石に愛子もツッコんだ。
「もう一度言いますが、あんなところで油を売っていて良いんですか?」
「許可はもらった。それに、ここが今1番安全な場所だと思うぞ」
それはそうなのだろうが、なんか納得がいかない七海である。だが、それよりも優先すべきことがある。スタスタと光輝達の元へ向かうと、話している声が聞こえてくる。
「………正直、南雲のことは余り…信用できない。雫には会って欲しくないと思ってるんだけどね……」
「あれだけのことがあって、まだ認められませんか?」
七海は会話に入るつもりはなかったが、つい入ってしまった。
「!七海、先生」
「天之河君、君は助かったのは、今回も南雲君がいたからですが、それを認めたくはないんでしょう?」
一瞬、光輝は「違う!」と声を荒げようとしたが、できなかった。それをしても七海に全てを否定される気がしたから。
「君が抱いている感情は、一言では言い表せないものになっているのでしょう?私も、規格外を目の当たりにしてきた身ですので、ほんの少しくらいはわかります」
嫉妬、猜疑、恐怖、自負、反感、焦燥、そして…感謝。それらを否定する自分自身。あの時の光輝は、オルクスの時とは違い、文字通り何もできなかった。自分がすべきことを、自分の大切な者を掻っ攫うハジメを、認めたくても認められない。
ちなみに七海の言う規格外を目の当たりにしてきたとは五条悟や夏油傑といった高専時代の時の事を言っている。
「ただ、天之河君、その感情は否定してはいけない」
「は?」
「むしろ、いやいっそ、全部南雲君にぶつけてみなさい。南雲君にできないなら、私でも構いませんがね」
「今の俺に、戦って、勝つことができるとは」
「そういうことではなくて」
光輝は常に超えようとすることばかり考えている。七海はそれを悪いとは言わないが、彼に必要なのはそういう行動的ではなく、感情的な部分の話だ。
「不平不満をもっと言葉に出しなさい。君は、自他に拘らずそういう負の感情をしまい込み、それを別の方向へ持っていくクセがある」
「!」
光輝のご都合主義を、七海も見抜いている。本来なら、自尊心を傷つけてしまう行為はするつもりはないが、光輝はその自尊心が無意識だろうが強すぎる。故に折る。
「後でまとめて話しますが、私は教職をする前は負の感情と向き合い続ける仕事をしていました。だからわかるんです。君はその負の感情=悪としている部分がある。ですが、私は負の感情は人の本質の一部だと思ってます」
「ほん、しつ」
「ええ。天之河君、それをずっと抱え続ける行為は、必ず自分を壊す。君は負の部分にあまりにも敏感で、悪と決めつけてしまう。だが、それは誰しもがもつもので、切り離せない。本当の意味での聖人はこの世にいない。だから、君は考えなければいけない。己の負と向き合うという事を」
今光輝が抱える負。そこから目を離すなと告げる。この先、彼が気付いていくべきものは山のようにある。それを、少しずつ、絡まった糸をほぐすように、七海は接する。
「私も、できる限りの手伝いをしましょう」
「………おれは、あなたを、信用してませんよ」
「知ってます」
そんなの見ればわかると言うように七海が即答すると、それに対して光輝は睨んでくる。
「しかし、私はあなた達の教師で、担任です。畑山先生と違い、私に教師としての才がなくとも、私がすべき、与えた役割なんですよ」
「なら、俺も勇者としての、役割があります」
だからそうではないと、七海は頭を抱えそうになる。
「君のそれは、役割ではない。君がしなければいけないことは、学ぶことです。君は、まだ子供なんですから」
今度は子供扱いされたことに腹を立てるが、その時点で子供なのを、彼は気付かない。
「まぁ、今私に言えることはあまりありません。君が体験していくなかで、掴む、離すを繰り返す必要がある。こればかりは経験が必要です。この世界にいるなら、いや、戦うなら、それは更に君を追い詰める。それだけは覚えておいてください。まだ、戦うと言うならね」
七海はそう言うと周囲の生徒達に聞こえるように、「集合!」と声をかけた。戸惑いつつも、その場にいた生徒達が寄ってくる。
「皆さん、これからの事を含めて、私の事を話しておこうと思います。とりあえず、ここにいる人達にですが」
それに反応したのは辻と野村だった。遠藤もこの場にいたら反応していただろうが、今の彼は絶対安静だ。切断された足は腐らないようにし、香織が戻ってきた時に回復してもらう予定だ。完全に失っていれば、再生魔法でも足を戻すのは難しい。香織は適性が高いので、時間をかけていけば、できるかもしれないが。
「あの、七海先生。それって」
「ええ。先に言っておくと、辻さん、野村君、遠藤君には伝えています。」
辻が知っているかの反応をしたので告げると、案の定光輝は「俺達に隠し事って、やましいことでもあるんですか!」と怒るが、落ち着くように言う。
「話さなかった理由も含めて話します」
そうして七海が話そうとした瞬間、何気なく空を見たリリアーナが、空に黒い点があるのを見つけ、それが徐々に大きくなるのに気付く。
「な、七海さん!あれ!何か落ちて来てませんかぁ!」
「?って、こんなタイミングで」
「何を…っ、皆ぁ!気をつけろ!上からくるぞ!」
光輝もそれに気づき、大きな声で叫んだことですぐに皆退避したと同時に、それらが訓練所に地響きを立てて降りて来た
「っっ!全員、敵襲かもしれん!備え」
「いえ、違いますよ。まったく」
メルドが号令を出すのを、ため息を吐きつつ七海は止めた。
「もっと別に来る方法もあったでしょう?南雲君」
「よっ、七海先生。怪我も完治して、体力も全快みたいだな」
七海の注意を無視して、そんな呑気なことを言うハジメ。その周囲にはユエ、シア、ティオもいる。だが、肝心の人物がいない。
「…白崎さんは?」
「⁉︎そうよ、香織、香織は⁉︎…なんで、香織が、いないの?」
バッと七海の前に来て雫が叫び、少しずつ、声が震え、小さくなっていく。まさか蘇生ができなかったのかと不安になっていくのが手に取るようにわかる。七海もほんの少し不安になるも、顔に出さないように、雫に続く形で「どうなんですか」と聞く。
「あ~、直ぐに来るぞ?ただなぁ……ちょ~とだけ見た目が変わってるかもしれないが〜そこはほら、俺のせいにされても困るっていうか」
「え?…ちょっと、待って。なに?何なの?物凄く不安なのだけど?」
雫は今度は詰め寄りながら聞く。
「どういうことなのよ?あなた、香織に何をしたの?場合によっては、あなたがくれた黒刀で」
「はい、八重樫さん、そこまでです」
目から光がなくなり更に詰め寄る雫を七海は止める。そうでもしないと黒刀を抜刀しかねない。雫はクワっと七海の方に向いて『止めないでください』と言わんばかりの表情をする。七海くらいでないとそこでびびってしまうだろう。
「とはいえ、私も聞きたい。白崎さんはどうしたんですか?見た目が変わったとは?」
「あ〜、その、もう一回言うけど俺のせいじゃないからよ。怒らないでくれ……るよな?」
「…白崎さんの」
「…状況によるわ」
七海と雫に圧をかけられながら言われて、ハジメが少し引きぎみに下がった瞬間だった。上空から「きゃぁぁぁぁぁ‼︎」と悲鳴が聞こえてきた。
「ハジメく~ん!受け止めてぇ~‼︎」
今度はなんだと再び上を見ると、銀色の何かが落ちて来る。それが人型であると気付いたのは、動体視力が良い者だけなのだが、その美しい姿の女性の形をした存在が、情けない言葉と拙い動きで落ちて来るのを「へ?」という顔で見ていた。
受け止めてと言われていたハジメはそれを無視し、寸前のところで回避した。そしてそのまま墜落した。先程のハジメ達が着地した時よりも轟音を轟かす。あと顔面から行っていたので、相当なダメージだろう。
ボワっと砂煙が舞い上がり、それが晴れたとき、そこに現れた銀髪碧眼の美女を視認した愛子とリリアーナが悲鳴じみた警告の声を張り上げる。
「なっ⁉︎なぜ、あなたがっ⁉︎」
「皆さん、離れて‼︎彼女は、愛子さんを誘拐し、恵里に手を貸していた危険人物です!」
その言葉に、その場にいた光輝や他の生徒達、メルド含めた騎士団の面々が一斉に武器へ手をかけた。特に、かなりハジメ達に接近していた雫はその場で居合の構えを取ると、香織が死んだ原因の一端である相手に殺意を宿らせた眼光を向けた。隙あらば即座に斬るといった様子だ。
「はぁ〜、……なにしてるんですか」
とそんな中で、冷静に、ノイントに隙だらけで近付く七海にメルドは「危険だぞ!」と愛子は「七海先生!」と叫ぶが、重たいため息をもう一度吐いて、七海は言う。
「もう一度言いますよ、なにしてるんですか?状況ではなく、状態を聞いてますよ、白崎さん」
呆れと、若干の怒り。割合で言うなら99%以上が呆れの声色で、その正体を告げると、ハジメ達を除いた周囲の人は「えっ⁉︎」と思わず口にする。
「あ、やっぱり気付きますよね、七海先生なら」
と頭をかいて「えへへ」と言いながら七海に言うその声は、間違いなく香織だった。七海はどういうことか聞きたいが、その前にまず、ハジメに言うべきことがあると詰め寄る。
「南雲君、社会に出て働く、もしくは誰かと行動する上で、必須なのはなんだと思います?」
「え、えーと、なんでしょう?」←敬語
「報告連絡相談です」
晴れ晴れとした空。
晴れ時々規格外、時々天使、その後に雷が落ちた。
ちなみに
ルルアリアはもうちと出すつもりでしたが、本編の活躍も含めて地味すぎるんだよなぁ、ぶっちゃけ遠藤よりも影薄くね?あともう1話分は出したいけど、まだ未定
ちなみに2
仁義多責: 仁愛と正義を備えている人は、果たすべき社会的責任が大きくなるということ。
愛子のことでもあり、現在の七海のことでもあり
この先の話し…というか魔人族王都侵攻編の後日編であるこのシリーズでも書きますが、これから先、少なくとも王都では七海は多くの人に責められ、逆に愛子は賞賛されます。
原作で愛子が賞賛されていたのなら、七海は逆にしようと思いました。
次回か、その次くらいで、ついに、以前から言っていた懸念点。1人がキャラ崩壊してしまいます。
それがすごい不安