ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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兄貴のバトンをブラザーが受け止る。最高すぎる‼︎

芥見先生曰く東堂は「コイツが来たら(ギャグになるから)死なんだろ」だそうで

だから、多分、大丈夫だ!


仁義多責④

『あなた達も手伝ってください』

 

ハジメは七海にそう言われた時、断ることもできたが、「少しでも足手纏いならない方が、君としてもいいでしょう?」と追加で言われてしまえば、光輝達の同行を許した身としては、言い返す言葉が見つからなかった。その内容については明日と言っていたが

 

「まず間違いなく、鬼みたいな訓練だろうな」

 

「やっぱりそう思うわよね」

 

その場は解散となった後、ハジメ、ユエ、雫の3人は王都のメインストリートにいた。ギルド本部への連絡と、大結界の修復に行く為で、その大結界を展開するアーティファクトの場所への案内を雫がしていた。ちなみに、七海にも同行するかと何気なく聞いたが、用事があると断られた。その上

 

『南雲君、私の事で何かあっても、絶対に何もしないでください』

 

と言っていた。ハジメは『何か今日するつもりか』と思っていたが、特に気にすることなく、七海が部屋を出るのを見ていた。

 

メインストリートは以前と違い、活気に満ちた喧騒ではなく、悲しみに暮れる者、行き場のない怒りを表情に表す者と、暗い表情が目立つ。あまりにも突然の魔人族の侵攻は、建物はもちろん、多くの人々の胸に喪失感や悲しみといった傷を残している。

 

それでも復興へと歩みを向けて、瓦礫を退けたり、建物の修復や再建をし、食事の配給などをしている。戦争という災禍に見舞われても、もう一度立ち上がろうとする意思。人が持つ、強さの1つを見つつ、ハジメはソーセージではない何かが挟まっているホットドッグのようなパンを大人買いし、行儀なんて知ったことかとばかりに忙しなく食い歩く

 

「そういえば聞いてなかったけど…ギルド本部って……結局、何をしにいくの?」

 

他人が食べている物はより一層美味しく見える。雫もはしたないのは理解しているが、圧倒的に食欲が勝った。ハジメ食べているのとは違う味、チーズっぽい味の物をモグモグと食べながら聞く。

 

「ああ、依頼完了の報告を伝言してもらおうと思ってな。事が事だけに、直接する為にフューレン経由で樹海に行く予定だったが、王都に来た以上は面倒だし、本部なら報告もきちんと対応してくれるだろう」

 

報告と聞いて雫は少し頭で考え、答えを口に出す。

 

「それってもしかしてあのミュウって子のこと?そういえばずっと姿が見えないけど」

 

雫は見るからに『残念だなぁ』と言わんばかりにしゅんとして顔を下げた。

 

「まぁ、でも安心しろって。母親と会えて、幸せそうだった」

 

「それに大丈夫。ハジメが日本に連れて行くから、また会える」

 

ハジメに続くユエの言葉に驚き、思わず雫は「はい?」と間抜けな声をだす

 

「あの、南雲君、どういうこと?」

 

「そのままの意味だ。ミュウと約束したんだ。俺の故郷に連れて行ってやるってな」

 

「でも……ミュウちゃんは海人族の子よね?というか、七海先生がよく許し…あ、例の縛りがあるから…」

 

「いや、反対すらしなかったよ。まぁ、苦言…とは違うか。ただ、そうだな…信頼してくれてたみたいだ」

 

「「………」」

 

「って、なんだよ、ユエまで黙って見つめてよ」

 

「なんていうか、南雲君、嬉しそうだった」

 

雫の言葉にユエは頷く。

 

「…そんな顔してたか?」

 

ハジメのその表情の意味を、ユエは理解した。

 

「七海に認めてもらえたのが嬉しいんだ」

 

「……………」

 

少々悔しそうな表情をするハジメに、雫は困惑した表情を見せ、次につい吹きだす。ハジメはキッと睨むが、怖さは全くない。

 

「ごめんなさい、でも、ちょっとおかしくて」

 

「まぁ、七海は私が知る中で私の次にもっともできた大人。尊敬したくなるのも理解できる」

 

「え?」

 

「ん?なに、ハジメ?」

 

「なんでもないです」

 

ハジメは藪蛇になりそうなので、無視した。

 

「つか、別にそんなんじゃねーっての」

 

剥れたように言うハジメに、ユエは自分のこと以上に嬉しそうにしていた。

 

「でも、本当に大丈夫なの?元の世界に戻る時に、ミュウちゃんがいるとは限らないし」

 

「それは俺も理解してるが、大した問題じゃない」

 

別世界を簡単に行き来できるとは到底思えないというのに、ハジメはハッキリと告げる

 

「対策なんていくらでもあるし、仮になくても作ればいいんだ。出来るかどうかじゃない、やるかどうかだ。大体、今更だろ?あと、海人族だからとかも関係ない。シアはウサミミ、ユエもアルビノでもないのにこんな鮮やかな紅眼で犬歯も鋭い。それでも、俺が2人を置いて日本に帰ると思うか?」

 

「それはそうね。ほんと、今更だったわ」

 

何があってもハジメなら何とでもするだろうという根拠はないはずなのに確信できるような信頼。

 

「なんとなく、七海先生が認めた理由がわかったわ。で……ミュウちゃんやユエさん達を日本に連れて行くのは良いとして、それでも香織のことはちゃんと見てくれてる?ん?」

 

「そんな圧をかけて言うなって!」

 

死滅の牙(カースヴァイト)

 

「わかったからやめろ‼︎つか、やめてください‼︎」

 

ハジメは聞こえるか聞こえないかの雫のボソッと発したつぶやきをしっかりと耳に入れてしまい、悶絶しそうなのを抑えてハジメは言う。嫌すぎて敬語になっていた。

 

「そういうのは本人に聞けよ。というか、俺が何を言っても、あいつがどう感じているかだろ?一応言っておくが、俺は約束通り邪険にはしてないつもりだ」

 

正直な所、雫は何となく答えは分かってはいたが、つい聞いてしまっていた。そんな様子が、何か気に入らない…というより何か危険を感じたユエは、追撃をかける

 

「……そんなだから襲われる。ハジメ、しっかり」

 

「お、おう」

「ちょっと待ってちょうだい。襲われた?誰が誰に?」

 

爆弾発言に反応してさらに聞く。隠す必要がないユエはさらに話す

 

「ハジメが香織に。どさくさに紛れて唇を奪ったらしい……おのれ、香織め」

 

ワナワナと拳しを握り締めて悔しがるユエを横目に、雫は親友が大人の階段を駆け上がっていた事実に頬を引き攣らせていたが

 

「レミアはもっと危険。ハジメ、気をつけて」

 

「誰?」

 

その名を知らない雫が聞く。ハジメは聞くなと言おうとするが、その前にユエは答えた

 

「ミュウの母親」

 

「…………南雲君」

 

「いや、その、これにはな」

 

「人妻まで手を出したの‼︎」

 

「出してないって!」

 

「なんで七海先生も認めてるんですかぁぁぁ‼︎」

 

 

 

「む」

 

「どうした、建人」

 

「いえ、今何か、誰かに呼ばれたような……あと、理不尽な怒りをぶつけられたような。まぁ、いいでしょう。それより、全訓練場の手配は?」

 

メルドが『なんだそりゃ』とツッコミを入れようとしたが、とりあえず七海の質問に答えることにした。

 

「問題ない。大介が破壊した所もよかったのか?」

 

「ええ。あそこは私が使います」

 

「それと、聞いたぞ」

 

「何をです?」

 

「ハジメが神山から戻る前日、王都のメインストリートであったことだ」

 

 

 

「そういや、どうするんだ?」

 

「なにが?」

 

ハジメは興味がなさげな表情にも関わらず、雫に聞きたいと思い聞く

 

「谷口の件だよ」

 

「…………南雲君、今の鈴をどう思う?」

 

「…知るか。ただ、一言だけ言うなら、見るのも嫌になるって感じだな」

 

ハジメは別に鈴がどうなろうとどうでもいい。それは変わらない。だが、それでも気になってしまうのは、かつて自分がなろうとしていた者に近いように見えたから。

 

(ユエと出会わないでいたら、ああなったのかな)

 

「ハジメ、何を考えてるかなんとなくわかるけど、あの子は違う」

 

スッと横目で見たからか、ユエハジメの心境を察して言う。

 

「あの鈴って子は、無理をしてるだけ。そうしないと、心が折れちゃって、何もなくしてしまうから」

 

「………ユエさん、鈴がどんな子なのか、聞いたことは?」

 

「香織から聞いた。とても明るくて、周りのムードメーカーだったって」

 

ユエはその時の香織の顔を覚えている。どうにもできないことに、悔しさを滲ませた、あの顔を。

 

香織も鈴と一緒にいた時間が多く、大切な友人だ。その変化に、想わない部分などなかった。

 

「あの恵里ってやつがああなった原因が、昏睡状態だったことと、前の自分にあるって本気で思ってる」

 

もし、昏睡せずに恵里と関わっていたら、そもそも、もっと早くに恵里の本性に気付くべきだったのに、ずっと笑顔でいたことが、そうしていることで皆を笑顔にできたら。そんな、甘い考えだったから、他のもっと大切な所に気付くことができなかったのだと、鈴が思っているのだろうとユエは言う。

 

「こっちからそれは違うとか、何か余計なことは言わない方がいい。少なくとも、今は」

 

鈴が前の自分を取り戻すのか、それとも今のままになるか、より酷くなるかはわからないが、今の彼女には生きる理由と行動が必要だ。無理に止めることは彼女のこれからに大きく関わるだろう。

 

「なら八重樫、その辺は天之河にはちゃんと言っとけ。あの野郎が今どういう状況かは知らんが、余計なことを言いそうな奴第1位なんだからな」

 

「うっ…確かに。多分今は鈴に会いに行くなんてことはしないだろうけど、早めに伝えておくわ」

 

あの場が解散になってすぐに、鈴は自室に戻り、光輝は自分なりに訓練を再開していた。だから少なくとも今日中に何か言うことはないだろうが、それでも戻ったら真っ先に伝えておこうと雫は決めた。

 

そんなこんなで揉めたり、相談しながらハジメ達は冒険者ギルド王都本部にたどり着いた。本部となるとこれまでみてきた支部、その全てが及ばない歴史と、貫禄を感じさせる建築物。その入口は数多くの冒険者達が出入りしている。今回の王都侵攻に伴って依頼も爆発的に増えているのだ。

 

内部の10列以上ある巨大なカウンターへと赴くと、冒険者でごった返しているが、そこは本部の受付。素晴らしい手際で手続きをこなしていくので回転率が凄まじい。

 

ちなみに受付の女性は皆美人なせいで、ユエがハジメの視線がそちらに行かぬよう、骨が折れるのではないかと思うほどの握力で手を握っていた。

 

ハジメは受付に着くと、ステータスプレートを出しながらミュウをエリセンに送り届けた事を証明する書類も取り出して提出した。

 

「指名依頼……でございますか?」

 

支部長からの指名依頼など一介の冒険者にあることではない。受付嬢が困惑するのも無理はないで当然の反応だ。ハジメの両隣りで手続きをしていた冒険者達も驚き、ついハジメを見ていた

 

受付嬢が「少々お待ちください」と言ってハジメのステータスプレートを受け取り内容を見ていたが、見る見る澄まし顔が崩れていき、そうして何度もハジメの顔と書類を見て、ギョッとした顔になり、慌てて立ち上がる。

 

「あの、申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけますか?南雲様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりまして……直ぐにギルドマスターを呼んでまいります」

 

「は?いや、俺は依頼の完了報告をイルワ支部長宛にして欲しいだけなんだが」

 

さらにこの後大結界の修復するという仕事もある為、ハジメとしては面倒は勘弁してほしかったが、受付嬢は「こちらも困る」と言い、凄まじ速さでギルドマスターを呼びに行った。

 

しばらくして、顎鬚をたっぷり生やした細目の老人、ギルドマスターのバルス・ラプタという人物が先程の受付嬢と共に現れた。

 

(何だか滅びをもたらしそうな名前だな)

 

とくだらないことを考えていたハジメに、バルスはイルワからハジメの事で連絡が来ていたので一目会っておきたかったことを告げる。

 

どこかの町に行く度に、なんらかの事件に遭遇しており、フューレンの時に七海に注意を受けたのもあって、今回こそは面倒ごとは起こさないでおこうと思ってたので、何事もなく挨拶だけだったことに、ハジメは胸を撫で下ろす。

 

「バルス殿、彼等を紹介してくれないか?ギルドマスターが目を掛ける相手なら、是非、僕もお近づきになりたいしね?特に、そちらの可憐なお嬢さん達には紳士として挨拶しておかないとね?」

 

が、ほっとしたのも束の間、キザったらしいセリフと共にハジメ達の傍にアベルという金髪のイケメンが声をかけてきた。しかも後ろに美女を四人も侍らしており、チャラチャラしているのがすぐにわかる。周囲の冒険者のヒソヒソ話が聞こえ、アベルが金ランクの冒険者であることがわかった。

 

バルスはハジメがアベルと同じ金ランクだと紹介する。周囲のざわめきが一気に酷くなる。

 

(これ以上ここにいると、面倒ごとになりそうだな)

 

そう思ったハジメはユエと雫を連れてさっさとギルドを出ようとするが、アベルの興味がユエと雫に向いていた。

 

「ふ~ん、君がねぇ~。かなり若いみたいだけど……一体、どんな手を使ったんだい?まともな方法じゃないんだろ?あぁ、まともじゃないんだから、こんなところで言えないか。いやすまない、配慮が足りなくて」

 

ハジメはこの瞬間にアベルは相手をする価値のない存在だとして彼に対する思考を切り捨てた。ユエと雫も、ハジメの内心を察してさっさとギルドを出ていこうとするが、進路に立って道を塞ぐ。

 

「まぁ、待ちなよ。僕が本物の金ランクだからって逃げなくてもいいじゃないか。別にとって食いやしないよ?まぁ、君は居た堪れないかもしれないから行ってもいいけど、女の子達は食事でも一緒にどうかな?本物の金というものを教えて上げるよ?」

 

ユエと雫を誘うアベルは絶対の自信があった。自分が誘いを断る女などいないと。

 

が、当然そんなわけはなく、ユエと雫は心底嫌そうな顔をしていた。そしてそれに気付いてない部分も含めて、滑稽である

 

「八重樫、後は任せる」

 

「はぁ⁉︎なんでよ!」

 

「いや、こういう残念なイケメンはお前の担当だろ?」

 

ハジメは劣化版天之河みたいだしと付け足そうとも思ったが、以前ならともかく今の光輝の姿がどうにも目の前のアベルに合わないせいで、それが出なかった

 

「誰が何の担当よ!というかそれ、光輝のこと言ってる?光輝はここまで残念じゃない……わよ?……多分、きっと、うん、少なくとも今はマシ…になってると思いたい‼︎」

 

「いやどっちだよ」

 

「というか、雫、意外に言う」

 

ナチュラルに毒を吐く雫と、その姿を見て目を丸くするユエと、ツッコミを入れつつも「まぁ、落ち着け」と言うハジメ。そしてさっきから話しかけていたのに一方的に無視されるアベル。腐っても金ランクの彼がこんなぞんざいな扱いを受けたことがないのもあり、侍る女達と共に険しい目で3人を睨みつけていると

 

「そ、それに、七海先生の教育で、さすがの光輝もほんのすこーしは変わってるし」

 

「七海に言われてその程度の変化って」

 

「まぁ、天之河だしな」

 

「む、おい待て、いま、ナナミと言ったか?」

 

アベルが聞き捨てならない言葉を聞いたと言わんばかりに聞く。ハジメが「んだよ」とキレつつアベルを見る。

 

「なるほど、あのナナミの居場所を知っているのだな。教えろ。そうすれば、この場を見逃してやる」

 

「は、何言って」

「待て、それは俺にも教えろ!」

 

その場の喧騒を遮るように、別方向から男の声が聞こえたので、ハジメはそちらからを見る。しかしそこにいたのは冒険者ではなく、王都にいる一般人だ。何か依頼をしに来ていたのだろう。

 

「あいつのせいで、俺の家が、あいつさえいなければ、魔人族が来ることもなかった!」

 

「おい、そりゃどいう」

「そうよ!私の子も死んだわ!勇者一行の1人を唆して、魔人族側のついた神の裏切りもの!」

 

「無駄に強くして、裏切って、多くの人を人質にしやがった!」

 

「どこにいんだ!教えろ!やっぱり王宮か⁉︎」

 

「それとももうここにはいないのか!まだ石をぶつけたりないんだよ!」

 

「息子を、子供を返して!」

 

周囲にはいつのまにか怒りの瞳をした人達でごったがえしていた。

 

「まぁ、皆さん、落ちいてくれ。この僕が、真の金ランクのこのアベルが、彼らから聞き出し、そしてナナミを討ち取っ手見せよう!」

 

アベルのその言葉の後に、雫とユエはハジメからブヅリという音が聞こえた気がした。『このアベルっての含めて全員ぶっ殺すか…』と考え始め、実行しようかしたとき、不意に野太いのに乙女チックな声がハジメ達にかけられた。

 

「あらぁ~ん、そこにいるのはハジメさんとユエお姉様じゃないのぉ?」

 

その声にハジメの殺意は正体不明の悪寒に変わり、咄嗟にドンナーに手をかけながら身構えた。そして、ハジメ達が振り向いた先には

 

「な、なんだ、この化け物は⁉︎」

 

アベルが思わずそう言いたくもなるのも無理はない

 

「だぁ~れがぁ、SAN値直葬間違いなしの名状し難い直視するのも忌避すべき化け物ですってぇ⁉︎」

 

それは壁だった。正しく言うなら筋肉の塊だった。劇画チックな濃ゆい顔と、全身の強靭な鋼の肉体に合う2メートル近くある身長。ここまでならまだいい。だが、赤毛をツインテールにしていて可愛らしいリボンで纏め、服装がいわゆる浴衣ドレスでゴシック系よろしくフリルがたくさんついてフリッフリだ。すごくフリッフリだ。しかもドレスの丈が合わずか、それともわざとなのか、極太な筋肉の塊の脚部が見事に露出している。

 

一瞬、ハジメは以前ブルックの町に巣食うクリスタベルという名の漢女の怪物を思い出して、『あいつか』と思ったが、声と顔で別人と判断した。

 

「ひっ、く、来るな!寄るな!化け物!ぼぼぼ、僕を誰だと思っている!金ランク冒険者!〝閃刃〟のアベルだぞ!それ以上寄ったら、この場で切り捨てるぞ!」

 

「まぁ、酷いわねん!初対面でいきなり化け物だの殺すだの……同じ金でも《店長》とは随分と違うわぁ~。でも……七海様ほどにないにしろ、顔は好みよん」

 

語尾にハートでもついてそうな言動に、アベルは顔面が崩壊しそうになる。

 

「ま、待て、貴様今、ナナミと言ったか、あのクズの名を」

 

「どぅあーれが、クズですってぇぇ!」

 

キレた漢女は両手をバッと左右に広げ、いわゆる不知火型のような体制を取り、ペロリと舌舐めずりをし、ヨダレを垂らす。瞳はギンギンに輝き、ギョロリと獲物を見る、もうこれだけでアベルは限界だった。剣を抜き、一刀両断しようとしたが、

 

「ほえ?」

 

間の抜けた声を出した時にはすでに漢女はアベルとの距離をつめ、剣の樋の部分を手刀で折り、そのまま組み付くいてサバ折り体勢に入った。

 

「ぬっふぅぅん。おイタする子にはお仕置きよん」

 

ミシミシ、メキメキと音が響き、アベルは必死に逃れようとしているが、鋼のごとき筋肉の前には、その足掻きは全く通用せず抜け出せない。しばらくもがいていたが、そのうち叫びが小さくなっていき、暴れていたのがビクンビクンと痙攣に変わり、折れた剣がカランと床に落ちた。

 

先程の殺意と怒りに満ちていたのが嘘のように、周囲は静寂に包まれる。ちなみに、アベルに侍っていた女達はアベルがサバ折りされて痙攣しだした時に、全員顔を青ざめさせ、あっという間にギルドから逃げだした。ようやく解放されて床に崩折れるアベルの姿はどう見ても強姦…いや、強漢にあった被害者にしか見えない。

 

産まれたての子鹿のようにビクンビクンと震えつつも立つ。腐ってもそこは金ランク冒険者。キッと漢女を睨む。

 

「あらぁ、いい目ねぇぇん」

 

だが、近寄る漢女に「ヒッぃぃぃ!」と怯えだし、尻餅をついてジリジリと下がる。その視線をハジメに向けた。

 

「お、おい、お前!このグズ!同じ金ランクだろう!なら僕を助けろ!どうせ、不正か何かで手に入れたんだろうが、僕が口添えしてやる!」

 

助けてほしい相手に罵倒するという意味不明な言動にもはや呆れを通り越して哀れみの視線を向けるハジメ。無視してこの場を去ろうとしたが、今度は漢女ではなくユエがアベルの方へ進み出た。

 

「ああ、助けてくれる気かい?なら、今夜は君のために時間を……」

 

ユエの瞳がハジメを罵倒されたことによって怒りに満ちているというのに、アベルはそれに気付いておらず、未だにキザなセリフを吐く。

 

「……口を開くな」

 

ユエはもはや聞くに耐えないとばかりに小さく呟き、同時に仰向けた右手の掌に黒く渦巻く球体を出現させた。重力魔法によって生み出されたそれを使い、

 

「えっ?ちょっ⁉︎やめっ」

 

待つなんてするはずもなく

 

「あ、あ、アッーーーーー‼︎‼︎」

 

こうしてこの世界に、新たな漢女が産まれた。

 

「あなた達…一体、何していたのよ。なんか周囲の冒険者があなた達のこと『股間スマッシャー』とか、『スマ・ラヴ』とか言ってたけど」

 

「なんだそのイヤな2つ名」

 

雫の言葉に、ハジメはホントにイヤそうな顔をしていると先程の漢女が声をかけてくる。

 

「久しぶりねん?二人共、変わらないようで嬉しいわん」

 

「……いや、誰だよ、お前。クリスタベルの知り合いか?」

 

「あら、これは失礼したわね。ただ、ここは一旦離れましょう。今なら七海様に対する不満を持つ人達も避けてるしね」

 

「お前は事情を知ってるのか?」

 

漢女はウインクして「えぇ」と言う。ウインクした目からハートと星が見えた気がしたハジメは「うゲェ」と思いつつも、言う通りにその場を離れ、その漢女が営む冒険者向け服屋店に着いた

 

そこで自己紹介をうける。名はマリアベル。ブルックの町でユエに告白したがあっさり振られ、強硬手段に出たところで股間をスマッシュされた元冒険者の男で、クリスタベルの元で漢女の何たるかを学んでいるそうだ。ちなみに、名前はクリスタベルが命名した。

 

「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね?ユエお姉様……」

 

「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい」

 

思い出してくれたことと、今の自分を応援されたことが嬉しいのか、マリアベルはニッコリと笑みを見せる。

 

「で、さっきのアレはなんなんだ?なんで七海先生があんなふうに」

 

「あの、私も、聞きたいです。七海先生は、その、恩人ですから」

 

まだマリアベルに警戒してるのか、社交的な雫にしては珍しく、ハジメを盾にしてその後ろから聞く。

 

「なんてことないわよ。単なる噂を信じてるの。七海様が魔人族と通じて王都に呼び寄せたとか、勇者一行を強くしたのもその為だとか、そのうちの1人を唆して騎士や人々を操っただの、根も歯もない噂を信じてるのよ」

 

「そんな、どうして!」

 

「元は騎士団の誰かが不満を愚痴ったのが原因ね。そこから噂に尾ひれがついて、先日の件で一気にってところかしら」

 

「先日?」

 

ハジメが聞くとマリアベルは「あら、知らないの」と聞きかえす。ハジメとユエは神山で香織についていた為、雫達は訓練に没頭したり、香織を心配したりとしていた為、ここであった事を知らない。

 

「噂に尾ひれが付き出した頃に、七海様がこの店に来たのよ。新しい服を作ってほしいってね。あの人、王都がこうなる前から有名人で、指名手配でもないのに似顔絵が出回ってて、他の一般人も顔を覚えてた。どうもその事を七海様は知らなかったみたい。多くの人から石を投げられ、罵倒されていたわ。本人が周囲の人達の問いに」

 

 

『ええ、概ね間違いではないです』

 

 

「って言ったのもあるけどね。投石は効いてないみたいだったけど、見てられなかったから、その時も私が散らして、収まるまでこの店で匿ってたんだけどね」

 

その言葉にハジメは、七海が自分の事で何かあっても、絶対に何もしないでくれという意味が理解でき、「あの人は全く」と呆れたように呟く。

 

「お前はその噂を信じてないのか?」

 

「ええ。あんな心も見た目も男前なお方が、そんな事するとは思えないわ。匿ったときも『この店とあなたに迷惑をかけてしまいます』ってこっちを心配してくれて…んもう、良い男ってホント最高よね」

 

ハジメは『この見た目と言動によく耐えたなぁ』と七海に感心しつつ、後で七海に対する噂を流した奴と噂する連中をとっちめてやろうと思っていたが、マリアベルがそれに気付いたのか、忠告する

 

「一応言っておくけど、噂する連中をとっちめてもなんの意味もないわ。むしろ余計に悪い噂が流れるだけよ」

 

「ハジメ、その通りだと思う」

 

ユエにも言われ、そこで不満はあるが、「確かに」とハジメは冷静になる。

 

「人ってのはね、不幸な時は、その不幸を誰かの所為にしたがる生き物なの。それが真実でも嘘でも関係ない。理屈じゃないのよ。怒りを誰に向ければいいか、誰を恨めばいいかわからない被害にあって、その捌け口があれば、理由なんてなんでもいい。いえ、理由がなくてもそうするのよ。しかも噂の全部が嘘でもないなら尚更にね」

 

マリアベルは「正直言って私も腹が立ってるけど」と付け加える。

 

「「………」」

 

ハジメと雫も理解した。今シア達は王宮でお留守番しているが、それと同じ理由だ。今の王都で他種族が堂々と歩くのは無意味に人々を刺激する行為だと判断したから、自発的に居残った。王都の人々は自分達を襲ったのは魔人族だと分かっていても、今は『人間族ではない』というだけで八つ当たりの対象になりかねないから。その八つ当たりが、七海になっているにすぎない。

 

理解はした。納得はしないが。雲った表情のまま、マリアベルに教えてくれたことを感謝して、3人はその場を後にした。

 

 




ちなみに
七海はハジメよりもかなり有名であり、協会に言ったことや、喧嘩を売ったこともチラホラ人伝で広まり出していました。そういうのもあり、不満を向けられています。
今回の描写はどうしようと思いました。なんの変化もないのはアレだしと。

次で事実上、王都進行編は終わりです。
修行はその次の話で
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