あと、ネタバレするやつは無量空処くらったのちに虚式: 茈をくらって消滅してしまえ
「………」
「これで、全部だな」
死んだ生徒たちの遺品整理をしていた。片づけるものが少ないのは、いきなりこの世界のつれてこられたのだから当然だ。清水の時と違い、近藤、中野、斉藤は肉体損傷が激しく、どれが誰の部位かもわからないほどにバラバラ。さらに檜山に関して言えば、遺体の欠片すら残っていない。だからこそ、制服はもちろん、本人を感じられる物はしっかりと保存している。
「大介の分も、ちゃんと整理してやるんだな」
とメルドは言うものの、愛子とは違う形ではあるが、生徒想いの七海がしないとは思えなかった。
「ええ。彼がやったことは多くの人にとっては許せない、許されないことだとしても、彼の両親にとっては誰よりも大切な子供、家族なんですからね」
家族からしてみれば、他の世界が、他人が、どうなろうとまさに他人事だ。たとえ自分の子供が原因で誰かが不幸になったとしても、それで自分の子が死んで良いなんて思わないだろう。
「それで、とりあえず手伝ってくださったことは感謝しますが、なんでいきなり」
正直なところ、メルドに手伝ってもらわずとも問題はなかった。
「今のおまえさんを、放っておくのは忍びないからな」
「私がそんな子供に見えますか?」
「見えるわけないだろう」
七海が『ならなぜ』と聞く前に、メルドは続けて言う。
「他の連中……特にお前の生徒達は勘違いしてるんだろうが、腹を括って割り切ってるだけで、平気ってわけじゃないだろ」
「………毒の吐き出し方くらいは、わかってるつもりです」
この世界に来る前から、多くの負を見てきた、体験してきた。メルドの言う通り、平気ということはない。不快なものを見て不快になるのは当然だし、怒りに燃え、悲しみも感じる。それらは混ざり合い、いずれ毒となる。ただ、七海はそういった毒を吐き出す術はあるし、知っている。
「なら、そうするか?」
と言ったメルドの手にはワインが握られている。
「どこに持ってたんですかそれ」
「まぁ、気にすんな。それより、どうだ?以前の約束を果たしてみないか?」
以前というのはトータスに来て間もない時、生徒たちのカウンセリングもどきをしていた時。
「そういえば、そんな事を言われましたね」
「1年は流石に経ってないが、それなりに時間は経って、なかなか飲み合う機会はなかったからな。で、どうする?」
「………そうですね。お言葉に甘えましょうか。ただし」
「わかってる。夕刻とはいえ、まだ陽も落ちてない。やれるだけ仕事を終わらせて、日が完全に落ちてからだ」
「それと明日は彼らの、おそらく最後の訓練になるでしょうから、酔い潰れるわけにはいかないのでそれなりにになりますが」
ニッとメルドは笑い、
「わかった。あとでな」
そう言いメルドが部屋を出た後、七海は夕日が射し込む窓を何気なく見る。
「ん?」
そこから見えた光景に、目が行く。1人の人物が、トボトボとやや下向きに歩いていく姿が見えた。その小さな人物から伸びる影は、夕日によって大きく伸びて、まるでその人物の膨張していく闇のようにも見えていた。
「…………」
檜山達の遺品の整理を終えた七海は、もう今日やることは他にはない……否、なかったが、今できた。
七海はその人物を追いかける。外に出た時にはその人物の姿はそこにはなかったが、向かっていた方向、その先にある物と、その人物の心境を考えるなら、1つしかないと思い、そちらにむかう
*
王宮の西北側、山脈の岸壁を利用して作られた巨大な忠霊塔の石碑の前に、人影が佇んでいる。
何を言うか一瞬だけ悩み、絞り出すように一言、愛子は石碑に刻まれた人々に向かい、
「……ごめんなさい」
懺悔の言葉を告げた。
「間接的とはいえ」
「っ!」
「大勢の人を殺したことへの懺悔ですか?」
愛子はいつのまにか後ろにいた七海の声に反応し、そちら向くと、七海がいつものような、無表情に見える顔で愛子の隣に向かう。
「それとも」
七海が言いながら石碑を見ると、献花された花、損壊した剣や槍といった武器、あるいはここに刻まれた人物が持っていた遺品が置かれており、その中に近藤、中野、斉藤…そして、檜山のアーティファクトが置かれている。
「救えなかった生徒達へのものでしょうか」
七海は愛子の隣に立つと、手を合わせ、ほんの少し頭を下げる。数秒ほどそうした後、そこに刻まれている名前を見る。その中に、既に死んだことが判明した人物がいた。
「マッドさんの名は、既に連られているようですね」
「ええ。七海先生も、檜山君達の?」
「いえ、生徒達の遺品整理をしている時、たまたまあなたがここに向かう姿を目にしたので。しかし、来るなら献花の1輪でも持ってくるべきでしたね」
自分のことを慕っていた人物の死は、七海にもくるものはあるし、生徒の死に、何も思わないわけがなかった。
「あの、七海先生、あの時、叩いてしまって、ごめんなさい」
「気にしてません。私が説明不足なのも悪いですし、正直言いすぎたなと思ってます」
少しだけ静寂が訪れるが、愛子は意を決して口を開く。
「七海先生、私は」
「あなたは、恨まないんですか?私を」
愛子が言う前に、七海は聞く。
「清水君の時とは違い、そうするしかないとはいえ、檜山君を殺した。近藤君達も、原因を突き詰めていけば、私にも責任はある。なによりも生徒を大切にするあなたは、正直私を恨むだろうなと思っていました」
「………正直、割り切れない部分はあります。でも、恨らむなんて、できませんよ。清水君の時も、檜山君の時も、なにも感じてない人なんだなって、思えないですから」
愛子は考えが甘い部分があるが、立派な大人だ。理想論を振りかざしたり、感情的に誰かを責めなどしない。なによりも、そうする立場に自分はないと思っている
「今度は私から聞かせてください。……七海先生は、辛くないんですか?」
「……別に。自分の仕事と、自分のなすべき事に、私情は挟まない筋ですから」
人が聞けば、冷たい印象を持つだろう言葉だが、それが嘘であると、愛子はわかる。もし七海の言う通りなら、たとえ自分を見かけたからといっても、ここには来ないし、ましてや死者に手を合わせるなどしないだろう。だが、愛子が聞きたいのはそこだけではない。
「あんなに、罵倒されて、慕っていた人達に、冷ややかな目を向けられてもですか?」
「そうする権利はあります。結局は、この国の重鎮達との約束も反故にし、教師としての役目も放棄し、生徒を強くするだけで導かなかった。事態を引き起こしたのは魔人族と中村さんでも、恨む相手にされるのはまぁ、妥当ですし、なにより私はこういったことにも慣れて」
「私は!……ごめん、なさい」
愛子がいきなり大きな声で叫んだと思ったら、謝罪をしたことに、七海は少々困惑していた。
「慣れてても、平気じゃないんですよね。そのくらいはわかってますよ。だから、私も、その重責を、ほんの一部でいいから、背負いたいって思ったんです。……でも」
「?」
「誰も、責めないんです。生徒達の私を見る目は変わらないですし、王国の人々からは称賛じみた眼差しを向けられました。デビットさん達にも全て話しました。でも、彼らも少し考えさせてほしいとその場を離れるだけで、すぐに責めるようなことはしませんでした。私は、彼らの大切なものを、根こそぎ奪ったのに」
正確にいえば、愛子は直接手をかけていない。共謀罪と言えるかも正直なところ微妙だ。だが、それでも彼女にとっては言い逃れなどできない罪だったのだろう。だから罰を求めた。しかし、
「聞いたんです、王都のメインストリートであったこと……七海先生が、謂れのない暴言と暴力を受けたって」
愛子はギリっと拳を握りしめ、歯を食いしばる。彼女の怒りと悲しみが手に取るようにわかる。
もし、七海も自身と同じように、称賛されていれば、あるいは自分も、七海のように責められ、罵倒されていれば、愛子はこんなにも苦しい気持ちにはなっていなかっただろう
「本心から皆を救いたいって行動して、絶対に心だって傷めてるはずの七海先生が……1番傷ついて、死にかけている人が、どうして責められるんですか⁉︎なんで、私が英雄で、七海先生が悪人なんですか?そんなの、あんまりじゃないですか」
罰を受ける人はいつも自分でない誰かで、しかもそれが自身の大切な人。愛子は許せなかった。七海を罵倒し、身勝手に責める人々を、そして
「私は、背負いたかった。でも、背負ったつもりになってた。なんて、傲慢な…そして、私は、あなたを責める人を恨んでしまった。その中には生徒もいるのに…なんて身勝手な…これじゃ、私は」
七海を罵倒していた人々と、変わらないではないかと、そう思ったのだと、涙を流して愛子は言う。
「畑山先生が求める罰とは、誰から責められることですか?」
「え?」
「もし、そうだというのなら、前提から間違っています。そもそも罰とは、求めるものではない。訪れるものです。今、私が責められているのは、別に私が求めたからではなく、たまたまこの時に訪れただけです」
「でも!」
それなら、なぜ自分には訪れないのかと聞こうとするが、七海は無視して続ける。
「人に訪れる罰とは、その人それぞれで一律ではない。善人が謂われない罰を受けることもあれば、逆に悪人がなんの罰もなく生涯を過ごすこともある。しかし、罰は人によっては1つの救いです。自らに降りかかる罪悪感や、倫理観によって傷付けられていく精神を癒す。…『あぁ、自分は今、自分の罪の結果で責められているんだ、自分の間違いを、告げられているんだ』というね。それを求める行為は、死んでいった人達への冒涜になりかねない。もちろん、だからといってそれを忘れて平然と過ごすのも、また冒涜です」
「………」
愛子はただ、見つめるしかできない。七海の言葉は残酷だが正しい。
「畑山先生、自分のした行動を罪だというなら、それでいい。しかし、あなたはあの時とった行動に、後悔はありますか?」
「っ……いえ、あの時、覚悟はありました。あのまま教会の行いを見過ごすことはできない。このままじゃ、七海先生も、南雲君も、他の生徒達も、酷い目に遭うから、だから」
たとえ自分の手を汚すことになっても、自分の大切な者を守りたいという、純粋な想いだ。それは今も変わらない。それでも、人を殺したという業が、愛子に重く、のしかかる。
「覚悟を持って、後悔もない。それでも、自分のした事を罪だと言うなら、それをずっと……その罪を持ち続けてください」
「罪を、持ち続ける」
「あなたの抱く罪悪感はとても正しい。どこまでも真っ直ぐで、どこまで澄んでいて、どこまでも眩しく、どこまでも尊い罪だ。常人なら、投げ出して、逃げ出すような……その眩しさ、尊さは多くの人の指針となる。良い例が南雲君です。あなたがそういう人だからこそ、彼は大きな変化の中でも、人間らしく、正しく、大人への階段を登り始めた。私にはできないことだ。あなたを慕い、今も生徒達が先生と呼ぶのは、あなたが誰よりも、教師としての才能と、情熱を持っている証です」
「………」
「あなたは逃げなかった。一度も逃げなかった。罪からも、訪れるかもしれない罰からも。それをこれからも持ち続けていくのは、きっと苦しい。それでも、あなたが教師たる指針の1つとして、負い続けてください。もし、あなたに罰というものがあるとすれば、逃げずに進み続けることだと、私は思います」
「………ほんと、七海先生って、厳しいですけど、優しい人ですね」
七海が言ったのは、己の罪と、罪悪感から目を逸らすことなく、教師という自分の指針を続けていけというもの。受け止め続けていく中で、折れそうになっても、進み続けるということ。あまりにも厳しく、あまりにも残酷で、あまりにも甘く、優しい。
「辛くなったら、背中を貸してくれますか?」
「私でなくとも、そうしてくれる人はいるとは思いますが」
「今は、七海先生の肩を貸してほしいんです」
そう言うと、七海がそれ以上意見を言う前に、七海の背中に顔を埋めて、感情の全てを込めたように、泣いた。ひとしきりに泣いた愛子は訪ねた。
「七海先生、教えてもらってもいいですか?七海先生が今も出す言葉は、呪術師としてのものか。それとも、別なのか。知りたいんです。ちゃんと。もっと、ちゃんと知っていたいんです」
「………大抵のことは、話してますが、なにを聞きたいんですか?」
「…先生は、どうして呪術師の道へ戻ったんですか?」
「私が、高専時代に学んだことですが」
「呪術師はクソ。でも労働もクソだったから、適正のある方を選んだ。さっき、ここに来る前に、南雲君に聞きました」
七海はハジメに『余計な事を言うな』と思いつつも、ならなぜ聞いたのかが気になった。
「大食堂で南雲君が、七海先生が1度サラリーマンをやって、そのあとに呪術師をしていたって聞いた時から気にはなってたんですけど、さっき詳しく聞いて確信しました。私の知っている七海先生は、そんなつまらない理由で、自分の立ち位置をコロコロと変えはしないって。だから、あなたの教えていない過去に、その理由があるんじゃないかって、思ったんです」
「………」
一瞬だが、七海の眉が動いた。
「人の過去を、掘り探るようなことはしたくはありません。私が知りたいだけで、教えたくないなら」
「いえ、構いません。あなたになら、話しても誰かに勝手に話すなんてことはないでしょうし、どのみち、秘密はなしと縛りも結んでいますからね」
そうして、「つまらない話ですけどね」と前置きをして、七海は語った。呪術高専での日々、慕っていた先輩、ただ1人のクラスメイトである友人。その友人の死と、慕っていた先輩の凶行
「私はね、畑山先生。あなたが思うような人じゃない。私は、あなたと違い、逃げたんです」
年々強くなる呪霊と、五条悟の存在があっても大人しくしない呪詛師。その被害者と、それらから出ている人間の負の感情と向き合い続け、次第に神経をすり減らしていったこと。
「呪術師はクソです。他人の為に命を投げ出す覚悟を、時として仲間に強要しなければならない」
だから高専を卒業後は、逃げるように一般企業へ就職したこと。
高専を出て、呪術師を辞めたとしても、呪いはそこら中に存在し、それを認識し、更に証券会社故の業績に振り回されている人を含めた多くの負を見て、自身もその流れに振り回されて、七海にとっては、地獄に近いものだった。
「毎日毎日、寝ても覚めても金のことばかり考えてました」
海外は呪霊の発生率が低い。3〜40年適当に稼いで、物価の安い国で、ふらふらと人生を謳歌しようと。呪いも、他人も、金さえあれば無縁でいられる。仕事でも金、生きるにも金、呪いに無縁でいるにも金。そんな生活に、精神的に疲労していた。
「そんな時、気まぐれでパン屋の店員に憑いていた低級呪霊を祓ったとき、深く感謝されたんです」
本当にただの気まぐれ。放っておいてもよかった。実際1度は無視した。それでも、あの時の感謝の言葉は、今も覚えている。七海が見えなくなるまで、心からの感謝の言葉を言い続けていた、あの言葉
『ありがとう』
なんてことない、ありふれた感謝の言葉だ。それに、
「生き甲斐とか、やり甲斐とか、そういったものとは無縁のものと思っていたんですがね」
誰かの感謝と、誰かに必要とされている。そんな、《生き甲斐、やり甲斐》を求めていたのだと気付き、呪術師へと戻った。
「それからも、呪術師をする中で、多くの悪意と向き合いました。呪霊や呪詛師はもちろん、今回の王都の人々のような悪意にも」
だが、そんな中でも、七海の求めていたものはあった。多くの悪意に晒されても、それ以上のものを何度も、大勢の人からもらい受けた。
『ありがとう』
それだけでも、結果として、命を落としたのだとしても、
「話しの途中ですけど、聞いていいですか?…七海先生は、後悔とかは、ないんですか?呪術師であったことに」
「ないですね」
はっきりと、それだけは言える。呪術師であったことに、後悔はない。
「私に後悔があるとすれば、高専の時に夏油さんに言った言葉」
大切な友人が目の前で呪霊に殺され、最強と成った五条悟がそれを難なく祓った。生きる為や、守る為でなく、ひたすら自分を満足させる為に呪術を行使していた人物に。
それが、どうしても、我慢できず。その時の夏油傑が、どんな心境にあったとかも考えず、不満だけを吐いた言葉。
「もう、あの人1人で良くないですか?とね」
嘲笑しながら呟いたことだけが、夏油を呪詛師へ堕としたわけではないだろう。他にもきっとあったのだろう。それはわかる。それでも、トリガーの1つではないと、言い切ることはできない。
「そして、最後にとある少年、虎杖君に、死に際で呪いを託してしまったことだけです」
数奇な運命でその身に呪いの王、両面宿儺を宿した少年、虎杖悠仁。紛れもない善人であるが、その人生はとてつもなく厳しく、安心できることなどない。それを、一生にし、尚且つ暗い道へ導いてしまう言葉。
死ぬ間際に見た、灰原の幻影の指さす先にいた、虎杖悠仁に、
「後は頼みますと、そう言ってしまった」
呪術師としてのありとあらゆる業と、己自身の業を、背負わせた。
「きっと彼は、ずっと苦しみ続ける。死ぬ瞬間の、その時まで」
それが、今も残る、七海の後悔。
「まぁ、こんなところです。私の過去なんてね。つまらない話でしたね。もうしわけ」
「つまらなくなんて、ないです」
愛子は、いつのまにかまた、涙を出していた。
「一生懸命生きてきて、精一杯頑張ってきた人の人生が、つまらないものであっていいはずがないんです!」
愛子はただ悲しいだけではなかった。悔しかった。己を恥じた。何も知らないくせに、理解しようとしていたことに。これまでの七海の口に出してきた言葉の一言一句が、七海の人生の経験そのものだった。
「夏油さんも、虎杖君も、その人がどういう人か直接見たことない私に偉そうに言う権利はないかもしれない。特に夏油さんの方は、正直七海先生の言ったことが正しいなんてことはない。でも、七海先生だって傷ついて、大切な友達も失った直後で、気の利いた言葉を言えなんて、無理な話です!」
灰原の死以降、当時の高専でずっと1人だった。率先してふざけてくるが、それが急に、無くなってから、彼なりに七海を気にかけていたのだと感じていた。そんな人物の突然の、しかも目の前での死で、冷静になれるような歳でもなかった七海に、気落ちしている夏油に気付いてやれとうのは、愛子言う通り、無理な話しだ。
「虎杖君のことを、七海先生がとても気にかけていたのはわかります。今ならわかります。七海先生が今教師をしてるのは、その虎杖君のことがあったからですよね?」
「……ええ」
愛子はウィルを見つけた時、七海が彼に語りかけていた事を思い出し、あの時言っていた少年こそ、虎杖であると確信していた。
「七海先生が、最後に残した言葉は、虎杖君を縛りつける呪いなったかもしれない。でも、七海先生は呪術師だったんですよね?呪いを祓う為に呪いを行使してきたなら、縛りつけるだけじゃない、虎杖君にとっての希望になる呪いになったかもしれないじゃないですか」
「!」
愛子の言葉は、言ってしまうならもしかしたらにすぎない。それでも、七海の中にスッと入ってきた。
(あぁ、そうだ。呪いをもって呪いと立ち向かい、守り、生かす。それが、呪術師だ)
どうしてそんな簡単なことに、気付けなかったのだと。
「どんな状況でも、たとえ死に際でも、七海先生は、誰かを生かす為の言葉送れる。だから、呪いは呪いでも、虎杖君にとってのこれからを未来を紡ぐ為の、『お
ふと、七海は以前、自身と同じく1級呪術師であり、先輩の冥冥の言っていた事を思い出す。
*
『おすすめの移住先?そうだね……七海、君が新しい自分になりたいなら北へ、昔の自分に戻りたいなら南へ行きなさい』
*
その時、七海は迷わず南を選んだ。後ろ向きだなと、自分でも思っていた。けれど
(そうか、私はあの時、未来へ賭けたのか)
「七海先生の前に現れた灰原さんが、幻覚だったのか、そうでないのかはわかりませんけど、同じ気持ちだったと思いますよ」
それに、七海は「ふっ」小さく笑い。
「どうでしょうね。意外と、たんにでしゃばって出てきただけかもしれません」
「友達をそんなふうに言っていいんですか?」
冗談まじりに言っているのがすぐわかり、愛子もそれに合わせたように言う
「そういう人でしたから。ただ、そうですね。もし、畑山先生の言う通りなら、灰原にも感謝しないといけませんね」
夕日とサングラスによって、表情は分かりづらいが、たぶんいい表情だろうと、愛子は思った。
「七海先生、また、南雲君達と旅へ出るんですよね」
「ええ。更に天之河君達も同行しますがね」
「……七海先生のことですから、皆さんを守る為にまた、文字通り必死になると思います。約束できなくてもいい、それでも言わせてください。どうか、死なないでください」
七海の「約束できないですよ」という言葉を言わせないようにしたので、七海は出そうとした言葉を喉に引っ込める。
「わかりました」
「ありがとうございます。…戻ったら、今度は一緒にいてください。私は、先生と一緒に、人生を送りたいですから」
と、愛子は言った。が、コンマ数秒で(あれ?)と気付く
(あ、あ、あぁぁぁぁ⁉︎今、私、なんて言った⁉︎)
感極まり、自然と自分がプロポーズ的な言葉を発してしまったことに
(いや、落ち着きましょう。浮いた話のない七海先生ですし、もしかしたら、鈍感で、今の内容の意味に気づかないなんて)
「……畑山先生、今の言葉、言葉通りと受け止めていいんですか?あなたなりの、告白の言葉と」
(ですよねー‼︎そりゃ気付きますよねー‼︎私のバカぁぁぁ!)
「あなたのことですから、きちんとした意識を持って、その言葉を言ったんだと思います」
実はつい言ってしまったのだが、この場にそれをいう人物はいない。
「だから、私もしっかりとその言葉に対して、答えをだす必要があります……畑山先生」
「は、はひぃ!」
この時、愛子の心臓は破裂しそうなほどに脈打っていた。七海がサングラスを外し、真剣な目で愛子の目を見つめる。
「畑山先生」
そして
「お断りします」
畑山愛子は、こっぴどくフラれた
ちなみに
この小説を書き出した際、終わり方は別にして、ここだけはこうしようと決めた所はいくつかあります。以前のタイトル『竜頭駄尾』や、これからのちにあるハウリア編のタイトルもそうで、ここで愛子をフルのも最初から決めてました。
ウルの町で愛子の恋心を枯らしたのは、七海のこと何も知らない癖に好きになってんじゃねーっていう考え。
王都は後に本編でも書きますが、吊り橋効果で七海を好きになってんじゃねーっていう考えからです。
ちなみに2
実は書き出した当初、終わり方に悩んでおり、この話にたどり着いても決まらない場合は
愛子と付き合うor付き合わないでアンケートをとる予定でした。
どちらかが、ハッピーエンドに近いトゥルーエンド。もう片方はバットエンドに近いトゥルーエンドでどっちがどっちかは教えない的な感じで
しかし、呪術廻戦の本編の展開を見ていて、自分の中で結論がでました。
終わり方はこっちにしようと。
…どっちかは秘密
次回、修行編です(1話だけだけど)