ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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この話以降ハジメがまた登場するまで時間かかります
ありふれさんぽもまた出すしそれ含むと9〜10話くらい先になりますね


奸知術数③

異世界に来て、光輝の作った淡い希望を七海が折り、確かに最初のように現実逃避をする者はほぼいなくなった。だが全員不安がありつつも強くなり、七海がいるからこの大迷宮に来た者、そんなこと知るかと己の力を示すために来た者、いずれも共通するのは強くなった自分達に自信を持ち、浮かれていた。だからこそ、最悪の事態は起きたのかもしれない。

 

その浮かれていた1人、檜山はメルドの注意も聞かず、香織が綺麗と興味を示したグランツ鉱石を回収しようと触れてしまう。結果、罠を起動させてしまう。もともと香織に好意があったのもあるが、七海にこれまでさまざまな事を邪魔され、至極真っ当な注意にイライラしていたのもあり、大人の言うことを無視した。

 

「め、メルドさん……あれって本で読んだんですけどまさか」

 

「そのまさかだ。伝説の魔物、ベヒモスだ」

 

そして、罠によって転移した場の正面にいる巨大な影。10メートルはありそうな巨体とその頭部にはトリケラトプスを連想させる巨大なツノ。全身は鎧のような硬そうな皮膚をしている。

 

「な、なんだ、そのベヒモスって?」

 

「100年前、その存在が確認されて…その時の最強冒険者が全く歯が立たなかった存在」

 

龍太郎に説明するハジメは『いつかこんなのを相手にする日が来るのかな』程度に思っていた。もちろん『その頃には多分自分を除いて皆強くなっているな』とも考えていた。それがいま、まだまだ未熟な自分達の前に現れるなど考えもつかなかった。

 

最大の恐怖がそこにあった。そして最悪な事態は続く。後ろにも魔法陣が出たと思うと剣を構えたガイコツの魔物、トラウムソルジャーの集団が現れた。ここまででセットの罠なのだろう。すぐさまメルドは部下に障壁と生徒達の撤退を指示するが、

 

「光輝、おまえ達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!」

 

光輝の正義感がそれを拒む。

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のおまえ達では無理だ!ハジメも言っただろ!かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!おまえ達を死なせるわけにはいかない、いいからいけ!」

 

鬼気迫る表情に一瞬怯むが「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝に、再度声をかけている間にベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。

 

 

 

一方七海は呪力による身体強化をして駆け足で降りていく。魔力の残穢を追って進むがマッピングが、できているわけではない。進んでいると何度か行き止まりについたり通れない場所だったりなどで足止めを食らっている。そのうえ魔物もいる。駆け足で進んで追いつけないと悟った何体かは無視して、ついてくる相手は階段の前で殲滅して降りる。

 

(一刻も早く彼らと合流しなくては)

 

時折時計を見つつ進むが正直どうなるかわからない。下の階層に行けばいくほど魔物も強くなるのだ。

 

「邪魔です」

 

魔物の詳細な能力の情報は欲しいが、それを確認している余裕はない。見つけては攻撃し、一撃で仕留める。壁が生物でも非生物でももう関係無しに破壊していく。

 

(呪力による身体強化…久々ですが、鈍っていないようですね)

 

以前の七海でも余裕で進むことはできたが、もう少し時間がかかっていた。だが、今の七海はこの世界に来た事で元々高かった潜在能力の上昇と、呪力量と出力の上昇、それによって術式の向上ができた。流石に特級とは比べものにならないが、1級の中では群を抜く強さにはなっている。例えば速さなら七海より速い術師は多い。だが今の七海ならそれにある程度対応できるほどの強化がされていた。

 

そして無の感情で魔物を斬り裂く。

 

(術式の精度も上がっている……急ぎましょうか…)

 

早くしなければ全滅もあり得る。七海はそう考えて、少しでも早く進む。

 

(広い部屋に魔物が複数…いちいち相手をするのは面倒ですね)

 

目の前にいた魔物が牙を剥いてきたので即時にその思考を消して脅威を殴り飛ばす。走っていると広い部屋の中央に着く。そこには大量の魔物がいた。相手をせず進むが追ってくる。

 

「どのみちこんな場所を通るのはやめた方がいいですね」

 

だからこそ、七海はその手段にでる事にした。広間の出口から少し外れて壁に向かう。当然魔物は追ってくる。脚を呪力で強化し、跳躍する。

 

(十劃呪法…)

 

七海のその目には、線分された弱点が見えていた。

 

(瓦落瓦落‼︎)

 

壁に撃ち込んだ拳から呪力が走る。伝染するかのように壁に広がり、全体を破壊した。魔物は獣とはいえ生命の危機くらいはわかる。すぐに逃げ出すが、逃げ遅れたものから巻き込まれていき潰される。そして道が塞がる前に再び脚に呪力を込めドンっと走り、ギリギリ通り抜けたが道は塞がる。だがこれで魔物も追ってこれないだろう。

 

(時間外労働時によるものでもなく、術式開示もなく、この威力ですか)

 

七海は自分が本当に強くなっている事に少々驚きつつさらに進む。……全滅していない事を、存在しないであろう神にではなく、その運命が来ていない僅かな可能性をただ想う。

 

 

 

「もう一度聞くが、やれるか?」

 

「はい」

 

メルド達を助けるため、自分も戦うと言って離れようとしない光輝をいつもと違う必死の形相をしたハジメが説得し、どうにかトラウムソルジャーの群れに向かわせることができた。だが最大の脅威はいまだ眼前にある。そこでハジメはある行動にでることを決意した。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

 

「はい!(ぶっつけ本番か……七海先生に教わった事をやるしかない)」

 

それは以前、七海から受けた指導の中にあった言葉。ひとつは『自分の術をもっと理解すること』。もう1つはあの時に言われたこと。

 

 

side:ハジメ

 

『想像、イメージを終わらせないことです』

 

『イメージを、終わらせない?』

 

錬成の時の何をどう作るかというイメージかと僕は考えたが、どうやらそれだけではなさそうだ。

 

『君が今考えている通り、その術には具体的なイメージが必要になります。まぁ、今は君のレベルが低い為、イメージに技術が追いついていませんが』

 

本当にこの人は褒めたいのか、貶したいのかわからない。

 

『勘違いしないでほしいのですが、私は貶してもいませんし褒めてもいません。事実を言っているだけです』

 

あとたまにこっちの考えが読まれるたびに自分が子供だと思い知らされる。そんなに筒抜けなのかな。

 

『話がそれましたね。……イメージを終わらせないとは錬成で作る物のイメージだけではなく、君自身の先のことです』

 

『僕の先?』

 

『君はイジメを受けても、常に流していた。仮に私が声をかけていなければそのままでいたでしょう……まぁ、私の目がない所で何かされていた可能性もありますが』

 

『あ、いえ、あれから絡まれる事はかなり少なくなりました。感謝もしてます』

 

『……どうも。ただ、君は今回戦う選択肢をした。それは1つの変化です。暴力はいけない事ですが、それをしなければいけない状況で君は変化した。ですが、そこまで…その先がない』

 

『すいません、もう少しわかりやすくお願いします』

 

『強くなった自分を、想像できてない。ステータスの関係もあるでしょうが、それはもとよりあなたの性格的なものでしょう。せっかくの変化を止めている』

 

それを言われて納得はできる。だがどうやっても弱いもんは弱いのだから仕方ない。

 

『別に鍛えて強くなれとは言いません。強さには様々な形があります。天之河君のようなわかりやすい形も強さ。君の優しさもまた強さです。後はその先、イメージです。君が描く、強くなった君の…現実的なイメージ、そして錬成する時のイメージと理解。それらを合わせること。制御をすれば今の君でも壁を作る、敵を拘束するという以外にもできます』

 

その具体的な方法を聞いた。

 

side:フリー

 

(イメージしろ、現実的で、今の僕にできる、成長した自分を)

 

「吹き散らせ、“風壁”!」

 

メルドは作戦を開始する。詠唱しながらバックステップで離脱し、ベヒモスの攻撃を避けた。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。自身の攻撃で頭部を地面にめり込ませたベヒモスは、すぐに頭を出して攻撃するつもりだった。しかしそこにハジメが飛びつき角に触れる。

 

「っぐ⁉︎(あっつ…じゃない‼︎イメージを終わらせるな‼︎)」

 

赤熱化した角の影響でハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱をする。

 

「“錬成”‼︎」

 

ただひとつのハジメの力。だがこの状況でそれは大いに役立つ。錬成によって四肢を拘束し、さらに頭部を拘束してベヒモスの動きを止める。必死に周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしてもまた錬成する。だがそう長くは続かない。そこで片手は錬成のために、もう片手でバックパックのポーチに手を入れ、口で瓶の蓋を開け魔力回復薬を飲む。

 

(魔力回復薬、多めに常備して正解だった。さすが七海先生)

 

七海の指示で回復担当の者と魔力が少ない者には多めに魔力回復薬を渡していた。当然荷物が増えれば動きが鈍るので調整したが、ハジメは後方支援でしかも1番弱い。回避力は当然鍛えているが、錬成が常にできる方が生き残る可能性があるとして他より多めに持っていた。

 

そうこうしているとベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとする。四肢を封じてもベヒモスの方が圧倒的なパワーがある上に、ハジメの錬成は未熟もいいところだ。どうにか連続錬成して保たせているが限界もある。

 

(イメージ、イメージ、イメージ‼︎)

 

ベヒモスの片足部分に窪みができるよう錬成し、力を入れていた分ベヒモスはその変化に対応できず、体が崩れる。さらにダメ押しとばかりに地面を突起させる。貫く為でなく、崩れるタイミングに合わせて顎に当てるために。

 

(クソッ拳の形にしたかったのに……もっとだ、もっと正確なイメージを‼︎)

 

(あんな戦い方…いや、あんな錬成の使い方は見たことない。建人の教えか)

 

顎に強烈な一撃をうけ脳震盪を起こしベヒモスの動きが鈍る。最強の魔物を、最弱の錬成師が手玉にとる状況にメルドは驚愕していた。

 

(建人の言う通りだ。弱い者も無能もいない。むしろ、あの坊主は可能性の塊だな)

 

だが限界もある。メルドは急いでこの場から脱出し七海と合流しなければと考え、動く。

 

(トラウムソルジャーの方は…全員ではないが冷静さを取り戻したか。光輝のカリスマだな)

 

それとメルドは知らないが立ち直りの原因に先ほどハジメが助けた女子生徒、園部優花も関わっている。

 

メルドは撤退の指示を出すが香織が抗議をした。

 

「待って下さい!まだ、南雲くんがっ」

 

「そのハジメの作戦だ!トラウムソルジャーどもを突破して安全地帯を作り、魔法で一斉攻撃を開始する!もちろんハジメもある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に帰還したら、上階に撤退する。おそらく…いや確実に建人も下に降りてきている筈だ。あいつと合流すればどうにか残りの階層も上がれる‼︎」

 

「なら私も残って…」

 

「ダメだ!撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!ハジメの思いを無駄にするな‼︎」

 

メルドの必死の説得で香織はどうにか納得する。ハジメが心配ではあるがメルドの言うことが正しいのも事実だ。香織は移動しつつ皆を回復させていく。

 

「俺が階段前を確保する!皆は後に続け‼︎」

 

真っ先に回復した光輝が掛け声と同時に走り出す。トラウムソルジャーの包囲網を切り裂き、徐々に回復した皆がそこに着き援護をする。そうして、遂に全員が包囲網を突破した。だが骨の壁がまた出現して階段を塞ぎ、周囲を囲もうとする。光輝が魔法を放ち、道を確保しているがクラスメイトが訝しむ。早く目の前に階段に登ろう、さっさと安全地帯に行こうと。だがそれはまだできない。

 

「皆、待って!南雲くんを助けなきゃ!南雲くんがたった1人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織が必死な形相で言うが、皆何を言っているんだという顔をする。魔物に詳しくなって皆を助けていたとはいえ、戦闘面では彼らの中でハジメは無能で通っているのだから仕方ないと言えば仕方ない。だが、クラスメイト達が橋の方を見ると、そこには確かにハジメの姿があった。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?って地面が拳みたいになった⁉︎」

 

「あの化け物を、あいつ1人で」

 

「そうだ!坊主がたった1人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!」

 

とそこでハジメの顔に焦りが見える。複雑な錬成のため魔力はすぐ切れる。そのたびに回復薬で回復するがどうやら今取り出したのが最後なのだろう。

 

「そろそろ限界か…前衛組はトラウムソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

その光景を香織も、光輝も、雫も、他の皆も目にする。ハジメのその表情は今まで見たこともない、勇猛な男の顔だった。それを見つつメルドの指示で行動する。

 

そして悲劇のカウントダウンはもうすぐそこだった。

 

 

 

飛びかかる魔物を斬る、殴るで進む。休むことなく進み、すでに55階層を超えていた。

 

(残り20分…休憩時間もないですから少し早く感じますね)

 

魔力の残穢はまだ下だがだいぶ近づいた為か光輝が“ 天翔閃”を使ったとき、その力を感じる。

 

「こっちか」

 

まず間違いなく歴代の冒険者でも出せないスピードで階層を突破する七海。先程の魔力を感知して道をかきわけていく。呪力は回復薬で回復できない。故にこの長時間で減ってきている。減っているが、それは慣れている彼にはどうとでもなるほどだ。しかも奥の手はまだある。

 

「⁉︎、今のは…クソッ」

 

60階層を超えたあたりで揺れを感じた。最初は小さく感じたが、それが何度か続き静かになる。魔法がいくつか使われたのだろう。だが問題はその次の振動。嫌な予感がした。

 

その予感は最悪な状態で当たっていた。

 

 

 

「なんで、どうして…」

 

そこは62階層。ハジメのおかげでどうにかベヒモスの脅威から脱した。だが、そのハジメはここにいない。

 

魔法が一斉に放たれた時、その一部が誤爆してしまい、橋が崩落してハジメはベヒモスごと奈落に落ちていってしまった。香織は錯乱し、助けるためにそこに飛び込もうとしていたが皆に止められ、最後はメルドが気絶させて、今は雫が抱えている。クラスメイトの死に皆が恐怖するが、今はここを出ることだけを考える。必死になって登る彼らは広い部屋についた。メルド達もこの階層のことはよく知らない。そして迷宮は何が起こるか予想できない。全員が入った瞬間、後方の道が塞がり、そして――

 

「もう、おしまいだ」

 

「どうして、あの化け物が、ここにもいんだよぉ⁉︎」

 

目の前にいるのは、ベヒモスだった。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。だが、この階層にも現れるとはな」

 

冷静にメルドは言うがその目には焦りがあった。そしてすぐに決断した。

 

「お前達、覚悟は良いか?」

 

「今更ですよ団長」

 

「本望です」

 

こんな状況なのに笑う騎士団達を、光輝達はおかしく思った。だが、ちょっと考えればすぐにわかった。

 

「アラン、ベイル、俺達がどうにかしてベヒモスの気を引く。その隙にお前達は生徒たちと上にいけ」

 

「「はっ!」」

 

「そんな!ダメだ‼︎せっかくあそこから抜け出せたんだ‼︎もう逃げませ…」

「光輝ぃ‼︎」

 

その先を言わせる前にメルドは吠える。ビクッとして光輝の言葉が止まる。

 

「お前達を守るのが俺の仕事だ…わかってくれ」

 

「…いやだ!俺は」

 

「いいかげんにしなさい‼︎南雲君が死んで、皆疲弊して、香織もこんな状況で、戦えるわけないでしょ‼︎」

 

「雫…」

 

「悪りぃ光輝、今はメルドさんの言う通りだぜ。ここにいたら全滅だ。悔しいけどよ、今の俺たちじゃ、あれには勝てない」

 

「龍太郎…お前…」

 

光輝は龍太郎に詰め寄ろうとするが止まる。龍太郎は拳をギギと悔しそうに握り、そこから血が出ているからだ。もうどうしようもなかった。

 

「くるぞ‼︎障壁展開後、総攻撃する。それと同時に…?」

 

突っ込んできているベヒモスの動きが急に止まる。そして、ズシンと後ろを向く。つられるように彼らもその方向を見る。

 

「時間ジャスト…まぁ、ここからは時間外労働をしなくてはいけませんが」

 

そんな、場違いのようなセリフを吐いてるが、強者の雰囲気を出す存在がそこにいた。

 

「建人、やめろ‼︎そいつは最強と言われる魔物だ‼︎俺が、俺達が時間を稼ぐその隙に…」

 

メルドは七海の実力は知っている。だがこの階層に来るまで間違いなく疲弊していると思い、なおかつ最強と言われる魔物の相手をさせたくないと考え、出た言葉だ。しかし、七海はあくまで冷静なまま告げる。

 

「それはこちらのセリフですよ」

 

瞬間、ベヒモスは眼前の強者に突貫する。獣のカンこいつから始末しようとしたのだろう。

 

「「「七海先…」」」

 

直後、彼らは驚いた。ベヒモスが転んだのだ。速度があった為、ゴロゴロと回転する。理由は生徒達も、騎士達も、ベヒモスですら一瞬わからなかったが、すぐに判明した。その大きな左前足が両断されたからだ。

 

立ち位置が変わり、七海は皆の元へ着き、観察する。疲弊した生徒たち。気絶した香織とその彼女を抱える雫。そして1人足りない生徒の存在。

 

「南雲君は?」

 

「………すまん」

 

メルドの言葉が全てを物語る。

 

「詳しい話は後で聞きます……まずは」

 

七海は視線を向き直す。片足を失ったがどうにか立ち上がり、こちらを、七海を睨むベヒモスに注意を向ける。

 

「メルドさんだけ前に、他の皆は下がってください」

 

「七海先生‼︎俺も戦いま…」

「自分の実力と状況くらいは読んでください……それともはっきり言いましょうか?足手纏いです」

 

顔はこちらに向けられたわけではないだが、間違いなく七海がキレているのはわかった。光輝はそれでもと前に出そうになるが雫達が止める。

 

「やめなさい。七海先生の言う通りよ。傷ひとつつけられなかった、文字通り私達が手も足も出ないあいつの足を、先生が落とした、それが事実よ」

 

「………ぐっ」

 

足手纏いと言われて正直光輝は腹が立っていた。だが事実と向き合わず、自分の正義感だけで進む光輝でも、この状況は七海に任せるしかないと渋々受け入れた。

 

「何かあったら、俺も前に出ますからね‼︎」

 

「…早く下がりなさい」

 

どうにか下がったのを確認し、七海の横にメルドが並ぶ。

 

「俺だけ残したのは何かの作戦か?」

 

質問すると七海は小声で話しだす。

 

「メルドさん、これから話すことをよく聞いて、そして、誰にも話さないでください。後で説明しますので」

 

「?」

 

メルドは何を言うのだろうと疑問に思うが、七海の次に言った言葉でさらに疑問がでる。

 

「私の術式は、相手に強制的に弱点を作り出す術式。対象を線分した時7:3の比率の点に攻撃をすればクリティカルヒット、私より格上でもそれなりにダメージを与える事は可能ですし、私より格下であれば(・・・・・・・・・)こんな鈍でも両断でき、拳の一撃でノックアウトもできます」

 

「?、??」

 

いきなり何を言いだしたのかとメルドは困惑する。そもそも術式といっても七海の魔力は0のはずだと。だが納得もいく部分がある。あんな鈍で木を切ったり、魔物を切ることができた理由が解決する。だがそれよりも驚べきことは、格下なら両断できると言ったことだ。つまり、ベヒモスの足を切ったという事は…

 

「皆さんをお願いします。この場で犠牲者はもう出しません」

 

「…わかった」

 

肯定した瞬間、七海は駆ける。それと同時にベヒモスの角に魔力が蓄積されていく。そしてエネルギーをそのままで突貫してくる。

 

「させはしません」

 

脚に力と呪力を注ぎ、跳ぶ。ベヒモスは加速してきた七海を迎え撃つため角に魔力を蓄積しつつ残った脚で跳び、口を開ける。

 

「…!」

 

空中で一回転し、体制を変え、ベヒモスの横を通ると同時に頭部の7:3の点、術式で作り出した弱点に的確に当てた。

 

ベヒモスは何が起こったかがわからないだろう。想像以上のダメージだった。だが、まだ死んでない。次の攻撃に移る為ベヒモスは体勢を直して角から大技を出す為、下がる準備をする。だがそれよりも早く七海は着地してすぐに飛び、腹を狙う。犬が服従する際に腹を見せるのはそこが弱点だからでもある。そしてその弱点に、七海の術式でも弱点部分を作りアッパーをする感じで殴りつけた。

 

「す、すげぇ」

 

「まるで、お遊び相手ね」

 

「………」

 

龍太郎は拳士だ。だが、そんな彼の天職以上のポテンシャルを見せる七海に、感動に似たものを感じ、雫は自分達が圧倒された相手を逆に圧倒する七海に驚きを隠せず、光輝はもはや認めるしかなかった。今の自分では七海に遠く及ばないと。

 

アッパーを受けて吹っ飛び、倒れたベヒモスの角から魔力が拡散していく。そしてしばらくもがいていたが、七海がトドメといわんばりにもう一度腹を殴る。衝撃が身体を貫き、口と殴られた部分から血をだし、ついに絶命した。

 

「たまげたな。強いのは理解していたが、規格外だな」

 

「私程度で規格外などと言わないでください」

 

戻ってくる時にメルドが言うと七海は謙遜ではなく本心で言う。が、誰が見ても謙遜に見えるだろう。

 

「ここにくる道中の魔物はある程度潰してきました。ここにいたのはアレだけのようですし、皆さんを少し休憩させてください。その合間に何があったかを聞きます」

 

「わかった。…さっきのは、ここでは無理なのだな…王都に戻った時に教えてくれるか?」

 

「………わかりました」

 

それまでの様子をじっと見ていた存在が幾つかあった。1つは光輝達同様に圧倒的な戦闘を見ていた者達。残りは不可思議なものを見た者達。七海の身体から魔力の様なものが溢れているのを見た者……

 

 




ちなみに
62階層のあの部屋の仕組み
入ると入った場所が閉まる→特定のモンスターがランダムで複数出る。て感じですが運が悪いと強力な魔物が出ます
それが今回のベヒモス

ちなみに2
呪力を込めることはしてきましたが七海は戦闘を長い間してきていません。それでもすぐ戦えているのはトータスに来た事で能力と呪力アップと共にそのブランクが解消されたからです

ちなみに3
今回話の中で七海がここに来た事を後悔するシーンを入れていましたがカットしました。
12巻で「己の不甲斐なさに腹が立つ事はない」ってあったので七海っぽく無くなると思ったので

次回は3月7日に出します。理由?3と7だから(逆じゃねとは言わないで)
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