(久しぶりですね)
ここ最近は見ていなかった夢。
(また、目覚めたら忘れているのでしょうけど。……それで、今回も私を止めるんですね、灰原)
振り返るといつものように、明るいにも関わらず気持ちの悪い光が見え、その先に進ませないように灰原が立っていた。
(本物ではない。私の頭が、記憶が生み出した幻だ。……いい加減、そこを退いてくだ)
その先を言う前に、後ろから何者かが七海の服を掴んで止める。
(どうして、その先に行きたいの?)
少女の声がした。その問いに、七海は困惑した。
(どうして?……あぁ、どうしてでしょうね?)
よくよく考えてみると、どうして自分がこの光の先に行きたいのかわからない。
(行けば、何かあるような、そんな気がするんです)
(ダメ)
少女は行くなと言う。そうして、数多くの手が七海を掴み、先へ進むのを阻む。
(なぜ?)
(行ったら、もう、戻って来れないかもしれない)
心からの心配の言葉。それはわかっている。
(それでも)
あの場所に行けば、何かがある。七海の中にある想いが、そこに行きたいと願っている。
(私は、あそこに、あの場所に)
手を伸ばしたい。辿り着きたい。そう思い、手を前に伸ばして――
*
「…い、七海先生」
「……あ、すいません。寝ていました」
ハジメに呼ばれて、仮眠していた七海が目を覚ました。眠気はなく、すぐに会話ができている。
「壁に寄りかかってるとはいえ、よく立ったまま寝れるな。相当疲れてんじゃね?」
「君のほうこそ、かなりの魔力を消費しているんですから、疲れてるんじゃないですか?」
七海の言う通り、今もハジメは魔力を消費している。その理由が――
「飛行艇。こんな大きな物を動かすなら、それに見合った出力とエネルギーが必要です。君の〝魔力操作〟の技能がいくら優れていても相当でしょうに」
大人数ともなれば、これまでのように地上を行くより空からの方が早く着く。以前からこの案はハジメの中ではあったが、魔力量や出力、その時にあった神代魔法を含めた技能、更に持ち合わせの素材では無理だとして、一旦打ち切っていたが、ようやくその域に達し、造り上げて納得できるものになった。
ハジメ製アーティファクト、大型飛行艇〝フェルニル〟全長約120mのこの飛行艇は、ただ空を飛ぶだけではなく、艦内の設備もよく、リビング、キッチン、バスルーム、トイレ、外へは甲板から出ることも可能で、デッキがあり、そこで訓練もできる。風の影響は特性の結界によってほぼないので、夜空の鑑賞もできる。総じて言うなら、そこらのホテルよりも充実している。リリアーナという王族を乗せる乗り物としても、文句はない。まぁ、ハジメ本人はそんな事は考えてないだろうが。
「問題はない。まぁ、もっと乗る人数が増えたら流石にしんどいがこのくらいならわけない」
重力魔法を生成魔法で付与した重力石は、質量を大きくするほど熟練した生成魔法の行使が必要であり、これまで使用してきたクロスビットなどでは成人1人を持ち上げるくらいが限界だった。さらに乗せる重量、そもそものフェルニル自体の体積と重量を鑑みた時、使用する魔力も半端ない。常人では動かすこともできない。規格外の魔力量と操作能力を得たハジメですら、困難であったが、魔力操作の技術向上は早い段階で、七海の指導もあってできていた。問題なのは、この質量の物体を一気に作り出すこと。組み立て呪具の黒帝などは、最初から、組み立てで動くことを前提している。
フェルニル含めたハジメのアーティファクトも、様々な素材や付与されたパーツで形作っているが、それらをまとめて一気に作り上げる。この際、僅かでも雑念、集中の低下、魔力不足と魔力の回し方に隔たりがあったり、時間がかかり過ぎたりすれば、あっという間に作製中に瓦解する。
「その辺も、時間がある時に七海先生が見てくれながら修練をしたことで、まるで問題がない。それどころか、当初俺が考えてた以上に、こいつは機能が充実してる。外の訓練所や、こいつに備えつけた兵器の一部なんか、まさにそれだ」
ニヤリと笑みを出してハジメは言う。というか――
「そういえば、この飛行艇を出した時もそうですが、随分テンションが高いですね」
「そりゃあ、旅の終盤で飛行系の移動手段を手に入れるっていうのを制覇したんだ。しかも俺の知る中ではダントツの品質!これがテンション上がらないわけがないだろう」
「………すみません、よくわかりません」
ハジメも七海も効率重視なのが基本ではあるが、幼なさとジェネレーションギャップが大きく考えを分けていた。
「キラキラした目をしたハジメ、ステキ」
「…君の場合、もう南雲君のすることであれば何でもいいのでは?」
ハジメにべったりとついているユエに七海はツッコむ。
「そんなことはない」
「なら聞きますが、南雲君の言うロマンとやらの気持ち、わかるんですか?」
「………………もちろん」
(間が長い)
「別に無理しなくていいんだ。ユエが一緒にいるだけで、こっちは充分なんだよ」
そしてこのハジメの一言で甘々な雰囲気になる。
「別に、君達の関係性はわかりきって、もう割り切ってますが、南雲君、それとユエさん、いい加減わざと見せつけるのはやめた方がいいですよ」
「ただいまー!修行終わったよって…あーっ‼︎ユエ‼︎また抜け駆け!」
入って来たメンバーの内、真っ先に動いたのは香織だった。ノイントのボディになってセクシー度が増したその身体を使って、もう片方のハジメの腕を捕まえた。
「おい、動きにくいだろ!」
「香織、教えてやった恩を仇で返すのか?」
「それとこれとは別だよーだ!」
いつもの喧嘩が始まりだすと
「ただいま戻ったでーすぅ⁉︎ちょっとぉ!私を除いて何してるですかぁ!」
「今戻ったぞご主人!おぉ!早速か!ならば妾も!」
(遅かったですね)
続々と戻って来た者達に囲まれて、ハジメは揉みくちゃ状態になる。
「ほんと、いつも騒がしくしてしまい、申し訳ない」
香織と途中で合流して戻って来たリリアーナに、七海は深々と謝罪する。彼女の護衛としてついて来た騎士もこの状況に唖然としているが、リリアーナはどうも「あはは」と困ったように、されど面白いものを見るように笑う。
「かまいませんよ。賑やかでいいじゃないですか」
「そう言っていただけると幸いです」
そうして小さなため息を出す七海を見て、護衛の騎士とリリアーナは、
(((苦労してるんだなぁ)))
と心底思いながら七海に同情していた。
「まぁ、それよりも…ティオさん、シアさん、他の皆さんは?まだ3人ほど戻ってないですが?」
七海は未だ戻ってない生徒のことを聞いた。今回修行していたのは香織、雫、鈴、龍太郎、光輝。シアは香織といつものスパーリング。ティオは鈴の面倒兼修行。光輝と龍太郎は2人で模擬戦をしていた。鈴はシアとティオと共に戻り、壁の端に行って、黙って座っている。
「少し話すことがあるそうじゃ。そのうち戻るじゃろう」
とティオが言う。ちらりと一瞬だけ座っている鈴を見る。
(ここからは私の仕事ですね)
七海は近づいて鈴に 声をかけた。
「谷口さん、無理はしてないですか?」
「……無理してるって言ったら、どうするんですか?」
きゃっきゃしているハジメ達の方と変わり、こちらはかなり真剣で、かつ重い雰囲気である。
「強さを求める為無理をする理由はわかりますが、流石にやりすぎです。このままでは、中村さんに会う前に、君が倒れてしまう。多少の無理はこの際許容しますが、彼女を止めると言ったのなら、もう少しでいいので、ペースを考えたものにしてください。君の場合、色々な意味で」
「…………わかりました」
「よろしい」
いざ動けない、動きがガタつくでは、ついて来た意味がない事を伝えると、鈴は納得する。
「それと、後で白崎さんにその顔を治してもらいなさい」
「……あ、ほんとだ」
鈴は自分の指と頬に血がついているのを見て、そこで気付いたようだ。
「香織、また治してもらっていい?」
「あ、うん任せて!」
と、頼られたことが嬉しいのか、即座に香織は治す。大規模な回復魔法ですら、今の彼女には無詠唱でできる。この程度はお茶の子さいさいだろう。
「………その、えと、ありが」
「鈴!」
もごもごと鈴が何かを告げようとした時、扉が開き、残った3人中の1人、光輝が入ってきて早々に鈴に詰めよる。
「なんで勝手に先に行くんだ!一緒に話してたのに!」
「光輝、落ちつけって。鈴、俺らがなんかしたか?それなら謝るから」
龍太郎が光輝を止めて、鈴に問う。
「…龍太郎君はさ、私に何かした覚えがあるの?」
「え、いや、わかんねぇ。だから、聞きたいつーか」
「そんなものはないよ。これは私の問題だから、ほっといてて」
「鈴!龍太郎は心配して」
「ストップ!光輝、それ以上はもういいから!というか、ここに来た理由から離れてるわ!」
雫は光輝が余計なことをこれ以上言う前に止める。それに光輝は「なんで止める!」と怒鳴る。
「うっせぇぞ、お前ら、着いてくることに承諾したが、騒がしくしていいとは言ってねぇ。喧嘩すんだったらもう少し訓練所でやるか、もしくはここから出て行け」
その喧騒を本当に鬱陶しく思ったのか、ハジメが〝威圧〟をする。ちなみに、現在では〝威圧〟の効果対象と、その度合いを自由に操作できるハジメは、光輝含めた4人、勇者グループにのみ向け、特に光輝には効果を強くした。
「ごめん、南雲君。騒がしくするつもりはなかったの」
もう一度言うが、〝威圧〟の度合いは操作し、調整はできる。だが、鈴はまるで効いてないかのように、ハジメに謝罪していた。
(谷口のやつ、本当に別人だな。つか、ほんと、ユエは違うって言ってたが、やっぱ少し前の俺とおんなじ目をしてやがる)
それがどうにも気に入らないのか、しなくていいのにハジメはイライラしていた。ある意味光輝を相手にするよりも。
「はい、ではそこまで。これだけ人数も多くなれば、それなりに問題や不和も出てくるでしょうが、いつまでも長引かせないでください。目的にも支障がでかねません」
それを察したのか、七海は手を叩いてその場の喧騒を抑える。正直、いなかったらもう少し言い争いになった可能性もあるだろう。
「それで、先程八重樫さんがここに来た目的があるようなことを言ってたような気がしますが、どうしました?修行中に何か問題でも?」
「あ、いえ違うんです。そうじゃなくて」
詰まったように雫は言葉を考えて、そして告げる。
「あの、七海先生。七海先生が呪術師時代にあったこと、ほんの少しでもいいので、教えてくれますか?」
「…なぜ、そのような話に?」
「さっきさ、訓練所で話し合ったつか、なんかこう、気になったつーか」
「知っておいた方がいいと、言われたからです」
龍太郎が言葉を探す中、光輝が堂々と言った。
*
ただ、正確に言うと少し違う。訓練を終えて、悠々と去るシアとティオ。それを横目に、雫は「ちょっと話し合いをします」と言って、光輝と龍太郎に近付く。
「どうしたの光輝。随分と荒っぽい戦い方だったけど」
「…七海先生のせいだ。余計な動きがついて」
「あれはどう考えても七海先生のせいじゃないわよ。むしろ動き自体は良くなってるわ。問題は、その時に動きにガタつきが出て、うまく動けてないのよ」
「あ、それは俺も思った」
「龍太郎まで」
親友までもにそう言われて、光輝は不満感を顔にだす。
「いやさ、光輝の戦い方が、めっちゃくちゃ変わったってわけじゃないんだけど、こう、戦いにくいっていうか、なんか警戒しちまうつーか」
「その警戒感こそが、光輝のガタつきそのものよ。多分、本来なら相手はそれに気付かないんでしょうけど。何に悩んでるの?まぁ、どうせ南雲君と七海先生のことなんでしょうけど」
「っ!」
雫に見透かされていたことに光輝は驚くが、大抵の者は見ればわかることである。
「何が不満なの?南雲君がモテモテなこと?それとも、七海先生に色々と止められたこと?」
「………違う。そんなんじゃない」
茶化したように雫は言うが、不機嫌な態度で光輝が言っているのを見ると、それも理由としてあるのだろう。
「南雲は、こんな凄い飛行艇も作れて、滅茶苦茶強いのに、あんな風に平然と、簡単に見捨てて。七海先生は、そんな奴と一緒に行動してるくせに、縛りとかいうものがあっても、反対くらいはできるのに、何もしないで。…しかも、それを肯定するみたいな言い方をして」
ハジメが神と戦わず、この世界を見捨ててることも、七海がそれに特に何も言わず、ただ着いていることも、光輝には納得ができなかった。
「俺なら、これだけの力があれば、絶対に、世界を救う為に、神を倒す為に、行動するのに」
「………多分、南雲君は選んでるのよ。誰を救いたいか、何をしたいか、何を叶えたいか。要するに、取捨選択をしてるのよ」
ハジメの目的は帰還だ。それは、あの奈落で地獄を味わって、必死で強くなり、様々な感情を犠牲にしても尚ある、強烈な想い。それが彼1人なら、ただそこに行き着く為に、それだけの為に、全てをかなぐり捨て、目指しただろう。
だが出会った。ユエという特別。シア達という大切。彼女達と共に生きて行きたいと、願った。
「叶えるべき願いが増えたら、その分更に選ぶことになる。平然としてるけど、実際は、自分の大切な人達と生きて日本に帰る為に、色々と選択してるんだと思う。そんな中で、自分の気持ちが揺れ動く瞬間もきっとある」
鈴のことを気にしたような言動もそのひとつであろうと雫は思っている。
「それでも、ブレずに進んでるのよ。彼の言葉を借りるなら、力があるから何かを為すんじゃなくて、何かを為したいから力を得て振るっている。きっと、七海先生もそれを理解して彼を認めているのよ。言われたでしょ?意味を見つけなさいって。多分、南雲君はその意味を持っている。私やあなたが『こうであるべきだ』という考えじゃなくて、彼自身の、味わってきた苦悩の末の、彼自身の考えと、彼自身の戦う意味。それを変えろなんて言われて変わるようなら、七海先生は認めないわ」
何をしたいのか、何を成すか、その為に何になりたいか。順序と選択をしているにすぎないのだと。
「よく、わからない」
「七海先生は、ずっと言ってたわ。その答えを得る為のヒントを。光輝、あなたはなんで戦うの?自分の為に、どうしたいの?」
「自分の為なんて、勝手だろ。それに七海先生の言葉は、呪術師としての経験の言葉だ。俺達とは違う」
「七海先生は、もっと大変な選択をしてきたんだと思うわ。人助けをする際、助けたくない人だっていたでしょうし、助けたくてもできなかった人だっていたはずよ。そういう選択を、ずっとしてた。この世界に来て、私達に言ったことは、そういう経験からのものでしょうし」
そう言われても、光輝には納得できない。黙っていたことと、『呪い』という聞けば誰もが暗く、マイナスなイメージのある力を使い、自分の様々な事を否定してきた相手故に尚更。
「だったらよ、聞けばいいじゃねーか」
それまで聞いていただけだが、転がっていた龍太郎が立ち上がって言う。
「南雲はいちいち説明とか面倒臭がってしないし、してもかなり端折るだろうけど、七海先生なら、聞けば色々教えてくれんだろ。呪術師として、どんなことをしてたのか、どういう人を救ってたとかさ。正直、俺も聞きたいんだ」
「そうね。確かに、あの人は自分語りなんてしないけど、聞けばちゃんと教えてくれそう。なによりも、知っておいた方がいい気がするけど、どうする、光輝?」
「…………聞くくらいなら」
不満感はあるが、光輝としても知りたい思いはあった。
「それと、鈴、あなたは」
雫は鈴がいると思っていた場所には、既にいなかった。
「もう行っちゃったのね」
強くなったなぁ、と思うと同時に、彼女との間に大きな壁ができてしまったことが、雫はとても悲しかった。
「鈴のやつ、最近自分勝手すぎる。そんなの南雲だけで充分なのに!」
「ちょ⁉︎待ちなさい光輝!」
*
そして、今に至る。
「つか、坂上、なんか俺への評価が低い気がするんだがぁ」
ぶるっと龍太郎が震えた。
*
それは王国から出発してすぐのこと
『あれ、そういえば』
と、雫は早速出発してから気付いた。さっき色々とあったのに、一言も喋ってない人物がいることに。
『龍太郎、さっきからずっと黙ってるけど、大丈夫?』
雫は恐る恐る声をかけた。
『ハッ!自分は大丈夫であります』
キャラが変わっていた。
『え、じ、自分って…ちょっと南雲君‼︎』
ビクゥと呼ばれたハジメは震えていた。
『ちょっと!龍太郎に何したの⁉︎』
『南雲!龍太郎に何をしたんだ‼︎』
『え、いや、その、アレだ。こいつにしては、珍しい弱音を吐いたから、いっそのこと精神面も鍛えてやろうと思って』
『ハジメさん、またやったんですか?』
呆れたようにシアがジト目でハジメに言う。
『いやだから、ハウリアほどじゃないって‼︎』
『聞き捨てなりませんね』
ハジメはまたもビクゥとなるが、先程よりも恐怖によるものが大きい。七海の目がギラリとハジメを見つめる。
『シアさんがまた、とか言っているのが聞こえましたけど、しかもハウリア?これから向かうシアさんの一族にも、同様のことをしたと?』
『い、いいい一部な、一部だけ!それにあいつらは坂上よりも厄介だったし⁉︎』
七海はため息を吐いて、それは現地に着いてから確認しようと考え、とりあえず今は龍太郎の方とした。
『坂上君、大丈夫ですか?』
「ハッ!七海殿!万事大丈夫でありま」
ゴッという音がして、龍太郎は倒れた。
『ちょ⁉︎なにしてるんですか先生!』
加減はあるだろうが、七海に頭部をグーパンされて、龍太郎は悶えながら倒れた。
『皆さん、気付かなかったんですか?』
『何がですか⁉︎おい、龍太郎、大丈夫か‼︎』
『ゴハ、ゴハァ……あれ、ここはどこ?俺は誰?』
『『記憶喪失⁉︎』』
『お、おお!光輝に雫!いつの間にここに来たんだ⁉︎』
思い出したかのような反応と、光輝達の方がこちらに、つまり訓練所にきたような言い方をしていたことに、2人は困惑した。
『いや、龍太郎、もう王都を出発したんだが』
『え?そうなのか?というか、ここどこだ?』
『あんた、本気で言ってる?』
雫と光輝はそこでさっき七海が言っていた事を理解した。
『気絶してたんですよ、坂上君。今はもう王都を出てます。ここがどこだかは後で言いますが、いったいどんな事をされたんですか?』
『え』
と七海が聞いた瞬間、龍太郎は遠くを見るように上を見つめだす。
『りゅ、龍太郎?』
『…ま…た』
『え?なに?』
そしてブツブツと何かを呟きだす。
『
『龍太郎ー‼︎戻って来い龍太郎ー‼︎おい南雲ぉぉぉ‼︎どうしてくれるんだぁぁ‼︎』
『龍太郎、お願いだから、これ以上、変な方向に行かないで!鈴のことだけでもいっぱいいっぱいなのに、あんたまで壊れたらどうすればいいのよぉ!』
『南雲君』
『いや、うん、ごめん。ここまでなるとは…こればっかりは、ちょっとやりすぎました、ハイ。反省します』
そうして龍太郎が元に戻るまでには時間がかかったが、どうにかいつも通りになった。
*
「あ、ハジメ、サン、ホンジツは、オヒガラモヨク」
「龍太郎、戻って!」
一瞬壊れかかったが、雫はどうにか戻した。
「それで、私の話を聞いてどうするんですか?話したところで、何も変わらないですよ」
所詮は過去で、別の世界で、他者の事。今を生きて、どれだけ似ていてもそれぞれ人は違う考えを持つ。それでも聞く理由を七海は訪ねた。
「知りたいんです。七海先生を疑っているわけないです。ただ、私達と違う世界で、戦ってきた人だから、色々と勘違いや、すれ違いを起こしたくないから。それと、ちゃんと知っておきたいんです。現実を」
「…………話しても面白くなどないですし、正直胸糞悪いものですよ。言う意味など」
「俺も知りたいな」
ハジメが七海の言葉を遮り、そう言う。
「何故ですか?所詮は別世界で、しかも君に関係のない他人の過去です。そういうのは、君は興味ないと思いますが?」
「逆だ。別の世界で、しかも、七海先生だからこそ、聞きたいんだよ。…別に、全部話せなんていわねーさ。時間ある時に、退屈しのぎで聞かせてくれよ」
目的地まではまだ時間がある。その暇な時間に、話せるなら話せとのことだ。
「それは、決定ですか?」
「決定だ」
これで断れなくなった。次に七海は、雫達を見る。真剣な目だ。
綺麗な話にはできる。美談として語ることはできる。全てが丸く収まった任務もある。だが、彼らの目は、そんなものを望んでいるようには見えない。きっと、呪術師という仕事の現実を聞きたいという、彼なりの選択をした。そんな彼らの真剣さに対して、上部だけの言葉や、綺麗な言葉としてではなく、事実と現実を話すべきだと、七海は思い、少しだけ考えて、反魂人形事件のことを話すこととした。
*
いつの間にか、その場にいた全員が、黙って聞いていた。一瞬光輝が何か言おうとしたが、雫が止めて、以降はずっと黙って聞いていた。
特にユエ達を含めて女性陣は、人形師のしでかしたことに強い怒りを感じていたのと、雫や鈴は恵里のことを思い出していたのか、顔を下に向けている瞬間もあった。
だが、その人形師の最後を話した瞬間、ユエ達を除いて、怒りの表情をしていた者も、下を向いた者も、なんとも言えない、複雑な気持ちになっていた。
「初なので、一応これでもマイルドな話を選んだつもりですが」
七海はこれからも話す事はあると思い、呪術師としての現実を教えるが、重すぎな話はいきなりは避けようと考え、選んだが、それでもハジメ達以外にはそれなりに効いていた。
「……ですか?」
光輝がそんな中、声をだす。
「救ってあげることは、できなかったんですか!その人形師の人も、生きたがってたのに!しかも、絶望を与えて殺す必要も、本当にあったんですか!」
ハジメは『何聞いてたんだコイツ』と顔に出し、ユエ達も呆れていた。
「救いなんてないですよ。他者を呪った時点で、あの人形師は呪いそのものです」
「そんな!先生は言いましたよね、人助けが呪術師の仕事だって!」
光輝の言っていることは、『話を聞いてたか?』と言うべきめちゃくちゃな意見ではあるが、教師の七海建人を知るものとしては、七海がそういう事をしていた事実を認識していても、口から語られたことで、多少ではあるが凹んでいた。
「君達が、私に対してどのような感情を抱いているかは知りませんが、先にこれだけは言っておきます。私は君達が思うような善人ではありません」
(善人じゃない…ね)
ハジメを含めて、雫やリリアーナもその言葉の意味を理解した。が、光輝だけは、明確な悪を見たかのような表情になる。それに気付いたのか、七海は人形師の事を含めて話す。
「一応話しの中で言いましたが、発端は金儲けの為に危険な呪物を使用してたのは明白でした。それに、あそこまで進行してるのでは手遅れでした」
「家入って人なら、切除できるって!」
「できるかもです。それに、運ぶ間も進行するでしょうから時間もないですし、何より、呪術規定を考えても、上も許さないでしょうし、どっちにしろ死んでいたでしょう」
「っやり方はともかく、人を救おうとして!」
「天之河君」
言葉を遮った七海の表情は――
「それ以上言えば、君はその人形師と同じか、それ以下になる。やめておきなさい」
厳しいだけでなく、怒りすら感じる眼で言っていた。
「っ!」
言い返すのに必死で、光輝は自分がとんでもない事を言おうとしていることに気づいた。
「これで、マイルドなんですか?」
雫は恐る恐る聞く。これ以上のこともあるのかと聞きたくなったのだ。
「まだマシというものです。呪霊や呪詛師によって殺された人の中には、遺体があるだけマシ。なんて話しもあります」
死んでるのにそれがマシなんて、どんな酷い話しがあるのだと、戦慄する者もいた。
「あの、七海先生、いいですか?」
声を出したのは鈴だった。
「恵里を殺すと決めたのも、おんなじような理由ですか?呪術師としての、理由ですか?」
「そうですね。…彼女は呪詛師、つまり、悪質な方法で人を呪い、己の利を叶える存在と同等です。呪術を冒涜し、人の尊厳をも冒涜した。なにより、私には責任がありますからね」
聞いた鈴は「そうですか」と小さくつぶやいて、顔を下に向けた。
「正直さ、俺はあんたの過去に興味はない」
そんななか、ハジメが口を開く。
「だが、少なくとも、俺は七海先生が正しいと思うぜ。というか、あんたらしいよ」
殺人を肯定したように聞こえたのか、光輝は睨むが、ハジメは微動だにしない。一方でハジメは、呪詛師モドキの人形師相手にわざわざ術式の開示をしてまで殺した事に、その人形師を人として死なせた事に、七海らしい優しさと甘さを感じていた。
「話すべきでは、なかったですかね」
「いえ、そんなことは」
複雑な気持ちになった雫は、どう言うか迷う。
「俺さ、ぶっちゃけ難しい話しはわかんねーけど、話してくれたことは感謝するぜ、七海先生」
龍太郎はパンっと頬をたたく。
「どんな過去でも、俺達の為に動いて、誰かの為になってる先生を、俺は信じたい。もう、ブレねー」
真っ直ぐ、七海を見て、龍太郎は言った。
「そうですか」
沈黙の多い間の中、リリアーナも何か言おうかなと思った時――
「!悪りぃ、ちょっと道を逸らすぞ」
外の様子を、魔眼を通して見たハジメが言い、急に進路を変えた。
そうして、他の者達にも見えるように、部屋の中央に置かれている水晶のようなものに、映像をだす。
「兎人族?」
シアと同じく、ウサ耳の目立つ兎人族の女性が、帝国兵に追われていた。
ちなみに
呪術廻戦の小説で1番好きな話が 【反魂人形】……ではなく、【暗中寓話】です真人の以外な一面というより、あの老人があのまま魂が揺れることなく死んだら、真人はその後どうなってたのだろうと考えてしまうのと、老人の生き方がなんか真人も言ってたけど、自由だったのがちょっとだけ羨ましいと思ってしまったから。
そう思わされてしまうのがすげぇ
ちなみに2
感想にも書きましたが、あと数日ハジメが龍太郎の調ky…ではなく訓練をしていたら、あら不思議、ハウリアじゃないハウリアになりました
これ以降もことあるごとにキャラが崩壊しそうw
元ネタは2つ、1つは感想でも書いたとあるラグビー部。もう1つは、とあるゲームのモブのセリフから。
帝都編つうかハウリア編はすぐに終わらせようと思ってます。この章の主役はシアとハウリアですし、次の大迷宮が本当に書きたいところですし
でも、できなさそう、長くなりそう、文才ねぇ