「⁉︎」
突如、何かを感じた七海が、その直感を信じて回避をした瞬間、その場に何者かが現れた。空からズドンと、どこからか跳んで来たのだろう、地面に小規模のクレーターを作る。
「ふ、ふふふ、ようやく会えましたわ」
「何者でしょうか?」
声からして女性なのはわかるが、フードを深く被り顔が見えない。が、隠しきれていないグルグルと巻いた長め金髪、足元まであるフードの隙間から見える煌びやかな服と、足元から見える高そうなヒール。おおよそ戦場に来たと思えないが、服は動きやすく作られているのか、隙が見えない。
次に七海は武装に目を向ける。その手に持つ武器、刃が曲がり曲線を描き、命を刈り取る鎌のような、その武器は、大鎌、デスサイズと言われる武器。それだけでも特殊であるが、それからでるドス黒いオーラのようなものを、七海は感じた。
「おーーほっほっほっほっほっ!わたくし、参上ですわ!」
いきなり異様な高笑いをする女を、近くの帝国兵が見る。たとえ顔が見えずとも、金髪がロール状になったその髪だけはとても目立つ。
「って、あ、あ、ああ、あなた、様はぁ⁉︎」
気付いた瞬間、兵士の1人が驚いている。それがきっかけになって周囲の兵達も、その人物が誰なのかを理解したのか、響めく。
「何故このような…ごへぇ!」
「うるさいですわ!」
声をかけてきた兵士を殴り飛ばす。壁にめり込むように埋まっているが、身体強化の賜物なのか、どうやら生きている。
「さぁ!殺り合いますしょう!楽しく、煌びやかな、死闘を!」
妙に興奮している彼女は、七海に切りかかる。
「……っ!」
大鎌の刃を防いだが、思った以上の膂力に驚く。しかしすぐさま切り払い、相手が下がった所ですぐさま懐に入る。槍や長剣などの長物は、懐に入られては弱い。七海はそのまま気絶させるつもりで腹に拳を、
「甘いですわ!エグゼスぅううう!」
突如、ドス黒いオーラを放っていた大鎌、エグゼスというその武器から、無数の魔力の刃がでる。振るったわけでない為、威力はさほどないが、七海を怯ませるレベルは充分にある。
「っっ!」
「もらいましたわぁぁぁあ!」
すかさず切りかかるが、咄嗟に七海はもう1本の大鉈、呪具、
「少しは、本気なる気になりましたか?」
「………そうですね、多少は。(準1級と言った所か。それに、あの武器、アーティファクトなんでしょうが、他と違う。さすがに南雲君が作る物とは違うが、それでも天之河君のもつ聖剣と同じく、特別ななにか)」
「なな……シルバー!大丈夫ですか!っクソ、こうなったら、聖剣を」
現在、光輝は聖剣を持っていない。その理由は、
『そんな物を持って行けば、自分は勇者だって教えているようなもんです。南雲君、私用の〝宝物庫〟を彼に貸してください。天之河君、それにしまっておきなさい』
とはいえ、万が一時は使えるようにはしている。光輝はここで出すべきだと考えるが、
「レッド、待ってください!」
「⁉︎」
なぜですか?と聞きたかった。が、それを言えない。七海が、そのフードの女性を見て立ち止まり、仮面をつけていても、驚いた表情を見せているとわかったから。
「それとも、こっちで戦えば、少しはわたくしを見ますか?」
ありえない。
「………あなたは、それが何かわかっているんですか?」
ありえない。
「当然ですわ。新たな力!それを引き出すきっかけを下さったこと、感謝していましてよ」
ありえない。
「ありえない」
七海はついに言葉に出した。彼女が見せたのは、先程までは魔力だったが、今見せているのは間違いもなく。
「たしか、呪力…でしたわよね?」
「なるほど、高貴な物を身につけている時点で、何となくわかってましたが……皇帝の、王族関係者といったところですか……なぜ、呪力を使えるようになったか…なぜ、そこまで安定して呪力を扱えるのかはいまは聞きませんが、それほど使えるならわかるでしょう?この帳を張ったのが、私でないことくらい」
気になるのはそれだ。なぜここに来たかだ。帳を張ったハジメは帝城にいる。なぜここに来たのか。それが知りたいと、七海は自身が冷静になるように問いかけた。
「そんなこと、決まってますわ」
スーッと軽く息を吸って、彼女は堂々と言い放つ。
「……勘!ですわ!」
「…………はい?」
周囲はいまだに戦闘中。なのに彼女を援護しようとする兵士はいない。それにも疑問だが、彼女の言葉に、なんの策略もないことがわかるくらいの堂々としたいいように、七海はつい呆けてしまう。
「ここに来た方が、楽しめる。あなたに会えると思っていましたの、七海、建人」
獲物を狙うその眼光が、七海にも伝わる。
「……それは一体、誰の事を言ってるのでしょうか?」
今、自分の正体を知られるわけにはいかないと、白を切る。が、彼女はそれを無視して、一方的に話しかける。
「あなたは私の………いえ、今はいいでしょう。そんなことよりも、さぁ!続きを!血湧き肉躍る、本気の死闘を!」
攻める、攻める。大鎌を片腕で振るい、回転するように。だが生まれた隙を与えぬよう。大鎌が地面に突き刺さると、つけた遠心力をそのままに、鉄棒のようにグルンと回ってサマーソルトを決めようとしてくるも、七海は回避し、そのまま大鉈を横振りに振るう。
「ちっ」
女はわずかに回避しきれず、腹に血が滴る……にも関わらず、
「まだぁ、攻めますわぁぁぁ!」
「⁉︎」
エグゼスを引き抜いて、今度は切り合いプラス格闘戦となる。蹴りを、魔力の斬撃をと、動くたびに傷が少しずつ広がっているというのに、まるで 意に介さない。それどころか呪力出力を上げて攻めてくる。
「シッ!」
七海は呪力を足に集中させ、渾身の蹴りを食らわせるが、エグゼスを前にだし、
(今の彼女の行動は)
「…妙ですわね」
と、攻めの手を止めて、女は問う。
「そちらの鈍ばかりで、先程の、呪力を帯びた大鉈は、使いませんの?…わたくしを舐めてますの?」
本気を出さない七海に、若干の怒りを込めて言う。
「そちらも舐めているじゃないですか?それだけ呪力を安定して使えるというのに、なぜ魔力との同時身体強化を使わないんですか?」
「………さぁ、どうでしょうか?」
(否定しない。つまりできるが、しない理由があると言ったところでしょうか?現時点で準1級クラスの実力を持っている事に加えて、彼女が術式を持っているの想定するとしたら………少々厄介ですね)
(やはり、膂力ではどうしてもあちらが上。そうなると相性が悪い。この方相手にアレを使うのは、リスクが高すぎる)
双方、会話やこれまでの戦闘で、互いの情報を整理し、勝つ為の戦闘の道順を立てる。
(ならば)
(しかし!)
そして、偶然にも同時に、双方の考えが決まる。
(同時強化をする前に、最大限の一撃を叩き込む)
七海は相手の力量を理解し、手加減せず、術式を使って仕留めると決める。
(リスクが高くとも、実行しないままより、遥かに!)
リスクよりも、より確率の高い勝利への道へと、天秤を傾ける。
お互いに、動きを見せる判断をした。そのタイミングであった
「「「「「「!」」」」」」
「これって」
光輝の呟きは、星明かりと、月明かりが空と、地上を照らした事を、理解させる。それはつまり、
「帳が、上がった」
「全員、作戦終了、撤退です!」
雫が答えを言った直後、七海はすぐさま伝令する。
「逃がしは!」
撤退指示。一瞬停止していた者達を動かす言葉は、相手も動かす。七海の次に真っ先に動いたのは、フードの帝国女性。
「〝聖絶:
ではなく、鈴だった。事前に詠唱し、修行中に獲得した〔+遅延発動〕で結界の効果をほぼそのままにして展開した
「!こ、これ、は」
「そう簡単にその拘束は外せませんよ」
〝聖絶:
鈴がしたのは、この世界、更に七海から見ても異常な結界術の使用。腕一本分の風穴をあけ、その状態のまま結界を構築し、さらに広げた。あらかじめ穴を開けた状態で壁を作るなど、結界の構成に異常が出てもおかしくはない。それを、やってのけた。
領域展開でできた結界に、最初から穴を開けた状態で作るようなもの。七海は知りもしないが、両面宿儺が閉じない領域を作り出したが、それと比べた時、鈴のものはあまりにもレベルの低い話だが、近いことはしているのだ。
「両腕が動かせず、結界は地面に深く埋まっている。そこから1歩も動けないですよ」
極々一部とはいえ結界に穴を開けた状態の展開が足し引となり、他の部分が強化されている。
「精々効果が切れるまで、大人しくしてたほうが」
「バカにしてるのですか?」
「……は?」
鈴は別にバカにしてはいない。事実を言っているにすぎない。だというのに、この帝国女性は、こんなもので止める気なのかと問う。
「うあぁ!ぐっ、ぬぁぁぁ!」
腕がちぎるのではないかと思うほど、グゥと捕らえられた腕を引っ張るように、前へ進もうとするが、当然ながら前進しない。
「ブルーさん、維持できる時間は?」
「おおよそ、5分です。あと、今の私じゃ、これを維持するには他の魔法は使えません」
「よろしい。レッドさん、その剣で大技は使えますか?」
向かってくる帝国兵と戦闘を続けつつ、同じく戦っている光輝に言う。
「なんとか!威力は少し低いですが…」
「充分です。いえ、むしろその方が良い。詠唱を短文にし、威力を更に抑えください。他の人は砲撃後に撤退できるよう、退路を確保」
「「「「はい!」」」」
強敵が動けない今、他の魔法が使えない状態の鈴を除いた3人(七海は鈴の護衛中)は退路を自ら確保する。そうして、戦闘しつつ、光輝はこれまで修行で身につけた戦闘をしながらの平行詠唱をする。戦闘をしながらの詠唱は、見た目以上に難易度が高い。息を切らす事なく、戦闘に意識を持ったまましなければならず、しかも両方の集中を解いてもいけない。
今できているのは、相手が光輝よりも圧倒的に弱いからできる事。強者となれば、それも難しい。だが、だからこそ失敗は、
(するもんか!)
光を纏った剣を相手に目掛けて放つ。
「〝天落流雨:散華〟!」
剣から流星のように、光が拡散していく。着弾した瞬間、光は花火を思わせるようにまた拡散し、帝国兵達をふっ飛ばす。
〝天落流雨:散華〟。これは元々、手数を重視して威力はそこまで高くない 〝天落流雨〟を、更に拡散させた技。考案した七海に光輝は「意味ないでしょ!」と抗議したが
『言ったでしょう?手数を利用するようにと。この技の真価は、放たれた際の閃光によって眼をくらます効果だと私は思っています。いずれ使える場面は必ず来ます』
本当にそうなった事に若干、光輝は不満になると同時に、聖剣でもないのに相手を吹っ飛ばすくらいの力がある事に、自分で驚いていた。
「敵が怯みましたね。今です」
指示を聞き後退し始める。高所にトントンと上り、全員に見えるようにし、七海は告げる。
「帝国兵に告げます。我々の目的は、帝国の現状確認と新戦力と思われし、
「なぜ、あの亜人族の事を!それに、せんけ…っ!まさか、貴様ら魔人族か⁉︎だが、その仮面は⁉︎」
いい感じに勘違いしてるが、勘のいい者ならすぐに違うと思うだろう。何せ、彼らを蹂躙してない部分も含めて魔人族は仮面などかぶる必要などないからだ。が、仮面について聞かれたのなら、何か言う必要がありそうだと思うが、七海の中でいい言葉が浮かばないでいると
「わ、我々は、魔人族の精鋭中の精鋭部隊、仮面レンジャーよ!」
(いつの間に)
七海は1人で宣言するつもりだったが、4人は七海を中心に、ポーズをとっている。ピンクはやけくそで、他の3人は彼女の視線の剣幕でおずおずと言ったところだ。事前に最後をどうするかを伝えてはいたが、七海1人でやる事は言っていない。だからこそ起きたことだろう。ちなみにポーズの考案者は言うまでもなく、ハジメである。七海に事前に伝えていないのも含めて、狙ってである。
「今夜のこと、努努忘れない方がいいわ!我々はいつでも、そこにいる。どこにでもいる。あなたの枕元、1人シャワーを浴びてるその背後に、夜中に鏡を見つめたその先に、夢の中に、仮面は、そこにいるわよ」
ホラー映画に出てきそうな場面を低い声で恐ろしく羅列し、本人の恥ずかしさが限界突破したことで、なんか闇堕ちしたみたいな眼線が仮面越しでも感じた帝国兵は、かなり不気味に感じていた。
「ざ、け、るんじゃ、ありませんわぁぁあぁ!」
が、捕らえられたフードの帝国女性はもがく。もちろん動けないが。
「腕をちぎりでもしない限り、とれませんよ」
鈴が冷淡に言う。と、その時、帝国女性は動きを止め、
「あぁ、
なんてことないかのように、そうだったなと、思い出すように、女性は言い、
「そこのあなたとあなた」
「「は…ハッ」」
「わたくしの腕を、今すぐ
まるで、落ちた消しゴムを拾ってくださいとか、軽いノリのように言い放つ。
「「「「「⁉︎」」」」」
この発言にはさすがに七海も驚く。他の4人も同様だ。
「「え、は、はぁ⁉︎そ、そのようなこ」」
「早くなさい。あなた、後で殺しますわよ?」
フードの下の視線とその狂気に押されたのか、ビクビク震えつつ、その2人の兵士は剣をグッと握り、彼女の拘束された腕を切る為、移動する。
「ばっ、やめろ!バカな真似はよせ!」
思わず光輝は声を出してしまう。先程の演説が無駄になってしまう言葉をだ。
「さぁ!」
「「う、うぅ」」
「早くなさい。本当に殺しますわよ」
「「ひっ、う、うわああああああ⁉︎」」
その冷たい視線と冷淡な顔に敗北し、2人の帝国兵は、彼女の腕を切り裂いた。
「グッっア“ア”ア“ア”ア“ア”‼︎」
周囲に反響するような叫びをあげる。当然だ。腕を切られて叫ばないなど、痛覚があるなら……否、仮に痛覚がなくても叫ぶだろう。
「なんてことを」
「っ!……っ…っ…ウッ」
鈴が呆然としながら声をだし、光輝と吐き出しそうになって、龍太郎と雫が背をさする。だが2人もかなり動揺はしている。そんな4人と異なり、七海は見た。
「まさか」
「ア“ッはああぁああああ!」
再び咆哮の如き叫びをあげたことで、4人もそちらを見るが、あまりにもありえない光景を目にする。
「う、腕が」
「はえてきた」
彼女の切られた部分の出血が止まり、シュゥゥと音をたて、次にグチャグチャと音をたてて、腕が再生していく。
「魔法、か?」
「でも、回復魔法でもあんな事はできない。まさか、再生魔法並みの」
龍太郎と雫がそう見えるのは、彼女の腕から感じた魔力のようなエネルギーを見たから。
「違います」
だが、七海にはわかる。それが、何かが。それが、どれだけありえないことか。
「反転術式。そのレベルの術師、だと」
確信を持って言える。彼女のそれは、反転術式だ。だが、彼女の呪術師としての覚醒してからの期間がわからないが、短いことはわかる。そんな人物が、既に反転術式を習得している事に、七海は驚きを隠せない。
(おまけに、彼女の反転術式の精度は…)
欠損した腕を再生できるほどの精度。確実に自分以上。身構え、警戒心を更に1段階上げると、再生を終えた彼女は闘志を込めた目で七海を睨む。
「さぁ、続き………を…あ、れ」
「?」
急に相手がフラフラと身体を揺らす。その行為に、帝国兵はもちろん、雫と龍太郎も困惑するが、七海はとあることに気付いた上で困惑する。
(呪力を、大きく使いすぎている?なぜ?)
あれほどまでの反転術式が使えるのにも関わらず、呪力出力の調整ができていない。そもそも反転術式は、通常よりも多く呪力を消費してしまう。だからこそ、並の呪力の術師にはできない。そしてできる者は、家入硝子のような戦闘に向かない者を除けば、した後でも戦える程の呪力調整ができる者が大半…というよりでなければ反転術式を使える呪術師としては向かない。
だというのに、目の前にいる帝国の女性は、それができていないにもかかわらず、
「ぐっ、これは、どう、いう、
ドサリと、前のめりに倒れると、そのままガクリと頭を地面に落とした。それと同時に、帝国兵が彼女に寄りかかって行く。
「!今のうちです。行きますよ」
「は、ハイ!」
「お、おう!」
「それと2人とも、しっかりしなさい!」
「う、あ、七海、せ」
「……………」
光輝はなんとか大丈夫だが、鈴は片腕が震えている。自分の魔法が原因でああなったことに、何かを感じているようであったが、
「っ!だい、じょう、ぶ、です!」
パンっと自分で頬を叩き、己の気持ちを無理矢理起こし、立ち上がる。
「相手は混乱状態。連携もクソもない。今のうちに行きましょう」
4人は頷き、建物から裏路地へと移動する。
(どうやら、思っていたよりも)
5人は七海の思案と共に、夜の闇に消えた。
ちなみに
彼女は魔力と呪力の同時身体強化は使えますが、この時は使わないという縛りを自らに科しています。また、あのまま術式を使っても、最終的には七海が勝利します。今回彼女の術式を書かなかったことは申し訳ないですが、彼女の術式を公開する時は決まってます。原作と同様か、それ以上にスキーになりそうだけど
ちなみに2
これから鈴に必要なものは、1つは空間魔法。それはまぁ、原作同様どうにかするのですが、彼女にはもう少し踏み込んでもらいたいと思ってます。その為にも、更なる結界術の向上をしてもらわないといけませんし、必要なものもありますがね