あと、エピローグも良かった。個人的に裏梅の話は特に
「フン‼︎」
怒りに燃えた一撃。いっそのこと刃の部分で行こうかとほんの一瞬だけ思ったが、そこは理性で押し殺し、黒い鞘に収めた刀が対象の頭上に振り落とされる。
「……何のつもりだ、八重樫?」
が、ごく自然な動作でハジメは手を掲げ、片手白羽取りの要領で掴み取っていた。
予定通り、シアの父、カムと他の捕われたハウリア達救出し、他のハウリアやティオ達が待機している岩石地帯に空間転移して来たハジメ達はハウリアの熱狂的な歓迎を受けていたが、そこに戻ってきた雫から襲撃を受けた。
「フゥゥゥ」
「し、雫ちゃん…目がマジだよ」
「怖いですぅ」
香織とシアが抱き合って震えてる。彼女よりも実力があるのにも関わらずだ。それほどまでに恐ろしく感じていた。
「別に、単なるストレス発散よ」
「………それがコレか?というか、なんで俺なんだ?」
「ちょぉぉと、南雲君に甘えてみただけよ。大丈夫、私は、南雲君を信じているわ。そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって」
黒いオーラが見えるような笑みで雫は言う
「だからぁ……大人しく!私に!タコ殴りに!されなさい!」
雫は言葉通り、今度は峰打ちでタコ殴りにしようとするも、ハジメは片手で掴んでいるだけにもかかわらず、どれだけ力を入れて押しても、引いても、まるで動かすことができず、本人も無駄とわかっていて尚、力をさらに込める。
「あ~、ピンクはそんなに嫌だったのか?良かれと思って用意したんだが」
「嘘が見え見えなのよ!悪ふざけ以外の何ものでもないでしょうがぁ‼︎」
「……結構ノリノリだった」
とここでいつの間にか精神的な回復をした鈴が、まさかのフレンドリーファイアをしてきた。雫は「ウグゥ!」と胸に何かが刺さったような声を出し、ヘナヘナと膝を折る。尚、柄は握ったままである
「た、確かに、何となく雰囲気に流されたけど…ある意味、自業自得だけど…一発、殴らずにはいられないのよ……だから南雲君、男なら受け止めなさい!そして死になさい!あなたを殺して私も死ぬ!」
「ヤンデレかお前は⁉︎そういうのはもう香織だけで充分だっての!」
「ハジメ君!私そんなヤンデレじゃないよ!」
「いや、そうですかねぇ?」
「1歩手前?」
「いや、2、3歩くらい先を歩いておるのではないか?」
「シアにユエもティオも、なんなのもぉー!」
ガヤガヤワイワイしてるハジメ達と、再会できたハウリア達のどつきあいをチラ見をしつつ、七海は先程の帝国女性のことを考えていた。
(あの女性…攻撃の時に見えた服装やヒール、持っていた情報などからしても、おそらくは帝国の王族…もしくはそれと繋がりのある貴族だろう)
帝国は、ガハルド皇帝は、より強い力を求めている。使えるものは全て使う。七海が伝えた情報はリリアーナから確実に伝わっている。だとしても
(反転術式を使えるようだが、うまく使えず余分に呪力を消費してしまったようではあったが、それでも失った腕を再生するレベルとは。だが、それ以上に気になるのは、彼女がいつ、どのように呪力を使えるように覚醒したかだ)
ハジメは脳の変化が大きいが、シアや恵里と同じく呪力を感知しだしてからなら、フードの帝国の女性はどのようにして、呪力を扱えるようになったか、どこで呪力という力があるとわかったか。
(アルテナさんは呪力が見えるだけ。シアさんは使えたが安定して使えるのにそれなりに時間が掛かった。中村さんは、間違いなく才能。なら、彼女も?)
「あの、よろしいでしょうか?」
思考の海に沈んでいく七海に、1人の兎人族が声をかけてきた。
「あ、申し訳ありません。たしか、シアさん父親の」
「ハッ!深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアであります!」
「え、なんと?カームバ…」
「「カムでいいからな!(ですから!)」」
フルネームがやたら長いものにしたシアの父親、カムに対しては、2人はこれまでのパル達と違い、ちゃんと元の名前で言うように七海に言う。必死すぎて鬼のような形相になっていた。ちょっと気圧されて1歩後退りしてしまう。
「えーと、それで、どうしましたか、カムさん」
気を取り直して、カーム(以下略)こと、カムに話しかける。
「ハッ!先程、ボスやバルトフェルド達から、あなたのことは伺っております。シアを更に強くしていただき、ボスに大きな影響を与えたと。故にまずは感謝を!」
「そんな大袈裟なものじゃないですよ」
敬礼し、尊敬の眼差しをしてくるカム達に、どうも七海は困ってしまう。尊敬の眼差しというのをこれまでされてないわけではないが、彼らの場合は神格化に近いものすら感じて、さすがの七海も多少引いていた。
七海はハジメの方に 『なんて伝えたんだテメェ』的な視線を向けるが、ハジメは下手な口笛を吹いて、目を合わせない。
「それより、まずはということは、他に話すことがあるのでは?」
「……えぇ。ボスも少しよろしいでしょうか」
ハジメも交えて、カムは話し出す。
亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、ハウリア族は撃破してきた。だが、それがあまりにも多かった。行方不明になった兵が首だけになったりなどの惨殺をされたことを、生き残った兵の証言から聞き、帝国側も、フェアベルゲンには戦闘部隊とは別に、未知の暗殺集団がいると警戒心を高めた彼らは、その集団が他の亜人族を奪還にくる可能性を視野に入れ、1つ罠を張った。
捕らえた亜人族を1箇所に纏めて厳重な監視と包囲網を作り、おびき寄せた。結果は、カム達が捕まっているのが全てだ。
「ただ、流石に奴らも、正体不明の集団が、まさか兎人族と思わなかったようで相当驚いていましたよ」
「やはり、あなた方が拷問されても殺すまでいかなかったのは、あなた方の存在価値に目をつけたからですか。あの皇帝のことですし、自国強化になるものなら、どれだけそれが歪なものでも、受け入れるでしょうに」
「ええ。実際連日の取調べの際、たまに皇帝が来てました。我らの背後関係や、所持していた装備の出所などを。まぁ、唾を毎回かけてましたがな!」
周囲のハウリア族は「流石!」とか盛り上がっているが、七海は呆れていた。
「それじゃあ逆効果でしょう。特にあの皇帝相手では」
「肯定です。むしろ面白がってましたよ。必ず手懐けるとね。それと、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしていたようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしなかったのでしょうな」
彼らの実力を見て、『こんな奴らを追放なんてするわけないだろ』なんて、誰でも思う。事実カムは、自分達はフェアベルゲンから追放されて、むしろ敵対している関係だと何度も言ったが、帝国の方は、国のためにあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴等だと勘違いし、感心と関心を強めただけらしい。特にガハルドは新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせ、不敵な笑みを浮かべていたらしい。
「で?捕虜になった言い訳がしたいわけじゃねぇんだろ?さっさと本題を言え」
「失礼しました、ボス。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛けます」
カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が、一瞬止まる。
「本気ですか?」
どうにか声を抑えつつも、驚愕の内容に動揺した七海が声を出したことで、「ハッ!」としたようにシアも声を出す。
「そ、そうですよ、父様。その、いま、なんて、帝国に戦争を?私の家族が」
「冗談でも、聞き違いでもない。シア、我々ハウリア族は、帝国に戦争をしかけると、そう言ったのだ」
「馬鹿なことを言わないでください!」
岩石地帯にシアの声が反響する。
「何を考えているのですかっ!確かに父様達は強くなりましたけど、たったの百数人なんですよ!それで帝国と戦争⁉︎血迷いましたか⁉︎それとも自惚れたんですか⁉︎同族を奪われた恨みでまともな判断もできなくなったんですか⁉︎」
「シア、そうではない。我等は正気だ。話を」
「聞くウサミミを持ちません!」
〝宝物庫〟からドリュッケンを取り出し、取り付けられた銃口をカムの眼前に突きつけようとするが、
「っ!七海さん!なんのつもりですか⁉︎」
七海はその間に移動し、片手でドリュッケンをスッと下げさせる。ちなみに、実力はすでにシアの方が上ではあるが、単純な膂力だけなら、七海はシアより上だ。
「シアさん、落ち着いて下さい」
「落ち着けって…それは父様にいうべきことでしょう‼︎」
シアの表情は、自殺となんら変わらないカム達への怒りに満ちていた。だからこそ、止めて来た七海にも、その表情を向ける。普段と違うシアの形相と溢れ出る魔力と呪力によってでるオーラは、周囲の者達を怯ませる。
「気持ちがまったくわからないことはないですが、あなたも興奮しすぎです」
「私は冷静で‼︎」
「どこがだよ」
「ひゃわぁ⁉︎」
周囲が怯んでいる最中、いつのまにかシアの後ろにいたハジメは、シアの兎人族特有のモフモフした丸い尻尾を鷲掴みし、絶妙な手加減でモフモフする。
「あ、ちょ、そこ、だめ、ですぅ〜しょ、しょ、しょこわぁぁ」
シアはふにゃぁと骨を抜かれたように力が抜けて、四つん這いで「ハァハァ」と艶めかしい吐息を漏らしつつ、ハジメを恨めしげに睨む。触られるのが嫌なわけではないが、時と場合を考え欲しいと目線で訴える。が、そんな目線を無視して、ハジメはシアのウサミミを撫でる。先程違い、優しく、労わるように。
「落ち着いたか?」
「あ」
そこでようやく、自分が七海に言われた通り、興奮しすぎていたことに気付く。
「カム達の話はまだ終わってないんだ。ぶっ飛ばすのは、全部聞いた後でも遅くはないだろ?」
「……そう、ですね。七海さん、すみません。確かに私も、頭に血が上って、冷静じゃなかったです。…父様も、ごめんなさい。もう大丈夫です」
「家族を心配することの何が悪い?謝る必要などないよ。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。罵倒した方が伝わりやすいというか、なんというか」
「余計な反感を買って話が進まないのでは、本末転倒でしょう。感情と殺意は、必要な時以外はもっと抑えるべきです。暗殺を得意にするなら尚のことです」
七海は彼らのあり方を否定しないが、言うべきことは言っておくべきだと思っている。
「返す言葉もない」
カムのほうも、否定できない事実と、納得できる言葉、且つハジメが慕っている相手からのものであれば、無下にはできない。
「が、それはともかく……ぷっ、ふふ、くっくっくっ」
「な、なんですか、父様、その笑いは……」
「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……しばらく見ない内にボスには随分と距離を縮めたと見える。それで、孫の顔はいつ見られるんだ?」
「なっ、ま、まっ、孫って⁉︎…何を言ってるんですか、父様!そ、そんなまだ、私は……」
カムにからかわれて、シアは顔を真っ赤にしながらチラチラと上目遣いにハジメを見ている。さらに周囲を見れば、他のハウリア達が皆、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「それでカム、まさかと思うがその話をしたのは、俺に参戦を促す為じゃないだろうな?」
カムがそんなこと、微塵も思ってない事など分かり切った上でハジメは聞くと、カムは笑いながら答える
「それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全てはボスに鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」
ハジメの推測を否定し、自分達だけで戦争を仕掛けることを改めて伝える。
それが、どれだけ無謀な事か、わからないほど愚かではない。わかって言っていると、ハジメも、七海も、シアも、理解した。だからこそ、その決断に至った理由が気になった。
「理由は?」
ハジメが聞いてきたことに、カムは意外そうな顔でをして聞く
「聞いてくれるのですか?興味ないかと思いましたが……」
「俺に鍛えられたおかげで決断が出来たって事は、お前等が無謀をやらかそうって原因は俺にもあるってことだろう?」
「ボスがそれだけで聞くとは思えませんが」
「ああ。それだけなら、知ったことじゃないって言うとことろだが」
ハジメはチラリと横目でシアを見る。家族の未来を憂うシアの姿を。カムもその姿を見て納得し、どこか嬉しげに目元を緩めて「なるほど」と頷く。
「先程も言った通り、我々兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。極めて強い興味、そして必ず手懐けると」
帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者が集う国。それは皇帝も、その一族も同じだ。
「そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている」
「つまり、皇帝が兎人族狩りでも始めるって言いたいのか?殺すんじゃなくて、自分のものにするために?」
「肯定です。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました」
「あの男なら、まず間違いなく、再び樹海に進撃させるでしょうね。今度はより大勢の軍勢を率いて。他の亜人族はもちろん、多くの兎人族が襲われて、囚われるでしょうね」
「ビッグボスの言う通り、あの男は本気でした。…未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」
「なるほどな。受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……か」
「フェアベルゲンの方々も、帝国は条件なんて反故にする可能性は理解してるでしょうが、必要に駆られれば、受け渡しはするでしょうね」
理不尽な話ではあるが、国と民を少しでも多く守る為ならば、致し方ないことでもある。
「肯定です。……ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはなのですが…」
鍛えられたハウリア族は樹海を利用したヒット&アウェイをしつつ、逃げるのに徹すれば、どうともなるだろう。問題は鍛えられていない、一般の兎人族だ。帝国は強い兎人族を欲している。そうでない彼らが捕まったら、女子供は愛玩奴隷、それ以外は殺されるだろう。
「しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」
「だからといって、帝国と、1国と戦うなど、無謀を超えた、自殺行為でしかないですよ」
「まぁ、お前らのことだ。それは理解してるし、本気で百人ちょいなんて数で帝国軍と殺り合えるとは思っていないだろう?」
「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」
ニヤリと笑うカムを見て、ハジメはカムの意図を察し、七海も理解するが、今日帝国と戦ったからこそ、言っておかなければならないことがある。
「カムさん、あなた方の行動に、水を差す行為をしたいわけではないですが、ハッキリとこれだけは言います。皇帝やその一族に暗殺を仕掛け、成功する確率は限りなく0ですし、その周囲の人間達を狙うのも、難易度は下がりますが、危険だと思います」
「!…理由を、お聞きしても」
カムの目的は皇帝の一族を狙うつもりはない。恨んでないとかではなく、彼らが暗殺に対する対策をしてないと思ってないからだ。故に、本来の暗殺ターゲットはその周囲の人間だった
「確かに、皇帝の一族を狙うのは分が悪いですが、流石に、周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう?」
昨日、今日まで親しくしていた人間が、1人また1人と消えていく状況を作り、ハウリアが牙を剥けばどうなるかという、脅威と恐怖を促す。時間が掛かるが、現実味はある。本来なら…
「バルトフェルト君達には伝えてましたが、今日帝国兵と戦って、確信しました。彼らは、私がこの世界で生徒達に教えてきた魔力による身体強化を、使いこなせてきている。王国以上に」
「…しかし、それだけで、我々が失敗すると?我らには魔力はありませし、気配を消すのは誰にも負けない自負があります」
「1回2回でしたら、成功はするでしょう。ただ、何度もすれば流石に相手も気付く。そうなると、対策もしてくるでしょう。また、狙う相手がただの兵士なら脅しにはならない。周囲の人間なら、より皇帝の一族に近い人達になる。その近くには、おそらく今日我々が戦った精鋭部隊が存在しますし、皇帝に近付くほど、近衛兵のような更に強い者がいるでしょう」
暗殺は、対策をされた時点で、ほぼ積んでいる。しかもそこには確実に戦いに強い者がいる。戦闘になれば、いくらハウリアでも、そのうち犠牲者がでる
「かと言って、位の低い者を狙っても、なんの歯牙にも掛けないでしょう?ビッグボス、あなたの言いたいことはわかりますが、こちらも」
「わかってます」
七海は言葉を遮り、カム達に言う。
やらなければ、どの道兎人族に未来はない。彼らの選択肢は他の兎人族を見捨てて生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うしかない。どれを選んでも、結局は地獄。なら、
「あなた方は、抗うしかない。そうする方々なのは分かります」
ハウリアのやり方も、生き方も、短いながら見てきた七海は、その意志がわかるし、なんなら肯定すらしている。
「弱さに甘んじないその姿勢と、矜持は、はっきり言って尊敬すらしてます。ただ」
スッと目線がシアに移る。カムもそれと同時に、娘である彼女を見る。悄然と肩を落とし、どうにもならない事への諦めにも似た、悲しい表情だ。そんな娘を見て、カムは、今の自分にできるだけの優しい声をかける
「シア、そんな顔をするな。我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ」
「でも!」
命があれば、明日に繋がる。だが、ただのうのうと、生き恥を晒すのは、彼らはもうできない、してはならない。
「ずっとだ。我々は、兎人族は、生まれた時から生きる道と生き方を定められた。迫り来る脅威に怯え、時に同族の悲鳴に耳を目を背けて、弱さに甘え蔑まれて、結局最後は蹂躙されてきた」
仕方ない。あたりまえ。どうせ。そんな言葉を、過去の、これまでの自分達の声を、カム達は断ち切るために、断ち切る力をくれたハジメに言う。
「それを、ボスが変えてくれた。本当に感謝しているのです。だからこそ!わかるな、シア。もう我らは、我々を変え、生き方を明日を掴む力と意志を持たせてくれたボス以外誰かの下にはつかない、その意志に抗い続ける。ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない」
ここで引いてしまえば、逃げてしまえば、たとえ生き続けても、逃げたという事実が、彼らを苦しめ、死よりも苦しい現実が待っている。その意志をシアもまた、理解し、否定できない。止められない。それをすれば、これまでの自分を否定し、胸を張ってハジメ達の仲間と言えなくなってしまう。
「父様」
我慢しているはずの目に、涙が浮かぶ。そして、その視線がハジメに…
「シア‼︎」
向かう前に、強く、激昂したようなカムの声が響く。
「ここでボスの助けを得れば、我々は以前と同じだ。この状況は、我々のミスが生んだ、自業自得。何より、これは、我らの矜持を貫く戦いだ。だが、お前はもう我等の事を、考えなくてもいいのだ。前を見ろ、振り返るな。自分の決意を蔑ろにするな。ボスと共に、前へ、進み続けろ。ひたすらに、真っ直ぐに」
シアは、何も言えず、押し黙ってましまう。ハジメはそんな彼女を見て、頭を掻きながら考え、ユエを見ると小さく微笑み、頷く。だが
「カムさん、ハウリアの皆さん、死ぬ覚悟はありますか?」
ハジメが動く前に、七海が訪ねた。
「…当然、ありますとも」
代表として、カムが答えると、総意ないと言うように、他のハウリア達も頷いた。その瞬間だった
「ゴッ!」
七海の横殴りの一撃が、カムにヒットし、ズザザァ!と音を立てて吹っ飛ぶ。手加減はしてるだろうが、その表情は
「ふざけたことを言わないでください」
怒りと呆れが目に見えていた。
「別に、私はあなた方のしようとしてること、意志、矜持を否定するつもりはないです。が、カムさん、ハウリアの皆さん、何も得るつもりもない戦いは最早戦いでない、ただの無駄死にです」
「!いくら、ボスの恩人でも」
許しはしないと声を出す前に、
「なら、なんで命を懸けるでなく、捨てるような言い方なんですか?」
その言葉に、止まってしまう。
「死んで勝つでも、死んでも勝つでもない無駄死には、私は許容するつもりはないです。いや、違いますね。あなた方が知らない他人なら、こんなことは言ってないでしょうね。シアさんの家族だからでしょうね」
ザッザッと足音を鳴らし、七海はカムの前に移動して言う。
「命を賭ける行為を、命を蔑ろにするような行為を、私もそれなりにしてきました。そして、私は元の世界で死んだ。でも最初から負けるつもりもなかったですし、後悔もなければ、負けたとも思ってないです」
理由はただ1つ。他のあらゆる仲間、全てで呪術師だから。たとえ自分が死んでも、他が生きている限り、負けていないから。だがそれは、信頼と呪術師としての考え。彼らとは違う。だが、
「あなた方の行為、意思決定に、私が介入するのは間違ってるかもしれない。私の意見なんて、あなた方には無用かもしれない」
だとしても、それも許容できない考えがある。
「ですが、カムさん、あなた方がどれだけ、シアさんに自分達の事を考えなくていいと言っても、そんなことは絶対にできません。それが家族というものです」
そして、一度死んだ身だからこそ、絶対にわかるものがある
「どんな人でも死んだ後に残せるのは、呪いだけです。そして、その死が、呪いが、シアさんにとっての希望になると、あなたは、あなた方は、本気で思いますか?」
ハウリア達にとって、七海はハジメの師であり、恩人程度の考え。だから敬意を持っていた。だが、今、彼らの中にあるものは…
「命を捨てるのではなく、命を懸けなさい。そして掴んでください、掴もうとしてください。どれだけ分の悪い賭けでも、初めから負ける前提で行動して、何かを変えれるなんて思わないでください。あなた方にそんな死に方をされて、何も言わないなんてことは、私にはできないんです。困ります。シアさんが、ずっとそれを心に抱えて生きるのを見るのを、私は見たくないんです。あなた方は、シアさんを敗者の家族として生かすのですか?」
心からの祈り、叫び、それらは全て七海の本音だ。ハウリアを止めはしない。だが、せめて何かを得ることすらできない戦いに、そのまま行かせることはできない
「南雲君、君はどうですか?彼らをこのまま見捨てていいなら、何もしないでいいなら、それに従います。共闘するというのは、彼らが許さないでしょうし、私も、これからの彼らの事を考えるなら、すべきではないと思いますが、そのままで良いと、思いますか?」
七海はハジメが何か言う前に、止めてしまった事を理解してる。それで彼らの心境が変わることもあったかもしれない。だが、その前に聞きたかった。確かめたかった。どのような考えで、先程帝国の戦力の事を教えて尚、戦うのかを。
「七海先生、シア」
2人に対して、ハジメはハッキリと告げる。
「今回の件で、俺が戦うことはない」
その言葉に、シアが俯く。その背後で光輝が何か言おうとしてるが、雫が黒刀を当てて電流を流して、強制終了させていたが、それらを無視して、ハジメはムニっとシアの頬を両手で包む。
「早とちりすんなって。戦いはしないが、手伝わないとは言ってないだろう?……七海先生、俺も、あんたと同じだ。ハウリア族が強さと矜持を示すには、俺が出しゃばっても意味ない。それじゃ、亜人差別はなくならないし、俺がいなくなった後で、また同じ事が起きるだけだ。カムの意志も、蔑ろにするつもりもない」
だから戦いはしない。これは、ハウリア族がこれからのハウリア族、大きく見て他の兎人族の為にも、自分達で成し遂げなければならない事だから。
「だが、俺も、うちの元気印がずっとこんな顔し続けているのは、正直言って許容する気はない。泣き顔なんて、シアには似合わねぇ。こいつを泣かせるようなチンケな作戦なんざ、糞食らえってもんだ」
「し、しかし、ボス…なら、一体」
どうするのか。カムは困惑する。そんな彼らを尻目に、ハジメは不敵な笑みを浮かべて宣言する。
「カム、そしてハウリア族!お前等は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ。髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ!帝城を制圧し、助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったのだと知らしめてやれ!ハウリア族にはそれが出来るのだと骨の髄に刻み込んでやれ!この世のどこにも、安全な場所などないのだと、ハウリア族を敵に回せば、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」
静寂が満ちる。誰もが、ハジメの気勢に呑まれて硬直していた。が、ハジメは肺一杯に空気を吸い込み、稲妻のごとき怒号が轟く
「返事はどうしたぁ!この〝ピー〟共がぁ!」
「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」
放送禁止用語を高々に叫んだ瞬間、ハウリアが全員、反射的に起立した。倒れていたカムもだ。
「「「「「「「「「サッ、Sir,Yes,Sir‼︎ 」」」」」」」」
敬礼をし、一斉に答える。だがそれに満足いかないハジメは更に叫ぶ。
「聞こえねぇぞ‼︎貴様等それでよく戦争なんぞとほざけたなぁ‼︎所詮は〝ピー〟の集まりかぁ⁉︎」
「「「「「「「「「「Sir,No,Sir‼︎‼︎」」」」」」」」」」
「違うと言うなら、証明しろ!狩り尽くせ!雑魚ではなく、キングをやれ‼︎その喉元に、喰らいつけ、刃を立てろ!」
「「「「「「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー‼︎」」」」」」」」」」
ビリビリと大気が震える。あと、背後の龍太郎まで何故か一緒に声を出しているので、雫が止めていた。
「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」
「「「「「「「「「「ビヘッド!ビヘッド‼︎ビヘッド‼︎‼︎」」」」」」」」」」
「膳立てはするが、忘れるな、主役は貴様等だ‼︎半端は許さん!」
「「「「「「「「「「Aye,aye,Sir‼︎‼︎‼︎」」」」」」」」」」
「宜しい‼︎気合を入れろ‼︎覚悟を決めろ‼︎命を懸けろ!勝利を掴め‼︎この、新生ハウリア族、122名で」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
その先の言葉を、彼らは待ち、ハジメは告げる
「帝城を、帝国を」
再び、息を吸う先程よりも更に大きく
「ぶっ潰す‼︎‼︎」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAA‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」」」」」」」
最早彼らに、敗北という文字はない。ハジメのいう膳立てが何かわからなくとも、帝国を落とせるのかどうかとか、そんな疑問は全くない。既に彼らの頭にあるのは勝利と、殺戮だ。
そもそも、自分達がボスと仰ぐ者が、道を設けてくれたのなら、その先の障害物も、壁も、全て破壊して乗り越えるだけだ。それができなくて、新生ハウリア族など名乗れない。鍛えてくれたハジメにも顔向け出来ない。業火の闘志が燃えたぎる
「ハウリア族の皆さん、私も、意図してなくても帝国を強くしてしまいました。それ故に、私も微力ながら手伝います。とはいえ、戦闘には参加しませんが」
ハウリア族は、つい先程まで七海に対して敵対心が出ていたが、先の言葉と、その言葉を聞き入れる。
「とはいえ、何せ時間がない。それに、やるなら徹底的にした方がいい。そして、やれることは全てやり、利用する必要がある。そこで、南雲君」
「ん?」
「帝城の内部情報を、ある程度知ってる人物に、秘密裏に連絡したいのですが」
そんな奴いるのか?とハジメは告げると、七海は呆れたように言う。
「君、また彼女の、リリアーナさんの事を忘れてませんか?」
あ、そうだったなとハジメは思い出す。
「けど、乗ってくれんのか?あと、何させるつもりだ?」
「何をさせるかと言えば、今後の帝城での日程調査や兵数等ですかね。一応、
交渉を七海がするかと思っていたが、ハジメがしても大丈夫という自信があるのか、それに多少の違和感があれども納得する。
「そして、ハウリアの皆さんには、ちょっとした訓練をし、帝城攻略の為の情報共有、それと」
七海は1番大事な事を告げる。
「帝国にいる、呪術師の対応です」
ちなみに
帝国の戦力は原作よりかなり上がってますこのまま行けば、確実にハウリアは滅びるし、原作とおんなじように攻めれば犠牲者は出ました。それでも最終的にハウリアが勝つけど。
七海が言っていた言葉のいくつかは私が読んでて思ったことも含まれます。特にシアに自分達のことは考えるなのくだりに対する言葉は。
次の話はもうできてます
本日20時〜22時くらいに出します。