2月6日にもうひとつの方を投稿して以降、ずっとこっちを時間がある時に書いてましたが100億突破の日に少しテンション上がり半分くらい書きましたそれでも半分。今回は1万5千文字越えです。詳しくは後書きで
62階層の大広間はベヒモスしかいなかった。それは普通の冒険者からすればそれだけでもやばいが、今の彼らにとってはよかった。七海が来たからこそ、現状周囲に魔物がいないとはいえ危険度の高い60階層より下で未熟な彼らが小休止ができるのだ。
「南雲くんが殿になって…(あのベヒモスとやらは強さを呪霊で例えていえばおそらく準1級弱。弱とはいえ準1級、それを4級にも満たない彼が足止めなど)本人が言い出したとはいえ、ずいぶんと無茶な事をさせたものですね」
「…………弁解しようもない」
「メルドさん!なんで謝るんですか⁉︎あれはメルドさんのせいじゃない‼︎南雲がしん…」
「ストップ、そこまでです。ここで言い争うのはやめましょう」
ただでさえ目の前でクラスメイトが死ぬところを見て、精神的に不安定な者が多くいる。いま保たれているのは彼らの恐怖の象徴であるベヒモスの死体があり、それを成した原因の七海という強者がいるからだ。他の者に聞こえないようわざわざ少し離れて話していたのに、そこを耳ざとく聞きつけた光輝が再び
「皆さん、心身共に疲れているのはわかりますが、いつまでもこんなところに君達をいさせるわけにはいきません。前方に私が、その後ろにメルドさん達が囲むように皆さんを守ります。救援を呼んでますので、安全地帯まで駆け上がります」
「………」
「ホラ、行くわよ。皆もだけど、気絶した香織を早く安全なところにつれていかなきゃ」
光輝はまた話を逸らされた事に腹を立てるが、雫に諭され、陣形を組み直して進みだす。警戒しつつ安全優先で皆、七海についていく。道中に魔物の死骸がいくつかある。ベヒモスほどでないにしろ、今の彼らでは苦戦するであろう魔物を倒して来たのがわかり、あらためてここに七海がいなければ先程のベヒモスを仮に突破しても外に脱出できたかわからないと、生徒達は思った。
「最短ルートを進んでいますが、いくつか魔物ごと潰した通路もありますので、そこは避けて通ります」
崩れた道を外して進んでいく。その道中に上への新しい通路を見つけて皆登りだす。長く、長く、登って行く。
上の階層については七海がある程度魔物を一掃していたので安心感はあるが、生徒達の疲労感がとてつもなかった。誰も、何も言わずに、ただ上に向かい、時折魔物が出てもあっさりと七海が倒す。30階層以上は上がっただろうか、ここでメルドが提案をした。
「建人、いちど小休止を挟むか?彼らの疲労もそうだが、先程のダメージもある。なにより、おまえもそれなりに疲労しているだろう?」
「私はまだ大丈夫です。が、たしかに彼らの方は………止まって」
と、七海が手をあげて静止すると、皆どうしたんだと不安になるが、すぐ杞憂になる。
「いたぞ、建人殿だ‼︎団長に勇者様御一行もいるぞ‼︎」
「医療班、治療が必要な方々に応急処置と回復魔法を!」
パーンズとマッドが医療班を含む20人程の応援をつれてきた事で、ようやく安心感が皆に出た。しかし、ここが危険の多い場所なのは変わらない。実際救援に来た彼らにも鎧に傷がついている。
「小休止をしますが、傷の手当てが済み次第一気に駆け上がります。終わった方、大丈夫な方は、いつでも進めるように座り込まず、進む準備をしていてください。正直言ってあまり休めないと思ってください」
休めない事の不満を数人の生徒が目で訴えるが、七海が無言でそちらを見ると、不満そうにしていた生徒は目を逸らして沈黙し、言われた通り準備をする。そうしていると頭をかきつつやれやれといった表情でメルドが近くにくる。
「わざわざ嫌われるような事を言わんでも、あのくらい俺が言ってもいいんだぞ?」
「構いません。それより、白崎さんの容体は?」
横にした香織は回復魔法で傷も体力も回復したはずだが目を覚まさない。メルドが気絶させたそうだがそれにしても目が覚めないのはおかしい。
「うむ、この場ではなんとも言えないそうだが、体に異常ないのなら精神的な問題の可能性があるそうだ」
メルドの話を聞きつつ、心配そうに香織を見つめている雫を含めた女性陣に、七海は心を鬼にして言う。
「皆さん、白崎さんが心配なのはわかりますが、いつでも出発できるようにしてください」
数人が不満そうな顔をすると、それを代弁するかのように光輝が食ってかかる。
「七海先生‼︎何もそんな言い方しなくていいでしょ‼︎雫も、皆も香織を心配して…」
「そんな事は見ればわかりますし、言いましたよ。しかし、この場に大量の魔物が来たらどうするんですか?まともな精神でない者、怪我を治している者、それらを守りながら戦うのは難しい。怪我だけならともかく、錯乱した今の彼らでは攻撃が味方に誤射してしまう可能性もあります」
「俺が、俺が全員守ります‼︎そのくらいは…」
目の前に七海の拳があった。
「自分1人でなんでもできる、守れると思わないでください。ここはまだ安全な階層ではなく、この大人数を守りながら戦うのは現実的じゃない。せめて、いま手加減して放った私の拳を認識できる程度になってから言ってください」
そう言って未だに不満な顔をする光輝を置いて離れる。すると医療班が手を上げて終わった事を告げた。
「………どうやら治療が一通り終わったようですね。八重樫さん、大丈夫ですか?辛いなら私が白崎さんを抱えます」
「いえ、大丈夫です。それとすぐに言えませんでしたけど、ありがとうございます、七海先生」
「お礼を言われることを言った覚えはありませんが?」
「助けに来てくれた事。それと、香織を早くちゃんとした場所で診れるようにああ言ったんですよね?」
「………」
この世界に来て、雫は七海の学校にいた時はわからなかった事がわかるようになった。それは
「先生って厳しいようで、ほんとは結構優しい人なんですね」
「………早くいきますよ」
特に何も言わずにスッと先頭へ向かう七海が、雫にはまるで照れ隠ししてるみたいに見えていた。
*
その後、迷宮を抜けた瞬間、生徒たちはようやく安堵した表情になる。だが浮かれてなどいられなかった。その日は遅いこともあり、ほとんどの生徒は泥のように眠り、幾人かの生徒同士で話す姿もあるが表情は暗い。外の空気を吸いに行く者もいたので、七海とメルドは遠くに行きすぎないように注意をしていた。
「それでマッドさん、白崎さんは?」
医療の心得もあったマッドが診察し終えたのを見計らい、七海は聞いた。その隣には雫もいて、すぐにでも香織の手を取りたいという思いを我慢しているのがわかる。
「やはり体力的や身体的なものでなく、精神的なものでしょう。ショックから心を守る為に身体が防衛措置をした……こうなると目を覚ますまでは、横にしておく以外は…」
「そんな…香織は、香織は大丈夫なんですか⁉︎」
取り乱したように雫は大きな声をだし、思わず前に出てマッドに詰め寄ろうとしていたが、七海が肩を軽く持って落ち着かせる。
「…しばらくは目を覚まさないと思われます。しかし、頭…脳にダメージがあるわけではないので近いうち…あくまでも推定ですが1週間以内には目覚めるはずです。後のケアと診断はその後ですね」
それを聞いてほんの少しだが雫は安堵する。そうして診断を終えたマッドが退出した後、香織の手をぎゅっと握り、雫は涙を流していた。
「八重樫さん、このまま彼女を見るのもいいですが、あなたも休んでください。目が覚めた時、あなたも倒れたとあってはいけませんからね」
「はい。……先生、本当に…」
「お礼は必要ありませんよ。いや、そんな言葉を言われる価値は今の私にはない。皆さんにこの命がいつ失われるかわからない世界で、生き残れる可能性を上げる為にと思ってした事が、あんな事を引き起こした。最初から、あなた達に危険を出さないように迷宮など入らせてはいけなかった。全責任は私にあります」
「………それを畑山先生の前でも言うつもりですか?」
わざわざ責任を自分が持つ事を告げたことで、雫は多分そうなのだろうなと思い口に出した。
「…実際彼女には落ち度はありません」
この人はどこまでも自分達の為に必死になってくれる。だからどうせ愛子に言うのはわかっているが、雫はそれでも告げる。
「先生は、間違ってません。私たちが自分で選んだんです。…けど覚悟をしてたつもりだった。そのツケが私たちに降りかかっているんです。…ずっと先生は正しかった。嫌われるのを恐れて何もしないでいるより、嫌われても守ろうとする先生は尊敬できます」
ほんの数秒、七海は表情を変えず黙っていたが「早く休むように」とだけ言って部屋を出て行った。その背中にどれだけの物を背負っているのかは雫にはわからないが、この先生の力になりたいと思う程には信頼していた。
*
翌日、早朝に高速馬車に乗って一行は王国に戻った。だが、それで彼らが安堵したかと言えばそんな事はない。クラスメイトの死を目の前で見た事で、ずっと七海が言っていたことをようやく理解した者、わかっていたつもりだった者の中には、この不条理に絶望し、心は折れ、自室に引き籠る様になってしまった者までいる。だが1番の原因はカウンセリングと称して戦いへ促そうとした王国や教会にある。
さらに王国・教会側の人間が死者に鞭打つような態度を見せたことも一因にある。帰還して生徒の死亡が告げられて誰もが愕然としたが、“無能”のハジメと知って安堵の息を漏らしたのだ。声に出して「死んだのが無能だけでよかった」と言ったわけではない。しかし露骨に態度に出したのを見て、今回死んだのがハジメじゃなくても、勇者や強さが上位の者以外なら、ハジメの時と同じ反応だったのではと思う者も少なくなかった。
そしてトドメに悪し様に物陰でコソコソとハジメを罵る貴族集団だ。
「神の使徒でありながら…役立たずが」
「でもまぁ、死んだのは無能だそうですし、逆に良かったのでは?」
「たしかに、いつまでも無能がいては勇者様、果ては我らの軍にも影響がある。早々に消えてよかった」
「そもそも神の使徒で無能の役立たずなど、死んで当然ですね」
好き放題に言う彼らの声があり、生徒達は王国と教会に強い拒絶感を出してしまったのだ。だが、それらの罵倒はすぐに終わる。
ある日貴族達がまたハジメを罵っており、近くにいた雫は怒って飛びかかりそうになるが、同じく近くにいた光輝が真っ先に動くのを見て止まって、その光輝も前に出たものの、七海が止め、貴族達の前に出て彼らに言う。
「随分と好き放題いうものですね。そんなに暇なら、迷宮に行ってベヒモスとやらを仕留めてきたらどうですか?」
「なっ、貴様!神の使徒とはいえ、その無礼な態度はなんだ⁉︎」
この世界の貴族の権威如きで屈する程七海は弱くない。その上ハジメが死んだ事は市民には伏せられているが、七海が最強のベヒモスを倒したという報告はすでに行き渡っている。そんな相手が目の前にいると言う状況が、彼らを恐怖させる。
「まず、1つ。最初にベヒモスを倒したのは私ではなく、あなた方が無能と罵る南雲君です。報告書はきちんと読むべきでは?彼がいなければ、最悪あの場で全員死んでいました。その彼を戦ってもないあなた方が罵倒するのは場違いだ。2つ、これが1番大切ですが、私は、いや、私達はあなた方の敵でもなければ味方でもない。現状ではこちらの味方をする方がいいと考えてここにいるだけで、状況が変わればすぐにでもここを出ていきます」
「んなぁ⁉︎そ、そんな勝手が…‼︎」
その先を、貴族達は言えない。見てわかるほどの怒りが七海にあったからだ。
「勝手に呼び出されたのは私達です。これ以上言うなら面倒ですが、実力行使も厭いませんよ?」
そうして貴族達は腰を抜かしながら去って行く。しかしそれを七海は呼び止める。
「待ちなさい………貴族のあなた方なら王国側に言えるでしょう…今回以降、無理な戦闘への誘いを一切やめることと、今私が言った南雲君に対する正確な情報を出すこと、そして彼らにキチンとしたケアを行わせるよう伝えてください」
「「「はっ、はいぃぃぃ‼︎」」」
ようやく解放された貴族達は、今度こそ全速力で逃げた。その様子を見ていた光輝と雫の内、案の定、光輝は七海に抗議する。
「七海先生‼︎あんな言い方しなくてもいいでしょう‼︎そりゃ、いくら南雲でもあんな風に言われたら俺も怒りますけど、それでも敵対するなんて言わなくても…」
「仮に君が止めても、君の評価が上がるだけです。無能にも心を砕く優しい勇者とかそんな感じで。それにこれは必要な事です…彼らは私たちにだけ戦わせようと考えていた。自分の命と保身の為に」
「そんな事はない‼︎あの人達も心から言ってたわけ無いじゃないですか⁉︎」
「……何度も言いますが、君はもう少し他人を疑う事を覚えたほうがいい」
それだけ言ってその場を去る七海に、光輝はまだ言い足りないと食ってかかろうとするが、雫が止めてどうにか治まった。
結果、教会と王国は即座に動いた。まずハジメが勇者達を文字通り命を掛けて最強の魔物ベヒモスと刺しちがえて倒して守った事。これによりハジメは勇者達を守り抜いた英雄扱いされた。当然それで納得できるようなものではないがまだマシだろう。次に引きこもっている生徒達のケアが適切な人材になった事だ。定期的に声がかけられた事もあり全員ではないが外に出て気分転換に王都観光ができる程にはなり、いまも継続して続けられている。更に愛子の帰還も重なった。
「そんな、南雲君が…そんな…」
「…全責任は私にあります。彼らを危険に晒さないようにとしながら……教師として、大人として、失格です」
だが、彼女はそんな七海を怒るでも、軽蔑するでもなく、泣きながらだが強い意志で言った。
「七海先生だけで、背負わないでください。私も彼らにもっと言うべきでした。遠征なんかせず、残って命の大切さを説くべきでした。それを、全部、七海先生に押しつけた」
「そんな事は…」
「あります。七海先生は、この命が酷く軽い世界で彼らが生き残れるよう必死だったのに…私は………七海先生、1人で背負わないでください。私も、一緒に背負います」
その後、愛子はイシュタルや国王にまったく引く事なく、己の希少性を利用し、改めて生徒たちの安全の確立、戦線復帰の説得の禁止、心のケア、そして戦争が本格的に始まった際、七海を援護する事を約束させた。
「七海先生、1人で戦わないでください。私も、できる戦いをします。皆さんを守って、もう誰も失わずに日本に帰る為に」
「………」
反論は聞かないと言わんばかりに愛子はキッとした表情になる。そこには幼さのある可愛がられる教師ではなく、大人としての決意をもった教師がいた。
一方、ハジメが奈落の底に落ちる原因だが、その調査はされていない。
生徒たちに事情聴取をする必要があると本当は七海は考えていた。その現場を見てないとはいえ、メルドの話から単純な誤爆ではない可能性があったからだ。メルドも気持ちは同じだったらしく、ハジメを助ける事が出来なかった負い目もあり動こうとした。だが、イシュタルがそれを禁止し、国王にも禁止された。当然七海は単独で聞こうとも思ったが生徒たちの安全と適切なケアの約束をしたばかりなのと、メルドの立場を考え断念した。
そして、七海は今、メルドにあの迷宮で話せなかった事、自分の隠していた秘密を語っていた。
「ではまずメルドさん、これは見えますか?」
「………拳か?」
「いえ。…やはり見えないようですね。あの時も、今も。あなたも、生徒達も」
七海は呪力を放出させたが、見えない事を確認して1つの結論に至る。
「私が使っているのは魔力でなく呪力というものです」
「呪力?」
「その名の通り、相手を呪う力。負の感情から生まれるエネルギーです。それを使いこなす事でこの世界の魔力のように、身体強化、武器の強化、そして術式が発動できます」
「魔力と随分似てるな。………いやちょっと待て。アイツらの世界じゃ、そんなものは無いって……」
「ええ、ありませんよ。………彼らの世界には」
そこからは七海のこれまで経緯と呪術と呪術師についてを、掻い摘んで話した。
「あいつらとは似た世界だが違う世界で死んで、気づいたら若くなってあいつらの世界にいて、元いた世界では呪術師だった…か」
「信じられないですか?」
「……別の世界から勇者を呼ぶって時点で最初は半信半疑ではあったんだ。それが本当に起こった時点で多少は驚かないつもりだったんだがな。だが、お前のステータスの高さやあんな鈍で木、岩、魔物、果てはベヒモスを切ったんだ。技能に書かれて無い知らない能力…こんだけ見せてもらったら、信じるしかないさ」
今までの事からそう推察するメルドだが、あるいは七海への信頼もあるのかもしれない。
「ベヒモスの時の…術式だったか?なぜそれがステータスプレートにでない?」
そこは七海も考えており、「仮説ですが」と人差し指を上げて言う。
「私が見た限り、呪力と魔力はエネルギーとしては近くて遠いもので、ステータスプレートに記載される技能はあくまでも魔力によって生み出された物、または魔力に関するものだけを記載するのだと思います」
「仮説として1番妥当なのはそこか。……ちょっと待て、見た限り?」
「私には魔力の流れが見えるんですよ。呪力を見るのとそう変わらないのが理由だと思いますが…しかしそこはステータスプレートに反映されていますのでいずれ見せましょう」
「わかった。…だがやはりわからんな。術式を話せない理由はともかく、なぜあいつらに自分の事を教えない。せめて愛子には言ってもよくないか?」
「彼らの世界でそんな話をすれば変人と思われますし、こんな世界に来たとはいえ、訳もわからない状態で言って余計に混乱させたくもないですし。それに…話して楽しい事など、何ひとつないですから」
その表情を見てメルドは七海が修羅場を潜ってきた事も、その結果で様々な悲劇が起こったともわかった。
「……わかった。この話は俺の中にとどめておく」
「感謝します。それで、これからどうするんですか?」
「どうもせんよ。あいつらがこれからどうするにしてもまず心のケアだ。そういうお前はどうするんだ?」
「私は今でも…いえ、最初以上に彼らの戦争参加は反対ですし、このまま戦うのも反対です。この国が守ってくれるならそれで幸いです。それと、これも言っておきましょうか」
「?」
七海はとある事を話した。本当は話すつもりはなかったがメルドを信用して話す。
「やはりそうか」
「気付いてたんですか?」
「お前があいつらの為を思っているならありえた話だ。身を守る為とはいえ、あいつらに戦い方を教えてたのは、それがいつわかるか、そもそもそれがわかるかどうかもわからんのもあったんだろう?さらに自分がいざ戦場に行って死んでも、それこそ、その理由故にここを離れても、自分達でどうにかできるように」
ならなぜ王国や教会に言わなかったのか、こんな場所で密会をするのか、国に仕える者とは思えなかった。
「言ったろ、そもそもこれは俺たちの世界の戦争だとな」
「………」
メルドの想いに、七海は感謝しかなかった。
*
また数日が経ち、幾人かの生徒が訓練に戻ってきた。だが、その数は当初この世界に来た人数と比べるとだいぶ少ない。もともと戦うのが嫌と言っていた者達は今回の件を聞き、訓練にすら参加しなくなった。当然だがケアは行われている。残りは心が折れたまま訓練をする者達と、どうにか立て直したがそれを忘れるように訓練をする者達。いずれもあの時の事が相当なトラウマになっている。
「……ふぅ」
部屋に篭っている生徒のケアの後、目的の部屋についてノックをする。女性の部屋に入るのだから当然だが、中の人物のことも考え、ノックは静かにする。「どうぞ」と言う声がして七海はまた静かに扉を開けて入る。七海が入って来たのを確認した雫は、ベッドに横になって未だ目を覚まさない香織を再び見る。そして七海は扉を静かに、音を出さぬように閉める。
「容体は?」
七海の問いに雫は首を軽く横にふってから答える。
「目覚めません。もう、5日も経つのに…」
「…まだマッドさんの言っていた1週間は過ぎていません。気を落とさず、根気よく診ましょう」
とは言うもののそれで不安が解消されるとは七海も思っていない。定期的に検診をしてもやはり結果は変わらずだ。
「時が経てば目を覚ます、か。……先生、私は、どうすればいいんでしょう?」
「何がですか?」
「香織が目覚めた時、どう言ってあげればいいんでしょう。時々、目が覚めない方が、幸せなんじゃないかって思っちゃうんです」
好意を抱いていた人物の死と、その原因の究明がされずじまいの事。それらを話す事で香織がどうなってしまうか、雫は不安だった。
「それでも、言うべきでしょうね。その結果で彼女がどうなるかは予想できません。しかし、ウソよりかはマシだと思います。あとはその未練をどう掃うかは彼女次第、私達はその手助けしかできません」
厳しく、そして絶対的な事実を語る。呪いに見入ってしまった人達の未練を何度も見てきた七海でも…いや、見てきたからこそ、その難しさは分かっている。その上で言うのだ。相手の想いに寄りつつ、それを捨てさせる為に。
「先生は、やっぱりいい人ですね」
「?」
いきなり何を言い出すのかと七海は思う。
「だって、手助けって言ったじゃないですか。ただ厳しいだけならそんなことは言いませんし」
「買い被りすぎです」
そんな七海の言葉に苦笑しつつ、雫は香織の手を強く握り祈る。と、不意に握っていた香織の手がピクリと動いた。
「香織?香織⁉︎聞こえる⁉︎」
呼びかけに反応するように目蓋と手がピクピクと動き、やがて手がぎゅっと握り返されたと同時に香織の目が開く。
「香織!」
「……雫ちゃん?」
意識も記憶もあるし、意思疎通も可能だ。だがそれでも5日も寝ていたのだ。七海は少し急ぎ足で扉を開けて近くにいたメイドに声をかけた。
「白崎さんが目を覚ましました。医師…いや、できるならマッドさんを呼んでください。それと、私の生徒達にはまだ伝えないでください。一斉に来られても迷惑になりますので」
メイドはすぐ「かしこまりました」と言って駆けていく。七海はそれを見届けて再び室内へ入る。
「5日?私、そんなに…どうして。……確か迷宮で…強力な魔物が出て、それで…南雲く…」
「ストップ。落ち着いて下さい白崎さん」
香織はその声で七海がこの場にいる事に今気づき、そちらを向く。
「ここに南雲君はいません。どこにも…その状況を私は見ていませんが、君の記憶と私が聞いた事が正しければ、考えている通りです」
雫は伝える事に悩んでいたのを見て、七海はハッキリと香織に申告する。それがどれだけ傷つける行為かもわかっている。その上でだ。
「そんな、嘘……ねぇ雫ちゃん嘘だよね?私、気絶してたけど、南雲君も助かったんだよね?そうでしょ?ここにいないってことは訓練所?あ、怪我してるなら別の部屋かな?お礼を言わなきゃ」
だがそれでも現実逃避をする彼女に七海はもっとハッキリと言おうとした。だが雫が香織の手を掴んでいる手の反対側の手で、七海の袖をクイっとつまんだ。七海は小さくため息を出して、役目を代わる。
「…香織、わかっているでしょう?…ここにも、どこにも、もう彼はいないわ」
「…やめて」
香織は再び否定するがそれはつまり認めているし、覚えているのだ。その状況を…七海はそれを恨まれるのを覚悟で言うつもりだったが、それを理解して雫は代わったのだ。『背負うのはこの人だけじゃダメだ』と。
「香織、覚えてるんでしょ?その通りよ。彼は、南雲君は…」
「いや、やめてよ…やめてったら!」
「香織!彼は死んだのよ!」
ハッキリと真実を告げた。それでも香織は「そんな事ない」「死んでない」などと言って認めない…否、認めたくないのだろう。
「放して!行かなきゃ‼︎南雲君を探しに!お願い雫ちゃん、絶対、生きてるんだからぁ…放してよぉ」
暴れて雫の拘束から逃れようとするが、そうさせないようにギュッと抱き締める。どれだけ残酷でも、キツいものであっても、受け止めなければ前に進めないのだから。暴れていた香織はしだいに力をなくしていき、同じくギュッと抱き締めて泣きだす。溜まった物を吐き出すかのように。
(慣れていても…いつ聞いても、この声はいやなもんですね)
七海はこの光景を幾度も見てきた。呪いによって得た淡い希望という名の絶望を嗚咽と涙を伴いながら奪った時と同じ。それを生徒達に与えないように動いて来たつもりだったが、結局こうなった事への罪悪感が七海を責める。もちろんそれで気を落として何もできないような人間ではないが。
七海は泣きじゃくる白崎に声をかけて頭を下げる。これは彼女にすべき事ではない。1番はハジメの家族だろう。だが、今は彼女にすべき事だと七海は頭を下げて謝罪する。
「申し訳ありません。私がいながら、何もできませんでした…そもそも、非戦闘職の彼を、いえ皆さんを、あのような場所に行く事を決めてしまった私に責任があります」
「………七海先生、いいんです。それに先生が許可したけど行くと決めたのは私達です。それより、もっと詳しく聞けませんか。その時の事」
「…それが」
七海は彼女が寝ている時にあった事を話した。ハジメへの罵倒、王国と教会の横行への対処とそれらによる経緯で事情聴取が行われていない事。
「勝手にして、勝手に決めてしまいましたが、逆に良かったかもしれませんね…今の君を見たら」
「はい。もし誰かわかったら、私はたぶん恨んで、許さない、我慢できる自信がありません。分からないなら……その方がいいです」
「ちなみに、原因となる鉱石に触れた檜山くんですが、今は部屋で待機させてます。今後訓練には参加させるつもりはありません」
「……そうですか」
香織は俯いて会話しているが、握り拳を見ればそこに怒りがあるのがわかる。だが、責める気はないようだ。すると意を決したように、香織は真っ赤になった目をこすり、七海と雫の2人を見つめ、先程の弱々しさはどこに行ったと言いたくなるような決意ある表情で告げる。
「私、信じない。……南雲くんは生きてる」
「香織、それは…」
「それはただの現実逃避では?自分でもわかっているんじゃないですか?」
七海は鋭い目つきになって言うが、香織はまったく動じることなく反論する。
「でも、先生はその状況を見てませんし、何より確認したわけじゃない。……わかってます、生きてる方がおかしいって事も。それでも、1%より低くても確認してないなら0じゃない。…先生、もう一度、行かせて下さい。私は、信じたいんです」
「…………」
覚悟も度胸もある。彼女の意思も決意もわかる……七海は言う。
「君の、君達の命は彼に、南雲君によって繋がったようなものです。それをわざわざ捨てるような、彼の意思を蔑ろにするような行為を認められません。本当に彼の事を想うなら、もっと生きる為、生き残る為の道を探すべき、私は反対です」
そう言われる事は覚悟していた。それでもやはり気を落としてしまう。『ならば』と香織の考えがいこうとした時「しかし」と七海が続けて言いだす。
「そんな事を言っても、君は行くのでしょう?それこそ私に殺されでもしない限り」
わかりやすく香織の表情が明るくなるが、七海の話はまだ続きそうなのでしっかりと聞く。
「私が見てないところでいく可能性もありますし。止めても行こうとするなら、それがあなたなりのケジメなら、そうするべきなのでしょうね。…私も昔見た事があるんですよ。大きすぎる目標に潰されてしまいそうでも、それでも進もうとする人を。君の瞳はそれと同じだ」
この時2人は七海がうっすら、わかりにくいくらいだが笑みを浮かべたのを見た。七海の笑みなど見たことない彼女達は少し驚いていた。
一方七海は本当に反対だが、それが香織が未練を捨てるために必要ならばと、条件を付けて認める事とした。
「ただし、条件がいくつかあります」
「条件?」
「1つ、言うまでもないでしょうが強くなる事」
「もちろんです。もっと強くなって、あの時みたいな事になっても今度は守れるくらいは強くなります」
七海は本当に言うまでもなかったなと思いつつ、続ける。
「2つ、これから話す残りの条件を含めて、その事を畑山先生に話し、彼女の許可をもらう事。いま彼女は生徒達のケアの為一時的にここにいますが、その内また遠征に行くでしょう…それまでに許可を得て下さい。……彼女もまた、君達を心配する1人の教師ですから」
「はい!」
「3つ、迷宮にもいきますがそれは訓練所の慣らしの為で進むのは今は20階層まで。一定の強さが手に入れるまではその先は禁止です。これは、君次第ですが」
七海は香織が文句を言うかと思ったが、比較的あっさりと納得したので次の条件を言う。
「4つ、訓練はいままでの物がお遊びに思えるほどキツくなります。それに対して弱音をはかない事、やめない事。そのかわり、確実に短期間で強くすると約束します」
「やっぱり」
「あ、雫ちゃんも気付いてたんだ」
どうやら香織が3の内容に触れなかったのは、その条件が出る事をなんとなく察していたからなのだろう。こちらにメリットがある事をちゃんと提供するのは、今まで七海が教会や王国にしてきた条件付けを見て香織と雫は理解していた。
「…5つ、これが1番大切ですが………………」
*
「できますか?八重樫さんは…聞くまでもないですが…」
「香織…」
「やります!でも………」
「訓練を再開している人の何人かは間違いなくまた迷宮に行くつもりでいるでしょうが、それをする事でどうなるかはわかりません。それでもやって下さい。それはひとつの儀式のようなものであり、最低限の行為であり、礼儀です」
七海は流石に迷うかと思ったが、香織は目線を上げて表情で答える。真っ直ぐに澄んだ目に、大きな炎を宿しているようだ。その目を見て、七海は「そうですか」と静かに、小さな声で呟いて、続けて話す。
「覚悟はできているようですね。………それと、この先あなた方が強くなるなら、条件とは別にあなた方には話しておきましょう。ちなみに知っているのはメルドさんだけです、他言無用でお願いします」
その事を聞いた2人は当然驚きはしたが、すぐにしない事、少なくとも七海が認めるレベルになるまではしないと聞いて、香織は安心した。
「心配しなくても、君が南雲君の安否を確かめるまではできてもしませんよ」
「ありがとうございます。本当に」
「その言葉はちゃんと条件を満たした時にでも言ってください。今の君では、何もできずやられてしまうのがオチですから」
七海はワザと悪意ある言葉を言うが、それに対して『上等!』とばかりに香織は告げる。
「大丈夫です‼︎私は、もう
「その言葉も、今はまだ早いですよ」
七海が扉に向かうと、入れ替わるようにマッド含む医療班が入って来た。「あとはおまかせします」と言って七海は退出する。
七海は自分と彼らのこれからを考え、悩み、それでも進む。同じく、迷い、悩み、苦しんでも進んでいく彼、虎杖悠仁を思い返して。
*
それから2日。香織は目覚めた事を皆に祝福された。初日はお見舞いが何人も来た。訓練に勤しむ者も、城で保護されている者も。それは彼女の人柄によるものもあるだろう。マッド曰く、身体の方は異常なしとはいえ、5日も動いてなかったにもかかわらず、すぐに慣れて動ける彼女にむしろ驚いたそうだ。
「彼女のステータスの強さ…というより精神力の強さというべきなのでしょうかね」
と人が持つ生命力の強さを見た気がしたマッドが、そう呟いたとのことだ。
そして、香織は訓練所に再び来た。既に愛子からの許可は得ている。当初は愛子も反対だったが、七海と同じくそうする事がケジメになる事を理解したのと、香織の意思の強さに折れたのが理由だ。
そして、今日は5つ目の条件を満たす為にここに来た。メルドは訓練を止めて皆を呼ぶ。生徒達はなんだろうと思うが先に七海が告げる。
「まず最初に言いますが、私はこれ以上迷宮に行くのは反対です。危険が多すぎる上にいつ命がなくなるかわからない…しかし白崎さん、彼女の言葉を聞いて、それに賛同するなら、強くなった後に行くことを許可します」
香織は前に出て、ここにいるクラスメイト達全員の顔を見て、一度深呼吸すると、勇気をだして告げる。
「私は、迷宮にもう一度行きたい。……私は、南雲君が好き。私達を南雲君が救ってくれた。だからもっと生きる為に、生き残る為の事を考えるべき。そう、七海先生に言われました。けど、それでも、私は、限りなく可能性が0でも、彼が生きてるって信じてる。だから強くなって助けに行きたい。……でも、私だけで行けるほど甘くないのもわかってる。だから…」
ゴクリと唾を飲み込み、口に出す。そのお願いを。
「私と私がやりたい事の為に、一緒に命を懸けて下さい‼︎」
ハジメが死んでいるなど誰が見てもわかる。でも香織は信じたくないから、自分のわがままの為に、共に命を懸ける事をお願いする。言葉だけならふざけるなというものだが、もちろん香織は真剣だ。
5つ目の条件、それは
『1人であそこを攻略できるほど甘くない事などわかりますね?なら、あなたのその意思を告げて、一緒に命を懸けて下さいとお願いしてください。それに賛同する人が9人以上、八重樫さんを除いていれば認めます』
それはかなりツライものだ。わざわざ死んだ人を探す為に命を懸けろなど、普通は拒否する。だが、だからこそ言わなくてならない。呪術師でなくとも、共に戦うなら、命を懸けるなら、それは同じだから。
だからこそ、七海は生徒達が答えをだす前に告げる。
「答えを言う前に言っておきますが、白崎さんが言うからという理由で選んだ場合は却下です。己の命、他者の命、その重さを理解した上で決めて下さい」
これも残酷だが言わなくてはならない。誰かが言うから、誰かが決めたからではこの世界に来た時と同じだ。故に、きちんと彼らに選択させる。
「香織、君の意見はわかった。けど、そんな言葉がなくとも俺は行くよ。もうあの時みたいな失敗はしない‼︎絶対みんなを守る‼︎俺は死なないし、香織を悲しませない‼︎」
光輝はこう言い出すのはわかってはいた。それと、その言葉には彼は気付いてないがトゲがある。「そんな言葉」というのはハジメは死んだのだから必要がないという事。失敗を南雲のせいのように言うというより、あれはハジメが勝手にして起こしたものだと思っている。さらに南雲が好きという言葉も恋愛でなく愛情の一種とも思っている。
(まぁ、これはわかりきった事。…意見はまぁギリ合格ですかね)
1人確定。そしてもうひとり来る事も予想済み。
「俺も行くぜ。何もできないままでいるのは我慢できねぇからな。ただひとつ聞きてぇ。……先生、メルドさんから聞いたけど、これから七海先生が訓練してくれるんだろ?」
「えぇ」
「なら、俺は先生みたいに強くなれるか?」
あの日、七海の戦いを見て、龍太郎は七海に対して尊敬に近いものができていた。『もし、あの時七海先生も一緒に飛ばされていたら誰も死なないで済んだろう』…そう考えてしまう自分に苛立ちがあった。己の弱さを見せつけられ、己で認めたからだ。これから親友である光輝はもっと強くなるが。彼だけにさせない為に、もう守られるだけにならないように、龍太郎は七海のように強くなりたかった。
「私のようにという部分は保証はできませんが、君の実力なら少なくとも今より何倍も強くなれると思います。ただ、弱音を吐いたらその時点で君もお留守番です」
「へっ!上等‼︎なってやるよ強く‼︎んで、俺も手伝ってやるぜ‼︎」
(これも想定通り。彼もまぁ、合格ですかね)
2人目。ここまでは七海の予想通り。だがこれ以降はそう上手くいかない。
「雫、どうして君は黙ってるんだ⁉︎香織がああ言ってるのにどうして‼︎」
「私は…ごめん、様子見させて」
雫には先に9人参加者が出るまで待つように言った。光輝ほどではないが彼女も、特に女性にカリスマがある。彼女につられてくるものが出てこないように、そしてこうする事で光輝につられて行くものが出ないようにする為だ。
「様子見って…君らしくない‼︎なんで…」
「そこまでです。決めるのは君じゃない。自分自身です。彼女の意思を君が決めてはいけない」
光輝は抗議しようとするも、七海は無視して再び皆に問いかけた。「どうしますか?」と。
「わ、私行きます‼︎というか、こんだけ思われてる南雲君をちょっと叱りたくなりました‼︎」
鈴がハイハイと手を挙げて言う。もちろん彼女とてあの光景は見た。それでも、皆の笑顔を今度こそ守る為、香織の友として、助けたかった。
「私行きます!香織ちゃんがまた元気なくなるのを見るのも嫌です!それに出来る事をしたいんです!」
続いて恵里が珍しく声を荒げて言った。普段おとなしい彼女が声を出したのが効いたのか、そこから更に永山重吾、野村健太郎、辻綾子、吉野真央と訓練所にいた者がドンドン手を挙げる。だが当然だが拒否する者もいた。訓練所に来たのは自分の命を守る為…所謂、防衛術を習うのが目的で、わざわざ死ぬかもしれない場所に戻るのは嫌と言う者、死んでいる奴を捜索する為に協力はできないと去る者、ただ黙ったままでその場を去る園部達、南雲をいじめていた檜山グループの面々は拒否し去っていった。
(8人…あと1人ですが、条件は満たしていない…残念ですが)
七海はチラリと香織を見ると、彼女は泣きそうになっていた。『やっぱりダメなの』と。次に雫を見るが、彼女は顔を上げない香織の顔も見ない。苦しいのか手も震えている。そうして他の皆を見つつ七海は「他には」と言おうとした時――
ようやく気付いた、9人目に。
「………遠藤くん、行くんですね?」
「「「「「「「「「「え⁉︎」」」」」」」」」」
「あ、ハイ!よかった!やっぱり七海先生気付いてくれた‼︎」
影の薄さで今までいる事すら全員気付いてなかったのでビックリした。遠藤はそれに傷付くが、いつものように七海が気付いてくれた嬉しさの方が大きい。
(この世界に来てから彼を発見するのが難しくなった気がする。もっと意識を集中しないといけませんね)
だが、七海も実は今気付いただけなのだが、傷付けるだけなので言わない事にした。
「俺、影薄いけど、だから出来ることもあるし、皆を守りたい気持ちは変わってないから」
(……認めるしか無さそうですね)
七海は雫の方を見てコクリと頷く。そこでようやく雫は安堵して声を出す。
「もう、黙っておく必要はないですよね?七海先生?」
「約束ですしね。仕方ないでしょう………認めます」
「なら、あらためて……香織、いいかしら?」
「もちろん‼︎よろしくね雫ちゃん‼︎」
いきなりこれで皆頭にクエスチョンマークが出るので、今回の条件の事を話したが、やっぱり抗議してきたのは光輝だ。
「雫にそんな事を強制するなんて…七海先生‼︎どうしてあなたは…」
「やめて‼︎私も香織も納得しての事よ‼︎」
「七海先生はもし集まらないなら、自分が探しに行くって。そうしてもいいくらいに強くするって言ってくれたの。だから、これも私の意思」
七海とてあの先に何がいるかわからない迷宮を、絶対攻略出来るとは言わない。だからこそどちらにせよ強くし、自分が帰ってこない時は皆が行けるよう強くするつもりだったのだ。どちらにせよハジメを探せる。その優しさを知ってるからこそ、香織も七海を擁護した。
「……2人が止めるからこれ以上言いませんが、本当に強く出来るんですか?」
光輝は幼馴染の2人の言葉を聞いて、七海のやり方に不満があるがどうにか我慢した。だがもしこれで強くする気もないのならと考えていると――
「物事に絶対はないですが、少なくとも今の君達が納得できる強さは持ってもらう予定です」
そこに「ただ」と付け加える。
「何度も言いますがこれより先の訓練は地獄です。やめたいならやめていいですが、その場合は以降参加出来ません。それに文句があるなら私を倒してからにして下さい」
七海が目を鋭くし、威嚇するように言うと光輝は黙った。強さのレベルが違う事などわかっているからだ。
「では皆さん、覚悟してください」
この後、本当に地獄なのだと皆が悟るのは少しかかる事となるその訓練内容を、七海は語り出した。
今回は分けどころが決められず、こんな長くなりました
ちなみに
今回のタイトルは『不惜身命』を元にしてます
意味は命や体を惜しむことなく、全力で事に当たること。ですが不惜で惜しまない=命を賭けると言う意味にはなると感じ、呪術廻戦的な要素などを考え、懇願をつけました。
秤の術師が術師にするお願い『一緒に命を懸けて下さい』が前提。それにも合ってるし
ちなみに2
前回七海が後悔する所をカットしましたが、これ読んでる知り合いが
「腹が立つ事はないって言ってるけど不甲斐ないと思ったことはないって言ってないじゃん」
と言われて今回の謝罪の所を書きました。よくよく考えたら伏黒も被害者の家族に謝罪してたし、そういう事が七海にはなかったとは思えないですし、今回から入れることにしました。
ただ、どこまで言わせて良いのか線引きが難しい。おかしいなと思ったらどんどん意見お願いします
次回から修行編
次の話は6割できてますが2月に出すつもりないです。そのかわり…………できる、かな?ちょい大変だけど