ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今日は呪術廻戦の最終巻発売日なのですが、もうひとつ、私的なニュースがあります。
今回の話しで『ありふれさんぱ』を除いて73話目です。いやほんと、マジで(数え間違いでなければ)
意図したわけではないのですが、ちょっとだけ運命を感じてます


帝兎戦乱(ていとせんらん)

朝日が昇る。その光の眩しさを、七海はサングラスを付けているのでカバーできる。カチャリと少しズレたそれを直す

 

「………まさか、ですよ」

 

が、それと同時に膝を折る

 

「本当に、夜を超えるまで、誰も脱落しないとは、思いませんでした」

 

たった1日しかないなか、七海はハウリアを一晩中鍛えた。結果、まさかの脱落者なし。

 

(しかも、カムさんに至っては、1度黒閃を受けたというのに、立ち上がるとは)

 

呼吸を乱した息遣いのまま、七海は反転術式を出来るだけ回す。正直言って、黒閃を使わされるとはおもってなかった。最低限の手加減くらいはしようとほんの一瞬思ったが、すぐに必要無用とし、全力をだした結果だ。

 

「まさ、か、という言葉は、我々もですよ……最初は、どういう事かと思いましたね。戦闘訓練(・・・・)など」

 

カム達からすれば、本当に殺す勢いでかかってまだ生きているどころか、今も迂闊に攻撃すればやられるだろうと思わせる七海に驚きだ。

 

「あとは、皆さん次第……あと、とりあえず、白崎さんに回復してもらいましょう」

 

折角鍛えても、当日に動けなければ意味がない。再生魔法も使って一気に全回復してもらように、香織を呼ぼうとして移動しようとした時、ハジメ達がいるであろう場所から、ぎゃーぎゃーと生徒やシア達の声が響く。

 

「……元気なもんですね、まったく」

 

「…ふっ」

 

「なんですか、カムさん」

 

「あ、いえ、申し訳も。ただ、意外に思ったのです。ビッグボスがそのように笑うなど」

 

七海はつい、キョトンとした顔になっていた。

 

「私、笑ってたんですか?」

 

「ええ。穏やかに、嬉しそうに」

 

自分でも気付かないレベルに、彼らの空気に染まっていることに、なんとも言えない表情になり、誤魔化すようにカムに問う。

 

「カムさん、覚悟できましたか?」

 

「ええ。訓練、御教授ありがとうございました」

 

「こちらこそ」

 

脱落者、七海を含めなし(・・・・・・・)

 

そして、今日が来る。この世界の変革の日が

 

 

ヘルシャー帝国帝城。それは王国の城の造りとはまるで違う。王国も王国で防御の為の造りはあったが、権威を見せるものの要素の方が多く見られた。

 

だがこちらは権威よりも防衛力に力を入れている。帝城をグルリと囲む堅牢な城壁には、常に多くの見張りの兵が巡回し、城壁そのものにも魔法が付与され、ちょっとやそっとの攻撃では傷つかない。さらに城壁の外側には、20m以上の深い水路と、その中に、ある程度飼い慣らした水生の魔物が放たれており、巨大な跳ね橋で通じている正門以外に入るのはとてつもなく困難な造りだ。

 

「攻めづらく、守りやすい。お手本のような構造ですね」

 

「それに入るにも、過剰な程の入城検査をクリアしないといけない。こんな所を、南雲は」

 

こんな、侵入はもちろん脱出も困難な所を、誰にも気付かれる事なく、侵入し、カム達を脱獄させた。

 

もちろん空間魔法による転移があるなら、脱出は容易だが、侵入は難しいだろう。陽動は七海が考えて行ったこともあり、当初の予定以上に兵を城から出すことができたが、

 

「俺達がしたことって、意味があったんですかね?」

 

仮になくても、ハジメは事を成しただろう。その事実を、光輝は、認めざるを得ない。

 

「意味があったかなかったのかというなら、ほぼないでしょうね。南雲君なら陽動なしでも侵入したでしょう。私に頼んだのも、万が一の保険程度のものでしょうし」

 

そして七海も、そんな彼に対して上っ面だけの励ましなどしない。事実に基づき、結果を告げる。

 

「ただ、今の君に、結果を求めてる暇なんてありませんよ」

 

「!」

 

「結果を得たいなら、もっと精進しないといけません。ここで言う精進とは、戦いの面だけではなく、人としての面の方も……というより、こちらの方が大きいですね」

 

「何が言いたいんですか?」

 

「亜人族の扱いに対して、言いたいことでもあったんでしょうが、言えなかったことが悔しいんですか?それとも、あの帝国女性の行動に対して、自分が何もできなかった事への後悔ですか?」

 

その言葉に、光輝は己の腹の中を覗かれたような気がし、身体がびくりと動かないよう、必死に我慢した。

 

「あるいは」

「もういいです‼︎」

 

大きな声で叫んだ事で、周囲の帝国兵や帝城に来ていた商人など一般人、更に光輝の後ろにいる雫達、ハジメ達も、いきなり前で叫んだ光輝にそれぞれ驚いており、それを見た光輝は、バツが悪そうに下を向き、「すいません」と小さな声で呟く。

 

「いえ、私も言い過ぎました。ただ、天之河君、考えすぎもいけませんが、考えることは悪くない。むしろ、君の場合は、今は考えすぎなくらいがちょうどいいかもしれません」

 

考えすぎれば、動く時に動けない。だが、光輝の場合、考えたら事後のことは気にせず、即行動する所があった。そういう意味で言うなら、何かを起こしてしまう前に停止できるのは、良い事かもしれない。

 

「立ち止まって、考えて、悩んで、その後に行動する。結果で、悔やんだり、後悔したりして、それでもと前に進む。その繰り返しです。繰り返して、時々成功して、幾つもの小さな絶望と諦めを重ねて、人は大人になります。君はまだ子供で、その階段を本当の意味で登ってない。いえ、登り出すスタートラインに立ったばかりです」

 

「…………」

 

これまで、光輝は失敗とういうものを経験した記憶が(本人的には)なかった。トータスに来てから、自分の価値観を次々と壊されていき、認めない自分が足枷になっていく。それを、七海はハッキリ告げる。

 

「その抱いている感情を、否定しないように」

 

ハッ!とギリっと握っていた拳を解放する。ハジメとは違う意味で、自分をかき乱す七海に、抱いてはいけない感情を抱こうとしていたと気付いた。が、それを否定するなと言う。

 

「どうしろって言うんですか」

 

「そこまでは流石にわかりません。自分の感情を抑えれるのも、認めるのも、自分次第なんですから」

 

再び悔しそうにした光輝に対し、七海は続ける。

 

「それと、南雲君も君と同じです。まだまだ精進が足りない子供です。彼の場合は、それに気付き出した。……ま、悪戯がちょっと過ぎることもあるので、しっかりと動向を見てる必要もありますがね」

 

自分がハジメと同じという部分に、若干の嫌悪感を感じたが、すぐにそれを振り払う。

 

(俺が、あいつと?)

 

チラリと後ろを見る。いつも通りの無作法な感じに見えるハジメと、その周囲に侍らす女性達。そんな姿に、光輝は…疑問と、それ以上に、◾️◾️をして…………

 

『その感情を否定しないように』

 

「⁉︎」

 

「天之河君?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

七海が喋っていないにも関わらず、言われた気がした。

 

(何が同じだっていうんだ。……なんだっていうんだコレは)

 

そうして自分の中にある感情に、動揺していると、

 

「おい、次の奴ぅ!騒ぎを起こすな!」

 

先程の光輝の声に対しての注意と、順番が回ってきたことで、門番の兵がこちらに来たようだ。門番は光輝と七海を見ると訝しい表情になる。見た目の年齢を考えるなら、それなりにここで門番をしてきたのだろう。ここを出入りする者など限られている分、見覚えのない顔に怪しんでいる。

 

「……許可証を出してくれ」

 

まして光輝達の装備や武器を見て、冒険者と思い、尚更警戒している。

 

「許可証はありません。が、彼のステータスプレートを見てもらってかまいませんか?」

 

ステータスプレートを見せる…つまり身分証明をするという事だが、そんな事で入れるわけないだろと門番は思い、一体なんのつもりだと考えつつ、それを見る。

 

「天職…〝勇者〟。………は、え?」

 

門番は何度もステータスプレートと光輝を交互に見ていた。

 

(うまくいきそうですね。後は、リリアーナさんが皇帝よりも早く、且つ上手く立ち回るかですが)

 

先日、光輝が自分の名を利用しろというのを、今度は決行した。

 

ちなみに、その時のハジメは

 

『よし、天之河……いや、勇者(笑)天之河光輝よ!おまえの力が今役にたつ時が来た!』

 

『なんですかその口調』

 

『シャラップだ先生!今いい所なんだから!』

 

『煽る必要がないですし、彼は最初から利用する事に異論はないんですから、普通にしてください。あと、必要もなく大袈裟にしないように。ただでさえ君の場合は、大抵ただやってみたかっただけが多いんですから、もうちょっとその場の空気というか、今の相手を見てください』

 

と妙に煽っていたので、七海に正論を交えた注意をされて、ほんの少し凹んでいた。

 

 

閑話休題。

 

周囲の他の門番達が何事かと注目し、こちらに寄ってくる。

 

「えっと、勇者……様、本当に?王国に召喚された神の使徒の?」

 

「あ、はい、そうです。その勇者です」

 

ざわつきだす中、1人の門番が七海を見た

 

「なっ、こいつは、七海建人!」

 

「なにっ⁉︎、本当か!」

 

「間違いない。手配書にあった顔と同じだ!」

 

「おお!こいつが!」

 

と勇者である光輝以上の騒ぎになっていく。

 

「いや、まずは、一応、ステータスプレートをお見せいただいても?」

 

七海は懐から自分のステータスプレートを取り出す

 

「……確かに。拝見しました。それで、その、なんの」

 

「実は、途中まで今こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって一時的に別行動をしてまして、こちらの事情が済んだので、合流をと思い…事前連絡ができず、申し訳ありません。本来ならリリアーナさんとはもっと後に合流する筈でしたが、予定よりも早くに済んだので、こちらから来ました」

 

「は、はぁ」

 

まの抜けた門番の呟きと、「なぜリリアーナ姫と一緒でないのか?」「なぜ事前連絡がないのか」という聞きたい理由をツラツラと言う七海に呆然としてまうが、ともかく自分達の了見で済むことではないと言い、上に取り次いでくることを伝え、数人の門番がものすごい勢いで帝城に入っていく。

 

「ここで待たせるのは失礼なので、こちらにどうぞ」

 

帝国は実力主義ではあるが、信仰する神は王国と同じであり、その神の使徒である光輝達を橋の上で待たせるのは失礼と考え、待合室のような場所に案内されたのだが

 

「随分とすごい歓迎だな。七海先生、帝国に何したんだ?」

 

簡単にだが掃除をし、有り合わせとはいえ茶菓子を出された。

 

「それはこっちが聞きたいですよ。どういうことですか?」

 

近くにいる見張りの兵に聞く

 

「ハッ!ガハルド皇帝陛下より、我らの国の戦力増大となるきっかけとなった七海建人がもし来た際は、手厚く歓迎しろと言われております」

 

「それって?」

 

どういうことですかと雫が尋ねる。ただ、答えはなんとなくわかっていた。

 

「魔力を使った身体強化、武器への魔力の込め方、魔力の視認など、新たに様々な技能を、王国から聞いたそうで。王国はどうもその辺が疎いのか、政治的か宗教的かはわかりませんが、否定的なのに対し、こちらは皇帝の指示のもと、多くの兵にそれらを取り入れました。全員が成すことはできませんでしたが、できた者はかなりの戦力増強となり、以前の魔人族の送ってきた魔物相手にも、連携もあって、難なく倒し、しかも、魔人族の指揮官まで」

 

「そこまでだ!機密情報が含まれているぞ。ベラベラと喋るな」

 

入って来た帝国兵はこれまで見た門番とは違い、他の兵よりも大柄なその身につけている装備や周囲の兵の態度から、それなりに高い地位の者だと察せられる。

 

「さて、こちらに勇者殿一行と、七海建人が来ていると聞いたが……」

 

「あ、勇者は、俺です。俺達が………勇者一行です」

 

一瞬言うのを躊躇ったのは、ハジメの存在があったからだ。「俺達」の中に、ハジメが入ってしまう事が、気掛かりだった。そのハジメは、一瞬でも光輝がこちらの存在を見て、気をつかうような行動をしてきたので、「勝手に思っておかせればいい」と言わんばりに視線を外したのを見て、光輝は答えた。

 

「ではステータスプレートを確認させていただこう」

 

と言って確認をするが、その間にまず七海を、次に光輝を不躾に見て、更に他のメンバーに視線を向ける。その中で彼の目についたのはシアであった。彼はシアを見つけた時、大きく感情が動き、目を大きく開き、口も僅かではあるが呆然としたように開くが、すぐにそれはニヤニヤと邪悪な笑みになる。その視線にシア思わず身じろぐ。一体なんだと七海が思うが確認を終えてステータスプレートを返してきた為、そちらに意識を移す。

 

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行及び七海建人が来られたことは、リリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう」

 

(さて、彼女には悪いですが、利用させていただきますよ)

 

今のリリアーナの心境を考えると、さすがに不憫ならないが、お互い利用する(・・・・・・・)なら話は別だと、割り切ってもらいたいなと考えつつグリッドの言う部下を待とうと思ったとき、

 

「……ところで勇者殿、その兎人族は?それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

 

「え?いや、彼女は」

 

シアについて尋ねてきたグリッドに、光輝は返答に困る。七海でなく光輝に声を掛けたのは、彼の性格や内面をなんとなく感じたガハルドから聞いたいて、質問しやすい相手と思ったからだろう。

 

シアが奴隷でない事は、彼女が付けているチョーカーを見れば、この世界の、特に帝国の人間ともなれば、すぐにわかる。ならばハジメの恋人と断言するのかという部分だが、これも光輝にとっては迷う所。明確に特別と、恋人と言っているのはユエだけで、下手に言うと睨まれる可能性がある為だ。

 

「そんなこと、俺に、聞かれても……」

 

まぁこれが正直な答え…というより感想だろう。グリッドは光輝から答えが期待できないと判断し、わかりやすく舌打ちをして、視線をシアに変える。直接聞くつもりだろう。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ、俺の部下はどうしたんだ?」

 

「部下?一体なんの話を……っ!あなたは、まさか…」

 

唐突な質問はここにいる者のほとんどがなんのことだと言う質問で、シアも一瞬そうだったが、直ぐに察し、驚愕に目を見開く。

 

「おかしいよな?俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ?あぁ?」

 

(あぁ、なるほど)

 

七海はなんとなく察した。そもそも、兎人族のシアにとって、直接関わりのあった帝国兵など限られている。1つはカム達。もう1つあるとすれば、七海と、もっと言うならハジメと会う前に、まだ弱者であった彼らを殺し、奴隷に落とした者であろうと。

 

身じろぐシアを追い詰めるようにジリジリと迫ろうとするグリッドを、

 

「なんのつもりでしょうか?七海建人」

 

立ち塞がり止めた。

 

「客人に対して、随分と横柄な態度を取るようなので止めただけです」

 

「申し訳ありませんが、この兎人族は二ヶ月ほど前に行方不明になった部下達について何か知っているようでして、引渡し願えませんかね?それとも兎人族の女が必要なら、他を用意させますんで、ここは」

「彼女は我々の仲間で、南雲君の大切な人の1人。申し訳ないですが代わりはありません」

 

「!」

 

その言葉にシアはピクリとウサミミが動き、それと同時にハジメがシアの頬をプニプニと触り、逆側からもユエが手を握る。それは、彼女の緊張を解く為。その表情は、僅かな呆れと叱咤が含まれている「この程度の雑魚に気圧されるな」とでも言われているようであった。それは七海も同じなのか、一瞬むけて来た目線は、まるで「逃げるな」と言われている気がした。

 

「しかしですね、私はその兎人族に見覚えがありますので、そうなると」

 

「ですから」

「あなたの部下の事なんて知ったことじゃないですよ」

 

と、七海が食い下がらないグリッドに対して何か言おうとした時、シアが声を出す。そちらを見ると、「もう大丈夫です」という声が聞こえてくるような表情をしたシアがいた。

 

「随分と頭悪そうな方達でしたし、何処かの魔物に喰われでもしたんじゃないですか?あと、私のことであなたに答える事なんて何1つありません」

 

シアは数々の大迷宮と、そこにいた魔物、そのレベルと同等やそれ以上の魔人族と戦って生き残ってきた疑いようもない強者の1人。本来なら、帝国の将校如きに気圧される相手ではない。

 

「随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか。あぁ?勇者殿一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか? 奴隷ですらないなら、どうせその身体で媚でも売ってんだろ?この売女が。舐めた口を」

 

とグリッドの言葉が止まる。

 

「残念ながら彼女はあなたを知らないようですし、これ以上の会話が必要でしょうか?」

 

声だけは静かで、変わってないが、先程の穏便な表情と違い、明確に敵意を向けて言う七海に、今度はグリッドが身じろぐ。そしてそれで場の雰囲気を察する。グリッドから目線を外し、お前なんか眼中にないと態度で示すシアを除き、他の女性陣も怒りをあらわにし、鈴は見る者がこの少女が出す目かと思うような冷たい目をしている。

 

光輝と龍太郎も、いい加減にしろと言いたいような視線を向けており、同じ帝国の者以外からは、まさに四面楚歌である。そしてハジメは、

 

「おい、下っ端」

 

すでに限界である。

 

「お前の役目はもう終わったんだろう?ならさっさと失せろ。くだらないことに使う時間は、こっちにはねーんだ。グダグダ抜かすな。身の程を弁えろ」

 

グリッドの顔は血管という血管が破裂しそうなほど真っ赤に染まり、あまりの怒りで目も充血している。ピクリと腕が腰の剣に動くが、腐っても帝国の連隊長。自制心はあるのか、神の使徒である勇者一行を切るという蛮行はせず、背後の部下にその怒りに染まった顔のまま、案内するよう促し、案内人の部下の顔が真っ青になる。

 

その様子を何にも気にすることなく、睨むグリッドをガン無視してハジメは先頭を歩く。そうして他の者がその場を通り、最後に七海が隣を通る際に小声ではあるが、グリッドにしっかりと聞こえるように呟く

 

「命拾いした事を、覚えておいた方がいいですよ」

 

グリッドにはそれが嫌味に聞こえたのか、更に充血していた。

 

 

「随分と、派手に動いてるようですが、なんのご用件でしょう?」

 

顔だけは満面の笑み。だがそこから出る黒いオーラのようなものは、「早く説明しろコノヤロウ」という言葉が見え隠れしているリリアーナだが、質問されたハジメの方は他人事みたいにシアのウサミミをモフモフと触り、逆からはユエがシアの頬をプニプニ、ムニムニと触っている。その事を注意且つツッコミを入れようとしたが

 

「申し訳ありません、リリアーナさん。帝国との協議やら取り決めやらで忙しくし、且つこれからの件で心を痛めている所に来るのは、こちらも悪いとは思ってますが…どうしたんですか?」

 

「いえ、別に、ありがとうございます、七海さん」

 

常識人且つ話を聞いてくれる七海に、リリアーナは口元に手をおき、顔を背けて歓喜の涙を流す。

 

ちなみに、彼女の中でハジメは非常識が服着て歩いてるような図式であり、問題行動や騒ぎを起きた渦中にして実行犯は彼だという認識であるが、七海はそれをわかったうえでフォローやら、なんやらを提供してくれる保険のような感じで見ている。

 

ただ、問題や事件を起こす人物の近くにいるのだから、保険というには悪質にも見えるのだが、それにツッコミを入れるような人物は今ここにはいない。

 

「それで、昨夜のアレはなんですか!仮面軍団がどうのこうの、色々と聞きたいですが、わざわざ私の寝泊まりしている部屋に、こんなモノをよこして!」

 

ダンっ!とテーブルにリリアーナが叩きつけたのは連絡用の鳥型ドローンである。通信に使い終えたそれは、電池たる魔力がなく、動かない

 

「帝城での今後の予定や、警備のおおまかな人数、主戦力となりそうな人のピックアップに、帝城内の死角の確認、王族及びその重鎮達のよくいる場所の特定とか、一体なにをしようというんですか⁉︎まさかと思いますけど『帝国ぶっこわそー』とか思ってませんか⁉︎」

 

とか言いつつ、できる限り調べたものをメモにとったのか、それもダンっと叩きつけてきた。が、そんなふうに怒っていても知らんぷりで今もまだハジメとユエはシアのウサミミをモフモフとほっぺすりすりをしている。先程のことで不安定になっているからと言うと彼女も心配そうにするが、その後の質問を適当に

 

「昨日言った通り、姫さんに都合の良いことがたぶん、少しくらいは起こるから、夜まで待ってくれって」

 

と軽く流す。おまけにそれに怒ったリリアーナを「ハゲになるぞ」と、あまりにもナチュラルに無礼をはたらくハジメに、怒りを通り越して、気落ちしている。

 

「私王族で、王女なのに〜」

 

「南雲君、もうちょっとでいいので、相手をしてあげてください。一応、迷惑をかける相手ですし、それに通信を行ったのは君ですし」

 

あの時すでにハウリア達の相手をしていた七海は、おおまかな内容だけ伝え、あとはハジメに任せていた。

 

「って、やっぱり迷惑をかけるの前提なんですかぁ⁉︎」

 

(しまった。…しかし、やはり連絡を南雲君に任せたのは間違いだったでしょうか)

 

「だから姫さん、声がでかいって、本当にストレスでハゲるぞ」

 

「女性に対してハゲるとか言わないでください。せめてもう少し言葉を選んでください。相手は善人で、君よりも一応年下なんですし」

 

「おい、先生、その一応ってなんだ?」

 

「いえ、別に。ただ、精神年齢的には上だなと」

 

「言うじゃねーかぁ、おぉ?」

 

ビキビキと額に血管が出ている。

 

「10人に聞けば10人は同意見だと思いますよ。言われるだけありがたいと思うべきです」

 

「……むぐぅぅ!」

 

相手がただの一般人であれば、ハジメはブチキレるだろうが、相手が大人オブ大人の七海にして、口に出さないが尊敬と信頼できる人。イラついてもそれを腹に飲み込み、頭の中で記憶する。そんな、普段は見ることのできないハジメにユエとシア、香織はクスリと笑い、ティオはなんか自分も注意してほしそうにしてる。光輝達とリリアーナはそれを珍しいものをみるような顔になる。

 

「あの、それで、改めて聞きますけど、こちらで何をする気ですか?昨夜の仮面騒動もあなた方の仕業でしょう?聞き及んだ情報から考えて、雫に恥ずかしい格好とセリフを言わせて…こちらの利になるからとはいえ、もうちょっと情報をですね」

 

一方的に調べ物をさせられて、理由もなし。しかも帝国の機密情報に触れることもある。知られてしまえば、帝国との協力関係構築も瓦解してしまうのだから、聞きたいと思うのは当然だろう。

 

「だから、夜になれば全部わかるって。俺達のことは、ちゃんと七海先生が理由を門番に適当にでっち上げて伝えてあるから、それに合わせてくれるだけでいいから」

 

「でっち上げって、七海さん!」

 

「リリアーナさん、彼の言う通りにして下さい。それに、あなたも従う以外の選択肢がないことは理解してるでしょう?何より、君は恩を仇で返す人ではない。違いますか?」

 

と七海が言うと、急に何かを飲み込むような顔をし、「ズルいです」と呟く。それに何か違和感をハジメ達は感じたが、外から扉をノックする音がし、帝国兵の男が静かに入り、ガハルド皇帝が呼んでいることを告げた。

 

 

「久しぶりだな、雫、七海。……それと、おまえが南雲ハジメか?」

 

勇者(一応)である光輝と、同盟関係にあたるリリアーナ差し置いて、興味の対象たる雫、七海、そしてハジメに声をかけてくる。これまで会ってきた帝国兵や帝国の人間が荒くれ者、もしくは首輪のついた狂犬と評するなら、それを束ねるガハルドは猛犬且つ統率者。間違いなくハジメ組、勇者組と比べると格下の相手にもかかわず、漏れ出るオーラはリリアーナの比ではない。

 

そんな相手にハジメがしたのは

 

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、ガハルド皇帝陛下」

 

胸に手を当てて軽くお辞儀し、敬意を持った言葉。光輝達とリリアーナは、心の中と言葉で「誰⁉︎」とツッコミを入れる。特にリリアーナは先程の自分の態度と違いすぎて、また「私も王族なのに」と小さく呟く。

 

ハジメとしてはついさっき七海に注意を受けたのもあり。ちゃんとTPOを弁えた発言をしたつもりだというのに、「その反応はなんだ」と言う。帝城に用があったのも事実なのだから、最低限の礼儀は必須であると思ったのだろう。そんなハジメを見たガハルドは、「ククク」と笑い

 

「思ってもいないことを言うな。一人称が俺の時点で本心で敬ってないことなどバレバレだ。リリアーナ王女が言うには、もっと傍若無人で、イタズラ好きの小僧のような奴だと思ったんだが、普段通りの態度でいいんだぞ、うん?」

 

色々とガハルドに話していることはわかっていたが、「どういう説明をしてんだテメェ」とリリアーナに目線で告げるが、無視される。ちょっとした意趣返しのようなものだろう

 

「俺は、素のお前に興味があるんだ。仰々しく胡散臭い態度はやめろ。それとも七海建人の真似事か?もっとやめとけ、似合わないにも程がある」

 

図星があったのか、ハジメの額が僅かに動く。血管が浮かんでキレかけるが、一瞬で治り、普段通り喋る。

 

「……はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」

 

「それでいい。立ったままもなんだ、座れ」

 

ガハルドに言われて、用意された場所に座る。それを見つつ、ガハルドはハジメから視線を外し、ハジメの傍に陣取るユエ達を興味深げに観察しているが、兎人族のシアに対しては意味深げな視線を向ける。更に光輝達の方に視線を向け、光輝をスルー

 

「ふむ」

 

スルーするつもりだったが、今の光輝に何か感じたのか、僅かに目に留めた。が、本当に僅かだ。すぐにその視線が雫に向かうが、

 

「またか。なんで雫の前に立つ、七海。まさか、雫に」

「くだらない事を言うなら、流石に私も黙ってるわけにはいきませんね。教育上、不謹慎な方とは、なるべく遠ざけたいですし」

 

「南雲ハジメが近くにいて、その発言はどうかと思うが、ならまずおまえに聞こう。俺に仕える気になったか?」

 

「何度言われても、お断りします」

 

「今なら俺の娘もつけよう。トレイシーというんだが、戦闘狂だが面はいいし、普段はまともだ。何より本人がお前に興味を持ってる。王族の仲間入りもできる」

 

七海の言葉をガン無視して、ガハルドは言う。もう一回、今度は強めに断ろうとしたが、

 

「それに、お前と同じく、呪術師として目覚めているぞ」

 

「!」

 

「ククク、なんだ、その表情は?会いたくなったか?それとも、実はもう会ったことがあるのか?」

 

「いえ、まさか。(やはり、昨夜の女性は……しかし、まさか本当に王族とは)」

 

王族関係者くらいには思っていたが、本当に王族とは思わず、僅かに顔に出てしまった。次にチラリとリリアーナを見る。どうやらそのトレイシーという女性を知ってそうだが、その人物が呪術師として覚醒してるのは知らないようだ。

 

「さて、続けようか?お前には義務がある。この世界の根本を変えるきっかけを作った義務がな。異世界から来たもので、南雲ハジメは例外として外し、現れたのは1人。王都に現れていないが、遠い未来で出現する確率は充分ある。そして、呪霊の出現する世界になる可能性。もしかしたら、これはいつかなる世界だったかもしれん。だが、だとしても早めたのは確か」

 

「何が言いたいのでしょう?抽象的な言葉では理解は得られませんよ」

 

「強く強力な呪術師を産むには、互いが呪術師であるのがいいのではないか?」

 

これからの世界の為というのはほんの少しはあるだろうが、目的は強い術師を取り込み、独占しようという魂胆が見え見えである。

 

(御三家のようなことを)

 

「どうなんだ?王国にはだいぶ恩を売って居場所がなくとも、ここならあるぞ?」

 

その言葉に本格的な違和感を、ハジメ達も、光輝達も感じた

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

と、聞いたのは光輝だ。ハジメも聞く気であったが、先を越されるとは思わなかった。ましてそれが光輝が口に出すなどと思わずだ。だが、そんな考えが吹き飛ぶ言葉がガハルドから告げられる。

 

「なんだ?告げてないのか?そいつは、王都で自分自身の悪評を広めた、張本人だ」

 

「「⁉︎」」

 

それにすぐ反応したのは、ハジメと雫だ。七海は「余計な事を」とガハルドを睨んだ。

 

「おい先生、後で話がある」

 

「わかりました」

 




ちなみに
次回にも書きますが、王国の噂は七海が本格的に広めようとする前からありました。それを利用して、リリアーナとルルアリアと縛りを結んでいます。あと、王国の重役以外で知ってるのはメルドのみでした。というかなんとなく気付いて七海に聴きました。『のみでした』というのは噂を広めた兵士をパーンズが見つけてタコ殴りにしてたのでこっそり教えたので彼も知ってます

ちなみに2
この小説を出す際、実はアフターストーリーで活躍するキャラはあまり出さず、ちょい出しするように考えてました。書き始めた当初はまだ私がアフターストーリーを読んでなかったのもありますが、今後アフターストーリーも書籍化するかもしれないとき、書籍とwebの齟齬を直すのがメンドイと思っていたからです。ただ、アフターストーリーを見てトレイシーの登場回を見て、「よし、コイツだけは絶対だそうw」と考えました。

で、出すなら出すで、どうしようと、ヤキモキしつつ、術式をつけるに至りました。



最後に呪術廻戦、単行本も完結したので現ハジメグループ&七海から一言

ハジメ「おめでとう」ぱちぱちぱち
ユエ「おめでとう」ぱちぱちぱち
シア「おめでとうございますぅ」ぱちぱちぱち
ティオ「おめでとうなのじゃ」ぱちぱちぱち
香織「おめでとう」ぱちぱちぱち
七海「おめでとうございます」ぱちぱちぱち


七海「これなんですか?」

さぁねぇ
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