「何をキョロキョロしておるのじゃ」
パーティ会場に着いてしばらくした後、七海は何度か周囲を見ていると、パーティ用のドレスに着替えたティオが七海に話しかけてくる。髪の色と、よく見る着物の色と同じ、輝くような黒のドレスと、スリットからのぞく肌とストッキングが、いつもとは違う美しさを醸し出す
「そんな風にしておれば、怪しまれるぞ」
「問題ないですよ。やりすぎない程度でしてます。……少し気になることがありまして」
七海が気になることそれは件の帝国呪術師がいないということ。戦って、リリアーナから聞いた情報などから考えるなら、とても好戦的な性格だとわかる。さらに、ガハルドが七海を自分の元に取り込もうとしているなら、顔見せくらいはすると思っていた。
だが見てもそのような人物はいない。代わりに多くの屈強な兵が多い。おそらく前に七海達が襲撃した時に兵士が言っていた、近衛部隊だろう。
(拍子抜け…と言ったところですが、さすがにここで
これ以上の捜索と詮索は必要ないとし、七海はパーティの様子を見ることとした
「というか、七海さん、何かないんですか?」
「何かとは?いつも言ってますが、抽象的な表現や言葉は、好みではありません」
「私達を見て、何かないんですか?」
シアと香織、それとティオも、ドレスを見たならなんか感想を言えと伝える。
「そういうのは南雲君に聞けばいいでしょう。まぁ、今ユエさんとダンスをしてますから、後でになりますが」
「そのハジメさんが、ユエさんだけに夢中でこっちはフラストレーションが溜まってるですぅ!」
「おまけに濃厚なキスまでして、ぅぅ、羨ましいぃ」
「この放置感は悪くないのじゃが、流石に、ひどいのじゃ、はぁはぁはぁ」
なんで自分がと思いつつ、七海はシアと香織のドレスを見る。香織のドレスは肩口を完全に見せ、更に胸から臍まで白い肌が絶妙な見せ方をし、ティオと同じくスリットで美脚をしっかり見せ、纏めた銀髪の髪の一部が靡くたび、多くの男性の視線が集まる。
「正直、白崎さんは評価に困りますね」
「え?それはどういう?」
最初の評価かつ、困るという言葉に、香織は困惑と自分の容姿に自信が失いそうになるが
「その身体は、ノイントのものです。魂が白崎さんの為、あなたらしい顔になってますが、今の君を褒める=ノイントを褒める事にもなるので、どうにも、どう言葉を選べばいいのか」
「「「…………ぷっ」」」
3人は同時に小さく笑い、手を口に持っていき、抑える。
「なんですかその笑いは?」
「いや、七海らしいと思ってな」
「ですねぇ、評価がそれって……香織さんの事を考えてのものってのもまた」
「とりあえず、そういうの抜きで評価してください」
そう言われて七海は再評価をする
「では、皆さんよく似合ってますよ。シアさんは可愛いらしさを強調し、この後の事も考え、広がったスカートで動きやすくしたのでしょうが、そのおかげで視線を下から、次に全身へと見せるようし、各所を魅せるようにしている。白崎さんは露出に目が奪われがちでしょうが、君の今の髪のおかげで、顔の美しさを更に目立たせてます。魅了の能力は確かないはずですが、それに似たものを、周囲の目線で感じますね」
2人は「おぉぉー」となんか感動したような声を出す。
「のう七海、妾は?妾にはないのか!欲情せんのか?」
「とても似合ってますが、私があなたに欲情することはありません。ありえません。絶対ないです」
「おおぅ、感想も短く、しかも辛辣なじゃぁぁぁ〜」
「………」
気持ち悪いと言葉に出さないが、どう見てもそう感じる表情になっている。どれだけ着飾っても、変態とは隠せない。むしろ肌を露出しているので上がっている気すらしていた。
ちなみに、雫と鈴も着飾っているのだが、ユエ達ハジメグループは全員がハジメの目を引きたいという原動力なので、彼女達に比べるとどうしても控えめというか、大人しい印象だ。それでも雫の方はいいよって来る男性はそれなりとはいえいたのだが、
「谷口さん、顔が仏頂面になりすぎです。正直言うなら、君達にちょっかいを出す男というのは見逃せませんが、一応パーティなんですから」
コバルトブルーの少し暗めの色で、肩口以外は全て隠されている。長めのスカートは足首ギリギリまであり、まるで彼女を覆い隠すようだ。
「…こんな茶番、付き合ってられません」
確かに茶番もいいところだ。この後のことも考えるなら、尚更に。一応参加はしているが、この後の事を見ておきたいということでここにいる。七海は鈴に近付き、小声で聞く
「体調は?」
「問題ないです。私が嘘をつくとでも思ってるんですか?」
「いえ。そういう約束ですしね。……谷口さん、やはり白崎さんに」
「問題ないならいいはずですよ?」
七海は少しだけため息を吐いて、「わかりました」という。それに安心したのか、それとも、もう用はないから適当に食事でもつまもうとしていたのかはわからないが、鈴が移動しようとした時
「なぁ、鈴」
龍太郎が前に立っていた。タキシードスーツを着ているが、ハッキリ言って似合わない。そんな彼は、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうにしながら鈴に問いかける
「俺と、その、なんだ、踊っちゃくれねーか?」
「………それは、冗談で言ってるの?」
笑えるねと付け加えるが、全く笑ってない。いや、乾いたような笑いはしている。
「だいたい、龍太郎君踊れるの?私も無理だよ、何故か南雲君は上手く踊れてるけど」
煌びやかなダンスの場に、自分達のようなお遊びにも満たない者同士では、役不足どころか、雰囲気を壊しかねない。
「それに、この雰囲気は好きなれないから、それじゃ」
「あ…」
と踵を返す鈴に何も言わずに、龍太郎はただ立ち尽くすしかなかっ
「行きなさい」
「!」
七海はトンと背中を強めに押して、追えと暗に伝えると、龍太郎はサングラス越しに見えた七海の視線を合わせた。その目は「諦めるな」と、激励されているようにも思えた
「っ!」
パッと出した手が鈴の腕を握る。
「いくぜ」
「ちょ⁉︎」
抵抗しようと思えばできたが、あまりの強引な手引きに引っ張られ、ホール中央に連れられ、音楽に合わせて踊り始める。
「っとと、見た目より難しいな」
「だから言ったのに…って今足踏んだよ!」
「っと悪い!」
思った通り、あまりにも拙く、ステップもなにもグチャグチャ。見てる方が痛々しくなりそうだ。
「って、お前も今踏んだぞ!」
「仕方ないでしょ!こんな感じで踊ったことなんてないよ!精々体育祭のフォークダンスくらいだよ!しかも数回だしとっくにやり方も忘れてるよ!」
互いに言い合いながら踊るその姿は、協調性の欠片もないように見える。だが、
「…ちょっと、いつもの喋りになったな」
「!」
踊りながら、鈴は手を口元に持っていき、軽く抑えた。
「やっぱり、無理してんだな。その言葉使いも、俺等への対応も、修行も、全部」
「………関係ないでしょ、龍太郎君には」
「ないことはない。って言いたいんだが、南雲のこともあるし、無理に否定するのは違う気もするっていうか」
「…すっごいグダグダ」
心底呆れて、鈴はため息を吐きつつ言う。
「けどさ、なんも関係ないって済ませられるほど、俺らは付き合いが短いわけじゃねーだろ?」
「それは、……そうだね。うん。流石にそれは否定できない」
「それでも、俺らは必要ないってか?」
「そこまでは言ってないよ。……言ってないよね?」
「不安なら、やめちまえよ」
と本音を繰り返す。というか、龍太郎はこういう事に関しては、真っ直ぐに本音でぶつかることしかできない。下手に関わるよりもよっぽどいい方法ではある。だが、
「それだけはできない」
鈴はハッキリ、今度は先程までと同じく、冷たい表情と声で言う。
「これは、私が成し遂げなきゃいけないことなの。七海先生風にいうなら、ケジメかな?自分がしたこと……いや、この場合はしなかった事かもしれない」
「あまり自分を責めるなよ。どんな理由があるにせよ、悪いのは恵里だ」
「…それは、あまりにも傲慢だよ。…龍太郎君の気持ちも、皆の気持ちも、本当に理解してるし、心から嬉しいとも思ってる、それと、申し訳ないとも思ってる。けど」
曲が終わり、それと同時に鈴は離れる。
「私はもう、私を躊躇わない」
龍太郎はその言葉に対して、前に出ようとするが、線引きされたかのように、鈴の前に比喩表現ではなく、見えない壁がそこにあった。それが、魔法であるとすぐにわかる。ぶち破ろうと思えばできる。だが、それができない。そのくらいの差と、気持ちが、龍太郎を止めていた。ダンスホールから去り、元の場所へ戻る鈴を、追えなかった。
トボトボと戻った龍太郎に七海は声をかける。
「坂上君、谷口さんは、君の目で見てどう思いましたか?」
「なんつーか、俺は言葉を探すのが得意じゃないんだけど………寂しいような気がする」
「そうですか。………そのままで、いいと思いますか?」
「ンなわけ!」
ないに決まっている。口に出さずとも、そう言えると、龍太郎は示す。
「なら、いいですそのまま続けてください。……それと」
七海は間をあけて言う
「万が一の時は、私もどうするかは決めてます。君も優先順位を、間違えないで下さい」
「え?あ…ハイ!」
七海も七海で気にかけている事が嬉しいのか、気を入れ直した。と、そうしていると次のダンスが始まる。見るとハジメが再び出ていたのだが、踊っている相手がリリアーナだった。その表情と、ほんの僅かに甘えるような瞳を向けているのを見て、
(うそでしょ)
と心の中で思わずにはいられない程に、動揺していた。
(まさか、リリアーナさんまで………ここまでいくと、ノイントとは別に、何かしらの魅了の力を使ってると思いたくなる。まぁ、彼は口説くつもりなんて微塵もないのでしょうが)
そうこうしているうちにダンスは終わりを迎え、ハジメが戻ってくる。その場所に七海も移動し、声をかける
「南雲君」
「ん、なんだよ」
「節度を持てとはもう言いませんが、自分の言動には注意してください」
「いきなり失礼だな⁉︎そんな言われることしてるか⁉︎」
「ハイ」
またしてもキッパリと言われ、「そんな事ないだろ」と、周囲の者に聞くが、シア、ティオ、香織、雫、ついでに光輝も、目線を逸らす。そして唯一ユエだけが肯定をするという、いつもの流れになった後、ハジメの表情が変わる。他の者達もだ。実は皆、ずっと、イヤリングを通して耳に通信が入っていた。そこから送られてきた情報に、緊張が走る。
「ハジメさん、ユエさん」
シアは2人に挨拶するように声をかける。それに応じるように、ハジメとユエは頷く。
「今からお前は、『ハウリア族、族長の娘』だ。行ってこい」
ハジメの言葉に、シアは不敵に笑う。次に七海の方を向く。
「七海さんも、行ってきます」
「大丈夫だとは思いますが、油断しないように。それと、お気をつけて」
「はい!七海さん、色々と、ありがとうございます」
「私があなたに教えた事は微々たるものですし、もう教えられることもない。感謝なんて、いりませんよ」
相変わらずだなぁと思いつつ、シアは感謝をもう一度伝えて、気配を薄めていき、会場の誰にも気付かれずに、出て行った。
「で、先生。今更だけどよ、あいつらにどんな訓練をしたんだ?」
「特別な事はしてません。戦闘訓練ですよ……いえ、正確に言うなら」
と、その先を言う前に、ガハルドが壇上に上がり、スピーチを始める。簡素に、簡潔に、ガハルドはスピーチを進行する。時折ハジメと七海に意味ありげな視線を向けるが、2人とも無視を決め込む。その態度に嬉しそうにしつつ、宴の為の乾杯の音頭をとる
「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」
帝国の貴族達がなみなみと注がれたワイングラスを片手に掲げて、ガハルドの言葉をまつ。その裏で、カウントダウンが、七海達の耳に入ってくる。
【ボス、この戦場へ導いて下さったこと、感謝します。ビッグボス、お見せしましょう。我らの決意と覚悟、そして、未来を】
通信から聞こえたカムの声は、緊張感はあるが、どこか穏やかにも聞こえた。
「この婚姻により人間族の結束はより強固となった!恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」
「「「「「「「「「「栄光あれ‼︎」」」」」」」」」」
掲げたグラスの中のワインが飲まれることはない。
「な、なんだ!」
会場の光が消え失せて、全ては闇の中になる。視覚を奪われて、多くの帝国貴族が慌てふためく
「狼狽えるな!魔法で光を…がっ!」
「なん…げぇあ!」
冷静に行動していた者達が魔法を使い、灯りを確保しようとする前に、次々と悲鳴と共に倒れ込む。その声と音を聞いて、パニック状態だった者は更に混乱している。それに苛立ちを感じたのか、ガハルドは足をダンと床にぶつけ、を
「落ち着けぇ‼︎貴様らそれでもっ⁉︎」
大きな音と怒気と覇気を含んだ声を出す前に、四方八方から矢が飛んでくる。しかもタイミングをずらし、皮膚の見える首筋といった防がないとまずい位置を正確無比に絶え間なく撃ち込まれる。だが
「…そこか!」
ガハルドは持っていたナイフを投げる。ギリギリのところを通り抜けた。だがそれができた時点でほぼ確実に位置を知られた。他の者もおそらくそうだろう。その証拠に、矢が当たる前に回避をし、本当に致命傷になる者は剣で弾いている。掠りはするが、致命傷にならない。こうなると位置替えの為に移動すれば、奇襲に慣れる時間を与えてしまう。
「全員、魔力放出!気配と魔力でなく、自身の放出した魔力の流れの変化で位置を特定しろ!」
(やはりそう来たか。ビッグボスの言う通りだな)
*
「奇襲をするというのであれば、あなた方程適した方々はいません。正直、この計画なら、こちらの犠牲者なく目的を達成できるでしょう」
修行前の襲撃計画を立てたのだが、それを聞き七海は評価をしつつ、
「ただし、これは私がこの世界に来ていなかった時の話です。もう皆さんも知っているでしょうが、帝国兵達は魔力の精度が上がっている。身体強化といった基本的な魔力の運用は、王国以上、戦力としては以前の帝国兵とは比べ物にならないでしょう。その証拠に、帝国の被害が想定よりも少ない」
そこに「全兵士が適応してるわけではないでしょうが」と付け加える
「暗闇で魔法を使おうとすれば、その際に魔法陣や魔法そのもので、位置を特定できます。そしてそれを即座に実行できる者は、冷静な対応ができる者。それらを優先的に潰すのは得策でしょう。しかし、その際の襲撃は成功しても全員を一度に叩く事はできない。まして、彼らの頭であるガハルドが指示すれば、あっという間に士気を取り戻すので、最優先でガハルドを狙わなければならない」
「申し訳ないビッグボス、ここまで聞いてましたが、どこに問題が?相手が強かろうと、こちらは馬鹿正直に戦うわけではないですし、奇襲さえ成功すれば、魔力もなく、気配による感知もできずらい我々なら」
いけるのではないかと、ハウリアの1人が言う。それに対して七海はサングラスを外す。その目は完全に閉じている。薄目でもない
「誰でもいいので、私に攻撃を」
してくださいと続ける前に、その意味を判断したハウリア族達は一斉にかかる。矢がないので礫の者直、接首を絞める、もしくは殴るために向かう者様々だ。それらを
「っ!難しい、ですが、っぅ!」
掠りながら、ギリギリ回避し続けて、近付いて来たハウリア達の対処をし、礫は射線に味方が入るようにして狙わせず、タイミングよく投げられたものの軌道から位置を特定し、逆に投げ返す。当然、殺傷力を抑える為、手加減してだが。
適当に捌いたところで、七海は目を開けて、サングラスを付け直す。
「いったい、どうやって我々の位置を」
「完全に読み取っているわけではないですよ。今私は、呪力をあえて放出し、相手や礫が放出された呪力に触れた瞬間にできた、流れの変化によって、ある程度の位置の特定をしたんです。ある程度だから、何度か攻撃は当たっていたでしょう?」
この技法は以前、特級呪霊の陀艮の領域に入ってしまった時、同伴していた禪院家の当主、禪院直毘人が使っていた御三家の領域対策の秘伝、落花の情からヒントを得たものだ。直毘人と違い、カウンターで呪力を放出するという芸当はまだできないが、位置の特定くらいならだいぶできるようになった。
「呪力でできるなら、魔力でできてもおかしくない。というか、できると考える方がいいです。ガハルドはあのような性格ですが、戦闘に使える情報とその分析力は高いですからね」
今の七海の動きもあり、ハウリア達に緊張が走る。
「ただ、これには弱点があります。1つは呪力もしくは魔力を垂れ流しにするので、身体強化や術の併用が難しくなる事。私はできますが、この世界の人々では、おそらく難しいでしょう。そもそも私の魔力による身体強化の理論も、確立されたばかりですしね」
七海はこの世界に来からただ生徒達に教える事だけをしていたわけではない。自分の力量を上げる為の自主訓練はずっとしていた。だからできる。
「また、呪力とは違い、魔力は垂れ流せば自身の位置の特定もされてしまいます。更に、もう1つ、慣れない内に垂れ流しにしてることで疲労が溜まりやすく、しかもそうならないように魔力維持に集中しなくてはいけないので、他の集中力が下がってしまう。ただ、何もせずに放置していれば、次の手を行使してくるでしょうし、相手の士気を戻す原因にもなる。しかし、暗闇での矢など奇襲は防がれる可能性がある。故に、あなた方にはちょっとした戦闘訓練をしていただきます」
戦闘訓練と聞き、再び疑問が出る。
「我々がですか?その、我々には魔力がないので身体強化はできません。どれだけ訓練しても、白兵戦になれば、こちら不利になるのでは?」
「ええ、もちろん。ですから、戦闘訓練と言っても、あなた方の得意分野、暗殺を取り入れた戦闘訓練…と言うより、相手に戦闘をさせない為の戦闘訓練です。全員で私と戦い、その中で戦闘と暗殺の切り替え方法と、戦闘になった際の対処、そこからの攻め方から引き方、様々な動きへの対処を学んでもらいます。先程同様…いえ、それ以上に、殺す気で来なさい。万が一死に掛けても白崎さんがいればどうにかなるでしょう」
要するに、死ぬようなことになっても治せる人がいるから、文字通り死ぬ気で訓練しようということである。そんな狂気のような提案を、ハウリア達は嬉々として受けた。
*
異常に気付いたのはガハルドだけだった。最初は何かの金属の塊が転がってきた。それらはガハルドから離れた位置にいた者達の前にもあり、それを確かめようとした者を静止させたが、そこから強い光と、鼓膜が切れるほどの暴音で、視力と聴力を失った。だがそれでも魔力放出による探知で対応できる者は対応していたのだが、急に相手の動きが変わった。これまで急襲であったのに、いきなり別の乱入者が来たと思うような戦闘をする。
「しまっ…ぎゃっ!」
「た、対処が…うわぁぁ!」
しかも多対一になるようにし、急な戦闘変化と魔力放出による集中力の一時的な低下を狙った為、あっさりと殺されていく。
「狼狽えるな!攻撃は軽い!戦いならこちらが」
その先を兵士は言えなかった。額から血が出て、絶命する。
「そこだ!魔法を!」
放たれた位置を、殺された兵の位置から逆算して魔法を放とうとするが、それによって魔力放出を止めてしまう。視力と聴力がなく、位置予想しての攻撃。焦りもあったが、あまりにも悪手だった。
「ぐあぁ!あ、熱い!」
「魔法だと!」
「え、あれ?味方?」
ハウリア達は戦いながら相手の位置を正確に読み、戦闘して自分達を不利に見せかけて、フレンドリーファイアをしてしまうように誘導していた。そして放たれた魔法が視力を失っている兵の位置を教えてしまう。
戦闘に集中していたせいで、位置を変えて、野放しにしてしまったハウリアのボウガンの矢が、次々と帝国の精鋭や近衛を仕留める。
「ぐっ!」
「っ!」
そんな中、ガハルドだけは冷静に、そして正確な斬撃で対応していた。斬撃を受けたハウリアは武器に救われたと言うべきだろう。最高硬度の耐久性のある小太刀を交差させて防いだが、その使い手のハウリアは吹っ飛ぶ。
(今、刃が通らなかった。浅いのもあるが、こいつ、魔力放出をやめているな)
吹っ飛ばされたハウリアの1人はそう考察する。そして、それも織り込み済みだ。
*
「いよいよになれば、放出はやめて、別の方法での索敵をするでしょう。どれだけの兵がそれをできるかはわかりませんが、ガハルドはできると思った方がいいですね。そうなると、まぁ犠牲覚悟で行けば、殺す事は可能ですが、今後を考えるとガハルドを殺すのはいけない。しかし、倒すとなると、難易度は少し上がる。ですが、ここからはもう私の教授はなくていいでしょう。先程、私が礫を完全回避ができなかったように、毒の矢が少しでも掠れば、しかも相手を動かして体温を上げれば、遅毒性でも早めに効いてくるでしょう。魔力の放出でも多少体温変化はするでしょうしね。言うまでもないでしょうが、交渉の為にも、致死毒はしないでください。後は、それまで全力で耐える修行をするだけです」
そうして何人かのハウリアが吹っ飛ばされた。
*
「何だ⁉︎」
ガハルドは急に身体がふらつき、動きが鈍る。痺れや眩暈といった症状が見えだし、待ってましたと言わんばかりにハウリアが飛びかかる。それらをどうにか剣を振って弾き返したが、その瞬間にできた大きな隙を見逃さず、ふくらはぎに深々と矢が刺さる。当然だが鏃は引き抜きにくい形をしている。ガクンと膝を折り、そこに小太刀が振るわれ、間一髪で受け止めたが、もう片方の小太刀が腕の腱を切る。
力を入れられず、カランと剣が落ち、止めに残りの腕と足に矢が突き刺さる。魔法の発動も隠しているであろうアーティファクトも使わせない。痛みの悲鳴をあげることはなく、ガハルドの身体が倒れた。
それは、ヘルシャー帝国の、敗北を意味する。それを成し遂げたのは、これまで弱者の象徴であった、兎人族であった。
次回、ようやく、トレイシーの術式を出せる。前々から言ってますが、彼女の術式は自分は戦闘に使えるけどピーキーで、そこまで強い術式ではないと考えてます。
次回バトル+術式出して、その次で詳しい説明+バトルって考えてます。本当はこの話でバトル+術式だすまで行きたかったけど、いつも通り、また長くなるので…クソぅ