ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回は百鬼夜行…というよりも、乙骨と夏油に関することがほとんど。あとは彼女の術式の追加情報です。
全然話進まないけど、光輝には必要なことの1つで、後々の為にも彼女情報は必要ですので、申し訳ない


百鬼夜行((かたり))

飛行艇フェルニル内。多くの亜人族が今ここにいる。大空を旅し、そこから自分達を虐げて来た帝国を見下ろすが、全員これが夢なのではないかと頬をつねる。もしくはぼぉっと放心状態になっているだろう。実のところ、空間転移用のアーティファクトをハジメは製作し、それをフェアベルゲンに設置しているので、そっちの方が効率的に移動ができるのだが、帝国の国民に亜人族奴隷の解放は神の意向なのだと知らしめる為に、わざと帝国の上空に出現させた。多くの帝国国民は驚愕し、否応なしに信じただろう。

 

が、先程も言ったが、空間転移用のアーティファクトを使った方が効率的だ。その効率性を捨てた代償に、ハジメはゴリゴリと魔力を消費し、消耗している。お陰で常に座っていないと集中して魔力を扱えない。とはいえ、座ってるだけで済み、疲労感を見せずにすんでいるのは、ひとえに彼の努力と、七海の教えがあってである。

 

そして今、彼らは七海を見て、言葉を聞いていた。

 

「とまぁ、これが私が知っているかぎりの特級術師、乙骨憂太君の過去と現在、そして百鬼夜行での事です」

 

フェアベルゲンに着くまでの間、七海はまた話し出した。今回は自分の事というより、乙骨に関しての情報の方が圧倒的に多いが、自分以外の呪術師も知っておくべきだろうなと考えた。ただ、今回は前回よりも聞く人数は2名ほど増えた

 

「くだらないな」

 

そう一蹴したのは、フェルニル内部を余す事なく探索し、戻って話しを聞いていたガハルドだった。

 

「…彼の人生をくだらないと?もしそうだというなら、その言葉は撤回して」

「違う違う。そんな狩人みたいな顔すんな」

 

そんな顔してたかとハジメ達を見るとコクリと頷き、「まだまだな」と七海は自分に言い聞かせる。

 

なお、今ハジメの周囲は、疲労感は見せないが多少の汗をかく彼の額を時折ふく、しれっと食事をあーんする、背中にビタっとくっ付いて胸をわざと押し付けながら癒しの魔法をかけると、女性を侍らせるハーレムを形成してる。ティオはハジメの足下からほんの少し離れた位置で転がってハァハァしている。自分もと思ってダイブしたが、アイアンクローで顔面キャッチし、そのまま叩きつけられた為である。それをスルーしてガハルドの方に向き直ると話しだす。

 

「俺がくだらないと言ったのは、その乙骨とやらに、1度は秘匿死刑を決めた連中だ。本人が死を望んでいるなら、使い潰してから殺せばいいもんを」

 

「その結果で町1つが滅ぶかもしれなくてもですか?」

 

「そこは利用できる方法を試して考えるべきだろう?五条悟とかいう化け物がいるなら、なんとでもなんだろう」

 

「そう簡単に行くなら、苦労しませんよ」

 

呆れと若干の怒りを持ちつつ、七海はガハルドに言うが、「ハッ!」と吐き捨てていた。

 

「まったくですわ。それだけの力をもち、自ら全て捨て去ろうとするなんて」

 

「みんなが、みんな、強くあれるわけはないですよ。彼の場合は元の性格もあって特に」

 

トレイシーの言葉に反論しつつも、その乙骨がああも心身共に成長できた事に、正直今でも七海は驚いている。

 

ハジメ達の方は女性陣とハジメで違う感想であった。女性陣は祈本里香と乙骨の純愛さに感動すらしていたが、ハジメの方は

 

「俺は、その乙骨って奴とは仲良くできないだろうな。つか、たぶん喧嘩になるな」

 

その感想に七海は「でしょうね」と言う。ハジメの目的をざっくりと言うなら、帰還、そして生存である。当時の乙骨は後者を自ら捨てようとした部分でも気に入らないし、現状でも、自分に興味のない人物と聞き、相性は悪いなと思うのも無理はない。

 

(天之河とはまた違った、主人公属性だな。だいぶイカれてるけど)

 

そう思われている光輝はというと、

 

「あの、七海先生は、どっちだったんですか?」

 

「?」

 

「乙骨って人が死刑になる事、賛成か反対かってとこ、です」

「賛成ですね。少なくとも、あの時の私なら」

 

速攻で答えた。だが、光輝はわかりやすく不快な顔をするも、叫ばなかった。それに多少ハジメは感心しつつ、七海の話しを聞く。

 

「呪術師の仕事は大きく言えば人助けですが、実際は、秩序を守るのが仕事です。たとえその人がどれだけの善人でも、いるだけで誰かが、いつか不幸になるかもしれない。日常を、国を、脅かすかもしれない。君は、いつ爆発するかわからない爆弾を持ち歩く人と、心から友達になれる自信はありますか?」

 

「やっ…いえ、でも、その」

 

特級過呪怨霊、祈本里香の起こした事件を、光輝は聞いた。乙骨が高専にくるきっかけとなった事件も。だからこそ、爆弾という表現が間違ってない事などわかる。ちなみに、その部分は聞いた者の殆どが戦慄していた。

 

「だからこそ、彼は高専で得た友人達を、もっとも大事にしている。天之河君、先程言った爆弾というのを、仮に今この瞬間に坂上君がもったとして、それでも親友を続けることはできますか?」

 

「できるに決まってます!俺がその爆弾をなんとかしてみせる!」

 

「…天之河君、根拠のないなんとかしてみるでは、相手は救えませんよ」

 

「⁉︎」

 

「ただ、彼と友であり続けれると、ハッキリと言えたことは素晴らしいです。それは、坂上君も同じですか?」

 

「もちろん!」

 

聞くまでない事だというふうに、龍太郎は答えた。それを見て、七海は軽く「そうですか」と言うが、ハジメはどこか嬉しそうだなと感じていると、「さっきの続きですが」と前置きを言い話し出す。

 

「先程言った百鬼夜行を起こした、夏油さんですが、彼は元々高専の生徒で、五条さんの親友であり、私の尊敬する先輩でした」

 

その言葉に、ハジメ達ですら驚く。普段自分語りなどせず、こうして時間と、縛りによる条件をつけて尚、全てを語らない人物がこうも話すことは、本当に驚きだった

 

「弱者生存を口にし、弱気を助け、強気を挫く…呪術師はその弱者である非術師を守る為にあるのだと、教えてくれました」

 

その言葉に特に反応していたのは2人。ハジメと光輝だが、それぞれで感情は違う。ハジメは呪術師にもそんな奇特な考えを持つ者がいるのかという、どちらかというと呆れに近い感情。光輝は

 

「その人は、どうして呪詛師になったんです?」

 

怒りに近いが、同時に大きな疑問が出ていた。「どうして」これが本音。怒りは、

 

(同族嫌悪か?)

 

そんなところだろうなと、ハジメは考えた。そんな考えなど知らず、七海は答える。

 

「正直、わかりません……あの人は弱者救済を掲げていましたが、同時にそこに潜む悪意についても理解してました」

 

「……弱者の、悪?」

 

光輝には一瞬理解できなかった。弱気ものを助けるなら、その弱気ものが悪であるはずがないという、決めつけ。だが、以前七海が言ったことが思い出された。

 

「人助けは、常に善人とは限らない」

 

ふいにその言葉を口にしていた。

 

「そう。呪術師は、非術師を守る。ここでいう非術師は、その対象を選ばない。過去に犯罪を犯した者、そうでない者も、術師でないなら守らなければいけない対象です。そして、過去でなく現在進行形で犯罪を犯している者でも、非術師なら、術師は守る必要がある」

 

「!」

 

「夏油さんはその辺もちゃんと理解してました。その上で、先程の理想を持ち、それに見合う実力があった。だからこそ、多くの人が彼を尊敬し、多くの人が、彼に信頼を置いていた。………もしかしたら、それが理由なのかもしれません」

 

どういうことですかという気持ちを、多くの者が感じたが、それが口に出る前に七海は答える。

 

「私も含めて多くが、彼を信頼していた。その信念が揺らぐ事はないと。勝手な期待、勝手な思い込み、勝手な押し付け。そういう負を背負わせていた。もっと言うべきことがあったのかもしれない。あの時こう言えばよかったのか、こう接するべきだったのか、そんな、意味のない後悔を、たまにしてしまうほどに」

 

七海は自分語りもしないが、弱音や、自分の不甲斐なさを誰かに見せたことも話した事もない。ハジメ達にはそちらの驚きが大きい。

 

「そして、そんな彼の最期は、親友である五条さんが、その命を摘み取りました」

 

「「「「「「!」」」」」」

 

反応したのは、光輝と龍太郎だけでなかった。鈴、香織、雫、口に出さないが、友と呼べる存在になった香織を思うユエも、どこか悲しみの表情をする。

 

「その時、お互いがどう思っていたのかはわかりませんし、想像できません。皆さんも、よく覚えていてください。今と、これから先の人生で、多くの人々と関わり、絆を結ぶ人が出てくる。その人の気持ちを汲み取れるようになれなんて言いません。誰にも語りたくないこと、自分でもわからないこと、多くの物を人は背負っている。それら全てを理解してあげるのは、不可能に近い」

 

彼らの前にいるのは呪術師と教師、両方の言葉を発する七海であった。その言葉の1つ1つが、自分達の為に言っていると、理解できた。光輝ですらだ。

 

「そして言葉が暴力になるように、相手への想いもまた、暴力であり、強い呪いです。……正直、私はさっきの天之河君と坂上君の言葉を嬉しく思ってます。だからこそ、どうかその気持ちだけは、ずっと持っていてください。たとえそれが、呪いだとしても」

 

そう言う七海の表情は、サングラスもあって更にわかりづらい。だが、聞いていた者達は、嬉しいという言葉よりも悲しみ、悔しさ、そんな後悔に詰まった感情があるかのように見えていた。

 

「………ところで、です」

 

話しが終わったのを見計らい、シアが声をかけた。それは、七海の気持ちを考えたというのもあるが、それ以上に言いたかったからだ。

 

「なんであの人がここにいるんですかぁ⁉︎」

 

そしてビッとトレイシーを指差してツッコミを入れる。

 

「今更ですか?最初からいたでしょう」

 

「そうですけど!そうですけど!」

 

「いや、ぶっちゃけ俺も言いたかった。なんでいるんだよ」

 

「逆に聞きますけどじゃあなんで乗船させたんですか」

 

「いや、そうだけど」

 

出発前、七海はトレイシーにある話しを持ちかけてきた。その時の七海の顔は、驚愕という言葉が完全に出ていた。シアと戦闘し、術式に領域展開がデフォルトで備えられているタイプと聞き、成長率の早さに納得していたが、まさかもう反転術式を安定して使えるとは思わなかった。傷のほとんどを自分の反転術式で治していたのだ。その成長の早さと、自分にない領域持ち。ハジメとシア(特にシア)の成長の手助けになると思い、トレイシーを旅に一時的な同行をしないかと聞いた。

 

「行きましょう!」

 

そして速攻でOKをもらった。正直拒否すると思っていたので理由を聞くと

 

「ふっ、ふふ、ふふふ、まさか、こうも早くリベンジの機会がこようとは思いませんでしたわ!さぁ、シア・ハウリアいざ尋常に」

 

「い、や、で、すぅぅぅ!というか、こっちくんなです!」

 

シアと一緒にいたい&リベンジである。ちなみにハジメには乗員を1人増やすように言っていた。その理由が、「これからの為」とだけであったが、七海に信頼があるハジメは、七海が言う事はそうなのだろうと思い、乗せることを許可した。

 

「あの七海さん、私も聞いてないので聞きたいんですけど、なんでトレイシー皇女殿下がここに?」

 

「あなたはお黙りなさい腹黒姫」

 

「って誰が腹黒ですか!…ちょっと皆さん!なんですかその、「確かにー」って感じの表情は⁉︎」

 

ガハルド含めた何人かが頷いたの見て叫ぶが、誰も聞いてないし否定しない事に気落ちしていた。

 

「全く、うるさいですわ。大体、腹の中でいつも利益奪取の算段ばかり立てているのに、今更それを否定する方が、おかしいんですわ。あと、前々から言ってますでしょう? わたくし、貴女が嫌いなのですわ!あなたさえいなければ、七海建人と死合いができたというのに」

 

ドストレートな嫌い発言をするが、どうも七海にはそう思えない感じがした。本人曰く、あの会場にいなかったのは嫌いなリリアーナがいたからだそうだが、むしろ嫌いなら、そんな人物が帝国側に事実上取り込まれ、且つあの皇太子に嫁ぐなら、その運命を嘲笑うくらいはするだろうと思っていた。

 

「お兄様と結ばれて皇太子妃になったなら、率先して根性を叩き直してやろうと思っていたのですけれど、それもなくなったのなら貴女に興味などないですわ!それと、七海建人!あなたもです!」

 

まさか自分にも突っかかるとは思わず、七海は少し驚く。

 

「私の死合いから逃げ、別の者を立てるなど言語道断ですわ!」

 

「いえ、別に逃げていたわけではないのですが…」

 

ちなみに七海との婚姻に関してだが、そもそもそれにも興味はなかった。あったのは、早く呪術師同士の死合いがしたいという欲求のみだった。自分に勝っていたらほんのちょっとは考えてもいいかなくらいには思っていたが

 

「まぁ、それがシア・ハウリアだったのは色々な意味で僥倖でしたわ!というわけで、今はシア・ハウリアでしてよ!」

 

「何が、というわけで、ですかぁ⁉︎」

 

「何を今更!あの!あの熱き逢瀬をした仲!」

 

「そんなものした覚えねぇです!」

 

当時のシアは黒閃による興奮状態であもり、トレイシーに勘違いさせるのも無理はないくらいのバトルジャンキー化していた。だがあの命懸けの戦いを逢瀬と言えるのかというと、そんな事はないだろう。

 

「相も変わらず、頑なですわね!」

 

「何を長いこと一緒にいたみたいな設定になってんですか⁉︎無理矢理つくんなです!」

 

「あぁ、その頑なさ、溶かしてしましたいですわ」

 

「アホな事言うなです!」

 

「そうでもありませんわ!なにせ、私の粘液は酸性ですわ!」

 

「あなた人間ですか⁉︎怖いこと言うんじゃねーです!」

 

室内を中央でぐるぐると追っかけっこをする2人。だが動きは速いシア。捉えられない

 

「なら、仕方ありませんわね」

 

というと、両手を前に出して掌印を結ぶ。

 

「って、ちょ、まさか」

 

「領域展開」

 

口にした瞬間、シアを取り込み、黒い膜のような結界が部屋にできた。

 

「ほぉ、これが領域展開か」

 

と座ったままだが、それをマジマジとハジメは見る。

 

「それにしても、あのトレイシーってやつ、凄くね?結界から俺等を除外したぞ」

 

結界術の難しさと複雑さはハジメもよくわかっている。この場にいる他の者を押し退けてシアだけをピンポイントに入れたのだから、その腕は相当なものなのがわかる。

 

「まぁ、領域にあるルールかもしれませんが、それでもすごいですね」

 

術式にデフォルトで領域が付与された者には秤金次という人物がいるが、七海も彼の成長率が早かったのを覚えているが、彼女はそれ以上である。トータスという地球の日本と違う環境というのもあるだろうが、少なくともトレイシーの才能は秤以上であるのは明白だろう。

 

「大丈夫か?龍太郎?」

 

「ああ。…思いっきり吹っ飛ばされたぜ」

 

いきなりの結界に押されて、反応に間に合わなかった数人が転んでいたが、室内の急に現れた結界にはそれぞれ興味津々で見ている。

 

「というか、これは私達でも視認できるんですね」

 

「まぁ、帳も視認できてますね。ただ領域展開はその場所に違う空間を作り出しているようなものですが」

 

「呪術については何も分からないけど、確かにコレは私達が知ってる結界とは全然ちがう」

 

「うむ。それなりに強度はあるようじゃな」

 

ユエとティオはコンコンと結界に触れている。ちなみにユエは七海から領域展開の事を聞いた際にそれを自分で再現しようとしたが、全然違うと言われて、少し不満があった。が、シアから聞いた情報と、実際に外側からとはいえ領域を見て、納得する。結界師である鈴も、興味があるのか、まじまじと観察している。

 

「外壁としてあるだけで、強度自体はそこまでもないですよ。前に言いましたが、入るのは簡単ですからね。それよりも、ちゃんと役立っているようでよかったです」

 

連れてきた甲斐があったなと言うように七海は呟く。

 

「あぁ、見せる為か…ていうか、こうなるの予想してたな」

 

「ええ。彼女のおかげで、シアさんも術式反転が使えるようになったようですし、この勢いのまま、できることならシアさんには領域も修得してほしいので」

 

「流石にそれは無茶振りじゃね?」

 

それは七海も思っている。だが、それでも領域を見てもらうということは大事だと考えている。

 

「とはいえ、シアだけ負担があるように見えるが」

 

「まぁ、トレイシーさんが最も興味があるのがシアさんですからね。あの執着心はどこからくるのやら」

 

「執着心が強いの前からだ」

 

と、ガハルドが会話に入ってくる。

 

「だが、前はリリアーナ姫に執心していたんだがな」

 

え⁉︎とリリアーナが心底驚いた様子を見せる

 

「ちょっと待ってください、陛下。先程も面と向かって嫌いだと言われたばかりなんですが」

 

「口だけだ。口だけ。あいつ、姫のことめちゃくちゃ好きだぞ?」

 

「嘘ですよね⁉︎昔から会う度に腹黒とか笑顔が気持ち悪いとか散々言われてきましたけど!」

 

「いや、ホントだっての。初めて会ったあの時、まだ小さい姫が計算と笑顔を武器に大人と渡り合う姿を見ていたく感心したが、認めしまえば自分が負けたと思ったのか、ハッキリとそれを口に出さなかったんだ。そもそも、あいつは基本的に他人には無関心なんだ。気に入った相手じゃないと、いちいち絡んだりしない。そういう意味で言うなら、今も七海建人、お前への興味はあるようだし、どうだ、今からでも」

「お断りします」

 

舌打ちをするが、ガハルドは最初からわかっているのかそこまで残念がっていない。

 

「あのそれよりガハルド皇帝!やっぱり信じられないんですけど!だとしたら、尚更あの会場にいないのかが理解できません」

 

嫌いだから来なかったならわかりやすいが、気に入って、好きで来ないのはわからず、リリアーナは問う。

 

「だからだよ。あいつは期待してたんだ。リリアーナ姫が、バイアスとの婚約をどんな風に破談させるか、あるいは利用して力を示すのか。誰よりもバイアスではリリアーナ姫に相応しくないと考えていたのはあいつだからな。だっていうのにリリアーナ姫がそれらをしようとせず、むしろ受け入れている事に、随分と憤慨してたよ」

 

「私だって、覚悟と決意を持ってあの場にいたんですけど!」

 

「そんなもんトレイシーも理解してたさ。けどな」

 

 

『覚悟を決めたのでしょうけど、ただの諦観でしかないですわ!見えない笑顔の仮面を見せ、裏でエグいくらいに利用するのがあなたでしょうに!あの腹黒姫っ!武力はなくとも、その智謀と笑顔の仮面で戦える強者でありながら、いったい何をしていますの⁉︎』

 

 

 

「って感じで、あいつ的にどうしようもなく気に喰わなかったようだな。まぁ、つまり、あいつの言葉は好意の裏返しというわけだ」

 

「な、なるほど……」

 

理解できたがどうにも納得がいかない…というより信じられないのだろう。今までの言葉は天邪鬼で、実は最大限に認められていたなんて言われても、どう答えるべきか浮かばない。

 

「いまもまだ、相手が好意的なら、普通に接していけばいいと思いますよ」

 

「え?」

 

「ああいうタイプは、それで良いかと。あと、こちらから友人でありたいといえばいいです」

 

七海なりに助言してくるが、できるかなぁというのが、リリアーナの正直な意見だった。とそんな会話をしていると

 

バリンッ‼︎

 

と音を出して結界が崩壊した。そこにはバタリと倒れているが、ツヤのいい顔のトレイシーと

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、や、やっと終わったですぅ」

 

汗をかいて棒立ちになったシアだった。

 

「お疲れ様です」

 

「あ、どうも…じゃない‼︎」

 

七海の労う言葉にノリツッコミの如く叫ぶシアは、キレていた。

 

「こっちは本当に大変だったんですよ!」

 

「?以前と同じルールならあなたなら勝てるでしょう」

 

初見とは違い、今回は術式について知っていた状態なのだから、たとえ術式に制限をされても対応できると思った七海は不思議そうに尋ねた。

 

「違いましたよ!前回と!」

 

シアの言う通り、今回の領域内のルールは違っていた。その内容は、暴力無し、身体強化なしの追っかけこだったそうだ。捕まっては逃げ、捕まっては逃げを繰り返し、最終的に領域維持に呪力を使い続けたトレイシーが倒れたことで、勝負がついた。

 

「2、3時間、素の身体機能でずっと追いかっこを強要された、こっちの身にもなれってんですよ!」

 

「?何言ってんだシア。お前が領域に入れられてから、10分も経ってないぞ」

 

「え?」

 

シアの言葉に、シアも、他の者達も、頭に疑問符がついている。

 

「おい七海先生、結界内と外で時間の経過が違うなんてことあんのか?」

 

「……どうでしょうね。ないとは言えませんが……シアさん、前回の戦いでは結界での時間経過と、現実で時間は、一緒でしたか?」

 

シアは「えーと」とどうにか思い出す。

 

「多分ですけど、同じだと思います。あくまで、あの時の感覚では、ですけど」

 

再び七海はふむと考えるが、答えを出したのは七海ではなく、

 

「領域のルールではなく、結界のルールがその時と全然違うものに変わってたんだと思います」

 

鈴であった。

 

「領域展開する際、いくつかの縛りをしてるみたいですけど、今回の場合、シアさんと追いかけっこをする為の空間を作り、それ以外を取り払ってたから、時間経過が変わってたのかもしれません。あくまでも、私の考えです。でも」

 

「ふむ…そんな芸当、こちらの世界の結界で当てはめても異常…というよりほぼ不可能じゃな。七海よ、そっちの世界的にはどうなのじゃ?」

 

「……異常ですよ。というか、領域の要件を変えることそのものが異常です。そもそも領域展開とは、対外条件、対内条件、体積、構築速度…これらを各々の術師が、こうだと思うものをブレンドし、成立することで、ようやく完成します。ただ…」

「そう、なんで、すの?」

 

よろよろとした動きで立ち上がろうとするトレイシーを、リリアーナが抱える。

 

「…邪魔でしてよ」

 

「いいから、じっとして下さい」

 

悪態を吐くが、リリアーナは気にせずそのままトレイシーを座らせた。

 

「それで、さっきの話ですけど、私はそんなの考えてませんわ。やってるのは、事前ルールを決めるだけですわ」

 

「あ、いえ、あなたの場合は術式に領域がデフォルトで組み込まれていますので、そういうプロセスをくまずに…あ、なるほど」

 

と説明しているうちに七海は気付く。

 

「なんだよ、自分だけ気付いたって感じか?」

 

「私はわかった」

 

「妾もじゃ。鈴もそうじゃろう?」

 

コクリと鈴は頷く。他の者達は何かずるいというような顔をする。

 

「要するに、領域必中のルールによって、その都度術式のほうが勝手に判断して、構築を変えておるのじゃろう。…凄まじい便利さじゃ」

 

「ん。すごい」

 

ティオもだいぶ呪術的な要素をこの世界の魔法や結界に当てはめており、理解力も早い。

 

(普段からコレだけなら、いいんだが、変態は全てを台無しにすんだな)

 

そんなハジメの心の声が聞こえたわけでもないのに、視線を感じてモジモジ、クネクネしていたので、ハジメはゴム弾で成敗した。が、やっぱりハァハァと高揚している。

 

「要するに、私の術式はとても優秀という事ですわね!」

 

「あまりにもざっくりしすぎですが、まぁそんなとこです」

 

と言いつつ、トレイシーの領域について考える。

 

(もしかして彼女の領域はその時のルール…というより、縛りで変化するのか?だとしたら)

 

もしかしての可能性にすぎないが、それを伝えようとしたとき、フェアベルゲンが見えた事を伝えてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに
おわかりの人はいるでしょうが、シアとトレイシーの会話部分はとあるドラマCDをパロってます。
だってさぁ、本編のトレイシーとの初戦闘のときのタイトルがアレですよwあの武士仮面とセリフと同じですよw

ちなみに2
トレイシーにやってもらうことの1つが領域を皆の前で見せる事ですが、それ以外にもあります
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