ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ハウリア族に結構大きな変化が出てますw


変革転機

フェベルゲンに到着したフェルニルのサーチライトを見た亜人族は『未知との遭遇』のごとく、右往左往としていて、恐怖で逃げる者、呆然と天を仰ぐ者と、まぁ様々だった。飛行艇の存在を知っていた数よりも、知らない数の方が圧倒的に多いのだから仕方ないといえば仕方ないが。

 

だが、降ろされたゴンドラから出てきた多くの奴隷に堕ちていた亜人族を見て、その瞳は、希望を掴んだように、頬を涙でゆがませる。奴隷になった亜人族は2度とフェベルゲンに戻ることはない。そんな諦めが、この瞬間、払拭された瞬間だった。多くの者が家族、友人、恋人との再会を果たし、声が枯れるほどに泣いて、叫んで、喜びを分かち合う。

 

「それにしても、後で白崎さんが再生魔法で戻すことができるとはいえ、わざわざ都のど真ん中に着陸させなくても」

 

「1番効率いいだろ。前みたいに樹海の外に降りたら、霧ん中をわざわざ歩かなきゃいけないんだし」

 

それもそうな為か、七海も強く注意をしない。ただ、先程アルフレリックも言っていたのだが、とんでもない登場であるのは間違いない。しかも、

 

「で、その結果がアレですか?」

 

七海の指差す方には、再生魔法で樹海を元に戻していくのだが、その神秘的な光景、煌めく銀の魔力と長髪。2つの輝きが相乗効果で神秘さをさらに高め、神々しいにもほどがある。だから当然

 

「我等の香織様が、また奇跡をお見せくださったぞ!」

 

「香織様万歳!」

 

多くの亜人族が跪き、涙を流して崇め、拝んでいる。香織はそれがどうも恥ずかしいのか、「やめてくださぁーい」とあたふたしながら必死でやめさせ、立たせようとしていた。

 

「また女神が生まれたのぅ。愛子殿の方は豊穣の女神と呼ばれとるし、唯一神を崇める大陸で、こうもポンポンと神が生まれるとはの」

 

「ティオさん、知ってますか?南雲君や私がいた日本には800万とかいて、八百万(やおよろず)の神という言葉あり、物や植物、想いすらにも神がいるといいます。ですから、この先トータスもそうなるかもしれませんよ」

 

七海の言葉にティオは「ふはっ」と吹きだす。

 

「それは面白いの!もはや神の大量生産ではないか!」

 

「そこまでしたら、もはや神に喧嘩売るというより、神の栄光を無くすに等しい。笑える。いいぞ、香織。もっとやっていいと思う。そうでしょ、ハジメ」

 

「いやまぁ、流石にそこまではいかないと思うが……しかし、この光景、畑山先生の時もそうだったが、アンカジの時も見たぞ、なんか」

 

「あぁ、そうですね」

 

以前アンカジでオアシスを元通りにした時も、香織を崇拝する者達が大勢でて、てんやわんや事になり、散らすのに時間が掛かったのは記憶に新しい。

 

「たしか、〝香織様にご奉仕し隊〟でしたか?ネーミング含めて、頭の痛くなる人達でした。しかもそれが領主の息子が隊長になっているのだから始末に負えない」

 

「ですねぇ。この先も香織さん、こういうふうに拝れるんですかねぇ?」

 

「不憫ですが、まぁ強くなる為の有名税くらいに思うしかないでしょう」

 

その内愛子や香織を神と崇めた、ある意味エヒトよりもタチの悪い宗教が誕生しそうな気がしていると、フェルニルから最後の乗客が降りてきた。降りてきた者達は2つのグループに分かれている。1組目はリリアーナとその護衛と付き添いの従者。もう1組は帝国に着々と噂が根付いて来ている仮面集団の新色、黄土色の仮面と紫色の仮面をつけている年が離れた男女…要するに、ガハルドとトレイシーである。フェアベルゲンの情報を極力渡さないプラス、帝国のトップがこの地に顔を見せれば、大きな混乱や、最悪暴動騒ぎなる可能性があるので、それを防ぐ為だ。

 

ちなみに、長老衆と上層部の亜人族は、空間転移用のアーティファクトで先に戻ったハウリア族、その族長たるカムからの報告で、今回の件やここにガハルドが来る事は知っている。なのでたとえ顔を隠しても、彼らの装いやリリアーナの周囲の従者と騎士を見れば、そういう身分の人なのは一目瞭然だろう。それで、こうする事で、今後の帝国との関係にはガハルドの身の安全を確保する必要があるので、その口実を作ったのだ。わかっていても、口実がある限りは下手に動けないように

 

ただ、雫達がつけてた物と同じようなデザインにしたのは、単なる悪ふざけなのだが、ツッコミは不要である。不要って言ったら不要である。

 

「南雲ハジメいや、南雲殿」

 

ガハルドに突っかかる者が出る前に、アルフレリックがハジメの前にでて感謝の言葉を告げる。

 

「大体の事情はカムから聞いている。にわかには信じられない事ではあるが、どうやら本当に同胞達は解放されたようだ。フェアベルゲンを代表して礼を言わせてもらう」

 

「俺は今回の件はそこまで手を出してない。事を成したのはハウリア族だぞ。そこは間違えないでくれよ?」

 

だがハジメはヒラヒラと手をふり、気のない様子でその感謝を流し、フェルニルとゴンドラを〝宝物庫〟にしまう。広場から突然、巨大な物体が姿を消したことに、亜人達は目をパチパチと何度もまばたきし、中には夢なのかと思って頬をつねる者もいる。

 

そんな中、アルフレリックはハジメの物言いに苦笑しつつ、話しを続けた。

 

「ああ、もちろんだとも。最弱のはずのハウリア族が帝国を落とすとは……長生きはしてみるものだ」

 

ハウリア族が帝国に戦いを挑み、見事に勝利を掴み取り同胞を救い出した。その事実がアルフレリックの口から明言されたことで、住民達も大切な人を取り戻してくれたのが誰なのか理解したようだ。

 

アルフレリックの隣で背筋を伸ばすカムに注目が向けられる。これまでの蔑みではなく、大きな敬意と若干の畏怖を含んだ英雄を見るようのな、そんなふうに見られていた。一方、そのカムはというと

 

(何か、する気みたいですね)

 

ニマリとカムが微妙に笑っているのが見えた。それが讃えられた事による嬉しさではなく、何かを企んだ笑みであると感じた。

 

と、彼の娘であるシアが、ユエとハジメに発破をかけられる形で、カムの隣に立つために向かうが、娘をスルーし右手を軽く掲げると、アニメなどで見る忍者のように、シュバッとハウリア達が現れる。急に現れたのに、全員が一糸乱れぬ動きで綺麗に整列している。ズレがない。あちこちからハウリア族にトラウマを与えられた者や、いきなり現れて驚く者がいるが、それと同じく驚く者が、ハジメ達側にもいた

 

「って、なんだあの格好」

 

現れたハウリア達。その全員がスーツを着ている。色は黒や白というようなものではなくブラウン。子供であるはずパルですら完璧に着こなすことができている理由が、その表情。威圧させるものではなく、涼しげな顔である。だが数人であればいいが、その場に現れたハウリア族全員がそうなのだ。

 

「あれだとカムだけが浮いて……ない⁉︎」

 

「いつのまにかスーツを着けておるぞ⁉︎」

 

ハウリア達が現れる最中、その影に隠れているときに、来ているハウリアから渡されたスーツを一瞬で着装したのである。

 

「「「「「………」」」」」

 

カムの下に行こうとしたが、こんな状況で行けなかったシア含めたハジメ達が、100%原因である七海を見る。

 

「私を見ないでください。アレに関して、私は何か言ったことはしてません」

 

と言うが、これらは全て、ハウリア達に修行をしていた時に教えたことが原因だ。

 

 

『皆さん、暗殺がメインなんですよね?なら、その殺意と威圧は、必要以上に出すことはしないでください。それらが悪いとは言いません。これまでの兎人族やあなた方にされてきた事を考えると、舐められない為にもいいかもしれませんし、絶対にするなとも言いません。しかし、必要、不必要の場面を考えてください。殺意を隠すのもまた、あなた方には必要です。殺意を見せるのは、一瞬。威圧を見せるならもっとも良い時且つ効果的に。そして、それら含めた冷たさ、熱さすらも、普段は服の下に隠して置くことです』

 

 

で結果がコレである。

 

「完全に間違った方向に行ってるぞ、アレ」

 

「……………」

 

頭を片手でおさえて、痛そうにしている七海だが、まだ終わらない。集まったのなら、それはそうする意味がある為である。

 

「この場にいる、全ての同胞よ、耳を傾けよ」

 

静かに、だが芯のある声がよく通るカムの声と、涼やかだが刺すような瞳が、同胞…すなわち兎人族に向けられる。それを理解した兎人族全員が、その言葉、一言一句、一挙手一投足全てを見ている。

 

「長く我々を縛っていた弱者の烙印。それによる諦め、恥辱、屈辱、劣等感を持つ同胞達よ、聞け。此度、我々は帝国に打ち勝った。だが、これで終わりではない。むしろ、始まりだ。恒久的な平穏は一時的、これから先のお前達の未来は、そう遠くない未来で、再び脅かされる」

 

兎人族の多くが…否、この場にいる奴隷から免れた者、奴隷から解放された者、全ての亜人族が、それぞれ恐怖に震えた。兎人族が脅かされるということは、他の亜人族である自分もそうなるのは必然だからだ。

 

「お前達は、それでいいのか?昨日までの虐げられる日々に、戻る事になった時、また諦めて、その日々を受け入れるのか?」

 

カムの言葉に多くが伏し目がちになるなか、

 

「い、いやだ」

 

1人の兎人族が、勇気を出して声をだす。

 

「あんな所に戻りたくない!」

 

「そうだ。もうあんな日々は御免だ!」

 

「ああなるくらいなら、死んだ方がマシだ!」

 

「強くありたい、なりたい!」

 

それに触発されたのか、多くの者が声をあげる。それらを聞き入れ、カムが再び話し出す。

 

「ならばどうするか、その方法はだだひとつ……戦え!抗い続けろ!」

 

ここにきて、カムは大きな声を出し、その瞳をクワッと広げ、威圧感と殺意を全面にだす。

 

「搾取され、それを良しと受け入れたくないなら、立ち上がれ!兎人族の境遇を変えたいなら、願うだけなどという甘えは捨てよ!心に怒りと熱を燈し、心身に磨きを入れよ!今、我々ハウリア族は、そうして強くなってきた。だからここにいる!胸を張れるのだ!我々は、決して最弱ではないと、証明したのだ!それはお前達もだ!不倶戴天の決意を持ち続ける限り、お前達も辿りつける!」

 

ハッとその時気付く。自分達がここにいるのは、かつて最弱と言われてきた、兎人族が成した功績によるものなんだと、改めて理解した。

 

「これまで帝国に受けた屈辱を火種し、燃やし続けよ!全ての恥辱、屈辱、嗚咽、それを焼き尽くす程に、燃やせ!見ているだけにするな!諦観などやめよ!戦え!戦うのだ!」

 

聞いていた兎人族全てのウサミミが、ピンっと立つ。その表情全てに、同じ瞳が宿っていた。それを確認したカムは、少しだけ口角を上げて笑みを見せる。

 

「戦う術なら教えよう!戦う決意をし、力を欲するなら、我等のもとへ来るがいい!ハウリア族は、いつでもお前達を歓迎する‼︎」

 

そう言って演説を締め、ピッと腕を挙げた瞬間、その場にいたはずのハウリア達は再びシュバッと忍者の如く散開し、姿をくらませた。その姿に、兎人族は更に瞳を輝かせていた。

 

「カムさんの顔、なんかこう、してやったぜ的な顔になってますね」

 

ほくそ笑むカムはまさしく、人材確保できて煌々としている。そんなカムがハジメと七海の元に来る。

 

「申し訳ない、ボス、ビッグボス。お話の最中でしたが、ちょうど人材確保のタイミングでしたので」

 

「お、おう、それは別にいいんだけどよ」

 

「…人材確保はまぁ、大切ですからね」

 

2人とも歯切れが悪い。元を辿るなら1番の原因はハジメだが、七海も無関係とはもう言えない。敢えて言葉にするなら

 

(えれぇもんを生み出してしまったかもしれん)

 

 

(人の事を言えない立場になってしまった)

 

であろう。

 

「こうして、森の優しいウサギさんは絶滅したのでした。めでたし、めでた」

「くありません!というか、やめてくださいユエさん!ちょっと物凄く居たたまれないので!」

 

シアの悲しみはよそに、これから兎人族は本格的に魔改造されていくだろう。

 

「で、でも、アレじゃないシア?少なくとも、ヒャッハーな兎人族には、ならないんじゃ?」

 

「いえ、隠してるだけで、絶っっっっ対、ヒャッハーなままですよ、心の中は」

 

雫のフォローに対していうが、実際その通りだ。いざ行動すれば、隠してる刃と凶暴性を惜しみなくだすだろう。

 

「厨二度が上がってるだけだと思う」

 

「だから谷口、言うなって!俺も居たたまれないから!」

 

だいぶ精神的に痛みが来ているハジメがいうなか、

 

「…というか、アレは私のせいなんでしょうか?」

 

「「「「「「「「「絶対」」」」」」」」」

 

認めたくない七海の気持ちを、全員が肯定した。

 

 

アルテナの案内で奥へ移動するのだが、アルテナがハジメの手をとり、移動しようとし、それをシアがベシっと叩き落とし、バチバチと火花が散るのだが、

 

「七海建人、このマスクを外してもよろしくて?」

 

唐突にトレイシーが言い出すが、そんな事は当然できない。

 

「無理に決まってるでしょう。というか、一応無理を言ってここにいるんですから、大人しくしてて下さい」

 

「ええ、わかっています。けど、何かこう、混ざりたいという想いがヒシヒシと」

 

何わけわからない事を言っているのかと思うが、スルーする事とした。……後にスルーし続けたいと思うようになるのだが。

 

 

広間に案内されてすぐに目に入ってきたのは、長老衆の目を細くし睨む顔と、いまだに胡乱な表情をした者。この状況で、帝国から提示されることがまだ信じられないというわけではないが、それでもそういう顔になってしまうのだ。

 

ピリピリとした雰囲気は、いつ爆発してもおかしくない雰囲気である。そんな中、ガハルド皇帝本人からの敗北宣言、契約内容の再確認の為の説明。これにより、ようやく実感が持てたのだろう。長老衆はそれぞれこの歴史的瞬間を呑み込む…のだが

 

「敗戦国の王が、随分な態度だな?自分が我々からどれだけの恨みを買っているか、自覚がないわけではないだろう?まさか、ただで帰れるとでも思っているのか?」

 

虎人族の族長、ゼルが殺意と獣性を剥き出しにした眼光がガハルドに向けられる。

 

「愚かですわね」

 

「なに?」

 

「敗戦国とはそちらの勝手な思い込みですわ。私達は、あなた方に負けた覚えはありませんわ」

 

「貴様!」

「トレイシーの言う通りだな。俺が契約をし、敗北したのはハウリア族であって、貴様らではない。何を自分達の功績のように振る舞っているのか、理解に苦しむ。それとも、俺を本気で殺せるとでも思っているのか?それこそ、愚かで阿呆な考えだな、フェアベルゲンの連中は」

 

胡座をかいてデカい態度を崩さない。ガハルドと、座ってはいないが、優雅な佇まいと闘争心をむき出しにしているトレイシーの態度は、ゼルには我慢できないのか、激昂し、立ち上がって牙を見せて威嚇し、「グルルル」と唸るが、アルフレリックが抑える。

 

「気持ちは痛いほどわかる。だが、ガハルドがここに来たのは、我々にハウリア族が成したこととの誓約の効果を証明するためだ。ここで殺せば、ハウリア族達が身命を賭した意味が、全て消えるのだ。我慢しろ。…それとガハルド、それとトレイシーと言ったか?お前達も態度を改めよ。我々をお前達の言う愚かな阿呆にさせるな。理屈では抑えられぬ感情がこの地に、族長衆に、フェアベルゲン全ての種族の国民にそれがあるのだ。それだけのことをしてきたことを、少しは考えろ」

 

アルフレリックは、長命種の森人族。それ故に、味わってきた苦しみ、悲しみ、怒り、憎悪は他の者以上だろう。それでも、激昂をせず、冷静に会談をしようとしているのだ。だが、ガハルドも先ほど言ったが、ガハルドが、帝国が敗北を認め、敬意を払うのは、ハウリア族だ。それ以外の亜人族を見下すのはやめない。これは彼ら神に見放された亜人族というわけではない、彼らが弱いと思っているからだ。

 

「俺等の態度に文句があるなら、力を以て従わせてみろ。少なくとも、ハウリア族はそれを成したぞ?それとも自分達は何もせず、ハウリアの得た恩恵という名の甘い汁を啜るだけの能無しか?うん?」

 

一触即発、まさにそれだろう。今のガハルドの言葉で他の長老衆も、血管がはち切れそうになるほどにキレている。会談が殺戮現場になろうとしていたが、

 

「おいガハルド、トレイシー。お前らもう帰っていいぞ」

 

「あ?」

「はい?」

 

空気を読むなんて全くしないでハジメが入る。長老衆は全員キョトンとした表情になり、ガハルドとトレイシーは一瞬何を言われたか分からなかった。

 

光輝やリリアーナ達も「マジかこいつ」と顔に書いてあるかのようにドン引きしている。が、そんな事はどうでもいいとばかりに、2人の首根っこを掴んで〝ゲート〟で空間を繋ぐ。繋いだ場所は、帝城の一室。ガハルドと謁見をした場所だ。

 

「ちょ、待ちなさい⁉︎このまま送り返すのですか⁉︎」

 

「そうだぞ!今まさに2国間歴史的な会談の真っ最中にか⁉︎俺が言えたセリフじゃないが言うぞ、空気読め‼︎」

 

「知るか。俺はお前を証人として連れてきただけ。トレイシーはあくまでもそのついでにすぎない。会談を見守る為じゃないんだよ。終わったならとっとと送り返すんだから、いちいち待ってられっか」

 

そうしてゲートに放り込む為持ち上げようとした時、

 

「南雲君、ちょっといいですか?」

 

「あん?」

 

七海は止める。ガハルドは心の中で「ナイス」と思っているが、七海は別に帰させるのを止めたかったわけではない。

 

「トレイシーさんはもう少しこちらに残していただいてもいいですか?色々とやっていただくことがあるので」

 

「って俺はいいのかよ!」

 

「感謝ですわ七海建人!」

 

「やっていただくことって…俺等の成長に役立てる為だろう?それに関しては、フェルニルでもある程度できた。領域持ちの情報や、領域の実物を見せる為。もうできてるだろう」

 

「いえ、それとは別にあります」

 

ハジメは七海の考えが読めてはいない。だが、意味のない事はしないということは理解している。

 

「理由は?」

 

「……ガハルド皇帝を送り返した後に、説明します」

 

「なん、テメェ!俺は皇帝で、トレイシーの父親だぞ!」

 

「関係ないです。あと、帰すことに私は賛成です。ここにいては、お互いに余計な問題を起こしかねない。今の会談がその全てを物語っている。このような約定ごときで、何百年の蟠りが解決するはずもないんですから」

 

「俺もその意見に賛成だ。こんな所で話した所で、亜人族の改心してほしいって考えと、実力至上主義のガハルド…帝国の考えが、相入れるわけがない。それこそ、迫害してきた歴史と同じぐらいの時間が必要だ」

 

その通りの為か、ガハルドは「ぬぐぅ」と歯噛みする。

 

「で、先生の方はもしかして、トレイシーとも何か縛りを結んでるのか?」

 

「いえ、結んでいません。が、必要とあらば結んでもらうつもりです」

 

「またあんたは………まぁ、いいぜ。1人くらいならなっと!」

 

そう言いつつ、ガハルドを放り投げた。

 

「覚えてろー南雲ハジメぇ!七海建人ぉー‼︎」

 

いかにもな捨て台詞を吐きつつゲートが閉じられた。ちなみに一連の流れをリリアーナはニコニコと腹黒い笑みを気持ち良さそうにして見ていた。これまで王女なのに雑な扱いをされてきた鬱憤反動だろうが、あまりにもあんまりな上機嫌さである。近衛と従者は哀れなお姫様に同情し、「お労しや」と涙をハンカチで拭いている。

 

「ララララー♪」と歌まで歌っているが、そんな彼女も王国に戻そうとする。慌てて「まだやる事が残ってます!」と抗議する。これからの王国とフェアベルゲンでの関係を話したいのだろう。フェアベルゲン側としても、帝国よりは蟠りが少ない分、穏便に話し合いをしようと思っている事で、とりあえず今は事なきを得たが、終わったら再び雑に王国に帰す未来が目に見えていた。

 

「それで、なんの用なんだ?七海先生?」

 

「用、とは?」

 

「とぼけんな。トレイシーじゃなくて、長老衆と話しがあんじゃねーか?トレイシーに必要とあれば縛りを結ぶって言うことは、この場でトレイシーと結ぶ必要性があるから。んで、その理由を考えたら、帝国に情報を渡したくないから…違うか?」

 

七海は流石に隠せないかと思うが、トレイシーだけでなく、ここのは王国のリリアーナ王女もいる。両者に他国の、フェアベルゲンの情報を渡すのは、流石にフェアベルゲン側に不公平だろう。

 

「……わかった。おい、まだ話したいことはあるか?その後で、長老衆とだけで、七海先生と話してくれ」

 

そうして、とりあえずまずはハウリア族のこれからのフェアベルゲンでの立ち位置を話し、ハウリア族の族長のカムに新たな族長の権限を渡そうとしたが、同じ枠組みに入れ、自分達の力として加えようという打算を見抜き、且つあわよくばハジメ達の力の一端である武器を取り込むつもりだったことも見抜き、それらをするつもりがないことと、何か戦いを起こす、起ころうとも、自分達は関係ないとつげる。

 

要するに「大切な者以外は、知った事じゃねぇんだよ、阿呆どもが!」である。カムの言動の全てがハジメと似ているのもあり、ジトの目でハジメを見るが、

 

「あの、よろしいですか?カムさんの言うことはもっともです。というか、そんな事しては、せっかくの変革期を逃しますよ」

 

とまさか七海が援護射撃のごとく、族長衆に注意をしてきた。

 

「ハウリア族がしたのは自分達を含めた、兎人族の為です。そして、今回帝国との約定を結べた。それを活かすのがこれからのあなた達の使命なのに、他者に依存してどうするんですか」

 

正論を交えた言葉は、ある意味カムよりも痛いナイフだった。結局、ハウリア族を1種族にしてフェアベルゲンと対等であると認め、更にカムは大樹近辺と南方一帯を自分達の土地にすると勝手に決めた。要するに、フェアベルゲン内部に、ハウリア族…否これから彼らのような兎人族だけの国ができたというわけだ。当然、勝手に入ってきた者には容赦はしない。

 

抗議したいが、帝国を1種族だけで降伏させ、手出ししないだろうが、そんな事はわからない彼らにとって、バックにいる南雲ハジメという存在を考えれば、要求を飲むしかなかった。

 

そんなこんなで話しが纏まり、妙に疲れた長老衆と、七海が残っていた。後の者は既に席を外している。

 

「それで、いったいなんのようだ?」

 

疲れたから早いとこ終わらせてくれとでも言いたげなアルフレリックが言う。この後リリアーナとも話し合いがある為に尚更だ。

 

「では、単刀直入に。アルフレリックさん、アルテナさんは、呪力が見えますね」

 

「⁉︎」

 

アルフレリック以外の族長は疑問符を浮かべる。聞き覚えのない言葉だからだ。

 

「他の方々に話してないんですか?そうだとしたら、申し訳ない」

 

「………皆、一端この者と2人きりにしてくれ」

 

抗議の声が飛ぶが、アルフレリックが土下座をし「頼む」とお願いした。彼のそのような姿を見たことがない彼らは、並々ならぬ思いのまま、部屋を出た。気配がないのを確認し、話し出す。

 

「七海建人、お前は私の孫娘になにをさせたいのだ」

 

「その前にいいですか?まず彼女は呪力を視認していますが、術師として覚醒してません。このまま、ただ見えるだけの人になる可能性もありますが、もし、覚醒した場合、どうするんですか?またシアさん達のように、追放でもするんですか?」

 

「そのようなこと、するはずがないだろう‼︎」

 

「では、他の部族に黙ったままでいると?それでバレたら、次こそハウリア族の二の舞ですよ」

 

「わかっている……だが、わかるだろう?他の者に使えぬ力、魔力を持っていたシア・ハウリアですらああなのだ。呪いの力など、到底受け入れてもらえるものではない!……改めて聞く。あの子に何をさせる気だ!」

 

七海は一息置いて告げる

 

「何も」

 

「…………何?」

 

「別にどうするわけでもないです。私がしたかったのは、ただの確認です。彼女がこれからどうなろうと、決して私から何かする事はしません。むしろ、あなた方がどうするのかが聞きたかったんです。問いを返すようで申し訳ないですが、聞きます。もし彼女が覚醒したら、どうするんですか?」

 

「…………分からん。どうすればいいかなど」

 

長老衆の1人として、孫娘をもつ家族として、その狭間でどうすればいいのか、わからないのだ。

 

「今なら、カムの気持ちが少しだけわかる。だが、私は……」

 

カムのようにはできないし、選べない。そういう想いが見えていた。

 

「アルテナさんにも、つい先ほどもあなた方に言いましたが、今は変革期、変わる兆し、そのものです。古い習慣、掟、感情、それらを今すぐどうこうしろとは言いませんが、このままでは同じ道でしかない」

 

「……………」

 

アルフレリックもわかってはいるのだろう。否定してこない。

 

「あなたが、どういう選択をするのかわかりません。が、何があっても、私はあなた方の味方をします。南雲君を加えることは、できませんが」

 

「なぜ、そう言える?」

 

「私がこの世界の在り方を変えるきっかけになってしまったのは間違いないんです。その責任がわからないわけがないんです」

 

「………我々の味方をするというのを、どう信じればい?」

 

「それこそ、縛りという手段があります。フェアベルゲンで大まかですが呪術については話していたでしょう?」

 

「………わかった」

 

アルフレリックは、何かを決めたかのように、真っ直ぐな目で言う

 

「では、縛りを」

 

「いや、それはいい」

 

まさか拒否してくるとは思わず、七海は驚く。

 

「お主が変えたにしても、そうでないにしても、これからシア・ハウリアや、アルテナのような特殊な存在は生まれてくる可能性はあった。それを、今までと同じようにしていたら、それこそ二の舞。なら、私は、変わろうと思う。他の族長達に、正直に話そうと思う」

 

「……いいんですね?」

 

「ああ。それに、南雲ハジメはお主の事を、シア・ハウリア達とは別の形ではあるが、大切に思っている。そんな奴が、この会話内容が気にならないわけがない」

 

「そうですね……南雲君、今回は本当に盗み聞きしてるのでしょう?一応言いますが」

 

【わっかっったよ!たく!最初から気付いてるとは思ってたけどよ】

 

透明になっていたクロスビットが姿を見せ、ハジメの声が聞こえてくる。

 

「今回は、勝手に決めたというわけではないですよ。気付いてたんですし」

 

【物は言いようだな、俺が何もしなきゃ、色々勝手に決めるだろうが。おい、アルフレリック!一応言うが、話した事でお前達に何が起きようと、俺は何もしないからな!七海先生も、何もするなよ!これは縛りによる命令だ!】

 

「南雲く」

【い、い、な‼︎】

 

「……優しいですね、本当」

 

ハジメはその言葉に【フンっ】と不貞腐れたように返す。

 

「南雲ハジメ、わかっておる。これは、我々が……いや、私がやらねばならぬ事だ。何があろうとも、問題はおこさん。もちろん迷惑はかけん。お前達にも、当然ハウリア族にも」

 




スーツの暗殺者ってよくないですか?

ちなみに
あの後トレイシーはアルテナをよびだ、シアと仲良くなりたいんだろ的なことを聞いて、一方的ライバルにして同士進呈しました。アルテナは違うと言いましたが、バレバレです。そしてその結果、まだ思いを打ち明けていませんがシアにベタベタとくっつこうとしてます。これら書こうかなと思いましたが、色々とグチャグチャになるのと、話が全然進まないので、ここに割愛しました。

ちなみに2
色々ありましたが、今更だとアルフレリックに他の長老から言われました。反対派もいましたがハウリアの事があり、出すに出せませんでした。ちょっとネタバレすると、アルテナの覚醒させるのは今回の大迷宮のあと…つまりシアのアレを受けてです
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