ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ようやく、樹海の大迷宮!
これを書き出した当初、ここをこう書きたいとずっと考えてた場所の1つです。ようやくたどり着いた。

さぁ、光輝、君への試練という名の精神攻撃が始まるよ。


陰森凄幽

フェアベルゲンに到着して3日目。この日はハルツィナ樹海の真の大迷宮への入り口、大樹ウーア・アルト周辺の霧の濃度が下がり、道を開く日。

 

ちなみにリリアーナとその従者達は族長衆との会談後、早々に〝ゲート〟で王国へと物理的に戻された。「せめて女の子扱いを〜!」とか抗議するのを全く聞かずに、首根っこを掴まれ、ぽーんと投げ込まれる姿は哀れそのものであった。

 

「霧の濃度が下がったようですし、早速目的地へ向かうとしましょう」

 

そう切り出した七海の言葉に対して、

 

「「「はい」」」

 

光輝、雫、龍太郎の3人は死んだような顔と掠れた声で受け答えた。この3日間、3人は寝る間すら殆どなかった。その理由は、七海がハジメから樹海の霧について聞いた時と、実際に味わった感覚を狂わされる経験。そして大樹付近にはそれなりに強力な魔物がいるという情報。これらから、七海は樹海の大迷宮はそういった、こちらを惑わすようなコンセプトがあると考え、自身、そして彼らにある修行を施した。

 

「ハウリアの皆さんには、感謝しないといけませんね」

 

七海はカム含めたハウリア族にとある。お願いをしていた。

 

『私を除いた南雲君達以外の方々、これから言う人達を、時間と場所は選ばないので、死なないように攻撃を仕掛けてください』

 

事前に光輝達には話していた。

 

『この先の霧の中から現れる魔物、更に大迷宮のコンセプトはまだわかりませんが、件の霧の事を考えると、こちらの行動を阻害する何かを仕掛けてくると私は予想しました。そこで、この後私含めた皆さんはハウリア族の方々に、攻撃を受けます。いつ、どこで、どのタイミングで来るか分からない敵へ対処です。あぁ、攻撃は非殺傷ですし、毒もありませんので、安心してください』

 

それを聞いた全員が(安心できるかっ‼︎)と心の中で総ツッコミをしていた。

 

そして、それからの3日間はまさしく地獄であった。時にフェアベルゲンの人達や仲間と話している際、時に別の修行中に、時に食事中に、時に睡眠中に、時に風呂に入ってる時に、時に……トイレの中でと、まさに四六時中だ。ちなみに女性に襲撃する際は女性のハウリア族が、男性は男性のハウリア族が担当した。最低限の配慮であろう。だがそれ以外は本当に、容赦なかった。事前に知らせれていなかったら、もっと防げていなかっただろう。

 

初日は七海を除いた全員が全ての襲撃に対処できず、ハジメ製作ペイントナイフ&矢尻が吸盤の矢(そう簡単に取れない)を受けて、真っ赤っかで全身に矢が引っ付いてた。七海も全てに対処できたわけでなく、一部赤く汚れていたが、矢だけはなんとか回避していた。

 

2日目からは神経質になりすぎなくらいであり、キョロキョロとする時間が多く、魔力に余裕がある際は、帝国の精鋭がしていたように、魔力を放出し、位置や攻撃を察知していた。が、神経質になりすぎ、且つ魔力を常に使うので疲労が溜まりやすいので、寝る時の襲撃に対処でききれない。

 

3日目、大樹に向かう直前まで続いていたが、その際の襲撃は全て対処した。だが今の彼らは初日と違い、身体は赤色に染まってないが、眼球は真っ赤であった。まともに寝れていないのだろう

 

「なんで七海先生はそんな平然としてるんですか?」

 

「そんなわけないでしょ」

 

と言ってサングラスを外すと、目の下に隈ができている。疲労も見た目よりもあった。

 

「ビ、ビッグボス、その、言われたので実行しましたが、大丈夫でしょうか?」

 

バルトフェルトことパルが心配そうに聞く。こういう面でまだギリのギリギリ子供の部分があるようであるが、彼も今回の修行の際に襲撃をしている。もちろん加減なしだ。

 

「問題ありません。こちらから頼んだのですから、この程度は当然ですし、襲撃そのものは加減しないように頼んだのも、私ですしね」

 

「けどよ、これじゃ大迷宮攻略なんて」

 

無理じゃね?という疑問がハジメにあったが、もちろん考えはある。

 

「その為の神代魔法です。白崎さん、魂魄魔法と再生魔法を施して下さい我々4人に(・・・)

 

神代魔法による精神及び疲労回復をした。もちろん、神代魔法とはいえ万能ではない。本来なら100%の回復はできてないが、ノイントの身体を90%以上使いこなせている香織は、それをほぼ実現する。

 

「おおぉ!これは、改めてすごいわね、神代魔法」

 

「白崎さんだからというのもあるでしょうね。彼女は再生魔法がユエさん以上に適正がありましたし、回復の腕そのものも、以前までと比べ物にならない」

 

「…でも回復率は95%ってところですね。さすがに傷以外は、まだ難しいです」

 

そこまでできる時点で相当なのだが、それでよかったねで終わらせないのが、彼女の強みである。

 

「………あの、七海先生。今更ですけど、私にはなんで今回の修行をさせてくれなかったんですか?」

 

鈴の言う通り、彼女だけは襲撃を受けていない。事前にハウリア達に襲撃するように頼んだ者の中に、鈴を入れていなかった。

 

「理由は2つ。1つは、結界術は相当な神経を使う。君がどれほど天職として優れていても、です。回復するとはいえ大迷宮前に神経を削ぎ落とすのは悪手だと考えました。もう1つは、君自身がわかっているはずです」

 

「………わかりました」

 

その言葉の意味がわかったのは、鈴を含めて4人。

 

「…あの、それって以前七海先生が言おうとして、鈴が止めたことと、何か関係がありますか?」

 

「……………」

 

黙秘。口を閉ざした。表情から読み取ろうとしても、無表情を貫く。が、そうだと言うようなものだ。当然だが七海も、鈴も、隠しきれるとは思ってない。だが、理由は教えてない。

 

「……ごめん。けど、大丈夫だから。あと、七海先生も、ありがとうございます」

 

「いえ。ただし、隠すのは限界だと、理解もしていてください」

 

「七海先生!鈴!なんで隠すんだ!」

 

光輝の言葉は、今回に関しては正しい。七海本当なら今すぐに話す義務がある。だからこそ

 

「天之河君、それに皆さんも、今回の大迷宮攻略まで待ってもらっていいですか?」

 

「な、七海先生?」

 

「今回の大迷宮の攻略次第という約束でしたよね?」

 

鈴はその通りの為か、静かにコクリと頷いた。

 

「オイ、さっさと行くぞ!雑談や無駄話をしてる暇はねーんだ」

 

催促してるハジメに軽く謝罪し、七海が進むと、光輝達も不満を持ったまま進み出す。

 

「さて、今から大樹に行くが、そこまでの魔物に関しては、俺達も、ハウリア達も、当然だが七海先生も手出しはしない。お前らにとっては、これが真の大迷宮初挑戦だ。これでウォーミングアップと、先生からの修行を活かせよ」

 

そうして、樹海の霧の中を進んでいく。その最中に何度も樹海の魔物からの奇襲を受けるが、

 

「そこっ!」

 

光輝は聖剣で魔物の爪をいなし、回避の際に一閃し、両断した。雫と龍太郎も、魔力を放出せずとも、攻撃を察知して、先読みするごとく返り討ちにした。

 

「「「……………」」」

 

「どうしたの、皆?」

 

急に止まり、呆然としている3人に、香織が声をかける。

 

「いや、なんつーか。魔物が厄介なのはわかるんだ。こっち感覚を乱す且つ、霧の中から急に来るからな…けど、そう、あまりにも呆気ないっていうか」

 

「これなら、あの修行がなくても行けたような気が」

 

龍太郎と雫の言う通り、実はハウリアと違い、魔力を持つ魔物であれば、集中力を途切れさせなければ、魔力の反応からある程度の位置を特定できていた。

 

「そんな事はないですよ。現に君達は余裕を持った対処ができているのは、奇襲に対抗する予備動作ができているからです。カムさん、ハウリアの方々をお貸しいただき、本当にありがとうございます」

 

「いえ、ビッグボスの頼みですので」

 

スーツのカムは静かに答える。が、嬉しそうなのが滲み出ている。一方、今回ハウリア達からの奇襲訓練を受けてない鈴は

 

「〝天絶《群》〟」

 

完全無詠唱で襲い来る魔物を防御して跳ね返す。ただ、無詠唱以上に凄まじのは魔法の展開力と展開方法。〝天絶《群》〟複数展開した小さな〝天絶〟を自身の周囲に蜂の巣を思わせるように置く結界魔法。なのだが、一斉に魔物が鈴を襲おうとするも、ピンポイント展開した〝天絶〟に阻まれる。左右、どこからでも、同時でも、一瞬で展開し、次の攻撃時には前の〝天絶〟を消して攻撃してくる場所に展開を的確に行う。更に展開されるのは〝天絶《群》〟は、もう一度いうが蜂の巣状に展開するのだが、小さな、〝天絶〟は以前香織がしたものより更に小さい。本当に蜂の巣の1つの穴程の大きさの防御結界が寄り集まり、密集して強度を上げている。

 

「そこだっ!」

 

直接牙や爪で攻撃してきた魔物は弾き飛ばされ、その隙に他の3人が仕留める。魔法による攻撃をしてきた魔物は、その魔法そのものを弾き返す。

 

「〝天絶《群》〟に〝天絶《弾》〟まぜこんでる!」

 

香織の驚きは当然だ。元来、〝天絶《群》〟と〝天絶《弾》〟は同じ〝天絶〟の派生魔法であるが、中身は全く違うと言っても過言ではない。何故なら機能が違うから。

 

《群》は密集して防ぐ、《弾》は防ぐというより、文字通り弾く。それらを混ぜるというのは、できなくはないが、細やかな結界の構成が必要になる。しかもできたとしても、維持するのは至難の業。故に鈴は維持を捨てた。結界は常に足し引き。足したなら、何かを引くべきなのだ。展開時間を最大2秒にし、攻撃の瞬間に合わせて展開、解除して次の攻撃場所に展開するを繰り返している。

 

今の鈴は、新たな技能開花と、ティオとの訓練の成果で魔力感知〔+ 視認(極)〕へと昇華し、更にティオとの訓練と、オルクス大迷宮での死戦で一度は死に近付いた鈴は、技能とは関係なく攻撃に敏感になっていた。

 

(鈴、すげぇ!)

 

(長い間寝ていたはずなのに、神代魔法なしで、何でこんなに差が⁉︎)

 

龍太郎と光輝は鈴の成長に純粋に驚く。

 

(確かに、すごいけど…成長が著しいにも程がある。私達も1日とはいえ訓練をしてそれぞれ強くなった。けどそれは、これまでの訓練と経験があったから…でも鈴はそれが停滞し、ブランクも間違いなくあったはずなのに)

 

雫は寝ていた期間と成長の幅が合わない事に驚いていた。

 

「っ!」

 

と、雫が見ていると鈴は苦い顔をし、イライラしてるような感じで顔を引っ掻きだす。

 

「鈴!上!」

 

「しまっ⁉︎」

 

完全に対応に遅れた為、防ぐ暇はない。やられる。そう感じるたが、光輝達の後方から銀色の羽が飛んできた。命中した瞬間、消滅した

 

「皆、大丈夫⁉︎」

 

「え、ええありがとう、香織」

 

ノイントの身体は霧の影響を受けない。更にその身体をだいぶ自分のものにした香織は、自主鍛錬として、4人とは別に銀羽を展開し、それを攻撃ではなくレーダーの代わりにしていた。帝国の兵や光輝達がしているような魔力放出を、銀羽にさせていたのだ。これにより、魔物の規模や数、位置を把握し、万が一の時は展開した羽がそちらに向かうようにしていたのだ。

 

「鈴、また引っ掻いてる!治すね」

 

すぐさま治し、元に戻る。

 

「油断しないでください。あと、谷口さん、あの魔法は維持に力を入れてませんね。中衛であり守りの要でもあるあなたがあれでは、パーティとして不安定です。もっと自分と、周囲を意識して下さい。君なら、できるはずです」

 

「………はい」

 

「あと、一瞬止まってましたが…」

 

「大丈夫です。展開が複雑で、ミスをしてしまい、申し訳ないです。状況判断が、できてませんでした」

 

「………わかっているなら、いいです」

 

七海の目利きするような目を見る事ができていないが、反省はしているのはわかったのか、七海はそれ以上言わずに進むようにハジメに言う。

 

「はいはいっと…あ、そういえば話しは変わるけど、トレイシーの奴なんだが」

 

「!そういえば、姿が見えませんでしたね。この3日の間にかなり付き纏われましたけど、今日は見ませんでしたね?」

 

「いや、それもあるんだが、大迷宮に来ないのかと思ってな」

 

「えっ⁉︎誘ったんですかぁ⁉︎」

 

「俺じゃなくて、七海先生がな」

 

シアは「なに余計ことしてくれんだテメェ」と言うような目つきで七海を睨む。

 

「まぁ、色々と実験に付き合っていただきましたので、シアさんと再戦を望むなら強くなるのは必須ですし、個人的に、エヒトと戦える強い術師と戦力は欲しかったので」

 

「だからって黙って誘う事ないでしょ⁉︎」

 

「ちゃんと南雲君には事前に伝えましたよ」

 

と今度は「キッ」とハジメを睨む。

 

「ま、まぁ落ち着けってシア!それに、ここにはいないってことは断ったってことだろ?…ちょっと信じられないが」

 

「……その事ですが」

 

ハジメとシアの疑問に七海は答える。

 

「今回の大迷宮が、本来なら自分は入れない事を告げると、どうもそれが気に入らないのか、断られました。その後、この近くのライセン渓谷にもあるという事を伝えたら、そちらに行くと嬉しそうに走り去って行きました」

 

「「「おぉぉう、そう」」」

 

とミレディ・ライセンとそこで味わった大迷宮のいやらしさを理解しているハジメ、ユエ、シアは同情+嬉々として死地に向かうトレイシーに引いていた。

 

「…………」

 

「天之河君、彼女は彼女、君は君です」

 

「な、何ですか急に!俺は別に何も」

「トレイシーさんは正々堂々と大迷宮に挑むのに、俺は良いのかっと、大体そんな所でしょ?」

 

「⁉︎」

 

図星の為、光輝は押し黙ってしまう。というか、今回はあまりにもわかりやすかった。七海だけでなく、他の者達も気付いている。なんなら、光輝グループ全員も同じ気持ちを抱いている。

 

「私も所有している神代魔法は3つ。ティオさん、白崎さんは2つ…ここの大迷宮を受ける資格は本来無いんです。そんな小さな事を気にするようなら、そもそも最初から付いて来る必要などないです」

 

「だから、俺は…別に」

 

「………自分に嘘をついている限り、強くなることはできません。たとえ、この大迷宮をクリアしても。まぁ、そもそも、先程も言ったように、資格のない私達が入れるかどうかも分かりませんがね……ついたみたいですよ」

 

ここでシアが先行して、大樹に到達した事を告げる。濃霧が晴れた先にあったのは、神秘という言葉がそのまま形作られた場所。大樹そのものは枯れているのに、その壮大さはそのまま。見上げて尚、天辺は見えず、幹の部分はデカすぎて、まるで城壁である。しかも見た目は枯れているのに生きているのを視覚と肌感覚で、初見全員が理解した。神代魔法による影響だろう。

 

初めて見たほぼ全員がポカーンと口を開けているなか、ハジメは〝宝物庫〟から攻略した大迷宮の証を取り出し、根元にある石板のもとへ向かう。それを見て七海はそこに向かうように全員に指示をした。

 

「気を引き締めて下さい。ここから先は、僅かな緩み、油断が命取りとなります。…気張っていきますよ」

 

ハジメは流石だなと七海を見て思う。七海が言わなければ自分が睨むなりなんなりで気を引き締めさせただろう。それを真っ先に言うあたり、七海らしいなと。

 

「カム、何が起こるか分からないから、ハウリア族は離れておけ」

 

「了解です、ボス。ご武運を」

 

この大樹周囲と南方はハウリア族の土地になったのでカム達はついて来たが、ハジメの言葉に少し残念そうな表情に一瞬なるが、すぐにそれを正す。ハジメの言う事は正しく、この先は大迷宮挑戦者のステージ。自分達では役不足だろうという考えと、七海に言われた「事実に基づき、己を律する」を守る為である

 

ハウリア達はハジメと七海に深くお辞儀したあと、散会した。

 

「スーツ集団が一瞬で消えるのって、なんか怖いような、かっこいいような」

 

「龍太郎、それはたぶん気の迷いだから、あっち側行こうとしないで」

 

なんてボケとツッコミを聞きつつ、ハジメは大迷宮の攻略の証を石版の窪みにはめ込んでいく。まずオルクス大迷宮の指輪。はめ込んで一拍おいて石板が淡く輝きだし、文字が浮かぶ

 

「4つの証、再生の力、繋がれた絆の道標、全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう。———前と同じだな。使う証は…神山以外のでいいか」

 

ハジメは呟きながら、攻略の証を1つずつ石板にはめ込んでいく。その度に石版の輝きが増していく。最後の証をはめ込んだ直後、輝きの全てが解き放たれ、根を伝うように地面を這いながら、大樹に向かい、光が辿り着くと、大樹は盛大に輝き、幹に紋様が浮かぶ。

 

「次は、再生の力?」

 

それを確認したユエが、紋様に歩みより、すぅと手を光輝く紋様部分に触れ、再生魔法を行使した。その瞬間、大樹の全てを光が包む。ユエが触れる部分から、光が何度も、漣をうつように、光が大樹の隅々まで行き渡り、その度に枯れていた大樹は、その生命が蘇る。枯れていたとは思えないほど、葉が鬱蒼としてきた。その様を、見ているほぼ全員が見惚れていた。

 

「…!皆さん、あれを」

 

そんな中、七海は入り口を探していた。指差す方にあるもの丁度皆がそちらを向いた時、正面の幹が裂けるに左右の分かれて洞ができる。七海は数秒前にその部分に気付き、入り口となる部分であろうとあたりをつけた。

 

「どうやら、入り口ができた瞬間魔物が襲って来るという展開はないようですね」

 

「なるほど、だからずっと入り口を探してたのか。まぁ、流石にまだ入ってないからな。あとは、先生含めて4つの大迷宮を攻略してないやつでも入れるかなんだが」

 

と言いながらその入り口へ歩きだす。ハジメが動いたのを見て、他の者達も躊躇うことなく進む。巨大な洞を全員通ったのを確認すると、先程から七海とハジメが懸念していた4つの大迷宮を攻略してない者は、今回の樹海の大迷宮に挑戦できないのではないかというものは、杞憂であった。まぁ、この辺はあまり心配はしてなかった。

 

他の大迷宮…特にメルジーネ海底遺跡はグリューエン大火山の攻略が大前提だ。それをしていないティオと香織がしっかりと再生魔法を手にしていたので、コンセプトとは別に、大迷宮全てにあたるもの「入るのは自由だが、命の保証はしない」というものだろう。

 

「何も、ない?」

 

「行き止まりなのか?」

 

鈴と光輝が訝しながら呟くが、そんなわけがないと言うように、洞の入り口が閉じ始めた。外の光が細くなるのを、光輝が慌てる

 

「落ち着きなさい!集中を切らさない!」

 

すぐに七海が注意したとほぼ同時に、入り口が閉じて、コンマ数秒もあるかないかで、足元から大きな魔法陣が出現し、暗くなっていた空間を怪しく照らす。

 

「な、なんだこりゃ⁉︎」

 

「騒ぐな!転移系の魔法陣だ!転移先で呆けるなよ!」

 

龍太郎が同様したが、こんどはハジメが注意する。直後、視界が暗転する。

 

「………こ、ここは」

 

光を取り戻した彼らの視界にあったのは、木々が生い茂る樹海であった。

 

「大樹の外に出された……わけではないか」

 

もしそうなら、ハジメは即座に七海のその行動にキレていた。なんなら殺していただろう。ズドン!と大きな音を出してユエがふっ飛ぶ。呪力を込めた渾身の蹴りが、ユエの小柄な身体を浮かせ、そのまま壁に激突した。

 

「七海さん⁉︎」

 

「「「先生⁉︎」」」

 

と驚きを露わにする面々を他所に、ハジメも動いていた。

 

「なんじゃ⁉︎」

 

「なっ⁉︎コレは」

 

〝宝物庫〟の中から拘束用のアーティファクト取り出して、ティオと龍太郎に投げていた。先の七海の行動で目を引いていたのを除いても、あまりにも早い行動に、2人は抵抗する間もなく、空間に固定された。

 

「南雲まで!何をしてる!なんのつもりだ!」

 

思わず光輝が声を上げるが、それをスルーして七海に告げる。

 

「まだ殺すな、先生」

 

「いえ、こちらは私が」

「い、い、か、ら、き、け」

 

口調を強めて七海に言うと、七海は下がる。瞬間、ビュッと風を切るような音と共に、ハジメは倒れたユエのほうに行き、介抱する…のではなく、銃口を向ける。

 

「どう、して」

 

ユエの疑問の声は光輝達も同じ意見だ。七海の行動も、ハジメの行動も、信じられない。乱心でもしたのかと思い、光輝が止めようとした瞬間、ドンナーから発射音がし、ユエの肩を撃ち抜いていた。

 

「何してるの南雲く」

「ちょっとまって、雫ちゃん!」

 

「香織さんの言う通りです、雫さん!」

 

慌てる雫を、何かに気付いた香織とシアが止める。

 

「………魔力の流れが違う」

 

と、静かに声を出したのは鈴だ。言われて光輝と雫はしっかりと3人の魔力の流れを見た。それは、自分達の知るものではなく、安定した動きを見せているが、魔力の質や量、動きはまるで違う。それ以前に、あれだけの衝撃を受けたのに血は出ておらず、さらに撃たれた場所から血は出ていない

 

「聞いた事だけ答えろ、紛い物」

 

そんな中、周囲が凍るような冷たい言葉と殺気をハジメは放つ。それに、光輝達は呼吸が僅かに早まる。

 

「お前はなんだ?本物のユエはどこにいる」

 

ユエの姿をした何かは、表情が急に無機質なものへとかわる。ハジメはおそらく無駄だなとわかっているが、あえて反対の肩を撃ち抜く。それに全く反応をせず、無機質な表情を続けていた。

 

「答える気はなし。というよりも、答える機能がないってところか…もういい、死ね」

 

今度はユエモドキの額に銃口をむけ、今度こそレールガンで顔を吹き飛ばした。だが飛び散ったのは脳髄でなく、赤錆色をしたドロっとした液体、所謂スライムのようであった。頭部を失ったユエモドキは、胴体がドロリと崩れ、赤錆色の液体が地面に落ちた。それを合図とするように、龍太郎モドキとティオモドキの頭部が、七海の両手にもつ刃物、剣と大鉈で切り落とされ、同時にユエモドキとおなじく、どろりと溶けて地面に落ちた。

 

「これが大迷宮の洗礼ってところでしょうかね」

 

「ああ。全く、ほんとうに反吐がでる」

 

「ハジメ君、ユエとティオ、それに龍太郎君は…」

 

「転移の時、別の場所に飛ばされたんだろうな。あの時、僅かだが神代魔法を取得する時の、記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持ったスライムに記憶を植え付けて成りすまし、隙を見て背後からってところだろうが…それよりもだ」

 

ユエをダシにされただけでも腹立たしいのに、それと同じくらいに、七海の行動に腹を立てていた。

 

「おい七海先生!坂上と…まぁ、ティオはギリギリ許すが、ユエモドキを真っ先に攻撃したのは、余計なお世話だぞ」

 

「どういうことですか?」

 

シアが疑問符を浮かべて聞く。

 

「もうこの旅も長いから、大体わかんだよ、こっちも。おおかた、偽物とはいえ、俺にユエを殺させたくなかったってところだろう?」

 

「………そうだとして、問題がありますか?アレはユエさんではありませんし、私が位置的にもっとも近い位置にいたんですから、対処するなら、まずはユエさんモドキの方でしょう?」

 

「それっぽいこと言いつつ否定しないのかよ」

 

「…そうですね。君の言う通りです。たとえアレが偽物だとしても、君に彼女を殺すということをしてほしくなかった」

 

「それで俺が動揺するとでも?」

 

「いえ、思ってません。単なる私の、自己判断です。申し訳ない」

 

ハジメは「フン」と鼻を鳴らす。呆れ感情が強い

 

「舐めんな。確かに俺はあんたに比べたら子供だがな、割り切ることくらいはできる。つか、ユエの偽物だからこそ、俺がぶっ潰したいんだよ。次やったら邪魔と認識するからな」

 

「…わかりました。確かに、今のは君を軽視しすぎでした」

 

と素直に謝ると、次に光輝達、それとシアと香織を見る。

 

「皆さん、油断し過ぎです。特にシアさんと白崎さんは大迷宮が初めてではないんですから。魔力探知の〔+視認(上)〕以上を持ってるなら、もっと早くに反応して下さい。コンマの遅れが死につながる場所なんですから」

 

ぐうの音も出ないとはこの事だろう。実際香織とシアは気付くのに少し遅れた。光輝と雫に関しても、すぐにわかるはずなのに、最初の七海の行動に驚き、忘れていた。

 

「それと、谷口さんはすぐに気付いていたようですが、対応が遅いです。大迷宮内では、自身の行動を1テンポ早めるイメージを常に心掛けて下さい」

 

「…すみませんでした」

 

実際は七海とハジメが早すぎたのと、まだ訓練である程度ブランクを戻したとはいえ、やはり完全ではないからだ。

 

「初手でいきなり分断されましたか…急ぎましょう、南雲君。ユエさんとティオさんなら大丈夫でしょうが、坂上君は実力が低いと言いませんが、君達に劣る。万が一があるので」

 

「ハイよ。(生徒思いだな、ほんと)」

 

 




ちなみに
陰森凄幽:植物が生い茂っていて、極めて静かで、薄暗いこと。
樹、森、木のいずれかを使いたいと思って探したらいいのがありました。

ちなみに2
ハウリアの襲撃訓練で1番容赦なかったのは、ああ言ってたけどバルトフェルトことパルです。あと他の兎人族の訓練もありますので、カムを含めてハウリア全員がしていたわけではないです。

ちなみに3
正直言ってトレイシーがこのまま樹海の大迷宮行かせるかは悩みました。彼女の役割は一旦終わりましたし、でも性格的に自分の力でもないのに条件がある樹海いくか?と思い、結局はこうしました。
原作と違い、ハジメが攻略した時と同じなんですが…とりあえず、ミレディ、乙(笑)

次回からはだいぶ樹海編に変化があります。この大迷宮で光輝に降りかかるものは最低でも2つ
1つはたぶん次回に出せる。もうひとつは、その次かな?

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