ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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5月出せず申し訳ないです
現在、この小説の全話を修正中でして。すぐ終わると思ってたら、やりだすと「あ、ここはこうしたほうがいいな」ってのが見つかり、思ったより時間がかかり、ようやく半分くらいできたので、一旦次の話の投稿をしようと考え今回出しました。また修正再開しますが、次の話は7月3日にだします


陰森凄幽②

樹海の大迷宮に入って軽く数時間が経過した頃、羽音が聞こえてきた。昆虫の羽音だろうが、その音は扇風機の強が出すかのような、否、近付いてくるたびに轟音となって、大迷宮内に響いてくる。おびただしい数であるのが音でわかる

 

「魔物ですか…これが本当の初戦ですね」

 

先程のスライムは戦闘ではないし、大迷宮に入る前、来る途中の魔物との戦闘も真の大迷宮にいる魔物クラスの強さではないので、七海の言う通り、これが本当の初戦というのは間違いない。さっそく光輝は前にでて宣言した。

 

「七海先生!俺達が戦います!手を出さないでください」

「ではまずは八重樫さんだけで」

 

「ちょっ⁉︎」

「ハァ⁉︎」

「おい!」

「………」

 

七海の言葉に勇者グループは指名をされた雫含め、それぞれ驚きを見せる。七海はハジメの方に向いて「良いですか」確認をとっており、彼らの驚く様子にまったく反応してない。

 

「アレなら今の君達なら1人で対処ができるはずですよ。とはいえ、たしかに数がとても多いので全てとは言いませんし、八重樫さんを無視してこちらに向かう個体の相手はしますし、何かあれば我々も動きますので」

 

「雫さん!飛行形の魔物の中でも、樹海の魔物は特に回避能力がすっごく高いです!」

 

シアがアドバイスをするだけで止めない。つまりは彼女もできると思っている。確かにスピードファイタータイプの雫と近付いて来る蜂型の魔物は相性がいい。〝無拍子〟を使った緩急自在の攻撃に、魔力の視認によって動きをある程度見切ることで的確に当てることができるだろう。ただ1対1ならともかく、多対1では雫は殲滅力に欠け、押し切られるだろう。

 

…これまでならば

 

「はぁぁぁぁぁ…ふぅぅぅぅ」

 

雫は覚悟を決め、大きく息を吸い、吐く。

 

「雫ちゃん、がんば」

「香織さん、ストップです」

 

声援をしようとした香織をシアが止める。今から彼女がしようとしてる事に、大きな集中がいるのがわかるのだ。何せ、最初にそれを見たのはシアで、その時はぶっつけ本番であるとわかるくらい未熟であるのがわかるが、ちゃんと集中すればもっと良い物であるとも分かるし、何より今なら、より洗練され、完成に近付いていると確信できる。

 

「………」

 

「雫!」

 

光輝が思わず声に出す。当然だ。迫り来る魔物の前で、雫が目を閉じたのだから。魔物は真っ先に雫へと向かう。何体かはその後ろの光輝やハジメ達にも向かうだろうが、多くは雫を標的にしている。

 

(感じる。音と、気配と、魔力)

 

だが、彼女は完全にゾーンに近い地点にいた。

 

彼女はいずれ来る、七海より強い敵とあった時のものとして、考案していたものがあった。王都の襲撃時にはまだ完成していないのと、恵里の行為に混乱していた部分もあり、できなかった技。

 

 

術式を使い、瞬間移動をしてくるシアの魔力を追うのは困難で、どうにか反応しても回避はできず、防御になる。実はその時点でシアにとっては驚きだった。何故なら呪術使用中のシアは時間軸から一時的に消える為、気配を追うのは不可能なのだ。それを、現れた僅かな瞬間の気配を感じて防御をするのだ。

 

『雫さん、防御をやめてみたらどうですか?』

 

唐突に、別にアドバイスをしたわけでもなく、思った事を告げるシアだが、それがどれだけとんでもない事を言っているか気付いてない。

 

『いや死にますって⁉︎』

 

雫はシアが手加減してくれていることはわかる。正直防いでも本来ならその時点で致死レベルのダメージを負うこともわかる。それなのに防御を止めろとはいかがなものかとツッコミをいれる。

 

『大丈夫ですよ。ちゃんと手加減しますし、治療する人達もいますし、雫さんなら大丈夫です』

 

最後は絶対根拠のない自信だと雫は感じた。

 

『どうにか防御するのが手一杯なのに、それを』

『ですから』

 

シアはぴょんぴょんと跳ぶ。そのたびに雫の奥底の感情が

 

(揺れるウサミミ可愛い!)

 

と思いつつ話を聞く。

 

『その手一杯の行為を、防御じゃなくて攻撃に変えてみてもいいんじゃないですか?それに、多分雫さんは、〝気配感知〟を持ってますよね?しかも結構強力な』

 

シアの言う通り、確かにもっているが、そこまで強力なものではないはずだ。というは雫の感想だ。ここ最近は雫は自分のステータスプレートを見ていない。加えて、雫自身の性格もあり、気付けなかった。

 

シアはこれらを言葉で言い表すことができなくとも、感覚で気付いていた。雫に必要なこと…踏み出すことへの意欲。

 

『いえ、あるいは強化しかかってるんですか?まぁ、なんにせよ、次、用意して下さい』

 

シアは動く姿勢になるが、今度は術式を使わずにまだその場に留まる。雫が構えるのを待っているのだ。雫は刀を前に出して、構える。瞬間、シアが消え、雫の後ろにいた。

 

『っ!』

 

『また防御ですよ』

 

攻撃を受けるたび、雫は無茶言うなと叫びたい。が、また来ると感じる(・・・)。雫は今できる最大限に集中をする。そして

 

『…がぁ!』

 

吹っ飛ばされた。雫の攻撃は当たらずシアの身体をすり抜けて、逆にシアの攻撃はヒットして、そのまま雫はズザザァと転がるなか、体勢を直して止まる。シアが治療班にお願いし、雫に回復魔法をかけられる

 

『できたじゃないですか』

 

『…今、何が』

 

なぜ攻撃がすり抜けたのか?今の感覚は何なのか?2つの疑問が同時に雫の頭を駆け巡る。

 

『術式を使った回避、使わせましたね!すごいです!』

 

それよりも、自分以上に喜んでいるシアの表情と、動くウサミミが印象的だった。

 

 

 

その時はまだ未完成で、しかもぶっつけ本番だ。前々から戦闘スタイルに組み込もうかと思って考えていたが、試す相手がいなかった。

 

王都での死が近付く重圧と、訓練とはいえ圧倒的な強者との戦闘。すでに雫は1ランク上の地点に到達していた。

 

〔+攻撃感知〕気配感知の技能に追加されたものであり、攻撃、もしくは攻撃的な行動に対する感知能力の向上。これにより、雫はシアの術式による攻撃を防御していたのだが、そこに〝先読〔+投影〕〟。さらに〝剣術〟に新たに加わった〔+居合速度上昇〕と〔+納刀速度上昇〕。これまで彼女には斬撃と抜刀の速度上昇の技能があったが、これらにより生まれた剣術、居合斬りはまさに最速。

 

「魔物が、切り刻まれていく」

 

光輝はあいた口が塞がらず唖然と呟く。

 

近付く敵にピンポイントで切り裂き、蜂型魔物の針の発射による遠距離の攻撃は針を切り落とし、ハジメが改良した黒刀から出る不可視の風の刃が切り裂き、もうひとつの能力、放電する力を刀から極微量だが自身にもかけ、付与に近いことをし、肉体の電気信号速度を上げている。彼女が目を閉じたのは、集中するだけでなく、格段に向上した電気信号速度によって、目から入ってきた情報量で脳を圧迫するのを防ぐ為。

 

(目を開けれるようになれば、コレは完成する)

 

今彼女は、視覚以外の情報…魔力感知、聴覚、気配のみで切っている。視覚情報も入れて攻撃できるようになったなら、まさしく完璧だろう。

 

「いくつか取りこぼしがありますね。南雲君、それらは撃ち落としてください」

 

「俺の攻撃に八重樫が反応しねーか?」

 

「自身への攻撃のみでしょう。取りこぼしはこちらからに向かう個体がほとんどですし、問題ないかと」

 

なるほどなと感心して、ハジメは雫の取りこぼしを撃ち抜く。

 

(一応、敵の気配がいきなり消えますし、集中力の低下があるかと思いましたが)

 

(!数が減った…それに今の音は、南雲君……なら、行ける!)

 

(むしろ上がっているような。気持ちの問題でしょうか?)

 

そうして、蜂型の魔物を殲滅した。割合で言うなら、7〜8割が雫。残りはほぼハジメといったところだろう。

 

「八重樫さん、回復を受けて下さい。微弱とはいえ自分に電気を流していたんですから」

 

「あ、はい」

 

香織に回復されている雫を見つつ、七海は雫の資質と、新たな力に驚いていた。

 

(日下部さんほどにないにせよ、凄まじい剣撃ですね)

 

七海はシン・陰流 の使い手にして、自身と同じ1級呪術師の日下部のことをあえて雫に伝えてはいない。シン・陰流の戦い方を聞き及んだ程度の情報で、完成がいつになるかわからない技を磨くより、今ある雫の能力を上げるのが先決と考えたからだ。それでも、七海が知る中で御三家を除いた1級呪術師の中で最強の日下部を彷彿させる剣撃に関心していた。

 

「南雲、何をしているんだ?」

 

回復を受ける雫を光輝は呆然と見ている最中、ハジメは蜂型の魔物の死骸に近付き、片腕で持ち上げた。

 

「食べるんですか?」

 

衝撃的な質問を七海がした事で、光輝達が「え?」と真顔になる。

 

「いや、八重樫1人で勝てるレベルなら喰っても意味は無さそうだ」

 

「いやそんな事より、今の発言だと、これまでも食べたことがあるの、魔物を?」

 

「あれ?言ってなかったか?」

 

「そういえば、私の事やエヒトの事などは話しましたが、南雲君の事は話してませんね」

 

ハジメと七海のそのやりとりで、事実なのだと分かった雫は若干後退りしながらドン引きしていた。

 

「自分と同等以上の魔物を喰うと、そいつの固有魔法を会得できることがあるんだよ」

 

「一応言いますが、真似しないで下さい。本来なら肉体崩壊を起こして死亡します。今彼が生きているのは、神水と呼ばれる秘薬で肉体崩壊を防げたからで、なければその時点で死んでます。運が良かったんです、神水があったこと含めて。もしかしたら、それありきでも崩壊した可能性もあります。現に、彼の身体は改造を受けたと言ってもいい変貌をした。そうしなければ生きれない程追い詰められたからであって、本来ならすべき事ではないです。それを理解してください」

 

ハジメも真似するなと言うつもりであったが、真っ先にきちんと注意をするあたり、さすがと、七海に感心していた。

 

「………」

 

「天之河君、何を考えてるか知りませんが、もし俺もそうしていればとか考えたなら、それは捨てなさい」

 

「⁉︎」

 

「多くのものを切り捨てて彼はその強さを得た。あまりにも多くのものを。今彼はそれを拾い集めている最中です。それを理解せずにいるのは、味わった苦労と苦悩を侮辱する行為です」

 

「わかってます!…わかって、ますよ」

 

今の七海の注意は、光輝には図星の部分が多くあった。自分が戦っても苦戦するだろう相手を喰わないと言う事は、ハジメにとっては雑魚という事実が、焦りを生んでいた。

 

「……天之河」

 

「っ!なんだ?」

 

「今はお前の幼馴染を探し出す事だけ考えてろ。あれこれ悩む暇は、大迷宮(ここ)にはない」

 

「…わかってる。……わかってるさ」

 

多少棘のある言葉だが、ハジメなりに光輝に気をつかう言動をした。これは大きな変化だ。同時に

 

(やっぱり、張り合わないフリをしてる)

 

大きな変化であるが、同時に多少とはいえ、光輝にわざわざ自分からアドバイスしてる点を見て、七海はそう思う。

 

(以前の自分と比較してるのでしょうかね)

 

今の光輝は決して認めないだろうが、その焦り原因は、自分にない力と人望への劣等感。これまで持っていたものを掠め取られた事への嫉妬。ハジメはそれに気付いて、それが気に入らない…というより、同族嫌悪に近い感情を抱いているのだ

 

(まぁ、そこまでしても、天之河君がその感情を律するかどうかまでは、面倒見ない…というよりどうでもいいんでしょうね。あるいは…)

 

七海がどうにかするだろうと、他人任せにしてるか。おそらく…というより確実に両方だろう。

 

「八重樫さん、あなた1人に任せた私が言うのもなんですが、今の技は完成するまでは、なるべく控えてください」

 

「は、はい!」

 

技の弱点と欠点を見極め、七海は注意をしておくが、使うなとは言わない。必要かそうでないかを見極める技量があると信じているからだ。

 

「回復も終わりましたし、行くとしましょう。ユエさんとティオさんはともかく、坂上君は、未熟です。早めに」

「それは大丈夫じゃね?たぶん」

 

七海の言葉に割り込んでハジメは言うが、たぶんという雑な感想に、七海の視線が厳しいものになる。

 

「別に適当に言ってるわけでもねぇって。忘れたか?1日とはいえ、あいつの師事をしてたのは、俺だぞ」

 

確かにその通りだが、関わって来た時間は圧倒的に七海の方が上だ。ある程度の成長スピード見極めている。今の龍太郎が大迷宮を1人で攻略できるほどの実力がないことも

 

「いやまぁ、確かにあいつには今色々と問題点が多いが、それでもハッキリと言えるぞ。本気状態のアイツは、そう簡単に落ちないぞ」

 

「………その本気になるのが難しいんじゃないですか?」

 

ギクゥ!効果音が付たように、ハジメの身体がビクッと震える。

 

「気付いてた?」

 

「ええ。帝国で一時的に共闘した際に、感じました」

 

どういう訓練をしたかはしらないが、口調の変化と徐々に上がっているボルテージですぐにわかった。

 

「もう一度聞きますが、本気になるのが難しくなっている彼が、この大迷宮で戦えるんですか?」

 

「………」

 

「目を逸らさないでください」

 

「い、急ぐぞ!うん!急ごう!」

 

「…ほんとに、1日とはいえ師事をしたのですから、カムさんほどにないにしろ、もう少しくらい彼の扱いをよくしてください」

 

懇願にも似た七海の注意を、少しだけ冷や汗をかいて聞くことできる分、ハジメも成長しているといえば、していた。

 

 

 

探索と捜索をし始め、小1時間ほど経った。道中の魔物は基本的に光輝達が倒していた。現在、石器を装備した猿人のような魔物を相手にしているのは鈴だ。

 

「〝聖絶:縛〟」

 

それらを〝聖絶:縛〟で捉える。ここから出せと言わんばりに魔物は結界の内側を攻撃するが防御の比率を内側のほうに集中させているので、そう簡単に突破できない。そして、ここで更に驚きの行動にでる

 

「〝聖絶:圧〟」

 

前に出して広げていた手をグッと、ゆっくりと握り潰すように握る。瞬間、〝聖絶〟の結界が狭まる。何をするのか気づいた魔物は慌てて先程よりも強く棍棒や石を打ちつけるがその程度で破壊などできるはずもない。狭まる結界が多くの魔物を密集させていき、身動きが取れなくなる。

 

「潰れろ」

 

グチャリ。生きている生物の肉が潰れる気持ちの悪い音を立てて、〝聖絶〟は真っ赤な平面の板のようになり、結界を解いた瞬間、ベチャっと血肉が地に落ちた。

 

「次は、お前達。〝聖絶:囲〟」

 

以前は複数展開できるが、小さな魔物程度を閉じ込める程度であったが、

 

「〝聖絶:圧〟」

 

今は最大展開数を減らす事で、最大で人間の大人ですらも、単体で捉えることができる。今の鈴ができる最大展開数は10であるが、今回は自身の周囲いた魔物、合計6体のみを対象にした。それらは先程と違い、もがくこともできずに圧殺された。

 

〝聖絶:圧〟。捕える為に展開した結界を狭めることで、相手を押し潰す。だが鈴がしている行為は、そう簡単にできるものではない。領域展開ほどにないにしろ、結界の構成を後から変えるのは至難の業。見本でもない限りは……

 

 

『どうでした?』

 

仰向けに倒れて清々しい汗をかいて気絶しているトレイシーを無視して、シアが不満そうに聞く。

 

『やはり、内部の必中ルールが変更されると、そのルールにもよりますが、結界そのものの構築も変わっているようです』

 

『私には呪力と呪術については専門外ですけど、結界は感覚的に理解できますし、もっと博識な人達も今回はいますし』

 

鈴の言うとおり、領域を囲む形でユエとティオも見ていたうえでの見解だ。

 

『だとしたら、こうして、ああすれば、あ、でも構築には… 〝聖絶〟のほうが、強度はいいかな』

 

 

「…痒い」

 

バリバリと頬を引っ掻き、血が出ているが、それは魔物に恐怖感を与えるには充分であった。自分達が傷1つ付けれない相手が、勝手に自分から傷をつけてこちらを睨むのだから当然だろう。

 

猿もどきの魔物は素早い動きと周囲の樹海を活かして攻撃してくるが、それらは鈴には意味がない。鈴は自身の周囲にも結界を構築し、敵の攻撃を防いでいた

 

さらにどれだけ素早く動いても、魔力を感知して捕えれば意味がなく、魔物側は相手が動いてくれないので攻撃の方法は次第に偏ってくる。

 

「あれ、多分トレイシーさんの領域の変化を見たおかげでしょう…ねっと!」

 

鈴のほうに来ていない魔物をシアがドリュッケンで潰しつつ、考察していた。結界術の才はシアには元々なかったが、空間魔法の習得から、最近のトレイシーの領域を使った無理矢理スパーリングに付き合っていたのもあり、感覚的にもわかるようになっていた。

 

「じゃろうな。それにしても…」

 

「ん。ハジメ、あの子のアーティファクトに空間魔法は」

 

「付与してねぇよ。あいつ、限りなく神代魔法に近いことをしてやがる」

 

「あれが、今の鈴」

 

「…………」

 

他の者達が鈴を評価する中で、光輝は戦慄した様子で鈴を見る。

 

「…白崎さん、谷口さんに回復魔法を。彼女の集中の邪魔をしないようにできますね?」

 

「ハイ!」

 

香織は遠隔で回復をかけ、引っ掻いた傷を治す。

 

「…」

 

回復された事に気付いた鈴は僅かに香織を見て、すぐに魔物に集中する。

 

「む?」

 

鈴の近くの茂みがガサガサと動くのに気付いた七海は、新手の魔物が来る事を鈴に伝えるとそこから現れたのは

 

「!」

 

「鈴、起きたんだね…よかった…私、心配したんだよ」

 

中村恵里だった。正しく言うなら、大迷宮に入った時のスライムと同じ固有魔法を使った魔物だ。大迷宮に入った者達の情報は魔物に伝わっている。そこから読み取り、鈴の精神をもっとも掻き乱す相手を導き出したのだろう。

 

「鈴、ありがとう。目覚めてくれて」

 

「鈴の笑顔が、また見たいな」

 

「鈴」

「鈴」

「鈴」

 

周囲の猿もどきの魔物がどんどんと恵里の姿をし、鈴に近づいて行く。

 

「………恵里」

 

その中の1体に、鈴は手を伸ばす。あと数センチで触れられると思った瞬間

 

「っ!ふっ!」

 

ザシュッ!と恵里の胴体を真っ二つになる。

 

「あ」

 

思わず鈴は声をだすが、そうしている合間にも七海が恵里に擬態した魔物を倒していく。倒されいく最中、断末魔をそれぞれあげていく。そのどれもが一瞬だけ恵里の声だ。残りの恵里もどきを、拳に呪力を込めて、粉砕する為に走って接近する。

 

「鈴、助けて」

 

悲壮感のある声で、助けを求める声を鈴に向ける。

 

「っ!」

 

瞬間、ズドンと腹に七海の渾身の一撃が入り、ふっ飛ぶ。見えなくなる瞬間、姿が魔物になった。死んだ証拠だろう。七海はそれを確認しつつ、鈴の元へ行く

 

「ありがとうございます、谷口さん。最後はちゃんと、動けましたね」

 

七海の言う通り、最後の1体は逃走をしようとしていた。だが、帝国でトレイシーにした〝聖絶:縛囲〟を恵里もどきの足首に展開し、動きを封じた。

 

仮にしていなくても、ハジメが撃ち抜いていただろうが、七海が仕留める手助けになったのは事実だ。

 

「………ごめんなさい、七海先生。次は、もう大丈夫です」

 

あの時、あのまま手を伸ばしていれば、おそらく鈴の胴体は石槍が貫いていただろう。鈴もそれを理解しているのか、下を向いて、手を握り、悔しそうにしている。

 

「最初から、偽物とわかっていたあなたが、この先も大丈夫と本当に言えるんですか?」

 

「⁉︎」

 

そう、鈴は気付いていた。見た瞬間に。目の前で擬態した個体もいたのだから尚更だろう。それでも、一瞬戸惑ってしまった。躊躇してしまった。

 

「谷口さん、この先に現れる中村さんに擬態した魔物を相手に、本当に動揺せず倒す事ができる自信はありますか?」

 

鈴は即座に、

 

「できます」

 

迷う事なく、ハッキリとそう言う。そこには迷いはもうなかった。次に見たら本当に容赦なく殺すだろう。

 

「…いいでしょう。では南雲達のほうへ」

 

行きましょうと言おうとした瞬間、七海の視界と意識がブラックアウトされた。最後の瞬間、ハジメが目の前にいたことだけは理解できた。

 

 

「それで、何か言うべき事があるんじゃないですか?」

 

血管が破裂しそうな程に浮き出て、七海はハジメに聞いている。ビキビキと効果音が聞こえるようだ。

 

周囲はプスプス、メラメラと業火と爆発の跡があり、地獄のような光景が広がっている。それに合うように、七海は怒りの業火を燃やしている。いたって冷静に聞いているが、声量は普段よりも高い。

 

なぜこんな事態になったかと言うなら、100%ハジメが原因である。鈴の方へ七海が離れた直後、同型の魔物の集団が茂みから現れ、奇襲を仕掛けてきた。とはいえ、それでハジメ達を打倒できるかといえば、もちろんそんな事はなく、現れた瞬間にハジメに乱れ撃ちされて半数以上がやられた。

 

その瞬間、魔物達はハジメに脅威を感じたのだろう。先程の鈴に見せた擬態をハジメにした。…それが、最大の悪手とも気付かずに。

 

茂みから擬態で変身してきたのはあろうことかユエだった。しかも傷だらけのあられもない格好で、為す術なく引きずられる姿。その瞬間、ハジメは考える前に〝縮地〟で距離を詰めてまず近くの光輝、次に七海の方へ行き、視線がユエもどきに行く前に、視界を遮る事にした。どれだけ七海が恩師であろうとも、好きな女性の裸を他の男に見られたいとは思わない。たとえ偽物であってもだ。

 

だが魔物は更に愚かな失態をしてしまう。僅かばかり理性を保っていたハジメに、目の前でユエもどきに下衆な笑みを浮かべて殴りつけた。トドメにユエもどきはハジメに目を向けながら涙を浮かべて悲壮な声で「……ハジメ、助けて」と言ってしまった。

 

そこでハジメの理性は完全にキレた。ありとあらゆる、破壊兵器で周囲を焼き払う。キレても七海やシア達に光輝達に被害が出ないようにノイント戦で使用した空間魔法を付与した防御、今回はクロスビットを使ったものではない簡易式の装置だが、この地獄の業火から守るほどの防御はあった。四方は見える限りは完全に焼失し、一時期のフェアベルゲン並に酷い有様であった。

 

それでも尚暴れるハジメを止めたのは、気絶させられた七海が目を覚まし、瞬時にハジメに近付き、怒りの鉄拳を頭上くらわせた。いつものハジメなら防御できていただろうが、怒り狂ったハジメは、七海相手にはあまりにも無防備であった。そして今、頭上に大きなタンコブを出したハジメが正座して怒られていた

 

「まぁ、100歩譲って偽物とはいえ大切な女性の裸体を他の男性に見られたくないのは理解します。そしてあの状況で私が見ないようにするにはあれしか方法がないことも理解しましょう。ええ、しましょう。痛みもなく気絶させたのも、この際評価しましょう」

 

「ぜんぜんしてる気がしねぇ」

 

「なにか?」

 

「いえ別に」

 

「…ただ、先程から目をおさえて悶えている天之河君と、この惨状はやはり目に余ります。とくに後者は」

 

光輝は七海と違い、指を眼球にプスっとつっこんだことによるものだ。「目がぁ〜‼︎目がぁ〜‼︎」と今も喚いてる。七海は香織に視線をおくり、回復を促した。

 

「そこは前者じゃないんだ」

 

「どちらかといえばです。…君がユエさんやシアさん達を大切に思ってるは知ってますし、理解してます。それを他の人にも広げろとも言いません。ただ、怒りで我を忘れるなど、ヘマ中のヘマです。普段の君ならさっきの私の拳骨に対応できたでしょうに」

 

「!」

 

「怒りたくなる気持ちも、感情的になる気持ちも理解はしてます。ただ、呪術師にとって重要なトリガーです。相手を怒らせてしまったばかりに、格下に負けることもありますし、逆に怒りで呪力を乱し、実力を発揮できず負けることもあります。仮に呪力を君が使えなかったとしても、私は同様の注意をしたでしょう。それほどまでに、怒りという感情は戦闘において、様々な障害を生む。それを理解できない君ではないでしょう」

 

ハジメは何か言いたそうだが、言う前に七海は更に詰める。

 

「並大抵の相手なら、たとえ特級レベルでも君は勝つでしょうが、もし今の私の攻撃が一撃必殺の技であれば、それで終わってます」

 

実際なんとかなっただろなんて適当な言葉は言わせない。七海はハジメの今の在り方を否定はしないが、肯定もしない。ただ事実に基づいた事だけを淡々と告げた。ハジメは舌打ちしつつも、理解し「わかったよ」という。大抵の人が聞けば適当にわかったフリをしてるだろうなと思うかもしれない。だが、仲間認定していたとはいえ格下の七海に一撃くらったのは事実なだから、内心は反省の方が圧倒的であるのは、これまでの付き合いで七海もわかっている。

 

「…歩みを止めてしまい、申し訳ない。天之河君、大丈夫ですか?」

 

「もう、だい、じょぶ、です。でも…おい、南雲!俺と七海先生で扱いが違い過ぎないか!危うく失明するところだったぞ」

 

「まぁ、1番ユエもどきに近い位置だったから、手加減が下手だったのは謝るが、でも偽物とはいえ他の男に自分の恋人のあられもない姿なんて、なんとしてでも見せたくないって思うもんだろ?」

 

「なに常識みたいに…いや、常識かもしれないが、少なくとももっと他にあったろ」

 

「おお、そういうの認められるようになったかぁ〜偉い偉い」

 

「…バカにしてるだろぉぉ!」

 

「はぁ、ハイそこまで。南雲君も煽らないでください」

 

「え?結構本気で感心してんだけど」

 

「それでですか?」

 

その言葉でまた睨み合いからの光輝の一方的な言い争いになりそうなとき、

 

「2人とも静かに」

 

七海は茂みの奥から何かを感じた。

 




ちなみに
今回の樹海の大迷宮編は、原作でこの樹海の大迷宮編を始めて読んだ時、「ここをもし1人で入ったら、変身する魔物はどうなるんだろう」という自分の考えのもとに書いてます。
原作を見ると、基本的に大迷宮4つを1人で攻略はほぼ無理だと思います。ただ、もしかしたらできるかもしれないことや、何かしらの理由で樹海の大迷宮に1人で入るという可能性を解放者が考えないとは思えないので、そうなると大迷宮はどういう対応をしてくるかと考え、入った人物の心を抉れ、且つ絆を試せるものに化けると思い、恵里の姿を出しました。

そして七海がいることで…



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