七海建人は語る。なぜあの人物を評価するのかと。
「基本的に、私が鍛えてきた子は全員優秀ですよ。今回の真の大迷宮についてこなかった方も含めて。ただ、私が当初から心配していた4人は、精神的な部分で心配してましたが、その理由の最大の要素は、彼らの強さ…いえ、才能の部分ですね。全員が私を超えることのできるだけの才があった」
例としてあげる人物は、白崎香織。
「白崎さんの場合、南雲君への想いも含めて、暴走しがちなとことも心配でしたが、同時に鍛えるたびに上がる戦闘能力は、正直なところ驚きでしたよ。もし彼女の生まれた場所がトータスのような戦争のある場所であれば、どれほどの活躍をしていたでしょうね」
そして、もっとも評価している人物について。
「あの人の場合、1番に驚いたのは成長速度です。本人はどう思っているか知りませんが、正直言うなら、4人中では、もっとも早い。…大抵の人から…特にトータスの人から見たら、自分達より強く成長も段違いだが、4人の中では遅いと思うでしょうけど。…ただ、期待できるものがあった。もしかしたらとね」
だから最初からしっかり鍛えるつもりではあった。
「もちろん当本人の気持ち次第でしたけどね。それともうひとつの理由として、これも本人が自覚してるか不明ですが、イカレ具合ですかね。戦う理由を聞いた際、思ったんですよ。あぁ、この子は良い意味でイカレているとね」
そして全員に共通する心配する面
「才能と強さ。元の世界になかった魔法という能力をもった故の暴走、精神の不安。力を持つことで、それがどのように作用するのか」
特に目にかけていた者ではないが、実際、その力に溺れた者はいた。
「だだ、それでも、彼らは私の予想なんか何度も乗り越えてきた」
それでも心配するのは、個人の心配している面。ただ、1人。白崎香織に関して言うなら、彼女はそれを乗り越えた。もう1人、八重樫雫に関して言うなら、己の弱さに気付いている。あと必要なことがあるとすれば、必要なものを、
「そしてあの人は、先程言ったイカれている面にも起因するのですが、才能の上に努力しながらも甘い考えをもっていた。それが今は、この世界で受けた被虐によってまた別の意味で心配になる案件が生まれてしまった。大迷宮での結果しだいでは、考えなければなりません」
閑話休題
*
最終的に香織が残った者も分解で目覚めさせた直後、琥珀の柩の部屋の中央が淡く光を放ち、魔法陣が浮かび上がった時、またも転移の魔法で移動させられた。そこは大迷宮に入って最初に見た樹海であるが――
「最初と同じ場所……ではないようですね。流石に振り出しに戻すみたいなことはしないようですね、解放者も」
「いや、いたぞ、そんな解放者」
七海の考察に対して言うハジメは、心底イラついた表情を見せる。そしてハジメの言う解放者を知るユエとシアも、同様にイラついた表情になっていた。藪蛇の可能性がした七海は話を逸らす。
「それより、今回は全員いるようですね。偽者もいませんし」
七海が言う通り偽者はいない。それは魔力の視認ができる全員が認識していた。ハジメも目視だけでなく感覚的にも偽者はいないと判断し、出発の号令をかけようとした時、2人の人物の表情が目に入ってきた。光輝と鈴だ。先程の試練で見せられた夢が相当効いたのだろう。鈴は自力で目覚めたのだが、目覚めた瞬間に吐き出した。
夢の中で何を見たかはなんとなくだが想像ができる。吐き出したあと、鈴は小声で何度も「恵里、ごめん、ごめんなさい」と繰り返していたのを見るに、夢の中で恵里と会ったのだろう。鈴はまだ見ていない恵里の本性がない、これまで見てきた偽りの恵里を。だが気になるのはそこから抜け出したということ。受け入れがたい事実を見てない分、鈴が夢から覚めるのは難しいはずなのに、彼女は目覚めた。
光輝も表情と瞳に暗い何かを宿しており、じっと自分の手のひらを見ていた。光輝が夢で何を見たかはわからないが、目覚めてから呆然としているところに、七海が声をかけた瞬間、ビクリと驚いていた所を見るに、夢の中の七海に何か言われたか、もしくは違いに驚いたのか。どちらにしても、いい思いはなさそうであった。
「天之河、谷口。お前ら進む気あるのか?」
そんな2人に対して、ハジメは辛辣な言葉をかける。仲間思いの龍太郎が目尻を釣り上げてハジメに抗議しようとするが、ハジメに睨まれた瞬間、ビシィ!と姿勢を正して気を付けをした。それを横目にハジメは続けて言う
「ここは大迷宮だ。1歩先、1秒先に、常に死が手ぐすね引いて待ってる場所だ。最初に入ってきた時七海先生も似たこと言ってただろ?」
光輝と鈴はその時のことを思い出していた。特に鈴は偽者に気付いて尚対応が遅いと言われたのに、その注意を活かせていない。2人が七海に言われた事を思い出しているのを感じたハジメは更に続けて言う。
「集中できないようなら、ここで攻略をあきらめろ。できるかどうかはわからないが、できそうなら大迷宮の外までゲート開いてやるし、出来なかったとしても、俺達が戻るまでの待機場所として、結界を敷いておくくらいはしてやる。七海先生も、それでいいだろ?」
「ええ、構いません。優先すべきは命ですし、このまま進めば正直君達2人は足手纏いになります」
ハジメと七海の言葉を聞いた光輝は、歯をギリリと食い縛って怒りを鎮める。怒りはハジメと七海に対してではなく、自分自身にだ。ハジメと七海にこのようなことを言わせてしまった自分への怒り。ハジメ達がいるのだがら大丈夫という無意識の甘えを自覚したのだ。光輝はパンっと自分の頬を叩いて決然とした表情を見せ、それを見たハジメは軽く頷き、視線を鈴に向けた。
「谷口、お前は?」
視線の先にいた鈴は目についた涙の後を拭き取り、ハジメの視線に相対すように見て、ハッキリと告げる。
「大丈夫。もう平気。むしろ、覚悟ができた」
先程とは違う、暗く冷たい瞳を向けて鈴は言う。ハジメは不愉快そうな表情をしつつ、「ならいい」とだけ言い、先頭を歩き出した。それについて行く前に、七海は光輝と鈴にアドバイス件忠告をする為近付く。
「2人とも、進むと決めたのならいいですが、無理はしないで下さい。それと、この大迷宮はこちらの感情を揺さぶる事をこの先もして来るでしょう。呪力と同じく、魔力もある程度感情で大きく揺れ動いてしまいます。その辺の意識を忘れなければ、大丈夫かもしれません」
「「……はい」」
悔しさをにじませたような声で2人は言うが、理解はできていた。それを感じ取った七海は、すぐに先頭を進むハジメの方にやや早足で向かう。
「先程はありがとうございます」
ハジメの隣についた七海は、後ろにいる光輝と鈴に聞こえないように気を配りつつ、ハジメにお礼を言う。ハジメはいきなりお礼を言われたことに困惑し「あ?」と声がでる
「本来なら、あれは私が言うべき事でした。押し付ける気はなかったですし、君自身がそんなつもりで言ったわけではないことも理解してますが、それでも、ありがとうございます」
「…別に。七海先生の言う通り、あれは天之河達のミスで俺達が巻き込まれないようにする為の行為で、あいつらの為じゃない…って言ったところで、先生が感謝をするのはわかってるから、まぁ、気持ちは受け取っておくよ」
ハジメは「ふっ」と笑みを見せる。その表情はユエ達に見せるものとは別の笑みだ。その笑みをユエ達は微笑ましそうに、若干羨ましそうに見ていた。
*
樹海だというのに虫の鳴き声も、風による葉音もない。ハジメ達が草木をかき分ける音だけが、やけ大きく聞こえていた。
「静かすぎますね」
「うむ、なんとも嫌な感じじゃの」
七海とティオがそれぞれこぼした言葉に声は出さないが、同意して皆、緊張感と警戒感が強まる。ハジメは偵察用に送り出したアーティファクト、多目的蜘蛛型ゴーレムの《アラクネ》の映像を確認しつつ進んでいるのだが、魔物を全く見かけない。
「生物にのみ反応する罠というのも考えられるが、少なくとも、このまま何もないままなのは流石にないと思うが」
とハジメが呟いていると、上からトッと何かが当たる音がした。
「結界!」
目視では見づらいほどの薄い結界が展開されていた。そしてそこに、何か、液体のような物がある。
「雨?」
光輝が言う通り、ポツポツと水滴の量が増えてくるが、同時に全員の血の気が引く。樹海であるが、ここは大迷宮の中。雨が降るなどあり得ない
「ユエ!」
「大丈夫!
ハジメがいち早く異常性に気付いてユエに呼びかけ、阿吽の呼吸で障壁を展開するようにするつもりであったが、ユエすらも驚くことがあった。降り注ぐ雨を防ぐ薄い結界は、ユエが展開したものではない。
「谷口さんですね」
「ハイ」
七海の呼びかけに、鈴は肯定の言葉をだしつつ、今度は展開していた結界に魔力を注ぐ。すると今度はしっかりと目視できるレベルに結界が現れる。鈴は事前に〝聖絶〟を無詠唱で展開していた。しかもただ展開するだけでなく、この場にいる誰にも察知されないほど、薄く、視認しづらい物を。
防御力を下げた代わりに、鈴は維持力と展開力に力を入れた〝聖絶《無影》〟。魔力に反応する相手、もしくはハジメが反応できないほどの隠密性に優れた相手に対応する為のものだ。
展開したことを事前に告げてもよかったが、あえて鈴はしなかった。防御されているという事実に、皆が安心しないようにする為だ。おかげで全員がすぐさま周辺の警戒に移れた。
「南雲!周りが!」
冷静であったわけでもないが、光輝がそう言えたことがいい証拠だ。そして、緊迫した声で光輝が言う通り、ドロリと結界内の周囲の草木と地面から、降り注ぐものと同じ、乳白色の何かが滲み出てくる。
今展開している〝聖絶〟は球状の全方位型のものではなく、移動できるように反円球状。そもそも球状でも最初からいた場所には別だが、〝聖絶《無影》〟は
「スライムか?クソっ気配遮断タイプにしても、俺の魔眼石に反応しないってどんな隠密性だよ」
「言ってる暇はないですよ。各自対応をしてください。…谷口さん、その結界は維持してください。坂上君、彼女を守ってください」
七海の指示に龍太郎は「ハッ!」と強い声をだし、鈴に向かって飛びつくスライムに拳を叩きつけた。龍太郎の装備した籠手型のアーティファクトの効果で、七海の知る東京高2年、突然変異呪骸のパンダのゴリラモードの
「ちょっ、バカ、龍太郎!こっちにも飛び散って来ただろう!」
「この脳筋!思いっきり掛かったじゃない!」
「チィ!悪ぃ」
龍太郎の倒し方に光輝と雫が抗議し、流石に今の微本気モード〈ハジメ命名〉の龍太郎でも今のは悪いことしたと思ったのか、舌打ちしているものの、反省していた。
「全く、大丈夫か、しず……」
「ええ、大丈夫よ、光輝。こいつら案外簡単に死ぬわ……ってどうしたの?」
「えっ、いや、何でもないぞ!ああ、何でもない!」
「?」
ドロリとついた乳白色の液体を被った雫は、思春期の男子の光輝には刺激が強すぎた。思わず視線を外すしてしまうほど。
(簡単に、だと?)
だが七海は、雫の言っていた簡単に死ぬという部分が引っかかっていた。言われて気付いたが、龍太郎の籠手や、シアのドリュッケンの衝撃で飛び散るスライム。だが飛び散りかたがあまりにも異常だ。アーティファクトの効果を加味してもまるで最初からそういうふうに飛ぶように。現に飛び散る乳白色の液体は、七海が倒しても、ある程度飛び散る。ハジメは身体全体に覆うように〝纏雷〟を展開しているのでスライムがつくことはないが、飛びかかるスライムはぶつかった瞬間にある程度弾けて蒸発している。
(とはいえ、倒さないわけにもいかない)
しかも無尽蔵に結界の外でも溢れてくる乳白色のスライムは、結界を越えようと迫ってくる。そして防げているのは、鈴が 〝聖絶《無影》〟から通常の〝聖絶〟に
(つまり、こうして当たることそのものが攻撃…だとしたら、まずい!)
「南雲君!恐らくコレは攻撃です!」
「あぁ⁉︎見りゃわかるわ、そんな事!」
「違います!体当たりして、液体が付着する事そのものが攻撃です!」
ハジメが勘違いしていると即座に判断して追加で七海が言うと、ハジメの目がいっそうに焦りがでる。元々、ユエ達が乳白色の液体を浴びて、あられもない姿になっていくのを七海も含めて他の男に見られるのは我慢ならない。
不幸中の幸いなことに、事前に鈴が結界を張っていたので、ユエは最初のスライムに当たることはなく、以降結界内に現れる乳白色のスライムを焼き滅ぼしているので、あられもない姿になることはないが、だからといえ他の、ユエと同じくらい想いを抱くシアはもちろん、香織とティオを見られるのはOKなんて事はない。そういう事情もある中での七海の情報は、ハジメにある決断をさせる。既にシアのドリュッケンの衝撃波で飛散した乳白色のスライムの液体がシア本人と香織、ティオの身体についており、特にティオは顔面から液体受けてしまい、絵面的にアウトである。
ハジメは本当なら自分を除いた3人の男の目を今すぐにでも塞ぎたいが、七海の考えが当たっていた場合、次に何が起こるかわからない状況で、そんな事をするわけにはいかない。
(とはいえ、キリがないのも確か)
ハジメは既に結界の外にクロスビットを飛ばして外を見たのだが、乳白色のスライムに視界を埋め尽くされていた。しかも未だに天井からスライムが雨のように降り注いでいる。
「仕方ねぇ。おい、谷口!張ってる結果をユエと交代しろ!」
鈴の結界術の技術の向上は著しいが、それでもユエと比べた際はどうしても劣ってしまう。これからする殲滅戦に結界が耐えきれない可能性を考え、ハジメはユエと代わるように鈴に指示した。
「!…わかった。ユエさん、まかせます」
鈴はハジメの目的をなんとなく察した。
ユエは鈴の展開した結界に代わるよう、鈴が最初に張っていた結界の薄皮1枚分の位置に再び〝聖絶〟をした。それと同時に鈴は自分の〝聖絶〟を解除した。
(天井から降り注ぐなら、どこからか出てきているのは間違いないが、キリがない。無尽蔵の可能性もある。だったらまずはそこを塞ぐ)
ハジメは冷静に、されど急いで〝宝物庫〟から追加のアラクネを大量にだし、外のスライムの観察をしていた空間魔法を付与している円月輪も更に追加で出す。円月輪に付与された空間魔法でゲートを作り、そこにアラクネを送る。大量の大型蜘蛛が出てきて、且つ天井に張り付いている光景に、香織と雫は引き攣った顔をしていた。
そんなものはお構いなしにハジメは転送されたアラクネを通して天井と、地面に錬成をかける。戦闘に特化したものでなければ、今のハジメは100数体の同時操作を可能にしている。物量で乳白色のスライムが出てくる隙間という隙間を錬成で塞いでいく。次にメルジーネの攻略の際に出て来た巨大クリオネの魔物に使ったものと同様のタールを転送する。
(七海先生の言う通り、体当たりして液体が付着させる事そのものが攻撃だとしてもだ、こんな色である必要は別にねぇ)
つまり合理的な理由ではなく、もっと別の理由。悪ふざけ…タチが悪いと言える悪意。そしてその悪意に覚えがあった。ハジメと、ユエと、シア。3人が知る、ライセン大迷宮で見た悪意。その悪意が、ハジメの大切に降りかかった事実に、彼は、ハジメはキレていた。
「あの南雲君」
「あ?七海先生、どうしたよ」
「いえどうしたとはこっちが言いたいですよ。顔が、その、どうしました?」
なんとも言えないような感想をだす七海に、ハジメの頭の上でクエスチョンマークが出ていた。
「そのマスター、なんというか、ものすごく悪い顔になってます」
「龍太郎君、そこはハッキリと凶悪犯罪者の顔って言ってもいいと思う…あと、その言い方直して」
「奇遇だな、龍太郎、鈴。俺も、あいつがニュースとかで犯行声明をしてる光景が浮かんだ…あと、龍太郎、その言い方やめてくれ」
雫はツッコミを入れないが、苦笑するしかなった
「まぁ、いいです。それより急いでください」
「っと、了解した」
地球組の面々がテロリストでも見るような表情をする中、七海が指摘すると、ハジメは集中して殲滅の準備を続ける。
上空からゲートを通じてタールが雨のように降り注いだ後、次にするのは着火させる行為。クロスビットからの絨毯爆撃を開始した。発射される弾頭は、ナパーム弾。詰め込んだタールが着弾と共に撒き散らし、熱と爆破によって燃焼していき、あっというまに結界の外は摂氏3000度を超える、地獄絵図と化す。最初のタールにももちろん引火し、周囲の木々を焼き尽くし灰にしていき、それでも尚、炎は全てを消滅させるごとく燃え、一部の壁などをどろりと溶かしていく。
全てのタールが燃え尽きた後は、灰燼に帰した樹海。熱と、ガスが充満し、一部は溶岩となって溶け、灼熱の海となった光景だった。
「ユエさん、まだ結界を解かないでください。可燃性のガスに加えてどのような成分を含んだかわからない植物と魔物の燃焼臭、更に新手の魔物が来る可能性もありますので」
「七海先生の言う通りだ。とりあえず、巨樹までの道も焼き尽くしたから、そこまでの道を錬成するのに時間もかかるしな。あのスライムの総量もわからない上に、身体についたことで何が起こるかもわからない今は、あらゆる事態に対応できるようにしておいた方がいいからな」
七海とハジメの提案を受けたユエが、「ん」と頷いて快諾したことで、一時的だろうが危機を脱したのを実感し、光輝達は肩の力を抜く。ちなみに女性陣含めて身体についた乳白色のスライムは、香織によって取り除かれた。
「白崎さん、ありがとうございます」
七海がお礼を言うと、香織は嬉しそうに「はい!」と言い、彼女も休憩に入る準備をする。
(ふむ…身体に異常はなし)
付着していた部分を見ながら七海は異常がないことに拍子抜けする。
(白崎さんの分解で取れたならこれで)
大丈夫なのかと思った瞬間だった。
「っっっ⁉︎」
先程までユエが展開していた〝聖絶〟が消えたとほぼ同時に、七海の身体中が熱くなる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
抑えている呪力が漏れ出す。何が起こっているのか分からず視線を上げると、シア、香織、鈴、雫、光輝、龍太郎も息を荒げ、身悶えている
「はぁはあ、ハジメ、さん、私、どうにかなりそうですぅ」
「ハジメ君、私、もぉ」
シアと香織は左右からハジメの腕にしがみつき、胸の谷間と太ももに挟み込んで逃がさないようにしていた。本来ならこんなことをしていればユエが怒ってくるが、2人の異常に心配し、声をかけながら心配していた。結界が消えたのは2人に寄り添う為だろう。
鈴は自分を抱きしめるようにうずくまり、悶えていたが、
「うぅう、あぁぁぁ‼︎」
急に苦しむような声をあげて、頬を掻きむしる。すると僅かに火照りそうになった顔が真剣な表情になり、四つん這いの状態で肌が見える部分の片腕を思いっきり噛む。ブシュっと噛んだ部分から血が出ているが、鈴は「フゥーフゥー!」と声を抑えている。
龍太郎は正気を失いかけたが、すぐに自分を殴りつけた。それでも来る地獄のような甘美な感覚に負けぬよう、更に殴って、殴り続けて、己の精神を抑える
雫の方は唇を血が出るほど噛み、その瞬間僅かだけ正気に戻った瞬間、すっと背筋を伸ばして座り直し、正座の視線で瞑目し、微動だにしない。精神を統一しているのだろう。
光輝は頭を抑えて悶えている。何かに縋るように手を伸ばしたと思えば、ゴロゴロと床で悶えて、必死に耐えようとしているが、目は血走り、傍らの雫の方に這い寄りだす。
(これは、そういうことですか…あのスライムは強力な媚薬効果があったのか)
七海は冷静に状況を把握しつつも、押し寄せる快楽の渦に呑まれそうになる。彼の呪力が漏れているのがそのいい証拠だ。呪力は感情によって左右される。大きな感情変化によって、七海の呪力制御が乱れていた。
(だが、攻略法はわかった)
それを今見ていた生徒達の姿で判断したことに、若干の恥ずかしさがでるが、すぐにそれを捨て、七海は腰につけている呪具、
「ぐぅぅ!あぁ!」
痛みに声が出るが、その瞬間に一時的に正気になる。そして、次に
部分強化ができなくなれば脚を貫通する。その危機感を自分で作ることで、七海はこの試練を突破するつもりだ。問題は、この快楽地獄がいつまで続くかだ。呪力操作はどうにかできているが、それでもいつもに比べたとき、その精度は悪い。現に七海から漏れ出る呪力は安定してないのか、いつもの水色ではなく、赤黒い色を時折している
(私の呪力がなくなった時が、最後ですね)
必死になって集中を続ける。周囲からハジメやティオの声がするが、構っていたら集中が途切れる可能性があり、七海は目を閉じ、聞こえてくるすべてを雑音として無視する
どれくらいの時間が経ったのか、七海は急に流れくる快楽が終わったことを自覚し、刺していた。
「っっっ‼︎」
そこでまた痛みを感じることで、気絶を免れた。
「どうやら、七海先生も耐えきれたみてぇだな」
「ええ。どうにか、ですが、ね」
ハジメの賞賛に対して声を出すのも億劫かのように言い、七海は息を荒げている。
「少々、呪力を使いすぎまし、た」
呪力の消費と痛みで限界だった七海は、その場で倒れた。
「っておい!七海先生!香織、もう魔法は使えるか!」
心配する声を聞きつつ七海は安心せる為、一言だけ言う
「少し休みます。ある程度したら、起こして、ください」
そう言った直後、七海は眠りについた
*
夢を見る。
光があって、その場所に行かせないとも言わんばりに正面に立つ親友
(いい加減、この夢にも飽きました。私を行かせない理由は分かりません。が…いまの私には、あれが何かも、そして、あなた方が何者なのかも分かりますよ)
その存在達に、七海は告げる
(あなた方は、メルジーネで私に憑いていた方々ですね)
ちなみに
七海の夢にでた人々、正確に言うなら、彼女達は魂の残滓です。次回七海もそう言います。いつ消えてもおかしくないくらいの残滓ですので、この大迷宮の後にはもうでないかも
ちなみに2
原作と違い、ハジメとユエは媚薬を被ってないので試練は媚薬効果で狂っている彼女達にどう接していくのかを試されています。
次回、ゴキ出現……までいけるかどうか。
あと、活動報告にもある通り、またしばらく修正作業に入りますので、次回の投稿は10月31日とします