マジで楽しみ。先行上映は必ず朝一に行きます。
ゆらめく何かに導かれる。まるで光に吸い寄せられる蛾のように。ただそれは今までの話し。
(いまの私には、あれが何かも、そして、あなた方が何者なのかも分かりますよ)
理解した七海はそう言い、彼らを見る。
この夢を見るのは何度目か。見ても起きたらその度に忘れるので、詳しくはわからない。それでも七海は、理解していた。幻影の灰原ではなく、七海を先に行かせようとしない前回夢にでた少女………だけではない。その数はだいぶいる。いずれも朧げで、人型をしているだけの存在。
(あなた方は、メルジーネで私に憑いていた方々ですね。まぁ、正確に言うなら、その魂の残滓でしょうが)
あの時、少女の霊は言っていた『私たちの想い、あなたにあげるね』と。それがこれなのだろう。当然だが、七海がそれを理解できたのは、時間が経ったからだけではない。魂魄魔法習得によって、魂知覚の能力が僅かとはいえ上がった為だ。
(そして、あの光は私の魂だ)
自分で見る自分の魂というのは、鏡で見る自分と違い、七海が思ったよりも気持ち悪いものであった。
(ただ、わからないんですよね。それで私を止める理由が)
なぜ自分の魂に近付いてはいけないのか。なぜ止めるのか。その理由が七海には理解できない。………否、
(わからないの?)
理解しているが、してないフリをしているだけなのかもしれない。
(私達は、あなたに救われた。だから、私達が、あなたを守りたい)
少女の言葉に、残る魂の残滓達が頷くような動きをしていた。どう言おうか七海が迷っていた時
(七海)
後ろにいた、灰原の幻影が、初めて言葉を発した。七海はそちら見ると、真剣な表情で、笑みを浮かべて、灰原は言う。
(まだ早い。どうなるかわからないけど、
その時が来たら通すとでも言うようなその言葉を聞いて、魂の残滓達の揺らめきが強くなる。まるで、動揺しているようだ
(どうして?ねぇ、どうして?あなたは、この人の記憶と意識が生み出した存在でしょう?この人が大切に思う存在なら、絶対にそんな事は言わないはず!どうして⁉︎)
少女の魂がそう言うが、七海は驚かない。むしろ
(いえ、それは違いますよ。灰原なら、私を心配して止めても、必要なら行けと言いますよ。たとえ、それによってどうなっても。なぜなら、私も、彼も、呪術師だからです)
七海が言うと灰原はニッと笑う。
(ま、私の都合のいい幻なのかもしれませんがね)
そうして七海は魂の残滓達に向き合う。
(私を心配しくれたことは、感謝します。しかし、私は必要なら実行します)
そして深々と頭を下げて謝罪をする。魂の残滓達の揺らめきが止まる。そして1つずつ消えていく
(泣かないでください。私が悪いのですから)
(……後悔しないの?)
(ええ。しません)
少女の魂の残滓に、七海はハッキリ、即座に答えると、朧げな輪郭だが、笑みを見せてように見えた。そうして、彼女も消えていく。笑みのまま、ただ安らかに。
(この夢を見るのも、これが最後ですかね?)
(うーん…どうだろう)
(私が生み出した存在のくせして、それですか?そんなとこまで灰原と似なくてもいいでしょうに)
灰原の幻影は(あははは)と笑う。
(七海、進む道ができたら、その時は、迷わないで…まぁ、起きたらまた忘れるけどさ)
そうして、光が空間を照らし、意識が
*
「お、自分から起きた」
七海が目を開けて最初見たのは、少し驚いたハジメの顔だった。錬成で道を直しているようだ。七海は起き上がろうとすると、自分の身体に布がかけられている事に気付く。
「どのくらい、寝てました?」
「あ?5分経ったかも怪しいレベルだ」
どうも七海は長時間休んでしまったと考えていたが、実際はさほど時間が経過してないようなので、多少ほっとしていた。
「他の方々は?」
「あそこで着替え中」
ハジメが指差す方向には、錬成で作ったであろう土壁がある。きちんと女性陣と男性陣に分けており、ユエの魔法による簡易のシャワーも出していた。
「どうやら七海先生は…うん。大丈夫みてぇだが、他のやつらがな、うん」
「?」
ハジメの必死に濁そうとする態度に七海は疑問を感じるが、すぐにハジメは七海用の〝宝物庫〟から衣服を取り出し、それを七海に投げ渡す。
「先生も着替えとけ。あんたの場合、本当に汗が酷いし、ズボンは血だらけで見るに耐えねぇ」
「言い方に何か感じますが…まぁ、分かりました。あと、無視しようかと思いましたが……ティオさん、さっきからどうしたんですか?」
七海が見る先には、起きてからずっとなんか身悶えていたティオがいた。ハジメが「おいやめろ」とツッコミをしようとする前に、ティオはガバァッ!と起き上がって言う
「聞いてほしいのじゃ七海!ご主人様がまったく妾のことを構ってくれんのじゃ!更衣室も妾の分だけないし」
「はい?おおかた、また南雲君に何かしただけでしょうに」
「それだけではないのじゃ!」
「何がですか?」
七海はいい加減どうにかしてくれと思ったのか、ハジメを見て言うが、そのハジメはチラリとティオを見て
「あ、クラルスさん、いたんですね」
敬語、しかも名前でなく族名で言う。関わり合いたくないというより、知り合いとも思われたくないという気持ちを強く表しているようである。
「やっぱりまだそれをやるのかの⁉︎確かに最初は新鮮味もあって気持ちよくはあったが、さすがにちょっと…そろそろいつも通りに呼んでほしいのじゃ⁉︎」
「やだなぁ、何を言ってるんです?いつも通りだし、クラルスさんはクラルスさんでしょうに。あ、でもそれ以上近寄らないで下さいね」
ハジメがそう言った直後、ティオからガーンという効果音が七海とハジメは聞こえた気がした。
「ご、ご主人様よ!悪かったのじゃ!調子に乗りすぎてしまっただけなのじゃ!」
珍しく泣きべそ掻くティオに、七海はいったいなにがどうなっているのか見当がつかない。
「南雲君、ティオさんと何があったんですか?」
「やだなぁ七海先生。クラルスさんはクラルスさんじゃないですか。というか、見てなかったんですか?」
「いえ、あの時は無我夢中というか、他者を気にする余裕がなかったというか…あとその喋り方、いい加減違和感ありすぎて私も流石にどうにかしてほしいんですが」
「うぅ、七海、ありがとうなのじゃぁぁ」
「…勘違いしないでほしいのですが、私が気にしてるのは現状の南雲君のあなたへ態度についての違和感であって、ティオさんの為ではないので」
そんな応酬を続けていると、ハジメの口元がニマリとなる。まるでいい事知れたとでも言うような。その表情に七海は
(ロクでもないこと考えているな)
と感じていると、ハジメは肩を竦めて言う。
「しょうがねぇな。まぁ、お前が既に手遅れの変態なのはもうこの際仕方ないとして、少しは自重してくれ、ティオ」
ようやく名前で呼ばれると、ティオはパァと表情を輝かせて、妙齢な外見とギャップがある少女のような笑顔を見せた。
「なんだかよくわからないですが、解決したならそれでいいですよ。何があったかは、聞かない方が良いと、私も判断しました」
「おう、その方いいぞ。ユエ達にも他の奴らにも、その辺は聞かない方がいい」
そう言いつつ、ハジメはティオ用の簡易更衣室を錬成し、そこにティオが入ろうとするのだが――
「ふむ、ご主人様。妾も今から着替えるが、ご主人様が着替えさせてくれてもいいんじゃよ?隅から隅まで綺麗にしてくれてもいいんじゃよ?」
期待したような眼差しをしたティオに向けて、ハジメは手榴弾を手元に取り出し、七海は汚物を見るような目をして拳を立てる。ティオには見えてないが、呪力を込めて。
「そうか、そんなに綺麗にしてほしいなら、表皮ごと汚れを吹き飛ばしてやるよ」
「南雲君、それだと汚物が飛び散るので、私がやりましょう。これ以上他の生徒の教育上、悪影響にも程がある方はどうかと思っていたところなので」
そんな2人の行動に流石にティオもやり過ぎたと思ったのか、そそくさと簡易更衣室へ逃げていったのを確認しつつ、七海も自分用に作ってくれた簡易更衣室へと入っていった。
*
「こんな場所で、このように温かいシャワーを浴びれるとは」
ハジメから渡されたタオルを首にかけ、それで僅な汗を拭く七海はさっぱりした様子だった。他の皆もさっぱりした様子だったが、出てきた七海に目線が集中している。
「なんです?」
「いや、なんだか七海先生がちょっとだけモデルに見える錯覚が」
香織の言い分に、七海は困惑しているが、見る人が見れば、今の七海はまさに水も滴るいい男のそれである。
「七海さん、そのサングラスもう着けなくていいんじゃゃないですか?」
「ん。ハジメほどじゃないにせよ、そのままの方が七海はイケる」
「なんなんですかいったい?まさかまだあの媚薬効果が残っているんじゃないでしょうね?」
「いや、そういうのじゃないだろう。そもそもユエは浴びてないし」
シアとユエに続いてハジメもそう言いだした。
「まぁ、あんたの場合は女性にモテたいとかそういう感情はないんだろうが、俺らからしたら、七海先生はもっと評価されてほしいって思うんだよ」
「別に評価が欲しくて私は行動してるわけではないですよ。それは君もでしょ、南雲君」
「そうなんだけさ。思うところがあんだよ」
ちなみにハジメ含めてハジメグループの面々は、七海は愛子と結ばれてほしいと思っており、七海がもし他の女性に靡くようなら、怒髪天を衝く勢いでキレるだろう。さっきのシアとユエも、実際のところはその姿で愛子に会ってほしいという気持ちが強いのだが、現在の2人の関係も考え、あえて愛子の名を出さなかった。
そんなことは知らず、七海は『何言ってんだか』と思う程度である。
「それはいいとして、皆さん、今の試練によく耐え抜きましたね」
七海に言われた光輝達勇者グループの4人はそれぞれ微妙な顔をしている。快楽に打ち勝ったとはいえ、あの時の記憶も快感も覚えているのだ。一歩間違えたら危うく仲間同士で性的に襲い合うことになったとなれば当然とも言えるだろう。特に光輝は雫にそうしかけていたが、ギリギリ、文字通り歯を食いしばって我慢した。そのせいで一瞬気絶してしまったのだが。
「坂上君、その顔、早く白崎さんに治してもらったらどうですか?」
七海が言う通り、同じく痛みで快楽地獄を攻略した雫と鈴、七海は治しているが、龍太郎の顔面は自分で殴ったことで青痣と腫れで酷いことになっている
「いや、しばらく…この大迷宮攻略まではこのままでいさせてほしいんだ。元はと言えば、俺があのスライムを必要以上にふっ飛ばしてなけりゃ、雫にも光輝にも、鈴にも付着してなかったんだ。迷惑はかけないから、このままでいさせてくれ」
「そういうことならいいですが…口調、戻ってますね。大丈夫ですか」
何気なく七海が聞いたが、龍太郎は首を傾げて言う。
「え?なにが?」
「あんた、覚えてない?」
雫の問いも龍太郎は頭にクエスチョンマークを出す。
「別にいつもの俺だったろ?なんかあったか?」
「「「…………」」」
光輝達はかける言葉が見つからない。ここまで一緒いた記憶はあるのに、自分の性格が変化していた自覚がないのだ。王都を出る際の記憶がない状態の方がまだマシと思えていた。
「南雲君、ああなってしまいましたが、何か言い分は?」
「…………」
七海に言い寄られるが、ハジメは目線を逸らすだけである。
「というか、性格が戻ってしまいましたが、彼はちゃんと戦えるんですか?」
「あー、あくまでも俺の考えだけど大丈夫だと思う。経験や技そのものは覚えているからな。あの状態は言うなら100%以上の実力を出す為のもんだから、今の状態でも、あの状態ほどないが相当の実力は出せるはずだ」
そう聞いた七海はとりあえず今は納得したが、龍太郎の現状をどうにかできないかを考えていると、ハジメが巨樹への道を錬成で修復し終えたので、先に進む。
「すべて焼き尽くしたのでしょうか?先程のスライムも、他の魔物も出てきませんね」
警戒は続けているが、少し拍子抜けだなと七海は思っていた。
「まぁ、アイツらが出てくる隙間は錬成で閉じたし、あそこまで焼いたんだからな」
とハジメと会話していると、巨樹の幹に洞ができ、その中に入るとこれまでと同様に入ってきた洞は閉じ、足元に転移の魔法陣が出現した。その強烈な輝きが視界を遮り、視界が晴れると、
「…転移した、よな?」
ハジメが疑問をだきつつそう言ったのは、転移した場所が巨樹の洞と同じような空間の洞の中だった為だ。
「ん。ハジメ、見て。あっちに出口がある」
ユエが指差す方に光が差し込む場所を見て、ハジメは転移したのだと理解し、次に魔眼石で偽者の存在を確かめつつ、全員がいるのを確認した。他のメンバーと七海も、魔力を視認して偽者の存在を確かめているのを見るに、警戒感を持っているなと、ハジメは感心していた。
そうして全員が全員の存在を認知した後、光が差し込む方へと向かっていき、洞の出口から外に出たのだが、その光景に、全員が一瞬言葉を失った。
「これは…まるでフェアベルゲンみたいだな」
ハジメがその光景の感想を代表するように言うと、ユエ達も同意するように頷く。洞を抜けた先はそのまま通路になっているのだが、その通路は巨大な枝だった。大きさは5メートル以上はある枝だ。
「皆さん、後ろを」
なんとなく後ろ見た七海が言うと、ハジメ達は背後を見て、また言葉を失う。端を捉えきれないほど巨大な木の幹が見える。ようするに、ハジメ達がいた洞は、巨木の枝の根元にある幹に空いた洞だったということ。
更に言うなら、ハジメはこの空間を見てフェアベルゲンのようだと評したが、七海は違う。上を見ると、石壁に囲まれた場所にある、地下空間にある大樹。
「話に聞く薨星宮というのは、こういう場所なんでしょうかね?」
「薨星宮?」
七海が発した知らない単語にハジメが反応した。
「っと、すいません。薨星宮というのは、天元様がいるとされる高専の地下にある空間のことです。私も実物を見たわけではないですが…巨大な大樹が聳える場所だということは聞いていたので」
七海は続けて「あまり気にしないでください」とも付け加えると、ハジメはちょっとだけ興味を持ちつつ、再び背後にあった巨大な幹を凝視して言う。
「やっぱこれって入り口にあった大樹か?」
「そういうことになりますよね。ここは大樹の真下の空間ってことですか」
ハジメの推論にシアは肯定して、その驚愕の真実を告げる。
「でもそれだと、地上に見えてた大樹って……」
「今見えるこれが幹で、そこから枝が生えているのなら、地上のは先端部分だったということになりますね。正直信じられませんが」
香織の驚きで震えた声色の呟きに七海が続くように言う。七海の声色は落ち着いた感じではあるが、それでも驚きは表情に隠せず、サングラスの奥の瞳が大きく開いていた。
「しかし、そうだとするなら本当の根はもっとずっと地下深くということじゃな」
「ほ、本当の大きさはどれくらいになるんだ?」
引きつった表情と声で光輝は言うが、その答えを出せるものはいるはずもなかった。と皆が頭上を見上げていたが、シアが何かに気付いたのか、ウサミミがピクピクと動きだす。
「シアさん?どうかしましたか?」
「あ、いえ。なんかこう、聞こえるんです…けど…」
シアは聞いてきた七海に答えたいのだが、どうも言葉が見つからない。なんの音かまだわからないというのに、なぜかその音に嫌悪感や不快感を感じ、その疑問からうまく伝えることができなかった。
「どうも下から聞こえるみたいなんですけどぉ…暗くてよく見えないですねぇ。身体強化で視覚能力を上げますね」
そう言ってシアは枝の通路の下を覗き込むように見た。その瞬間
「っっっっ‼︎‼︎」
シアのウサミミと尻尾が逆立ち、
「いったい何を見たってん…っっっ‼︎‼︎」
訝しみつつハジメもシアのように下を見た瞬間、
ユエ達が心配そうに声をかけると、一昔前の錆び付いたロボットのような動きでハジメの首が動いてユエ達を見つめる。特にユエを強く見つめて、「癒される」とかわけのわからないことを呟いている。
「ちょ、ちょっと南雲君⁉︎すっごい顔が真っ青なんだけど⁉︎」
「南雲!なんだ、なんなんだその表情は⁉︎」
「黙ってないでなんか言えって⁉︎怖いんだよ!逆に!」
雫と光輝、龍太郎はこれまで傲岸不遜な態度が目立ち、見る人によっては恐怖を抱かせる人物であるハジメが、恐怖に震えているのだから、それはもう驚愕であろう。
「2人共いったい何を見たんですか?」
と、唯一この場で冷静な対応をする七海がハジメとシアに聞く。シアはまだ
「悪魔が、悪魔がいた」
だがそれは要領を得ない言葉だった。当然そんな言葉で理解できるものなどいない。
「え、自分のこと?」
(((鈴ぅぅぅぅ‼︎)))
もはや定番とも言える鈴の冷たいツッコミが炸裂して光輝達が戦慄の表情になり、ハジメが神速デコピンをしようとしたが、既に鈴は防御を展開して防いでいた。ハジメが小さく舌打ちをし、それを見兼ねた七海が「もっと正確にお願いします」と言い、再びハジメは口を開く。
「地獄の悪魔も真っ青な最悪な悪魔だ。お前等もよく知ってる、台所の黒い悪魔だよ……」
それでも光輝達は何を言っているのかわからず、『何言ってんだコイツ』的な視線になり、ユエ達はそういった顔ではないが、疑問符が出て首を傾げる。
「あぁ、ゴキブ」
「それ以上言うんじゃねぇ‼︎」
「失礼しました」
だが七海はその正体に気付き、口にしようとした瞬間に、ハジメがある意味これまで見てきた中で1番の怒りの顔を見せて叫んだ。そしてそこまで言ってしまえばもう残りの者達も理解できる。1匹見たら100匹いると思え。人類の天敵、黒い悪魔、這い寄る混沌、黒光のG等々。様々な喩えや言い方があるが、ともかく言葉だけでも生理的な不快と嫌悪を感じてしまう、その存在はの名は、ゴキブリ
「クロスビット使えば見れるが、どうするよ?」
「「「「誰が見るか⁉︎」」」」
「「「ハジメ[ご主人様][君]‼︎絶対にそれはナシ‼︎」」」
光輝達がユエ達よりも早く真っ先に拒否し、ユエ達も見せたらハジメでも許さないとでも言わんばりに声を上げる。ちなみにシアは
「ハジメ、今すぐ焼き払おう」
「賛成!賛成です‼︎」
「ブンカイ!ブンカイ‼︎」
ユエの提案を聞いてシアが復活して、香織と共に殲滅の意思を見せるが、ハジメは「やめておいて方がいい」と言うので3人とも『なんで!』と言いたげな表情になる。
「いやだってよ、あの数だぞ?もし撃ち漏らしが大量にこっちに飛んできたらどうする」
数千、下手すれば数万のゴキブリが一斉に襲いかかる光景が脳内に浮かんだのか、3人の闘志が萎えた。
「とにかく、落ちなきゃ大丈夫だ…と思う。さっさと先に進んで攻略を」
「いえ、それは無理かと私は思います」
先程から顎に手を置き、考察していた七海が言う。
「よく考えてください。ここは性格に難があると思われる解放者が作った場所です。そんな人物達が、なんの理由もなく、ただこちらに不快と嫌悪を与えるだけの存在を置くとは思えません。それに…」
「それに?」
七海の言葉がいきなり止まり、ハジメは疑問を問う。
「南雲君も含めて、呪霊については、詳しくは伝えていませんでしたね」
とはいえ、現状あまり必要がない…と言うより、優先順位が低いので後回しにし続けていた情報だ。とはいえなぜこの状況と流れでそういう話になるのか全員が理解できていない。
「呪霊は人の負の感情から生まれると言いましたが、あれは正直言葉足らずだと思ってます。正確に言うなら、その感情によって人間から漏出した、呪力の集合体です。その中でも、特級仮想怨霊と呼ばれる強力な個体は、基本的に実在するしないに問わず、共通認識のある畏怖のイメージから生まれます。例としてあげるなら、有名な怪談噺…トイレの花子さんとかでしょうかね。ま、ユエさん達にはわからないでしょうが」
七海が嫌味で言っているわけではないのは理解しているので、ユエ達も黙って聞いている。
「ようするに、皆が恐怖する者、恐れるものほど、強力な呪霊になるということ。ならば、日本どころか、海外、そして異世界のトータスですら畏怖する共通の生物は、どうでしょうね?」
七海の言葉の意味を、その瞬間全員が理解した。そして、その呪霊を見ていないにもかかわらず、全員が恐怖をしていた。ハジメがゆったりと、答えを告げる。
「いるんだな。ゴキブリの呪霊が」
「ええ。名称、黒沐死。私は直接見た事はありませんが、高専が登録してある呪霊の為、その能力もある程度知ってます。大量ゴキブリを操り、しかもその全てを呪力で強化している。単体ではそこまではないですが、それが」
すぅ、と七海では視界に映らないが、自分達の下で蠢くであろう黒い濁流を見据える。
「大量に圧倒的な数をもって攻められれば、普通の人間は一瞬で食いつくされるでしょうね」
「つまり、あれか?ここにはそれと同程度能力を持った存在。おそらく最後のガーディアンがいるって言いたいのか」
「あくまでも可能性の話ですがね」
誰かがゴクリと生唾飲む。七海が言ったのは可能性の話しだ。だが、この状況下でそれを聞いて、『そんなのいないだろ』と言える者などいなかった。
ちなみに
乙骨が黒沐死の情報を知らなかったのに、七海が知っていたのは乙骨の呪術師の期間の短さ、海外にいた為そう言う座学があまり受けてないから、乙骨がまだ学生で情報を一部しか見れないから等色々とあります。
ちなみに②
あの灰原はあともう1、2回出ます。そして、その時は、間違いなく決戦の時だと思います。
まぁ、まだ現段階で、ですが