ルフィの育ての姉   作:津々里 述

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盃姉弟 前編

 腕をグルングルンと振り回し、ルフィは目の前のエースに立ち向かおうと駆け出した。拳を思いっきり振り抜いた勢いで、姿勢が前に傾く。

 

「“ゴムゴムの〜〜〜〜〜〜〜〜銃”!!!ッぶ!」

「だからおめェは……」

 

 伸ばした拳は地面にぶつかり、ボンッと跳ね返ってルフィ自身の額を打った。その姿に、エースは呆れと苛立ち混じりの表情を浮かべる。

 

「何がしてェんだよ!!!」

「どへ!!」

 

ツッコミを兼ねたエース渾身のドロップキックがルフィの顔面に直撃し、そのまま吹っ飛ばされていく。試合終了だ。

 

「一本だ、エースの勝ち!」

「お前その能力意味あんのか?」

「くっそーうまくいかねェ……おれの考える通りになればお前らなんかケチョンケチョンだからな!もっかいだ!」

 

 もう一戦やろうとするルフィに、エースは背を向ける。

 

「ダメだ、一人一日150戦まで。また明日な」

「二人ともお疲れさま。ほら、タオルと水筒」

 

 サボが試合の戦績表に結果を書きつけている間、ルフィとエースにスポドリもどきを入れた水筒とタオルを差し出した。

 

「おっ、わりいな」

「エース!おれも飲む!」

「はいはい、順番だから待ってね。エースもルフィの分を残しといてね?」

「ん」

 

 エースは水筒を受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らしておいしそうに飲んでいく。うん、いい飲みっぷりだ。作った側としては嬉しい限り。

 それを見て飲み物を欲しがるルフィを宥めながら、吹っ飛ばされた拍子に汚れた顔や腕をタオルで拭いてやる。ルフィは活発なわりにお風呂が苦手だから、こまめにこうして拭いておかないとあせもができて痒がったり多少臭ってきたりするのだ。弟を健やかに過ごさせるには、こういうちょっとした世話が欠かせない。

 

「……ぷはっ、ほらよ」

「ありがとうエース!」

 

 渡された水筒に、ルフィは喜んで口を付けた。ルフィが飲むことに集中している間に、エースの頬に綺麗な面を上にして畳んだタオルを当てる。

 

「エースも汗拭こっか」

「こんくらい自分でできるっての、ったく……」

 

 そう言いながらも大人しく拭かれてくれるエースのこと、お姉ちゃんはすごくいい子だと思うんだ。こういう可愛げのあるところが何とも微笑ましくって、ちょっぴり口元がニヤけてしまう。

 あらかた拭き終わったところで、水分補給を終えたルフィが「ぷはー!生き返った!!」と満面の笑みを見せた。その手から再び水筒を預かり、「そりゃあ何より」と答えて蓋を閉める。

 

「ところで、ルフィ」

「ん?なんだ?」

「さっきのパンチは腕を伸ばすことに集中しすぎて、身体が前のめりになってたね。それで上半身が地面に向いてたから、まっすぐ突き出した拳も地面にぶつかっちゃったわけだ」

 

 「こんな風に」とルフィの上体を前に傾けて、腕を突き出させてみる。

 

「お、本当だ」

「どんなに強いパンチだって当たらなきゃ効かないからね。明日やる時は闇雲に拳を突き出すんじゃなくて、まずは相手を狙って打ち込んでごらん」

「うん!」

「サーラは本当にルフィに甘ぇな……」

 

 手取り足取りアドバイスをしていると、戦績表をつけ終えたサボが苦笑して言った。

 

「だってエースとサボは私より強いじゃん。私が戦いで二人に教えられることはないと思うなぁ」

「たしかに、サーラはおれたちに負けた数の方が多いもんな。ルフィには全勝だけど」

 

 エースたちは長い間猛獣相手に狩りをしてきただけあって、身のこなしが私より圧倒的に軽くて素早い。気配を察知していても、なかなか対応しきれないのが悔しいところだ。

 ルフィに勝てるのは、8歳も開いた年齢差による筋力や瞬発力の違いで有利なのも一因だけど……長い間見守ってきたから、挙動の癖が分かってしまう部分が大きい。

 あと、隙も多い。7歳の子に隙がどうのこうの言うのは正直アレだが、強くなることを目指しているならそこで甘やかす訳にはいかない。

 

「ルフィは今日もおれとエースとサーラに50敗ずつ、サーラはおれとエースに20対30、おれとエースは24対26。くっそ〜〜〜!!」

「お前ら、おれが10歳になったらブッ倒してやるからな!!」

「そん時ゃおれ達13だ」

 

 サボが試合の結果に悔しがった直後、ルフィが威勢よく切った啖呵に思わず笑みが溢れた。弟を守るために私も日々鍛錬をこなしているが、そのくらい強く成長した弟が見られたらと思うと……嬉しくてたまらない。

 

「ふふっ、楽しみだなぁ。その時を待ってるからね」

「なに笑ってんだ姉ちゃん!おれは本気だからな!」

「可笑しくて笑ったんじゃないよ、ルフィ。お姉ちゃんは弟の成長が楽しみで仕方ないの!」

 

 発言をからかったと誤解されて、膨れっ面になったルフィにすぐさま弁解した。私の言葉を聞いて、「そうなのか?」とルフィが首をひねる。

 

「姉ちゃんって、たまによく分かんないこと言うなぁ」

「……それを考えるのは後でいいだろ、夕飯の調達に行くぞ」

「おう!」

「はいはーい」

「あぁ、今行く!」

 

 エースの呼びかけに応えて、私たちは狩りをしにその場を去った。

 

 

場所は変わり、コルボ山の水辺……に生えた木の上。そこに私たちはいた。

 

「よし、ワニいくか」

 

 眼下の河を悠々と泳ぐワニの群れに、エースが目をつけた。

 

「ワニめしうめェよな〜〜」

「ルフィお前今回は食われるなよ!?前は丸飲みで助かったけどよ!」

 

 既にご飯を楽しみにしているルフィを、サボが以前の失敗で窘める。

 

「私は水辺での狩りは初めてだなぁ……心して行かなきゃね」

 

 私は足場になりそうな岩場や石の場所を把握して、万が一足が滑って水に落ちた時のリカバリーの算段をつける。ワニに噛まれると、グルグル回転されて噛みちぎられると聞いたことがあるから用心しなければ。

 

 「いくぞ!」

 

 エースの掛け声に合わせて、私たちは枝から飛び降りた。




いっぱいお待たせして正直申し訳なかったと思ってる
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