フーシャ村に赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団が停泊するようになり、2か月ほど経った。ルフィはもちろんのこと、私や村の人たちも彼らに打ち解けてきたころに懸念していた事態が発生した。
ルフィが、海賊に憧れるようになった。
非常に由々しき事態。私はあの子をどんな時でも応援するつもりだが、できればならず者ではなくまっとうな道を歩んで欲しいというのが姉心だ。海軍で働くのは奔放なルフィの性に合わないだろうと薄々感じ取ってきたが、まさか正反対の道を行くとは思わなかった。
「どうしよう、おじいちゃん……」
「赤髪め、ルフィを
おじいちゃんはカッカと怒り、私はテーブルに肘をついて両手を顔の前で組んだ所謂ゲンドウポーズをした。
これでも、説得はしてみたのだ。
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「ルフィ、どうしても海賊になりたいの?冒険したいんだったら旅人とか、それこそ冒険家なんていいんじゃないかな?」
「いやだ!おれは海賊になりてぇんだ!それでいつか海賊王にだってなってやるんだ!」
「そっか……なんでルフィは、海賊になりたいの?海は危ないことがいっぱいだし、ガープさんがいる海軍にも追われることになるんだよ?」
「じ、じいちゃんは怖いけど……海賊は、すごく自由だ!おれも自由になりてえ!」
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と、いった具合で。結局、海賊になる夢を諦めさせることはできなかった。ルフィの意思の固さが筋金入りなのはもちろん、すぐ近くに具体的な憧れがあるのも強いんだろうなぁ。(言わずとも分かるだろうが、赤髪のシャンクスのことだ)
負け惜しみのようだが、こうなる予感はしていた。それが、私の説得などでは揺るがないことも。何せ、前世の記憶の中にあった“モンキー・D・ルフィ”の情報には……あの子が海賊で、それも船長だということが何よりも、一際強く残っていた。きっと、ルフィはONE PIECEの物語に欠かせない役割、主人公を担っているのかもしれない。
ここは、漫画の世界だ。主役が動かねば、物語も動かない。ルフィが海賊になるのは決定事項で、運命で、天命なのだろう。
どうかルフィには平和に生きてほしかった。危険な目に遭うことなく、日常の中で笑っていてほしかった。だけど、それは本人も世界も望んじゃいなかった。
これからきっとあの子をきっかけに世界は動いて、幾度となく苦難や試練が襲いかかる。何度ぼろぼろになっても、何度膝をついても、ルフィは立ち上がるのだろう。
それがこれからルフィの目指す道だというならば、私は……。
その肩を、支えよう。
誰に告げることもなく、密かに決意した。
それから数日後、私はソファでくつろぎながら、ノートに書かれたことを頭に叩き込むように読み込んでいた。それが気になるのか、ルフィはソファによじ登って手元を覗き込んでくる。
「姉ちゃん、なに読んでんだ?」
「航海術ノート。シャンクスさんのとこの航海士さんに教えてもらったことをまとめたんだ。ルフィ、お膝においで」
「うん!」
膝に乗っかった弟を包むように、私はソファの背もたれへ預けていた身体を起こした。しっかりとノートを両手で支えて、見やすいようにしてやる。
「海に出たいのなら、航海術をちゃんと学ばなきゃね。ルフィにもわかりやすいように教えるつもりだけど、わからなかったらすぐ言ってね」
ルフィに教えるのと同時に、私の復習も兼ねている。誰かに教えることで深く理解できることもあるからだ。
「うぇ〜、勉強はやだよー!つまんねぇもん!」
「コラ、聞く前からつまんないとか言わない。百聞は一見にしかず、きちんと自分の目や耳で知らなきゃどんなものか分からないことだってあるんだから!」
前途多難だが、私が弟にしてやれることは何だって精一杯やる。そう心に決めた。
……肝心のルフィは、5分くらいでぐっすりお昼寝してしまったけど。やっぱりいつ見ても可愛い寝顔だなぁ、こいつめ。話の途中で眠られた腹いせに、私はルフィのほっぺたをつつきまくることにした。